スターウォーズ世界に転生したので一旗上げたらあっという間に巨大勢力に成長した! 作:アキラ7
三年という時間は、思っていた以上に長かった。
五歳だった俺は、いつの間にか八歳になっていた。
身長も伸びたし、できることも増えた。
毎日の勉強も続けている。
ただ、五歳の頃とは少し違っていた。
あの頃の俺は、とにかく宇宙へ行くために必要なことを覚えようとしていた。
勉強すればするほど、宇宙へ近づける。
そんなふうに考えていたのだと思う。
今は違う。
勉強を続けることに変わりはないが、知らないことを見つけるたびに、それを実際に確かめてみたいと思うようになった。
「ここは……この航路を使うのか」
机の上に広げた銀河の地図を見ながら、俺は指を動かした。
航路と惑星の位置。
ハイパースペースを利用した移動。
航法に関する基本的な知識。
以前よりも分かることは増えた。
それでも、実際の宇宙船に乗ったことはない。
そこだけは、本を何冊読んでも埋められない。
「カイル」
声をかけられて振り返る。
家庭教師のダンが、少し呆れた顔で立っていた。
「そろそろ休憩にしたらどうだ?」
「もうそんな時間?」
「ああ。朝からずっと机に向かっている」
「……分かった」
俺は本を閉じた。
立ち上がりながら、ふと思いつく。
「ダン。実際の宇宙船を操縦するには、やっぱり本だけじゃ足りないよな?」
「当然だ」
ダンは即答した。
「知識を身につけるのは必要だが、実際の機械を扱う経験も必要になる」
「やっぱりそうか」
「ただし、私が教えられるのは基礎的な知識までだ。宇宙船についても、それほど詳しいわけではない」
「うん」
ダンは分からないことを分からないと言う。
俺は、そのことを以前より大切に思うようになっていた。
知識があることと、実際に経験していることは違う。
誰かから聞いた話と、自分で確かめたことも違う。
それを意識するようになったのは、ここ数年の勉強のおかげだった。
その日の午後。
俺は家を出て、以前から三人で集まっている広場へ向かった。
「あっ、カイル!」
声が聞こえる。
見ると、サムが大きく手を振っていた。
その隣にはエミリアもいる。
「遅いぞ!」
「別に待ち合わせしてないだろ」
「細かいことは気にするなよ」
サムが笑う。
三年前と比べて、サムはかなり大きくなっていた。
十二歳になった彼は身体もしっかりしていて、以前よりずっと頼もしく見える。
エミリアも十一歳になり、落ち着いた雰囲気がさらに増していた。
「久しぶり」
「昨日も会っただろ」
「そうだったね」
エミリアが笑う。
こうして三人で話していると、昔と変わらない。
けれど、それぞれが少しずつ違う方向へ進み始めていることを、俺は感じていた。
「そういえば、二人とも最近はどうしてるんだ?」
何気なく聞くと、サムがすぐに答えた。
「俺は訓練を続けてる」
「防衛軍の?」
「ああ」
サムは頷いた。
「親父たちに教えてもらってるんだ」
「何を?」
「いろいろだよ。身体を鍛えたり、ブラスターの扱いを覚えたり」
「撃つのか?」
「練習はしてる」
サムは少し得意そうに笑った。
「分解して、組み立てるところからだな。扱い方を間違えたら危ないから、そこはかなりうるさく言われる」
「サムの親なら厳しそうだな」
「母さんも同じだよ」
サムは肩をすくめた。
「それに、撃てればいいってわけじゃないらしい」
「らしい?」
「そこは親父から聞いた話」
サムはそう言ってから、自分が実際にやったことを説明した。
「俺自身がやったのは、ブラスターの分解と組み立て、それから射撃訓練。あとは身体を鍛えたりしてる」
「なるほど」
「防衛軍の仕事全部を知ってるわけじゃないぞ。実際に入ったわけじゃないからな」
サムはあっさり言った。
「親父たちから聞いた話と、俺が自分でやったことは別だ」
「ちゃんと分けて考えてるんだな」
「当たり前だろ」
サムは笑った。
「知らないことまで知ったふりするほうが変じゃないか?」
「それもそうだな」
その考え方は、俺にもよく分かった。
「それで、本当に防衛軍に入りたいのか?」
「今はそのつもり」
サムは空を見上げた。
「まだ先の話だけどな」
そして、少しだけ真面目な顔になる。
「親父たちは、力を持つなら責任も持てって言ってる」
「責任?」
「うん。力があるからって、自分が偉いと思うなって」
サムは苦笑した。
「これ、何回聞かされたか分からない」
「でも、覚えてるんだな」
「そりゃ覚えるよ」
サムはそう言った。
「何度も言われるってことは、それだけ大事なんだろ」
その答えに、俺は少し笑った。
「サムらしいな」
「だろ?」
次にエミリアを見る。
「エミリアは?」
「私は……宇宙港のことをいろいろ覚えてるよ」
「仕事を?」
「まだ仕事をしてるわけじゃないよ」
エミリアはすぐに否定した。
「両親が宇宙港で働いてるから、迎えに行ったり、話を聞いたりしてるだけ」
「それでも詳しくなりそうだな」
「そうだね」
エミリアは少し考えてから話した。
「船が来てから出ていくまでには、いろんな人が関わってるっていうのは、両親から聞いた。それに実際に宇宙港へ行って、整備や貨物の作業を見たこともある」
「船の整備も?」
「見たことはあるよ。でも、私が整備をやったわけじゃない」
そこも、きちんと区別する。
「私が自分で覚えたのは、ドロイドのほうかな」
「そういえば、前に言ってたな」
「うん」
エミリアは嬉しそうに頷いた。
「よく使われているタイプなら、整備や修理ができるようになったよ。部品が揃っていれば、組み立てもできる」
「すごいな」
「でも、特殊なものは無理だからね」
「特殊?」
「軍用とか、珍しい機種とか。見たことがないものまで分かるわけじゃないよ」
「なるほど」
エミリアは少し考えてから続けた。
「宇宙港の仕事も、私が知ってるのは両親から聞いたことや、自分で見たことが中心だから。実際に働いたら、また違うことが分かると思う」
「それは確かにそうだな」
俺は頷いた。
こういう話を聞くたびに思う。
人から聞いた情報だけで、その仕事の全てが分かるわけではない。
実際にやってみなければ分からないことがある。
逆に、自分が経験したことなら、少なくともその部分については自分の知識として扱える。
「そういえば」
俺はエミリアに聞いた。
「宇宙船なら、どんな船がいいと思う?」
「どんな船?」
「速い船とか、大きな船とか」
エミリアは少し考えた。
「私は、修理しやすい船がいいと思う」
「速さより?」
「うん」
エミリアは宇宙港で見てきた船を思い浮かべるように話した。
「船って、壊れることがあるでしょう?」
「まあ、機械だからな」
「だったら、直しやすいほうがいいと思う。特殊な部品じゃなくて、普通に手に入る部品が使えて、構造も分かりやすい船」
「それはエミリア自身の考え?」
「うん」
エミリアは頷いた。
「実際に船を設計したわけじゃないから、正しいかどうかは分からないけど」
「でも、実際に宇宙港で船を見てきたからこその考えなんだな」
「そういうこと」
俺はその言葉を聞きながら考えた。
船は速ければいいわけではない。
強ければいいわけでもない。
どこで、どう使うのか。
壊れたとき、どうするのか。
そんなことまで考える必要がある。
「カイルは?」
サムに聞かれて、俺は顔を上げた。
「何が?」
「将来だよ」
「ああ……」
俺は少し考えた。
「俺は、まだ決めてない」
「宇宙に行きたいんだろ?」
「それは変わらない」
「だったら、防衛軍に来ればいいじゃん」
サムが笑う。
「俺と一緒なら面白そうだろ?」
「それも一つの方法だと思う」
俺が答えると、エミリアが頷いた。
「でも、カイルが何をしたいのかは、カイルが決めたほうがいいよ」
「そうだな」
サムも頷いた。
「俺だって、カイルに無理やり来てほしいわけじゃない」
「ありがとう」
「友達だからな」
その言葉が、妙に嬉しかった。
三年前なら、俺たちが将来別々の道を進むなんて考えもしなかっただろう。
今は少し違う。
サムにはサムの道がある。
エミリアにもエミリアの興味がある。
そして俺にも、俺の目標がある。
同じ場所へ行く必要はない。
それでも、友達でいられる。
帰り道。
一人になった俺は、今日の話を思い返していた。
サムは身体を鍛え、実際にブラスターの扱いを練習している。
エミリアは一般的なドロイドの整備を覚えている。
そして俺は、勉強を続けている。
けれど――。
「俺は、何ができるんだ?」
ふと、そんな疑問が浮かんだ。
航法の知識。
銀河の地理。
宇宙船についての勉強。
知識なら少しずつ身についてきた。
でも、自分の身を守る力はない。
もちろん、今の生活で困っているわけではない。
家の周辺は安全だし、危険な場所へ行く必要もない。
だから、今すぐどうにかしなければならない問題ではない。
それでも、宇宙へ出るなら話は変わる。
ライロスの外には、犯罪組織もいる。
密輸を行う者もいる。
アウター・リムには、危険な場所がいくらでもある。
俺は五歳の頃から、そのことを知っている。
だからこそ、ただ宇宙船に乗るだけでは足りないのだと思った。
家に戻ると、俺は机に向かった。
ノートを開く。
そして、新しいページに書き始めた。
――宇宙へ行くために必要なもの。
航法。
操船。
宇宙船の構造。
整備。
銀河の地理。
商売。
いろいろな種族との会話。
宇宙港での経験。
そして、自分の身を守るための力。
最後にもう一つ書き加える。
――実際に宇宙で働いている人から話を聞く。
ペンを置いた。
「……多いな」
思わず苦笑する。
でも、前ほど途方に暮れてはいなかった。
一つずつ身につければいい。
分からないことは、分かる人に聞けばいい。
そして、実際に経験できることは経験すればいい。
それが今の俺にできることだ。
夕食の後。
父さんが仕事から戻ってきた。
俺は今日、サムとエミリアから聞いた話を伝えた。
「サムは防衛軍を目指してる」
「そうか」
「エミリアは宇宙港の仕事を身近で見てるから、船についてもいろいろ考えてるみたいだ」
「二人とも、自分の興味がある方向へ進んでいるんだな」
「うん」
俺は少し間を置いた。
「俺は、まだ決めてない」
「それでいい」
父さんは穏やかに答えた。
「八歳で人生の全てを決める必要はない」
「でも、宇宙へ行きたい」
「それは知っている」
父さんが笑う。
「なら、今は宇宙へ行くために必要なことを調べればいい」
「うん」
「ただし、本で調べるだけではなくな」
「……実際に宇宙で働いている人に話を聞く」
俺が答えると、父さんは頷いた。
「その通りだ」
その言葉を聞いて、俺の中で一つの考えが固まった。
宇宙へ行く方法を知りたい。
ただ船を見るだけではなく。
ただ本を読むだけでもなく。
実際に宇宙へ出ている人たちが、どうやってその仕事に就いたのかを知りたい。
翌日。
俺は母さんと一緒に宇宙港へ向かうことになった。
三年前にも来た場所だ。
でも、今回は違う。
あのときの俺は、ただ宇宙船を見上げていた。
今の俺には、聞きたいことがある。
知りたいことがある。
そして、自分がこれから何をすればいいのかを見つけたい。
宇宙港へ近づくにつれて、遠くから宇宙船が見えてきた。
巨大な船体。
貨物を運ぶ船。
乗客を乗せる船。
整備を受けている船。
以前と同じ光景のはずなのに、今はまるで違って見える。
あの船は誰が操縦しているのか。
どんな仕事をしているのか。
どうやって宇宙へ出たのか。
そして――。
自分も、そこへ行くにはどうすればいいのか。
俺は宇宙港を見つめた。
「今度は、見るだけじゃない」
小さく呟く。
五歳の頃に抱いた夢は、まだ変わっていない。
ただ、八歳になった今は、その夢へ近づくために何をすればいいのかを考え始めていた。
それが、俺にとっての新しい一歩だった。