「ほ、本当に大丈夫?」
「はい、大丈夫。自分のご飯は自分で稼いでからですっ!」
少し所ではない体調の悪さを気付かないふりをしながら、自分は今便利屋の社員として初めての任務だ。
なぜ体調が悪いのかは単純明快で、ただただ空腹なのだ。
自分はかなり燃費が悪いのかなんのかは分からないのだが、いくら食べてもお腹空いた。
かと言って、いつまでも便利屋の皆の脛を齧ってられないので、無理を言って連れてきてもらったのだ。
「無理そうならいつでも言ってね」
「心配…です」
「あはは…」
あれから2日程経って気づいたことがあった。
嬉しいことなのだが、皆過保護気味だと感じる場面が多くあったのだ。
自分が苦戦していることや少しでも辛そうにしているとすぐに駆け寄ってきてくれるのだ。
まぁでもいいか。
嬉しいし
「さて、と着いたわよ」
「えっと今回の依頼って確か、工事中の小型ショッピングモールを根城にしている不良の掃討ですよね?」
「うん、そう。まぁ、よくある事だね」
「……そうですね」
よくある事なの…!?
と言うか、ここまで徒歩で来たのだが、辺りから銃声が絶えなかったなと思う。
怖いはずだと言うのに何処か普通だと感じ始めてる自分がいちばん怖かった。
「さっ、行きましょうか」
わっ、すっごく悪い顔してる。
アル社長って普段優しいのに時折悪い顔をする時があるのだが、楽しいのかな?
自分もやっとくか。
「…ふふ、はいっ行きましょう」
「ぶっ…あははっ!」
こ、渾身の悪い顔だったのに…
「ごめんごめん、あまりにも可愛くって…あははっ」
「ほら、そろそろ行くよ、社長が悪い顔したまま直立不動で動いてないんだから。」
「ふ、ふふふ」
締まらない雰囲気の中で自分達は工事中のショッピングモールへと足を踏み入れた。
そこに居たのは、明らかに私達悪いですよみたいな人たちが屯していた。
「あぁ?てめぇら誰だ?」
「私達は便利屋68、手早く行きましょう?ここを出てくなら手荒な真似はしないわよ?」
「…舐めてるな?お前…」
「ふふふ」
「いいぜ…やってやるよ。おいてめぇらぁ!!かちこみだぁぁ!」
そんな号令に合わせて直ぐさま集まってくる不良達。
銃火器を手に持ち、戦闘態勢を取っている。
「謝るなら今のうちだぞ…」
「そのまま返しましょう、謝るなら今のうちよ?」
「はん!やっちまぇ!!」
戦闘の火蓋は切って落とされた。
初めに動いたのはアル社長だった、スナイパーライフルを構え、標準を合わせたか合わせていないのかと言う時間の中で発砲する。
直後その弾丸は大爆発を起こし、周囲の不良を吹き飛ばしていた。
前にも見せてもらったことがあるが弾丸が爆発ってなに?…友達が言ってた神秘と言うやつなのだろうとは思うのだが。
…………万能すぎん?
「さぁ、始めましょうか」
「アルちゃんかっこいい〜!」
「張り切ってるね、新人がいるから?」
「アル様はいつもかっこいい…です!」
「すごい…」
アル社長の初撃で自分達のボルテージは最高潮だ。
本当にこの人に、この人達に助けてもらえて本当に幸運だったと改めて思った。
「くっ…そがぁぁぁ!!」
「ダメだよ〜アルちゃんの所に行きたかったら先ずは私からだよ」
不良の1人が突っ込んできたがムツキ室長が突っ込んでくるであろう軌道線に爆弾を放り投げる。
「んなっ!?ぐぁぁぁ!」
その爆弾は見事に命中して見せた。
その後にも、勇猛果敢に詰め寄ってきた不良達はいるのだが、その尽くが便利屋に手が届かなかった。
「強い…」
その強さに見惚れていたら不良達の視線がこちらに向く。
「あ、アイツだ!!あいつを狙え!!」
跋扈してる不良達の中の数人が掛け声のそのままに弾丸を乱射しながら突撃してくる。
「テン!!」
「すぅ〜ふんっ!」
銃弾を喰らいながら拳をフルスイングする。
不良の一人が咄嗟に銃を挟んできたが勢いそのままに銃ごと粉砕して拳が突き刺さる。
そのまま後方へと半回転しながら吹き飛んで行った。
「は、はぁ?え、な、なにが、 …!」
そのまま次に行こうとしたのだが、急に足に力が入らなくなる。
「っ…あっ」
「テンさん!!」
「テンっ!」
あれ、なんでこんな…
おかしい血も流れている。
この程度の銃撃程度であればかすり傷すらつかないというのにポタポタと血が滴り落ちている。
前方によろけた所をカヨコさんとハルカさんに支えられる。
情けない、本当に情けない、無理を言って連れてきて貰えたのに、こんな体たらく…
「大丈夫…です」
「バカ言わないで!どう見ても大丈夫じゃなあでしょ!!」
「て、テンさんっ!血が…!」
言葉が耳に入らない。
掠れて聞こえて、目がグラグラと揺れる。
ここに来るまでは、風邪ひいたかなぐらいだったというのに、少し力を出して戦闘をした瞬間にゴッソリと体力を持っていかれた。
こんな事ならば、こんな体たらくであることを知っていれば、事務所で作業でもやっていれば良かった…
でも、役に立ちたい、もっとこの人達の役に……これ以上迷惑なんて…かけてくないっ!!…だからっ!!
「テン…!?」
「大丈夫…大丈夫です」
足に力を込める。
そのまま自分の溢れる力に身を預け、突撃を仕掛ける。
太ももにベルトを巻き付けそこにピストルを仕込んでいるのでそれを引き抜く。
これは便利屋68の備品の中にあったもので、ボクのものでは無いので慎重に扱わなければならない。
壊すなんて以ての外なため基本は拳で対処する。
「なん…ぐはっ」
「強すぎる…お、おい!あァ!?」
銃弾を躱すなどといった芸当は今のボクでは到底できやしないので、喰らいながら拳を振るう。
「あぁ、もう!あのバカっ!」
「え、援護をっ!!」
「貴方達聞きなさい。今からあの新人を全力で止めるわよ」
「え…!?」
「いいから早くっ!」
「…っ!はいっ!」
何も聞こえない、視界がぼやける、何も感じない。
そうなるにつれてただ一つの欲求が…衝動がひた走る。
《壊したい》
ただそれだけだった。
お腹がすいた、喉が乾いた、ご飯を食べても水を飲んでも満たされなかった。
満たされないから壊すなんて、どうしようもない奴だ。
抑えようとしても、溢れ出てくるこの感情が出て、まるで自身の体ではないかのように突き動かされる。
殴る感触、蹴る感触地面を踏みしめる感触、お腹すいた感触、喉が乾いた感触、その果てには何も無い暗闇だけだった。
あぁダメだこのままではボクは……
《パチン》
鋭い痛みが走る。
その痛みが自分を現実の世界へと導きもどる。
「あ、え?アル…社長?」
そこに居たの傷だらけのアル社長だった。
落ち着いて周りを見てみると、大小はあれど傷を負ったカヨコさん達がいた。
そしてその傷をつけたのは他でもない自分である事が痛いほどよく分かってしまった。
その時自分はどうしようもない自身への不快感と罪悪感に支配されると同時に強烈な眠気に襲われる。
「落ち着いた?」
「は…い」
「全く、大変だったのよ?」
「ご、ごめんなさい…」
「まぁ、今はいいわ。とりあえずおやすみなさい。」
「で……も…」
「社長命令よ」
「……」
何も言い返すこともできず、自分は眠りに落ち始める。
どうして、自分はいつもこうなのだろう、1人て突っ走って、こうして迷惑をかける。
自身の欲すら制御できずこうして大事な人達を傷つける…本当に嫌だ…自分なんて大嫌いだ。
抗いようもない眠気に襲われる。
自身への憎悪と呼べるほどの恨みを持ちながら眠りに落ちた。
「私の責任ね」
「違うよアルちゃんこれは私たちの責任」
「体調が悪かったとかじゃないことを知ってたはずなのに、なにかの助けになると連れ出した私達の罰だよ。」
今回テンを連れ出した理由はただ一つ、テンに元気になって欲しかったからだ。
周りが注視しないと分からないレベルだが、いつも顔色が悪かった、空腹感や喉の乾きを誤魔化すかの様によく食べよく飲んだ。
幸せそうに食べるテンを見て、私達はそれを微笑ましく思うと同時にこれではダメだと分かっていた、だが私達だけではどうしようもなかった。
テンが依頼に連れて行って欲しいと言われた時チャンスだと思った。
もしかしたら、私達以外のなにかの要因で解決策が出てくるかもしれないという甘い…本当に甘い考えだった。
「ハルカは?」
「テンの看病してる」
「ハルカちゃんテンのこと大好きだもんねぇ」
「あなたもでしょう?ムツキ」
照れるようにして、ポリポリと頬をかくムツキ。
私達は短時間ながらテンに心を許していた、大好きなのだ。
少し過保護かもしれない行為も喜んでやったし、少しでも無理をしようとしたらしっかりと叱って上げたりもした。
でも、私達では解決できないテンの症状は一体…なんなのだろうか。
今度医者に診てもらう方が確実にいいだろう。
明日にでも病院に……
「アル様ぁ!!」
「ハルカ!?」
ハルカの悲鳴にも似た声が隣の部屋から聞こえた。
直ぐさま私たちは駆け寄り中に入ると、私達は驚愕する。
部屋の室温が異様に高くなっていたのと、遠目から見てわかる程に高熱を出しているテンが苦しそうに呼吸をしていたのを見てしまったから。
「なに…これ…」
「しゃ…ちょ…う」
「無理に喋らないで!!」
額に手を当てる。
「…っ!?」
熱すぎる。
軽く40度は行っているのが直ぐに分かるほどに。
「喉…かわ…ごめんなさ……い」
「だ、大丈夫よっ!きっと…大丈夫だからっ!」
そんな出まかせしか言えないほどに焦っていた。
何もかもが急すぎた…いや違う。
前兆はあったのだ。
それもありすぎるほどに。
「何とかするわ…絶対に…」
テンは自身の不調を上手く隠そうとしていたが、それでも体調不良なのが傍から分かってしまうほどに滲み出でていた。
私たち全員が弱っていると思えたというのに、すぐにでも医者の元へ行くという手段もあったというのに、栄養不足とかの軽い体調不良だと決めつけて、時間経過に任せてしまった私が憎い。
「アル…社長の…せいじゃ…ないです。」
「しゃ、喋らないでっ!辛いでしょう?」
「辛くなんて…ないですよ…それよりも…また…迷惑を…ごめ…んな…さい」
「そんなこと気にしないでいいのよっ!貴方はもう既に便利屋68なんだからっ!」
「でも……迷惑…しかぁ…」
迷惑なんて言わないで欲しい。
貴方が来てから笑顔が増えたのだから。
テンに出来ないことがあったとしてもそれは欠点ではないのだから。
「…テンちゃん、これ…舐めてみて」
「へ…?」
ムツキは何かを思いついたかのように先程の戦闘で傷ができてしまった腕を差し出した。
その腕には血が滴っている。
「なん…で…」
「仮説ってだけだけどね。前々から思ってたんだ。体調不良の原因も、いくら食べてもお腹を空かせてそうにする原因も、この高熱もただの『主食が違う』故の栄養不足なんじゃないかって…」
「ムツキ、確証はあるの?」
「ううん…本当にただの仮説…テンちゃんの歯ってよく見たらすごく尖ってるの、まるでなにかに噛み付くためのもののように異様に鋭く。それ以外にも色々あるけど……さっきからずっと私達の傷跡を物欲しそうに見てたからさ…」
「…っ!ご、ごめ…」
「気にしないでいいよ。ほら…」
ムツキは子供にご飯を食べさせてあげるように優しく笑いかけ腕を差し出す。
それを見たテンは辛抱ならないような面持ちでゆっくりだが口を腕に近づいて、舐め始めたその瞬間。
「っ!?なに…これ!?」
「ムツキ!?」
ひと舐めされた瞬間にムツキの体が跳ね上がる。
「ご、ごめんすごく変な感じに…っん」
「んっ、ゴキュ」
「テン…さん?夢中になってる?」
テンは一心不乱と言った形でムツキの血液を飲んでいる。
お互いの顔が赤くなり、息遣いも激しくなるのを見ているとこちらが変な気持ちになってくる。
「っあっ!?」
突如上擦った声が響く。
何かと思ったらテンがムツキの腕を噛みチューチューと血液を吸い出している。
「っ…あっ、ま、まって、テ…ン…あっ、」
「…ムツキ」
かなり大量の血液を吸われているのでハルカやカヨコに心配の目を向けられる。
当然私も向けていた。
「……テン、私のも吸いなさい」
私はテンの背後に周り密着するようにして首から腕を回しムツキの腕と交換する。
テンは意識が混濁しているようで、何も言葉を発せずに目の前の血液だけに反応するようだった。
「っ!」
テンの歯が腕に突き刺さる。
最初は痛みだけだったというのに、すぐに頭を刺激するような快感に体が支配される。
ムツキがあぁなるのも無理もない。
これは抗えない。
「っあっ、ゆっくりで…いい…のよ、逃げないから…」
舐められたり吸われたりすることに対して抗いようもない快感が脳を刺激する。
頭が靄がかかり思考を緩ませるような感覚、次第に快楽だけが頭を刺激して中毒症状などが出てもおかしくもない程の物がそこにはあった。
「あ、アル様!流石にもう…」
「だ…めよ…んあっ、まだ、お腹を空かせてる…」
「なら私がやるどいて社長」
カヨコに無理やりどかさせる。
名残惜しいという気持ちもありながら、このまま続けてしまったら本当におかしくなってしまう所だった。
霧がかる頭を無理やり起こしてテンを見る。
肋骨などが見えていたり顔色後悪かったのが驚く程に回復している。
「テン…ここだよ」
「っ…や…だぁ」
「苦しいんでしょ…安心して嫌いになんかならないから」
「…っ」
涙目になりながら拒否するテンはその言葉を聞いて、躊躇をしながらカヨコの首元に噛み付く。
「…!?」
カヨコも同じ快楽を味わっているようだ。
抱擁をしながら、愛おしそうに、安心させるようにテンの頭を撫で、身悶えながらも大人しく吸われている。
抵抗感などと言った感情を軽々く粉砕してくるあの快楽は到底忘れられるはずもなく、吸われていないこちら側も体が反応してしまう。
「く…ふふ、気持ちよさそうだねカヨコちゃん」
「っあっ…そんな、こと…いわな…んっ」
「……いいなぁ」
ハルカがそう言葉を零す。
この中でテンに一番懐いていたのはきっとハルカである。
そこにはきっと助けになりたいという気持ちがあるのだろう。
「て…ん…っあ…もう…っんぁ…」
「次は私がやります、これで足りたらいいんですが…」
カヨコからハルカに移ってゆく。
最初ときとは見違えるように顔色が治っていくが明らかにまだ足りていない。
きっと何週間も吸えていなかった代償なのだろう。
だがあと少しだ。
「はる…か、さん…」
「私のは…吸ってくれないんですか?」
「…そんな…ことは…」
「それでは…はいどうぞ、不束者ですが、よろしくお願いします」
ハルカが首筋を見せながら、いつも以上に落ち着いた声色と表情で和かに笑いかける。
理性をほとんど取り戻したテンは恐る恐るだがゆっくりと首筋に歯を付け噛み付く。
「ふっ…うっあっ」
「ハルカ大丈夫?」
「ん、ふぁ、い…気持ちが…いいです」
「くふふ、なんだかいいなって思っちゃうなぁ」
ふと思ったのだが、顎の力だけで銃弾すら通さないキヴォトス人の皮膚を易々と貫いている。
普段のあの怪力や身体能力の高さはこのキヴォトスで、生徒達の血液を吸い出す為に強くなっていたのではないだろうか。
いわゆる…
「吸血鬼ってことかしら」
「ゲヘナ生まれなら有り得るんじゃないかな」
キヴォトスのしかもゲヘナ自治区にいるということは十中八九悪魔という種族なのは確実だ。
悪魔は悪魔でも千差万別に種族は存在する。
基本は人間と変わりはないが、尻尾が生えていたりいなかったり、翼があったりなかったりする。
こういう吸血行為が必要だったりする子もいるのだろう。
「っん、ふぁ…あっ」
「ハルカ私の服噛んでいいよ、少しは安心すると思う。」
カヨコが自身の服を噛ませる。
涙目になりながら身をよがらせるハルカはどこが幸せそうだった。
テン自ら告白をされたことはなかったが、記憶喪失者だと私達の間で話し合い勝手ながらそう思っている。
テンの場合覚えていることもあるが8割方忘れていることの方が多いように思える。
その為、自身の主食である血液の摂取、つまりは吸血行為自体を忘れていたのだろう。
よかった、この段階で気付けて…もしもっと遅かったりしたら取り返しのつかないことになっていた。
「ぷはっ…」
「あっ、はぁ…」
「満足した?テン…」
「は…い、ご馳走様…でした」
テンが顔を赤くしながらうとうとし始めた。
今のこの子にとっては初めての満腹なのだろう、なんだか少し赤ちゃんみたいだなと思ってしまった。
「お休みテンまた明日だね」
「私達も少し疲れちゃったから、少しだけ…」
「貧血…です」
「本当に食べるのが好きね…私も少し寝ようかしら」
そしま皆してそこまで大きくもないベットの上でだらりと体を倒し瞼を閉じる。
強烈だった一日を終わるのであった。
心地の良い眠りだった。
前世でも経験したことの無いような眠り心地。
「ん…」
目が覚めた。
周りには寝静まっている便利屋68の方々。
ボクだけが起きてしまっているらしい。
あれからどれぐらいだったのだろうか、随分と長く眠ってしまったような気がする。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…」
ボクは小さく掠れた声で懺悔する。
ここに来てからずっと迷惑しかかけていない。
自然と涙が零れてしまう。
役に立ちたかったという独りよがりの気持ちで、なにかする事に迷惑を負わせていた。
血を吸わせてもらっている時はそんなことを考えている余裕もないぐらいにお腹がすいていて、過度にと言っていいほどに吸ってしまった。
恩人と呼べる人達に何も返せていない。
貰ってばかりだ。
「ごめんなさい…ごめ…んなさい…」
吸血鬼、そんな話はこの世界に詳しい友達からも聞いた事のない存在だった。
つまりボクはこの世界でたった1人の化け物なのかもしれない。
「ごめんな…さい」
「気にしないで…テン」
「っ!」
アル社長がボクの頬を撫でる。
起こしてしまったようだ。
「で、でも…」
「迷惑なんて沢山かければいいじゃないの」
「…」
まるでボクの心を見透かしたかのような言葉をかけてくれる。
「何度も言うけれど、貴方は便利屋68の新人社員。新人なのだから、最初のうちは沢山迷惑をかけるものよ。」
「それでも…ボクはかけすぎている…」
「そうなのかもしれないわね、でもそれでいいのよ。間違ったことがあれば叱ってあげるし、良かったことがあれば褒めてあげるわ。そういうことの積み重ねで人は成長するのよ。」
「…は…い」
涙が出るのをこらえる。
焦りすぎていたのだろう、役に立ちたい迷惑をかけたくないと事を急いで結局は迷惑になって返ってきた。
ボクはきっとこれからも迷惑をかけることがあるだろうし、ボクは自分のことが大嫌いだ。
でも、こんなボクを受け入れてくれたのだから、少しはこの人達に迎え入れて良かったって言ってもらいたい。
「顔色良くなったわね」
「そう…ですか?」
「ええ、見違えるほどよ」
その言葉で気づく。
身体の調子が異様にいいのだ。
血液を吸う前までの目眩や脱力感が嘘のように消えていた。
「お礼…改めて言わないとですね。本当にありがとうございました」
「ふふ、後でこの子達にも言ってあげてちょうだい、きっと喜ぶから」
「もちろんですよ」
「これからのことを少し考えないとねテン?」
「………そうですね」
ボクの主食である血液のことだろう。
「暫くは…大丈夫だとは思います」
「えぇでも、1週間に数度…なんなら毎日、少量でも必要じゃない?」
「…普通の食事でだいぶ紛らわせますよ?」
「でも本当に紛らわせるだけ、ずっとお腹は空いたままでしょう?」
事実であった。
耐えようと思えば死ぬまで耐えることができると直感で理解できるが、その状態で流血沙汰や、やむを得ず戦闘することがあれば、自身を止められる自信がない。
だからといって毎日貰うのは…
「耐えるのは良くないと思うわよテン」
「なぜ…です?」
「恐らくなのだけど、空腹の状態を1週間以上も続けていたらからこその、あの食べっぷりだったと思うの。」
「……」
「私は別にいいよテン」
カヨコさんが起きたようだ。
「…いつから起きてたんですか?」
「最初からだよ、それにムツキもね」
そう言うとムツキさんがむくりと起き上がる。
「…ありゃ?バレてた?」
「ハルカも途中からだけど、起きてるんじゃないかな?」
その言葉を聞いたハルカさんの体がビクンと跳ね、飛び起きた。
「…き、聞くつもりはなかったんですっ!」
「いえ、黙っていてくれてありがとうございます」
「ふふ、本当に思い詰めやすい子だね。私たちがそんなに信用ならない?」
「テンちゃんが思ってる以上に大好きなんだよ?」
「……っ」
何故だろう不思議と笑みが零れた。
あんな事をしたというのに、変わらず話しかけてくれて変わらず笑ってくれて、本当に嬉しかった。
前世ではずっと病院にいて、病弱だったから家族にも見放された。
弱い所を見せるだけで嫌われるって思ってた。
でもそうじゃないって少しは思えて、酷く安心した。
こんなボクなのに、こんなにも弱いやつなのに、こんなにも最低なやつで一生分の恩を少しも返せて居ない奴だと言うのに…
「あの…」
「…どうしたの?テン」
言葉が詰まる。
こんなこと口に出したくないがどうしても言いたい言葉がある、聞きたいことがある。
でももし否定的な言葉が出てきたらと思うと心臓が痛い。
でも、確認したくてたまらないのだ。
「これからも、一緒にいてもいいですか?」
みんながお互いの目を交差させ、再びこちらを見て優しい笑顔で言ってくれる。
当たり前だよ…と
プロローグfin
やっと吸血する所書けたっ!!楽しいけど加減が分からないからジャブ程度の物しか書けなかったのが悔やまれる…!