卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
虚無に甘んじて
倦怠に身を委ね
次に 辿り着く
広い空間だった。地下であることが嘘みたいな空間。
ぽつぽつと存在する光源を辿れど、液体めいた闇が淀んでいて見通すことはできない。
緊張から吐いた息が異物となるほどに溜まり、腐敗した空気。思わず口元に手を当てる隊士もいた。
水音がする。けれど、水滴の落ちる音ではなく、どくどくと……周囲の根の中を移動する音だ。
ぶらり、と。
視界の端で何かが揺れる。
……人だ。首吊。……無数の人が、その奇妙な枝にて首を括っている。
ああ、けれど……それはヒトではなく、ヒトガタでしかなかったらしい。
突然苦しむようにもがいて動き出し、ぶちんと
吊るされているのではない。
これは──ヒトガタの生る樹木。命の実るモノ。
「感情移入はするな。精神をやられるぞ」
毅然とした声と共に、今生まれたばかりのヒトガタの首が飛ぶ。
目にもとまらぬ速さで抜刀し、そして納刀したのは、十一番隊第三席の狩能雅忘人だ。
彼の言葉と行動に、はっと我を取り戻した隊士も多くいた。
「……光源ジャナイデスね、アレ。辿っては、行かないヨーニ」
鬼道衆の出向隊士、織柳が警戒した口調で言う。
光っているところ。ぽつぽつと明るい場所。
どうして明るいのかはわからないが、暗闇に慣れてきた各々の目はその輪郭をはっきり捉えることになるだろう。
隙間のある、六種八つの骨。あるいはその知識がなくとも、その小ささでわかるだろう。
あれは、赤子の頭骨だ。
それが、ぼんやりとした灯りとなって、その樹を照らし出している。
樹。樹だろうか。見れば見る程そうは思えなくなる。無数の肉と骨を轢き潰して煉り合せたような質感を持つ幹。捻じり合わされ、引っ張られたような樹皮は大きくひび割れている箇所が幾つもあって、その向こう側には水死体を思わせる青白い人肌らしきものが覗いている。
大きく広がる根と枝は、目で追っていったとしても、どちらが天でどちらが地なのか判然としない。
上の方を呆けて見上げ、半歩下がれば、何かに当たる。ぶつかったものを見ればそれはされこうべだ。ヒトの、頭骨。……否。
「よそ見しちゃだめだよ、みんな」
まさに今生い上がってきた破面葬討部隊を踏みつけて、その首を断つは鳳橋だ。
ようやく全てが見えるようになって、理解するだろう。
上方、枝。
下方、根。生者の足首を掴んででも生まれ出でるヒトガタ。
ここなるは、敵地。
ここにはもう、敵しかいない。
「──各班、事前の訓練通りに動きなさい。特演訓練ト型戊種想定八刃『樹木』。行動開始!」
「ハッ!」
精鋭たちがそれぞれ一班三人の五班に分かれる。それぞれの班に二人鬼道系の斬魄刀持ち、あるいは鬼道を得意とする者がいる。
彼らはそれぞれの方法で生まれ落ちた破面葬討部隊の足を止める。鬼道で凍らせたり、岩で挟んだりと、様々だ。
「破道の十三・水純零。破道の十一・綴雷電。……よし、想定通りだ。こいつらはやっぱりヒトじゃなく、樹寄りだね」
「……成程。いい情報だ。三番隊は、良い訓練をしているようだな」
そんな動きの止まった破面葬討部隊に鬼道の水をかけて、さらに感電させる鳳橋。
そうしたものの首を、直接攻撃系の斬魄刀持ちが易々と手折っていく。呼び水がその身を脆くする。流水の鬼道と雷の鬼道がセットで走り、攻撃を通りやすくする。
ヒトの焼ける臭いがしない、というのも精神的にありがたかったのかもしれない。
ヒトよりも樹木寄りであることがわかってからは、異様な見た目に怯えていた隊士たちも力強く事に当たることができるようになっている。
けれど、敵も……根を蠢かせ、枝を揺らし、さらにさらにと雑兵を産み落としていく。
「──さて、少し待ってみましたが、こちらと会話をするつもりはないようですし、一撃入れてみますか」
ふぅ、と呼気を吐いて、どっしりと構え。
足、腰、捻り、回転を入れた右拳を樹皮へと叩き込む厳原。
それだけでも霊圧による衝撃波が出るくらい……その衝撃波で凍っている破面葬討部隊が砕けるほどの威力であったのだが、さらにそこからじわじわと……否、物凄い速度で石化が進んでいく。
ぼんやりと白く光る赤子の頭骨も、血肉を練り込んだような樹皮も関係なく。
すべてを石化させ……続く二撃目の拳により、この樹木を砕き去った。
「……成程、返事が無いのは無人だったから、ですか」
「そうらしいな。だが、相当な霊圧があった。……この周囲にも、似たような身代わりがあるとすると……少々厄介だな」
「でも、四楓院隊長はここで出会って、名乗られたって話だろ?」
「つまり、本体は樹木の中を移動できる、という可能性が出てきましたね」
「うわぁ、厄介」
厳原は考える。
無限の雑兵を産み落とし得る髑髏樹の破面。その能力は確かにあったが、このような身代わりを作り得るとは言われていなかったし、根から根へと移動できる、ということも記載されていなかった。
やはり少年が知る未来の話以上の強化を受けている。
「あ、でも、全部は繋がってるってことデスヨネ?」
「ええ、その認識で良いと思いますが、織柳さん、何か策が?」
「ハイ。必要になるだろうからと、特殊な改造を施した鬼道式をモラッテマースよ。やっぱり参事官は天才!!」
「どういうものか、予め説明をお願いできますか? ものによっては使用と同時に反撃が来る可能性があります。それと、皆さんどうですか、殲滅状況は」
「この……一体で、最後です!」
「よろしい。では織柳さん、説明を」
「あ、倒シチャッタ。……エット、縛道の二十七・聚光の改造鬼道デ、対象と物理的・霊力的に繋がっている存在の輪郭を白く
なんともまぁ、まさにこの場面を想定していたかのような鬼道だ。
知識だけではない。読みも優れている。
それを思い知らされるし──そうでもなければ、影の世界へ風化の王を誘導することなどできなかっただろう。
厳原は、決して言葉に出すことなく、その感謝を胸中で行う。
「他に、彼の用意した鬼道にどのようなものがあるかの共有をお願いできますか? 申し訳ない、事前に確認しておくべきでしたが」
「イエ、こっちも言い出せなかったのが悪イノデ」
「反省会は後にしろ。奥の方へは俺が見張りをしておいてやるから、共有を受けておくといい」
「ありがとうございます、狩能三席」
敵陣に入ってはいるが、それでも必要なことだった。
厳原含め、その共有を受けた三番隊は準備の良さに何度か呆気にとられ……そして、心の中のどこかにあった不安を消したのだった。
*
雨、波濤、風。
破面葬討部隊のすべてがそれらによって殲滅されていく。
「いや、初めて合わせるとは思えないくらい相性良いねぇキミたち……」
「出番無くて暇くらい言っていいとは思うがな、京楽」
「あはは……。……うん、やっぱり西紀さんはそう来てくれた方がやりやすいよ。京楽隊長とか、なんか違和感凄かったし……」
「何言ってやがる。アタシはどこまで行っても隊長代理だったんだ、最終階級で言えばお前らの方が上だろう。やっぱり京楽隊長浮竹隊長呼びに変えるか?」
「よ、よしてほしいかな……」
斬魄刀が元素系ではないために参加できないでいるのが京楽と西紀である。
仕事をしていないというわけではないのだが、あっちの三人の勢いが強すぎるという話だ。
王途川雨緒紀は言わずもがな、雨を操るその斬魄刀の攻撃力、そして殲滅範囲を知らぬ者など尸魂界にはいないだろう。
鹿取抜雲斎の斬魄刀はまだ知名度が無いが、鋭く敵を切り裂く風もまた、広い殲滅範囲を有している。隊を押し上げる追い風も彼女が操っているのだから、そこで楽のできている者もいるだろう。
そして仲間を助けたいという破面。彼女もまた流水を操るらしく、大量の水による力強い波濤や、かなりの切断力を有する放水にて敵を殲滅している。
この元素殲滅三存在の前では、斬魄刀でちまちま倒したところで、という力の差さえ感じてしまう隊士も多いだろう。
「……馬鹿言っとる暇ないで。奴さん、出てきたみたいや」
「ン。……王途川隊長!」
「わかっている。京楽隊長、鹿取副隊長。どうか無事で。……無論、鹿取副隊長においては、存分に暴れてくるように、という言葉をかけた方が良いであるな」
「うん! 拠点では善定寺君が頑張ったみたいだし、わたしもそろそろ見せつけないとね」
「良い言葉だ。──ハリベル殿!」
「ああ、こっちだ。……それと、死神たち。アレは確かに私の仲間の四肢にて作られているが、そこを考慮する必要はない。初めから気にしてはいないだろうがな。──さらばだ」
離れていく十番隊を見送って。
残された八番隊は──京楽は、ニィ、と口角を上げる。
「それじゃあやっちゃおうか、みんな! 八番隊ってあんまりこういうの呼ばれないからね──死なないようにだけじゃなく怪我もしないように、それでいて、力を存分に発揮して終わらせよう。帰ったらボクがご飯を奢ってあげるからね」
「当たり前や。なんのために貴族として生まれてきとんねん。うちらにたらふく食わせるためやろ」
「い、いや違うけど……」
「反論は聞いとらんねん。──潰せ、鉄漿蜻蛉」
「あらまぁ、なんだかやる気じゃない? リサちゃん。──唆せ、夢喰妖鬼」
「るっさいわ乳デカお化け。馬鹿言ってないで行くで。左端!」
「わ、わ、お二人とも待ってくださいよぉ!
吼え声を上げて出てきたのは、アヨン・ディスピエルト。初めから四体いる。
その内の左端の個体へと向かっていくのは、八番隊の三、四、五席の三人だ。三席、矢胴丸リサ。四席、白鳥華代。五席、美土里紫陽花。
彼女らがそっちへ行ったのを見て、鹿取は……舌なめずりをする。
「京楽くん、右端ね。隊士の子達と上手くやって」
「そうなると、二体になっちゃうけど……」
「うん。二体貰っちゃう」
強風が吹く。突風が吹く。
普段のにこにことした彼女は既にいない。
その目を輝かせて、喜色をたっぷりに浮かべて。
「あははっ……久しぶりに……アガってきちゃったかも! 打ち明けろ、剖雲!」
鹿取抜雲斎。
妖刀によって戦闘狂にならざるを得なかった、というような
彼女自身がよく言っていたように、当時も卍解時が本来の性格である。始解までは妖刀の殺意を抑えるために静かで人の話を聞かない人格になっていたけれど、本来は──そう、本来は。
「さぁ、やろうか、剖雲。抜雲にできたことは、キミもできるはずだよ。なんせ斬魄刀っていうのは死神の写し鏡なんだからさ」
強風が吹く。突風が吹く。暴風が吹く。
京楽の「ちょ、ちょっと鹿取ちゃ──」という声など聞こえてはいない。もう、彼方にまで飛んでいる。
「──!!」
言葉にならぬ声を上げて拳を入れたアヨン。その右腕が、肩口から
「!?」
「あれぇ? 驚くんだねぇ。怯むんだねぇ。知能が無いっていうから、そういうこともできないと思っていたけれど──」
空を見上げれば、そこに、渦が出来ていることに気付けるだろうか。
雲など無いのに、砂を巻き上げた突風が──そこに、渦の目を思わせるものを作り上げている。
剖雲。風を操る斬魄刀は攻撃力の低さが問題であると議論されることも多々あるけれど。
「──だったら、キミは、ヒトとおんなじ。……天災を前に、呆けて、仰ぎ見るしかできない矮小な存在だよ」
腕を奪われたアヨンが何か、反撃をする前に。
斬られて、巻き取られて、消し飛ばされて、消し潰されて。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
命を、奪う。
うっとりとした顔で──生命を貪り食う。
「──
さて、と。
もう一体のアヨンを視界に収める鹿取。
「……──!!」
「あはっ、奮起するんだ! じゃあキミは戦士なのかも! 怖いものを見て、恐ろしいものを見て、その恐怖を克服できるのは凄いことだよ、偉い偉い! ──でも、偉いだけだねぇ」
流れるように刀が振られる。
アヨン・ディスピエルト。愛川の腕を小枝のように折ったその存在の頭蓋に、ざく、と刀を突き刺して。
中の脳髄をぐちゃぐちゃと掻き回して。
ゆっくりと刀を持ち上げれば……何の抵抗もなく泣き別れる首と胴と、四肢を切り裂かれて倒れるその図体。
鹿取はその、持ち上げた頭蓋に……だらりと、長く、艶めかしいほどに唾液の乗った舌を伸ばして──。
「すまん鹿取、そっち行きよった!」
「……もう、毎回毎回お預けくらうなぁ」
すぐに頭蓋を切り捨てて、声のした方を振り返る。
そこには丁度、砂塵の竜巻を突き破って現れたアヨンが居て。
──そのアヨンに一瞬のブレが生じたかと思えば、あらゆる方向から斬り刻まれて細切れとなる。
「……うーん。
やがて……砂の竜巻が晴れると。
京楽及び六席以降の隊士たちでも無事に倒せたらしいアヨンが沈みゆくところだった。
「ああ! 倒してもうたんかソレ! 引き留められへんかったのは悪いけど、うちらの獲物やそいつは!」
「えー。狩るの遅い方が悪いよー。──というかさ」
拳。巨大にして巨怪。速度と重さの乗ったその拳は、文句を垂れていた矢胴丸の頭蓋をくしゃりと潰し、彼女を殴り飛ばした。
という風に、アヨンでさえも思った。
「わたしと京楽くんが楽々倒しちゃってるせいで実感できてないかもだけど、そういうこと言ってられる相手じゃないよー?」
「……すまんかった」
「うんうん、謝れるのは偉いねー」
「ちょっと鹿取ちゃん、今の隠密歩法じゃないのぉ? なんで使えるのさ、キミ」
「千日くんから習ったんだぁ。便利だよ、隠密歩法」
隠密歩法、"四楓"の壱、
身代わりを置かないために視覚的な偽装効果は少ないが、相手に触れている時間が比較的長いため、その身体に確かな感触を返すよう調整された歩法だ。
普通に門外不出な技術ではあるのだが、あの少年を中核とする集団は「便利な技術を門外不出にする理由がわからない」という派閥であるために、こういうものは広く共有されている。
そうしてアヨンの一撃から逃した矢胴丸を放り投げて、再度現れた四体……その内の、今拳を突き出した姿にあるアヨンを通りすぎる鹿取。
それが、細切れになって。
残りの三体はもう、鹿取しか見えていない様子だった。
「ありゃりゃ、もうこっちに敵意惹きつけるのは無理だね。それじゃ作戦変更だ。ボクらは周りの雑魚を鹿取ちゃんに近づけないようにしよう。近付いたら鹿取ちゃんの竜巻でズタズタにされかねないし……」
「ひっどーい! 味方を斬ったりしないよわたしー!」
「うんうんでも味方のボクにすんごい量の砂がかかっててとてもじゃないけど近づけないんだけどそれは許してくれるかなぁ」
「……それは……ちゃんとごめんなさい」
妖刀「抜雲」は、確かに高い切れ味を有していたけれど。
切れ味程度でザエルアポロ・グランツの霊圧防御が抜けるのであれば、誰もが切れ味の良いだけの刃物を使ったことだろう。
彼女の技術が多分に含まれていたからこその細切れだ。それを可能としていた彼女にとって、アヨンの鋼皮など柔らかいと表現できるものでしかない。
時間をかけても斬り得なかったものなど、あの少年だけだ。
「さぁ、……いくらでも出てきて。いくらでも、切り裂いてあげるから」
鹿取抜雲斎。彼女は別に、あの少年を斬ろうとは思わない。彼女は別に、誰かを切り裂きたいとは思っていない。
だって彼女が好きなのは、命を奪うことだから。
あの少年の命を奪いたいとは思っていないのだから、斬りたいだなんて、そんなそんな。
なんて。舌を出すのは胸中だけで。
妖艶な微笑みと共に。
護廷十三隊初代全隊長格における「最大の突破力」とも謳われた八番隊元隊長による殺戮が、始まった。
*
場面変わって、虚夜宮一階。
夜一が示した地点に、十三番隊は辿り着いていた。
広々とある空間の中央に座しているのは、海老茶色の塊。
報告で見た通り、無数の触手で造られているかのような頭部に、地面へと広げられた十六本の触腕が、よりこの存在をタコ……ないしは頭足類に見せている。
ただし、到着した十三番隊には興味すら向けていないようであった。
「隊長、どうしますか?」
「何もしてきていないのなら待機で良いだろう。俺達の目的に触れない限りは平和的に行くべきだ」
「了解」
十三番隊を含め、三番隊以外の隊の目的は時間稼ぎである。
そのため、動かない敵を無暗に刺激する必要はない。
ゆえに……そこへ陣でも張ろうと考えた直後のことであった。
「浮竹隊長、解放しておくんない。上空へ剣突き出して。虎徹、全員に網かけ。その他全員最大防御! 上空!!」
「波悉く我が盾となれ 雷悉く我が刃となれ、双魚理!」
「接ぎ合わせ、
それがどういう理由なのか、というのを問う者はいない。
三番隊と同じく連係行動を心がけている十三番隊は、「誰かがその場で編み出した全員行動」の意図を問わない。
それがその場で最も適した行動であると理解しているがゆえに。
解放し、二刀一対の形を成した浮竹の斬魄刀。同じく解放し、大きめの編み棒のような形状に変化する虎徹朱音の斬魄刀。
直後。
──
屋内であるというのに、建物の一切を破壊することなく──極光の柱が十三番隊を襲う。
その上で、その全てを吸収し、あわよくば、というように壁のどこかへ穴を空けにかかるは浮竹である。
双魚理。二刀に分かたれた斬魄刀。刃先で霊力攻撃の一切を吸収し、もう片方の刃先から放出する能力を持つ。
──
しかし、極光はそれだけに収まらなかった。
柱というには規模が小さいものの──無数としか言いようのない
「はいはいはいはい! 天手古舞だねぇ! けれど全部編みとっていくから、各々処理を頼んだよ!」
「任せな、婆ちゃん!」
「いや毎度思うけど……正直意味が分からん。霊力を織物にして無力化するって……どういうことなんだ、ほんと」
「言っちゃなんだけど、初代隊長たちに近しい死神ほどなんつーか概念的っつーか理不尽な始解持ってる場合が多いよなー」
形成された網。そこを伝う、雷を帯びた虚閃……虚閃であったもの。それを自分たちの鬼道で包んで無力化処理をしていく十三番隊隊士たち。
虎徹朱音曰く、昔お友達だったスタラちゃんに教わった技であるらしいのだが、どこまでが本当の話なのかは謎である。同じような能力を持つ斬魄刀ということでお友達になっただのなんだの。
「くっ、これほどの威力をこれほどに吐き出して……止まる気配が無い! どういう霊力量なんだ……!?」
「ちょっと失敗したかもしれん。伝令神機に来とった長射程砲といいこれとええ、もしかしたらとんでもない範囲が支配下にあるのかもしれんやんな」
これを行っている下手人は割れている。
彼が固定砲台と化している場合、その技は遠距離にしか使えないものと
屋内にも、建物を傷つけることなく虚閃を降らせることができるということは、実質どこへでも……誰のところにもこの超威力を吐き出し得る、ということだ。
防ぎ得るのは隊長格だけ。虎徹朱音は七席だが、卍解習得者だ。隊長格に含める。その上で……それ以外が無理となると。
「あー。申します申しますは、卯ノ花クン? わぁ、そう怒らんといてくれや。ちょっと緊急事態なんで、虚閃吐き出しまくっとる四番の破面どうにかしてきてくれん? 四番隊としての矜持とか、僕が此処にいる時点でやと思わん?」
志島が連絡を取ったのは卯ノ花であるらしく──そして何も聞こえてこないのに、怒気のようなものが漏れ出でているような錯覚に陥る隊士たち。
「えぇ~。折角剣取ったんに、それでええの? というかちょっと不満なんやけど。僕がおらんようになった四番隊、がっつり攻撃できるの千日君だけになってしもてるじゃんか。治癒特化はそれでもええけど、戦闘の一切をしやんでええ隊になってしもたのは思うとこあるんやんなー」
とか。
「それって卯ノ花クンが自分に戒めかけて刀を握らんだせいやんな? そのせいで、まるで刀を握らんでええ隊みたいになってしもて、新しい格闘術こそ流行っとるみたいだけど、斬魄刀戦闘せんと何が死神やに、みたいなとこあるし。千日くんも常々言うとるじゃんか、倦憊以外も鍛えろって。それが中々実行されやんのは卯ノ花クンがそういう態度取っとるでなんやない?」
とか。
ネチネチネチネチとこの短時間に小言という小言を積み上げ──。
「あ、切られてもうたわ」
「だ……大丈夫なのか?」
「なにが?」
「四番隊は治癒の要だろう。卯ノ花隊長が斃れるようなことがあったら、この作戦の腰が折れかねない」
「いや、ナイナイ。卯ノ花が斃れるとかあり得ん」
そして、志島と卯ノ花の通信が切れた、数瞬後。
戦闘圏内に、深海が如き霊圧が現れたのを、誰もが検知したことだろう。
誰もが暗い水辺に立つ小面顔の女性を幻視したかもしれない。
それと同じくして虚閃の雨も止まり。
「……だ、大丈夫なのか、志島」
「な……なにが?」
「件の破面を斬ったあと……勢い余って、お前を殺しに来るんじゃないかと思うほどの霊圧と殺気だったぞ」
「だ、大丈夫大丈夫。死神のことはもう斬らへんやろし。はは……」
遥か高空にて衝突の始まった霊圧の鋭さに冷や汗を垂らしながら。
これほどのことがあっても微動だにしない『屋内の頭足類』に対し、警戒をしつつ……改めて陣の形成を行う十三番隊であった。
*
嫌な奴からの
「清之介。救護詰所のことは任せます」
「はい。それは構いませんが……どちらへ?」
「敵の主力砲を落としに。昔の上司から、嫌味ったらしい口調での催促がありましたので……最速で仕留めて戻ってまいります。それまで」
「わかりました。ちなみにお聞きしますが、最速で仕留めるのは敵の主力砲ですか? それとも嫌味ったらしい上司ですか?」
ゆっくりと……その問いをした山田清之介へ振り返り、笑う卯ノ花。
「初めて……あなたと言葉を交わせた気がします。……それでは」
瞬歩。それによりその場から消え、高速で高空へ駆けあがっていく卯ノ花。
先程から凄まじい霊圧を吐き出している存在は、虚夜宮という巨大な建物の、最上階にいる。
上階にて未だ決着のつかぬ争いをしている二人を視界にも収めずに通りすぎて、一直線にそこへ向かう最中、卯ノ花の隣に影が現れた。
「……なんですか、四楓院四席」
「オレも混ぜろよー」
「あなたの火力ではどうにもならないでしょう。打撃力を上げるだけの卍解で何ができますか」
「できることはあるよ。どうにも破面連中、技術ってモンをそいつの固有能力だって考えがちだからな。あいつの切り札やら騙し討ちに使いたいであろうものをオレが先に使って見せておくことで、隠れ蓑として機能する」
「……敵と彼が、正面切ってぶつかる事態は避けるべきだと思いますが」
「オレもそう思う。だが、あいつはやるよ。必要とか必要じゃないとか、べきとかべきでないとか、そういうのは関係ない。あいつの進む道は、最も障害の多く、最も壁の厚く、最も険しい道だ。敵が強大であるのなら、必ずあいつが出てくる。出てくる事態になる。……だったらせめて、オレたちは……あいつにやってもらった分くらいは、お膳立てってのをしてやらなきゃ……嘘ってもんだろ」
言葉に、雰囲気に。
卯ノ花は……その、深海のような殺気を、少しだけ緩める。
「ずっと探していました。あなたと彼の関係性に相応しい名を。あなたがたは友人と呼ぶには些か遠く、それでいて近い……特にあなた側からの執着が大きい。この関係性を一言で表し得る言葉を」
「……んだよ。番犬ってか? オレはよくあいつに猫と言われるが」
「──兄弟でしょう。出来の良い弟を持って、けれど常に兄であろうとし、そして弟を慈しむもの。……そう見えますよ」
「……。……ヘん、出来の悪い兄で悪かったな。けど、成程。……面白ぇ。一応オレには実の兄弟ってモンもいるんだが、そいつらは家族の愛とか無い、四楓院家を成り立たせるための機構になっちまって久しい。ほとんど死んでるしな。……だから、オレの兄としての愛情ってのは、注がれることなく宙に浮いていたと思ったんだが」
獰猛な笑みがあった。眠れる獅子を叩き起こしたかのような横顔。
昔々の、二番隊隊長になる前の顔。
「弟の道を付けてやる。そのためにつけた力だろ、これは」
「ええ、その顔のあなたであれば、同行を許します。互いに回道使いなれば、この戦いでどのような傷を負おうとも、気にせずとも良いでしょう。戦いが終わった時に死にかけていたら、まぁ、治してあげますが」
「馬鹿言え。そろそろ左腕も治さねえと、あいつ、バツの悪そうな顔しやがるからよ。そこに他の四肢失ってくっつけられました、なんて言いに行けるかよ」
軽口はここまでだ。
見えてくる。卯ノ花のそれと同じく──水の下にいるのではないかと思うほどの閉塞感を与えてくる霊圧。その持ち主が。
石の玉座。そこに、無表情の男が座っていた。
「……二人か。……
「四番隊隊長、卯ノ花烈」
「同隊四席、四楓院千日」
簡潔。必要なものを必要なだけ。
無駄を嫌い、ただ──結果だけを求める。
「良い。そう在れ。──鎖せ、
「
始まりの合図など存在しない。
お前は解放をしないのか、という目線が彼女へ向けられた時にはもう、その首へ刀を当てていた。
「!」
袈裟懸けに入る絶死の斬撃。
首と、心臓と、主要臓器を断ち切り、骨に邪魔されない太刀筋。
「……特演、リの庚」
「硬ぇな。──卍解、
斬撃は……肌を浅く切るに終わる。
鋼皮だ。それも、極めて硬いもの。
これを受け、千日が卍解をする。始解であった腕甲に、いくらかの装飾がついただけに見えるその卍解を。
「卍解……それが」
「なんだ、初めて見るか」
「昔、遠方より見た、炎と水の卍解に比べ……あまりにも矮小だと思っただけだ。取るに足らないゴミにしか思えん」
「まぁそうだな。オレのは他の奴らに比べて変化に乏しい。だが、この卍解は歴代卍解の中で最も効率的と言われていてよ」
「効率的だと、なんだ」
「つまり、普通の奴ならバテちまう戦い方もできるのさ。隠密歩法、"四楓"の仟。捕脚」
千日がウルキオラに組み付く。脚をその身に絡ませて──。
「
その腕甲による、目にも留まらぬ連続打撃が始まった。
一撃一撃が卍解戦力に相当する威力を持ちながら、その攻撃を数千万回叩き込む。
通常、卍解というのは解放するだけでもかなりの霊力を消費するし、その状態で行う技というのは、ものによれば卍解状態を解除してしまうほどの消費霊力を誇る。無論、その分威力も高いのだが。
卍解、
その、「それだけである卍解」について、件の少年へ相談していた千日。四楓院家の卍解はどれもこれもあまりぱっとせず、本人の力で戦った方が強いものばかりであると言われている。しかし、だ。
伸びしろが少なかろうと、強い本人が多少なりとも強くなった卍解を揮えたら、最終的にはそっちの方が強いだろう、というのが千日と少年の結論である。
ゆえに千日は、少年がやっていた卍解に関する消費霊力の削減訓練を限界まで突き詰めたし、その上でこの卍解の可能性を模索し、使い道を探した。
結果として──少年の類稀なる観察眼は、この卍解の別の可能性を探し当てた。
「泡の……音?」
卍解の打撃力を以てしてもウルキオラの鋼皮を抜くには至らない。脚で組み付かれてはいるが、行動に支障が無いために振りほどきもしていなかったウルキオラは──それを聞く。
こぽこぽという、気泡の上がってくるような音を。
それの正体がなんであれ、これ以上を続けさせる理由は無いと、己に組み付いている千日の腹へ向けて虚閃を発射するウルキオラ。
しかし──雲散霧消する。霊圧防御すら大したことがないように見える千日の身体は、帰刃状態のウルキオラの虚閃を完全に弾いてみせた。
「なんだと……」
説明どころか会話すらする気の無いらしい千日。
激しく沸き立つように気泡音を響かせ始める謎の現象も含め、なんとしてでもこいつを剥がさねばならないと、彼がその大きな翼を広げた時だった。
気付く。初めに彼の肌を傷つけた女がいない。
けれど、どこにいるかはすぐにわかった。
「後ろ──」
「遅い」
三度の斬撃。反応は間に合わなかった。
それにより斬り飛ばされる左右の翼。首に来ていた斬撃は、その鋼皮を抜くに至らなかったどころか、仲間である千日にも当たっていて。
「効かねえよ、へなちょこ斬撃」
けれど、彼は無傷だった。
今なおウルキオラに組み付いて、打撃を与え続けている。
「……どういうことだ。先程の虚閃も、今の斬撃も……貴様のようなゴミが防ぎ得る威力ではない」
言いながら翼を超速再生するウルキオラ。
それが、再度、斬り落とされる。
「っ……」
「どういうこと、だぁ? ははっ、言うわけねぇだろ。なんで敵に説明しなきゃならねぇんだ。──まぁ、オレを剥がせたら教えてやってもいいぜ」
「……どうして、笑っている?」
「ア?」
千日に組み付かれたまま大きく跳躍し、再度超速再生するウルキオラ。
「んなもん、楽しいからに決まってんだろ」
「楽しい。……楽しいとはなんだ、死神」
「はン、他の虚にでも習えよ、そんなことは。そら、そろそろ出来上がるぜ」
嗤う、愉う。
四番隊四席。あるいは二番隊隊長だった頃の……「責任を自覚した」彼の姿は、鳴りを潜めている。
ここにいるのは、小さな小さな修羅なれば。
そうして、打撃が終了する。
ウルキオラを蹴って、千日が離れていく。
結局なにも起きなかったことへの侮蔑の視線を向ける……などということはない。
聞こえている。理解している。
超高速で攻撃され続けていたがゆえに、ウルキオラの周囲にあった霊子はその悉くが逃げていた。霊圧が下がっていた。
それが終了したこと。これによって発生するは、大気霊圧の急激な上昇。空間膜構成霊子にも似た泡を形成していた霊子が完全消滅することで、霊子同士が激しく衝突し、極めて高い威力の衝撃波が生まれる。その泡の数分……ウルキオラの周囲の全てで、だ。
霊力のキャビテーション。鋼皮の周囲で発生するのは、あるいは霊力のマイクロジェットやもしれない。
鎧通しによって充分に叩かれ、耐久度を幾らか下げたウルキオラの「鋼皮の下」に──数十億もの超威力衝撃波が浸透してくる。
卍解の持つ打撃力など比ではない。これこそがその卍解の新たな使い方であり、そしてここまでのことをやって尚、四楓院千日は数回深呼吸すれば回復する程度の霊力しか消費していない。
直接攻撃系最高効率の卍解。本人の努力により、その領域をこじ開けた結果といえる。
無限にも思える衝撃の連鎖はウルキオラの鋼皮の悉くを砕いていく。どこかへ逃げるということもできない。翼も脚も、全てが砕かれていくのだから。
──その、隙を。
彼女は決して逃さなかった。
横一文字の一閃。
それにより──今度こそ本当に、ウルキオラの首が飛ぶ。
叩かれて柔らかくなった肉を斬り落として。
「避けろ、卯ノ花ァ!!」
「!?」
その、雷撃の槍に──身体を貫かれた。
「……ザエルアポロの作った人形の俺を圧倒して良い気分とは、おめでたい奴らだな」
「良い気分とは、面白いことを仰いますね」
「……なに?」
翼をはためかせて現れるは、五体満足……否、本物のウルキオラ・シファー。
空も飛び得ぬ矮小なる水棲生物を見下ろして、そう言葉を吐き捨てたウルキオラの背後。
立っている。今しがた腹を貫かれたはずの鬼女が、ゆらりと。
振り返れば……確かに、その女の腹には大穴が空いているのに。
そこに当たる緑の光が、
「死神も……超速再生を、するのか」
「いいえ、これは回道という技術ですよ」
「技術。つまり、誰しもが行い得ることである、と?」
「ええ。私と彼は四番隊。人より
「……そうか。ならば、これ以上を相手にするのは無駄だな」
響転により距離を取って、その大きな翼でさらに高みへと昇っていくウルキオラ。
逃げた、とは思えない。
事実──霊圧が、先程のものでさえ閉塞感のある霊圧だったのに、それさえも凌駕する霊圧が放たれ始めている。
「大丈夫か、卯ノ花」
「ええ。……ですが、これは」
空を見上げる二人の目に映ったのは、この夜の世界に似つかわしくない光。
鹿取が巻き上げていた砂の渦雲も、王途川が残していった雨も、すべてを消し飛ばし、吹き飛ばして現れるは──青緑色の球体。
──
それは正しく第三の月であろう。虚圏に浮かぶ反転したそれを第二の月と呼ぶのなら。
それは正しく第三の択であろう。漏れ出でる雷撃が如き虚閃が、敵味方を問わず叩き始めたのなら。
それは正しく──その場にいた隊長格全員に、一時撤退を判断させるほどの暴虐であった。
ゆっくりと。
それが。
地へ──落とされる。
「──卯ノ花、四楓院! 俺を打ち上げろ!!」
その瞬間、虚夜宮上階から駆けあがってきた影があった。
刳屋敷剣八だ。
すぐに意図を理解し、最上階の最も高いところに陣取る二人。
瞬歩を使わずに走力だけで上がってきた彼を、まずは卯ノ花が刀の腹にて打ち上げる。さらにそれを千日が思いっきり殴り飛ばし──。
青白い球体。人一人が挑むには大きすぎる暴虐。
墜ちゆく第三の月を前に。
「──卍解、餓樂廻廊──」
月食みの蛇頭が、その大顎を開いた。
誰も巻き込まない高度。水平方向に何も無いことを確認しきった彼による、久方振りの全力の卍解行使。
その範囲面積は、一万三千方里*1にまで至る。一般的な天相従臨の効果範囲が四方三里、つまり九方里であることを考えれば、この卍解の全力使用がどれほどまでに危険であるかなど、語るまでもないだろう。
「……!」
この大顎が、第三の月を噛み砕く。噛み砕かんとする。
「──ぐ、霊力の……塊の癖に、なんて硬さだよ……!!」
「貴様は、強者だ。認めてやる。──だが、月食みは月を食い尽くせはしない」
脈動と共に、一回り大きくなる球体。否、さらに倍、さらに倍と大きくなるそれを。
「始併装ができんなら──こっちだって、できんだろ……! ──滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器!!」
顎は緩まない。噛み砕く。噛み砕かんとする。
本来であれば現れて噛み砕いて、その後すぐに消える卍解を──維持して。
その状態で、鬼道の詠唱を開始する刳屋敷。
だが。
「っ、ぶっつけ本番は無理か! 頼む、誰でも良い! あれから霊力を奪え!」
「──適任者を連れてきたで、もうちょい頑張ってな、刳屋敷君」
何かが上手くいかなかったのだろう、鬼道を中断し、卍解の維持に全力を注ぐことへ切り替える刳屋敷。
彼の頼みに呼応するかのように……否、彼が頼みをするよりも早い段階で、その人影が光球へと向かっていった。
志島知霧と、浮竹十四郎である。
「行けるな、浮竹隊長」
「やるだけやるさ。だが、どこへ逃がす」
「虎徹や。今まで通り。上空へ逃がせばあの虚、多分再利用してくるでな」
「無理だ、この規模は扱いきれないだろう」
「舐めたらアカンよ浮竹隊長。僕が隊長やってた頃、虎徹は第三席やったけど、その時点で卍解習得してたんやに。副隊長の中じゃ、鹿取さえも抜いて……卍解の習熟度が高いんや。諦めんと、見限らんと、信じてみぃ。僕もおるでな」
「……わかった」
浮竹が打ち上げられる。餓樂廻廊の顎の内側、光球の下半分へ──双魚理を突き刺して。
既に虎徹を背負い、遠い場所にまで瞬歩で移動していた志島が「こっちや!」と叫んだそこへ、放出を開始する。
顎が少し進む。万物を噛み砕く顎が。
「卍解──
一瞬でも曝されたのなら壊滅的なダメージを負うであろう虚閃の奔流を、卍解した虎徹朱音が巻き取っていく。始解を大きくしただけに見える形状の斬魄刀は、本来霊圧差で通ってしまうだろう威力の一切を殺しているように見えた。
その糸を用い、高速で編んでいくのはヒトガタ──わら人形のようなもの。
やがて一体が完成する。虚圏の砂漠へ降り立つ、虚閃で編まれたわら人形。
「回道裏番・倦憊。ほら、まだまだやれるに」
「老婆遣いが荒いねぇ。……十四郎ちゃん! 気にせず全部寄越しなよ! 大丈夫、ちょっと怖いかもだけど、この子達は──」
わら人形は……破面葬討部隊を、あるいは上空のライム・バックに手を伸ばし、それを喰らうようにして己の体内へ埋めていく。
「もう、私達のお友達だからねぇ」
四番隊らしさの欠片もない卍解。かつては王途川雨緒紀の代わりに十番隊隊長をしないか、とも誘われたというその霊圧で行う卍解は、浮竹十四郎の双魚理と合わさることで、敵の霊力砲の完全なる従属を可能とする。
浮竹がそのまま撃ち出すも良し、虎徹に合わせて予備戦力とするも良しだ。
さぁ──これで、顎が進む。ぐ、ぐ、ぐと。
第三の月を、噛み砕く。
その寸前で、志島が浮竹を顎の内側から逃がしている。どうなるかわからない以上はそうしない方が良い、というのが志島の持論であれば。
「さては最高だな、アンタ! 一緒に隊長をやってみたかったぜ!」
「僕の斬魄刀、解号を"補え"、いうてな。こういうの得意なんに」
「ああ──此処までしてもらったんなら、充分だ!!」
噛み砕く。噛み砕く。
月を殺す、口だけのモノ。
ガチン、と大きく音が鳴って──それが成功したことを周囲に伝えた。
砕かれた霊力は四方八方へ飛び散り、雲散霧消する。
「……。……チッ、霊圧を込めすぎたか。……二発目は、無理だな」
使ったが最後、半年は使えなくなる卍解を無理矢理に維持したからか、霊圧を十分の一ほどにまで下げて落下する刳屋敷。
それを支えるのは千日である。また、膨大な量の霊力を扱ったことで霊圧に翳りを見せている浮竹を回収した志島がそこに加わり、戦線を一時離脱する。
「虎徹、味方は巻き込まんように」
「誰に言ってんだい。知霧、あんたそんなに疲れてないんだから、早ぅ戻ってきんしゃい。わかったね」
「わかっとるに」
終わらない。まだ終わらない。
全滅必至の攻撃を退けただけだ。
戦場は一つたりとて停滞せずに、再度熾烈なる戦いを再開する──。