スターウォーズ世界に転生したので一旗上げたらあっという間に巨大勢力に成長した! 作:アキラ7
5歳になった。
5歳という年齢が、前世の俺にとってどれくらいのものだったのかは、正直あまり覚えていない。
ただ、今の俺にとっては、それなりに大きな意味を持つ年齢だった。
自分の足で好きな場所へ歩いていける。
簡単な文章なら読める。
会話だって普通にできる。
家庭教師から読み書きや計算、歴史や地理について教わるようにもなった。
そして何より――俺は、自分のことを「カイル」と呼ぶことに、もう違和感を覚えなくなっていた。
前世の記憶は消えていない。
日本で暮らしていたことも、スター・ウォーズという映画を好きだったことも覚えている。
それでも、今の俺には父さんがいて、母さんがいる。
二人と食事をして、話をして、笑う。
それが、いつの間にか当たり前になっていた。
「カイル、今日は一緒に街へ行くか?」
朝食の席で、父さん――エドワードがそう言った。
「どこに行くの?」
「父さんは金融街だ。仕事がある」
「俺も行っていい?」
「ああ。母さんと一緒にな」
「行く!」
すぐに答えると、父さんは楽しそうに笑った。
「元気だな」
「だって外に出るの好きだもん」
「そうだったな」
父さんはそう言って、飲み物を口にする。
「父さん、今日は銀行?」
「ああ。いくつか話し合いがある」
「銀行って、父さんが働いてるところ?」
「銀行だけじゃない。いくつかの会社とも話をする」
父さんは少し考えてから説明してくれた。
「金を貸すこともある。会社が新しい事業を始めるときに、どうやって資金を集めるか相談されることもある」
「ふーん……」
前世の知識で言えば、融資や投資、資金調達といったところだろう。
言葉は知っている。
でも、父さんが実際にそんな仕事をしているということは、今まであまり意識していなかった。
「じゃあ、父さんって偉い人なの?」
俺が聞くと、母さんが小さく笑った。
「仕事では、それなりにね」
「それなり、か」
父さんは肩をすくめる。
「偉いかどうかより、頼られる仕事だと思っているよ」
その答えが、なんとなく父さんらしいと思った。
◇
金融街に近づくにつれて、街の景色が変わっていった。
ライロスは乾燥した惑星だ。
都市の外には赤茶けた岩山や峡谷が広がっている。
けれど、都市部に入れば、その印象は大きく変わる。
高層建築が並び、スピーダーが道路を行き交う。
ドロイドが荷物を運び、建物の入り口では警備システムが来訪者を確認している。
トワイレックもいる。
人間に似た種族もいる。
見たことのない姿をした異星人もいる。
けれど、誰もそれを特別なこととは思っていない。
誰かが仕事へ向かい、誰かが買い物をし、誰かが友人と話している。
俺にとっては異星人だらけの光景でも、ここで暮らす人々にとっては、それが普通の日常なのだ。
前世の俺なら、きっと大騒ぎしていただろう。
でも今の俺にとって、ここは映画の舞台ではない。
俺が暮らしている街だった。
「父さん!」
金融機関の建物に着くと、すぐに声が掛かった。
「おはようございます、ヴァレンさん」
「先日の融資の件ですが――」
「午後の会議について確認を――」
次々と人が集まってくる。
父さんは一人一人に丁寧に応じていた。
俺は母さんの隣で、その様子を眺めていた。
父さんの周りには、銀行の職員だけではない。
別の銀行の人。
企業の代表。
投資会社の担当者。
様々な立場の人間がいる。
それぞれが父さんに相談し、父さんは話を聞いている。
「……父さんって、やっぱり偉いんじゃない?」
小声で母さんに聞く。
「偉いというより、影響力があるのよ」
「影響力?」
「ええ。でも、それだけ責任も大きいの」
母さんは父さんを見ながら言った。
「お金は、たくさんの人の生活に関わるものだから」
俺はもう一度、父さんを見る。
何気なく見ていた父親が、少し違って見えた。
「じゃあ、行ってくる」
父さんがこちらへ戻ってきた。
「母さんと街を見てくるんだろう?」
「うん!」
「夕方には連絡する。気をつけてな」
「父さんもね」
「ああ」
父さんは俺の頭を軽く撫でると、仕事へ戻っていった。
俺と母さんも、その場を離れた。
◇
「さて、どこから見ようかしら」
母さんに手を引かれ、金融街を抜ける。
行政施設。
通信施設。
交通管制の建物。
街を歩くだけでも、様々な施設が目に入る。
空中には立体映像の案内表示が浮かび、ドロイドが情報を運び、人々が端末を操作している。
俺はしばらく黙って眺めていた。
技術は前世の地球とは比べものにならない。
宇宙船が飛び、ドロイドが働き、惑星と惑星の間を人々が行き来する。
それなのに、社会そのものは意外なほど似ていた。
銀行がある。
役所がある。
病院がある。
市場がある。
人が働き、買い物をして、家に帰る。
どれだけ文明が進んでも、生活するということそのものは、案外変わらないのかもしれない。
「カイル?」
「うん?」
「難しい顔をしてるわよ」
「ちょっと考えてた」
「何を?」
「ライロスって、思ってたより普通なんだなって」
母さんは少し目を丸くしたあと、笑った。
「そうね」
その返事が、なんとなく嬉しかった。
◇
市場に入ると、一気に賑やかになった。
「母さん、あれ何?」
「果物よ」
「あれは?」
「機械部品」
「あれは?」
「……私にも分からないわね」
「母さんも知らないの?」
「知らないものくらいあるわよ」
母さんが笑う。
屋台には様々な食べ物が並び、衣服や工具、電子機器、機械部品なども売られている。
トゥイレックの商人とドロイドが値段の交渉をしている。
その隣では、人間に似た種族の親子が食べ物を選んでいる。
少し離れた店では、見たことのない姿の異星人が工具を吟味していた。
誰もが、それぞれの日常を送っている。
俺はその光景を見ながら思った。
ここがスター・ウォーズの世界だということを、改めて実感する。
でも、映画で見ていたときとは違う。
異星人が歩いていることも、ドロイドが働いていることも、ここでは特別じゃない。
これが、俺の暮らす世界なのだ。
「これ、食べてみる?」
母さんが小さな包みを渡してくる。
「何?」
「お菓子」
一口食べる。
「……甘い」
「嫌い?」
「ううん。好き」
「じゃあ買って帰りましょうか」
「うん!」
俺は母さんの手を握った。
こういう時間が好きだった。
前世のことも、スター・ウォーズのことも考えなくていい。
ただ母さんと一緒に歩いている。
それだけで十分だった。
◇
市場の奥へ進むにつれて、少しずつ雰囲気が変わっていった。
人通りが減る。
店の前に立つ警備員が増える。
武装している者もいる。
閉まったままの店もある。
周囲を警戒しながら歩く者や、大きな荷物を急いで運ぶ者もいた。
俺は母さんの手を握り直した。
「あそこは?」
大通りから外れた区画を指差す。
母さんはそちらを見てから、静かに答えた。
「あそこには行かないの」
「どうして?」
「子供が一人で行く場所じゃないから」
「危ないの?」
母さんは少しだけ黙った。
「……そうね」
そして俺の手を握る力を少し強くした。
「ライロスには、良い人ばかりが住んでいるわけじゃないのよ」
俺は何も言わなかった。
前世の記憶が頭をよぎる。
アウター・リム。
銀河の中心から遠く離れた場所。
中央政府の力が十分に及ばない地域。
そして、そういう場所では犯罪組織が大きな力を持つことがある。
密輸。
違法取引。
恐喝。
労働者の搾取。
企業への圧力。
映画の中では背景にしか見えなかったものが、この世界では現実なのだ。
ライロスは、平和な惑星ではない。
普通の生活のすぐ隣に、危険が存在している。
そのことを、俺は初めて実感した。
◇
その後、母さんと一緒に医療センターへ向かった。
そこでは様々な種族の患者が治療を受けていた。
医療ドロイドが忙しそうに動き、高度な医療機器が患者の状態を確認している。
俺は思わず足を止めた。
やっぱり凄い。
前世の地球から見れば、まるでSF映画の世界だ。
……まあ、実際にSF映画の世界なのだけれど。
そのことがおかしくて、俺は少し笑った。
「どうしたの?」
「なんでもない」
母さんは不思議そうな顔をしていた。
◇
そして最後に訪れたのが、宇宙港だった。
そこへ入った瞬間、俺は言葉を失った。
「……すごい」
巨大な貨物船が目の前を通り過ぎていく。
その後ろでは小型輸送船が整備を受けている。
旅客用のシャトルが発着し、ドロイドが荷物を運んでいる。
様々な種族の旅行者が行き交っている。
作業員たちが忙しそうに働いている。
宇宙船が、当たり前のようにここから飛び立っていく。
俺は、その光景から目を離せなかった。
やがて一隻の船が離陸する。
エンジン音が響き、船体がゆっくりと浮き上がる。
上昇する。
どんどん小さくなっていく。
そして――ライロスの空の向こうへ消えていった。
「カイル?」
母さんの声が聞こえた。
「……うん」
「そんなに宇宙船が好きなの?」
俺はしばらく考えてから答えた。
「好き」
「どうして?」
「宇宙に行けるから」
口にしてみると、それだけで自分の気持ちがはっきりした。
俺は宇宙へ行きたい。
ライロスの外へ出たい。
もっと色々な場所を見てみたい。
この星だけでも、今日一日では知らない場所がたくさんあった。
なら、その外にはどれだけの世界があるのだろう。
「怖くない?」
母さんが聞いた。
俺は宇宙港を見た。
今日、市場の奥で見た光景を思い出す。
ライロスには危険がある。
宇宙だって、きっと安全ではない。
「……ちょっと怖い」
正直に答える。
「でも、行きたい」
母さんは少し驚いた顔をして、それから優しく笑った。
「そう」
それ以上、母さんは何も言わなかった。
ただ、俺の頭を撫でてくれた。
◇
その夜。
家に戻った俺は、自分の部屋の窓から空を眺めていた。
今日一日で、俺はライロスのいくつもの顔を見た。
金融街。
行政施設。
市場。
医療センター。
そして宇宙港。
人々が普通に暮らしている場所。
家族と笑い、仕事をし、買い物をする場所。
その一方で、犯罪や搾取が存在し、決して安全とは言えない場所もある。
それでも、俺は宇宙へ行きたいと思った。
むしろ、今日一日ライロスを歩いたことで、その気持ちは強くなった。
この星だけでも、俺の知らないものが山ほどある。
なら、その外には何がある?
どんな惑星がある?
どんな人々が暮らしている?
どんな宇宙船が飛んでいる?
考え始めると、止まらなかった。
前世で映画を見ていたときとは違う。
ここで死んだら、本当に死ぬ。
犯罪者もいる。
危険な場所もある。
宇宙は決して夢物語ではない。
それでも――。
「宇宙へ行きたい」
小さく呟いた。
ただ旅行するだけじゃない。
いつか、自分の力で宇宙へ出たい。
できることなら、自分の宇宙船を持ちたい。
そのためには、何が必要なのだろう。
操縦の知識。
機械の知識。
宇宙航行の知識。
銀河についての知識。
そして、この危険な世界で生きていくための力。
まだ五歳だ。
時間は十分にある。
なら、少しずつ準備すればいい。
窓の外を、一隻の小さな船が飛んでいった。
俺はその姿が見えなくなるまで、ずっと眺めていた。
いつか。
俺も、あの船のように――
この星の外へ行く。