非常に投稿が遅くなり申し訳ないですっ……!!
帰路に着き暫く立つ。
ボクたちは雑談などを交えながら歩き、もうそろそろ便利屋68の事務所に着く所だ。
「ふぅ……」
「どうしたのテン?」
「いえ、少し心構えをと思いまして」
事務所に入る時の皆の顔を想像して怖気付いてしまう。
便利屋68の事務所が肉眼に捉え、覚悟を決め歩みを進める。
冷や汗ダラダラだ。
「着きました……ね」
「テンちゃん?」
「フゥ……大丈夫です。念の為、少しここで待っててください……」
尋常じゃないオーラを放つ便利屋68にとりあえずは一人で赴く方がいいだろう。
初っ端から風紀委員長と一緒に入ったらどういう反応になるのかが分からないためとりあえずは眠っているセイアさんと入ることにする。
「……ただい……っ!?」
部屋に入ると部屋の気温が5℃ぐらい下がったような気がした。
明かりは付いているはずだと言うのにボクの視界は暗闇のように映った。
「……テン」
その暗闇の奥からカヨコさんが出てきた。
その顔は怒りなど感じられないような無だった。
「……はい」
「とりあえずおかえり。」
「……はいただいまです」
「遅くなるなら連絡してって……私達言ったよね?心配したんだよ?」
「……はい、ごめんなさい。」
「それに……女まで連れて来て……どういうつもり?」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
表情筋とかどうしたんですかカヨコさん!?全く動いてないのすっごく怖いんですけど!?
そして次にトコトコと奥から足音が聞こえる。
「カヨコ、落ち着きなさい。」
「そうだよ〜、テンちゃんの言い分聞いてみないとね」
「……テンさん……」
奥からアル社長、ムツキさん、ハルカさんが姿を表し、カヨコさんを宥めさせようとしているがその内怒りが込み上げてるだろうと直感でわかるほどに顔が笑っていない。
「……スゥ」
「テン、説明してちょうだい」
「えぇ……と」
どこから説明したものか。
セイアさんのことを事細かに説明する訳には行かないので、どう省きながら納得してもらえるかを考える。
「テン、もういい?」
言い淀んでいると、後ろからヒナちゃんに声をかけられる。
どうやら、ボクの状況を見かねたヒナちゃんが助けようとしてくれているみたいだ。
「空崎……ヒナ!?」
ハルカさんがすぐさま臨戦態勢になる。
無理もないだろう、風紀委員会の委員長自ら便利屋68の事務所に来たのだから。
「泊まりに来ただけよ、安心してちょうだい」
「……はい?」
「できるって思ってるの?」
「ふぅん……」
また気温が下がったような気がした。
ここはきっと南極だったのだろう。
「あ、あの、説明……してもいいですか?」
「……まぁ、とりあえずは聞かないと…ね」
そしてボクはこれまでの経緯となぜ連れてきたのかを説明した。
セイアさんをなぜ連れてきて、なぜこうなってしまったのかを詳細を省きながら出来る範囲で伝える。
最初はハテナマークを浮かべてはいたが、次第に考え込むように俯き、やれやれと言ったような顔つきになる。
「ま、まぁ、事の経緯は分かったわ。その子はしばらくここに眠らせましょうか。」
なんと、セイアさんのお泊まりを許可してくれたのだ。
図々しいお願いだと言うのに、最後は許してくれるアル社長の器の大きさに感謝の念計り知れぬである。
ボクはこの人にどれだけの恩を貰ったのだろう。
アル社長だけではない、便利屋68の皆に助けられているという言葉では足らないほどだ。
本当に、感謝していますアル社長。
「あ、アル社長……!ありがとうございます」
「でも……!」
「は、はい」
「しっかりと面倒を見ること、できる?」
「はいっ!しっかりします!」
なんだか、子供にペットを買う時の親みたいだな。
「ならよろしい……それで…」
「うん…こっちはどうしよっか」
「……?」
「首傾げないでよ……」
セイアさんの件は解決はしたが、まだ一つ解決できていない問題がある。
ヒナちゃんがここで泊まりたい問題の事だ。
便利屋68として、正義側にいる少女をそう簡単に受け入れていいのか決めあぐねていた。
「あ、アル社長…図々しいお願いですが…お願いできませんか?」
「……くっ」
「テンのお願いに本当に弱いよね、アルちゃん……」
「それは私達もでしょ」
「……そう、ですね」
「あぁ、もう!わかったわよ!今晩だけよ!空崎ヒナ!!」
苦悶の末に承諾を出してくれた。
連絡すると言う約束も破り、あまつさえお泊まり会をさせろと言っているのだからとても緊張した。
それ故に体から力が抜けたような感覚になる。
図々しい……本当に図々しいお願いである。
借り物の部屋で女の子二人を連れ込み、同じ屋根の下で一晩過ごさせようとしたのだから。
「感謝するわ、陸八魔アル」
頭を下げ感謝を述べる。
「今晩だけよ。勘違いしないでちょうだいね、これはテンのお願いだから聞いただけよ」
「えぇ、分かっているわ。」
こうしてボク達のお泊まり会は始まったのであった。
「ん……」
月明かりが当たる。
まだ眠たい瞼を擦りながらゆっくりと目を開けるとそこには白悪テンの姿があった。
「……っ!?」
声を出しそうになったが慌てて口を抑え、寝息を立てている白悪テンを起こさないようにする。
何故私はここにいて、ここで寝ていたのかは皆目見当もつかないが、白悪テンが気を利かせてくれたことはわかった。
「……」
規則正しく寝息を立て無防備な状態で寝ている姿に言いようもない感情に襲われる。
私は無意識の内に白悪テンの頬を撫でる。
その肌は驚く程に滑らかで人とは思えないほどだった。
長く規則正しく伸びる白いまつ毛、綺麗に整えられた眉毛、穢れなき純白な髪、そのどれもが私の心を惑わせる。
「…んっ」
艶やかな声色で鳴く白悪テンに無防備な姿でいる白悪テンに純白で穢れを知らない白悪テンに私は……
「そこまでよ、百合園セイア」
「…君は」
「空崎ヒナ、風紀委員長よ」
エデン条約の話をするにあたって、必ず耳にはする名だ。
ゲヘナ最強と名高い破壊の象徴、そしてエデン条約に来席する者でもある。
「単刀直入に聞くわ。なんでここにいるの?」
「……やんごとなき理由、それだけではご不満かな?」
「ふぅん」
目を細め、こちらの芯を捉える様な視線を向けられる。
なるほど、噂以上だな。
空崎ヒナがここにいる理由は私の監視が目的なのだろう。
「まっ、いいわ。貴方に悪意が無いことは分かっているし」
「…なに?」
「そこで寝てる子から、少しだけ貴方の話を聞かせてもらっただけよ。優しくていい子だってね」
「…そ、そうか」
あの教室での出来事を思い出し、急激に顔が熱くなる。
私は生涯あの光景を忘れないだろう。
美しく可憐で私に微笑みかけてくれるあの姿の事を。
「……ちっ」
「ん?何か言ったかな?」
「何でもないわ。ライバルが増えたと思ってね」
「…?」
「それよりも、この時期に来ることはなかったんじゃない?」
「そうなのかもしれないね。」
否定はしない、実際そうだからだ。
だが、確認せずにはいられなかった、だからここに来た。
このような理由ではきっと空崎ヒナには足りないのもわかっている。
そうだとしても事細かに詳細を述べる訳にはいかない。
「……はぁ、まぁそれもいいわ。エデン条約を阻む…いえ、そもそもそれ関連でもないようだし、それに………ふぁ、夜も更けたわ。」
空崎ヒナは小さく欠伸をしながら席を立ち上がる。
そして、先程まで白悪テンと添い寝をした寝床にへと足を進め、横になろうとするところを見て私は急いで静止させる。
「ちょっと待ちたまえ」
「…どういうつもり?」
「どういうつもりもないだろう?なぜ一緒のベットで寝ようとしている?」
「泊まりの許可は貰っているわ、添い寝をしないかどうかは私の自由……違う?」
別に添い寝をしようとしているだけ、同性同士で添い寝をしようとしてるだけだと言うのに、それをさせたくない自身の気持ちが膨れ上がる。
そこは私だけのものだ。
「あくまで泊まりの……だろう?添い寝をするかどうかは白悪テンが決めることだ」
「……テンちゃんをフルネームで読んでるのね」
「なに?」
「私はテンちゃん、ヒナちゃんと二人の時はそう呼びあっているわ。貴方は……あぁ『セイアさん』…だったっけ?」
カチンと音が鳴ったような気がした。
怒りがふつふつと湧き上がるが、心は烈火に頭は冷静に表情にはあまり出さずに保つのが淑女というものだろう。
怒りを抑え反論を考えているとがさりと音が鳴る。
「……あ、ヒナちゃん、セイアさん…起きちゃったんですか?」
どうやら起こしてしまったようだ。
「え、えぇ、少し寝付けなくて」
「……」
「……セイアさん、具合悪いんですか?」
まだ寝ぼけているようで細目から覗く綺麗な瞳で見つめられながら手を差し伸べられる。
「じゃあ……もう少しだけ寝ましょう?」
「……い、いいのかい?」
「ボクがしたいんです」
「…っ」
顔が赤くなるのが分かる。
私は勝ち誇ったような顔をしながら空崎ヒナを見るとその顔は引きつったような、絶望したような顔付きだった。
何故だかその顔を見て優越感というものが沸き上がりながら、白悪テンの手を掴み本能のゆくまま白悪テンの隣を陣取る。
それを見た白悪テンは嬉しそうに笑いながら、空崎ヒナの方向へと向き直る。
「ヒナちゃんもおいで」
「……え?」
「いつもありがとうね。今日は沢山休もう?」
「……」
「ふふ、しょうがないなぁ」
どこか迷っている空崎ヒナを白悪テンが体を少し起こして、空崎ヒナを抱き寄せ強制的に横にさせる。
こちらからは空崎ヒナの顔を見れないためその詳細は分からないが、きっと幸せそうな顔をしているのだろう。
「せっかく沢山眠れるんだよ?いっぱい寝よっか」
「……うん、寝る」
「ぶふ……」
「…何かしら百合園セイア?」
「いや…ふふ、まるであやされてる様だなと」
「可愛いですよねヒナちゃんって」
「……っう」
言葉にならないような声を発する空崎ヒナにまた笑いそうになってしまう。
なるほど、ライバル……言い得て妙、いや、その通りなのかもしれないね。
白悪テンは沢山の女性を落としているのだろうし、これは激戦になりそうだ。
「はぁ……」
「ん?どうしたんですかセイアさん?」
「いや、なんでもないよ……」
「そうですか?」
「それよりも、いつまで抱き合っているんだい?私には……しないのか?」
私は両手を前に差し出し、抱き合うように要求をした。
白悪テンは少し悩んだ末にこれに答えてくれて抱擁をしてくれる。
この温かさに包まれながら私は覚悟を決める。
白悪テンは私のモノだ、誰にも盗らせてなるものか。
ゲヘナ最強だのなんだのと知ったことでは無い、結局恋を知ってしまったら一人の女になるのだから、そこに優劣の差などありはしないだろう。
「必ず奪ってみせる」
「……はい?」
全てを黙らして、この私が白悪テンを娶ってやる。
「どうでしたか?『始祖』の遺作は」
「不完全……いえ、そもそも別物かもしれませんね」
ゲマトリアが集結する円卓、報告など交流、知識を教え乞う場である。
本来ならばもう少し後にやるつもりだったが、少々イレギュラーが起こった為、急遽開かれた。
「別物?失敗したということでしょうか?」
「えぇ、そう捉えてもらっても構いませんよベアトリーチェ。ただ……あれを完全に失敗だと言うのも違うのかと」
「ふむ……少なくとも機能して動いているということは、一度は入手に成功し逃走を果たしたということ…」
「そういうこった!」
『あれ』が動くために必要となる素材の入手が出来た、それだけでも偉業に等しいことでしょう。
そして、その命潰えたとしても逃走まで果たしたのなら偉業とは呼べぬ遥かなる伝説として語られるものだ。
「はい、ですので失敗だと断定することはできません。それに生命維持の為の機能もしっかりと働いているようでしたし、不完全という位置付けが正しいでしょう」
「ですが、貴方を見て何の反応を見せなかったのでしょう?」
「はい、ですが私達にも未知の体験です。何らかの制約があるのかもしれません。『始祖』は隠し事が多かったですから」
『始祖』は元々ゲマトリアである。
いつから生きていて、どこで生まれ、どうやって過ごしたのかも分からない。
だが、その技術だけは本物でだった、我々の専門分野でも、ある程度…いや我々以上の知識を持ち合わせていた場面もあるが、彼は隠し事が多かった。
本人は隠しているつもりなど無いのかもしれない。
接点はあったし交流もしたが口数が少なかったのもあり、『始祖』という人間を測りかねていた。
「我々は幸運だったのかもしれませんね。パラレルワールドというものがあるとしたら、『あれ』が生まれない世界線の方が遥かに多いでしょう。」
「そういうこった!!」
「楽観的に考えてみれば、シャーレ…かの先生がこの世界に来た時には既に『始祖』は潰えて、『あれ』が生まれぬことがほとんどだったでしょう。そう言う意味であれば幸運だったのでしょうね」
そう我々は幸運なのだ。
『あれ』が生まれぬ世界線の方が遥かに多いというのは我々の総意であり、幸運だったのだ。
この世界の『始祖』は非常にいい仕事をした。
「そういえばベアトリーチェ、貴下に貸した戒律を守護せしものたちを複製して、そちらの計画に付き合わせた件についての話なんだが。」
「えぇ、とても感謝していますよ。お陰様で領地を更に広げることに成功しましたから」
「私の作品をそのように使うことは許可していないはずだ」
「あの現象はあなたのものでは無いはずですよ?」
複製の力。
それは強力で厳格なる物だ。
「不躾だな」
「……よくもまぁ、そのような口を」
大人らしからぬ喧嘩が始まりそうだ。
毎回のようには集まっては一悶着が起きるのは如何なものかと思うのだが。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてくださいよ。大人らしくいきましょう?」
ゴルゴンダが仲裁に入る。
これもまたお馴染みの光景であった。
「それよりも、どうです?貴方の子供たちは」
「……今動かしている途中です。その際に使用した貴方のテクストは非常に役に立ちました。感謝しています。」
そしてこの円卓は元の軌道に戻り、我々の知見を共有すゆ様な会話に移る。
そして私は一つのことを思いついた。
「……ベアトリーチェ、唐突で申し訳ありませんが、一つお願いを聞いてはくれませんか?」
「お願い?」
「えぇ、ロイヤルブラットを『あれ』と接触させてみたいのです」
「……は?」
神聖なる血ロイヤルブラット、そして吸血行動を起こし、それを力とする『始祖』の遺産の相互作用、それが見てみたくてたまらなかった。
「許可できません。私の計画に支障をきたす可能性がある」
「私は技術を貴方に提供し、貴方からはまだ何も貰ってはいないようですが……」
「…」
ベアトリーチェは考え込む。
暫くし、ため息を1度吐き、口を開いた。
「1度だけです。それに、『あれ』の吸血行動を故意に起こし、傷を一つでも付けようものなら……」
「えぇ、分かっていますよ。ベアトリーチェ」
ピッピッと規則的に鳴る音、ポタポタと何かから垂れている音が聞こえる。
「ここは……」
見知らぬ天井だ。
……何を言っている?ここはボクが居る病院ではないか。
「おっ、起きたん?調子どうよ?」
隣から声をかけられる。
そこには毎日病院に来ては好きなゲームを語る友人が居た。
こいつは小学生からの友達で毎回のように遊び毎回のように笑いあっていた親友と呼べる奴だ。
「うん、問題ないと思うよ。なんならいつもより体の調子がいいぐらいだ。」
「はは、そりゃあ良かったよ�����」
「…?」
名前を呼ばれたような気がした。
「どうした?」
「いや、なんでもないよ」
「なんかあったら言えよ?友達なんだからよ!」
「っふ、うんそうするよ」
気兼ねなく話せて、気兼ねなく頼れ、それに応えてくれる最高の友人、彼の名は……なん…だっけ…
「おい、本当に調子いいのかよ?」
「いいはず…だよ?」
いつものような倦怠感はないし、体を起き上がらせれるほどに調子がいいはずだと言うのに、さっきから感じているこの世界を否定するような懐疑的な感覚がとても気持ち悪く思えた。
「なぁんだか、いつもより肌が白いように思えるし…」
「はぁ?『アルビノ』なんだからいつも白いに決まってんでしょ」
「そりゃあそっか!」
「もぉ…」
生まれながらのアルビノでボクの体のほとんどは白で出来ていた。
初めは皆と違うんだと思い、世間から距離を取っていたが、こいつのお陰で少しは世間というものを知ることになる。
それはまた別の話と言うやつだ。
「なぁなぁ!」
「はぁ、いつものブルーアーカイブの話でしょ?」
「え!?お前エスパーか!?」
「はぁ、そりゃあ何度も聞いてればわかるよ」
来る度にブルーアーカイブの話を耳がタコになるほど聞かされて覚えようとしなくとも勝手に覚えてしまうほどだ。
この病院に来てから1年もの間飽きずにその話題で話しかけてくる。
常人ならば嫌気がさすほどだが、ボクにとっては案外楽しい時間だったりする。
「そんでなっ!シロコがクロコに覆面を渡すんよ!」
「へぇ、それは感動的だね」
「だろう!?」
内容なんて聞かないで、相槌だけ打ってればいいだけだと言うのに、その話をボクは真剣に聞いていた。
たまに意識が朦朧とすることがあるため、全てを正確にとは行かなかったが、自分なりに真剣にだ。
「お前もできたらなぁ」
「親が持たせてくれないんだし。しょうがないでしょ?」
「今どき高校1年生にスマホ持たせねぇやつがどこにいんだよ!」
「まぁ、厳しい親だったし、それに持ってるパソコンも古すぎて最低限しか機能しないしね」
「貴族だのなんだの知らないけど、病気にかかっただけで簡単に自分の子供捨てるヤツ親なんて呼べねぇよ」
子供の頃から英才教育というものを受けさせられていた。
ピアノや勉強、仕事の仕方などを叩き込まれ、友人らしい友人もこいつ以外には出来なかったし、親の愛だなんてものは微塵も感じたことがなかった。
きっとただの道具だったのだろう。
ボクには三人の兄弟のうちの三男で、長男または次男の世継ぎに何らかの支障をきたしたときの予備でしか無かった。
だから、壊れた道具であるボクは簡単に1人になってしまった。
「仕事…しないと」
「病院代も払ってくれねぇなんてな…」
「しょうがないよ。そういう家だったんだから」
「でもよぉ…」
「……なぁんだか、耳が暇だから仕事してる最中にブルーアーカイブの話を聞けないかな〜」
「…!おう!」
色褪せないはずの少ない、本当に少ない楽しき記憶。
こいつのお陰でボクはまだ正気でいられたし、愛だなんてものに飢えてはいても、まだマシに思えた。
あぁ……懐かしいな。
「テンちゃん?…テンちゃん!」
「は、はい!」
目が覚め、目の前にはヒナちゃんとセイアさんが居た。
先程まで懐かしい夢を見ていたような気がする。
「おはよう…ございます?」
「…悪い夢でも見た?」
「え?」
「気づいていないのかい?」
セイアさんがボクの頬を指で何かを拭き取る。
「涙…?」
「あぁ、うなされてた訳ではなさそうだけれどね」
「…んー、多分大丈夫だと思います!」
「多分って…」
「……それよりも、お腹すきました…ご飯にしましょ?」
何故だかきかれたくなくて、無理やり会話を断ち切る。
時計を見てみると時間は5時半、ボクは急いでベットから立ち上がり台所に行く。
アル社長達が来るのは6時半ぐらいなので、それまでには食事を済ませておこう。
「えっと、何か嫌いなものってあったりしますか?」
「あぁ問題ないよ」
「以下同文」
正直言ってボクは料理がド下手くそな自信がある。
前世、ボクは基本的な事は最低限出来るが、料理はからっきしでダメだった。
「……ふふふ」
だから、ボクは一人でも食べられるように、冷凍食品という最強食品を冷蔵庫の中に…
「ん?」
ない。
あれ?何処にもないぞー?
冷凍食品が足生やして出てっちゃったかなぁ?
え!?ガチ出ないじゃん!なんでぇ!?
「はっ!?」
あっ、食い意地張っちゃって食べちゃったんだった。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!?
「な、なにか…なにか無いのか!?」
「どうしたの、テンちゃん」
「ひゃっ!な、なんでもないですよ。おほほ」
急にヒナちゃんに声をかけられ突拍子も無い悲鳴をあげてしまった。
バレる訳には行かないのだ。
料理が下手な女子がどこにいるというのだ。
冷凍食品とかで誤魔化そうと思ったのに、これでは女子力が欠如した奴だという認識が生まれてしまうではないかっ!
「…もしかして、料理出来なかったりする?」
「………あは」
「ふふ、一緒に作りましょうか。私も特段得意という訳では無いけれど」
「え?いいの?」
「もちろんよ」
「やったぁ!ヒナちゃん愛してる!」
「………そう。ふふ」
愛想をつかれてしまうのではと邪推したが杞憂に終わったようで酷く安心した。
本当にどうやったら料理という物ができるのだろう。
美味しい料理を作れる人、いやそもそも作れるだけで皆尊敬に値するものだ。
「そういうことならば私もいいかな?」
セイアさんにも声をかけられた。
どうやら先程までの話を聞いていたらしい。
「……私だけでもいいのだけれど」
「狐の手も借りたいだろう?それに、人数が多い方がいいだろうからね」
「セイアさんがいいのであれば是非一緒にやりたいです!」
料理の経験も足りてないので、今は本当に猫の手ならぬ狐の手が欲しかったので助かった。
こうしてボク達は料理を作るのだが…
「あれ?」
「て、テン?ちょっと待ちたまえ、なんだその包丁の持ち方…!?」
「え?こう持つんじゃないんですか?」
「グーで持ちやつがあるか…!?」
1番力入るのに…
「て、テンちゃん?ちょっと待って、目分量とは言ったけど砂糖を大きめのスプーンに山盛りにするのはなんでなの!?」
「え?甘い方が美味しかいかなって」
「独創的…ね」
多い…のかな?
「テン!?」
「ちょっと待ちたまえ!?」
「へ?…これなら…」
「もっとダメよ!?」
結局、料理なんてものは完成することはなく、後から来たアル社長に取って代わって貰うことになるのであった。