転生魔王が召喚されたのはどうやらソシャゲの世界らしい 作:石鹸枠好きの翁
白く染まる視界。
最初はそれが何か分からなかったが、すぐに陽の光である事を理解した。だけど、その光は妙に近くて――数秒足らずで今居るのが上空だということを知り、ついでに落下してることも知ってしまった。
「うぉぉぉぉ――おち、落ちてる!?」
何がやばいって、凄くやばい。
このままいけば落下死コースだし、今の何が出来るか分からない状況で魔法を練るのは無理。
「――というか、久しぶりだなこの景色!」
どうにか助かる術を探すために周りを見渡した途端に目に入るのは、慣れ親しんだ異常な景色。何があったって? そんなの言葉にすれば単純だが、前世では決して見れないような光景。
空に機械で出来た島が浮かんでいるのだ。
あまりにもメカメカしい到底浮くような物ではない島――その傍を飛ぶのはドラゴンで、奥の方にはあまりにも巨大な山々がそびえ立っている。
挙げ句の果てに空を見上げれば、太陽らしきモノの中に街があった。
あまりにもあんまりな相変わらずのファンタジーの光景。
だが懐かしさに感動してる時間は無い。
時間は一刻を争うというか、落ちたら多分俺死ぬわけで――召還後のアフターケアぐらいしてほしかったなと心底思い俺は落下を覚悟し意識が暗転した。
――――――
――――
――
土の感触、久しく嗅いでなかった草の香り。
ついでに頬にあたるざらざらとした感触に俺は森の中で目覚めてから天を仰いだ。
「あー生きてる」
「おや、お目覚めになられたのですねエト様」
「へ?」
急に声が聞こえたので思わず間抜けな声で返してしまう。
ぱちくりと瞬きしたあとで、目の前にあったのは端整に整った顔に尖った長い耳と翡翠の瞳。 あまりの綺麗さに思わず作り物と錯覚するような少女の顔がそこにはあって、俺の事を見下ろしていた。
「わたくしは偉大なるリア様より派遣された、貴方様のガイド役となったウルティアと申します。おはようからおやすみ、ゆりかごから墓場まで、そして棺桶からわたくしの来世にいたるまで以後お見知りおきを」
「……こんな状況でどうかと思うが、エト・グランゼルだ」
目覚めた瞬間に馬鹿ほど重い決意を聞かされた気がするが、自己紹介をしないことには始まらないだろうし挨拶を返した。
なんか見たことあるなとか思いつつも彼女を見れば、よかったと言いたげに微笑んで俺に起き上がるように促してくる。
起き上がり改めて小柄な白髪の彼女を見れば、やっぱりなんか見覚えがある。
「ふふ、偉大なる魔王エト様ですよね。わたくしの事はウルやティアなど好きにお呼びください」
「いや初対面で愛称は気まず――」
そこまで伝えたところで彼女の顔が捨てられた子犬の如くしょぼんとした。
それこそペショペショに濡れた様な感じで、すっごく残念そうな表情を浮かべる。
初対面の子を愛称で呼ぶのはと思ったのに、流石にこんな顔をされては呼び捨てには出来ない。
「…………じゃあ、そのティアで」
「はい、ではこれからはティアとお呼びくださいエト様」
淡々と告げるようにしていたが見るからに破顔して、ぴょこぴょこと長い耳を揺らす彼女。それどこか目を逸らせば、後ろに尻尾が見えるくらいには上機嫌となる。
目を拭い、この子獣人じゃなくてエルフだよな? と不安になりながらもどこか拭えない既視感を覚えつつ、ぐーと自分の腹が鳴ったのを自覚した。
「あ、お昼時ですしお腹が空いたのでしょうか? 少しお待ちください、準備はしておりましたので」
そして少し場所を移動した彼女は、何やら鍋の近くに向かったのだが……次の瞬間にどこからか武器を取り出した。それは巨大な大剣、彼女の身の丈ぐらいはありそうなそれを構えて感情を露わにするティアは、こう叫ぶ。
「エト様のごはんを奪うという狼藉、一欠片すら残しません!」
気になってそっちを見てみれば、そこにいたのは数匹のスライム。
鍋の中身を食べたのか体の中に具材が浮かび白くなったそいつらに対して、彼女は身体強化の魔法らしきものを重ねがけて力いっぱい振り下ろし――。
「爆散してください!」
台詞の次、スライム達が言葉の通り爆散する。
あまりの力に斬るという現象が発生せず、破裂したのだ。
おっそろし、というかこわぁ。
自分のガイド役と名乗る少女がキレたら敵を粉砕する系のパワーエルフだったときとかどうすればいいだろうか……と心底恐怖を覚えながらも、そこでさっきまであった既視感と違和感がが自分の知識と結びついた。
「……すいませんエト様、またごはん作り直しますね」
「いや、ティアが無事ならいいんだけどさ……一個聞いてもいいか?」
「なんなりと」
この態度にさっきの戦闘とも言えない蹂躙の様子。
そして、ウルティアという名前にエルフという種族そして信仰する神があれで……その時点で嫌な予感が止まらないが、まだなんとかなると願いつつ、質問する。
「ティアの得意魔法ってさ、ストレングス?」
「そうですが、さすがエト様ですね一目でお分かりになるのですね」
「凄い練度だったからな……うん、それでさ家名ってあるか?」
「あ、名乗り忘れていました。改めてですね、わたくしはリア様をお祀りする巫女であるイルステルの一族にございます」
「そっか教えてくれてありがとな」
ウルティアの正体を確信した俺は、目が遠くなる。
この子は俺が転生した【エタニティ・ファンタジア】の続編であるソーシャルゲームに登場する主人公のガイド役だったはずの少女だ。
いやさ、嫌な予感はずっとあったよ? 数百年後の世界らしいし、何よりずっとこの子に既視感あったからさ、でも駄目じゃんそれは違うじゃん?
俺はエタファンをやりこみ完全クリアして、その知識を使って世界を救った。
だけどさ……俺が知ってるのは一作目だけなんだよ。だって、俺が転生する前だとソシャゲがリリースしてなくて、デモプレイしかなかったんだ。
そこで見たっきりだから思い出すのに時間がかかって……あぁ、どうしようか。この世界は前提として俺が知ってる世界ではある……だけど、続編であるソシャゲ時空の知識は何もないんだけど? え、意気揚々と召喚されたけどさそれは駄目だろ。
「おやエト様、どうしましたか?」
「……いや、なんでも。ただ前途多難だなぁって」
「わたくしめがいるので安心してください、きっちりばっちりしっぽりとガイドしお供させていただきますから」
「まぁよろしく頼むわ……それでさもう一つ聞いていいか?」
「はい、なんでしょうか?」
さっきからすっごく気になってた事。
それは……なんか荒い鼻息が聞こえるというか、羽ばたく音が聞こえるというか……魔物の気配が。
「この森ってさ、結構危険?」
「GAAAAA!」
その時、答えてくれたのか叫んだのはワイバーン。
咄嗟のことでティアを抱えた俺は、そのまま走り出した。