転生魔王が召喚されたのはどうやらソシャゲの世界らしい 作:石鹸枠好きの翁
遙かとおくの神話の時代、魔導を極めて【魔王】と呼ばれたエトという男がいた。
その男は数多の種族を率いて世界を救うために邪神に挑み――今この瞬間にも消えそうになっている。
「ははっこれで終わりか」
全ての力が溶けて、二十年生きたエトという存在が消えていく瞬間というのをこの時に味わっていた――正直、覚悟はしてた。
そもそもあの邪神を倒せたのが奇跡であり、あれだけの無茶をしたんだからこうなるのは当然。
「あぁ――長かったなぁやっぱり怖いわ」
自分が消えるこの瞬間、当たり前だが恐怖も不安もあるし……つくづく自分が、この世界の主人公ではなくて観客であった凡人であることを理解させられる。
まぁでも……この状況で簡単に受け入れる精神性など欲しくはないしいらない。死にたくないとも思えるし、走馬灯? みたいのも過ってくる。
でもさ、後悔はしてないんだ。
この世界に、俺が推しててやりこんだRPGの世界にずっと前に主人公として転生して。最初は推しキャラに会えるんだみたいなゲーム気分で、だけど皆が生きてるって知って本来のあいつとは違う道を歩んで。
何度も失敗して、俺が見守った完璧なヒーローみたいに生きられなくて、でも……それでも皆が笑顔で
だから今抱くのは、皆に対する感謝の気持ち。
「ありがとな皆、本当にこれでお別れだ。また会えたら……っての無粋だな」
俺が死んでも、世界は続く。
出会ってくれた皆が、俺を支えてくれた仲間達がいる世界なんだ。
きっと上手く続くだろうそう俺は胸を張れるから。
だから最期に、俺の人生の締めを聞こえるかも分からない皆へと送ろうか。
馬鹿みたいって言われるかもしれない、そんなこと気にならない……勝ち負けに拘って子供みたいって言われるかも――だけど、皆も気になるだろ。
「えっと、主人公とラスボス――どっちが勝ったかだよな?」
俺が語るのは、単純明快な答え、最期だし冗談も籠めて。
「そりゃ――俺が勝ったよ」
俺はそうやって微笑んで、この世界を救ってから消滅した。
――――――
――――
――
【エタニティ・ファンタジア】
略してエタファンという名のRPGが存在していた。
舞台は神や魔物や妖精そして亜人といった人間とは異なる種族と共存する異世界であり、混ぜすぎた闇鍋もびっくりな世界なのを覚えている。
ヒロインいっぱい、中二全開、癖しかねぇよみたいなそのゲーム。
それで俺は、見る分にはいいが、行きたくない筆頭だろうその世界の主人公であるエトという男にへと転生し、二十年という時間を生きて世界を救って消滅したわけだが……。
「え、なんで意識あるんだよ」
なんか気付けば知らない空間に佇んでいて、それどこか体もあるし意識バッチリだった。姿もそのまま、髪を触ってみれば視界の端にちらりと濡羽色が見えて――。
「うん、俺だ……なんかすっごく俺だ」
語彙は死んでる。
だって状況が理解できないから。
「わっと? 本当に何で生きてるんだ?」
困惑が凄い。
何が凄いって、訳分からなくて凄い。
「たまやー……声響くな、ここ」
とりあえず俺がいる空間で叫んでみれば声は遠くに消えてった。
一応だけど見渡してみればこの空間は神社みたいな場所、というか神殿。
遠くの方に鳥居があるし、何より俺の後ろには真新しい本殿が。それに妙に居心地が良いというか……なんというか、実家みたいな安心感。
「なんかすっごく神秘的だな、ここ」
足下には湖。
俺の顔が反射するくらいに澄んでおり、相も変わらず語彙はないがめっちゃ綺麗。この場所を現すならば、それこそ最期にいた邪神の神座の様で。
「えっとぉ、まじでどこ……ここ?」
「すっごく困惑してて面白いけど、いい加減ボクに気付いてほしいなぁって」
その時、声を聞いた。
声の主はいつの間にか俺の後ろに立っていたとても顔の整った蒼髪の少女。
腰まで伸びる長い髪に布一枚纏った痴女の様なその存在は、もう会うこともないと思っていた存在であり、俺の転生した世界の神の一柱。
「やぁ、久しぶりだねエト君?」
「…………何の用だ?」
自分の声が震えているのが分かった。
変なときにしか干渉してこなかったこの神が関わる瞬間などロクでもない事が起きる予感しかしないから。
「酷いなぁ、せっかくボクみたいな美少女が会いに来たんだからそこは噎び泣いてさリアちゃん大好きーって抱きつくのがセオリーだろう?」
相変わらずのその態度。
訳の分からない状況だが、あまりにもいつも通り過ぎて不本意だけど少し落ち着く事が出来てしまった。
「いや、本当に何の用だよ……というかそもそもなんで俺生きてんだ?」
「あーそれね、君のやった事が馬鹿すぎて信仰集まって神になっちゃったからだよ」
「えぇ……魔王の称号だけでもお腹いっぱいなんだけど」
邪神を倒すために突っ走って魔王と呼ばれるようになった俺。
正直言うと恥ずかしかったし、黒歴史甚だしかったが……なんとか耐えていた状況だったけど――流石に神とかしらん。
「草、単芝」
「笑うなよ、それも割と最悪な笑い方止めろ」
「だって君の困った顔みるの面白いんだもん……まぁ、それで本題なんだけど」
そこで一呼吸を置いた目の前の神は、茶目っ気溢れるというか笑顔でさらっとこう告げてきた。
「もっかい世界救ってきてよ」
「わっつ?」
「いやねぇ、なんか神々の預言でまた世界の危機の予兆が出てさ、君にはその原因を探ってほしいなぁーって」
あっけらかんと軽く語るが、その眼光は有無を言わせない様に感じ。
……何より、君なら出来るでしょみたいな信頼まで感じられる。
「……拒否権は?」
「神の新人としての初仕事だよ、ちなみに上司は私だからね」
「それが一番嫌なんだが?」
「えぇー喜ぶとこでしょ、まぁというわけで早速行ってみよー!」
目の前になんか知らないが神々しい鏡が現れる。
その鏡はどこかに繋がっているようで、先は見えないが神の口振りからして俺がいた世界に繋がっているんだろう。
正直世界の危機とか言われても困るが、俺の仲間がいた世界だ。
あいつらに何かあるなら、出来るだけ助けたいと思うし……拒否する気はない。
不安はある……邪神を倒せたのだって奇跡だし、何よりそれがもう一度起こるとは限らないから。でも、俺にはあのRPGをやりこみ、それ故の知識がある。
だからまぁ、少しは大丈夫だろうとそう思って鏡に脚を踏み入れて――。
「あ、そうだ何百年か時間経ってるけどがんばー」
最後にそんな爆弾を投げられて、俺は「え?」と言う前に視界が光に包まれた。