卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
肉も骨も斬れ
剣ちゃんこと、更木剣八。まだ刳屋敷さんがいるのに剣八を名乗っている人。
……史実では隊長だったから、だからあんなに真面目だったのかな、って思っていたんだけど。
「おやぁ、おはようございますねぇ」
「……」
朝、出張所に来るなり始めたのは、瞑想。毎日の日課でやるようにしてくださいね、と言ったことだけど、瞑想なんてくだらねぇ、とか言うかと思ったらちゃんとやってる。
渾然一体、僕がやっている瞑想のやり方をそのまま伝授した。瞑想なんか個人個人でやり方違うでしょ、とは思ったんだけど、やったことがないからお前のやり方でやる、とのことで。
それが……もう一週間くらいか。毎日欠かさず、朝五時に出張所へ来て、三十分ほどの瞑想。草鹿さんも一緒になってやっているけど効果があるのかは知らない。
流石にその強大な霊圧を隠すには至っていないけれど、霊圧知覚を切ると、自然物がそこにあるのではないかと思うくらい人の気配が消えている。
──その、首に。
殺気を向ける。
「っ!」
「はぁいぐんにゃり」
瞬時に斬魄刀を抜いて斬りかかってくる更木さん。その一撃を避け、満願利剣を首へ突き立てる。……まぁ刺さんないんだけど。
「もっと研ぎ澄ませましょうねぇ。瞑想することに集中しすぎですよぉ。五割五割じゃなくてぇ、十割十割。頑張ってください、ね」
「……ああ」
「もー! 剣ちゃんのめいそーを邪魔しないでよぺらぺら!!」
「すみませんねぇ、必要なことでし、て」
勿論悪戯じゃない。「自然体で常在戦場」というのを獲得したいのだそうで、だからその課題を出している。
瞑想五割臨戦状態五割ではなく、瞑想にも十割集中しつつ、殺気が届いてからではなく発生した瞬間に察知できるくらいの警戒十割。
50%50%の100%なんか一定以上の人なら誰でもできる。だからこれもまた、無意識を使う修行だ。100%の無意識で警戒状態を意識し、100%意識で瞑想を行う。瞑想することに集中するあまり無意識をそっちに割けば今みたいなことになるし、逆なら瞑想が解ける。
浦原さんの場合は恵まれた霊子知覚・霊力操作・霊圧を十全に使えるように、という話だったけど、更木さんは恵まれた肉体・戦闘への嗅覚・霊圧を十全に使えるように、という訓練だ。似通う部分もあれば、全く違う形にもなる。
「……今ので、三百回目だ」
「あなたの剣を僕が避けた回数ですかぁ?」
「ああ。……千に行くまでに、当ててやる」
「怖いですねぇ。それじゃああと少し頑張ってくださいねぇ。朝食はもう用意してありますか、ら」
最初の最初は五百に届く前に終わらせてやる、と言っていたけれど、十回か二十回避けてからは目標回数が千になった。
たったそれだけで何かを掴んだか。そして千回まででどうにかできる算段が立ったのか。そして言葉の通り、そこからの斬撃は質の良くなり方がとんでもなかった。同じ斬撃は一つも無い。反省を活かせなかった攻撃が欠片も無い。
すべてを学習し、すべてを呑み込み、必ず過去の己を上回る。
成長の怪物。自己研鑽する化け物。……そういうのは身体的に劣る者の特権なんだけどね。更木さんみたいな人がやったら、そりゃあ、っていう。
さて、焼き魚定食+ささみ肉のサラダって感じの朝食を食べた後は、一時間ほどとある部屋に入ってもらう。
僕が胸中のみで「選択式清虫部屋」と呼んでいるそこ。浦原さんにやった暗闇修行の亜種。
「……始めてくれ」
返事はしない。どうせ聞こえないから。
部屋の中にポポン、と射出されるは三つのスーパーボール。一つずつ角度を変えて射出しているために縦横無尽な動きをするソレを、更木さんは……一つ斬って、残り二つの直撃を食らった。
再度射出されるスーパーボール。さっきと軌道は別。今度は中々更木さんのもとへ行かないそれらを、ひたすらに瞑想して待ち構える彼。
「!」
長い髪。その先端を掠めたボールに反応した……その瞬間、狙いすましたかのように他二つが直撃する。遅れて飛び込んできたボールはしっかり斬り落とせたものの、当たった場所は心臓付近と頭蓋。
また射出される……というように。
触覚+どれか四感一つを残して封じる結界の中で、スーパーボールを全て斬り落とす、という修行だ。三日と経たずに三個にまで達したのはとんでもないんだけど、そこから先が躓いている……というよりは、学習情報蓄積中って感じに見える。
先程と似た軌道を描いて更木さんへ向かうボール。
それを、す、と避ける更木さん。今残されているのは触覚と聴覚。ボールが風を切る音を聞いたか、あるいは跳ねる音を聞いたのか。
そのままさらに、身体の真ん中へ向かうボールを半身になって避け、首を傾けてまた避けて、避けて避けて、そして──斬魄刀を、一振り。
それにより、偶さか軌道の重なっていた……三つが直線的に並んでいたボールが一度に切り落とされる。
「次だ。……少し、わかってきたなァ」
次は四つ。
それも、ゆらゆらと避けながら、機を窺い続ける更木さん。
が、三つと比べて四つの方は直線上に並ぶ確率が激減する。想像しやすいイメージを出すなら、例えば二個のスーパーボールなら、これらは常に直線上に並んでいると言える。その「跳ねながら伸縮が変わり続ける
が、四つは、「跳ねながら伸縮の変わり続ける棒」二本が連結したみたいに見える確率、もしくは三個目、四個目のボールが同時に棒へ直撃する確率になる。
これは正直ほぼ起きないと思う。待ったって難しい。
能動的に動きに行かなければ……せめて三つに減らさなければさっきの方法は使えない。けれど無暗に動けば。
「……次だ。また……遠のいた」
ボールに当たる更木さん。そう、無暗に動いたり、能動的に聞こえる一つを斬りに行けば、当然被弾リスクが増える。
考えなければならない。飛来する全てを音だけで避けるという、それだけでも神業の域にあるような曲芸を行いつつ、この挑戦をクリアする方法を考える。
けれど、気付いているだろうか。
既に……思考するリソースに、回避が含まれなくなりつつあることに。
無意識で回避する。回避を意識しない。その領域に己が達しつつあることに。
避けないことも戦いの楽しみだと言っていたあなただけれど、どっちが楽しいのだろうか。
死を感じる爆発的な殺し合いと、無限にも等しい時間が続く斬り合いと呼べる時間。
互いに必殺。互いに殺す気で放った一撃が、当たらない。躱されるつもりで放っているなんてそんなわけが無いのに、足りない、届かない。
力だけではなく、込めた技術の粋も、速さも、何もかもが届かない感覚は。
つまらないか。
それとも──。
「おかしな……感覚だ」
一太刀。それによって斬り落とされるは二つ。
そのまま後頭部に来ていたボールをしゃがんで避け、跳ね返ってきた一つを斬り。
「戦いの最中にごちゃごちゃ考えるのは大嫌いだったはずなんだが──」
そして、眼前にやってきたソレを、
「今は、酷く……静かだ」
「それがぁ、思考を無意識に閉じ込める、ってやつですねぇ」
結界を解いて施設の中に入り、話しかける。
入り口だ、それが。『鬼併装』や滑歩だけでなく、無意識を使う、無意識で思考することの初歩。
「無意識下では複雑な計算をしつつ、思考はシンプルでクリア。たくさんのことを考えているけれどぉ、自分が面倒臭いことを考えている感じはしなくてぇ、戦いに集中しながらその時々を楽しめる。……どぉですかぁ? この修行、あなたに合っているでしょぉ?」
「……。あの人が……俺を、あんたに押し付けた時。……見限られたのかと思ったが……逆か?」
「さぁ、どうでしょうねぇ。卯ノ花さんは多くを語りませんからねぇ。けれど」
スーパーボールが一気に三十個くらい放出される。
すぐに反応してそれを切り裂こうとした彼を無詠唱六杖光牢で拘束し、そして僕の方へとやってきたスーパーボールを全て抓んで指に乗せる。バスケのボールスピン&バランス芸&ジャグリングかな。
指先で回転しながら一直線に積み上がる三十個のスーパーボール……という非常に無駄な曲芸を見せつけながら、言う。
「二十万回以上やってぇ彼女に負けたのが一回だけな僕でさえ、あなたには期待しているんですよぉ。……是非、尸魂界最強になってくださいねぇ」
……なおこの数字は察知された・されなかった勝負が大部分であるとする。組手をやったのは初期の数回だけだからね。
「……次だ、滑川。五個。飛ばして十とは言わねえ」
「いいえぇ、飛ばして十やりましょうかぁ。最終的には百も二百も達成してもらわないと困るの、で。十が終わったら今日も調査へ行きますよぉ」
「わかった」
獰猛な笑みだ。それでいながら、悦びも見える。
確かにちまちまとではあるのだろうが──確実に強くなっている。そういう感覚があるのかも。
それに……自分が強くなっても、高くて高い壁があり続ける、というのは。
今まで無かった……そして彼が最も欲していた環境だろうし。
そういう意味ではオサレ眼鏡とも相性良さそうなのにね。お互い眼中にさえ入れなそう。アウトオブ眼中は流石に古いか。いや新しいのか?
結界から出て、十個に増やした修行を再開する。
流石にここから一瞬で、とはいかないだろうから、進行状況だけ眺めて店番をしましょうかね。
「……ねー、ぺらぺら」
「はぁい、どうしましたかぁ?」
「剣ちゃん、なんで楽しそうなんだろう。……たたかってないのに」
さて。
僕ができることを増やすことへ、嫉妬とかしたことあったっけ、君。……よそはよそ、うちはうち、って? まぁ確かに。
彼女もまぁ、幼いのだろうな、とは思うかな。
何者にもなれて何者でもない野箆坊と違って、彼女は言葉も分からない幼子の姿で実体化したわけだし。その精神性は、元は他者の斬魄刀であったものが更木さんの精神性に適合するために「野晒」が下した最適解であると想像できるけれど。
だからこそ学習対象が戦いしかなくて、彼が斬魄刀の名を不要としたからそれに倣って。
「そうですねぇ。僕はあなたではないのでぇ、わかりませんけれ、ど。汚れるのが嫌でなければぁ、更木さんの肩に乗りますかぁ?」
「ううん、やんない。……剣ちゃんのじゃましたくないし」
ふーむ。
斬魄刀側の修行法とか持ち合わせてないからなぁ。どうするべきか。
……いや、待てよ。だったら。
「えっとー、よろしくおねがいします!」
「は……えと、滑川殿。彼女はいったい……」
「御用があるのは響河さんっていうかぁ、村正さんでしてねぇ? というのもぉ、かくかくしかじかまるまるうまうまなっとうねばねばびよーんびよーんでぇ」
「いえあの、口で言われても何も理解できないのですが……というか、村正に用というのは、一体……」
大部分は違うけど、似たような事例のような気がしている彼ら。
「まずですねぇ、この『訓練部屋』でしか使えないものなんですけどねぇ。四楓院家の神具『転身体』がここにありまして、ね」
「『様身体』や『操身体』と同様のもの、でしょうか」
「はぁい。巷では僕が作ったとか言われているぅ、フツーに四楓院家の神具ですねぇ」
この『転身体』は僕関係ないからね。嘘は言っていない。
とはいえこれは僕の手が入っているというか、リスクの類を全て消している。代わりに卍解修行にはあんまし使えない形になったかなって感じのチューンアップ。
「これの胸のど真ん中に村正さんを刺してみてくださいますかぁ?」
「……その。できれば、何が起こるのかをご説明いただきたく。滑川殿のことは無論において信頼しておりますが、村正もまた我が半身であり……」
「響河さんは卍解を既に習得していましたよねぇ?」
「はい、しております」
「具象化、という卍解修行があると思いますけどぉ、たまにその感覚が一切掴めないって人がいるんですねぇ? これはそれを手助けする道具でし、て。この『転身体』を依り代に、斬魄刀が具象化できるようになるんですよぉ」
「なんと……それは、とんでもないことでは? 卍解は死神の戦力向上に必須。それを……」
「似たようなことは村正さんにもできると思いますけどぉ、それを把握していないってことは、多分ないですよねぇ?」
う、と言葉に詰まった感じになる響河さん。
別に隠しているままでもよかったんだけど、話が進まないので、ごめんなさいね。
「申し訳ありません……みだりに口外すべきではないと、村正や銀嶺殿と話し合った結果でして……」
「いえぇ、糾弾したり詰問するつもりはなくってですねぇ。こっちの『転身体』も、まぁ色んな事情で公開できないんですよぉ、というのをわかってほしかったというかぁ」
「はい。理解いたしました。……では」
と、『転身体』へ斬魄刀を突き刺す響河さん。
直後、それにぼやぁ、と蜃気楼のようなものが宿り……そして。
胸元に赤い宝石をつけた、フェザーコートの男性が現れる。目元には紫色のアイシャドーがあって、全体的なシルエットはどこか十刃のようでさえあるだろうか。
「これは……」
「村正さん、初めましてですねぇ」
「……ある程度の事情は把握しているが、私に何用だろうか、響河を救った死が……死神、か?」
「はぁい、そうですよぉ。それでですねぇ、複雑な事情があるんであんまりつっこまないでほしいんですけどぉ、彼女が修行をしたいとの話でしてぇ」
「む……。その童女は……? 死神……死神とは……」
「どうしたの、ふさふさ。しゅぎょー、やってくれないの?」
ふさふさ。……ツルりん、ぷるぷる、ふさふさ、ぺらぺら。
まぁ。……ぺらぺら、良い方か案外。
「修行……というと、何をしたいのかによるが……」
「わかんない! けど、剣ちゃんが頑張ってるから、あたしもやりたいだけ」
「……そうか。……承知した。少しばかり、面倒をみよう」
おお、空気を読んでくれた。……というか、シンパシーなのかもな。
響河さんがどんどん強くなっていく中で、自分も何かをしなければ、みたいな焦燥感は、史実における村正さんよりもたくさんあったはずだし。
そんな二人の様子を『訓練部屋』の高台に上がって眺める僕と響河さん。
「……なんでしょうか。村正は、どちらかというと未熟な私を支え続けてくれた、しっかり者の相棒、というような存在なのですが……こう、私以外を導いているところを見ると、……なんでしょうね。……親心、といいますか」
「わかりますねぇ。自分以外と接している姿が新鮮なのもありますけ、ど。自分が最も知っているその存在が、他者の役に立ち、他者を導き、自分以外の存在を高めている姿はぁ、自慢できる気になるしぃ、褒めてあげたい気持ちになるしぃ」
「まさにそのような……はい。彼女の修行というのを止める気はありませんが、今すぐに村正の肩を叩いて、よくやったと言いたくなると言いますか。初めは……どうして村正でなければ修行相手が務まらないのかと思っていましたが……遠目で見る限り、非常に息が合っているようですし、彼女も真面目に何かを聞いているようで……流石は滑川殿の審美眼ですね」
普段を見れば、僕も響河さんも斬魄刀にお世話になりっぱなし、って感じだけど。それでもやっぱり僕らは斬魄刀の主人で、対等な存在で……それでいながら、自分以外と一切の関わりを持たない彼らが誰かと交流しているのを見ると、応援や偉いね、頑張ったね、って気持ちが強くなる。まさに親心だ。
虎姫さんの心の中に侵入した野箆坊も、今ああして草鹿さんに慣れないことを教えている彼も。
……あるいは、更木さん……というか剣ちゃんが草鹿さんを頻繁に褒めるのって、そういう理由があるのかもなぁ、って。無意識だろうけどね。
「そうだ、滑川殿。覚えておいででしょうか。以前私に将才がある、というようなことを仰ってくださったこと」
「勿論覚えていますよぉ」
「あの後、村正とも話し合って、将としての勉学も始めたのです。己が敵陣へ突っ込むのではなく、群れの長としてその大きな身体を動かす、という勉学を。そうしたらそれが……楽しい、というのは、些か不謹慎やもしれませんが、よく馴染むといいますか。それでいて……お察しの通り私の始解は他者の斬魄刀に干渉できるため、味方の窮地の際、怪我などで動けなければ手を貸して、あるいは死角からの攻撃をそれによって防いで、など……この、なんといいますか、支配的な……ともすれば迫害を受けてしまいそうな力を……役に立てることができていて」
「良いことですねぇ。役割の最適解、見つかったようでなによりですねぇ」
「ありがとうございます。……それで。……その。……隊長になるお話は、何度も断らせていただいていて。副隊長も……長く続ける気は、無くて」
「おや、そうなんですかぁ?」
「あ、いえ、まだ……向こう五十年は続けるつもりなのですが、その」
結構天職だと思ったけど。……それとも虚遠征討伐隊みたいなのが僕の知らないところで組み上げられている?
「教職に……就いてみようかと、思っているのです」
「……教職、ですかぁ」
「はい。私のこの力は、確かに将として、あるいは窮地の際の補助としても役に立つやもしれませんが、初めて斬魄刀を……浅打を握った霊術院生に、正しい型というのを教えることにも適していると考えていて。無論剣の振り方というのには個人差がありますから、必ずしもお手本通りが正解とは言いませんが……軸とできる型を体感として教え込むことができるのは、価値あることだと思います」
成程。……確かに、アリだ。
口で言っても、お手本を見せられても、二人羽織をされてまでもわからない子、というのは割といる。……というか今、僕によって鬼道の習得難度が下がったことで、斬拳走鬼のうち歩法や鬼道だけに突出して、斬拳がそこまででもない、みたいな子が増えているらしいのだ。勿論全員が全部をできるように、というのが難しいこともわかっているけれど、こうやって少しでも苦手意識をなくすことができたら、それは良いことだろう。
「始解に関することも……そして此度の通り、卍解に関することも、私ならば寄り添って教えることができますから……教員としての勉学も欠かすつもりはありませんし、昔の私のような……己を過信することも、私自身は当然として、子供達にもしてほしくないので……必要な役割かと思いました。あ、卍解の方は、教えるに足ると判断した子にしか教えませんよ。自分で自分の首を絞めることがどれほど愚かであるかも学びましたし」
「良いと思いますよぉ。僕も……霊術院には、散々お世話になりましたからねぇ」
「実はこういうことを考えている、と霊術院で教師をしている方へお話に行った際に、少し聞いてしまいました。『百年浪人』さんのことを」
「今は『千年七席』の方が有名になりつつありますからねぇ」
「当時から……同級生や下級生を導く行いをし続けていたそうですね」
そ……んなことはないんだけどね、実際。ずっとやっていた仕込みと、見てて心配になるくらい伸び悩んでいる子へちょこちょこ言う以外は、基本ぐにゃぐにゃうねうねしながら発破かけて周囲のやる気を出させて僕は面倒な仕事をしない、みたいな百年間だったわけだし。
流石に美化しすぎ……だけど、損のある美化ではないのでそういうことにしておくのも吉。
「そしてもう一つ。……コレについて」
一瞬虚面を被り、そして消す響河さん。
制御上手になりましたねぇ。
「虚化というのは、本来は誰しもがなり得る……の、でしたよね」
「そうですよぉ。最大限ならないように全体対策していますけどぉ、何らかの方法で魂魄が削られたら、なってしまいかねませんねぇ」
「あの偵察部隊の彼らのように、毎度毎度滑川殿に出張っていただいて封印をしてもらう、というわけにもいかないでしょう。……そこで、私が……内なる虚との向き合い方や、修行による制御などを補助することができたら。その時に操る言葉ややり方が、教え導くことに適した教職のそれであれば……効率も成功率も高くなると思うのです」
成程。……成程。
僕的には半虚化までやって戦場で大活躍してもらうつもり……だったんだけど。
全体の底上げを考えれば、そっちもかなり良いな。あるいは……イッチーの先生としても、か。
「僕から何かを言える、ということはありませんけどねぇ。もしかしてぇ、村正さんがこの話を快諾してくれたのって」
「はい。彼も彼なりに、誰かに何かを教える、ということを……心の繋がっていない他者に言葉を届けるということへ、興味を持っているのだと思います」
「死神目線と斬魄刀目線から、死神についてを教えることのできる教師、ですかぁ。人気者になりそうですねぇ」
「ははは、それはわかりませんが……。……実はもう一つ意味もあったりしなくはないので、そういう意味では、親しみやすい教師になりたくはあります」
「ああ、六番隊の、というか朽木家の印象改善ですかぁね」
「ええ……銀嶺殿も気にされていて」
六番隊人気の話ね。あんまりやりすぎると洗脳教育になりそうだけど、実態が一切見えないよか良いだろう。
うん。ちゃんと考えられているな、って感じる。
「もし何かそっち方面でお困りでしたらぁ、霊術院の古株教師たちと引き合わせることもできますからねぇ。あるいは、今も教師をしている山本総隊長を呼んでくることもできますよぉ。一応一番隊なんでねぇ」
「いえ! これ以上何かお手を煩わせることはありませんし、正しい道筋で、正しい方法で就きたいので……近道をすると、子供達に顔向けなどとてもできませんから」
「……流石朽木家。生徒たちへの愛情と現実で苦労しそうですねぇ」
成程、彼はそういう愛ね。
良いんじゃない。愛妻家だって話は聞いているし、村正さんもいるし。
色々挫折はするだろうけど、なんとかなるだろう。すっかり朽木家に染まったらしい彼だけど……朽木家の愛というのは、誰も口出せぬからおかしくなっていくもので。
聞く耳を有しているのならば、僕からは何も。
と、そんなところで二人が戻ってきた。
「おやぁ、修行はもういいんですかぁ?」
「うん! あとはあたしだけでもできる、って」
「村正、良くやったな」
「……ああ、響河。だが……子供に物事を教えるというのは、存外大変だ。……互いに、心する必要があるだろう」
僕には修行内容はわかんないけど、村正さんなら悪いようにはしないだろうし。
それじゃあ、更木さんのところへ戻りますか。
「あ、待って。……ありがと!」
「……ああ。大切な相手のために、努力するといい。道に迷えば、いつでも聞きに来ていい。響河が寝ていたとしても対応しよう」
「い、いや、流石に起こしてくれそういう場合は」
「冗談だ」
なんだかいい関係を築けたらしい。
良かった良かった。
*
さて、流石に十個はキツかったのか、十個達成しないままに調査のお時間である。
一応練習の延長じゃないけど、操り人形師のドールハンドルみたいなものに無数の糸つきスーパーボールを括りつけてあるそれを草鹿さんが垂らし、当たっちゃダメ、という訓練(?)をしているけれど、頭の上に草鹿さんがいる以上当たらないのは無理だと思う。僕でもできないよそれ。
事件……『人喰鎖怪事件』は数こそ少なくなってきたものの、未だに発生する。虚一匹倒して終わりじゃない……というか、もし本当に義魂の虚化技術であるとすれば、元を断たなければ終わりは来ない。
藍染さんがそういう……なんていうのかな、一点ものじゃないというか、キリがない、みたいな手を取ってくるようには思ってないんだけど……僕の彼に関するイメージは史実の部分が大半だから、こういう世界になった時にどうするか、というのは情報不足でもある。
こっちから打って出るのは、アリ。
「更木さん。黒腔を通ったご経験はありますかぁ?」
「ねぇな。断界なら、何度か程度だ」
「じゃあこれぇ、この霊子の紐をぉ、はいグサぁ」
ぐさぁする。
更木さんと草鹿さん双方に。……うん、ちゃんとかかったね。
「なにこれ?」
「命綱ですよぉ。黒腔の中も断界と似た感じでぇ、落ちると百年単位で飛ばされちゃいますしぃ、その変化に魂魄が対応しきれずに死んじゃいますからねぇ」
「戦闘中、斬るな、ってことか」
「ああいえぇ、斬ろうと思っても斬れないと思いますよぉ。絡まったりもしませんがぁ、断空みたいなのだけは弱点なので、気をつけてくださいねぇ」
「使えねぇよ、そんな鬼道は」
そういうことをしてくる虚がいるかもしれないでしょうに。
さて、準備はオッケー。伝令神機で「調査のために黒腔を開く」という旨を三界観測局に入れて、と。
「恐らくですけどぉ、この鎖の虚は子供……というかぁ、千切れた一つ、くらいのものなんですねぇ。そこぉで、これから黒腔内に赴いてぇ、卵か、巣か、母体か、そういうものを探しますよぉ。更木さんには、僕を狙ってくるだろう鎖の虚の撃退とぉ、母体を見つけた際の討滅をお願いしますねぇ」
「ああ」
短い返事に、では、と頷いて黒腔を開く。
すぐに道……ではなく広めのフィールドを作り上げて、と。
「──来たな」
来た。……想定の三倍はいるな。空間膜構成霊子の振動範囲内にべたりとひっついていたせいで数を間違えたか。
「僕を守ることを忘れないように……って、あぁ、楽しくなっちゃってぇ。そこは要修行だねぇ」
背後から来た一体の攻撃を避けて浮葉畳で押し出して更木さんの方へ投げる。
曲光で隠れてやる……のは見抜いてきそうだしなぁ。
一応避けながらも感知範囲広げてるけど、できれば落ち着いてやりたいなぁ。
「剣ちゃん剣ちゃん。ぺらぺら弱いから守ってあげないとしんじゃうよ」
「あ? 大丈夫だろ。あいつは避けられる」
「いえぇ、落ち着いて鬼道を使いたいのでねぇ、できれば守ってくれると嬉しいんですけ、ど」
避けて避けて、ふらふら躱して。
もー、数が多いなぁ。いいのー? 山本総隊長呼ぶよー?
「回避は無意識に押し込めちまえばいいんだろ。おまえが俺に言ったことじゃねえか」
「それはまぁそうなんですけどねぇ。誰かを守る戦い方っていうのも……あ、見つけた」
「ほらな。やちる、こいつは弱くはねぇんだよ。強くねえだけだ」
「……むー」
見つけちゃった。もーすこし隠蔽力を上げてくださいませんかねぇ。いやまぁ黒腔にまで探しに来る手合いの方が珍しいのは重も承知ですけれ、ど。
「縛道の二十七・聚光」
遠く。暗闇の向こうで……その輪郭を強調表示される虚が一体。
他の鎖の虚とは違い、なんだろうな、アイボルトみたいな形をしている。それが黒腔の天井のところに突き刺さっていて、そこから鎖の虚を生み出している様子。……ちゃんと隠蔽はしているらしい。視覚的に、だけど。
「アレか」
「今足場を作りますねぇ」
と、足場の霊子をうにょーんと伸ばせば──その坂道を一気に駆け上がり、必殺の一撃が叩き込まれた……が。
「わぁ、ちゃんと堅いタイプですねぇ」
「チ……またか。俺は……手加減なんざしてねェのに、大して強くもねぇ虚にどうしてこう……」
一度落ちてきて……やっているのは反省と、学習かな。
あと二、三度打ち込めば慣れそうだけど、多分彼が欲しい答えはそういうことじゃない。
「時間はいくらでも稼いであげますからねぇ。ちょっとここで、毎朝やっている瞑想をしてみてくださいねぇ」
「何言ってやがる。敵を前にして……」
「ちゃんと感じてくださいねぇ。あなたが斬り得た雑魚と、あそこにへばりついている雑魚の、何がどう違うのか。どうして斬り得なかったのか。この黒腔という空間は普段とどう違い、そして、僕という存在がどういうものなのか。朝の瞑想は自己への埋没ですけど、あれの本質は
「……」
「剣ちゃん?」
「黙ってろ、やちる。隠れて……静かにしていろ」
「う、うん……」
完全にこっちを認識した虚を前に、更木さんは……刃禅を組み、大きく息を吸ってから目を瞑り……それを始めた。
素直で、真面目で、意欲的だ。
であれば、殺到する攻撃程度のものは。
その全てが、互いに互いの攻撃を叩き落す、という結果に終わるだろう。
「──説明なんかしてあげませんよぉ。変身バンクを待つこともできないお行儀の悪いお子様はぁ、何が起きたのかも理解できないままに、呆けていてくださいねぇ」
何に驚いているのか。
今日までの六日間と同じように霊子を食べようとして、それができなかったことだろうか。
感じる霊圧は更木さんと比べて欠片程度もないのに、己が死を幻視してしまったことについてだろうか。
何をしても……鎖を使っても、虚閃を撃っても、何をしても……彼に攻撃を届かせる未来が見得ないことについてだろうか。
「あなた達の前にいるのはぁ、どこにでもいる、誰でもない誰かでしょう? あなたたちはぁ、それをなんでもないことのように踏み潰してしまう虚でしょう? 何を怯える必要があるんですかぁ? 何を躊躇っているんですかぁ?」
ある個体から生み出され続けた、全て違わぬ作り物の虚。
一匹が怖がるのならば、他も怖い。一匹がたじろぐのなら、他も。
彼らは野箆坊と似ているようで似ていない。単一の一人を無数に分けたって同じ脆弱性が見つかるだけだ。
「良いんですかぁ、良いんですかぁ? 一度失敗したくらいで躊躇して……あなた達を作ったこわーい鬼さんも、僕の後ろにいるこわーい鬼さんも……誰も、迷い、懼れ、固まってしまうあなた達を良しとはしないと思いますよぉ」
「──!」
焦燥、あるいは苛立ち。
それにより飛び出してきた一匹を皮切りに、一気に押し寄せてくる鎖の虚。何か結界でもあると考えたのか、物量で押しつぶす作戦に出たらしい。
だから、飛び上がった彼らを、それが最高到達点に達する前に、かるぅく『緩衝霊子』で押し込む。
微かにズラされた軌道は──おかしなことに、また仲間の攻撃を潰すコースになっていて。
僕へ当たる前に、互いに干渉しあって止まった。落ちた。
「学びませんねぇ。数を殺到させても無理なんですってばぁ」
「──!!」
「ああでもぉ、おひとり様だと手をひねるのは簡単でしてねぇ?」
叫ぶ。喚き立てる。ヒトの言葉は持たないのだろう、鎖の虚は、その鳴き声で抗議する。
なら、どうすればいいのか、と。
「試しましょう、試しましょう。いくらでも試していいですよぉ時間はたっぷりありますからねぇ。──そうして、言葉なくとも、教えられずとも……気付くものですよぉ」
大きく広げた手を……ぱちん、と閉じて。
縛道の二十七・焦光で強制的に注目を集め、言葉と、声と、その貌を届ける。
「手を出す相手を間違えた、とね」
──静かに。
立ち上がる音が、聞こえた。
「おやぁ、更木さん。お早いお目覚めですねぇ。おはようございます」
「寝ちゃいねぇ……ああ、いや」
会話を隙と見做したか、向かってくる鎖の虚の群れが──音もなく、一閃される。
「確かに……長い間、眠っていたみてぇだ。……斬る相手の都合。俺の都合。違い、やり方……死ぬほどどうでもいい話が、今まで聞き流してた話が、とんでもねえ速度で後ろに流れてく。……久しぶりに、息ってもんを吸った気がするぜ」
「それでどうですかぁ? 次でアレ、斬れそうですかねぇ」
「当然だろ。そんで……その次にアンタも斬ってやる」
「おやぁ、大きく出ましたねぇ。その程度の境地で僕が斬れるかなぁ」
「抜かせ──」
跳躍。足場さえ使うことなく鎖の虚の母体へ肉薄し──宣言通り。
一刀のもとに、之を斬り伏せる更木さん。
……ちゃんと組成の斬りやすい方向も見えているみたいだ。無駄な力みもないし、体力消費も最低限。
落ちてきて、しっかり着地して。
「なんだ、本体が消えても雑魚は消えねえのか」
「本体じゃなくて母体ですからねぇ。とはいえ有限匹なら、問題ないですかねぇ」
「ああ……もう少しこの"息のしやすさ"を試してぇ。やちる!」
「はーい剣ちゃん!」
「命綱は繋がってますけどぉ、落ちたり落とされたりしないでくださいねぇ。僕の非力さで釣り上げることになるの、で、何年かかっても知りませんからねぇ」
「だったら命綱として機能しねぇだろうがよ! まぁそんなこたどうでもいい!」
ちゃんとツッコミは入れてくれるんだ、っていう。
といっても面制圧火力の無い更木さんと破道の威力の出ない僕じゃあ流石に時間がかかりすぎるので。
「と……あっちに術者を置いてねえのに開きっぱなしにできるようになったんだな、坊主」
「ああいえぇ、距離が近いからですよぉ。もう少し行っちゃうと閉じちゃいますねぇ。それは僕の腕がどうとかじゃなく、理側の話というかぁ」
「そうか、流石にか。……で、アレが」
黒腔から伸びる道を通ってきたのは、刳屋敷さんだ。
一応十一番隊所属の彼を連れ出すことになるからね。伝令神機で許可を取ったら、今の仕事が終わったら駆けつける、とのことだったのである。
「一皮剥けたどころじゃねぇな。……俺も、もっと強くなりてぇ。坊主、あいつがやってる修行ってのは、俺もできるもんなのか」
「え? まぁ、……できますけど、刳屋敷さんには流石にもっと難しくしないと無理かなぁ。あ、千日さんがやってるやつとかやりますかぁ? 隠密機動の基礎訓練にしたいそうでぇ」
「そこまで動けるなんて思っちゃいねぇが、面白そうだな。……さて」
刳屋敷さん用の修行なんて僕思いつかないけどね正直。強くなりたいのはありがたいというかわかるけど、相手がいない問題はあなたにも言えることと言うか。
おっと、それよりも。
「えー、更木さーん! あと十秒くらいで終わらないのであればぁ、こっちから鬼道で殲滅しますのでぇ、退避してくださいねぇ!」
「アア!? 邪魔すんじゃねぇ、テメェのへなちょこ鬼道で何ができ──テメェは!?」
「おう、更木! 雑魚狩りで楽しくなっているところ悪ぃが、この坊主の霊力も無限じゃないっつーか多分そろそろ切れるんでな! 短期決戦で行かせてもらうぜ!」
流石刳屋敷さん。黒腔が開かれた時間と更木さん守護でかかった消費霊力とかその辺を計算したか。
いやまぁ流石にこの程度じゃ大丈夫だけど、更木さんだけの殲滅速度だったらフツーにガス欠だった。
「ついでだ。今練習中の八十番台を使ってみるか。暴発したら制御頼むぜ、坊主」
「暴発前に補助入れてちゃんと撃てるようにしますよぉ」
「そんなことまでできんのか。そりゃありがてぇ。──行くぜ」
手を前に出し、霊力を集中させ。
「天意の大木、
……成程、苦手ポイントはここか。
自分から切り離した霊力が自己保持されて自身を強化する工程。強い卍解や始解を使う人であればなるほど、少し怖いというか、加減が分からないのは理解できないでもない。
だから少しばかりのアシストを入れて。
構築されるは巨大な矢。鬼道で出来たその矢が飛べば、着弾地点は……あれぇ?
なんで逃げてない……っていうか撃墜する気でいないかあの人。──しかぁし。ではまず命綱を握りやすくしまして。
「刳屋敷さん、これ、二人に繋がってる命綱でぇす」
「ん……ああ、成程、こいつは首輪なわけだ。──そら、帰ってこい狂犬ども」
釣り上げる刳屋敷さん。一本釣りだ。そしてその隙に鬼道が鎖の虚の群れに着弾し──大破壊が……って。
「ちょっと霊圧込めすぎかもですねぇ。僕の作った足場なんか一瞬で崩れてこれ」
「ならとっととずらかるか。更木ィ! 草鹿落とすんじゃねえぞ!!」
僕を抱え上げ、そして二人に繋がっている鬼道紐を引っ張って、刳屋敷さんは来た道を引き返す。
後ろで更木さんが足場にびったんびったんなってるけど流石に気にしていられない。あ、後ろの方飲まれ始めましたね衝撃波に。ガラスでも砕くかのように負けましたねそのたかだか衝撃波なものに僕の足場が。
……さっきの修行の話だけど、この人に教えるべきはもしや滑風か?
強い人に移動速度教えたら手が付けられなくなるっていうのは厳原さんで知っているしな……。
ぽーんと黒腔を出て、後ろの二人も抜けたことを確認して、黒腔を閉じる。
「ふぅ。……危なかったですねぇ」
「やっぱり高位鬼道はもっと回数重ねねぇと感覚が難しいな。一歩間違えたら全員殺してた。反省しねぇと」
「刳屋敷」
「ん? どうした、更木」
おや。……もうちょい怒ってるかと思ったら、そうでもない様子。
邪魔すんじゃねえ、とかって食ってかかるかと思ったんだけど。……僕、更木さんのことチンピラみたいに思いすぎかコレ。普段は割と真面目だしなんならダウナーな人なんだよなそういえば。
「アンタでも、鬼道は使うのか」
「そりゃ使うだろう。斬魄刀一本振ってあの数を一気に殺せるなら要らねえだろうが、そりゃもはや霊圧で槌を作っているみたいなものだ。だったら鬼道の方が効率が良い」
「効率……。……だが、鬼道に敵を斬る感覚はねぇだろう。楽しく……ねぇだろうが」
「俺は別に楽しさばかりでやっているわけじゃねえが、楽しさを重視する剣八としての顔でも話すのなら……強者とやる前に雑魚で疲れるのは、馬鹿馬鹿しいだろ?」
「……」
「鬼道は確かに強者への決定打にゃならねぇがな、敵だって必ずしも強者だけを出してくるわけじゃねえ。雑魚が鬱陶しい時はああいうのをして掃除するのが一番なんだよ。それともお前は、さっきみたいに雑魚ばっか狩ってても……斬り返してもこねぇような案山子を斬っているだけで充分楽しめるのか? だってんなら鬼道なんか要らねえと思うがな」
更木さんが、鬼道。
というのは……まぁ、解釈不一致ではあるけれど。
その霊圧が威圧用だけ、というのは勿体ないよなぁ、とは思う。衝とかだけでも「腕を振る」より「霊力を押し出す」方が疲れないし汚れないし便利だよ。
「アンタ。……滑川」
「あ、はぁい。なんですかぁ?」
「俺に……鬼道の素質ってのは、あるように思うか」
「さぁ? 僕別に見ただけでその人の潜在能力を見抜ける眼の持ち主とかじゃないの、で。……でもまぁ、一度教えてわからなかったら、教え方も教材もやり方も全部変えてまた教えますよぉ。あなたが諦めない限りはぁ、僕が諦めるってことはないので、ね」
「この坊主は七番隊の虎姫隊長にも鬼道を教えてる実績がある。教師としてはもってこいだろうよ」
「……知らねえやつだが、そいつは、俺くらい物覚えが悪いのか」
いえあなたとは比べ物にならないです。というかあなたはめちゃくちゃ物覚えの良い方です。
「ああ、なんせ隊長になってから自分が死神という存在であると知ったくらい天然で鈍感なやつだ」
「……いやそれは、天然つぅか、常識がねぇだけだろう」
「まぁそういうやつでもできるんだ。お前にできねえ道理はねえさ」
「そうかよ。……今は……せめてこの半年間は、寄り道をしたくねぇが……いつか、聞くかもしれねぇ」
「はぁい。お待ちしていますよぉ」
霊圧がちょっと粗いから、縛道はもしかしたら無理かもしれない。瞑想状態なら使えるかもだから、無意識瞑想ができるようになれば可能かもだけど。
教えるなら一から九番の破道かなー。とはいえ今はノイズになりかねないから、まずは獲得すべきもの、というのを獲得してもらおう。
……やっぱり、刳屋敷さんと話している方が、活き活きしているね。
自分を負かした相手がずっと高い壁なのは嬉しいんだろうなぁ。
「調査は終わったのか?」
「はぁい。元凶も駆逐しましたよぉ」
「それじゃ、ちと早いが昼飯にするか。更木と草鹿も奢ってやる。勿論坊主もな」
「わぁい」
そういえば『足福』……『方丈』の第二号店は、十一番隊だけでなく多くの隊士が通う人気店になった。コンセプトは安くてウマくて腹に溜まるし元気も出る。
牛丼とかカツどんとかそういう系がわんさかあるので、多種多様な料理を楽しみたいなら『方丈』、粉モンが良いなら『秋風』、量を食べたいなら『足福』、という住み分けになっているのだけど──。
「あ? ……アンタ、こういうところ来るのか」
「……おや、誰かと思えば。……別に、私がどこで食事をしようと勝手でしょう」
「いやそうだけどよ。……結構、食うんだな」
「なにか?」
という感じで、どこの食事処にも卯ノ花さんが出没するので、更木さん的には身が引き締まる思いだったりするのかね。……卯ノ花さん的には胸が締め付けられる思いかもしれないけど。
「あんな量で驚いてんじゃねえ。倍は食え、更木。俺は三倍食うがな」
「また……くだらねぇ張り合いを……」
「どれでも頼んでいいの?」
「おうよ。隊長だからな。金持ちだ」
「やったぁ! じゃあこれとね! これとー!」
「やちる、あんまり大きい声を出すんじゃねえよ」
……なんてやり取りをにこにこ聞かせてもらって、この午前中を締めくくる。
あ、草鹿さん睨まないでねー。笑ってるだけだからねー?