卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
狩人とは常に死へ挑戦するものであれ
獲物とは常に生を渇望するものであれ
瀞霊廷大祭り最終日。
準備段階で色々あったこのお祭りも、期間中はトラブル等々ほぼ無くて……なんというか感慨深いものがあった。
山本総隊長と雀部さんは、彼らだけでなく、栗東四席とか伊自良六席とかも誘って会場を練り歩いていたし。夜一さんや千日さんは、元当主の人達や、顔を隠していたから定かではないけど、多分砕蜂さんとも回っていたし。浦原さんは十二番隊付近と二番隊……というか四楓院家周りを行ったり来たりだった。
厳原さんって僕以外との付き合い知らないなぁって見ていたら、ローズとか射場千鉄さん、あとかなりお爺さんになってしまったけれど、変わらず四席にいる多紀さんといたり、六車さんや浮竹さんとも一緒にいたのを見かけたかな。
個人的に嬉しいのは四番隊と十一番隊の仲が悪くないところか。千日さんを参考にする隊士が多いのと、以前開発した倦怠をしっかり戦法に組み込む形ができていたおかげで、戦えるし治せる、って隊士が多いらしい。十一番隊側でも「自分たちで治せた方がたくさん戦えね?」って風潮が広まっているとかで、まだ中学生くらいの清音さんと、見間違えでなければ狩能さんの姿を見かけたと思う。いるんだ、っていう。
相変わらず平子さんと藍染さんの仲は良くて、でも周囲の隊士も二人とガンガン絡みに来ていて、なんかあそこは男子校って感じ。
朽木家の皆さんがこぞって遊びに来ていたり、志波家の皆さんが来ていたり、その交流があったり。五大貴族と一般貴族の交流も結構あったみたいだから、出会いの場になってくれても別に良いと思う。貴族同士ならまぁ変な角度だけど安心できるし。
珍事としては、浴衣姿の虎姫さんを酔った京楽さんがナンパして……まぁ、お察しである。ちなみに京楽さんの周囲には常に五、六人の女性がいた。念写写真鬼道があるのでいつか齋藤さんの墓前に添えたいと思います。夢枕にでも立ってやってください。
それと、これは勝手な感傷なんだけど、史実で
初日はいた王途川さんたちだけど、その後もちょくちょく顔を出していて……大通りには来なかったけど、屋根の上とかで智さんと一緒にいるのをよく見かけた。
刳屋敷さん……というか十一番隊の面々はとんでもない量を食べてくれるし、運動系の遊びでとんでもなく本気になってくれるしで、なんかお祭りだなぁって感じるよ彼らは。久面井さん……煙鉄さんのお孫さんにも挨拶をしたら、息子ですよ、って言われた。あのお爺さん結婚とかするんだなぁ、とか。それ繋がりで言うと、普通に久面井さんと逆骨さんも来ていたり。腰を支える感じの王途川の義手みたいなのを作ってくれと言われたので、まぁ、なんか考えるつもり。パワードスーツとかはアレだけど、浮く椅子とかどうだろう。
流石に涅さんは初日以外見かけなかった。が、善定寺さん曰く、食べ物を持っていって押し付ければ面倒臭がりながらもちゃんと食べるしちゃんと評価をしてくれるんだとか。真面目だよねそういうところね。
浮竹さんもちゃんと楽しめていたようで何より。志島さんがつきっきりだったけど、彼もそういう気は遣わせない側の人間だから、僕が心配することじゃない。……それと、第四席らしい爾志都さん、って人、これ……とか。思ったり。
鬼道衆ズも楽しんでくれていた。……というか。驚いたのが、僕から結界操作を引き継いだハッチさんが二日三日で観測局に処理能力を預けられるよう改良し、ある程度結界に適性があれば誰でも張っておけるようにしてくれたのである。これにより、本当にちゃんと皆が楽しめるようになった。
もう結界系は全部任せていいかもね。厳原さんにも言われたけど、僕のやっていることって基本は「消費霊力削減派」の改良でしかないからさ。こういう、消費霊力や負担は増えるけど、自動化できる、みたいなのは発想に無いわけよ。新時代を感じるなぁ。
というのが、ざっと見た皆の参加具合。
ハッチさんの結界改良のおかげで途中からは僕もちゃんと遊んだよ。出し物は全部やったし食べ物は全部食べた。胃もたれや食べ過ぎ、胸やけも状態異常なのでね。
……まぁ打撃力測定とかのやつは散々な結果だったけど。ギャラリー全員から心配された。骨折れてないかとか。
というわけで、今は後片付け中……なんだけど。
「いやぁ……こんなことに隠密機動の方々を働かせるのはぁ、心苦しくてぇ」
「なぁに言ってんですか滑川七席。ご存命の四楓院家方々が子供みてーにはしゃぎまわってる姿なんてモンが見れただけで、隠密機動は全員大車輪で働かせていただきますって」
「……大前田家って隠密機動の総意を代弁できるような感じなんですかぁ?」
「痛いところ突くのが上手いですねぇ滑川七席は。けどまぁ、一応俺も警邏隊の分隊副隊長ですからね。わかるものはわかりますよ」
ということで、大前田希ノ進さんの提言で、隠密機動の人達がこれを担ってくれている。
僕らがやった片づけをなぜ彼らが背負わされているんだ、という思いはありつつも、あんまり否定しすぎるのも良くないか、と思って見ているけれど……早い早い。連携力も連係力もばっちりだ。流石は刑軍。……対象の処理が上手い、って文脈ね。
「──ところで。滑川七席にお話がありましてね」
「お祭りで出店していた遊びの幾つか、お店の幾つかを買収したい、とかそういう話ですかねぇ」
「おっと……もしや、こういう手合いは苦手ですかい?」
「んー。お店の方は直接言ってもらわないと僕じゃどうしようもないですけ、ど。遊びの方は、道具なんかの製法を売ればいい感じですかねぇ?」
「はい? いえ、ああ、そうですそうです。遊びの使用料と、遊具の製法までいただけるのであれば、そりゃ願ったり叶ったりですけど」
「良いですよぉ。欲しい人に行き渡らない、という状態ができないと……つまり悪徳な商売をしないと約束してくださるのであればぁ、持ってっちゃってください。なんならお祭りの運営権も売りましょうかぁ? 志波家との直接交渉が必要になりますけどぉ、席をご用意することはできますよぉ」
「……あーっと? もしや滑川七席は商売の方には疎い感じで」
「お金……まぁ様々なものの開発費用自体は必要なんですけどねぇ。そんなの経費で落とせるし……僕に何か高い買い物をする趣味があるかと言われると微妙というかぁ。だから邪魔なんですよねぇ権利とか不労収入とか。いや不労所得はあって困るものじゃないけど、その管理が面倒臭いっていうかぁ」
僕に許可を求められてもねぇ、ってケースが山ほどある。そんなものを使用するならまず山本総隊長と大鬼道長に話を通さなきゃだし、とか。九番隊に連絡はしたんですか、とか。四十六室の審査とか知ってますか、とか。
いちいち説明しなきゃいけないくらいなら、大前田さんみたいな人を……。……それアリだな。
「もしお仕事に余裕があるのであればぁ、僕の作品や製品のマネージャーになってみる気ありますかぁ? 収入は、そうだなぁ。僕二のあなた達が八とかでぇ」
「いやいやいやいや! その話はかなり受けたいですけど、流石に貰いすぎです! 俺に残された良心から言わせてもらいますが滑川七席が六の俺達が四が限度です!! 開発と売り手の勘定はしっかりしねぇと……いつかホント、とんでもない詐欺に遭いますよ!?」
「一番隊第七席、鬼道衆第一出張所所長、鬼道衆第一特務班秘匿鬼道運用統合局深層術域体系特命構築参事官の僕に詐欺を掛ける勇気のある人ならぁ、その場でヘッドハンティングしますかねぇ」
「……だとしても、六:四が限度です。……で、本当に……俺と契約してくれるんですか?」
「大前田さんは信頼ができますからねぇ。千日さんと仲良いの知ってると思いますけど、千日さんも良く言っていますよ。ありゃとんでもない敏腕だ、って」
「ち、千日元隊長が……? そりゃ……やる気の湧く言葉だ。……末永くよろしくお願いしても良いですかね」
「勿論ですよぉ。ちゃんとやってくれるなら、ご家族の誰に引き継がせても、分譲しても良いですからねえ。後で書面にまとめておきますねぇ」
それでまぁ、更なる財でも築いてください。
息子さんにも期待はしているんですから。僕の作るTRPG大抵息子さんが主人公ですし、ね。
片付けまで終われば、祭りの空気というのも完全に消えてくる。
第二回も待望されているので、大前田家と志波家が色々やってくれるだろう。空鶴さんも新しい花火作りに早速着手していたし。
──そんな中で、ソレが起きた。
「……ああ、いらっしゃいましたねぇ、卯ノ花さん」
「……」
治療中の彼女に声を掛ければ……彼女は、その能面が如き顔を僕に向けてきた。野箆坊との勝負をご所望かな。
結界を張って、と。
治療中の相手は。
「……彼ですかぁ。あなたの、罪の証」
「そう……です。……私の、大罪の……象徴」
今は気を失っている、大柄な男性。
全身に噛み痕のような傷がある。……へえ。
「刳屋敷さんに始解まで使わせましたかぁ。末恐ろしいですねぇ」
「そうですね。……けれど……こんなものでは、なかったはずなのに」
「あなたが蓋をしてしまった、と」
「はい。……あの頃の私は、あの頃のあなたに一太刀も入れられぬほどの弱者でした……」
「今も入れられるつもりはないですよぉ」
「そうですね。今も昔も、私は……弱者で」
ああそっち方面に行かせたいわけじゃなかったのに。
……とはいえ、それも必要、か。
「名は?」
「更木剣八と。……刳屋敷隊長は負けていないというのに、不遜なことです」
「刳屋敷さんは、何か言っていましたかぁ?」
「……もう少し強くなってから出直してこい、と」
「まさかとは思いますけどぉ」
「しませんよ。……ですが、いつかは、せねばならない。……あなたは、それを許してくれるのでしょうか」
「いいえぇ? 許すわけないじゃないですかぁ」
「ならば……まず、あなたから、排除しなければならなくなるでしょうね」
「はぁい。でも、卯ノ花さん程度の方に、僕が殺せるかなぁ」
「……もしや、そのために……回避を磨いたのですか?」
「流石にそこまであなたたちに懸けてはないですけどねぇ。以前お伝えした件が終わるまでは、誰かのための自殺なんてくだらないことを許す気はないんですよぉ。僕、そのためにこっちへ来たので、ね」
そのことで、衝突することになっても。恨まれても。憎まれても。
たとえそれが──夢物語なのだとしても、だ。
「──ひとが、寝ている時に……ごちゃごちゃうるせぇな、オイ」
「あぁ、まだ安静にしていてくださいねぇ。傷は塞がっていないのでぇ」
「……誰だ、アンタは」
「四番隊へ応援に来ている一番隊の隊士ですよぉ。卯ノ花さんより一部の傷においてのみ僕の方が優れた回道を使えるのでぇ」
「話が長ぇ。……オイ、アンタ。……なんで四番隊にいるんだ。なんで……剣八じゃねえ」
「刳屋敷隊長に負けるような弱者に語ることなど何もありません。斬魄刀も解放できない、鬼道もろくに使えない。……打ち合いの中であなたが口にしていた、弱者が使う道具、という言葉。七百年と前であればそれも通じたやもしれませんが、もう通用しませんよ」
まぁ、そうだね。強者は高い水準で鬼道を使いこなせる。刳屋敷さんも七十番台詠唱破棄とかできるからねあの人。厳原さんが悔しそうにしていたけれど、あの人はあの人で八十番台の詠唱破棄できるんだよね。何を悔しがっているのか。普通に上澄みだよ。
「……負けたのか、俺は」
「はい。完膚なきまでに」
「……刳屋敷、と。言ったか、アイツは。……強ェな、クソ。……おかしなモンを呼び出す斬魄刀。大抵、呼び出したおかしなモンに頼り切りで……本人は大して強くねぇっつぅのが、ああいう手合いだと……思っていたが。本体も、おかしなモンも……どっちも強ぇとは、……クソ」
ちなみに卯ノ花さんの斬魄刀もおかしなモンを呼び出す斬魄刀ですよぉ、みたいな茶々は流石に入れな──。
「私の斬魄刀とて、あなたの言うおかしなものを呼び出す斬魄刀ですよ」
「……そうかよ。……俺のは、ただの刀だ。名前も知らねえ」
「だから負けたのだ、とは言いません。けれど、負けた以上は、今の己に甘んじていては強くなれぬことなどは……言わずともわかりますね」
「……」
い、言うんだぁ……と勝手に慄いていたら……卯ノ花さんの目が、再度、僕を向いた。
今度は能面のようではない……というか、優しい顔。場と感情に合わなすぎて怖い顔。
「滑川七席。よろしければ半年ほど、彼を使ってあげてくださいませんか」
「はい?」
「……なんの、冗談だ。霊圧からして……そいつは、雑魚だろう」
「そうですね。私が一太刀も入れられぬくらいには弱者ですよ」
あっ、気にしてる! 一応一太刀は入れたけど有効打にならなかった、という部分含めて根に持ってる!!
「ん……だと?」
「一番隊第七席、滑川平良。あなたのような図体も怪力も一切持ち合わせぬままに、七席という高い席次を七百年間に亘り維持し、破面と呼ばれる虚の進化形を相手にして、無傷のままにその場で殺されかけていた十六名の隊士を安全圏にまで逃がし切る才覚の持ち主です」
偏向報道ですそれは。作為的な編集やめてください。
「そして……今のあなたに最も足りないものを一つ、彼は有しています。常時使用しているというべきでしょうか。……せめてそれだけでも譲り受けて、半年間を終えてほしいものですね」
「……ちなみに卯ノ花さんに十一番隊隊士の人事異動とか口出せる権利あるんですかぁ?」
「ありませんが、刳屋敷隊長ならばわかってくれるでしょう」
えー。
……ということで。
更木剣八を、預かることになりました。
*
更木剣八。そしておまけでついてきた、草鹿やちる。
彼らを引き連れて向かうのは、早速出てきた新たな事件の調査だ。
前回の『魂魄削剥事件』は、表面的な解決はした。けれど、だ。
そもそもなぜ「霊力の無い魂魄の虚化実験」をやりたかったのか、というところについては解明されていないし、未だ調査中になっているけれど、当然下手人も見つかっていない。
妖しい玉を押し付けてくる怪しい集団、という目撃情報自体はあるので、その行方を追っているのが現状だ。
僕の見立てでは、「霊力の無い魂魄だけが蚊帳の外である・緩衝地帯としての犠牲になる目的でしか活用されない」というのが気に入らなかった、というのと、「結界に関する可能性」の模索、そして「現世というものが持つポテンシャルの再確認」が主目的だったんじゃないかと睨んでいる。
現世。器子の世界。生身の世界。
この世界は未だ解明がほとんど進んでいない曖昧な世界だ。
なぜ重霊地などというものが出来上がるのか。どうして現世にばかり完現術者が現れるのか。尸魂界の死神に宿った霊王の欠片は、どうして完現術にならないのか……とか。
僕も全部に考察は持っているけれど、やはり試してみないことにはどうしようもないことが幾つもある。
藍染さんも、そういうのを検証したかったんじゃないかなぁ、っていう。
そして此度の事件、『
「おい」
「ん、なんですかぁ?」
「俺とやちるは、居る意味はあんのか、こいつは」
「今は無いですけどぉ、戦いになったらお任せすると思いますよぉ」
「戦いになる確信でもあるのか」
「確信はないですけどぉ、予感はありますねぇ」
南流魂街61区「火盆」。治安悪めな流魂街で起きた奇妙な事件。
夜、突然空が明るくなって、ジャラジャラと鎖が下りてきた。夢の中だと思ったのだろうか、住民がその鎖に触れた途端、その住民の身体が虫食いのように穴あきになって、そのまま虚空へ消えてしまった、と。
この事件は最初の頃は夢でも見たのだろうと考えられていたらしいんだけど、昨日になってついに被害者が二十人になったとかで、ようやく瀞霊廷に話が入ってきた。最初の一人で教えてほしかったなぁ、と思いつつ、鏡花水月られていたのかなぁとか擁護しつつ。
今調べているのはその鎖が下りてきたという場所。ご丁寧にも鎖一本につき一人が殺されているからか、踏み荒らされたりはしていない。
本来こういうのを調べるのは別の隊か先遣隊として組まれる人達なんだけど、丁度いいから、ということで調査を買って出た次第だ。……こういうことしないと僕基本出張所でのほほんと座っているだけだからね。
それで……調査結果だけど。
「確実に……虚、ですねぇ」
「……何が分かって、それを言ってやがる」
「死神と虚ではそもそもの霊子の向きが違うのでわかりやすいんですけどねぇ。……恐らくは、黒腔を開けずに虚の能力だけを通したのかなぁ。しかもかなり特殊な虚ですねぇ。因果の鎖を真似ているというかぁ、それを武器に転用したというかぁ」
「そこまでわかんなら、居場所もわかるのか」
「あー。……ちょっとやってみますねぇ?」
目を瞑り。
──
……いない? もしや黒腔に潜んで……いる、ということもないか。潜むに適さないし。
いや……これは。まるで……尸魂界の空間膜に、へばりつくようにして。
「虚が出ますよぉ。対処お願いしますねぇ」
そうして隠れている虚を、黒腔を開くことで地に落とす。
ドシャァっ! と音を立てて落ちてきたのは、結構大きめの虚。因果の鎖についている口と同様の口を全身に持ち、触手みたいに鎖をじゃらじゃらさせている存在。
……なんだこれ。ホントに虚か?
いや、霊子組成はまんま虚なんだけど……霊魂が感じられない。……人造虚や改造虚はみんなこうなるのかな。サンプル不足だ。メタスタシアとかグランドフィッシャーがいないと確実にそうとは言い切れない。
いや……だから、もしや。
義魂の虚化……だったりする? だとしたら手数の幅がとんでもないことになるけど。
「へぇ、なんだ、一番隊ってのはデカブツの召喚までできるのか」
「まぁ否定はしませんねぇ」
できる人もいるでしょ、一人くらいは。
……執行さんの卍解とか見たら大喜びしそう。
さて、何の捻りもなく突っ込んでいく更木さん。その肩に乗ってるけど……さっきからずっとだんまりな草鹿さん。
なんというか、僕に対して非常に強い警戒心を抱いている感じだ。子供に嫌われがち。
「ヒ──ハハハ!」
快癒後最初の戦いだからか、力の込められた斬撃が鎖の虚を襲う……も。
無数に束ねられた鎖がその斬撃を防いだ。
「ハ──いいじゃねぇか! もっと教えてくれ、俺の弱さってやつを! テメェ程度の虚を一撃で殺せねえようじゃダメだってことをよぉ!!」
二撃目。さっきより強い。
それでも鎖の虚はそれを防ぎきる。……だけでなく、攻撃をしてきた。
鎖を伸ばす。ただそれだけの攻撃だけど……。
「なんだぁ? こんなもん痛くも痒くも──」
「縛道の三十三・浮葉畳」
足場を作るだけの鬼道だけど、斜めにしたそれを使って更木さんをこっちに押し戻す。
「……んだよ。邪魔すんじゃねぇ」
「ダメだよ、剣ちゃん。傷、よくみて」
「やちるまで、どうした……傷? 傷なんかついてねぇだろうが」
「ちがうよ。
因果の鎖を武器にするだけはある。
……傷がついている。更木さんの霊魂に。僕でも治せるほどでしかないのは流石の強度だけど、逆に言えば今の一瞬だけで更木剣八の魂魄に傷をつける程の能力、ということだ。
「魂に傷がつくと、どうなんだ」
「その場だけなら、意識混濁程度で済みますけどねぇ。魂魄の耐久値限界が早く来ちゃいますねえ」
「わかりやすく言え」
「寿命が縮むってことですよぉ」
「その程度のことを気にするのか?」
「戦いで負けるんじゃなくてぇ、寿命が来て負ける……どころかぁ、対等と思えるような方との戦いを、己の迫る寿命で断念せねばならない、みたいなことが起きるでしょうしぃ。何度も何度も戦いたいのにぃ、自分だけ先に逝く、ということも起こり得ますねぇ」
「……チッ。なんだ、俺に学ばせたいのは、言いくるめの上手さか?」
「わかりませんけどねぇ。あ、草鹿さん。この軟膏をぉ、更木さんの魂の傷に塗ってあげてくださいねぇ」
「……。……これ、なに。毒?」
「いえですからぁ、軟膏ですよぉ」
「ふーん。……わかった」
死ぬほど警戒されている。けど、彼女から見ても魂の傷は放っておけないのだろう、頷いてくれた。
とくれば。
「しばらくあの虚を捌いておきますからねぇ。復活したらパッパと倒しちゃってくださいねぇ」
「……ああ」
前に出る。
因果の鎖に関する実験、魂魄の耐久限界に関する実験。
僕が彼だとしたら、もう一つくらい仕込むかな。
即ち。
「はいぐにゃぁり。……やぁっぱり、普通の霊子も食べられるんですねぇ。育ち盛りかなぁ?」
ごっそり持っていかれた『緩衝霊子』。これによるクッションや往なしは使えないってわけだ。
僕対策。その上で、鬼道系の斬魄刀への対策でもあるのかな。
けど。
「はぁいぐにゃあり」
同じ手だ。だから同じ避け方で返す。
それにより持っていかれる『緩衝霊子』だけど……噛み千切られはしない。
「……!?」
「どうしたんですかぁ? 噛み千切らないと危ないですよぉ。そのまま呑み込んじゃうとぉ、窒息しちゃいますよぉ」
人間もそうだけど、顎の力自体は大したものだ。
けれど、嚥下する力というのは然程強くはない。なれば『緩衝霊子』の結合力をすこーしだけ増やしてやるだけで……ほら、ほら。
「苦しいねぇ、苦しいぃねぇ~……でもそれ、元から僕のなんでぇ。僕と繋がったままの霊子を体内に入れるってどういうことかぁ、わかりますよねぇ。破道の三十九・雹丘脈」
もれ出でるは冷気。『緩衝霊子』の全体から触れたものを凍らせる冷気が出てくるけれど、僕の威力だと凍らせるまではいかないかもしれない。
ただ……だからこそ、凍らせるまでに至り切らない冷たさが全身に広がり、引き裂かれんとするギリギリのところで留まる圧力が鎖の虚にかかっていく。
「──!!」
言葉を持たないのか、騒いで喚いて、全ての鎖を使って僕へ攻撃を届かせようとする虚。けれどざぁんねん。触れたり、ギリギリで避けたりしたら食われるとわかっているんだからぁ、ちゃぁんとぐねぐね避ければいいだけの話なんだよねぇ。
決して離さない。視線を外したとしても、君を、注視し続ける。
殺せないから殺さない。斬れないから斬らない。
救えないから、救わない。
「ところでぇ、僕から離れた『緩衝霊子』がありましたねぇ。あなたが最初に飲み込んだやつ。……問題ですよぉ。果たして僕は、己と繋がっていない霊子を操ることができないのか」
「……!」
「おやぁ、虚にも涙とかあるんですねぇ。痛いですかぁ? そうですよねぇ、虚に存在する神経に破道の十九・雷疵を流していますからねぇ。弱い鬼道ですよぉ。霊術院生なら誰でも使えるものですけどねぇ……神経に直接だと、痛いでしょぉ、痛いでしょぉ?
そうですねぇ何かを懇願しているのはわかりますねぇ。破道の十七・冰創」
神経だけに雷が流れ、そして凍り付いていく感覚は、どれほど悍ましく、激痛に苛まれたものなのか。
あなたたちが彼からの命令で仕方なく僕を狙うのも、逆らえない幻惑で僕を狙わざるを得ないのも勝手、だけれど。
そういう事情を理解した上で、僕は、君達を標的と定めて苛烈になるよ。
それを忘れないようにしてほしいのと。
「そろそろ休憩終わりましたぁ?」
「ハナからそんなものは必要なかったが──
大きく跳躍してから飛来する更木さんに、せめてもの抵抗として鎖を向かわせる虚。
彼はその鎖を、斬魄刀の峰にて器用にもまとめ上げて弾き──虚の本体へ斬撃を入れる。
……とんでもない攻撃力だ。その一撃で虚が死ぬ程度には。
けったいなモノを呼び出すけれど、本体は強くない虚、って感じかぁ。
……何か気付きがあったのか、虚を斬った姿勢のまま己の斬魄刀を見つめている更木さん。
その、周囲で。
死骸が急激な膨張を見せ──。
「うるせぇな。珍しく反省ってモンをしてんだよこっちは。とっとと消えやがれ」
その全てが、刀の一振りで吹き飛ばされた。
空中にて弾けて消える鎖の虚。……調べさせはしない、って? 残念、もう見たし、観測したからね。どういう構造だったのかはわかるよ。
「剣ちゃん、なぁに、反省って」
「……刀の
「感覚ではわかるかもですけどぉ、実際はちゃんと意識しないとぉ、甘くなるものですから、ね」
つまり作用点の話だ。
支点力点作用点。剣道もそれに通ずるだろう。彼はまだ剣道を習っていないのかもしれないけれど。
作用点より前、あるいは越えた場所に当たると、上手く力が入らない。そんな当然のことだけど、戦いの最中、テンションの上がっている時にそれを意識しろ、というのは難しい。
けれど、己の力を十全に伝えるためには必要なことだろう。
「……まだ、出るのか?」
「虚ですかぁ? 今日は出ないと思いますよぉ。事件が終わったとは思えないのでぇ、明日以降はでるかもしれません、が」
「なら、どうして今も戦う気でいやがる」
「いないですよぉ。僕は自然体がこうなんですよぉ。これが自然体であれるようにした、というべきですかねぇ」
常在戦場じゃないけどね。僕の始解、卍解、そして卯ノ花さんに言われた通り、技術力や発想力を前にして、まず「暗殺」という手を考えないわけがない。遠距離狙撃でも良いけれど。
それも避けられなくて何が滑歩だ、という話。この在り方が、彼には戦う気に見えるんだろう。
「一番隊の……七席、と言ったか、おまえ」
「はぁい、そうですよぉ」
「六から上は、皆、おまえのように在るのか」
「どうでしょうねぇ。一見そうは見えなくとも、一定以上の力の持ち主じゃないとわからないこともあるでしょうねぇ」
「なにそれ。剣ちゃんが弱いって言いたいの?」
「少なくとも、僕にも勝てないかなぁ、とは、思いますねえ」
挑発は……けれど、効いている様子がない。
しきりに斬魄刀を……なんだろう、握り方を変えている? しっくりくる位置を探しているような感じ。
「剣ちゃんは弱くなんか」
「いや、やちる。……今の俺は弱い。つい最近そいつを思い知ったし、さっきの虚も……束ねた鎖程度に押し返される一撃を、殺す気で使っていた、なんざ……目も当てられねえ」
「……でも、剣ちゃんは、さいきょーなんだから」
「そんな顔をするんじゃねえよ。届かねえとは思ってねぇんだ。……おまえ、名は?」
あれぇ、最初に名乗ったのになぁ! とか一応思いながらも。
「滑川平良ですよぉ」
「滑川。まずはてめぇの強さ……いや、弱さ……でもねえか。……弱くなさ、ってやつを学ぶ。ごたごた理屈を聞く気は無ぇが、力の一端は全部飲み込んでやる」
「ふぅむ。まぁ、できるものなら、ですかねぇ」
「……むぅ。こいつ、ぜんぜんつよくないのに……それに、なんか……ぜんぜん笑わなくて、ちょっと……こわいし」
「怖い? いいじゃねぇか。やちる、てめぇも一緒に強くなれる証拠だろう、怖いって感情はよ」
おやおや。
こんなにニコニコ笑っている僕に向かって、まさかそういう言葉を吐くとは。
……子供はなんか、見えちゃうのかなぁ。市丸さんもそうだったもんねぇ。
もっと心から笑わないと。
「それはそれとしてぇ、どうですかぁ? 言葉面だけじゃなく、僕とも戦ってみませんかぁ?」
「なんだ、やる気があんのか?」
「ええ、まぁ。虚との戦いを見せただけでぇ、僕より弱いだなんて言われてぇ……納得は、しないんじゃないかなぁ、って。更木さん頭の回転は速いみたいだからぁ、理解はできるでしょうけどねぇ」
「……だが、やるにしてもこれを掴んだ後だ」
え。……そういう自制、利くのか。
っていうかそうなんだよな。剣ちゃん結構そういうのわかる人っていうか……戦闘狂のイメージが先行しがちだけど、真面目というか。
強さに貪欲であるがゆえに勤勉、っていうのは……面白い話ではあるよねぇ。
「さて、戻りましょうかぁ。……あでも、一つだけ。赤火砲~」
へなちょこ赤火砲を飛ばす。
いきなりの破道に眉をひそめる更木さん。赤火砲はふよふよと飛んだ後、何も無いところでパチンと弾けた。
「……なんだ、今の屁みてぇなのは」
「僕の最大威力赤火砲ですねぇ」
「だから、なんでそれを使ったのかを聞いてんだよ」
「うーん。まぁ、綺麗な藍色の蝶がいたから、ですかねぇ」
「えーっ、ちょうちょに鬼道使ったの? だめだよそんなことしちゃ」
「確かぁに。
「何言ってんだ。あんな威力でも火が当たれば蝶は死ぬだろ」
「それも確かぁに。じゃあ蛾だったのかなぁ」
「同じだろぅが。……なんだぁ? こいつ、得意分野以外はできねぇやつなのか?」
「いきなり馬鹿になったねぺらぺら」
「……それ僕のあだ名ですかぁ? もしかして口が良く回るからですかぁ?」
「ううん、言葉がぺらぺらだから!」
ぐさ。
……ま、まぁ、滑歩を見てそう思われたのだと思おう。あるいは
「瀞霊廷へ帰りましょうかぁ。十一番隊隊舎近くにある美味しいお店をご紹介しますよぉ」
それと……隠すのがあんまり下手なままだと、そのまま捕まえちゃいますよぉ?
*
さて、『全力部屋』である。
ちょっとやりたいことがあるとかで、刳屋敷さんにお願いされた。
「教わりたいこと、とやらのために、儂と卯ノ花、さらには滑川まで呼びつけるというのはどういうことじゃ」
「ちょいとな。俺の剣は割かし我流だからよ。山本総隊長に習っておきてぇのさ」
では。
「──卍解。彼方此方能面野箆坊」
そのフィールドを、作り上げる。
霊子異常の封殺空間。特におかしなことはしていない。
「実戦想定、霊力に依る過度な身体強化や無意識の強化を封じた、剣術と剣道を使った勝負。最近入ってきた面白ぇのに教える剣が、邪流や我流であるのは、俺としても面白くねぇのさ」
「……なるほど。同じ教育者として理解はできた。なればこれ以上の言葉は不要じゃ。ゆくぞ刳屋敷」
「おうさ、だが行くのは俺の方だ、ってな」
そうして始まる……普通に刺したり斬ったりする、文字通りの真剣勝負。
霊圧が高いから致命傷はほとんど入らないけど、怖い……眼球とか僕じゃ癒せないよ。脳も。……卯ノ花さんだって。
「……刳屋敷隊長と、私。……滑川さんの観点から見て、どちらが強いと思いますか」
「えっ。……うーん。……強さの方向性が違うので、なんとも……」
「方向性?」
「いやだって、刳屋敷さんの剣は、味方を生かす剣じゃないですか。その始解と卍解が味方の存在を否定するものでありながら、彼自身の剣は仲間がいる前提だったり、護る者がいる前提みたいな太刀筋で……卯ノ花さんと更木さんは、敵を撃滅するための太刀筋ですよね。山本総隊長もですけど」
殺すための剣と護るための剣では、単純な強さの比較なんてできない。
ちなみにイッチーも殺すための剣だと思う。護ることは勿論できるけど、想定はしていないかな。
「だから、正直に言えば、更木さんの師は刳屋敷さんじゃ務まらないと思います。山本総隊長か卯ノ花さんじゃないと。けれどもし、更木剣八という存在のポテンシャルを……殺すための剣しか覚えられないと限定しないのならば」
「……なるほど。刳屋敷隊長との交戦経験は、彼の新たな才を開き得るやもしれない、と」
「ですね。……死神は基本敵を撃滅するための剣を教えられるので、少ないんですよね、ああいう護る剣……味方を生かす剣が使える人は」
「あなたは、どちらですか?」
……。
決まっている。
「僕は撃滅するための剣ですよ。だから頑張って回避や敵意誘引を覚えたんです。そっち以外は、できたので」
「……祭りの時。四楓院四席があなたの太刀筋を見て、生前は剣客とか人斬りなどであろう、と……勝手なことを呟いていましたが。覚えていますか、己の生前」
「はい。明確に」
「……」
こっちでの生前は知らないけどね。
前世での記憶は、全て持っている。
「でも太刀筋は尸魂界で培ったものですよ。生前の僕は槍使いでしたし」
「槍、ですか。……いつかそれを使っているあなたを見てみたいですね」
「うーん。機会はないと思います。斬魄刀が嫉妬しちゃいますから」
今生の相棒は野箆坊なれば。
それ以外の得物を使うことなど……あ、満願利剣は除外ね。
「槍……ですか。槍術は……そういえば、修めていませんでしたね」
「尸魂界にほぼいませんからねぇ」
神鎗か、鉄漿蜻蛉か、捩花も一応槍か。トライデントだし。
この世界にはいないっぽいけど、貴船理の烈風も槍だっけな。……あ、あと鬼灯丸。The刀な神鎗入れといて忘れるところだった。
「まだまだァ!!」
「むぅ、ふん!!」
……この光景、初代隊長ズが見たらマズそうだなぁ、とか。
そういうこと考えるから良くないんだよね。
「あー! なんか山本さんと刳屋敷くんが面白そうなことやってるー!」
とか。
「浮竹君が病院行ってるで久方振りに来てみれば、なんに、おもろいことやってるやんか。道迷わんくて良かったわ」
とか。……来るからさ。
「……滑川七席」
「はぁい」
「欠片でも……ここに彼らがいなくてよかった、というのを考えるの、もうやめにしましょう」
「あ、やっぱり卯ノ花さんも考えたんですねぇ。……僕らこのまま思考を続けるとぉ、厳原さんも千日さんも来ますよぉ」
口は禍の元……というか。
思考はフラグの元だなぁ、みたいなね。
おまけ
※色付きはあくまで作中で判明している卍解習得者
| 一番隊 | 二番隊 | 三番隊 | 四番隊 | 五番隊 | 六番隊 | 七番隊 | 八番隊 | 九番隊 | 十番隊 | 十一番隊 | 十二番隊 | 十三番隊 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 隊長 | 山本元柳斎重國 | 四楓院夜一 | 厳原金勒 | 卯ノ花烈 | 平子真子 | 朽木銀嶺 | 虎姫 | 京楽春水 | 六車拳西 | 王途川雨緒紀 | 刳屋敷剣八 | 浦原喜助 | 浮竹十四郎 |
| 副隊長 | 雀部長次郎 | 大前田希ノ進 | 鳳橋楼十郎 | 山田清之介 | 藍染惣右介 | 朽木響河 | 愛川羅武 | 鹿取抜雲斎 | 久南白 | 西紀早乙留 | 久面井透徹 | 猿柿ひよ里 | 志島知霧 |
| 第三席 | 沖牙源志郎 | 四楓院極三 | 射場千鉄 | 虎徹勇音 | 羽茂雄二 | 銀銀次郎 | 芦辺幸助 | 矢胴丸リサ | 笠城平蔵 | 児島高徳 | 狩能雅忘人 | 涅マユリ | 志波海燕 |
| 第四席 | 栗東美墨 | 四楓院暮七 | 多紀本塚 | 四楓院千日 | 新穂健造 | 美山伝介 | 赤泊錘緒 | 白鳥華代 | 衛島忍 | 恩智右近 | 一之瀬真樹 | 善定寺有嬪 | 爾志都 |
| 第五席 | 丹南吾郎 | 砕蜂 | 勝本穂入 | 明宝小鞠 | 鼬野俊一郎 | 佐和田靖子 | 真野新町 | 美土里紫陽花 | 新市狼殻 | 志波一心 | 斑目智久 | 梶原敬時 | 一貫坂治永坊 |
| 第六席 | 伊自良官兵衛 | 割蜂 | 郷ノ浦隆二 | 美並里影 | 石和宥兒 | 豊玉漣 | 高富源三郎 | 円乗寺辰房 | 藤堂為左衛門 | 竹添幸吉郎 | 更木剣八 | 俵星源蕃 | 可城丸秀朝 |
| 第七席 | 滑川平良 | 雷弔 | 戸隠李空 | 伊江村八十千和 | 金井九重 | 萩原朱火 | 小椿刃右衛門 | 伊勢七緒 | 久美浜然 | 長木曽秋嚞 | 紗咲累 | 右甚五郎 | 虎徹朱音 |