スターウォーズ世界に転生したので一旗上げたらあっという間に巨大勢力に成長した!   作:アキラ7

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第4話 最初の一歩

 

 宇宙へ行きたい。

 

 そう口にした翌日から、俺の生活は少しだけ変わった。

 

 朝食を終えると、いつものようにダン先生が待っている部屋へ向かう。

 

「おはようございます、先生」

 

「おはようございます、カイル君。今日も早いですね」

 

「はい」

 

 机の上には、今日使う教材が並べられている。

 

 算術、読み書き、歴史、地理。

 

 これまでも勉強してきたものばかりだ。

 

 けれど、昨日までとは気持ちが違っていた。

 

 これらの勉強が、いつか宇宙へ行くための力になる。

 

 そう思うだけで、机に向かうことが少し楽しく感じられた。

 

「今日は何を勉強するんですか?」

 

「午前中は算術と基礎物理、それから地理です。その後、少しだけ宇宙船について触れましょう」

 

「宇宙船!」

 

 思わず声が大きくなった。

 

 ダン先生が小さく笑う。

 

「そんなに慌てなくても、逃げませんよ」

 

「すみません」

 

「いえいえ。興味を持つことは良いことです」

 

 俺は椅子に座った。

 

 午前の授業が始まる。

 

 算術を解き、文章を読み、惑星の地理について学ぶ。

 

 ライロスの地図を見ながら、主要都市や行政区画について覚えていく。

 

 そして最後に、宇宙船についての基礎的な説明を受けた。

 

「宇宙船には様々な種類があります。貨物船、旅客船、輸送船、軍用船など、それぞれ用途が違います」

 

「軍用船には武器があるんですよね?」

 

「ええ。ただし、今日はそこまで詳しく扱いません。カイル君はまだ五歳ですからね」

 

「……はい」

 

 少し残念だった。

 

 前世ではスター・ウォーズの映画を何度も見た。

 

 宇宙船の名前も、ある程度は知っている。

 

 だから、実際の宇宙船についても知っているつもりだった。

 

 けれど――。

 

「船には船体、エンジン、通信装置、センサー、航法装置などがあります。大型船になれば、それだけ構造も複雑になります」

 

 実際に教えられてみると、知らないことのほうが多かった。

 

 映画で見る宇宙船と、この世界で実際に使われている宇宙船は同じではない。

 

 知っていると思い込んでいたことが、ただの知識の断片だったことに気づかされる。

 

「先生」

 

「なんでしょう?」

 

「ハイパードライブって、どういう仕組みなんですか?」

 

「……そこは私も専門ではありません」

 

「そうなんですか?」

 

「私は宇宙船の技術者ではありませんからね。基本的なことなら説明できますが、詳しい仕組みについては専門の人に聞いたほうがいいでしょう」

 

「そうですか……」

 

「ですが、だからといって知らなくていいわけではありませんよ」

 

 ダン先生は教本を閉じた。

 

「宇宙へ行きたいのであれば、まずは自分が何を知らないのかを知ることです」

 

「自分が知らないこと……」

 

「ええ。分からないことを一つずつ調べていけばいいのです」

 

 その言葉は、妙に心に残った。

 

 俺は宇宙について何も知らない。

 

 いや、正確には知っていることもある。

 

 だが、それはこの世界で生きるための知識ではない。

 

 なら、これから覚えていけばいい。

 

 そう考えると、不思議と焦る気持ちはなくなった。

 

 午前の授業が終わる頃には、時計の針は昼を指していた。

 

「今日もよく頑張りましたね」

 

「はい」

 

 昼食を終えた後、午後も二時間ほど勉強した。

 

 午前中に比べれば少し疲れていたが、最後まで机に向かった。

 

 これで今日の勉強は五時間。

 

 俺は椅子から立ち上がる。

 

「終わった……」

 

 達成感はあった。

 

 でも――。

 

「カイル」

 

 部屋の入り口から母さんが顔を出した。

 

「はい?」

 

「今日はもう勉強は終わり?」

 

「はい」

 

「それなら、遊びに行ってきなさい」

 

「……遊び?」

 

「そう。あなた、最近ずっと勉強しているでしょう?」

 

「でも、宇宙へ行くためには――」

 

「勉強が必要なのは分かっています」

 

 母さんは笑った。

 

「でも、あなたはまだ五歳よ」

 

「……」

 

「勉強することも大切。でも、遊ぶことも同じくらい大切なの」

 

 反論しようとした。

 

 けれど、母さんの顔を見ると何も言えなくなった。

 

「外に出て、少し体を動かしてきなさい。近くの広場なら危険も少ないわ」

 

「分かりました」

 

「夕食までには戻ってくるのよ」

 

「はい」

 

 俺は部屋を出た。

 

 勉強をしなくていい。

 

 そう思うと、少しだけ不思議な気分だった。

 

 母さんに言われた通り、俺は家を出て広場へ向かった。

 

 ヴァレン家のある富裕層地区には、広い公共広場がいくつかある。

 

 その中でも近くにある広場は、昼間から多くの人で賑わっていた。

 

 中央には大きな噴水があり、水が陽光を反射してきらきらと輝いている。

 

 周囲には出店が並び、軽食や飲み物、玩具などを売っている。

 

 大人たちは談笑し、子供たちは広場を走り回っていた。

 

 ライロスで暮らす人々は、今日もいつも通りの日常を過ごしている。

 

 そんな光景を眺めながら歩いていると――。

 

 噴水から少し離れた場所で、二人の子供が何かを囲んでいるのが目に入った。

 

 一人は、トルグータ人の少年。

 

 俺よりずっと背が高い。

 

 もう一人は、トワイレックの少女だった。

 

 二人の前には、小さなボードが置かれている。

 

 その上には、いくつもの立体映像が浮かんでいた。

 

「そこだ!」

 

 少年が声を上げる。

 

 ボードの上で、ホログラムの怪獣が動いた。

 

 四本の脚を持つ巨大な怪獣が唸り声を上げながら進み、向かい側にいる別の怪獣へと襲いかかる。

 

 光で作られた怪獣同士がぶつかり合い、派手なエフェクトが広がった。

 

「やった!」

 

 少年が拳を突き上げる。

 

「まだ終わってないよ」

 

 少女が冷静に言った。

 

「分かってるって!」

 

「だったら、次の手を考えて」

 

「おう!」

 

 二人は楽しそうに遊んでいる。

 

 俺は思わず足を止めた。

 

 その瞬間、記憶の片隅にあるものと目の前の光景が重なった。

 

 ――デラーチェック。

 

 前世の世界で、その名前を聞いたことがある。

 

 スター・ウォーズの世界に登場する、ホログラムの怪獣たちを使ったゲーム。

 

 映像や資料で見たことがある。

 

 存在そのものは知っていた。

 

 けれど、実際に遊んだことはない。

 

 ましてや、こんな間近で見るのは初めてだった。

 

「……本当にあるんだ」

 

 思わず呟く。

 

 すると、少年がこちらを振り向いた。

 

「ん?」

 

 目が合った。

 

 少し気まずくなった俺は、ボードへ視線を戻す。

 

「それ、デラーチェックだよね?」

 

「そうだけど?」

 

 少年が不思議そうな顔をする。

 

「知ってるのか?」

 

「名前だけ。遊んだことはないけど」

 

「じゃあ、やってみる?」

 

 少年はすぐに笑った。

 

「面白いぞ!」

 

「え?」

 

「ここ座れよ!」

 

 少年が自分の隣を叩く。

 

「サム、急に誘ったら困るでしょ」

 

 少女が口を挟んだ。

 

「そうか?」

 

「初めてなんだから、ルールも分からないと思うよ」

 

「それもそうだな」

 

 少年はあっさり頷いた。

 

「じゃあ、まず見てろよ」

 

 少女が少しだけ場所を空けてくれる。

 

「ここに座れば?」

 

「ありがとう」

 

 俺は二人の横に座った。

 

「僕はサム」

 

 少年が名乗った。

 

「俺はカイル」

 

 続いて俺も名乗る。

 

「カイルか。よろしく!」

 

 サムは笑顔で手を差し出してきた。

 

 俺も手を握る。

 

「よろしく」

 

 少女もこちらへ顔を向けた。

 

「私はエミリア。よろしくね」

 

「よろしく、エミリア」

 

 こうして、俺は二人の名前を知った。

 

 サムとエミリア。

 

 それが、俺と二人との最初の出会いだった。

 

「じゃあ、見てて」

 

 エミリアがボードを指差した。

 

「デラーチェックは、ホログラムの怪獣を使って戦うゲームなの」

 

「うん。そこまでは知ってる」

 

「そうなんだ」

 

 エミリアが少し意外そうな顔をした。

 

「じゃあ、細かいルールを説明するね」

 

 エミリアはボードの上を指で示しながら説明してくれた。

 

「怪獣にはそれぞれ特徴があるの。力が強いもの、速いもの、遠くから攻撃できるもの……」

 

「なるほど」

 

「ボードの上には移動できる範囲があって、順番に怪獣を動かすの」

 

 エミリアの説明は分かりやすかった。

 

 要点が整理されている。

 

 何をすればいいのか、何を考えればいいのかが順番に説明されていく。

 

「つまり、相手の怪獣を倒せばいいんだね?」

 

「基本的にはそう。ただ、単純に強い怪獣を出せば勝てるわけじゃないよ」

 

「どうして?」

 

「速い怪獣に囲まれたり、遠距離攻撃をされることもあるから」

 

「なるほど……」

 

 俺はボードをじっと見た。

 

 怪獣の位置。

 

 移動できる範囲。

 

 攻撃できる距離。

 

 いろいろなことを考え始める。

 

「カイル」

 

「何?」

 

「難しく考えなくていいよ」

 

「え?」

 

「最初なんだから、好きな怪獣を選んでみたら?」

 

「好きな怪獣……」

 

 ボードの上には様々な怪獣が表示されている。

 

 鋭い爪を持つもの。

 

 大きな翼を持つもの。

 

 小型で素早そうなもの。

 

 巨大な体を持つもの。

 

「こいつがいい!」

 

 サムが指を差した。

 

 そこに現れたのは、大きな牙を持つ怪獣だった。

 

「こいつ、強いんだぞ!」

 

「でも動きは遅いよ」

 

 エミリアがすぐに指摘する。

 

「強ければいいんだよ!」

 

「そう言って、さっき負けそうになったの誰?」

 

「……俺」

 

「でしょ?」

 

「でも今回は勝つ!」

 

 二人のやり取りを見ていると、自然と笑いがこぼれた。

 

 なんだか楽しそうだった。

 

「カイルは?」

 

「俺?」

 

「どの怪獣がいい?」

 

「……」

 

 俺はボードを見る。

 

 少し迷った。

 

 前世でゲームの存在を知っていたからこそ、ある程度の知識はある。

 

 けれど、今ここにあるデラーチェックを実際に遊んだことはない。

 

 最も強いものを選ぶべきなのか。

 

 それとも、速いものがいいのか。

 

 勝つためには――。

 

「考えすぎ」

 

 サムが笑った。

 

「好きなのでいいって」

 

「でも……」

 

「ゲームなんだから、まず遊ぼうぜ!」

 

 その言葉に、俺は少しだけ戸惑った。

 

 遊ぶ。

 

 俺は最近、何をするにも目的を考えていた。

 

 宇宙へ行くために勉強する。

 

 宇宙へ行くために身体を鍛える。

 

 宇宙へ行くために知識を増やす。

 

 でも、今ここで必要なのは――。

 

 ただ遊ぶことだった。

 

「じゃあ……これ」

 

 俺が選んだのは、小さな怪獣だった。

 

「こいつ?」

 

 サムが首を傾げる。

 

「うん」

 

「なんで?」

 

「……見た目が好きだから」

 

 一瞬の沈黙。

 

 そしてサムが笑った。

 

「いいじゃん!」

 

 エミリアも微笑む。

 

「それでいいと思うよ」

 

 ゲームが始まった。

 

 最初は何をすればいいのか分からなかった。

 

「カイル、そっちは動けるよ」

 

「ここ?」

 

「うん」

 

「じゃあ、こっちにする」

 

「お、いいじゃん!」

 

 サムが声を上げる。

 

 俺が怪獣を動かす。

 

 ホログラムの怪獣がボードの上を走った。

 

 それだけなのに、妙に楽しかった。

 

「次は俺!」

 

 サムの怪獣が動く。

 

「待って、それだと――」

 

 エミリアが言い終わる前に、サムの怪獣が敵の攻撃を受けた。

 

「うわっ!」

 

「だから言ったのに」

 

「まだ大丈夫!」

 

「大丈夫じゃないよ」

 

「大丈夫だって!」

 

 二人のやり取りを見ながら、俺は笑った。

 

 こんなふうに遊ぶのは、いつ以来だろう。

 

 前世の記憶が戻ってから、俺はずっと考えていた。

 

 この世界でどう生きるのか。

 

 どうすれば安全に生きられるのか。

 

 どうすれば宇宙へ行けるのか。

 

 そればかりだった。

 

 でも――。

 

「カイル、次どうする?」

 

 エミリアが聞いてきた。

 

「え?」

 

「あなたの怪獣、次に動かせるよ」

 

「俺が決めるの?」

 

「うん」

 

 俺はボードを見る。

 

 少し考えた。

 

 今度は「正解」を探すのではなく、自分がやりたいことを考えた。

 

「……こっちに行く」

 

「分かった」

 

 怪獣が動く。

 

 そして次の瞬間――。

 

「当たった!」

 

 サムが叫んだ。

 

 俺の怪獣の攻撃が、相手の怪獣に命中した。

 

「やった!」

 

 思わず声が出た。

 

「ほら、楽しいだろ?」

 

 サムが笑う。

 

「うん!」

 

 気づけば、俺も笑っていた。

 

 その後、何度かデラーチェックを続けた。

 

 勝ったり、負けたり。

 

 サムは勝つと大喜びし、負けると悔しそうにする。

 

 エミリアは二人の様子を見ながら、ときどきルールを説明してくれた。

 

 俺は遊び方を覚えていった。

 

 気づけば、空が少し赤くなっていた。

 

「そろそろ帰らないと」

 

 エミリアが言った。

 

「もうそんな時間か」

 

 サムが驚く。

 

「楽しかったからね」

 

 俺も立ち上がった。

 

「またやろうぜ、カイル!」

 

「うん」

 

「明日も来る?」

 

「分からないけど……」

 

 俺は少し考えた。

 

「来たい」

 

 サムが笑う。

 

「じゃあ決まりだな!」

 

 エミリアも微笑んだ。

 

「また一緒に遊ぼう」

 

「うん」

 

 二人と別れ、俺は家へ向かって歩き出した。

 

 夕暮れの広場を振り返る。

 

 噴水の水音。

 

 出店から漂う料理の匂い。

 

 遊び続ける子供たちの声。

 

 さっきまで遊んでいた二人の姿。

 

 胸の奥に、何か新しいものが生まれている気がした。

 

 家に戻ると、母さんが出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま」

 

「楽しかった?」

 

「うん」

 

 自分でも驚くほど素直に答えていた。

 

「何をして遊んだの?」

 

「デラーチェック」

 

「あら、懐かしいわね」

 

「知ってるの?」

 

「もちろん。子供の頃に遊んだことがあるわ」

 

「そうなんだ」

 

 夕食の席では、今日あったことをいろいろ話した。

 

 新しく会った二人のこと。

 

 デラーチェックのこと。

 

 サムが勢いよく怪獣を動かして失敗したこと。

 

 エミリアがそれを冷静に注意していたこと。

 

 母さんは楽しそうに聞いていた。

 

「良かったわね」

 

「うん」

 

「勉強だけじゃなくて、こういう時間も大切なのよ」

 

「……分かった」

 

 その日の夜。

 

 俺は机の前に座っていた。

 

 今日の勉強はもう終わっている。

 

 それでも、自然と教本を開いた。

 

 けれど、いつもとは少し違う気持ちだった。

 

 今日、俺は勉強とは関係のないことをした。

 

 ただ遊んだ。

 

 そして、それが楽しかった。

 

 宇宙へ行くためには、知識が必要だ。

 

 身体も鍛えなければならない。

 

 船を操る技術も、航法も、機械の知識も必要になるだろう。

 

 でも、それだけではないのかもしれない。

 

 外へ出て、人と話す。

 

 自分で何かを選ぶ。

 

 失敗して、それでももう一度やってみる。

 

 そういうことも、いつか宇宙へ行ったときには必要になるのだろう。

 

「……まだまだだな」

 

 俺は小さく呟いた。

 

 宇宙は遠い。

 

 五歳の俺には、できることなんてほとんどない。

 

 だからこそ、今できることを一つずつ積み重ねるしかない。

 

 勉強する。

 

 身体を動かす。

 

 外へ出る。

 

 人と関わる。

 

 そして、自分で考えて、自分で決める。

 

 今日、俺はその最初の一歩を踏み出した気がした。

 

 それが宇宙へ続く道なのかは、まだ分からない。

 

 けれど――。

 

 いつか宇宙へ行く。

 

 その気持ちだけは、昨日より少し強くなっていた。

 

 

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