卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
11/13-11/16までは更新をお休みします。予めご了承ください。
もし、僕の死とともに 世界が終わりを迎えるのならば
人は、僕を生かそうと 必死になってくれるのだろうか
王途川さんたちの証言のもと、レギンマクリル・トリマウエッラの能力を再現した『様身体』、及びそれと戦う特演訓練を用意した。ただし僕はあれとちょろっとしか会話していない……というか会話など一切していないので性格は正しいとは思っていない。また、能力の全貌もわからないので、あくまでああいう結界及び
結界は安全なものにしてあるから本来の性能にはなっていないし、基本はそのタイムラグの切り取りにどう対処するか、という訓練だね。
王途川さんが出した対処法は、レギンマクリルの反応よりも前に斬ってしまえばいい、という単純なもの。それも有効そうではある。
西紀さんたちが編み出したのは、一心さん発案の、ほぼ透明な赤煙遁による「煙の影から方向を読む」という方法。本来は不可視の虚対策に作り上げたものだったようなのだけど、これも有効そうだった。このほぼ透明な赤煙遁に関しては良い発想だと思う。何がどうなったらどう、という事前知識は必要だけど、十番隊全員がそれを熟知しているようでもあった。
そして西紀さんの卍解。
「アタシの卍解、
つまり、糸が繋がれた箇所は、その糸が断ち切られることで、機能を失うのだそうで。
操れるわけじゃないのがミソだ。力の再分配、みたいなことができるわけでもないらしい。言ってしまえば支配系斬魄刀の劣化版に聞こえるんだけど、最大の特徴は「機能を失う」という点。
「腕の機能って言われて、何が思いつく」
「持つ、掴む、護る……とかか?」
「投げるとか、あと合図を出すとかもじゃないですか?」
「色々できるよな腕って」
「そうさ。その機能が全て失われる。動かせなくなるわけじゃないが、腕に備わっている機能の全てが消え失せる。アイツは人形なんじゃねぇかって勘付いた時点で、これがとにかく刺さることはわかってた」
「腕は足と同じく第二の心臓ですしぃ、体温調節機能とか、代謝源とか、造血や免疫なんかも担いますからねえ。腕の機能がいきなり停止するとか、かなりのことですよぉ」
という感じで。
仲間の卍解の内容なんか知らない、知らなくても信じているから問題ない、という発言をしたという一心さんの報告から、いやいや互いの斬魄刀の能力は知っておいた方がいいでしょ、という話になっての開示タイムだ。
そこで明かされる西紀さんの卍解の能力が、正直えげつないな、と思っている。
「頭部へ糸が繋がるのは、卍解展開後少し経ってからなんでしたっけぇ?」
「そうだ。そんでもって、その糸を切りさえすれば大抵の相手には勝てる」
「でしょうねぇ。……操るとか支配する系ならバックアップでどうにかしようがありますけ、ど。……機能が失われたら、どうしようもないですからねぇ」
けど正直これは平子さんと同じく周囲に敵しかいない場合に最強となる卍解だなぁ、って感じ。
味方の糸を切られた時のリスクが大きすぎる。
「この力の再分配らしき効果、というのはぁ?」
「私、児島の斬魄刀の能力です。六つまでの霊圧を記録・保持し、任意の時に任意分、どこかに偏らせたり並ばせたりすることができます」
「敵の虚にも、ですかぁ?」
「いえ、まずは斬りつけないと記録ができないため……隙があればやりますが、基本は事前に浅く切った隊士の強さを変えています」
「アタシの卍解に敵の目が行ってる間に解放させたんだ。展開時は結構派手だからな。こういう使い方もある」
……うん。
結構、連係している。元素系は少ないみたいだけど、これならほぼ口出ししなくて良いかもしれない。
「十番隊はそういう構成多めかもな。アタシや一心が派手に動いて、有用な効果を持つ死神が隠れて解放、アタシたちを補助する。王途川隊長と動くときはより上手くできるぜ。驟霖は広域に雨を降らすから、敵の目が奪われやすいったらねぇ」
「王途川隊長の剣技に見惚れている敵を背後から殺す……それが俺達十番隊……!」
「昔二番隊に足音の消し方とか習ったもんなー」
「一心の炎は明るすぎて眩しいからもうちょっと光を抑えてほしい」
「無茶言うなよ……」
ふむふむ。なら、連係を乱してくる系の敵を用意しよう。事前に考えた連係が乱されまくっても、その場で新しい連係を創り出していけるか。
そこを中心に伸ばすとGoodだろうね。
「……よし、じゃあ最終目標が『傘童女』の討伐で、その道中に視認性や言葉、音、合図などに関する阻害を入れてくる敵を配置する特演訓練を組みましたぁ。『ヌの甲』から申請してくださいねぇ。今日は無理ですけど、明日以降から乙以降の難度にも挑戦できるようにしますのでぇ」
「毎度思うんだが、そんな簡単に組み立てられるモンなのか?」
「装置様様ですよぉ。技術開発局に感謝してくださいねぇ」
「こっちは助かるばっかだから良いけどよ。……ああそれで、西方区画は十一番隊が貸し切りにしてんだっけ?」
「はぁい。結界張ってあるから大丈夫だと思いますけ、ど。無暗には近付かないようにぃ」
「あいよ」
幽昼窟は一つしかないからね。こういう住み分けもします。
それじゃあ、行ってらっしゃ~い。
……というように、各隊の今どこが伸び悩んでいるのか、何をどうすれば全体が動けるようになるのか、などをヒアリングして、専用訓練として組まれたものが出来つつある。特演訓練はイロハ+十干で難度が決まっているんだけど、もう五十種類目の訓練に突入かぁ、という感慨深さがある。
良いペースだ。みんな爆速で経験値を貯めている。
……だから、そろそろ虚(完聖体)みたいなのも混ぜ込もうかなぁという思い。ゆるるんバードとかもうあれ虚だもんね普通に。
ちなみに十一番隊の強化合宿は──全滅一回を経験しての、今。
立ちはだかり続けるはネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク。超威力の投擲槍、機動力、技巧。全てを兼ね揃えたスーパースペシャルスプリントスピードネリエルDXであるため、更木さんとぶつかろうがなんだろうが積極的に本陣へ槍を投擲して休息を阻害し、更木さんの瞬歩より速く移動して逃げ回り、また投擲し。
ここへきて更木さんはそれ……「速度」という壁にぶち当たっている。巨体であり、鈍重であるがゆえにどうしても出せない速度。響転による速度+距離の離され方についていけていないのだ。
瞬歩というのは個人差があるものだからなぁ。僕の瞬歩も遅いままだし。
これをどうにかする、というのは……ううむ。
なんで専門家たちに相談してみた。
「あー……更木の図体で瞬歩を、か」
「無理じゃろ。通常の瞬歩ができとるだけ偉いと褒めるべきじゃ」
「滑風も、滑歩における身体制御と瞬歩の爆発力が無ければあまり意味がありませんからね……」
千日さん、夜一さん、厳原さん。
瀞霊廷瞬神第二位、第一位、第三位の皆さんだ。
「おぬしには言うまでもないじゃろうが、瞬歩には三段階の流れがある。序立・抜脚・瞬歩の三段階じゃ。瞬歩が遅いやつはこの抜脚が遅い」
瞬歩というのは「止まってやる走り幅跳び」が近い。立ち幅跳びとは違う。
序立が助走、抜脚は助走から踏み切りへのトランジション、瞬歩が踏み切り。
つまり序立時点でどれほど強く地面を蹴ろうとも、抜脚が上手じゃないと効率をロスし、さらに瞬歩が上手じゃないとどれほど効率良く繋げても普通の速度・距離になる。
夜一さんや厳原さんはこの抜脚がとんでもなく効率良くて、千日さんは瞬歩の倍率が高い。跳躍距離・速度≒序立×踏み切り効率(抜脚効率×瞬歩倍率)、という図式で表すとわかりやすいか。
これをどうにかする、というのは至難の業だ。アドバイスが難しすぎる。あ、僕は序立に込める力が少ないから遅いよ~。
ああでも、だから。
「ハードル走とかが良いのかなぁ」
「はぁどる?」
「基本は徒競走なんですけどぉ、道に障害物があるのでぇ、それを跳躍して避けていくやつですねぇ。……ちょっと作ってみるのでぇ、お三方競争していただければぁ」
「む」
「ほう」
「ああもう、すぐそうやって千日爺様の火を煽る……」
「爺様って言うなつったろうが。千日様か昔みたいに千日でいい」
「言えるか! あの頃は本当に無知だっただけじゃ。任務中なら四席呼びができるが、こういう時間は爺様じゃ爺様。まぁ従兄じゃから兄さまでもいいんじゃがの」
「せめてそっちにしてくれ。次爺様って言ったら極三がよく使ってたあの井戸に放り込んでやる」
「それは本当に勘弁じゃな……」
「お二人とも、まるでお互いしか眼中にないというご様子ですが……いえ、何も言わないでおきましょう」
「へえ、やる気かよ。四楓院家の瞬神二人を前に」
「瞬神は夜一さんだけでしょうに」
「んだとコラてめぇ厳原」
みたいな会話を背後に、トンテンカンと作り上げるはハードル。
それを十台作って、400m間に45m+35m*9を並べて。高さは……この人達は凄いはず、という思いを込めて100cmにしておくか。
瀞霊廷で使われているのは基本尺貫法だけど、こういう前世知識で作る場合はどうしてもmを使っちゃうんだよなーとか思いつつ並べて、自分用の低いやつを一個持ってきて。
「跳び方を見せますねぇ」
言いながら跳ぶ。ハードルとは跳んでいるのではなくおかしな動きでスライドしているだけ、なんて話もあるように、リード脚を伸ばしてピンと跳ぶこの感じ。
結構珍しいんじゃなかろうか。この動きで瞬歩してる人は見たことないなぁ。
「へえ……面白ぇ動きだな。上方向に跳んでねぇから、走る速度が欠片も落ちてねぇ」
「まぁ跳び方はなんでもいいんですけどねぇ。多分これが一番速いかなぁ」
ということで。
練習しますかぁ? という問いに首を振った三人による、400mハードルが開始となった。
「よぉい、どぉ~ん」
「待て、それ気が抜ける。……大前田、いるか!」
「へいここにいやすよ。珍しいですね千日様が俺をお呼びになるのは」
「すまん、お前じゃないとダメってことはなかったんだが、こいつが使えないからな。ついでに言うとこの競技自体お前が買えばそれなりにやる奴いそうだなって思って呼んだ」
という諸々の説明があったあと。
「では──始め!!」
なんて凄まじくキレのある号令と共に、三人が走り始める。
ハードルは……おお、全員倒していない。というか速い。400mじゃ短すぎるか。ああもうゴールした。二十秒かかってないぞ。
瞬歩で戻ってくる三人。
「堂々の一位じゃ」
「二位でした。では瞬神二人目は私のもの、ということで」
「……ほんきでくやしい」
「しかしこれ楽しいのぅ。昔訓練で持続走などやっておったが、あれに近しい楽しさじゃ。このはぁどるを越えるのも中々に爽快感がある」
「瀞霊廷大祭りだけじゃなく、瀞霊廷運動機能競走会みたいなのもあったら面白いかもですねぇ。二番隊と十一番隊が圧勝しそうでもありますが」
「大祭りの時の燕返し挑戦会とかかなり盛況でしたからね。アリかもしれませんぜ」
ちなみに大前田さんのもと、瀞霊廷大祭りは三年に一度のお祭りとして既に恒常化している。今までお祭りとかほぼ無かったからねぇ、毎度参加者が凄いとか。特に屋台の宣伝効果が凄まじくて、瀞霊廷じゅうから出店応募が山のようにきているらしい。また、流魂街のお店も上手くいけば一山当たって死神に気に入られて、あるいは貴族に気に入られて、なんてドリームが芽生えちゃったせいで、味の良さやら衛生管理やらがメキメキと上達し始めているとか。
実際貴族がお忍びで流魂街の茶屋に足を運ぶケースなんてものまで出てきてしまったからには、貴族街の茶屋も対抗意識バリバリでより良いものを、という流れができつつあるとか。やっぱりお祭りって経済効果がすごいねぇ。
「最近の特演訓練もそうじゃが、競うというのはやはり全体の向上に繋がるのぅ」
「確かに。隊ごとに特色があるため、単純な戦闘技能などでは競走というのは難しいのではないかと思っていましたが、こういう基礎的な部分であれば、ありですね」
「更木もなんかこういう、"僅差で負ける"って経験がありゃとんでもねぇ呑み込み速度で強くなりそうだけどな」
……ふむ。
なら。
「最大の敵は自分、というのをやりますかぁ」
「ほら出た。こいつやっぱり叩けばなんでも出るんだって」
「どれだけ出してないものがあるのやら」
いやぁね、『様身体』もタダじゃないからさ。これ解禁すると死ぬほどお金かかっちゃうんだけど……形状記憶一紀石とかどうにか作れないかなぁ。技術開発局のウラえもんに頼まないと……。
ということで、訓練部屋へ移動しまして、と。
「『様身体』、四楓院千日さん、に、なりますねぇ。斬魄刀は使えないし瞬閧などの鬼道も使えませんが、体術や速力は今の千日さんの一割増に設定してありますよぉ」
「おお……オレっぽい見た目じゃないのは、理由があんのか」
「あんまり過熱すると自我崩壊とか起こしそうで怖くないですかぁ?」
「久しぶりに意味がまるでわからん」
鏡に向かってお前は誰だってやるやつみたいなさ。
あと見た目を寄せるコストが高いというのもある。ここは本当に鰤世界を実感するんだけど、みんなおしゃれさんなんだよね。オサレではなくおしゃれさん。だから、一般隊士の死覇装っぽい服装の『様身体』ならともかく、いちいち全員に見た目を揃えるのはかなーりコスト。
「千日爺……兄さま、負けたら儂が仇を取ってやるぞ~」
「おう言ったなぁとうとう。そこまで舐め腐られていたとは心外だ──ぶちのめす」
「己との戦い。良いですね、心が躍ります」
そうして──開始の合図が鳴る。
直後。
「わ」
「おお」
殴るための掛け声とかは聞こえない──超高速のぶつかり合い。
乾いた音は聞こえるけど、鈍い音は聞こえない。
そこに何かがいることはわかっても、目はそれを捉えることができない。
「おおお。時折じゃが、儂の最高速度に迫っておる。えー、儂も儂より速い儂と戦いたいぞ妖怪」
「そう言うと思って今調整中ですからねぇ。千日さんの戦いが終わったらやりましょうねぇ」
「流石の悟り具合じゃな! ……瞬閧ができるように、とかは」
「それはぁ、かなぁり難しいですねぇ。というかあれは脳の精密コントロールがあって初めてできるものなのでぇ、ほぼ無理ですねぇ。浦原さんの義魂技術が瞬閧を扱えるようになればギリギリくらいかなぁ」
僕が再現できる始解はあくまで鬼道系だけだ。『様身体』に持たせた普通の刀の形を変える、というのはかなりの霊力を必要とする。満願利剣は一応ちゃんと神具である、ということね。
しかもその始解再現だけでもかなりの霊力食うし、ちゃんと調べないと使い熟せないからなぁ。『様身体』に始解を使わせるのは多分無理……かなぁ。『転身体』の技術ってホントに凄いからねぇアレ。天賜兵装の名前の通りなら、霊王が作ったもの、という可能性まであるけれど。
ちなみに厳原さんは何も言ってきてないけど、うずうずしているのは見えているので今試せるようにしますからねぇ。
「──ッダァッ!!」
と……千日さんの『様身体』がぶっ飛ばされ、規定ダメージ超過で停止する。……おー。
「はぁっ……っはぁ。……っしゃ」
「おお。一割増の己を超えましたねぇ」
「……これ、いいぞ、夜一。……すげぇ楽しい」
全力のその先を出さないと超えられないだろうからなぁ。
これを使って更木さんの速度部分を強制レベリングだ。強さ部分は『様身体』が耐えられない。成長しないからね『様身体』は。
「妖怪ー! 儂の番じゃー!」
「はぁい。……はい、できましたよぉ。『様身体』四楓院夜一。全項目一割増」
出来たには出来たんだけどこれ……これ後十段階くらいで自分の速度で自壊しかねないな。……これも技術開発局に投げるかぁ。
……そういえば最近猿柿さんから聞いたんだよね。「マユリのやつおるやろ。あいつ、初めの頃は"無理なモノはどれほど喚いたところで無理ダネ"、みたいな言い方しよっとったのに、最近はそれ言わなくなったねん。どっかの誰かさんが無理っちゅうのをぶっ壊しまくってるおかげやとか喜助は言っとったけどな。そのおかげかなんか知らんけど、うちからの命令にぶつくさ言うのが減って大助かりや。礼を言っておくで妖怪」って。
是非とも涅さんには僕が諦めた全てを限界突破してもらいたいところ。僕じゃ無理だからねぇ。
ちなみに、別に彼女の前ではそれほど妖怪ムーブしてないんだけど、夜一さんがよく出入りしているからか、その呼び方を気に入ってしまったらしい。
尾花さんといい夜一さんといい、スピーカーが多すぎるよ護廷。
……という感じで実装された特演訓練『己』。今はまだスキャン及び自己申告してもらった数値を一割増にして再現するだけの『様身体』だけど、結構な人気になった。厳原さんも言っていたけれど、「己と戦って高める」というのは死神なら誰しも夢想するシチュエーションらしい。まさかこんなところで死神ではないことが露見するとは。
更木さんスピードアップに効果があるといいけど。本題そこなんだよねぇ。
*
月日は矢の如く過ぎていく。
たくさん準備してたくさん訓練して仕込みをして僕自身の手段も増やして。
関東大震災も第二次世界大戦も瀞霊廷にはあまり関わらなかった。第二次世界大戦……つまり1939年に影の世界へ攻め入る計画が立てられた、とかだったら貴族内の予言者を疑っていたね僕は。
……この戦争でとんでもない人数が死ぬことはわかっている。あれが落とされることも。
でも……僕らは死神。魂魄のバランサー。人間の守護者ではない。
そういうのは滅却師の仕事だ。だとしても……彼らも表立って力を使うことはしないだろうから、結局は同じか。
人間の魂魄は、すべてが整か虚かになる、ということでもなかったりする。自身が死したことに気が付かない整……というか、そういう自我さえ無しに死してしまうと、霊魂の膜が形成されることなく霊子として世界に還る。
だから……圧倒的な威力で消し飛ばされた存在が彷徨える魂魄になることは中々無いんだってさ。
だからなんだ、って。そりゃそうなんだけど。
話題を変えよう。……そう、瀞霊廷でのビッグニュースと言えば、市丸さんの大躍進か。どのタイミングでどうとかは知らないけど、かなり飛んで三番隊三席になったらしい。松本さんは五席。元三席の千鉄さんは前線を退いて文官に。元五席の勝本さんは寿脱隊した。
瀞霊廷ではビッグニュース化していないけれど僕的なビッグニュースを言うなら、砕蜂さんが三席になり、極三さんと暮七さんが四席、五席になった、という点か。
市丸さんは卍解習得済みだという話で、他人のことをよく見ているから連係もばっちりだそうな。砕蜂さんと松本さんも卍解修行中だそうで楽しみ楽しみ。
史実では知らなかったところで言うと、五番隊では鼬野俊一郎さんが、六番隊では佐和田靖子さんが、七番隊では赤泊錘緒さんが、八番隊では美土里紫陽花さんが、九番隊では久美浜然さんがそれぞれ卍解を習得した。戦況解析局の参加者が二人も卍解習得である。
また、清之介さん、久南さん、透徹さん、猿柿さんも卍解修行中との話。
これほどまでに卍解のバーゲンセール状態なのには当然あの人が関わっている。響河さんね。具象化とは違うとはいえ斬魄刀の本体を引き摺りだすことのできる能力と、本人の分かりやすく伝えようとする努力が綺麗に噛み合って、育て屋さんかと見紛うほどに卍解習得者を輩出するようになった。
それでいて霊術院の教師もやっているのだから頭が下がるよ本当に。
あとは、この二人か。
「朽木隊長、こちらにいらっしゃいましたか」
「……ああ。なにかあったか、狛村」
六番隊隊長、朽木白哉さん。六番隊副隊長、狛村左陣さん。
歴代最も美しき斬魄刀と、遠目でもわかる超巨大鎧武者を召喚する斬魄刀。更木さん、刳屋敷さん、卯ノ花さんがこぞって興味を持っていた。
「いえ、斬魄刀を解放しておられるようでしたので、何かあったのかと」
「そうか。すまぬ、兄に告げておくべきだったか。……速力を上げるぞ、滑川七席」
「いつでもどうぞぉ~」
避ける。避ける避ける避ける往なす避ける。
千を超える刃の花弁。その全てを回避する。
薄桃色に染まっていく世界の中で、ひらひらと、ぺらぺらと、黒い死覇装がぐにゃぐにゃり。
「……刻限だ」
それが晴れたのならば。
「なんと。……あの刃の中で、無傷ですか。……流石は滑川七席ですね」
「ありがとうございますねぇ。それで、白哉さん。もう少し刃を余らせる練習をした方が良いかもですよぉ」
「余らせる。……如何なる意味だろうか」
「操っていない、けれど刃として機能するものをその辺にばら撒いておくんですよぉ。白哉さんの操る花弁だけに対処すればいい状況から、空気中に無数に散布されている刃を避けつつ無数の花弁にも対処しなければならない、という風にした方が敵を疲弊させることができます。さらにそれを上手くやれば、敵の逃げる方向もコントロールできるわけでぇ」
「……成程。捕り物をする際にも、あるいは連係においてどこかへ誘い込みたいという際にも使える、と。……ありがたい。銀嶺様より伸び悩んだ時は滑川七席を頼れと言われていたが、まさかここまで的確な言葉が頂けるとは考えていなかった」
というわけで、白哉さんの修行に付き合っていた僕である。
僕としても実は白哉さんの攻撃……無数による面制圧って結構苦手なので、鍛錬になって良いんだよね。避けられはするんだけどさ。
そして、隊長が解放しているから、という理由ですぐにその場へ駆けつけることのできる狛村さんは二重丸である。
「滑歩の達人……流石という言葉で片付けてよいのかわからない動きでしたな」
「……狛村。兄も一手、見ていただいたらどうだろうか」
「儂の斬魄刀には芸と呼べるものがありませぬ。長大にして巨大なもので叩き潰すのであれば、滑歩で躱すという対象には……」
「おやぁ。あんな小さい刀で僕を捉えられるというんですかぁ? 僕、"狼の長"さんの卍解でも潰されなかったんですけどねぇ」
「……申し訳ありませぬ。儂は今、滑川殿を軽視してしまった。……ご指導ご鞭撻、有難く受け取らせていただきます……!」
真面目だねぇ君は本当に。
口には出していないけれど、びゃっくんの目が「兄はもう少し肩の力を抜いたらどうだ」って言ってるよ。カガーミカガーミ。
というわけで少し広い場所に出て。
「では……。轟け、天け──」
「はい、一本」
どうしてか上段斬りとかいう隙だらけの選択をしたので、天譴の腕が現れる前に斬魄刀を蹴りで弾き飛ばす。
「……!」
「この斬魄刀、これされたら終わりですよねぇ。……では問題ですよぉ。こういう素早い相手には、どうやって解放をしたらいいのか」
落ちてきた斬魄刀をキャッチして彼に投げ渡して、第二ラウンド。
狛村さんは……籠手で自身をガードするような恰好になる。
「轟け、天譴!!」
「良いですねぇ。そう、そうされたら僕はそれを弾けませんよぉ。あなたの始解において、最も強い部分は具現化する天譴の腕で、最も弱い部分は素のままの斬魄刀です。敵が強い部分と体当たりしてくれるっていうのは幻想なのでぇ、如何に弱い部分を守るかを考えつつ、敵を撃破しましょうねぇ」
「はっ! そして……先程は上段切りを選びましたが、選択すべきは横薙ぎであったと考えます!」
「正解ですよぉ。籠手で斬魄刀を隠したあと、横方向への薙ぎ払い。これだけで虚の半分以上は討伐できますねぇ」
まぁ避けるのだけど。
しかし狛村さんもそこでは終わらない。僕が着地しようとした天譴を消して、今度は突きの姿勢となり──とんでもなく長大な突きを繰り出してきた。
それを、膝で、打ち上げる。
「な──」
「弱点ですねぇ。具現化した天譴にかかる荷重に、狛村さんの手首が耐えられない。ここ要訓練です。それと、もっと細かい動作で天譴を出したり消したりできるようになるといいですねぇ」
剣を振り下ろす、横薙ぎをする、逆袈裟に切り上げる、だけじゃなく。
腕を伸ばしたままの状態で、剣を引くときは消して、もう一度刃を押し当てる時は具現化させる、とかね。
この始解の恐ろしいところは、どんな場所にでも天譴の腕を召喚できる、というところにある。たとえ火の中水の中森の中。あるいは泥の中のような、充分にスペースの無い場所だろうと関係なくそれができるのならば、この斬魄刀は一枚で戦場をひっくり返すワイルドカードになり得るだろう。
「あとは、剣を振る動作の途中から具現化することってできますかぁ?」
「……いえ、今は未熟ゆえ、できませぬ。……しかし、それが強いことはわかりまする」
「はぁい。あなたは卍解もしていますからねぇ。解号も言わずにただ振り下ろした刀。届きもしないと高を括った敵に当たる寸前に天譴が具現化したら、それを避け得る存在なんてごくわずかになりますよぉ」
「必ずや、できるようになります!!」
「良い意気ですねぇ。では今、少し練習をしてみましょうねぇ。いつものように天譴を出現させる感覚を、ぎゅっと縛り付けるように、握りしめるように我慢してみてください」
という風に始解の指導をする。最初の滑歩云々の話はどこかへ飛んでいるけれど、ためになったとは思ってくれると信じたい。
ちなみに千本桜+天譴のコンビネーションは最強なんじゃないかって思ってる。というか千本桜のサポート性能が高すぎるだけなんだけど。
天譴もかなりポテンシャルあるよなぁ。月牙天衝とか多分あれ黒崎家の固有能力じゃなくて誰でもできる「飛ぶ斬撃」だから、黒縄天譴明王でやる月牙天衝とか敵の拠点消し飛ばせるんじゃないの。
あと黒縄天譴明王に高位鬼道遣わせたらとんでもないことになるんじゃないの、とか。
色々やってみたさがある。
「──おい、平良。お前なに自分だけ楽しそうなのと戦ってんだよ」
「はい? ああ、更木さん。幽昼窟はどうしたんですかぁ?」
「もう終わらせたぜ。ようやくだがな」
おお。……ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクに追いついたか。本物はもっと強いとは思うけど。
それで……その熱有り余って外に出てみたら、なんだか楽しそうな気配が、ってことか。
「無学で申し訳ありませぬ。こちらの御仁は」
「っとすまねぇな、訓練に水を差したこと自体は悪ィと思ってる。俺は更木剣八。十一番隊第四席だ」
そう、一之瀬さんを抜かして第四席になったって聞いたねぇ。
「そうか。儂は六番隊副隊長の狛村左陣だ」
「えー、副隊長? フサフサはー?」
「響河さんなら随分と前に休隊しましたよぉ」
「なんかの訓練中だったんだろ。混ぜろよ、平良。最近また強くなるのが楽しくて仕方ねえんだ」
良いことだ。
じゃあ。
「狛村さんの始解に関する訓練なんですけどぉ、更木さんも回避のみで参加しますかぁ? ああ、素手でなら防御もありですよぉ」
「滑川殿、それは……」
「この人四席ですけどねぇ。普通に隊長クラスの霊圧なのでぇ、今の狛村さんだと斬魄刀戦闘は更木さんが圧勝しちゃうんですよぉ。けど、最近回避練習してない更木さんならこの特殊な訓練も楽しめそうだなって」
「してねぇんじゃねえ。やる機会がねぇだけだ」
「ついでに白哉さん、滞空花弁の練習しませんかぁ?」
「……よろしくお願いしよう」
「お、なんだ。澄ました顔の割に、乗り気だな。良いぜ、やろうじゃねえか」
「制限時間は十分。基本的には更木さんと狛村さんの対決で、狛村さんは有効打を一撃でも与えられたら勝ち。更木さんは逃げきれたら勝ちです。防御のために掴んで跳ね返す、とかはいいですからね」
「おう。やちる、持っててくれ」
「はーい! でも剣ちゃんあたし抜きでも頑張れるかなぁ?」
「抜かせ。確かに回避訓練は長らくしてねぇが、同じ失敗を繰り返すつもりはねぇよ」
「狛村。兄は、己の力を強大であると思いこむ癖があるようだ。他者への尊敬の念や気遣いを忘れぬ心も大事だが、滑川七席も更木四席も歴戦の死神。怪我をさせる、といった心配は無用だろう」
「……仰る通りです。……狛村左陣、副隊長という立場なれど、死神としての歴は浅く……無知にして未熟。よって更木四席、貴公の胸を借りさせていただく!!」
「おう、来いよ! ヌルい攻撃してみろ、避けてやるし掴んでやるし、そのでけぇ図体を投げてやる」
そうして──始まる。怪獣退治が。あ、当然怪獣は更木さんね。
訓練をサボっていたとはいっても一瞬で勘を取り戻していく更木さん。対し、どうすれば攻撃を当てられるのかを模索し、メキメキと巧くなっていく狛村さん。
史実では一度敵対したこともあってあんまり関わらなかった二人だけど、どっちも真面目だから気は合うと思ってたんだよねぇ。
「……散れ、千本桜」
そして戦場に、薄桃色の刃が散りばめられる。
「……成程。ただ漂わせておくだけでも、牽制効果になる。……加えて、狛村の動きの補助も可能な上で……戦場を俯瞰して見る癖もつく。……良き訓練になりそうだ」
「どこにどれだけの量が集まっているか、などは無意識で考えておくといいですねぇ。いざという時に使えるかもしれません。それと、滑歩は使えるんでしたっけぇ?」
「少しばかりであれば、だが」
「でしたら、全身に軽く『緩衝霊子』を纏っておくだけでも、その無傷圏という弱点を作らずに済むかもですねぇ。少し怖いかもしれませんが、『緩衝霊子』を纏った腕に千本桜の刃を降り注がせてみればぁ、効果は理解できると思いますよぉ」
ゆくゆくは、全身に千本桜の刃を纏ったびゃっくんが……というのは冗談にしても、突き入れる拳が敵の肉を穿つし炸裂する、みたいな肉弾戦も行けるかもしれないよね。
「あと僕的なおすすめは、普通に斬って剣を敵に突き入れてから解放することですねぇ。内部から斬り刻んで愉快な彫像を作りましょう」
「……兄は、時折発想が猟奇的だな」
天譴の巨大な刃が更木さんに止められる。その衝撃が全ての音を掻き消した。
だから、唇の動きで何を言ったかはわかるけど、言っておこう。
「何か言いましたぁ?」
「……いや。戯言だ、気にするな」
難聴系は転生者の嗜み……!!
「更木さーん、早速避けられなかったんですかぁ?」
「うるせぇ、受け止めてみたかっただけだ」
「なんと……いう、膂力か。欠片も進まぬ……!」
「ほら、このまま……投げてやるからよ……!!」
本当に持ち上がりかけたあたりで天譴を消す狛村さん。遅いねぇ。でもまぁこれからだろう。
「すまぬ、更木四席! 儂の今の攻撃は、軽かったか!」
「軽くはねぇが、腰が入ってねぇ。テメェの腕振りに合わせてくるんなら、本気で人を斬るつもりで振らねぇと意味ねぇだろう。当たる位置も切っ先だったしな。どこの死神が切っ先を掠めさせて敵を斬るんだよ」
「……ありがたい学びだ。もう一度行かせていただく、更木四席!!」
少し前にあった、霊術院で剣を教える、という会。あれは更木さんにとってかなり良い経験だったようで。
紗咲さんたちに教えていたのもそうだけど、「物事を教える際の言語化」能力があの一ヶ月で非常に発達した印象がある。
教えることまで成長曲線振れるんならもうパーフェクトリッパーだよ。
「おお、今度はちゃんと腰が入ってんじゃねぇか! 当たる場所もしっかりと……」
「避けるのやめちゃったんですかぁ?」
「うるせぇ、今のはもう一度受け止める流れだろうが。黙ってろ平良」
はぁい。まぁ今のはわかるけどね。
「だが、まだ足りねえな! こんだけでけぇ剣なんだ、剣の自重を使えよ! その斬魄刀じゃ体感できねぇんなら、明日から墓石みてぇな石材でも持って生活しやがれ!」
「剣の重みを活かす……。……こう、か?」
「──!」
お、避けた。……支えきれないと判断したか?
「なんだ、テメェ。……やりゃできんじゃねえか。久しぶりだ、やりゃあできるやつに出会ったのは」
「儂も不思議な感覚だ、更木四席! 貴公との会話、そして剣の一振りごとに学びがある! 時間の許す限り、どうかお相手願いたい!」
おお。おおお。
良いじゃん。更木さんにとっても狛村さんにとっても……双方が双方の起爆剤って感じ。
と、そこで解放をやめる白哉さん。
「もうよろしいんですかぁ?」
「これ以上はあの二人の邪魔となるだろう。私は先に戻る。狛村へは、急ぐ必要はないと伝えてほしい。……世話になった。礼を言う」
「はぁい、いつでも相談に来てくださいねぇ」
急ぐ必要はない。……つまり狛村さんの仕事は全部やっておくから、心ゆくまで訓練してくるといい、って感じか。
びゃっくんはなんかこういう方向に育ったんだよねえ。史実通りのクールっぷりだけど、身内に対して甘い……いや、甘いわけじゃないんだけど、自分が肩代わりできる部分は肩代わりしてあげようとする、っていうか。
苦労しそうだけど、愛されそうでもある。
「良いじゃねえか──久しぶりに良いぜ、テメェ! それと……やちる!」
「くるくるともくもくに遊んで帰るから遅くなるって言ってくればいーんだよねっ!」
「……まぁそれでいい。頼む」
「はーい!」
草鹿さんは席次無しなんだけど、更木さんの付属品、という風に見ている人はいないんじゃないかな。僕より妖怪ムーブというか、十一番隊所属なのに所属者名簿に名前が無くて、みんなに知られているのに死神判定じゃない、という不思議な立ち位置にいる。座敷童かな。
……超強化狛村さん。ちょっと楽しみだ。
二人がヒートアップしすぎないように見守りつつ……ここの開花も期待してみようかね。