卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
わたしが熱なら あなたは夢
あなたが熱なら わたしは傷
霊術院生活四日目。
更木さんの飲み込みは凄まじいの一言で、既に剣道のルールに則った状態での負けなしを体現している。
呑み込む斬魄刀であればこそだったりするのかなぁ、なんてどーでもいいことを考えながら、白打を教えるスペースの横で完全な静止を見せる。
どうせなら滑歩の教師もしていけ。
今僕がこうして『緩衝霊子』の上でヨガみたいなことをしているのはその一言が理由である。……このままなんでもかんでも引き受けていたらいつの間にか霊術院の教師になっていそうなので、槍術指南と滑歩指南以外は受けないでいるつもりだ。鬼道のことは、常任鬼道衆がいるからね。
滑歩。そこそこは浸透しているようだけど、強い人が使っているところって、厳原隊長くらいしか見たことないんだよなぁ。
鴉泉ちゃんもそうだったけど、強さ一辺倒の人は瞬歩+瞬歩応用コースを選択するようで。瞬歩+滑歩コースは斬魄刀がその場で取りまわす系だった子がメインで、瞬歩人気には流石に比肩しないんだとさ。
さもありなんだけど、便利なのになぁ、とか。
「滑川せんせい! 質問があります!」
「はぁい?」
「小坂井せんせいがやってたかっぷうっていうの教えてください!!」
「あれはねぇ。滑歩も瞬歩も上手くないとダメだよぉ。壁に激突して多分死ぬからねぇ」
……というのが結構あったので、小坂井くんにも注意喚起をしておいた。勿論あんなの基本は使わないらしい。
なんだかちょっと……危機感が足りてないなぁ、とか思っちゃうのは。
僕が……立場を大人に変えた証なのかなぁ、なんて。
そんな折のことである。
今日もやりますかぁ、と剣道場に赴けば、ざわめきが。
また野生の卯ノ花さんでも出没したのかな、と人混みを割って入れば。
「ゆくぞ、童」
「来いよ、爺さん」
更木さんと……山本総隊長が、竹刀で剣道をしておりましたとさ。
*
曰く。
あの後考えに考えて、それでも答えが出なかった。ここは初心に立ち返って剣でも振って雑念を排し、その上で答えを出そうと考え……更木さんと僕の様子を見るついでに霊術院で素振りをしていたら、案の定出会った。ここまではほぼ計算通りだった。しかし。
無視して剣に没頭しようとしていたら、隣で素振りを始めた更木さんの剣が、想像の百倍、いやさ千倍は「ちゃんと」していたがために、試合をしてみたくなった、と。
それが先程のことに繋がるし──。
「剣道ってモンの悪ィとこだ、これが。真剣勝負に分けはねぇだろ」
「まぁまぁ」
「全くじゃ。あれは次なる行動の読み合いと消し合いをしているのであって、逃げ腰ではないと言うのに」
「まぁまぁまぁ」
それなりの時間道場を独占した結果小坂井くんが出ていって試合を引き分けにしたために、道場の外でぶつくさぶつくさ文句を垂れている二人がこちら、と。
「……爺さん」
「なんじゃ」
「こいつの槍、見たことあんのか」
「……多少は聞いておるが、まだじゃの」
「そうかよ。……俺の意見は変わらねえ。こいつは前に出すべきだ。……が、ここで剣振ってる間に……ちっとは考えた」
「……」
「こいつじゃねえとどうしようもねぇ呪いってモンがもし、尸魂界にも虚圏にも現世にも出たらどうするんだ、ってのをな。……温存はすべきじゃねえが、こいつ抜きでどうにかしなきゃいけねえ戦場が出てくるってのはまぁ、わかった」
まぁ、ねえ。
ただそのやり方が。
「ただそのやり方が、特に呪いをどうこうできるわけでもねぇ精鋭とやらの頭数を揃えて突撃させるってのじゃ意味がねえ。それをやるくらいなら、こいつに自分を三人に分ける方法でも開発させた方が良いだろ」
「……そうじゃな。……血が上っておったのは、儂も同じなのじゃろう。この先の全てを滑川に頼るべきではないとして……滑川抜きでも事態を解決できると見せることに躍起になった。……儂とて、温存するつもりなど無い。ただ、此奴が一人しかおらぬ以上は……やはり……」
「鬼道衆の解呪班も頑張ってはいるんですよぉ、結構。ただねぇ。呪い元を逆探知して呪いを構造解析して返す、みたいな曲芸は、中々難しいみたいでぇ」
「うるせえ。無理矢理入ってくんな。……お前はいちいち世話焼きすぎなんだよ。ちぃっと……どっか行ってろ。山本の爺さんとの喧嘩は、今んとこ俺のモンだ」
……確かに。
いちいち首を突っ込むのは、おせっかいがすぎるか。
剣を振って頭をクリアにする、という効果は怖いくらい出ているみたいだし……ここはお暇しよう。
子供達に槍を教え、お昼休憩。
スダチの砂糖漬けを食べて、ライムの炭酸(自作)割りを飲んで。
眉間を狙って放たれた短剣をぐにゃぁりと避ける。
えぇ……。
「なんですかぁ?」
「……こちらへ」
三日前から……変わらぬ般若顔、というか能面というか、亡者みたいな顔をした卯ノ花さんである。千日さんから「なんかやっただろオマエ」というお褒めの言葉を頂いている。四番隊がざわついていてとんでもないらしい。
こちらへ、と言われてついていくと、そのまま『全力部屋』まで来た。霊術院地下の『訓練部屋』は今日三番隊・十三番隊が合同訓練で使っているからねぇ。
で……『全力部屋』かぁ、嫌な予感というかなんというかだなぁ、とか思っていたら。
「──卍か」
「はぁい効果範囲外」
じゅるりと爆速滑風で彼女の霊圧範囲外まで逃げる。
あっぶな。何やってくれてんの。
「……なぜ、逃げるのですか?」
「なんで卍解しようとしているのかをご説明くださいね……?」
「私の卍解に攻撃的な力はありません。それはご存知なのでしょう」
「えぇ、まぁ」
「本来……どちらかが死なねばこの卍解は解除に至りませんが、あなたならば卍解により強制解除ができるでしょう」
「それは……そうですけど」
いやそこではなくてですね。
「残念ながら。……あなたが考えているほど、私は柔軟な女ではないのです。殺し合いの中でしか言葉を伝えることができない。殺し合いの中でしか変われない。……更木剣八との殺し合いは、彼の封を解く私の最期の役割と、ずっと考えてきましたが。……どうやら、少し違ったようなのです。……それを、あなたに……話したかった」
「はい、えぇ、卍解の外でも聞きますよ?」
「……申し訳ございません。それと、これを」
ぶんっと投げ渡されるは……鋼鉄製の槍。
斬魄刀ではないけれど。
「
「……難儀な人ですね、あなた。……まぁ、その卍解下でも、死ぬつもりはないですが」
「ありがとうございます」
諦めて……霊圧範囲内に足を踏み入れる。
そうして。
「──卍解。皆尽」
色々言ったけど。皆尽は、皆月のことでもあるかもなぁ、とかね。
がまんの限界です。ごめんなさい。……って?
黒。
暗い世界だ。月の光の一切見えない夜みたいな。
その中でも鈍く輝く刃を避けて、その腕に槍を一突き。
……硬った。
「霊圧防御をどうにかしてくれる気はないんですね」
「霊圧に封をしてしまうと、卍解を使えませんので」
「成程道理」
つまりこの槍は防御用にしか使えないってわけだ。あとはそれこそ束田居合かな? あれは敵の自重で敵を串刺しにする技だし。
色々考えながら、本気で命を狙ってきている攻撃を全部避けて、顎下部をつま先で蹴り上げ、そのまま投げる。
大したダメージが入っている様子も無く飛び出してくる卯ノ花さん。それを、突き立てた槍を軸にして回避し、二度目の突進においては首を両足で挟み込んで捩じるように投げる。
……これだけでも死ぬ人は死ぬんだけどね。ピンピンしてらっしゃってまぁ。
「お話の続きと行きましょうか。あなたは長年己を彼の封であると考えていた。けれど違った。そういう話でしたね」
「ええ。……結局は私も野良犬です。貴い役割を覚えていたのは自己陶酔故。本当のところ、私は、一目にて惚れたあの強さに殺されて死にたいと……ただそれだけなのでしょう」
「強さに惚れる、ですか。……目を灼かれたの間違いでは?」
「……どういう意味ですか?」
突っ込んでくる卯ノ花さんの眼球に向けて突きを繰り出し、避けようとする身体の進行方向に槍を置いて激突させる。
一閃。……ありゃりゃ。槍が斬られてしまった。やっぱり斬魄刀以外の刃物は信用ならないねぇこの世界は。
そのまま二閃三閃と続く斬撃で細切れにされる槍。
否。
「暗器術も、少しは使えましてね」
「……」
打針のように誂えたそれを構える。
なんならこっちの方が攻撃しやすいかもしれない。槍の突き刺さらない肌も、ギーッてやれば引き裂けはするでしょ。
「話を戻しますと……多分あなたは、ずーっと暗いところにいたから、突然現れた光に目を灼かれただけなんだと思うんですよね」
「同じでしょう。灼かれたも、惚れたも」
「惚れたのならば、止められません。相手を己に含め、相手が続くのならば己は要らぬとばかりにしてしまえるその感情は、僕には止められない。……止められなかった。でも」
振り下ろされる斬魄刀の刃に打針の切っ先を合わせ、瞬時に逆手持ちにしてカァンと弾く。
蹴り上げ。からのかかと落とし……は、こっちの踵が痛いとかいうバグなので中断してバックステップ。
鼻先数ミリを掠める切っ先に、内心あっぶな! とか思いつつ、顔はざぁんねぇ~ん! みたいにする。さらに大きく宙返りを入れ、突然腕を伸ばして身体の軸を強制回転させて追撃の突きを躱し、伸び切った腕に足を絡ませて背中方向に強く打ち付ける。
また距離を取れば。
ぷらーんとした彼女の右腕。脱臼くらいはね、してもらわないと。ホントなら肩の骨全部砕けてておかしくないんだけど。
「惚れたのならば、食われた心を癒すすべなど、食った怪物と一つになるしかないですけれど。……灼かれたのなら、その心に欠けはありませんよ。考えてみればいいです。もし──更木さんが、どこかで死してしまったら。あなたはどうしますか?」
「知れたこと……。彼を殺した者を殺しに行くでしょう」
「それは復讐のため?」
「彼より強きを喰らうため」
「じゃあやっぱり、強さに惚れたのではなく、目を灼かれただけです。初めて自分を負かした強さに。負けると思わされた強さに。そうして何百年をかけて目を慣らし、そして彼が再度現れてから彼を見て、思ったんでしょう? ──前ほど灼かれない。前ほど惹かれない、って」
「!」
今日一強い突き飛ばし。ガードに使った打針が砕け散るほどの。
はぁいこれで無手。野箆坊をこんな
ゆらゆらぐにゃぐにゃだけじゃなく、斬撃と斬撃の間をぴょんぴょん跳ねて、時には逆様になりながら喋る。
「あなたはそれを、己が封をしてしまったせいだと考えた。だからその封を取るために死のうとした」
「それが……何か、おかしいとでも」
「あなたはね、慣れちゃっただけなんですよ。見てきたでしょう。この数百年……厳原さんや刳屋敷さんという、考えもしなかった、その台頭を予見できていなかった強者を。九百年前はそこまで強いと感じていなかった人たちが、メキメキと実力をつけていくその様を」
草履を投げ、一瞬出来た死角に入って気配を消し、時間差で落ちてきた草履の反対方向へ投げ捨てた足袋を切り裂いている彼女に、草履よりもさらに遅れて着地したところからのドロップキックをかます。
もう片方の足袋も脱いで、と。
「あなたは見たはずだ。あなたは知ったはずだ。あなたは理解してしまったはずだ。あなたは悟ったはずだ」
「……く」
「心の強き者。堅い信念を有する者。熱い言葉を吐き出す者に、決して折れぬ者。死を前にしても、決して臆することなく。恐怖を浴びたとしても、その足を止めることなく。どれほど強い敵にも果敢に向かっていく者達を目にした。この、護廷という場所を、直視した」
既に百は切り結んだか。
卍解の効果が発揮されることの無いままに、爪で剣の腹を弾いて、弾いて弾いて弾いて弾いて。往なして避けて避けて往なして。
卍解の効果は知っている。あるいはあなたの言う通り、ここで死んでも、あるいは殺しても、死なないのかもしれないけれど。
僕には──目的を見失ってしまったので、殺してくださいと。
そう聞こえたから。
「輝かしいもの。溶岩よりも烈火よりも強く辺りを照らす、昏くて尊い創星が如き輝き。破星が如き煌めき。暗い洞窟の中で生きてきたあなたの見た初めての光がそれで、けれど、それを探しに出てきた明るい場所に長く居すぎて、あの時受けた感動に勝るものが得られなくて」
般若が崩れる。能面が崩れる。温和な笑顔が仮面なら、怒り心頭の顔だって仮面だ。
その──ぐちゃぐちゃとした、悲喜交々を浮かべる顔を。悔しさと焦りが滲んで抑えが利かない顔を。
「いつしか彼は──あなただけの特別では、無くなってしまっていて」
「どこまで、あなたは──」
鋭くあるのに、どこかふらつく剣の腹を蹴って大岩に埋め、膝で喉を蹴って組み伏せる。うーん膝が入っていかない。堅い喉とはこれ如何に。
思わず離された、岩に突き刺さっている斬魄刀を手に取って。
「あなた以外の剣でも、美しく輝いているところを見てしまって……衝撃を受けたんでしょう?」
「……彼の、封も。……私の、大切なものも。……すべて奪う気ですか。私の存在意義を。私の存在理由を」
「他者のために死して鍵となる役割ですか。──そんなもの存在しませんよ初めから。言ったでしょ。人の役割は変えられない。人は己の役割に似たものを、これ以上旅することがつらいからという理由で天命だと誤認し、骨を
彼女の斬魄刀を──彼女の髪へと突き刺す。流れ出る血のように広がった、その長い髪の一房へと。
「あなたはね、無知なだけなんですよ」
「言うに事を欠いて……無知、ですか」
「ご自分で仰っていたでしょう。殺し合う以外に言葉を伝える手段を知らない、と。ええ、その通り。あなたはこれだけ長い間護廷にいたのに、人間の言葉を学ぼうとはしなかった。……清之介さんが困っていましたよ。何をどうしても言葉が通じない、と。ま、あれは彼自身も他者との言語を持たないが故ではありますが」
言葉を知らない。殺し合い以外では本音を伝えることができない。
己は野良犬だと決めつけ、噛みつき合う以外の言葉は持たぬと定めて。
「麒麟寺さんがあなたに回道を教えたのは……教えることを良しとしたのは、あなたに他の言葉を教えられると思ったからですよ。他者を癒すことで他者を理解し、他者に充てることで他者と同じ言葉を使えるようになると。それをあなたは、殺し合いにしか役立てなかったみたいですけどね」
「……誰も彼もが、あなたのように器用だとは思わないでください」
「誰も彼もが、あなたのように不器用だとは思わないように」
できない理由を、みんなできないのだから仕方ない、なんて諦めで終わらせないように。
「あらゆる流派は我が手にあり、でしたっけ? でもそれ、結局は武術言語しか使えてませんからね。あらゆる言語は我が手にあり、くらい言ってくださいよ。知ってますか、現世にある言語って三千くらいあるそうですよ。方言判定を厳しくすると三百くらいまで減るそうですけど」
「……」
「日本語はそんな、人の扱う言語の一つなわけですけど……どうですか。覚える気ありますか? あるなら僕が教えてあげますよ。日本語を日本語に変換する日日辞典も作ってあげましょう」
「……」
卯ノ花さんは……ゆっくりとした手つきで、斬魄刀を……その刃を握る。……当然血がだらだらと出てくるけれど。
そのまま自身の頭頂斜め上に刺さったそれを引き抜いて。
自身の胸へと、突き刺そうとしたので当然に止める。あと危ないです。僕が首を組み敷いているのだから、僕の足にも突き刺さりますそれ。
「止めないで……ください」
「止めますよ。心臓にそれを突き刺して、その状態で卍解を解除して死ぬつもりだったでしょ」
「知恵もない。言葉も知らない。役割もない……野良犬でさえないものに、価値などないでしょう」
「出た"価値"。なんですかそれ。流行ってるんですか? 価値だの無駄だの意味がないだの。僕言いましたよね。刳屋敷さん更木さんに並んで戦ってほしいって。まぁいいですよ別に回道専門家でも。志島さんの助手みたいな立ち位置でまた副隊長でもやったらいいじゃないですか。……事この状況に至ってまで死にたがるのは、価値とか意味とかじゃなくてただただ死にたがりなだけにしか見えませんよ」
「ええ、では、そのようです」
「瞬閧・霊装戦形【
いきなりその状態まで肉体を持っていく。
迸る霊子。肉体を構成する霊子の全てが励起状態になるこの姿を見て。
「
「──……」
「自分を殺してくれそうなことを喜んだわけじゃないでしょう。──まだ、僕に隠し玉があると知って。これまた僕にしては強そうな霊圧の具合を見て──舌なめずりをした。戦って味を確かめてみたいと思った」
「そ……れは」
「違わないでしょう。そして、同じ反応をする方を、僕はもう二人知っています。違う名字の、同じ名前の方を」
強者を見て、心の底から喜ぶ者。
未知のものに、心の底から期待する者。
「教えてくださいよ、初代さん。あなたは誰ですか? 誰かの封ですか? 誰かの首輪ですか? 誰かの影ですか? 誰かの何かなんですか? あなたにあなたは、欠片も無いんですか?」
この状態で──槍を形成する。霊子で出来た槍。霊子による防御を掻き分ける槍。
ここまでしても攻撃力は無いけれど、他者の霊子が己の中枢へ達すれば、何かしらの不調は受ける。痛みもあるだろう。受ける場所によっては、刺されたと誤認することもあるだろう。
「瞬閧・霊装晩形『
刃長四尺六寸。全長一丈一尺。
大往生一歩手前のお爺さんがよく語っていた、鞘の形が特徴的な槍。
歌鉦。あるいは歌鉦の槍。
全身の活性化した霊子を全て注ぎ込んで作り上げた霊子の槍。あるいは斬魄刀のなり損ない。
それを、その柄を掴んで──卯ノ花さんへと突き下ろす。
ぞぶりと、肉を裂く感覚は……けれど、それ以上進んでいかない。
僕の攻撃力不足ゆえ、ではない。
「……おや。どうして止めるんですか。死にたいんでしょう」
「……」
卯ノ花さんもまたこの槍の柄を……っていうか刃を掴み、全力で持ち上げているようだったから、進んでいかない。
「この卍解は死を否定できるのでしょう。あなたは命の奪い合いじゃないと言葉を交わせないのでしょう」
「……っ」
「あなたが生きたいかどうかというのはまぁ正直どうでも良いです。あなたの目的が無いとか知ったこっちゃないんですよね実は」
一ミリ、二ミリ。
少しずつ……穂先を、心臓に近づけていく。
力強い抵抗だ。だけど、それがなんだろうか。
それが。
この道を阻む壁になると思うのか。
「僕は夢物語を達成したい。誰も死なぬを目指したい。死神が着実に強くなっていく中で、飛躍的に強くなっている敵が確認された今──いつまでも過去にしがみつく亡霊なんて、邪魔者でしかない。あなたが己を誰であるか定義できないのなら、そのまま僕らの背景になっていてください。仕方ないのであなたの位置には僕が入りますよ。更木さんの隣にいるのは刳屋敷さんと滑川平良です。あなたの席は、後ろにある、誰かを癒す係。別に軽視はしてないですよ。大事な役割です。誇ってください。胸を張ってください。あなたは己を──」
「──ずっと思っていましたが」
上体を起こす卯ノ花さん。霊子の槍の先端が心臓付近の筋膜を撫でる。
その状態から──ガンッ! と。
……頭突きを喰らった。……久しぶりに、打撃を受けたな。
「あなたの声は、少々耳障りですね、滑川さん」
「わぁ酷い。生まれ持ったものなのに」
霊子の槍を手元に引っ張って、その斬撃をガードする。
えぇ~まだやるのか~。
「もう二度とそう何度も何度も問うのをやめてください。酷く耳障りです」
「ありゃ、少々から酷くまで上がりましたか。というか名乗らない方が悪いと思いますけどね」
わざと……更木さんが昔つけた傷のある位置に槍を突き出す。
おっと青筋が浮き上がったように見えた。すぐにバックステップ。ひゃあ、怖いね。そこは大事な傷だって?
「私が誰か。私が何者か。私は誰かの何かであるのか。……そんなもの、あなたに問われずとも、何度も何度も自問しましたよ」
「でしょうねぇ。それで、答えは?」
「……。……卯ノ花烈です。私は」
「そうですか。じゃあ──」
「とはいえ、あなたは知らぬやもしれませんが……歴代のそれらもまた、本名はそのまま持っていました。……ですから」
構え。……突きの姿勢。
成程。槍使いに刀使いが突きを挑むのか。
「今ここで、あなた程度の槍など切り捨てて──その名をもう一度名乗ることとしましょう」
そうだ。
それならば、こちらも受けて立つ理由になる。
「今まで散々煽られた分も含めて、憂さ晴らしに一つ、お命頂戴いたします」
「槍術
そんな理由で殺されちゃ堪ったもんじゃないけどね、という軽口を挟む暇は無かった。
すれ違いざまの一撃。居合にすることもできない神速の突きに。
──ぶしゅう、と。……激しく噴き出す首筋の血。
痛いなぁ、もう。
でもその後ろで、ぐったり倒れる彼女に……まぁ、なんだ。
「二十万二勝……一分け。で、どうですか」
「……こういう時は、私に勝ちを譲って……気持ちよく名乗らせるべきでしょう」
「ご冗談を。ちゃんとやった試合で負けるとか、真っ平御免なんで」
やったことは単純、霊子による酔いの発生だ。お酒とかじゃなくて、船酔い・車酔いの方ね。
さっき身体に槍を突き入れた時に侵入した霊子が彼女の霊子知覚を狂わせ、この交錯で一気に霊子を注いでパニック状態を励起させて倒させてもらった。
最初から負けるつもりでやってる奴ならともかく、こういうのでは負けないよ僕は。
負けず嫌いなんでね。
「それで? あなたの名前、もう一回聞いておきましょうか。耳障りとか言われたけど」
「……名乗りますが、あなたも名乗ってください。生前のお名前を」
「えぇ……。死人に名を聞いて楽しいんですか?」
「尸魂界は死人の世界でしょう」
そうだった確かに。
……。ま、別に良いけど。
「生前の名を、束田正幸と言います。加賀の生まれで、越州で育ちました。正幸を平良に直したのは、心機一転のつもりで」
「……卯ノ花、八千流と。……申します」
「卯ノ花剣八の方が今っぽくて良くないですか?」
「何を。八千流の方が洗練されているでしょう」
あ、そこにはちゃんと拘りがあるんですね。
……さて。
「あの、卍解終わってもらえませんかね」
「……初めに言った通りです。これは本来、どちらかが死ぬまで終わらない卍解である、と」
「いえでも、死なないんですよねこの卍解下だと」
「基本は、幾度死のうとも死ぬ前に引き戻されます。しかし、どちらかが生きる気力を手放した時、死が訪れ、卍解も解除されます。死という逃避は許されませんが、心の底から心が折れたら、殺し合いなどできませんからね」
「はぁ。えっと……実は僕、さっきの瞬閧で霊力が底を突いていて。できれば回道でこの傷治してほしいな、って」
「……。……そのまま死んでください。そっちの方がまだ、胸が
「そんなに僕のこと嫌いですかね」
「ご自身の胸に手を当てて、私が恩義以外であなたに好意を向けるような行動があったかどうか確認してみてください」
「えー? 自分には手に余るから、という理由でしょうけど、まず更木さんを預かって封を解いたでしょー? それで、なんだか幽鬼のようになっていて死にそうだったあなたに発破をかけて生きる理由を思い出させてあげたでしょぉ~? 他を見ても……僕は卯ノ花さんのためを思って、卯ノ花さんのために尽くしてきたようにしか思えないのに……」
びゅん、と飛んでくる斬魄刀は避けるけども。
滑歩使えないから避けられないとでも思いましたかぁ?
「……失血死すれば、その傷を負う直前まで戻ります。つまり、瞬閧とやらで霊力を爆発的に消費する前にまで戻るのです。ですから死んでください」
「それで霊力まで回復するなら、この卍解の使用は四十六室が禁止するでしょうねぇ。時間に手を掛けていますし」
「……無駄に知識があるせいで面倒臭いですね。……霊力回復の丸薬など持っていたのでは?」
「霊術院で子供に教えている時に携帯食料なんて持ってるわけないでしょ」
自分の回道を使うにも霊力が足りない。
仕方がないので霊子を動かして無理矢理止血した。これも霊力使うんだからもー。
ゆったりと……何度か溜息を吐きながら立ち上がる卯ノ花さん。
「……酷く、気分が悪いです」
「そういう鬼道ですからね」
「……感謝はしています。彼のことも、私のことも。それはそれとして死んでほしいというこの思いが、なぜ理解できないのですか?」
「凄いこと言うじゃんそれはもう」
「ずるいじゃないですか。……彼とも、私とも……分けるか、勝つかで。わざと負けている時以外の負けが……あの一度しかない、なんて」
「随分と誇らしげに言いますよねぇ尾行が成功した程度の勝利一つを痛い痛い痛い痛い!!」
肩をガッと掴まれて頭もガッと掴まれて、傷口が開くようにぐぎぎぃぃぃいって引っ張られた。それは痛いです流石に。
「治療をしてもらいたい相手に煽りを入れるのは愚策であると、どうやら体感しておられないようなので」
「いやぁだってぇ、初代剣八ともあろうものが"尾行に気付かれなかった"程度を自慢げに……それも僕を尾行していたんじゃなくて志島さんを尾行していたことをそんな誇らしげにされても痛った!? き、傷口に爪を立てるとか、人のすることじゃないですよ……?」
「……普段より反応が大きいですね。やはり始解できないとこうなるのですか、あなたは」
「そうですよ……。痛みも……別に、永久に削除もできたんですけどね」
「そんな、機能のように言うのですね」
「機能だから言ったんですよ。僕は僕を作った時にそういうことができた。けどしなかった。……痛みさえ感じなかったら僕は、人をやめてしまいそうなので」
「……己を作った、とは。どういうことですか?」
ようやく回道の光が傷口に当てられる。
あー……霊子が補充される~……。
「始解も、卍解も、斬魄刀が起こす霊子の振る舞いです。なれば斬魄刀に宿る意思もまた同じ。そしてそれが写し鏡であるのならば、死神の人格や感情の発露とて霊子の振る舞いであると言えます。……だから僕は、斬魄刀と己を混ぜたんです」
「……狂気の沙汰であると、思いますが」
「でも、千年以上を生きるにはこれが最適解でしてね。……残念ながら貴族に生まれることができなかった……流魂街の一住民として生まれた僕は、未来から僕を送り出してくれた人達に応えるためにも、この小さな霊圧で際限なく生きる必要がありました」
霊圧が低いということは、老いも途中までで、その後に来る魂魄の耐久限界もすぐである、ということだ。
子供のまま容姿が変わらないのならば、もうとっくに限界を迎えている。そこから何百年と生き続けるのなら、それは妖怪だろう。みんなが僕をそう呼ぶのも理解できる。
死神に子供の背丈の人が少ないのは、霊力有りならすぐにすくすく成長するからだ。シロちゃんがあの年齢であの背丈だったのは、霊圧が強大すぎるから。彼は長い年月をかけてゆっくり年を取っていくのだろう。
猿柿さんがあの背丈なのは、史実においては義骸に入っていたために加齢していなかったから。もっと早くにあの技術があったら僕も使っていたかもしれないね。
だからこの世界の猿柿さんは、百十年後には普通に女性へと成長しているんじゃないかな。
「そこで目を付けたのが、斬魄刀の魂だった。彼らはまぁ、虚と大差ありませんからね。加齢の概念を持たず、魂魄の耐久限界も持たず、たとえ刀身が折れたとしてもそのままに在り続ける者達。ゆえに僕は己の斬魄刀へと己を溶かし、具象化した斬魄刀の一部、分身として滑川平良を再構築した。……よく死神かどうかを問われますが、感覚の鋭い人にはわかるのでしょうね、その辺が」
「未来を変えるために、ですか」
「はい。元から霊子知覚はかなりあったんですけど、これをやった後はさらにとんでもなくわかるようになりましたね」
「できるようになったことについてはどうでもいいですが。……何を失いましたか」
失ったもの。
それは。
「そんなものありませんよ。死神も斬魄刀も大して変わりません。……まぁ、それでも強いて言うならば」
あれをやる前とやった後で確実に違ったのは。
……この世界を楽しもうという観光気分が消えたこと、かもね。
「僕は本当に過去にいるのだと……実感を得たことでしょう。それはある意味で、未来に属していた己という全てを捨て去ったことではあるのかもしれませんが」
「……そうですか。……はい、治りましたよ」
「ありがとうございます。おや。……なんで傷跡残したんですか?」
微かにだけど、残されている。鏡を見ずともわかる。
「自慢です」
「……? 僕への?」
「いえ。更木剣八と山本総隊長への」
ああ。……確かに悔しがりそう。そして事あるごとに挑んでくる回数が増えそう。千日さんも来そう。
僕は生理的嫌悪のある煽りはしないので、「つまり傷物にされたってことですかぁ~~~?」みたいな煽りはしない。節度を弁えた煽リストなので。……いや煽りもあれだよ。ちゃんと意図があってやってるからね?
「さ、とっとと卍解してください」
「いえ、傷が治ったところで霊力戻ってないんで無理ですよ。さ、とっとと霊力回復させてください」
「……もう一度斬られたい、ということでよろしいでしょうか。霊力が無いことを良いことに、縛道などで縛り付けた上で滅多斬りがお好みとあらば」
「ごめんなさい霊力を回復させてください」
「よろしい」
曳舟さん直伝の霊力回復回道が使用される。……四番隊はもうこれを習い始めているらしいから、救護詰所行ったら誰にでも霊力回復してもらえるような……F1のピットインみたいな感じで一瞬で色々やってもらえたらまた死神の戦闘・運用方法も変わりそうなのになぁ。
「ご迷惑をおかけしました。昔からですが……本当に。本来であればこのような軽口など叩けないほどに……申し訳なく思っていますし、感謝しております」
「おや、なんとも殊勝な……抜身の刀を頸動脈に添えるのはやめましょうね。……あなたの長年の願いを蹴っ飛ばしたのは僕ですからねぇ。こうなることは大体予想ついていましたよ。更木さんといいあなたといい、自分に蓋をするのが大好きなんですかねぇ剣八って」
「それは……刳屋敷隊長への風評被害では?」
「どうですかね。あの人も多分自分に蓋するのが大好きですよ。本当はもっと前へ前へ行きたいだろうに、隊のために待てるあたりが特に」
「……未来では……彼も、死していたのでしたか」
「はい。ただ死因は……以前一騎打ちを望んできていた痣城さんに負けたが故でした」
「……。……この……十刃。今は八刃と名乗っている破面の集団との戦いにおける戦死者は、どれほどだったのでしょうか」
「この戦いでは……あなたたち四番隊が頑張っていたので、そこまで出ていないはずですよ。……隊長格での戦死者は二人だけでしょう」
それも自陣ではない。
市丸ギンと、東仙要なれば。
「本来は……その先の戦いを想定して戦力増強してたんですけどねぇ。……八刃が無視できなくなってしまって」
「先日の始末書、読みました。……あなたと彼で殺したゾマリ・ルルーなる破面と……彼を数回の槍投げで倒したという破面、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク、でしたか」
「ヴの発音良いですねぇ珍しい」
「無視しますが。……あなたから見て、その虚の実力は、どれほどか言えますか?」
ふむ。
「僕換算すると」
「比較にならないので、そうですね。現在の私換算でお願いします」
「……現在の卯ノ花さん換算だと……卯ノ花さん十二人分くらいかなぁ」
「私を高く見ているのか低く見ているのか、結局わかりませんね」
霊圧、射程、威力、機動力。
彼ら彼女らの持つ番号にどれほどの意味があるのかは知らないけど、バラガン・ルイゼンバーン、ザエルアポロ・グランツと続いての三番は、流石に含有する意味が大きそう。
「更木さんが卍解して、ようやく更木さん二人分とかじゃないですかね。彼は成長し続けるので、あくまで現在の、ですけど」
「卍解。……そこまでして、二倍。……ふむ」
「ふむ、とか言っちゃって。更木さんに倒せなかった相手をあなたが……だから刀をとっととしまってくださいってば」
まずい武器を与えてしまった。これではもう治療の際に煽れないじゃないか。
いや煽る方が悪いってそれはそう。
「……話を続け……ようとしましたが、もう回復しきりましたね。本当に霊力容量が少ない様子で」
「だからそのために霊力削減鬼道を作りまくってるんですよ。ようやくわかってくれたようで何より。──卍解」
卍解して、皆尽を消し去れば。
「──罰則期間中である滑川を連れ出して私欲を満たしている四番隊の隊長がいると聞いて駆けつけたが、ここで合っているかの」
「申し訳ございませんでした。少々思うところありまして、話し合いを。お互い
「まぁ、そういうことですね」
「……なんじゃ、その真新しい傷は」
「ですから痛み分けです。八百年かかりましたが──ようやく一太刀、入れさせていただきました」
「そうか。……もう一度刀を取るか、卯ノ花」
「はい。かつて総隊長にいただいた贖罪の日々を、己が欲と勝手な自制によって中断させ、刀をしまい、回道に徹しておりましたが。……此度よりまた、護廷に剣を誓い、贖罪を再開させていただきたく存じ上げます」
「そうか。……良い。己が罪をよく考え、よく励むように」
野箆坊に己を溶かして、観光気分が消えた。史実を紙の中で起きたことだと思わなくなった。人一人をキャラクターだとは思わなくなった。
良いこと尽くめだったのかもしれないけれど──でも、一つだけ。
本当は、失ったものがある。
僕がかつて持っていた私の記憶。その全てが色鮮やかで濃すぎて、僕の薄っぺらい人生はほとんどが消えてしまった。
残っているのは知識の部分だけ。私が束田正幸だったことは思い出せるが、僕が生前誰だったのかはもう思い出せない。
野箆坊の中にいる、見覚えのある装束で、見覚えのある背丈の誰か。
その誰かの顔は、もう覚えていない。その誰かの声も、もう覚えてはいない。
どこにでもいた薄っぺらい人間だったから、まぁ、良いのだろう。
偉かったのは、BLEACHという作品を愛していた点だけだ。それがあったから今僕はこうして……未来へ向かうことができている。
どうでもいい話だ。
今の僕は、滑川平良なのだから。
「戻るぞ、滑川。子供達が待っておる。……随分と人気のようじゃの、滑川槍術指南道場は」
「槍なんか習っても使う機会ないでしょうに、奇特な生徒ばっかりですよねぇ」
「……二枚屋に依頼して、斬魄槍のようなものを作ってもらうべきやもしれんな」
いやうーん。槍って対人は強いけど、虚相手がどうかはわかんないからなぁ。
ということで解散と相成る。卯ノ花さんは四番隊隊舎方面へ、僕らは霊術院方面へ。色んな所に繋がってるからね。
「というか山本総隊長は更木さんと仲直りしたんですか?」
「……互いの意見は、交わし合った。有意義な時間であったとは思おう。じゃが……」
「ジャガー?」
「一番隊に埋めておくからダメじゃと、十一番隊に寄越せなどと言うてきおったゆえ、このひと月が終わった暁には洗練されているじゃろうあやつの剣道の悉くを打ち負かし、儂の正しさを叩き込む予定じゃ」
「あー。……それ小坂井くんに聞かれたりしましたか?」
「小坂井には、聞かれておったじゃろうな。あやつは耳が良い」
彼、熱血だからなぁ。
大方更木さんと結託して……。
「卯ノ花に……刀を取り戻させたか」
「代償に、とうとう斬られちゃいましたけどね」
「嘘を吐け。斬られてやったのじゃろう? おぬしならばどれほど追い詰められていようとも回避をした上で相手を負かすくらいはできたじゃろうに」
「買い被りですね、それは。……それに、己の名を取り戻すための剣を避けるのは……顔の無い者として、ありえませんから」
野箆坊という存在が。
自身を取り戻すために足掻く者へ、手を差し伸べないはずがない。
僕らが驚かすのは、名前と顔をしっかり持った相手のみ。ああいう
「……儂とはやらぬか」
「山本総隊長のは焼けるのがなぁ」
「流刃若火はその辺りにでも投げ捨てておこう。普通の真剣でやるのはどうじゃ」
「流刃若火が嫉妬しますよ。最近の僕がちょーっと槍を使ってるだけで、僕の斬魄刀はすっかり拗ねちゃってるんですから」
僕にしか見えない精神体が「え!?」みたいなリアクションを取った後に顔を振りまくっている。わかってるよ、拗ねてないことは。これは方便ってやつだから。ああ、ぺしぺししないで。嘘吐きが嫌なのは変わらないね昔からね。
「……斬魄刀との対話を、ずっと続けておるようじゃの」
「はい。相棒ですからね」
「儂も……もっと話して、新技をさらに会得するべきじゃろうな」
「僕と僕の斬魄刀は専ら世間話とかしますけどね」
技とか貰ったことないし。
あるの? と聞けば、見えている野箆坊全員が首を傾げた。……だよね。攻撃系じゃないもんね。
「……先程、竹添に会った」
「ああ」
「長年の悩みをあっさりと解決してくれた、と。そう評しておった。……儂とて霊術院へ顔を出して……剣を教えることもあったというのに、あやつめ、儂には悩みなど相談してこなんだ」
「忙しいと思われがちですよ、組織の長は」
「……。……それで、おぬしは斬魄刀との対話の時間を大事にしていたという話を聞いた。妙に言葉を選んでおったから、おぬしが何か余計なことを言ったのじゃろうが」
「濡れ衣ですよぉ」
何を言ったんだろう、竹添さんは。
「対話。斬魄刀との対話の時間を、もっともっと長く取るべきなのやもしれんな。……確かに護廷に入ってしまっては、刃禅を組む時間など一日数時間と無いか」
「ああ、それは良いと思いますね。響河さんが教師になりたいと言っていましたし、それで……斬魄刀の声が聞こえる子も増えるでしょうし」
「……朽木響河か。あれもまた、一皮も二皮も剥けて……。……そうじゃ、銀嶺がおぬしに会いたがっておったぞ。礼を述べたい、と。今は罰則期間中ゆえ後にしろと言っておいたが」
「……銀嶺さんはそれでいいかもですけど、響河さんがちょっと暴走しそうなんで、明日午前休貰って様子を見てきますよ」
「あやつには……余計な世話とも言い切れぬ、少しばかり不安定な性分じゃ。許す、行ってこい」
「はい」
更木さんも、卯ノ花さんも。
余計な世話だとは言ってくるけれど。
どうにも死神は本音を根底に隠しがちなので……こうして聞きに行くのが一番なんだよなぁ、って。
……ひらを、か?