卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
心とは 人と人の間で 移ろうもの
僕達は 人と人の境の 虚ろなるもの
やがて瀞霊廷に……というか流魂街にその異常気象が降り注ぐ。
服溶雨、なんて揶揄されたそれが三日三晩降り注いだあと、各地各家に大量に配布された「新たな装い」を纏うことを余儀なくされた人々は、怪しい集団に怪しい玉を押し付けられても何の反応も示すこともなくなって、『魂魄削剥事件』は終わりを告げるのであった。
かこん、と……鹿威しが鳴り響く。
聞いていた通り、敷地内を流れる川や小さな滝といった水回りのものが多い家、王途川家。
そこにお呼ばれして、お茶をいただいている。
「お疲れ様ですねぇ、お互いに」
「此方は天相従臨により雨を降らしただけであるが、若干の不名誉を踏まえ、お互いに、ということにしておこう」
「けど、これで戦術の幅も広がったんじゃないです、か? 雨の成分を変える、というのはぁ……あまりやってこなかったでしょぉ?」
「うむ。初の試みであったが、面白みはあった。今まで雨の降る速度にばかり固執していたが、このような手法で幅を広げるとは、流石は滑川殿だ」
「いえいえぇ、王途川さんの斬魄刀に余地があればこそですよぉ」
そして、この技術は。
「恵みの雨、という言葉がぁ、ありますよねぇ」
「む。……そうか、此方が欠片でも回道を使えるようになったら」
「はぁい。広範囲に回復の雨を降りまいて、致命傷を負った方々の命を、四番隊が到着するまでの間繋ぎ続ける、というようなこともできそうですよ、ね」
「……それは、良いな。同じやり方で命を繋いでもらった身としてはやりがいがある。……だが、此方に回道の才能は……。それにあれは、両腕がないと難しいと聞いた覚えがあるが」
「そうですねぇ。繊細な鬼道なので、確かに難しいんですけどねぇ?」
言いながら。
持参した風呂敷を前へと持ってくる。
それを……開けば。
「こ……れは、腕、であるか?」
「先日、浦原喜助さん……十二番隊の浦原隊長が義骸技術というのを発表しましたねぇ。時を同じくして曳舟さんが義魂技術を。というわけでぇ、その二つを理解した僕が作り上げた、最初の作品がこちらになりますねぇ。正式名称を多目的作業用・
この時代から一気に英語名が解禁される。いやソウルチケットとかソウルソサエティとか思いっきりだったしスペイン語バンバンなのに何を、というのはわかるけど、死神はこの時代までは自分たちの使うものにルビを振ることがあんまりなかったから、勝手に僕が新鮮がってるだけなんだけど。
使用したのは神具に用いる『一紀石』3kg。値段は……そうだな、大型のプライベートジェット、ないしはスーパーヨットを買えるくらい?
原価がそれくらいで、今の僕にできるすべての技術を結集させていただいた。
「……これを、此方に」
「流石に無償で、というのは厳しいんですけどねぇ。とりあえずつけてみてくださいませんかぁ? 着脱時に痛みなどはありませんがぁ、一瞬脈動するような感覚に襲われると思いますよぉ」
「……承知した」
虚化の技術やマユリンお得意の化け物の技術は一切使っていない。
接続するというよりは、左腕の位置に浮かび続ける、くらいの感じかな。接合部はつるりとしていて綺麗なものだから。
「つけるというのは、如何すれば良いのであるか」
「この腕を持ってぇ、神具を解放する感覚で霊力を流し込んでみてくださいねぇ」
「承知」
貴族だから神具の扱いはお手の物だろう。
王途川さんはごくりと生唾を呑み込んだ後、人から切り落とした腕にしか見えないそれを掴み……静かに霊力を注入する。
しばらくして……彼の手の内より勝手に離れ、浮き上がった義手は、自然な動きで彼の左腕の位置に収まった。
「込められた霊力に反応しぃ、霊力の元の所有者の欠損部位や欠損状況へフレキシブルに対応しますよぉ。……そして、思い出すのに時間はかかるかもしれませんが……指を動かしたり、掌を握ったり開いたりしてみてくださいねぇ」
「お……おお、お……」
手のひらや指先の感覚はしっかりあるはずだ。ただ、戦闘時防御に使うことを考えて、下膊の感覚は切ってある。欲しければ付け足す感じかな。
開いたり握ったり、指をウェーブさせたり。
斬魄刀の柄を握ってみたり、色々だ。
色々やってみてほしい。片腕の重心戦闘を苦心して獲得した彼にそれはどうなの、とか一瞬思ったけど、流石にやっぱり無いより有る方が良いんじゃないかと思って。
「智、智! こっちへ来てほしい!」
「はい、どうしましたか……と。ああ、滑川さん。お久しぶりですね」
「はぁい。お久しぶりですね、智さん」
寄居智さん。いや、王途川智さん。
少し……王途川さんより年上に見える。……やっぱり、寿命問題はあるよね、四大貴族と一般貴族じゃ。
「智、手を出してくれぬか」
「手? はい、どうぞ」
彼女が差し出すは、当然に右手だ。だけど。
「違う、左手の方だ。頼む」
「そう焦らずとも、大丈夫ですよ。私は逃げませんから。……はい、左手を出しまし……え」
出された左手に合わせるように、王途川さんは義手を差し出し……その手を握る。強く。
……かなり慣れが早いな。流石はセンスの塊。あと、流水系を操る斬魄刀だから、感覚が掴みやすいのかも。水で作り上げた左腕、とかも短時間ならできていたようだったし。
「お……おお。体温を……感じる。智の、手の、肌の感覚まである」
「あなた……その、腕は……どういう」
全指滞り無し。脳波から義肢への変換ラグは通常の人体と同程度。力を籠めすぎてしまうような事態も無し。直線的すぎ・曲線的すぎる動きも見当たらない。
最初の作品としてはかなりの出来かな。流石に満足かも。
「滑川殿が作ってくださったのだ。……命だけでなく、まさか……腕まで、とは」
「僕の回道の腕が足りなくて、くっつけることのできなかったそれ、実はちゃんと悔しかったんですよぉ。……本物の腕とは行きませんでしたがぁ、気に入っていただけたのなら何よりですねぇ」
あ、でも、そうだ。
「少し霊圧を抑えた方がいいかもですねぇ。それ、霊圧の噴出口としてもしっかり作用するのでぇ、単純計算昔の王途川さんの霊圧が二倍になっているのと同じと言いますかぁ」
「む、そうか、片腕の感覚では他所に迷惑をかけてしまうであるな。……こんな感じ、か。……いや、しかし、これは」
「さて、僕はそろそろお暇しますよぉ。代金の話とか、不具合とかあったらぁまた後日で。今は……数百年間得られなかった奥方の体温を楽しんでくださいねぇ。それでは」
「──礼を。心からの……礼を申し上げまする」
「いえいえぇ。あ、でも……近々尾花さん、じゃなかった、志波さんから"お誘い"があると思いますからぁ、仕事があると断らずにぃ、ちゃんと受けてあげてくださいねぇ。それでは」
これで……彼が回道に目覚めてくれるのならばそれも良いし、単純に強さが何百倍にもなっただろうし。
片腕になった時点で死神を辞めなかった……護廷からの除籍を良しとしなかった彼には感謝だ。よくぞ折れずにいてくれた。
大丈夫。腕が落ちていようが心臓が貫かれていようが、あらゆるアプローチから癒してみせる。
回帰には遠く及ばないけれど、ね。
……彼女が来たら、ようやくもって義手とはバイバイかな。本物の腕が生えるならそっちの方がいいでしょうし。
時間が経ちすぎていると治せないと明記されていたのは小説版だけだったような気もするし。……無理なら使い続けてもらおう。
*
シャウロン・クーファン以来、瀞霊廷に侵入した破面というのは確認できていない。
バラガン・ルイゼンバーンやザエルアポロ・グランツが尸魂界への侵攻を宣言したにも拘わらず、だ。
その理由の一端に、新しく作り上げたある部門が関係している。
三界観測局。そう、綱彌代家の映像庁を護廷十三隊の傘下にした上で改変した組織になる。
やっていることは現世・虚圏・尸魂界における魂魄バランスの観測と穿界門・黒腔の開閉状況の確認。
史実においては技術開発局がその一端を担っていたけれど、あんまり技術開発局に権利や機能が集中するのも良くないし、忙しいだろうと思って分離させてもらった。
といってもここはあくまで観測局であり、魂魄バランスがどうなっていようが開閉状況がどうなっていようが観測する機能しか持たない。干渉手段を構築・獲得しようとする素振りがあれば直々に破壊しにいくつもりでいる。
ただ、これは結構な抑止力になっているみたいで。
史実において、オサレ眼鏡が……あるいは忠誠を誓っている虚が頻繁に行っていたのだろう黒腔を開いての二つの世界の行き来を封じ込めることに成功している。
これによりオサレ眼鏡は、現世に赴いたあと、黒腔を通って虚が出現する、というのに合わせて行き来を行わなければならなくなった。
何事においてもそうだけど、たった一手間でも増えれば人というのは億劫さを覚えるものだ。オサレ眼鏡にはそれが当てはまらないのやもしれないけれど、彼以外の虚……破面ならどうだろう。全員が全員四番君みたいな篤い忠誠があるわけでもないだろう。
また、黒腔というのは「1.入り口となる孔を空ける。2.内部を突き進む。3.出口となる孔を空ける」というプロセスを取る必要がある。
入り口を開いた時に出口が開くわけではなく、内部を突き進んだ者達が終着点に辿り着いてようやく出口が構築される。
このタイムラグを利用し、虚圏で入り口が形成された直後にその位置から進み得る全ルートを把握。その全ての位置に鬼道衆を配備し、出口となる黒腔が開く前に潰す、というのを常にやっている。
黒腔を閉じる技術に関しては、僕がシャウロン戦で見せた通りだ。あれの本質が「孔を空ける」ものであるというのなら、取れる手段は大きく分けて二つ。開かれる前に空間を強化するか、空けられたところから別の空間を注入して塞ぐか、だ。
僕の技術は後者を取っている。開けられている場合は大量に空間膜構成霊子を注入して閉じるし、開かれる前ならば先にこっちから小さな孔を空けて、いつも通りに出口を作る感覚では開けなくして潰す。
もう少し専門的に言うと、『緩衝霊子』で空間膜構成霊子を包み込み、無数の細かい泡沫を作成。これを黒腔内部に見られる霊子乱流空間へ流し込むと、ある程度までは流体のように振る舞う。そこへパイルバンカーみたいに霊子的な釘を刺し込むと、その瞬間からゲル状に変わり、膨張が始まる。『緩衝霊子』は空間膜構成霊子が結合し合って空間膜を作りたがる反応を止められないから。
そして霊子的な釘を引き抜けば、約五分くらいをかけて空間膜構成霊子は莫大な量・大きさになるまで膨張し、硬化する。
この状態の空間膜は尸魂界を作る薄膜とは違う、何重もの膜が乱雑に折り重なった状態なので、薄膜を破る感覚じゃ開けなくなる、と。
一応この泡沫を便宜上
尸魂界侵攻が主目的だ、って言われたからね。
まず来させないことに注力するでしょ。来たとて潰し得る自信があるのだとしても。
なお、霊子乱流の中を通る全てのルートが把握できるわけがない、という問題については既にスルーできている。
以前僕が使った番外犠牲縛道・
映像庁のノウハウ……というかシステムも使えはするんだけど、如何せん恣意的というか。ちょっと綱彌代家好みに改造されすぎていて、使い勝手が悪かったんだよねぇ。
とまぁこういう事情でここ四、五十年は、こっちからアクセスする、以外の場合による黒腔の開閉を禁じている。さぞかしやりづらかろう。
……その分破面が一切……シャウロン以外の一切が損なわれることなく着々と兵隊強化ができているわけだけど、そんなのこっちだって同じだし。
それに、虚圏側がどうなっているか、という観測だって欠かしていない。局員は一日二度乖霊剥離の膠飴を舐めることが義務付けられているため、催眠の心配もなし。……なお、この観測局が募集している新規局員の項にオサレ眼鏡から応募があった時は流石に驚いた。正規の手段で情報を抜きにこようとするのは最早パワープレイだよ。ちゃんと落としました。……能力・表向きの性格だけなら一切悩まずに合格だから僕で握り潰しました。
話が少し横に流れるのを自覚しつつ言うけど……オサレ眼鏡こと、藍染惣右介は……なんか、ホントにキミ裏切る気あるの? ってくらい死神ライフを楽しんでいる……ように見える。僕らには露見している以上、バレるかバレないか、というのを気にしながらやらなくて良いことが彼の蓋を外しているのやもしれないけれど……なんか、それだけじゃないような気もしていて。
それについてをちょっと聞く機会があった。
「惣右介が、生き生きとしとる? あー……確かになぁ。最近アイツ、なんや一皮剥けた言うか、憑き物が落ちたみたいにしとるなぁ」
「それについては俺も同意だ。霊術院時代のアイツはどこか心ここに在らずって感じだったが、今はなんというか、目の前の物事を純粋に楽しめているというか」
「あれー? けんせーってそーくんと同いだっけー?」
「いや、あいつが卒業する年に俺が新入生として入った。……今更霊術院時代の先輩後輩を気にしろとは言わねぇだろうな」
「あ、じゃあそーくんってあたしたちより年上なんだぁ。死神の見た目ってよくわかんないよねー」
「その最たる例が目の前におるしな」
ということで、平子さん、六車さん、久南さんの三人である。
「あははぁ、まぁ、わからないですよねぇ。僕も最初は苦労しましたけどぉ、今となってはだいたい……どれほどのお爺さんでもだいたいは年下なのがぁ、わかりやすくていいですねぇ」
「……今でも信じられへん。実は世襲制でどっかに滑川平良一世っちゅう爺がおるんのとちゃうんか」
「失礼がすぎるぞ平子」
「ねー、ひららんって呼んでいー? いーよー」
「はぁい、良いです、よ」
ひららん。……言いづらくないか、逆に。
このように僕についてのあれそれは知られているわけだけど、ありがたいことにと言えばいいか、この三人はそこまで態度を変えないでいてくれている。……故意に変えないというか、そもそもそういうスタンス、って三人だ。
響河さんとかは先日青い顔をして「数々の……失礼を……!」みたいに言ってきていたのでそのまま絡め取って銀嶺さんに突き返しておいた。メンケアお願いします。
「んで、惣右介の話やけど……そういやアンタとみょーに仲エエよな、惣右介。絡みあるんか?」
「お友達ですかねぇ。あとは、鬼道に関しては高め合う仲と言いますかぁ。彼も非常に深いところで話し合える人ですからねぇ」
「ああ……確かに、鬼道の話になると一厘くらい話す速度が上がるよな、あいつ」
「基本的に説明好きなやつやアイツは。専門的な話とか、歴史とか、そーいうのをぎょーさん知ってて、それを誰かに話すんが好きってコトやろ。好きなモン語る時はそらみんな早口になるわ」
「真子もそーくんと仲良いよねー」
「いやオレは隊長やねん、でアイツは副隊長。仲良い言うか一緒におるんはフツーやろフツー」
「平隊士の頃からよく一緒にいただろ。照れるなよ」
「照れてへんわボケタコ拳西! ……まぁ、フツーに……隊長と副隊長が喋る程度の雑談はする。それくらいや」
「けんせーってあたしと雑談する?」
「しないことはねぇが、平子と藍染ほどじゃねぇ。俺とお前は専ら喧嘩してるしな、基本」
「わかるぅ~」
話がまた逸れるけど、確かに今のオサレ眼鏡は平子さんとめちゃくちゃ仲が良いんだよなぁ。普段の毒舌悪辣弄りが目立ちがちだけど、一緒にご飯行くの良く見るし、互いが互いに警戒し合っていた感じが今は無いし。
変な敬いも蟠りも無い、友達同士が偶さか隊長・副隊長になった、みたいな。
一応このあまりにも平和な藍染惣右介という人物像に、鏡花水月のとんでもなく強力なものを掛けられている可能性を疑ってあらゆる手段で霊子デトックスをしたんだけど、それは変わらず。
離反する気……ほんとにあるのかなぁ、って。やっぱりここでも思う。
「そんで、なんで惣右介のことそない気になんねん」
「ああ、実はですねぇ。近々ある催し物が開催される予定でしてぇ。まだ詳細日程は決まっていないんですけ、ど」
「催し物?」
「はい。簡単に言えば、お祭りですねぇ。それを、彼みたいな真面目な隊士さんたちが楽しんでくれるかなぁ、みたいな」
溜める必要はない。王途川さんにかかる誘いもそれ関連だ。
お祭り。瀞霊廷大祭り。瀞霊廷と謳ってはいるけれど、流魂街でも拡張して行う予定。
「お祭り! やったぁ!」
「ほー。エエやんけ。なんや協力が必要やったらなんでも言い。そーいう苦労やったら苦にならんしな」
「九番隊として警備を強化する必要がありそうだな」
「いえいえぇ、その日は九番隊の皆さんも楽しんでいただけるよぉな警備体制を構築するつもりでし、て。……はい、今……簡易説明資料を印刷しましたのでぇ、どうぞ」
「印刷て。……もしかして今やったんか?」
「こういう日用品の再現鬼道はたくさん持っていますからねぇ」
差し出すのは、一枚のポスター。今作り上げた瀞霊廷大祭りに関する、やる予定の様々。
ちゃんと一番下に「この内容は現在考案中のものであるため実際に行われる保証はありません」とも書いてある。アーリーアクセスだ。
「……こらまた。……しっかりしとるのー」
「この縁日というのは、現世の結縁日のことか?」
「良くご存知ですねぇ。まぁ現世での意味はあんまり使ってなくてぇ、この通りには瀞霊廷じゅうのお店がこぞって小さな屋台を出す予定でしてねぇ? ここを歩いて美味しいものやお好きな味を見つけて、平時でもそのお店を利用していただけたらな、という取り組みでしてぇ」
「成程、宣伝なわけだ。……協賛に、志波家、四楓院家がいるが……厳かな感じだったりするのか?」
「いえいえぇ。その告知紙にある通りぃの雰囲気になる予定ですよぉ。わいわいがやがや、ある程度までは無礼講な感じですねぇ」
「あたしの好きな言葉だ! ぶれいこー!!」
「いえー」
大筋はお祭り+縁日だけど、様々な事情から屋台……車輪の有無に関係なく各地を巡る屋台、というのは無理だった。入れない場所が多すぎるし危険すぎるので。
代わりに、瀞霊廷の西側の大通りの一区画を貸し切って屋台を出すため、それはもう広大な範囲が会場になる。
ちなみに大通り一本取っても中心から門までの距離は……そうだな、二十四時間歩き続けて六日と十時間くらいかかるかな。
たかだか一区画と侮る勿れ、って話ね。
「あんまりコイツを付け上がらせないでくれ。手に負えなくなる。で……すまん、やっぱり九番隊として……警備がどうして……俺達要らずになるのかが気になるんだが」
「この範囲を結界で囲んでしまうから、ですねぇ。お祭りの範囲及び流魂街の一部地域を結界で囲んでぇ、内部の霊子状態を完璧に監視しますねぇ。こんなことを毎日瀞霊廷全体に続けようものなら観測局が二日くらいで機能停止しちゃうんですけ、ど。範囲を定めた数日だけならぁ、なんとか、って感じかなぁ。あ、ただあれですよぉ。ここの範囲の警備が要らないだけでぇ、瀞霊廷自体の警備は必要ですからぁ、九番隊全体に休まれると流石に困ります、ね」
「そういうことか。なら、日程が決まり次第教えてくれると助かる。勤怠管理をどうにかして全員がいずれかの日程で楽しめる、みたいにしたいんでな」
「はぁい、勿論ですよぉ」
六車さん。不良集団の特攻隊の喧嘩番長、みたいな印象を受ける彼だけど、実態は真面目の塊というか。
厳原さん、刳屋敷さんが手放しで褒めるほど真面目で部下想いで、九番隊以外の隊士にも優しくて。
今の霊術院の子が志望する入隊希望は、八番隊、九番隊、十一番隊、十三番隊がトップ。次点で一番隊、三番隊、五番隊、七番隊、十番隊が横並び。その下に四番隊、六番隊、十二番隊がある感じ。二番隊は隠密機動向けだから除外ね。
四番隊が不人気なのは今も昔も変わらずで、十二番隊は曳舟さんの頃から大きくランクダウン。六番隊がこの位置なのは、隊長・副隊長共に朽木家であるというのが堅苦しさを覚えさせてしまっているとか。実際の六番隊はそんな感じ無いから、あくまで偏見ね。
トップの四隊はどれも隊長人気ゆえ、かな。王途川さんは初見だと怖い人に見られがちなんだよねー。良い人なのに。
「ねーねーひららん。この太鼓櫓の打ち手って、あたしでもなれるの?」
「要練習ですけどねぇ。あととんでもなく疲れますよぉやりたい気持ちはわかりますがぁ」
「えー。じゃあやめとこ。……ねーねー、なんで詳細にってーみてーなの? なんかむりそーなことあるの?」
「貴族や四十六室への申請は無理矢理もぎ取ったんですけどねぇ。あとは参加する食事処を規定数まで集める必要があるんですけどぉ……如何せん人手が足りなくてぇ」
「ほんならそれ五番隊が貰うで。鬼道衆か一番隊か知らへんけど、正式な仕事として依頼処理したってや。よーするに瀞霊廷じゅうのウマイもん出してるとこ、出しててんけどあんま知られてへんとこに声かけまくったらええ話やんな」
「そうですけどぉ……通常業務とか、色々あるんじゃあ」
「アホ言わんとき。こないオモロそーな話、主催側で噛んどかへん方が除け者感あって嫌やねん。つーかウチの隊士かて普段の虚退治やら書類仕事やらよか、こーいう全体のためになるのがわかりやすい仕事の方が楽しめるっちゅう話や。よーするに自分が好きだと思うとるのに中々客足伸びてへん今にも潰れてまいそうな店をぎょーさん復活させられるやもしれんっちゅー話なわけやし」
「それで言えば九番隊にも少量枠を貰いたいな。俺達は地域との結びつきが強い。そういう店は無数に知っているつもりだ」
「流魂街からの参戦枠ってあるけどさー、これもしかして、この日だけ流魂街のお店が瀞霊廷にご飯出しに行けるってこと?」
「はぁい、そうですよぉ。護廷にいる四大貴族皆さんに頼んで四十六室に認めさせるのをひじょーに苦心しましたので、ね」
「……何手間取ってんのかわからんなこれ。それ周知したら、とんでもない数来るで。……あ、そうか。それがマズいんか」
「そうなんですよねぇ。美味しさの水準とかぁ、衛生管理上の安全性とかぁ、危険な食材を使っていないかとかぁ。瀞霊廷で出ているお店は大抵それらをクリアしているからぁ、お二人にお願いする通りで良いんですけ、ど。流魂街のお店って基準に達していないケースが多くってぇ、できれば余程信用できるお店にしか頼みたくないと言いますかぁ」
この辺非常に大変なのだ。
流魂街のお店……有名茶屋の一つを取っても、四十六室が妥協案として出してきた基準をクリアしないと屋台として成立しない。
流魂街の人間を瀞霊廷に入れたくない、という頭の固い話ではなく、日本の食品衛生管理法を彷彿とさせるくらいのガッチガチの正論パンチ妥協案をお出しされてしまっては、こっちは確かぁに……となるしかなかった。伊達に賢者を名乗っていないというべきか。
……もう少し言うと、どうも……幾らかの貴族もお忍びで参加したいと思っているようで。阿万門アソギからリーク……もとい雑談で聞いたんだけどね。
そういえばナユラちゃんはもう生まれていた。可能なことなら、こういう柔軟な対応ができる四十六室は惨殺されないでほしい。……というか、他のメンバーもゆっくりとではあるものの変わってきているとかなんとか。
「管理者側の苦しみってやつだな。あんまり声をかけすぎるのも良くないか」
「流魂街に関してはぁ、本当に信頼できるところでぇ、且つ、こちらの出す要求に対応できるところが望ましいですねぇ。お店のコンセプトを揺るがすほどの要求になりそうな場合はぁ、僕が前以て落としますのでぇ」
「……その四十六室側の基準、もしかして全部把握しとるんか?」
「え? そうですよぉ。じゃないと審査なんてできないじゃないですかぁ」
「そーやのぅて……なんや、薬品やら何やらで調べるんやなくて、アンタが見ただけで判断できるんか、って話や」
「ですからぁ、そうですよぉ。じゃないと審査なんてできないじゃないですかぁ?」
「……精度のとんでもなさにもツッコミたいけど、そこやなくて……アンタちょっと背負いすぎやな。体調不良とかでアンタが倒れたらこの祭り根本から崩壊しそうやんけ」
「それは問題ないですよぉ。僕体調不良にならないのでぇ」
「そー言ってる奴が一番危ないねん。……なんや、アンタが一番隊になってからの七百年間、誰もそれを言わんかったんか? 山本総隊長はちょい口下手やけど、雀部サンとか言いそうやのに」
それは……二人とも知っているからなぁ。
僕が体調不良にならない理由を。
「同意見だ。この祭りの発起人会、まさかアンタ一人じゃないだろうな」
「流石に違いますよぉ。志波家ですねぇ、発起人会は」
「志波家? 海燕達か。……ちょいと話を付けに行く必要があるな。どれほどアンタが有能だとしても、支柱一本じゃ不安がすぎる。楽しみな催し物だけに失敗してほしくねぇ」
「ほんならオレは、喜助に話付けて、基準審査用の鬼道とか装置とか依頼するかいな。護廷入って初めての祭りとか、聞いたらみんな楽しみにするやろし、みんな同じこと言うで。なんでオレら楽しみながら、でも平良一人犠牲にしよって成り立ってんねんよなぁこの祭り……とか考えなアカンねん。純粋に楽しませろやボケ、ってな」
「……欠片も理解してねえって顔してんな。表情はほぼ読めねえが。……となりゃ、白!」
「はーい。なに、けんせー。途中から話難しくて聞いてなかったけど」
「この坊主持って今日一日どっかで遊んでこい。少しでも仕事しそうになってたらぶんぶんぶん回してでも止めろ」
「え! なにそれ、いいの!?」
「とりあえず気の抜き方ってやつを教えねえと話が始まらねえと見た。その点お前は適任だ。金は……まぁ、ちっとなら出してやる」
「やったぁ! じゃ、行こうひららん! 白流瀞霊廷遊び放題の旅、今から開始ぃ!」
首根を掴まれて。
文字通りぶんぶん振り回されながら……それが始まる。
欠片も理解していないわけじゃないんだけどね。でも、やらなきゃいけないことと両立させようとすると、こうするのが一番手間が無いというか。
……六車さんを安心させるために、久南さんの遊び放題ツアーを全力で楽しむかぁ。
*
そういう様々を経て……晴れて、瀞霊廷大祭りは開催となった。
櫓と太鼓。灯籠、縁日。
笛の音が響き渡り、浮世離れするその光の中で……日々の疲れや不安を一時的に捨て去って、美味しいものを食べたり、ちゃんと用意した遊べる出し物で遊んだり。
ファストフード……寿司、天ぷら、そば、という江戸時代なものだけでなく、焼きそばやら焼き鳥やらたこ焼き、お好み焼きなんかまで出ているのは流石に嗜みか。
出し物の方は結構悩んだ。
銃や弓はちょっと合わないので、吹き矢でやる射的とか。辻宝引きと呼ばれる……いわゆる紐くじかな。あれのアタリとハズレの商品を吟味した話とか。
金魚すくい……は、ちょっと残酷すぎるという声が上がった──死神は生物を育てるのに向かない……お世話できるほどの時間が取れないため──ので、以前平子さんに売ったスーパーボールの普通くらいしか跳ねない版によるスーパーボールすくいにしたし、水からくりと呼ばれる水の性質を用いたからくり仕掛けを売る屋台を作ってみたり。
尸魂界ならではでいうと、燕返しチャレンジ、というのを用意してみた。様身体を用いた挑戦で、飛来する三匹の燕をどうにかして切り落としてみせよ、みたいな遊び。剛力自慢だけでなく、剣速特化の死神がこぞってチャレンジしているけれど、やっぱりどうやっても三匹目には当たらない。実は剣を振るコースを……三匹に当たるコースを見つけることができれば可能なんだけどね。
……と思っていたら、鹿取さんが一発クリアしたみたいだ。……あの人の周りにいる若い女の子、八番隊の子たちだろうけど……凄い、完全に紛れている。
他にも紙の刀と兜を使って行うチャンバラ……兜を弾き飛ばした方の勝ち、というゲームや、スーパーボール避けチャレンジという、立方体の結界内を縦横無尽に跳ね回る、平子さんに売った方に近い反発力を持つペイント機能つきのそれを回避し続けるゲームも人気。
こういう感じで、普段培った斬拳走鬼を遊びに活かせると面白いんじゃないかと考案したものが幾つもある。それも、力だけが優れていてはダメな類のものとか、逆に力自慢が無双できるものとか。
一区画……町一つ分を使ったお祭りだからねぇ、種類も量もハンパじゃないよ。到底一日じゃ回り切れないと思う。
「ナメカワ」
……そんな様子を、結界の外から眺めていたら……声がかかった。
大鬼道長だ。
「どうしましたぁ? 何か不具合でも?」
「違いますよ。結界維持、代わりますよ、という話です」
「あー……そのぉ、大鬼道長を軽視するわけではないんですけどねぇ」
「わかっています。企画を詰めている時点で、この結界を操作できるのがナメカワしかいないことはわかっていましたし。──しかし、デスネ」
ざ、と。足音。
そこに。
「久しぶりに……霊力を使うかぁ。もうワシ引退したんだがなぁ」
「大鬼道長に元副鬼道長。両名の足を引っ張らぬよう精進します!」
「ワ、ワタシはどうしてここニ……。お三方の間に挟まることができるトハ、到底思えないのデスガ……」
……久しぶりに会った。
元副鬼道長、圓悠毬璧さんに、握菱鉄裁さんと……有昭田鉢玄さん。
「何を言っているのです。今の鬼道衆でナメカワよりも秀でた結界術を扱えるのはアナタだけなんですよ、ウショウダ」
「その通りですぞ、有昭田殿。こと結界において滑川平良殿を凌駕したという偉業は褒め称えられるべきことであり、そしてあなたの自信になるべきことです。胸を張ってください!」
「つーか何をびびる必要があんだよ。ワシを含めて四人でそこの馬鹿の代わりをやろうって話だ。フツーに過剰だろ。万全を期したいとかそこの変態が言うから協力してやるって話で、だからごちゃごちゃ言う前に結界の維持をあの馬鹿から分捕ってこい。それを支えてやる」
……そうだ。
有昭田鉢玄さん。ハッチ。
彼の結界術への適性は、大きく僕を上回っている。件の修祓具地獄の鬼道を簡略化できたのも彼のおかげが大きい。
史実においてオサレ眼鏡が実験体にした彼ら
あの時点で彼らを消そうとしたのってやっぱり、求心力や技術力を危険視したから、なんじゃないのかなぁ。六車さんも平子さんも愛川さんも、隊士人気高いもんねぇ。
そして……こと結界というものにおいては、僕よりも高い精度で霊子干渉が可能な彼にいられると……黒腔だの鏡花水月だので障害になりそうだったから排除したと、そう見るけれど。
実際
「で……でハ、代わりマス……よろしいデスカ?」
「……はい、引き継ぎ設定終わりましたぁ。僕用に消費霊力削減のために簡略化している部分が多数ありますからぁ、簡略化しすぎていて直感的でないな、と思う部分は改変してくださって結構ですからねぇ」
「ハイ。……相変わらず、美しい式を使っていマスネ……そして、ナルホド……確かに簡略化しすぎて……わからない部分がありマス。少し変えますノデ……お三方、少々お待ちヲ……」
大丈夫そうだな。
……じゃあ僕は、様身体の修復でもしに行こうかな。
とか思っていたら、急速接近してくる霊圧が。
ぐにゃあり。
「こ──この妖怪め! こういう時は空気を読んで避けぬものじゃ!!」
「えぇ……? だってぇ、どうせ上にいる千日さんに投げつけて、そのまま結界の中へ、とかやろうとしていたでしょぉ? でも今有昭田さんが手動で結界設定弄っているところなのでぇ、不用意な衝撃は避けたいんですよねぇ」
「イエ──もう、大丈夫デス。穴を空けマスネ」
結界に孔が空く。
……そこまで言うなら、仕方がない。夜一さんの足と隠形している千日さんの足に『緩衝霊子』を絡めて一本釣りにし、二人を引き連れて結界に入る。
「ナメカワ、楽しんでくださいネ」
「……ありがとうございます」
「ハイ」
のわーっ!? とか離せコノヤロ! とか言ってるのをガン無視して。
僕も、瀞霊廷大祭りに参加することにした。
さて、ギャンギャンギャンギャン喚く子猫二匹をなんとか宥めた後。
でも一人で縁日回るの寂しくな~い? とか思っていたら、イカ焼きがずい、と差し出された。千日さんに。
受け取る。……このイカ、実は瀞霊廷西の大きな湖で獲れるんだけど……淡水で生きられる頭足類とは?? ちなみにタコも獲れるので多分オウムガイもどっかにいる。
あの湖色々謎なんだよなー。水分は淡水なのに、一部の岩は岩塩が獲れるとか、そもそも塩もあそこから出てるし。
"漂着物"以外の海の幸がなぜかとれる淡水湖。
「……あれぇ。夜一さんはどうしたんですかぁ?」
「あいつは浦原と回るんだとよ。オマエはオレだ。目ェ離すと仕事し出すからな。鋸歯文に見張りを頼まれてんだ」
「そこまで仕事中毒じゃないですよぉ。……けど、そうなると……猿柿さんが孤立しそうですねぇ」
「オマエはまたそーやっていらん気を回す……。猿柿ならさっき愛川と一緒にいたのを見たぞ。虎姫もいたな。珍しく浴衣姿で」
「へえ。ちょっと嬉しいかなぁ。虎姫さん……こういうの楽しんでくれるとは思わなかったからぁ」
「それはどーかん。ま、その辺は副隊長の愛川が色々気を回したんだろ。あとは刳屋敷とか。仲良いしな、あの辺」
……要らん気、か。
確かにね。
誰かが孤立していないか、誰かが寂しい思いをしていないか、というのは……お祭りの運営者だから、平時よりもうんと考えてしまうけれど。
今の護廷は、そういう人に手を差し伸べる余裕がちゃんとある、か。
「それじゃあ……ちゃんと遊びますかぁ」
「オウ。んじゃまずアレやろうアレ。ずっと気になってたんだ」
と千日さんが指差す先にあったのは、燕返しチャレンジ。
解釈一致。
「僕じゃ様身体の燕を斬れないんですけどねぇ。あ、でも耐久値ちょっと下げてもらえば行けるかな?」
「お、そうなのか? じゃあ見せろよお前の剣技。普段一切見れねぇから楽しみだ」
斬魄刀戦闘しませんからねぇ。
ということでお金を払って挑戦一回目。
「あれ、平良君もやってるの? おーい平良むぐ」「流石にうるせぇ黙ってくれちゃんと集中して刀持ってるあいつとか千年に一回見れたら良い方なんだから」「早口がすぎるよぉ千日さん……。けど、確かに珍しいねぇ」「なんや揃って。あのガキがそない珍しいんか?」「ガキって……。リサちゃん、前に説明したでしょぉ? 一番隊のさ……」
みたいな雑音を聞き流し、集中する。
がこっと鳴って射出される三羽の燕。先行している一羽目を無視し、一番遅れている三羽目を切り上げるように切り落とした後、頭頂右上を通り抜ける二羽目を後ろから割断し、先行していた、けれど遠回りのルートを飛ぶ一羽目を逆手に持ち直した刀で突き刺す。
燕返しそのものとは言い難いけれど、これが正規ルートの一つ。鹿取さんがやったのは力業ルート。
刀を振って様身体を落とし、鞘へと納めれば。
「えー! なにそれ、演舞みたい! もう一回わたしもやる!!」
「キレーな剣筋やな。珍しがるのもわかるわ。儀礼とかやってる奴のソレやんけ」
「……チッ。やっぱり普通に……待て鹿取、次はオレだ」
「すごいねぇ。けど……ボクもかわいい子たちにきゃあきゃあ言われたいから、挑戦してみようかな?」
ちなみに正規ルートは七つほどある。七席は関係ありません。
剣筋は全て記録・公開されるので、まぁお手本の一つにでも考えてもらって。……なお、耐久度を本来のものに戻すと、まず切り裂いた二羽で止まるし、最後の一羽は貫けずに終わる。ちゃんと堅いんだよ様身体。
「ふぅ。……じゃあ、僕、ちょっと他の屋台見てるんで、頑張ってくださいねぇ」
「逃げんなよ。あと仕事すんな。わかったな」
「流石の僕も大鬼道長の顔に泥を塗るような真似はしません、よ」
あそこまでしてくれたのにまだ、とか。
そこまで考え無しじゃないから。
そんな感じでふらふら見て回って、美味しいものを食べて。
ふぅ、と一息吐いた屋根の上で……刻限を待つ。
遠く。
王途川さんと智さんと、弾児郎さんが……何かを言っている。あ、森雁さんもいる。来てくれたんだ。
卯ノ花さんや刳屋敷さん、あそこにいるのは……山本総隊長と雀部さんだ。
他にも朽木家、四楓院家の元当主方々、志波家の門下生たちも散見されるし……五大貴族以外の貴族の姿も見える。
……ありがたいね。
こうして歩み寄ってくれるのはさ。
「楽しめていますか、滑川七席」
……背後。
霊圧で気付いてはいたけど、まさかこっちに来るとは思わなかったな。
「おかげさまでぇ。……あなたはぁ?」
「楽しいということにしています。……と、答えるつもりでした」
「楽しくなかったですかぁ」
「逆ですよ。……しっかりと楽しんでいます。こんな……確実に警備の薄くなる期間中に、黒腔を無理矢理こじ開ける手段を試さない程度には」
……ふぅん。
それなら……流石に鼻が高いけど?
「最近、楽しそうですよねぇ。演技も勿論あるんでしょうけどぉ……平子さんのこと、前はあんまり好きじゃなかったでしょぉ、あなた」
「どうでしょうね。好きではないという感情があったかどうか怪しいですが……今は明確に、彼を尊敬できる人間であると見ていますよ」
「それは何よりですねえ。……つまらないですかぁ、日々の業務は」
「時折は。……ただ、あなたによって底上げされていく
──今の僕にできる、最大の秘匿結界を張る。
「……なんですか?」
「先日、零番隊……兵主部一兵衛さんから、直接打診がありまして、ね。僕はこう答えました。──必要とあらば、と」
「……それは。……そこまでのことが、あなたにできると?」
「さぁ? 実際にやってみてどこまでの障害があるか、というのはわかりませんよぉ。……けど、
何のことについてなのかは、わかるだろう。
彼の言うあんなもの。それを──どうにかする手段の開示。
「あなたが死神を辞めてまで成し遂げたいことの……その先を、僕が再現し得ると、そう言っています、よ」
「……それが、どうかしましたか」
「伝わってないわけじゃないでしょう、あなたほどの理解者がぁ。すべてから手を引いて僕らと──、……」
「どうかされましたか、滑川七席」
上を向く。
伸ばして伸ばして、さらにさらに上を知覚する。
一度相対したから、わかる。追える。今どこで何をしているのかを。
「《それをするのは、ならぬと言ったはず》」
……養殖は必ず成功させる、と?
別に。
あなたたちとて。
敵と見ても、僕は──。
「ご安心ください、滑川七席」
「……どういうことですかぁ?」
「確かに今の生活は楽しいですし、死神を愚かであるとは思わなくなってきていますが……それでも、僕はその信念を途中で折ることはありません。……僕が辞めることを、あなたが残念がってくれる内は、死神を続けるつもりです。けれど……
……。
……まぁ、そうね。……舐めすぎたね、藍染惣右介を。反省だ。
「僕が残念がるうちは、ということはぁ、残念がられないように……被害を増やしていくとか、そういうことですかぁ?」
「そのつもりだよ。とはいえ、君がいる限り無法は難しそうだが」
「じゃあつまぁりぃ、僕が残念がれるほどに何もさせない状態を続ければぁ、あなたはずーっと死神をやんなきゃいけなくなるわけですねぇ」
「おかしいな。今それを否定したつもりだったのだが、伝わっていないわけではないだろう? 君ほどの理解者が」
「僕はねぇ、こう見えてすーっごい諦めが悪いんですよねぇ。一回止められたとか関係無いんですよねぇ。たとえそれで……僕の味方でいてくれる人がゼロになってもぉ、僕は僕自身のやりたいことをやるの、で」
結界を解く。
刻限だ。
──微かな軌跡を描いて上がるは、特大。正四尺玉の、巨大花火。
「……職業病でぇ、なんだか拘突に見えません?」
「はは、わかります。あるいは
「縁起でもないですねぇ。……虚圏にいる
「あなたならできかねないので、やめてくださいね」
「はぁい」
不穏の足音はすぐそこに迫ってきているけれど。
まぁ、そんな感じの、瀞霊廷大祭り。
「──あぁ! おった! よぉやく見つけたで惣右介!! なんでオマエ霊圧隠してんねん探すに手間取ったわクソボケアホカスハゲコラ!!」
「るっさいわ耳元で叫ぶなやハゲ真子!」
「ハゲとらんしオレが叫んだかてオマエみたいなチビの耳元にはどーやったって届かへんやろクソチビガキが!!」
「ま、まぁまぁひよ里サン落ち着いモガ」
「はぁ、騒がしい事この上ないネ。私を連れ出すから余程のことかと思えば、まさかこの騒ぎを見せたいだけとは、私の大切な時間を何だと思っているのヤラ」
「グワハハハ! うるせぇ食え! たこ焼き食え! 食わなきゃ窒息させるぜ! オレ様はやると言えばやる男だ!」
……。
よぉし。
「藍染さん」
「はい、ああ、彼らが呼んでいる、という話──」
「いえ、ちょっとくらい驚いてもらおうかな、って」
大量の『緩衝霊子』で彼の身体を引っ掴んで──無理矢理投げる。平子さんたちの方向に。
「ちょ──」
「ノワー!? 惣右介が落ちてきよる! あ、いや、これオレが酔ってるんか? 控えめにしたはずなんやけどな」
「馬鹿真子、ヒトが降ってくるわけないやドゴホハァッ!?」
「ひよ里サン!? 降ってきたひよ里サンと藍染サンが綺麗に衝突を……あれ、逆かなぁ?」
「ほう。これはアレかナ。意識が入れ替わる、というような現象が起きることを期待すべきかネ」
「うるせえたこ焼き食え! グワハハハ!!」
驚いた、という顔をしているオサレ眼鏡の見上げるところに立って……短い髪をかき上げて。
僕が天に立つ──。
……なんてね。
彼らに見つかる前に……そして僕を探しているだろう千日さんのところへ戻ろう。
お祭りは、まだまだ続くのだから。