スターウォーズ世界に転生したので一旗上げたらあっという間に巨大勢力に成長した! 作:アキラ7
宇宙へ行きたい。
そう思うようになってから、少しだけ毎日の景色が変わった。
朝起きて窓の外を見る。
街の向こうに広がるライロスの空。
その先には宇宙がある。
そう考えるようになった。
五歳の俺には、まだ遠い話だ。
今すぐ宇宙船に乗れるわけじゃない。
まして、自分の船を持つなんて夢のまた夢だ。
けれど、だからといって諦めるつもりもなかった。
時間はある。
だったら、その間にできることをすればいい。
「先生、宇宙船の操縦って、どうやって覚えるんですか?」
ある日の授業中、俺は家庭教師にそう尋ねた。
「操縦ですか?」
「うん」
家庭教師は少し考えるような顔をした。
「まずは基礎的な航法や、宇宙船の構造を学ぶことになるでしょうね。実際に操縦するには、それからでしょう」
「誰でも操縦できるの?」
「船によりますね。小型船なら比較的簡単なものもありますが、正式な資格が必要になる場合もあります」
「資格……」
知らない言葉ではない。
けれど、この世界では俺が思っていた以上に、宇宙船を扱うための決まりがあるらしい。
「宇宙船って、買えるんですか?」
「もちろん買えますよ」
その答えを聞いて、少しだけ胸が高鳴った。
「じゃあ、俺もいつか買える?」
家庭教師は笑った。
「勉強して、働いて、お金を貯めれば。いつかは」
「いつか……」
その言葉を頭の中で繰り返した。
宇宙船は夢の中だけに存在するものじゃない。
この世界では、実際に売買されている。
なら――俺にも可能性はある。
もちろん、それだけではない。
船を買えば終わりではない。
操縦できなければならない。
故障したら修理しなければならない。
どこへ向かうのか決めるためには、航法も必要だ。
銀河のことも知らなければならない。
そして何より、宇宙で生きていけるだけの力が必要になる。
考えれば考えるほど、やることが増えていった。
でも、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、少しずつ楽しみになっていた。
◇
その日の夕食。
俺はいつもより少しだけ緊張していた。
父さんと母さんが向かいに座っている。
いつもの食事。
いつもの家族の時間。
父さんが今日あった仕事の話を少しだけして、母さんがそれを聞きながら笑う。
俺の好きな料理が食卓に並んでいる。
何も変わらない夕食だった。
だからこそ、言い出しにくかった。
俺は何度も言葉を考えていた。
どう切り出せばいいのか分からない。
何度か口を開きかけて、やめる。
そんな俺を見て、母さんが首を傾げた。
「カイル、今日は静かね」
「そう?」
「ええ。さっきからずっと何か考えてる顔をしてるわ」
父さんも俺を見る。
「何かあったのか?」
「……ううん」
俺は首を振った。
でも、それだけでは終わらせられなかった。
「……話したいことがある」
父さんが箸を置いた。
「そうか」
母さんも急かさずに待っている。
「ゆっくりでいいわよ」
その言葉で、少しだけ緊張がほぐれた。
俺は一度だけ深呼吸した。
そして、二人の顔を見る。
「俺、将来……宇宙へ行きたい」
言った。
とうとう口にした。
自分の中では、ずっと考えていたこと。
でも、両親に向かってはっきり言ったのは初めてだった。
しばらく沈黙が続いた。
けれど――。
父さんも母さんも、驚いた顔はしなかった。
「……驚かないの?」
俺が聞くと、母さんが少し笑った。
「ふふ。やっぱり、そう言うと思った」
「何が?」
「この前、宇宙港であなたがどんな顔をしていたか、覚えてるもの」
母さんは懐かしそうに目を細める。
「宇宙船が飛んでいくのを、ずっと見ていたでしょう?」
「……うん」
「帰り道でも宇宙船の話ばかりしていたしね」
「そんなに?」
「そうよ」
母さんが笑う。
父さんも小さく笑った。
「だから、母さんから聞いていた」
「父さんに話したの?」
「その日の夜にね」
母さんは少しだけ父さんを見る。
「カイルが宇宙へ行きたいって言っていたこと。それから、本当にそう思っているのか、しばらく様子を見たほうがいいんじゃないかって」
「そうだったんだ……」
「すぐに決めつけるのも違うと思ったからな」
父さんが静かに言う。
「子供は、目の前にあるものに憧れることもある。それ自体は悪いことじゃない」
「うん」
「だから、しばらく見ていた」
父さんが俺を見る。
「だが、お前はその後も宇宙のことを調べていた」
「……」
「今日も先生に質問したんだろう?」
「なんで知ってるの?」
思わず聞くと、父さんは笑った。
「先生から聞いた」
「そっか……」
俺は少し恥ずかしくなった。
自分では隠しているつもりだったのに、どうやら全部見られていたらしい。
「それでね」
母さんが言った。
「お父さんと二人で、少し調べていたの」
「何を?」
「あなたが宇宙へ行くために、どんな道があるのか」
「……!」
胸の奥が、少し熱くなった。
俺が一人で考えていたことを、両親も一緒に考えてくれていた。
「本当に?」
「ああ」
父さんが頷いた。
「お前が本気なら、選べる道をいくつか用意しておこうと思ってな」
「俺のために?」
「もちろんだ」
父さんは当たり前のように答えた。
「お前の人生だからな」
その言葉が、妙に嬉しかった。
◇
食事が終わると、父さんは別室からいくつかの資料を持ってきた。
「まだお前には少し難しいかもしれないが」
そう言って、テーブルの上に二つの資料を並べる。
「大きく分ければ、今のところ二つの道がある」
「二つ?」
「ああ」
父さんは一つ目の資料を指した。
「一つ目は、商人の船に乗ることだ」
「商人?」
「父さんには、銀河を行き来している知人が何人かいる。貨物や商品を運ぶ仕事をしている人たちだ」
俺は資料を覗き込む。
「その中には、若い者を船に乗せて仕事を教えている者もいる」
「俺も乗れる?」
「将来な」
父さんは念を押した。
「今すぐという話じゃない」
「うん」
「船に乗れば、実際の宇宙を経験できる。荷物の扱いから始めて、船の整備、航法、商取引。仕事をしながら覚えていくことになる」
それは、かなり魅力的だった。
実際に宇宙を旅しながら学ぶ。
知らない惑星へ行き、知らない人々と出会い、知らない文化を見る。
俺が想像していた宇宙生活に一番近い。
「でも、危ないんでしょう?」
俺が聞く。
父さんは頷いた。
「ああ。商人の船が安全とは限らない」
「犯罪組織とか?」
俺が言うと、父さんは少しだけ目を細めた。
「よく知っているな」
「前に母さんと市場で見たから」
「そうだったのか」
父さんは少し考えてから続ける。
「商人として銀河を旅するなら、良い人間だけを相手にするわけにはいかない。密輸業者や犯罪組織と関わることもある」
「……」
「だから、自由である分、自分の身は自分で守らなければならない」
俺は資料を見つめた。
魅力的だけれど、簡単な道ではない。
「もう一つは?」
俺が聞く。
父さんは二つ目の資料を指した。
「惑星防衛隊だ」
「防衛隊……」
「ライロスにも、惑星を守るための組織がある。そこに入れば、時間をかけて訓練を受けられる」
「どんなことを?」
「体力作りから始まって、戦闘訓練、武器の扱い、通信、航法、宇宙船の操縦。組織の中で必要な知識を一つずつ身につけていくことになる」
「軍隊みたいなもの?」
前世の記憶から出た言葉だった。
「似ている部分はあるな」
父さんは答える。
「規律は厳しい。命令に従うことも必要になる」
「じゃあ、好きなところには行けない?」
「任務があるからな」
母さんが補足する。
「でも、その代わりに一つずつ確実に力を身につけられるわ」
「体も?」
「ええ」
母さんは笑った。
「今のカイルには、少し想像しにくいでしょうけどね」
「俺だって鍛えられるよ」
「ふふ。そうね」
母さんが笑う。
「その意気込みは大事よ」
父さんも笑っていた。
俺は少しだけむっとした。
「本気だからね」
「分かっている」
父さんの返事は優しかった。
「だからこそ、ちゃんと考えているんだ」
俺は二つの資料を交互に見る。
商人の船。
惑星防衛隊。
どちらも、宇宙へ行くための道だった。
でも、同じではない。
商人の船なら、自由に銀河を旅することができる。
その代わり、自分で考え、自分で危険を切り抜けなければならない。
防衛隊なら、時間をかけて知識や技術、体力を身につけられる。
その代わり、組織の一員として行動する必要がある。
「……どっちがいいんだろう」
思わず呟いた。
「今は分からなくていいわ」
母さんが言った。
「そうなの?」
「ええ」
母さんは俺の頭を優しく撫でる。
「あなたはまだ五歳だもの」
「でも……」
「焦らなくていいのよ」
父さんも頷いた。
「人生は長い。今すぐ一つに決める必要はない」
「じゃあ、いつ決めるの?」
「自分で決められると思ったときだ」
父さんはそう言って、二つの資料を俺の前に残した。
「そのために、今から準備すればいい」
俺は資料を見た。
航法。
宇宙船。
機械。
体力。
銀河の地理。
まだ知らないことばかりだ。
「……じゃあ、どっちを選んでもいいように、両方のことを勉強する」
俺が言うと、父さんは少し驚いたような顔をした。
そして、笑った。
「それがいい」
「私もそう思うわ」
母さんも頷く。
「焦って決めるより、たくさん知ってから決めたほうがいいもの」
「うん」
俺は頷いた。
それから、もう一つだけ聞きたかったことを口にした。
「父さん」
「なんだ?」
「俺……いつか、自分の宇宙船が欲しい」
父さんは黙って俺を見る。
母さんは微笑んでいた。
「買ってくれる?」
少しだけ期待して聞く。
すると父さんは苦笑した。
「そこはまだ話が早いな」
「……そっか」
「だが」
父さんは続けた。
「可能性まで否定するつもりはない」
「本当?」
「ああ」
父さんは真剣な顔で言った。
「ただし、自分で宇宙船を扱えるだけの力を身につけること。それが先だ」
母さんも頷く。
「船を持つことより、船を任せられる人になることのほうが大切よ」
「……分かった」
「それに」
母さんが少し笑った。
「自分で頑張って手に入れた船なら、きっともっと嬉しいわよ」
「うん」
俺も笑った。
今すぐじゃない。
でも、可能性はある。
それだけで十分だった。
◇
その夜、部屋に戻ってからも、なかなか眠れなかった。
机の上には、今日まで使っていた教材がある。
読み書き。
計算。
歴史。
地理。
今まで勉強してきたもの。
その中に、これから学ぶものが増えていく。
航法。
宇宙船。
銀河の地理。
機械。
そして、体を鍛えること。
商人の船に乗るのか。
惑星防衛隊へ進むのか。
まだ決められない。
でも、それでいい。
今はまだ、どちらを選ぶか決める時期ではない。
だからこそ、今できることをやろう。
どちらの道を選ぶことになっても困らないように。
俺は机の上に置かれた教材を眺めた。
「まずは……勉強だな」
明日から、先生に宇宙航法のことをもっと聞いてみよう。
機械についても知りたい。
銀河のことも、もっと勉強したい。
それから、体も鍛えよう。
五歳の今なら、まだいくらでも時間がある。
窓の外には、夜のライロスが広がっている。
その向こうには、俺のまだ知らない銀河がある。
今は、まだ遠い。
でも――。
いつか必ず、あそこへ行く。
それは、もうただの夢ではなかった。
俺がこれから生きていくための、目標だ。