処女作なので至らない点もあると思いますが頑張って書いていこうと思います!
名前を貰った日
しとしとと雨が降りやまぬ空模様の中、膝を抱え静かに震える少女がただ一人。
辺りは寂れたビル群が並んでおり、人影など微塵もなく、助けなど来るはずもなかった。
少女は倒壊したビルの一角にて、寄せ集めた物資で焚き木や薄い毛布などで僅かな暖を取り今日も生きながらえていた。
「……あはは、これは明日にでも死んじゃいそうだなぁ」
彼女の体はやせ細っていた。
当然であろう、1週間もの間碌に食べ物など食べて来れなかったのだから、彼女は辛いなどと言った感情を押さえ込んで力なく笑みを作るしか無かった。
「というか、ここ……どこなの?」
パチパチと焚き木の音が木霊する。
「確か1週間前だったっけ、この世界に来たの…」
誰も居ないはずの空間で寂しさを紛らわすかのように語り出す。
「元の世界で寝て、目が覚めたら知らない体で知らない景色でこんな所に生まれて……なんで…こんな…所に」
彼女の悲しみに共鳴するかのように雨の音が大きくなる。
まるで銃声が鳴っているかのように廃墟になってしまったビルに降り注ぐ。
「………いやがちの銃声じゃないこれ!?」
ビルの外を急いで覗く。
そこに居たのはタブレットを持った大人の女性と銃を持った少女達が銃撃戦を繰り広げている。
ロボットの様な姿で、戦車や歩兵などといった大軍と呼べる程の兵力で、目視で五人しかいない人達に銃撃を浴びせている。
そして浴びせられている側は負傷を負いながら大人の女性を守るように取り囲んでいる。
注視をしてみると、制服を着こなした少女達は懸命に大人の女性を守ろうとしているようだが、ロボット兵達の数に押され、防戦一方だ。
そしてその銃撃戦の中、流れ弾が大人の女性の方に逸れて行き。
血を流した。
「…っ!!」
彼女の判断は早かった。
やせ細った体にムチを打ち足に力を込め、爆発的な速度を出し駆けつけに行く。
彼女は銃などと言った武装を備えているわけではないため素手での特攻だったが、彼女はこの世界に来て様々な経験から少なからず自身の体は銃撃程度意にも返さないことを知っていた。
「っぁっ!!」
彼女が用いたのは足での打撃。
高速で近づいてきた彼女にロボット兵達は反応が少し遅れ、彼女の蹴りを許してしまった。
「だっ…ぐじゅぁぁ!」
蹴りが頭部目掛けて強烈にめり込む。
前世の世界の人間ならば頭の原型すらなくなるほどの蹴りを受けたロボット兵は当然が如くプスプスという擬音を立てながら機能停止する。
「大丈夫…ですか?」
血を流した大人の女性に近づき手を差し伸べる。
これが彼女にとって、この世界での最初の戦闘となった。
「っ!まずい…!アロナっ!」
『はいっ!逃走経路算出中です!……出ました!!この近くに廃墟があります!こちらですっ!!』
「みんなっ!!こっちにっ!!」
私は皆に呼びかける。
その呼びかけにしっかりと従ってくれる便利屋68の面々を誘導して廃墟へと逃げ込む。
しくじってしまった。
便利屋に依頼が届き、私にも手伝って欲しいと言う事で戦地に赴き、戦闘を繰り広げていたのだが、この有様だ。
せっかく頼ってくれたというのに、劣勢に追い込まれて、挙句の果てに生徒に傷を負わせてしまうとは、先生失格だ。
「先生っ!こちらへ!」
「うんっ!」
当たりが瓦礫だらけでとても動けたものではなかったが、ハルカの指さした場所だけが何度も人が通ったかのように不自然に瓦礫が隅に置かれ道ができていた。
そこにすぐさま逃げ込む、ただ走り逃走の一手を取っていた。
便利屋達は強い、だが相手が多すぎた、最初は少人数だけだったというのに、いつの間にか数が軍隊とでも呼べるほどに徒党を組んでいた、つまりは相手の策略にまんまと引っかかってしまったのだ。
別に私がどれだけ傷つこうともどうでもいいのだが、この子達が必要以上に傷つけたくはなかった。
自分に憤りを覚える。
何故もっと警戒しなかった?そもそもこの依頼自体も警戒するべきだった…!
「っ!?」
グレネード!?
直後爆発とともに建物が崩れる。
幸いなことに誰も直撃を免れたようだが、爆発した周辺の建物か廃墟ということもありいとも簡単に崩れ落ちる。
「これは…」
「逃げ道を塞がれた…!」
直撃をしなかった?
違う、これは誰かに当てようとしたグレネードではなかった。
建物を倒壊させるためのものだったのだ。
防衛に専念すると必ず後手に回ってしまう。
戦闘経験の少なさ、上手くいくだろうとたかを括った己への甘さ…その全てが恨めしい。
生徒達に危険を及ぼして何が先生だっ!!
「っ!?」
「先生っ!!」
流れ弾が僅かにかすり、頬から血が伝う。
画面の向こうのアロナがとても焦った顔でバリアを貼り続ける。
「大丈夫だよ、アロナ、君のせいじゃないから」
そう、これは全て私のせいだ。
今までが上手く行き過ぎたのだ。
それ故に驕っていたのだろう、これはその驕りへの自身への罰だ。
胸にしまっていた大人のカードを取り出す、そして行使しようとしたその瞬間。
「だっ…ぐじゅぁぁぁ!!」
目の前にいたロボット兵が吹き飛ぶ。
吹き飛んだ先のロボット兵を便利屋含め私も目で追うことすら出来ないほどの威力での蹴り…蹴りの威力が強すぎたため少し滞空していた少女が降り立つ。
失礼なことだが第一印象は痩せている子だった。
栄養を取れていないのだろう、ぼろ布から覗く脇腹は浮き出ていて、目が虚ろって見える。
真っ白だった、肌も目も髪も至る所が白に近く、血色がお世辞にもいいとは思えなかった。
その中ですごく印象的なのは、その尻尾と翼。
真っ白で禍々しくも神々しいその翼、そして細長く伸びた白い尻尾のような何かがゆらゆらと漂っていて、雨が降り辺りが暗くなっていたとしても輝いて見えるほどに白かった。
便利屋の皆も唖然としていた。
敵すらもそうであった。
「大丈夫…ですか?」
手を差し伸べてくる。
私は呆然と彼女の瞳を見つめる。
しばらく握る手が伸びなかった。
それほどまでにその白い瞳は神秘的であったから。
「…あっ、うん!ありがとう」
やっと手を掴むという思考を入れる。
掴むまでに彼女は少し困ったかのような表情を見せてしまったのが少し申し訳なく思う。
「えっと、手助け…いりますか?」
「先生が…いや大人が頼むようなことじゃないけど、うん…助けて欲しいっ!」
本当に何言っているのだろうか。
こんなにもやせ細っている子供に大人な私が助けて欲しいなど…先生として大人として、本来は助けてあげる立場だと言うのに…
「じゃあ、足手まといにならないように、頑張ります」
儚げな笑みを浮かべる。
今にでも消えて泡にでもなってしまいそうな彼女を見て、自信を奮い立たせる。
彼女に任せきることは絶対にしない、ここにいる生徒全員私の命に変えても守りきろう。
「みんなっ!!」
「「「「はいっ!!」」」」
「反撃だっ!!」
アロナを再び立ち上げる。
今日のことは絶対に忘れない。
自分の不甲斐なさを、自分の甘さを、自分の傲慢を…
私は…先生なのだから。
「すっ…ごい」
「あっはは、まさか本当にこの数を…」
あたりは死屍累々、別に死人がいるという訳では無いが、夥しいほどの負傷者が地に伏している。
戦いが終わるのは早かった。
私たち便利屋が彼女の立ち回りをサポートするかのように彼女に近づく敵を一掃していたら、いつの間にかロボット兵の大群は見えなくなっていたのだ。
「あ、えっと、その」
ハルカが彼女の近くによる。
「その、あ、ありが「きゅう……っ」…!?」
「…!?」
彼女が力なくハルカに倒れ覆い被さる。
それを見た私たちはすぐさま駆け寄り容態を確認するのだが。
「すぅ…すぅ…」
「ね、ねてる?」
「戦場で寝るなんてすごい胆力だね…」
「いや胆力というより、力尽きただけなように思えるのだけど…」
「わきやぁ!」
するとハルカが突如悲鳴を上げる。
どうやら、ハルカの事を抱き枕に思っているらしく優しく首に手を回され身動きが取れなくなってしまっているようだ。
「ど、どうしたものかしら?」
「とりあえず、事務所行く?」
「そ、そうね!」
私たちは救ってくれた彼女を起こさないようにして先生と私、カヨコとムツキの4人がかりで抱え上げ、敵が乗っていた戦車の中にまで運び入れる。
「改めてよく見ると本当に細い…」
「この辺にいたってことは…そういう事なんだろうね」
「ええ、帰ったら柴関ラーメンでもご馳走してあげましょうか!」
「もちろん奢らせてもらうよ」
「先生太っ腹〜!!」
「あっ、ちょ、そこくすぐったい…です」
「んにゅ…」
私達はこの子のお陰で命拾いしたのだ。
極限状態だった私たちの目の前に降りおりた天使のようなこの悪魔は命の恩人と言って差し支えない。
もし行く宛てがないのだとしたら私たち便利屋にでも入れて、しっかりと栄養を取らせてあげたい。
そう思わせてくれるほどに助けられたのだ。
「ねぇ、もし…だけれど」
「この子さ!うちに入れない?」
「ん?社長何か言った?」
「ふふ、いえ、なんでもないわ」
どうやら皆気持ちは一緒みたいだ。
皆放って居られないのだろう、あのまま私達もだけで戦闘をしていたら命を落としていたかもしれない。
いわゆる命の恩人なのだ。
もしこちらが助けれることがあるのだったら、助けてあげたい、それだけだった。
知らない天井、知らない部屋、隣には美少女…
「あえ!?」
「あっ、起きましたか?おはようございます」
な、何故か、自身の腕の中に紫髪の美少女がすっぽりと抱き枕のように抱きしめていた。
すぐさまこの手を離そうとしたのだが、ガチャりとドアが開く音がする。
「あ、起きたかしら?」
「おはよぉー」
「ん〜、5時間ぐらい…か」
ぞろぞろと美少女達が入ってくる。
え?なに?なんなの!?これ!?んてか、五時間!?五時間も寝てたの!?
てことは5時間も抱き枕にしちゃってたの!?
「あっはは!そりゃあびっくりするよねぇ」
「無理はないと思うけど、少し落ち着いて」
そう言われ、ほんの少しだけ平常心を取り戻す。
「あ、そのえっと、先ずはご、ごめんなさい」
すっと、紫髪の美少女に抱きついていた手を離した。
「…ぁ」
抱きついていた少女からか細い声が聞こえる。
なにか気でも触れてしまっただろうか、いや当然だろう、何せ5時間も抱きついてしまったのだから異議申し立てぐらいはしたいだろう。
本当に申し訳ないことをした。
「えっと、立てる…かしら?」
「あっ、はい…っあぅ」
「ほら、無理しない」
頑張って立ち歩こうとしたのだがどうにも足に力が入らない為、片足から崩れ落ちる様に体が傾く。
それを支えてくれたのが黒と白の髪をしたパーカーを着た美少女であった。
「ごめ…んなさい」
「いいって、とりあえずは…ご飯かな」
「もう用意してあるよ」
「柴関ラーメンでも良かったのだけど、空きっ腹にいきなりラーメン入れたら体調崩しそうだから、野菜炒めでも作っておいたわ。」
「え?…え?」
ご飯?野菜炒め…?ご馳走…してくれるのかな?
介抱までしてくれたというのに、ご飯までご馳走になるなんて、自身の良心に呵責が起きてしまう。
「あの、その、自分はこれで」
「だーめしっかり食べてからじゃないと返さないよ〜?」
「えっと…」
「そんな状態な貴方を知らんぷりして叩き出したら私たちの印象が悪いし、しっかり食べてかないとダメよ?」
「うぅ…」
「食べてって…くれませんか?」
「で、でも、」
「お願いするよ」
「……はい」
支えられながら、ソファに座らせられた。
そして奥からいい匂いが漂ってくる、とてもお腹が空いてくる。
「楽しみ?」
「え…!?あっ、は、はい…」
「あは!かっわいい〜!」
頭を撫でられる。
もう何がどうなっているのか分かっていない。
ここに来てから色んな気持ちが二重にも三重にも重なってぐちゃぐちゃだ。
「ふふ、分かりやすく混乱するね」
「す、すごく目がぐるぐるしてます」
「え、あっ、その、す、すみません…」
「そんなにすぐに謝らないの、何も悪いことしてないんだからさ」
「す、すみ、は、はい」
「うん、偉い」
しばらく撫で回されながらしていると、赤髪の角が生えた美少女がたくさんのお皿をお盆に乗せて、近くに腰掛けてくる。
「こーら、困ってるでしょ?」
「でも可愛くって」
「でもじゃありません、ごめんなさいね、戸惑っているというのに」
「いえ、本当に良くしてもらって…!」
「ふふ…そう?なら良かったわ」
皆から暖かい目で見てくるので、どうにも落ち着かない。
悪くない感覚ではあるのだが、どうしても恥じらいとい物が出てきてしょうがない為自分でもわかるほどに体が熱くなる。
それを見て優しい笑顔を浮かべながら赤髪の角が生えた美少女が机の上に料理を置いてくれる。
「…わぁ」
「っあは、目キラキラじゃん」
「えと、ほ、本当にいいんですか?」
「構わないわよ、私たちがそうしたいの」
「…っ、い、いただきますっ!」
勢いよく食べ初める。
咀嚼すら半ば忘れながらもちゅもちゅと口の中に次々と放り込む。
本当にどれも美味しくて、今までの人生の中で1番美味しくて1番暖かい味がした。
「ほら、ゆっくり食べな」
「ん!んっ、」
「リスさんみたいです」
「あは、確かに」
「作った甲斐があったわね」
今気づいたのだが、汁物多めで作ってくれている様だ。
恐らくは食の通りが悪いことを見越して考えてくれたのだろうなと思い心が暖かくなる。
その後は黙々と箸をすすめた。
「んっ…ふぁ」
「す、すごい、あんなにあったのに」
「ものの5分…」
「えと、その、美味しかったです。ご馳走様でした」
「ええ、お粗末さまでした。」
本当に美味しかった。
欲を言えばまだまだ足りないが、これ以上は流石に強欲すぎるのでおかわりを要求するには憚られた。
おかしいな、あんなに食べたのに本当にまだお腹が減っている。
「あや?まだ足りない?」
「あ、いえ、そんな事は…」
「また今度いっぱい食べさせてあげるわ。いまは…ごめんなさい、我慢してちょうだい」
「え!今度も!?…あっ、いえ、お構えなく…」
「…っは」
「あー笑っちゃいけないだぁ」
「わぁ!ごめんなさいごめんなさい」
わいわいと賑やかな場所だなと思い、次第に自身の心が絆されるのが分かる。
「それで、自己紹介がまだだったわね、私の名前は陸八魔アル、ここ便利屋の社長を努めさせてもらっているわ」
ん?陸八魔アル?どこかで聞いたような。
「私は鬼方カヨコ、ここでは…課長ってことになってる」
鬼方カヨコ…?
「私は浅黄ムツキ、室長だよ」
浅黄ムツキ…?
「ひ、平社員の伊草ハルカ…です」
伊草ハルカ…ん?聞いたことあるぞ、た、確か前世でそんなに名前の子達がアニメとかゲームとかの広告で流れてきてたような…
というか、友達からゲームの話でその様な名前が出てきていたような…
「私達は便利屋68、アウトローよ」
ぶ、ブルーアーカイブだぁぁぁぁ!!!
ブルーアーカイブの世界だったの!?ここ!?
か、神様!?転生とかさせるんだったらもっと自分が知ってる世界に送ってよ!?
病室で友達から少し話聞いてた程度の知識量しかないよ!?
てか、友達の話から世紀末みたいな世界だなぁとか思ってたけど、さっきのやつ見た後だと本当に世紀末じゃん!!怖っっっ!
「ど、どうしたの?具合でも悪い?」
「あ、いえ、す、すこし、動悸が…」
「そ、そう…それで、貴方の名前は?」
「えっと、自分の名前は……」
「あれ…?」
思い出せない。
前世では確実に名前があったはずだと言うのに、所々虫食いの様になっていて思い出せるところと思い出せないところがある。
名前だけじゃない、不自然に前世の記憶が朧気になっている。
この世界に来てから前世のことを考える余裕がなかったのもあるが、前世のことを思い出そうとした時だけ断片的にモヤがかかって見える。
思い出せるところははっきりと思い出せるため、法則性というものがないように思えた。
「名前は……ない…です」
「……」
暫しの沈黙。
それはとても辛い時間だった。
この人達は命の恩人だ。
分け隔てなく笑みを向けてくれて優しくしてくれてご飯まで出してもらった。
とても感謝している、素性が分からない記憶喪失者なんて不審者に思えるだろう。
嫌われたく…ないな
「なら付けてあげようか?」
「…ふぇ?」
「このキヴォトスは広いからねぇ、そういう出で立ちの子もいると思うしね」
「苗字とかも決めちゃう?」
「か、可愛いのがいいですね」
「えっと…」
動揺、疑念、疑い、そのどれも心の内に跋扈しているというのに、心が隙間が埋まっていくのがわかる。
この世界に来てまだ1週間、されど1週間というものだったからなのか、はたまた前世であまりいい思い出がなかったのが由来したのかは分からないが自分でも気づかないうちに心にヒビが入っていたことに気づいた。
暖かいな…
「白いから白は入れたいわよね」
「天使みたいだったから白天はどう?」
「え、えっと…」
「でも、それだと可愛くは無いんじゃない?」
「ならこれはどうかしら、白悪っていうのは」
「どうして?悪魔だから?」
「それもあるけれど、私達はアウトローよ!一日一悪と掲げているし、色んなことを掛けて白悪よ!!」
「みたいだけどどうかな?」
「あ、えっと、すごく素敵です」
嬉しい。
「…っ!!」
「うわ凄いガッツポーズ…それなら白悪は苗字にしようよ。」
「なら、その、下の名前は天…でどうでしょうか」
「その心はっ!」
「えと、その、私達を助けてくれた時天使みたいだなって思ったから」
「えっと」
「ダメ…ですか?」
「いいえ、とても良かったものですから…嬉しくて」
本当に嬉しかった。
本当に嬉しいのだ。
自然と涙を浮かべてしまうほどに…名前というのがあるだけで、ここまで嬉しいなんて思わなかった。
初対面だというのに、ここまで熱心に考えてくれた名前、初めて、この世界に存在しているようなそんな感じがしたから。
「……よしよし、頑張ったわね」
「うぐ、うぅ…」
「貴方は白悪テン、よろしくね」
「は…い、白悪テン…です、よろしく…お願いします…」
少しだけ泣いた。
いやだいぶ泣いたかもしれない。
今は今だけはこの暖かさに身を預けたい。
本当にありがとう…
私たちはしばらく撫で続けていた。
今までずっと一人だったのだろう。
私たちが想像ができないほどの寂しさを抱えていたのだろう。
あんな廃墟でなぜ一人でいるのかは分からない、だけれど、好き好んであんな場所で一人で居続ける訳がない。
きっと、不可抗力なのだと思う。
あぁ、ダメだ私まで涙を浮かべてしまう。
「ねぇ、テンちゃん、便利屋…入らない?」
「え?」
「ふふ、先に言われちゃったわね、テン…無理にとは言わないけれどどうかしら?」
「でも、まだ初対面…ですよ?」
「そうね、でも、こんな短時間でも貴方のことをよく知れたわ、どうかしら?」
「嫌ならそれでもいい、だけど私達は受け入れる準備は出来てるよ」
「私も…嬉しい…です」
言葉を失っているようだ。
困らせてしまっただろうか、お節介だったのだろうか。
この子の本当の居場所はここでは無いのかもしれない。
でも、私達はこの子の居場所にはなれなくとも、安らげる場所でありたいのだ。
「よろしく…お願いします」
その言葉を聞いて酷く安堵する。
了承した時の表情は本当に嬉しそうだったのを見てその安堵感を深めてゆく。
見ず知らずの私達だというのに、少しは信頼してくれたと言う事実に言いようのない感情が浮き出てくる。
「ありがとう、答えを出してくれて」
「これで、社員が増えたねアルちゃん!」
「こ、後輩ってことに…なるんですかね?」
「そうなんじゃない?」
「というか本当に良かったぁ、ありがとうね!テンちゃん!」
「……なん…で、そんなに、優しいんですか?」
突然そのような事を言われる。
優しいとはなんの事だろう。
私達はしたいからやっただけであり、テンが欲しいから言ったまでだ。
「何を言っているのテン?あなたが欲しかったそれだけよ」
「…っ、ははっ、なんですか…それ」
今度はこれまでの作り笑顔とは違う眩いほどの笑顔を浮かべてくれた。
この子は白悪テンは私達は便利屋68の社員になったのだ。
「気になったんだけどさ、なんでいつもテンちゃんは甘い匂いするの?」
「あ、私もそれ気になってました。ずっと抱きつかれてた時…えと、その、甘い匂いが…」
今改めて気づいた。
テンに近づくと少しだけ甘い匂いが漂ってくる。
甘い匂いとは言ったがこれと言った例えが浮かばない、本当に甘い匂いとしか言えない匂いだ。
「なんだか、その、ずっと嗅いでるとあ、頭がおかしくなるような感じなんですよねぇ…」
惚けたように言う。
「あぁ、でも確かに少し変な感じ…それに八重歯がすごく尖ってるね」
「え?そ、そんなに、ですか?お、お風呂とか入れなかったですし…歯も磨けてないし…そのせいかな?」
「臭いとかじゃないよ、なんなんだろうねこれ」
「んて!そうよ!シャワー浴びさせようって話だったじゃないっ!」
テンが目覚める前に話で決めていた事だ。
「あっ、そうでした、シャツは…確か棚にしまってあったはずです」
「タオルは私のやつ使っていいよ」
「え?」
「テンちゃん…一緒に入る?」
「か、からかわないでくださいよぉ!」
また賑やかな社員が入って、今日の便利屋はいつも以上に平和だなと心の中で思ったのであった。
「なんで…こんなにお腹がすくんだろう?」