気分揚々星空模様の中ルンルンな気持ちで便利屋68の事務所へ戻って行っている。
ヒナちゃんが元気になってくれることを星空に願いながら夜道を一人で歩く。
「うわっと、す…すみません」
「いえ、私もよそ見をしていましたので」
誰かにぶつかってしまった。
ふと上を向いて顔を確かめてみたら、驚愕で体が固まる。
その顔はひび割れていて、モヤの様なものが漂っていて、全体的に真っ黒な人だった。
もはや人なのか怪しいが、このキヴォトスでは人判定なのだろう。
「……」
「…どうされました?」
「あぁ、いえ、ちょっとした疑問が晴れましたので」
「それは…良かった…ですね?」
なんだか、スッキリしたような面持ち…面持ちなのかこれは?まぁスッキリした様な雰囲気を漂わせ、会釈をしながらボクの横を通り抜けていく。
ふと、後ろを振り返ってみたのだが、既にその人の姿はなかった。
「……ゆ、幽霊だぁぁぁぁ!?!?」
ボクは恐怖で走り出した。
このキヴォトス色んな生物がいることは分かっているため、普段信じていない幽霊などの存在がもしかしたら実在するかもしれないという恐怖心がふつふつと湧き出る。
正直くっっそ怖かった
「た、ただいまですっ!!」
ただひたすら走り続けていたら、いつの間にか事務所には着いていて、走る勢いそのまま扉を開けた。
「て、テンちゃん?…テンちゃん!!」
「てうわぁ!?」
ムツキさんから勢いよく抱きつかれ、床に倒れてしまう。
できる限り衝撃をボクにだけ来るようにしながら倒れられた為怪我はしていない様で安心だ
あ、キヴォトス人ならこれぐらい大丈夫なのか
「心配したんだよっ!?」
「あはは、ご、ごめんなさい」
涙を浮かべながら、さらにキツく抱きついかれる。
正直少し痛いが、自業自得な面も多いので甘んじて受け入れる。
そしたらコツコツと歩く音が聞こえた。
「どうされま…し…て、テンさん!!」
「え?ちょっまっ!ぐぼえあ!?」
ハルカさんがボクの頭目掛けて胸からダイブしてくる。
く、首が折れる…あ、頭割れちゃうよぉ…!?
「全く貴方達は心配しすぎなのよ」
そして奥から出てきたのはアル社長であった。
頼みますから助けて欲しいです。
「そんなこと言って、さっきまで同じところぐるぐるしながら電話かけ続けてたのに?」
そしてまた奥から出てきたのはカヨコさんであった。
まぁ、ハルカさんの胸に埋もれて、姿形が見えないから声での判断なのだが…
「ま、まぁ!だ、大事な新入社員だしねっ!そんなカヨコだってものすっごく怖い顔してたじゃないっ!?」
ガヤガヤと賑やかな話し声が鳴り響く。
ボクはこの騒がしさが大好きだ。
「ってかそうよ!なんで電話に出なかったのよ!予備の携帯渡してたじゃない!?」
「んごっ…そ、しょのま、んぐ、い、息が…」
「は、ハルカ!?一旦離してあげて!?死んじゃう!テンが死んじゃう!?」
アル社長の必死の説得で何とか離して…は貰えなかったが、息ができるぐらいは緩めてもらった。
こんなにも愛されてもらっていたんだなと再確認すると同時に、これからはできる限り心配させないようにしようとアル社長に誓った。
「そのですね。ヒナちゃ……ヒナさんの手伝いを少ししていまして、電話も手伝いするとなったら邪魔になるかもなぁっと思いスリープモードに…」
「テン…」
「……はい」
「次それやったら部屋から出さないからね?」
「………はい」
カヨコさん怖いです。
今までで聞いた事ない声聞いちゃいましたよ?
「本当に…もうしないで…」
「…はい」
ムツキさんが消え入るような声で訴えかけてくるため、スリープモードにだけは絶対にしないことをアル社長に誓った。
あと待ってハルカさん…なんかさっきより抱きつく力強くなってないですか?あの……まっ!?
心地の良い眠りから覚める。
時刻は深夜の5時頃で、あれから11時間程度眠ってしまったようだ。
周りを見渡しある人物を探す。
だが、辺りは静寂のみしか存在しておらず、とんでもない寂しさを覚えた。
もっと…甘えたい
「あれ?」
この寂しさを紛らわすために事務作業をしようとするのだが、そのほとんどが終わっていることに気がついた。
残っている資料を見るとその全てが風紀委員のみが実行出来る作業だった。
思いあたる人物は1人しかいない。
「テンちゃん…」
無理…無理だ。
思いが込み上げてきてしょうがなかった。
一日だけだ…たった一日だけ共に過ごしただけの仲だと言うのにこの思いがとめどなく溢れ出してくる。
「……ありがとう…」
今日は何回泣いたら気が済むのだろう。
でもしょうがないじゃないか、ここまで私を思って行動をしてくれた数少ない人なのだ。
私は強い、誰よりも強い。
だから誰も私を助けてはくれなかった。
「でも、貴方は違うのね。」
私の表情は今どうなってしまっているのだろう。
涙と笑顔が混ざったどうしようもなくだらけた顔をしているのに違いない。
一頻り涙を流し、そして落ち着く。
今日も頑張ろう、明日もその明日ももっともっと頑張ろう。
そしていつか貴方が来てくれたら、めいいっぱい甘えよう。
コンコンと執務室を叩く音が聞こえる。
「ヒナ委員長いらっしゃいますか?」
どうやらアコのようだ。
私はパシパシと頬を軽く叩き気合いを入れ直す。
「えぇ、入っていいわよ」
「失礼致します……っ!?」
一礼をしたアコが顔を上げた瞬間驚きの表情を浮かべる。
「どうしたの?」
「あぁ…その、とても…良いことがあったのですね」
「…なんで?」
「いえ、その、なんか効果音が出るぐらいつやつやしていますし、いつも人を殺してしまうのではと思うぐらいの目つきをして…あぁいえ!なんでもないです!」
ツヤツヤとかはよく分からないが、確かに身体の調子がとてもいい。
今までの人生であるかないかぐらいの調子の良さに自然と笑みを浮かべてしまうほどだ。
「そうなの?まぁいいわ、それより何かあった?」
「……ふぅ…報告が一点ありまして、エデン条約の日程です。」
そうか、もうその時なのか。
改めて気合いを入れ直し、普段の業務を…
「失礼します!」
「…テン…ちゃん?」
作業を開始しようとしたのだが、思いもよらぬ来客に手が止まる。
そこに居たのはゲヘナの制服を身につけた白悪テンの姿であった。
「な、なんでここに?」
「誰ですか貴方は?ここは風紀委員の執務室ですよ?易々と…」
「アコ黙って」
「……はい」
何か言いたげであったが折れてくれたようで私の後ろに下がる。
改めてテンちゃんを見ると、急ごしらえの制服なのか、尻尾や翼の通りが悪く窮屈そうにしていたが、それでも本当に似合っていて、黒と白のコントラストが本当に目を惹き付けられた。
「えぇと、それでなんの用?白悪テン」
「ボクこの学園に入ることにしたのでその挨拶にでもと思いまして!」
その言葉を聞いた瞬間、私の思考が一つのことにだけに集中してしまった。
「…白悪テン」
「はい?」
「風紀委員に興味は無いかしら?」
「…え?」
後先考えずに行動するのはあまり好きではないがこの場合は例外である。
今の私は冷静さを失いかけているのを自覚しながら絶対に風紀委員会に引き入れたいという気持ちが大いに先行して言ってしまった為もう引き返すことができない。
「で、でも、ボク便利屋が…」
「便利屋68グレーゾーンの組織よ、いつ私たちが動くのか分からない状態、でも貴方が入ってくれたら永久的に存続させることを誓うわ」
「ちょっ!委員長!!」
「アコ黙って!」
冷静さを欠く行動をしているし、職権乱用をしているのは重々承知の上で勧誘を行っているが私に後悔はなかった。
「と、とりあえず入学できたら考えてみていいですか?」
「え?」
「その、入学試験がこれからありまして、晴れて合格できたら明後日からゲヘナの生徒ってことになるみたいで…」
「……」
「それに…」
テンちゃんが私の耳元で囁く。
「ダメだよヒナちゃん、ちゃんとしないと…ね?」
頭がぼやける。
恋は盲目とはよく言うが、これ程までとは思いもよらなかった。
心臓が痛い、テンちゃんの事を手に入れたいという欲求に駆られるがテンちゃんに嫌われたくないので必死に我慢して力なく頷く。
「いい子だね、大丈夫だよヒナちゃんまた今度…ね?…」
「っ……」
「それじゃあ挨拶だけですのでこれにて失礼致します」
「……うん、頑張ってね白悪テン」
執務室の扉からテンちゃんが出ていってしまう。
甘えたいという欲求に全力で蓋をして、作業にまた取り掛かろうとすると、アコが話掛けてきた。
「だ、誰なんですか!?あの人は!?」
「アコうるさい」
「うっ…で、ですがっ!!」
「まぁ…そうね。特別な人かな?」
「…!?!?!?!?」
アコが声にもならない様な声で奇声を上げていたが、今の私にはどうでもよかった。
ゲヘナに入ってくれる。
それだけだと言うのにこんなにも嬉しいのは何でなのだろうか。
今はテンちゃんの合格を祈って作業を進めるとしよう。
体を屈め息をつく。
少しばかり焦り驚いてしまってからだ。
ヒナちゃんがあんなにもグイグイ来るとは思ってはいなかったので、最もらしい理由をつけて出てきてしまった。
申し訳なく思うと同時にあんなにも生き生きしたヒナちゃんを見られて酷く安堵した。
「もう、大丈夫だね……ヒナちゃん」
以前は、言葉を選ばずに言うのであれば生気がないように思えたので、少しでも助けになれたようで本当に良かった。
これからはボクの助けがなくとも、きっと大丈夫だろう。
「さて……と」
ボクは立ち上がり、大分早い時間だが試験会場にへと向かう。
カヨコさん達に勉強はしなくていいのかと聞いたのだが、別に何もしなくても受かるということなので、何もせずに来てしまったが、本当に大丈夫なのだろうか?
「む、貴様か?我がゲヘナの軍門に下りたいと言う者は」
「へ?」
試験会場であるはずの所にいたのは長身で切れ目が特徴なイケメンであった。
「えぇと……」
「あぁ、すまない私のした事が……自己紹介を忘れていた。私の名前は羽沼マコトだ。」
「あ、ご丁寧にどうも、ボクは白悪テンです。」
「……ふむ」
イケメン顔がぐいっと近づいてくる。
反射的に仰け反るが、じわじわと距離を詰められ壁際にまで追いやられてしまった。
「え……っと」
「不思議な体質だな……キキ、悪くない」
「は、はい?ちょっ!?」
マコトさんの顔がボク首元に埋もれたその瞬間……
『ゴリっ!』
とても嫌な音がなる。
この音の正体はすぐに分かった。
マコトさんの横腹に蹴りがとんでもないぐらいにめり込んでいたのだ。
「ぐぎき……そ、空崎……ヒナ…これは……ぐっ…何を思っての狼藉だ?」
「テン!大丈夫?」
「ヒナ……ちゃん?」
叫び声すらもあげられないぐらい深くめり込んだようで、片足を着いて横腹を抑えていた。
そんなマコトさんをヒナちゃんはボクの肩を掴み片手で抱き寄せながら、すんごい形相で睨んでいた。
「狼藉……?バカな事を言わないで、私はセクハラを受けている新入生を守ってるだけ」
「ほう…?相当仲がいいようだな…うっ…ちょっとまて…ふぅ…深くめり込ませすぎだ…っよし…それにまだそいつは我が校の生徒ではないぞ?」
「これからそうなる」
バチバチと火花を散らせながら、睨み合う。
「キキキ…これは僥倖だ。かの空崎ヒナが守りたいと思う存在がいるというのは…キキ、このゲヘナ学園引いてはこのゲヘナは私のモノだ。そして白悪テンの入学を許可するには私の許しが必要だ。」
「何が言いたい?」
「頭を垂れて許しを乞え、そして隷属を誓え空崎ヒナ」
ヒナちゃんが一瞬目を見開いたが、すぐに覚悟を決めたかのような目つきになる。
これは…させたらダメだ。
「じゃあ入学拒否します」
「キキ……キ…!?」
「テン……!?」
「ヒナちゃんがそんなことする言われはないし、させたくもないからね。どうしますマコトさん?大人しくボクを入学させるか、ボクを帰さすか。」
マコトさんが分かりやすく嫌な顔をする。
ボクが交渉材料になり得るかどうか正直博打であったが、マコトさんは悩んでくれた。
「ふむ、中々に自身の価値を理解しているようだ。」
「博打のつもりなんですけどね…」
「そうなのか?キキまぁいい、このマコト様は優秀な人材を逃しはしない。隷属の件は諦めるとしよう。」
「…つまりは」
「喜べ、合格だ。ようこそゲヘナへ」
体から力が抜けた。
恐らく試されていたのだろう。
ここで言い返せるか言い返せないか、それで合格か不合格かを決めていたのではないかと思う。
まぁその真相は目の前でポーズを決めているマコトさんにしか分からないため考えるだけ無駄だろう。
というか普通、筆記試験だとかじゃないの?
「本来ならば、試験内容は違うのだがな。貴様だけは特別だ。」
「……理由を聞いても?」
「私が気に入ったからだ」
理由になってなくないですか?
でも何故なのか、不思議と惹かれてしまう。
なるほど、これがカリスマ力と言うやつなのだろう。
「私こそがルールであり、私が歩む道が覇道なのだっ!」
「……はぁ、行くよ白悪テン」
「え?あ、し、失礼します」
「そう!私こそが!このマコト様こそが!至高にして……っておい!!最後まで聞いていけ!」
このような声が聞こえたような気がするが、今はヒナちゃんがすこぶる怖いので気にしないようにしておこう。
「ていうか、なんでここに?」
「執務室を出たら先生と出くわしてね、話を聞いてみたらマコト様本人が試験内容だって言ったようだから、嫌な予感がして」
あぁ、なるほど。
確かに先生はマコトさんに用があると言っていたし、何よりゲヘナ学園に入学する際の手続きをしてくれたのは先生である為、必然的にマコトさんに会うことになるのか。
「ふふ、ありがとうね、ヒナちゃん」
「……うん」
おや?ふと思ったのだが、この世界でのボクの友達第一号ってヒナちゃんなのではなかろうか。
アル社長達は仲間という認識であり何より尊敬する恩人方だ。
対してヒナちゃんは愛称呼びも出来ているし悩み事を相談してもらえる仲にまで発展したのであれば、それはもう友達なのではと思う。
だとしても、ヒナちゃんも立場というものがあるため人前ではしっかりと敬語を使おうと思うし、ヒナちゃんじゃなく委員長とでも呼ぼうと思う。
「ねぇ……テン」
「ん〜?」
「……その、改めて風紀委員ってなる気は……ない?」
あぁそうか、ボクは晴れてゲヘナ生になったのだ。
厳密には明後日からとなっているが、ゲヘナ生になることは確定している。
正直なりたい気持ちはある。
だが、便利屋と風紀委員会は相容れない存在だし、二足のわらじとなるのも好ましくないとも思っている。
かと言って、ヒナちゃんの仕事量を直で見て、これから先必ず無理をするのは明白なため、少しは手助けしたいと言った気持ちもあるのだ。
だからボクは……
「……ごめんね、ヒナちゃん。ボクは風紀委員会には入れないよ」
「…っ!…そ、そう…」
誰が見てもわかるほどに萎れてしまうヒナちゃんを見てとても心が痛いが話はここで終わりでは無い。
「風紀委員会には入れないけど助っ人としてなら入れると思うよ」
「へ?」
間の間を取りまくった妥協案である。
便利屋68と言う企業に入ったのであらば、正義を実行する風紀委員会は水と油の様に相容れないだろう。
だが、あくまでヒナちゃんの友達として入るのであらばきっと問題ないはずだ。
「だからいつでも呼んで、毎回は無理でも全力を尽くすよ。だって、ボク達は友達…でしょ?」
「……!!うん……!呼ぶ。絶対に!」
「…あ〜あ、なんだか夕方までは暇なんだよなぁ。どこかで時間潰せないかなぁ」
「もう……ふふ、じゃあ夕方までお願いできる?」
「任された!」
ボクは軽快な足取りで昨晩の執務室へと歩みを進める。
ヒナちゃんはどこか楽しげな様子なのを見て、こちら側が嬉しい気持ちになったのだった。
「……やはりダメか」
何時からか、私は未来を見れなくなってしまった。
エデン条約が本格的に始動し始めた頃に突如私の異能とも呼べる未来視がほとんど機能しなくなったのだ。
厳密に言えば機能はするのだが、一秒単位で未来が変わり続けてしまう現象が起こり、まるで現在進行形で未来を変え続けている存在がいるかのようだった。
「…っ!」
その原因を探ろうと今でも未来視を行使し続けているのだが、時折脳の許容量を超え、私を弾き出すように未来から追い出されるのだ。
だが一つわかったことがある。
ある特定の地点でのみ未来の変動が激しいということだ。
ここトリニティの未来は少なからず視るという観点で言えば可能だし、ミレニアムや山海経の未来を見ると、『一つ』の場所と比べると変動はするが遥かにゆるやかに変わっているように思える。
「……ゲヘナに何か…いるのか?」
未来から弾き出される原因にもなった場所だ。
ゲヘナの未来を見ようとすれば無限とも言える程の未来が頭の中に去来して、未来視を徹底的に阻害するのだ。
かなり体力を使うため、先程から汗が滝のように流れ、息も心臓も異常なまでに早く苦しかった。
「……鼻血…?」
ベットの上に座り肩で呼吸している時に鼻血が出ていることに気がついた。
想像以上に私の体はダメージを負ってしまっているようだ、これ以上の深追いはもしかしたら命に届くかもしれない。
「だが、確認しなければならない……」
未来が見えていた時の内容を鮮明に思い出す。
それはこのキヴォトスの破滅、空は赤黒く染まり、黒の球体のような物が飛来する地獄のような光景。
私は確かめなければならない、この未来はいつか訪れてしまう世界だと私は確信し、立ち向かおうとなんて露にも思えなかった。
だが、未来を変えられる存在が現れた。
もしかしたら世界の破滅よりも恐ろしい存在なのかもしれない、だけれど一度諦めてしまった私にとって、紛れもない『希望』だったのだ。
今の私は、トリニティ内で死んでいる生徒となっている為、誰かに頼ることは出来ないが、一つ利点が存在する。
立場など関係なく行動ができるということだ。
「荷物をまとめなければね…バレる前に静かに出なければ」
私を匿ってくれる存在に外出願いなど出せるはずも無く、その人にはとても申し訳ないが、優先したいことが出来てしまった。
「ふむ、無線機に…携帯用食料…そしてテントにっと」
テキパキとその部屋にある使えそうな物、そして趣味で持っていた物の中で使える物をバックに詰め込む。
そしてふと、目線を横にやると人間一人分程度ならば入るダンボールを発見した。
「…無いよりかはマシだね……」
私はこの部屋から誰からもバレずに脱出する方法にダンボールで隠れる事を思いついた。
何故これが有効だと思ったのかは分からないが、何故だか行けるような気がしてならなかった。
「ふふ、作戦決行ってやつだね」
そして私の脱出劇は今まさに始まったのであった。
「……失敗というやつなのでしょうね、『始祖』…貴方は道半ばで息絶え、あまつさえ実験は失敗に終わった」
私は契約書を撫でる。
「そして私との契約も終了ですね。まぁですが、不完全なる存在であったとしても生誕させた時点で、ある意味成功なのかもしれませんね。まぁどちらにせよ、失敗する他ない計画でしたし、驚きもないですが……少々見てみたくもありましたねぇ…」
もし『始祖』が、本来の計画通りに進めれたら、とても興味深く、面白い存在となっていたはずだ。
1000回やって1000回失敗する計画、『色彩』に観測されないわけがない実験方法に意義を唱えはしたが、結局は協力してしまうほどに魅力的で、大胆で我々探求者にとって、とても魅力的に感じでしまった。
「さて、私は私のするべきことを……」
契約書を手に取り破り捨てる。
「もう会うことは無いでしょう『始祖』。案外貴方のことは嫌いではありませんでした。」