卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
塵も積もれば
吹けば飛ぶ
枯れ木も山の
長物
それは、雷が如き虚閃と煌々と燃える業火が「食い合い」を行っている時のことだった。
周囲、無数、無数、無数にいるライム・バックの全てが突然に動きを止めたのである。
「なんじゃ。また奇策かの」
「……どうした」
ピタリと停止して。
ゴキゴキと、異音を立てて──そして、その全ての頭部が弾け飛んだ。
「……!」
戦場を満たすは煙と破片。ライム・バックだったもの。
──そして、それを突き抜けてくる超高速の人影。
「遅い──」
けれど、ウルキオラは完璧に対応してみせた。到達点に来たソレ──滑川平良を雷霆の槍の穂先に捉える。捉えたつもりだった。
「残念」
声を、聴く。
「向いとる左右が逆や」
「一本目」
槍は空を切る。そして、槍を振った方向とは逆の脇腹に、ちくりとした痛みを覚えるウルキオラ。
まるでそこから見えない鎖が伸びているような感覚。
「二本目」
「なめるな──」
じゅるりと移動する影を、今度は認識が逆さになっている前提で刺し貫こうとする。
けれど。
「惜しいなァ破面。上下も逆やねん」
また何かに鋼皮を突き破られた。霊圧を潜り抜けて、魂魄に鎖が繋がる。
「虚閃」
なればと、すべてをカバーし得る極大の虚閃にて影を消し飛ばせば。
「スマンなァ、言い忘れとったけど前後も逆やし──」
「
だとすれば、全方位への虚閃なれば、付け入る隙は無いだろうと──。
「あんましわからんと思うけど、内外も逆やねん」
「三本目。──発動、『縁苦世の結杭』」
傷を受けた箇所から鎖が伸びる。
これが何を意味するのか。それを理解するのに長い時は必要ない。
ウルキオラは鎖されゆく結界の中で、さらに上の解放を行うために霊力を高め──そこに入ってくる腕を見た。
「卍解──」
無に帰す。虚無に還る。
その身を形作る霊力の全てが無の状態にまで戻る。
虚無を捨てた倦怠が、そこに見出したのだ。
貌の無き者。貌すら無いモノ。
あれこそが──真の。
*
一息を吐く。
「……封印、成功」
「やな」
ライム・バックの中継装置がどこかにあるはずだと思って虚夜宮内部を探していたんだけど、見つけたそこに大きな窓があって、そこで初めて僕は彼を……ウルキオラ・シファーを認めた。
資料にもあった。崩玉の適合率が最も高かった個体がバラガン・ルイゼンバーンで、次点がウルキオラ・シファー。その次がネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクであった、と。
だから……護廷の皆が善戦しているようではあった、押せ押せのムードを一旦途切れさせてまで、彼の封印を強行したのだ。
弱らせる必要はない。結杭で「斬り方」を実践すれば、どんな破面でも封印できる。
問題はウルキオラ・シファーの速力が僕のソレを大きく上回っていることだったけど、そこを平子さんとのコンビネーションで解決した。やっぱ初見の相手に強すぎるよ逆撫。
ただし、三本封印が限界だった。この規模の霊圧はできれば五本封印までしたかったんだけど……運命を辿るのならば、百年後に封印が解けかねない。即ちイッチーが己の運命を辿るタイミングで、だ。
白けた空気は理解しているけれど、ここしか無かった。作戦に水を差すことは理解していたけれど、これ以上強くなられると、封印するまでにどれほどの被害が出ていたことか、というレベル。
だって第二階層になる前から雷霆の槍やその亜種を使っていたんだよ、彼。
「──滑川」
「ちょお待ち。今回のはほぼゼンブオレの手柄や。こいつに指示したんオレやし」
「庇わずとも、叱るつもりなど無い」
「別に叱られそーやから言うたんと違うで。虚夜宮内で此奴らに関する研究記録見つけて、そこから推測される戦闘力を考えて、本気出されると今の護廷やと太刀打ちできなそうっていうんがわかったから、そーなる前に封印しただけのこと。そない怖い顔される理由がわからんわ」
明らかに庇ってくれているけれど……この顔は、怖い顔じゃないと思う。
「大丈夫ですよぉ、平子さん。……そして、山本総隊長。仰りたいことは理解した上で……僕なりに自己評価をして、わかったことが一つあるので、まずそっちから良いですかぁ?」
「……聞こう」
「やっぱり僕、護廷向いてないです。組織立って行動すること自体が向いていない。組織から一歩下がったところで、要所要所をチクチクする方が性格的にも能力的にも合っていると思います」
「……」
「けど、護廷をやめるつもりはなくてですね。──作らせてくれませんか。鬼道衆と技術開発局と刑軍の中間点になるのかな。搦め手対処特化の組織を」
僕を三人に分ける鬼道、というのは作れない。
僕頼りになってしまうのがいけないというのはわかるけど、そもそも事件解決を先取りしてきたのが僕だからそれも致し方の無いこと。
であれば、僕と同じことが僕と同じ水準でできる人を作ればいい。そのための知識は振り撒いてきたつもりだったけど、それが足りないのであれば。
「私塾を組織化します。浦原さんや大鬼道長レベルの人がたくさんいる組織になれば護廷も安泰でしょう。──申し訳ありません、山本総隊長。僕は多分、どこまでいってもあなたのやり方を評価することはできない。更木さんたちの考えを尊重することができない。平子さんや志島さんみたいに柔軟に生きることも難しい」
「ちなみに言うとオレもや。あないに言われてなんで今戦ってたの爺さんだけやねん。火力高すぎて巻き込んでまうから離れさすのはわかるけど、せやったとしても鬼道使い並べるとか風で火を大きくするとかあるやろイロイロ。そんでもって、最高戦力が真面目に戦って敵組織の四番目も落とせんのかいな。もしかしないでも護廷って泥船か?」
思想が根底から違うのだろう、という感じがするのだ。
戦士か、兵士か。
人は数ではないけれど、被害が量なら、戦力もまた量だ。
「──おい、平良!」
ん。……更木さんたちだ。
そのまま、胸倉を掴まれる。避けても良かったけど。
「どういうことだテメェ。あいつ、戦う理由が消えたとかで、逃げやがったぞ」
「僕に怒られましてもねぇ。毎度言っていますが、狩るのが遅いあなたが悪いんでしょう。逃げられる前にケリをつけられなかったことの八つ当たりなど、ご自分から躾のなってない犬に成り下がりたいので?」
「……なんだ、お前。いつになく不機嫌じゃねぇか。……チッ、白けたな」
下ろされる。
……不機嫌。そうかな。ザエルアポロの企みや研究所を潰してまわれたし、嫌がらせ仕込みまくってせいせいしているけれど。
「ちょ、滑川クン! お取込み中のとこ悪いんやけど、刑軍の人達から気になる報告があんねん! 至急こっち来てくれんか!?」
「はぁい、今行きますよぉ。……此度、あなたの意気込んだ戦いに水を差したことを謝罪しましょう。そして……先程までの言葉は、最早、在り方を変えてほしいという話ではないんです。全員が全員同じ考え方だと、脆弱性に気付き難くなりますからね。平子さんと僕の考え方だってちょっと違いますし。……だから、すみません。そちらはそちらで、強さを突き詰めていただければ」
頭を下げて。
志島さんたちの元へ向かう。……山本総隊長の顔は、影になっていて、見えなかった。
それで。
「状況はどうですかぁ?」
「刑軍の目撃証言、及び観測用の鬼道からの反応を見るに、『触腕の頭足類』が動きだしたみたいなんけど……」
「……破面葬討部隊を食べていた、ですか」
まぁおかしな話じゃない。
アーロニーロ・アルルエリ。その身が八刃である以上は、劣化崩玉との適合率が高かったということだろう。
であるならば、基礎能力が上がっただけ、特殊能力の射程が上がっただけ、なんてものではない超強化を受けている可能性が高い。
その帰刃、『
もし──超強化を受けたルドボーン・チェルートの無制限に生産される雑兵を、アーロニーロ・アルルエリが食らい続けたら、どうなるのか。
能力は別に増えないかもしれないけど──構造上恐らく上限無しに食い続けることのできる推定暴食さんは。
──霊圧の高まりを感じる。
こ……れは。
「総員、退避、退避!! 拠点付近までさがってください!!」
目が捉える。虚夜宮内部で起こる、その、爆発的な霊子反応を。
どうしてアーロニーロはあの場から動かなかったのか。なぜ全身を触腕で覆っていたのか。
それはさながら──蛹のように。
「鬼道衆集合!! 拠点を含む巨大範囲を結界化する! 現在虚夜宮内部にいる死神をリストアップしておいて誰か!」
「霊力十二分! 使ってください参事官!」
「基点装置全部整備済みだ。二番隊に頼むか」
「わからない、無理矢理結界化するから、粗があったら逐一対処で!」
「了解!」
腰につけている儀式用の墨壺を叩き割り、必要な分を無意識領域に入れて簡易儀式場を作り上げていく。
「──雷奇。仰ぎ見るは霊峰、封禅仕る玉皇の頂きの倒れる夢を見るか。断弓。支え上げるは家屋、大地縫い付く風雨の大木に折れゆく夢を見るか。格子。萎びゆくは草木、賢人あれど凡人なれど其れからは逃れ得ぬ夢を見るか。縛道の七十五・倒山晶!」
完全詠唱版倒山晶。効果範囲最大。基点の曖昧な結界ではなく、鬼道であるこれならば多少の強度も期待できる。
角柱の頂点それぞれに基点装置を置いてくれたのが見えた。霊力は自分のものではなく霊力タンクを買って出てくれた鬼道衆のものを使った。
これでなんとか──。
「──
そうして出来上がるのは──樹木と触腕の怪物。
あ、っていうか。
「折角仕込んだ諸々が……!」
「そこかいな。……で、なんやこれは。あ、逃げ遅れはいないみたいやで。厳原隊長と京楽隊長が全員回収しとったみたいや」
三番と四番がいなくなって、その他の研究材料だった破面たちもいなくなった虚夜宮。
それを食い尽くし、食い散らかして……虚圏の地に現れたるは、巨大な木。半分触腕。
うーん。なんというか。
劇場版……かな。総評。ある意味ありがたくはあるか。
「無限増殖と無限に食らう虚が絡み合って、無限に大きくなっている感じですかねぇ」
「結界の必要性はあったんか、こないデッカい──」
べちん! と。……超巨大な触腕が倒山晶へと張り付いた。
そのまま……グググ、と力を籠め始める。
「成程。慧眼やな。……しかし、こうなってくると……色々言った手前気まずいんやけど」
「そうか。儂は総隊長より、庭師の方が向いているかもしれぬの」
「切らずに燃やす庭師は仕事来ないでしょうねぇ」
「何を言うか。一番隊の中庭にある木々は全て儂が手ずから剪定しておる。燃やすしか能がないと思われるのは屈辱じゃ」
「どこで張り合うてんねん。……平良。オレらが持ってなくて、護廷に集中してるモンが一つだけあんねん。何かわかるか?」
「バ火力、ですかねぇ」
「……」
「お、オレは言うてへんで今回は! というか、そうや、除草剤の鬼道! あれは効果無いんか? 無かったんか?」
「効果はありました。根の減退も見込めました。が、今となっては、という感じでしょうね」
「ボクら山爺の張り切ってる間に結構踏み込んで減らしに減らしたんだけどねぇ、目的は達成できなかったよ。ごめんね」
厳原さんと京楽さん。
……そうか、この二人でも、か。
「良いですか、皆さん。この状況で一番まずいのは、上空にあるウルキオラ・シファーの封印を外側から破られることです。かなりの高度で封印したのですぐさまどうこうということはないでしょうが、時間の問題でもあります」
「その前に切り倒せ、ってことだよね。どっちみち本来の目的は樹木の破面の討伐なわけだし」
「はい。ただし、頭足類の虚の能力と破面葬討部隊の在り方からして、恐らくは──」
倒山晶に張り付いている触腕。──その表面から、こぽこぽと気泡が立ち上がって、中から虚が出てきた。
ダヨネー。
「こういうことになるので、油断されぬよう。しかも多彩な能力を持つ虚が多目であると思われます」
「坊主、とりあえず十一番隊が出るぜ。汚名返上もあるが、不完全燃焼の狂犬が多くてよ。ついでに卯ノ花を連れて、奴さんの土手っ腹に風穴空けてきたいんだが、構わねえか」
「ええ、お願いします。決して死者を出さないように、それでいて──目に映るものすべて壊していいので、暴れまくってください。可能なら殺しちゃってください。こっちの物事を何か待つ必要はないので」
「あいよ」
結界から出た十一番隊+かなり渋々顔の卯ノ花さんが──触腕樹の腹に突っ込んで。
超、巨大な風穴を開ける──。
「が、再生する、と。超速再生持ちのデカブツとか、どう倒せっちゅーねん」
「山本総隊長。十一番隊の開けた風穴含む、これより死神のつける傷口の全てを焼くことは可能ですか?」
「無論じゃ。尾花にできて、儂にできぬということは無い」
「では早速お願いします。他、斬撃に特化した斬魄刀、始解、卍解持ちの方で傷つけまくって消耗させましょう。鬼道の得意な方々は、氷雪系で攻めてください。決して近付かないように。鬼道衆、今から僕が組み上げる新規鬼道を読み込み、使えるようになりなさい」
あとは、平子さんや京楽さんなどの搦め手持ちをどう使うかだな。
……いや、まずは。
「厳原さん、倒山晶に張り付いている触腕を片っ端から石化させてください。多紀四席は司令部にお借りします。よろしいでしょうか」
「構いません。すぐに出ます。石化させた触腕は砕きますか?」
「はい、結界に張り付いているものは全て。逆に張り付いていない
「わかりました。私以外の三番隊も、速さを売りにしている者をそういう作戦で動かします」
「よろしくお願いします」
あとは……。
「善定寺さん! こちらへ!」
「オオオイ! なんだなんだ、オレ様にも出番があるのか!?」
「あなたの始解はあれを食い尽くすことは可能ですか?」
「それは……流石に厳しいなァ」
「ならば、根元だけを食い散らかす、ということはどうでしょうか」
「グワハハハ! それならできるだろう! 成程……良いじゃねえか、良い顔つきだぜ、平良」
「平子さん、あなたには辛抱強さを強いる役割になるんですけど……」
「お、エエでエエで。なんでも言ったり。ちょっとオレワクワクしててん」
なんだか楽しそうな平子さんと善定寺さんに役割をお願いし、早速動いてもらう。
虎姫さんの斬撃や十一番隊の突破力で傷ついていく触腕樹。その傷口を流刃若火が焼き焦がし、再生を止める。こちらへ向かうものはすべて厳原さんが石化して砕き、逆にこちらへ向かないものは破壊しないために再生が遅くなり、どんどん比重が傾いていく。
「千日さん、愛川さんなど、打撃系の斬魄刀持ちは僕の言う方向からガンガン殴り飛ばしてください。無意味に思えるほどの巨大さですが、しっかり意味があります。京楽隊長、危険な状態の方の回収をお願いできますか?」
「ボクの始解の能力に詳しいんだねぇ。……いいよ、そういう役回りで完全に頼られるのは中々面白いし、やる気も出る。護廷ってこういうのやんないからねぇ」
触腕樹に変化。これは……花弁のようなものが形成されて……って。
「浮竹さん!!」
「そういうことか。ああ、俺に任せてほしい!」
花弁より放たれるは、虚閃。デフォルトで
それを吸い込み、放出する浮竹さん。
「可能ならば虎徹さんの卍解との合わせ技でお願いします」
「わかった」
「そして……海燕さん、いらっしゃいますか!」
「お……っと。俺になんか用か……スか」
「あなたが中核となって、流水系の斬魄刀持ちで全体を濡らしてください。雀部さん!」
「ええ、雷を扱う斬魄刀持ちを率い、あれに流せば良いのですね?」
「はい、お願いします」
「よくわかんねーけど、了解。やるだけやってやるさ!」
十番隊の意識が無いのは結構痛いけど、同じことができる人はそれなりにいるはずだ。
あとは……。
「鹿取さん、ちょっと複雑なことを要求するんですけど、できますかね」
「勿論。……さっきの会話、ちょっと聞こえてて……ひやひやしてたけど。成程ね、って感じだしさ」
「はい?」
「なんでもないよ。さ、教えて。君の采配で、何が起こるのかを」
よくわからないけれど。
結構複雑だから、紙に書きながら説明をしよう──。
*
倒山晶の外で、溜息を吐く一人。
「なんや、意気消沈……とは違うみたいやな、爺さん」
「……作戦中は山本総隊長と呼べ、平子真子」
「せやったらオレのことも平子隊長って呼んでや。……けど意外というか、そらそうというか。爺さんは総隊長より尖兵の方が向いとる、なんて……ちょっと考えたらわかりそうなことやのにな」
護廷十三隊。その初代隊長たち。
恐らくはその全員に言えることだ。隊長よりも一番槍の方が向いている、だなんてことは。
「活き活きしとったな、アイツ」
「……納得もある。今までに護廷が出会ってきた敵は、滑川がなんとかすればなんとかなる敵じゃった。……ようやく、あやつ一人ではどうしようもない大きさのものが出てきて……あやつは己を駒として考えなくなった」
「そうしたら出るわ出るわの指示に作戦! びっくり箱かいなアイツ。ホンマになんでも出てくるやんけ」
めらめらと、ばちばちと。
触腕樹と仮称されるものの断面が、焼け焦げ、萎び、減退していく。
流刃若火。流れる刃は火の
範囲殲滅でも、単体へ風穴を開けることでもなく……まさか再生封じに使われるとは。
天部等活刀葉林が行っていたこと。それでいながら、この役割を求められたのは初めてだった。
山本総隊長ではなく、山本元柳斎重國の性能としての役割配置。最早気持ちの良いまでの個の無視。
「……時代が、変わったのやもしれぬのぅ」
「そうは言うてもアイツ、総隊長の器やないことだけは確実やろ。どこにおんねん仲間害されてブチ切れて独断専行で敵地突っ込んで首もぎ取ってくる頭が」
「……遠い先では春水がそうであったらしいが。……おぬしがなってみるか、総隊長」
「いやですー。総隊長の立場でやってることなんか考えるだけで胃
元素系統の斬魄刀。直接攻撃系の斬魄刀。
それぞれがそれぞれの役割を担う──同じ隊であるか、隊長であるかどうかさえ関係の無い、集団戦闘。
炎が上がり、水が走り、雷が伝わって、風が断ち切って。
全天──虚圏の空に形成されつつある、巨大な渦。刳屋敷の卍解と同等範囲に亘る超巨大気象現象。
「みんなでやるんは、楽しいねんな。共闘してる感あるし……気持ちエエというか」
「……個人の士気さえも上がる、となれば……本格的に儂の考える戦いは終わりじゃの」
「まぁゼンブがゼンブとちゃうと思うけどなァ。こういうデカブツやったらアイツが適任やけど、逃げた破面……三番とかは爺さんのやり方が合ってるのと違うか?」
「適材適所、と?」
「それやそれ。……と、そろそろ大詰めらしいで」
くるん、と自らの斬魄刀の輪状の柄に指を入れ、それを回す平子。
巨いなる風。雨も雲もない世界に作りだされた、超巨大なハリケーン。
根元を食い荒らされ、比重を大きく傾けた触腕樹は、やがて……ゆっくりと傾き始める。打撃を受けて、斬撃を受けて。
それでも、なんとか踏み止まろうとして。
「──アカンわ。力入れる方向、逆やねん」
踏ん張る方向を間違えて──己の力で、折れて、倒れる。
直後、倒れた触腕樹を、滑川含む鬼道衆が取り囲み──。
「《強制的な霊子分解を引き起こします。各位、とんでもない霊圧風が来ますので、吹き飛ばされませんよう》」
その天挺空羅にリアクションを返す暇無く、折れた樹木の全てが霊子に分解され始める。
基本的に生物の霊子というのは圧縮された状態で存在している。それが大気を構成する霊子へ変換された場合、霊子同士が押し合い、ぶつかり合い、超威力の衝撃波を生む。
それを、この大きさでやろうものならば──虚圏の星になっておかしくないほどの威力と風が、死神たちを襲う──。
星になりかけた隊士は、京楽が回収しきって。
割れて、中身がぶちまけられた逆さのフラスコと。
「……残念、です。あと少しで……ウルキオラ様を解放し……私が、虚圏の英雄になれたのですが」
「ルドボーン・チェルート。君は誰を王と仰ぎ見るのだろうか」
「……何を、わかりきったことを。ああ……バラガン様、バラガン様万歳、バラガン様──あなた様がいれば、この、傲岸不遜にして悪逆非道の死神など、塵芥にして──」
「喧しい」
ほとんどが樹木の身で、そのような嘆きを訴えかけたその頭蓋を、炎を湛えた刃が断ち切った。
──これにて。
第一次虚圏侵攻作戦は、終わりとなった。
*
というわけで。
「お加減どうですかぁ?」
「うむ。……良い感じである。折角の義手を使わなくなることが悲しくはあるが……」
「智さんも、どうですかねぇ」
「はい、問題ございません。……毎度のことながら、ご迷惑をお掛けします」
「いえいえぇ」
1914年の日本。……というと、第一次世界大戦真っ只中でちょっとピリピリはしているのだけど、主戦場にはなっていないので大丈夫だろう、ということで、現世なうである。
西紀さんとかの髪色が日本人じゃなすぎ問題組は初めから黒髪の義骸に入ってもらった。流石にね。
加速した意識と霊的身体の合致を促すための治療期間は半年。その間、浦原商店近辺の家に住んでもらって、滅却師を刺激しないように生活してもらう。そもそも虚も整も見えない義骸なんだけど。
この調整、治癒のために、智さんにも来てもらっている。雪都留くんは霊術院の寮で過ごすそうだ。まだ十歳なのに、偉いねぇ。
また、僕も治療期間中はこっちにいるつもり。件の組織を作るためにかかる時間をこっちで潰そうという算段でもある。
ぶっちゃけこの頃の日本って大正デモクラシー直前の大戦景気で大分過ごしやすいはずだし、王途川さんたちの羽も少しは伸ばせるといいな、の気持ち。
釣りの約束は、半年後ね。
「で……浦原さん」
「ハイ」
「現世の地下に……これは、やりすぎじゃないですかね……?」
「いやぁでも必要でしょう?」
そして、双殛の丘内部よりも先にこっちが出来るという若干のあべこべ。
尸魂界の地下はさぁ、水道管とか特に無いし、地盤も結界でどうこうすればいいから良いんだけどさあ。
現世にこれ……正直怖いよねぇ。
「しかし、助かるのも事実である。半年で鈍るつもりはないが、やはり集中する時は剣を振りたい。しかし現世では既に刀を持つ者などおらぬのであろう?」
「そうッスねぇ。四十年くらい前に、廃刀令というのが出されまして。そういう役職の人以外は帯刀が禁止されちゃって」
「でも浦原さん、その杖刀ですよねぇ」
「あ、わかっちゃいます? ええ、そうッス。浦原商店に常駐してくれてる隊士さんはみんな何かしらの形で刀を隠し持ってるッスよ。この街、とんでもない頻度で虚が出ますし」
「助太刀を入れることができないというのは歯痒くはあるが……その間、鬼道についての学びを得るとしよう」
という感じに相成った。
……今の内に滅却師がどうなったかについてを確認しておきたいので、僕は霊力を完全隠蔽して別人の義骸に入ってその辺を探りにいくつもり。
和尚さんに睨まれない範囲で、石田家と、そして黒崎家あたりを見つけられたらベストかなー。
さて、さらにというわけでを重ねまして。
義骸に入り、霊力を完全に隠し──名乗る名前は。
「……喉川来杉と腹辺利杉だったらどっちがいいですかねぇ」
「どっちもナシッス。そんなトンチキな名前の人いないんで」
「えぇ……。じゃあまぁ、生前の名前を使いますかぁ」
「……覚えてるんスか、生前なんて」
「ですからぁ、あっちでの名前ですよぉ」
「ああ、そういう。……ん? だとしても……あれ?」
卯ノ花さんも、疑惑の目を向けてきていたっけ。
まぁまぁ、その辺はフレーバーテキストだからさ。
そんな感じで、束田正幸として偽の戸籍を取得し、久方振りの器子世界で深呼吸をする。
うーん。霊子うっす。……これ魂吸と同じ感想ってこれ前もやった流れ。
さて……じゃあ、良い感じに虚のいる建物とかに行きまして、と。
「なんだ!? 爆発!?」
「今はとにかく逃げろ!」
「こ、子供が、あっちに……君、戻ってきなさい!」
「無理だ諦めろ、あんたまで死ぬぞ!」
という感じで目撃されまして。
虚君の感知できる範囲ギリギリを出たり入ったりして誘導していれば……ほぅら。
「
「待て、子供が逃げ遅れているという話だ。その子を確保してからにするべきだろう」
「なにっ!? そういう話は先に言え! ……見つけた!」
滅却師。殲滅を受けていない彼らが現世においてどう生きてきたか。自認がどうであったのか。
そんなの、考えるまでもない。
人々を脅かす虚を退治できる力の持ち主として生まれた以上は──。
「大丈夫か? 怪我……してるじゃないか! ほ、包帯! 頭から血が……!」
「焦るな、額を少し切っているだけだ。……安心しろ、坊主。俺達が必ず助けてやるからな」
「……おじさんたちは……軍人、さん?」
「んっ。……んー……まぁ、そんなところだ!」
正義に目覚めるものでしょうよ、と。
さぁて……悲壮な身の上話を語って、中枢を覗き見ましょうか、ね。
数日はかかった。
けど、石田家にはありつけた。超豪邸だから居場所は早めに割れていたんだけど。
ただ……中を見ることは、無理っぽい。まぁ滅却師でもなんでもない、霊力さえない子供だからなぁ、ちょっと霊力発現してみるかなぁ、とか考えることさらに数日。
夜。出撃するは、あの面影を持つ青年。
……石田宗弦。帝国からの脱走者。
まぁ、あの姿を見ることができただけで収穫とすべきかな。あんまり探りを入れていると怪しまれそうだし。
「──やはり、私が狙いか。何者だ?」
「……? あの、誰ですか?」
「誤魔化す必要はない。アレは私に見せかけて出撃させた滅却師だ。それを目で追っていたことはもう観測している」
……霊圧は今を以て尚感知できない。
霊圧を遮断する外套の……滅却師版、といったところか。やられたな。
「初めに言っておくと、帝国には属していませんよ、僕は」
「そうか。それは少しばかり安心したが。……死神か?」
「はい。とはいえ、敵意が無いことをお伝えしておくのと同時、公式な任務でもないことはお伝えしておきます」
「……独断専行で、敵地のど真ん中までやってきた、と?」
「はい。今の……死神と滅却師が殺し合う関係性を変えたくて」
ギリ、と奥歯を噛む音が聞こえた。
あ……あれ? 宗弦さんは「死神と共闘する」という考え方の持ち主じゃなかったっけ?
「──十四年前。帝国の空に、不吉な姿の虚が現れた。老い。滅び。そういう概念的なものを操る虚だ」
あっ。爆速以下略。
「それにより、すべてが崩壊した。件の虚は死神への怒りを振りまくくせに、帰ろうともしない。あらゆる居住地、あらゆる戦力が老いの前に散り、滅却師は全滅する寸前だった。……
「はぁ。それが……どうして今、僕に、そのような憎しみを向ける理由になるのでしょうか」
「しらばっくれる必要はない。……あれはお前達の仕業だろう」
……正念場、かな?
どうなるんだろうね。ここで僕が失敗したら。
イッチーはどういう経路をたどるのか。
「まぁ、そう聞いています。……尸魂界へ攻め込んできた挙句、護廷の首を今か今かと狙うハイエナに痛い目を見せてやった、と。術者の人はそう言っていましたね」
「……素直だな。……そうだ。……憎悪や怨恨はあるが、先に仕掛けたのはこちらだし、そして再度仕掛ける算段を立てていたのも事実。結局のところ、そちらの策が優れていただけ、という事実しか残らない」
「おや。あなたも帝国のやり方に思うところがあった、という風ですね」
「あったさ。プライドばかりが頭にあって、人々を守り、魂魄のバランスを調停する目的を持つ死神を目の敵にして……逆恨みを千年間も煮やし続けていたという話を聞いた時には、笑いを抑えるのに必死だった」
確かにこの人の登場回数は少ないけど、若い頃はこんな人だった……んだぁ、ってなってる今。
「どころか……その存在こそが、ユーハ」
「ストップ。……それで? 思うところがあった故国でも、死神の策で磨り潰されて良い場所ではなかったから、その憎悪を僕へ向けてきている。そういう解釈で合っていますか」
「……。……お前がどういう立場にいる死神なのかはわからないが、滅却師との関係改善を極秘裏にしないといけないほどには……死神に変わる気が無いんだろう。……憎悪を向けたことは、謝る。お前は……私達に寄り添ってくれようとしているのだったな」
「寄り添うといいますか、過去にあったそれぞれは、互いに互いを許せないことなのでしょうが、現世に根付く滅却師にとってはあまり関係ないことであると思うので、せめてこちらだけでも手を取り合い、現世の平和を守りませんか、というお誘いです」
「……憎しみを、無関係な子らに継がせるのは、間違いか」
「忘れてしまうべき過去ではないのでしょう。手記などで書き留めておくのは良いと思います。ただ、あなたの言う通り……次の世代にまで体感の伴わない憎しみを受け継がせたところで、後に残るは空虚だけでしょう」
どの口が言うとんねん、というツッコミが聞こえた気がする。
この口が言うてます。
「……。……詳しい話を聞かせてくれ。……ああ、いや、まずは自己紹介をすべきだな。私は石田宗弦。十四年前にこの地へ辿り着いた」
「初めまして。束田正幸と申します。戦況解析局局長を務めている者です」
「……子供の姿なのは、理由があるのか?」
「義骸を抜けても子供ですよ、僕は」
握手を交わす。
──裡へは死の王を蒔いた。なれば後は、卦から。
全知全能の、悉くを、だ。
※ミラハイで判明した情報はフル無視で進みます。ご了承ください。