「色々世話になった。感謝する」
狐の耳が特徴の小柄な少女、彼女はセイアと名乗った。
私の知る限り彼女はトリニティの人間、そしてそのトリニティの中でも最高位の称号を持ったティーパーティー所属だったはずだ。
「いいのよ、こういう時はお互い様だしね」
どうやら社長はセイアと言う人物を知らない、または同姓同名だと思っているようだ。
ハルカはこの手の事には興味が無いはずなので、知らないのも無理はなく。
ムツキは気づいていないような素振りを見せているが恐らく知っているが知らない程で話すつもりらしい。
実にムツキらしい優しい選択だ。
「それで、どうする?まだここに居たいならそれでもいいのだけれど」
「…………いいや、そこまで世話になる訳には行かない。今日の内に帰ることにするよ」
百合園セイアは長考の末に決断した。
私も少しの間ぐらいならば、ここにいる事に関しては別に全然構わないし、テンの話し相手になってくれるのだから寂しがり屋なテンにとってとてもいい同居人になるはずだ。
本当ならば私がずっと傍にいてやりたいのだが、永遠に便利屋の事務所に居続ける訳にはいかない。
何故ならばこの事務所は5人で使うには、狭すぎたし寝る場所も難儀するる。
かと言って交代交代で事務所に泊まるのはテンが申し訳なく思ってしまうからやめたのだ。
なんなら、私達全員でシャアハウスでもした方がいいのかもしれない。
「だが、少しわがままを聞いてはくれまいか?」
「なにかしら?」
「テンを一日貸してはくれないだろうか」
私達は目を少しだけ見開いたが、すぐに冷静になった。
お互いに目配せをし、答えを出す。
「テンは行きたい?」
「…っ!はいっ!」
「何度も言うけれど遅くは帰らないでね。他ならそんなに言わないけど、ゲヘナはいつ拉致されるか分かったものじゃないから。」
死者が出るとまでは流石に行かないが、キヴォトスの治安がそもそも悪いのに、ゲヘナになると更に悪化する。
夜の時間帯こそが奴らの狩場である為、一つの連絡も無ければ便利屋全員で探し出さないと行けなくなるし、何よりもとても心配なのだ。
「…というか、ヒナちゃんは?」
「ん?あ〜、仕事忙しいんだって…」
「あぁ…」
嫌だけど納得してしまったように遠くを見るテンの手を百合園セイアが握り席を立つ。
それを見て私は思う所はあるが、結局は女性同士のスキンシップだと思われるのであまり深くは考えないようにしておく。
何故ならテンは最終的に私の元に、私達の元に来ればそれでいいのだから。
「それじゃあ、行こうかテン」
「あ、はい!い、行ってきます!」
「はぁ〜い楽しんでね」
そしてテンも席を立ち上がりそのまま玄関へと向かい出ていくのを私達は見守る。
正直言って好都合であった。
「考えてる事は一緒よね?」
「……はい」
「まぁね」
「同じく」
やはり皆も思っていたようだ。
以前から私達は些かテンの事になると暴走しがちになってしまっている時が偶にあったが、今ではその頻度が高まっているように感じた。
「距離を取るべきね…」
「そう簡単に出来たら世話ないよね…」
「離れたく…ないですね」
離れるべきだ距離を取るべきだと心では思っているというのに体が動かないのだ。
だから百合園セイアが私達からテンを離してくれたのはとても好都合であったしテンが居ない時にしか出来ない会話もある。
「依存気味なのでしょうね、私たちがテンに」
「強制的にテンから少しでも離れないとますます依存に近づいちゃう感じがする」
テンは言わばゆっくり浸透する猛毒なのだ。
考えないようにはしてるが空崎ヒナも百合園セイアのどちらもその猛毒に犯されてしまっているのだろう。
あの姿にあの声にあの匂いに、体が蝕まれるように…
「このままじゃダメね、私達もだけれど、何よりもあの子の為にならないわ。」
「で、でも、私は…嫌…です」
「ハルカちゃんの気持ちも凄くわかるよ?でも、テンちゃんが私達に縛られるのも違うんじゃないかって思うんだ」
「門限のようなものは勝手決めてるけれど、私達が心配ってだけで本来それは本人の勝手…だしね。」
本当にそうなのだ。
先程、ゲヘナは危険だからなんだとかそれっぽい事を言っては見たが、テンはテンなりに物事を考え、それを実行出来る。
そこら辺の阿呆達と比べ物にならないほどに賢くもある。
それを心配だからと言って引き止めてはならない。
ならないというのに、私たちはこの膨れ上がる気持ちの対処に追われている。
自制しても自制しても、あの純粋さがあの吸い込まれるような白さが頭から離れない。
「仕事の依頼だのなんだので暫く離れられる理由はできるけれど……問題は」
「テンちゃんのご飯だよね〜」
「う、飢え死に…しちゃいます」
私は、私達は離れようと思っても離れられないのだ。
テンは私達以外の血を吸うことなんて考えつかないし、毎日少なくない血液を無理やり飲ませてはいるけれどそれでも少し体調が悪そうだった。
1週間程度居なくなるなんてことしたら、最悪何処かの密室で閉じこもって餓死、または自殺なんて言う線も浮き出てしまう。
「血液パックでも…」
「すっごく高いよ?キヴォトスって輸血滅多にしないから融通量ないし」
「毎日少しづつ私たちの体から抜く?」
「そこまでしたら…テンさん出てっちゃうんじゃ」
「吸血行為自体嫌々だものね…まぁ隠れながらやる分にはいいんじゃないかしら?」
もう少しぐらい自分にわがままになってもいいと言うのに、テンはそれをしない。
新入社員になって初日以降本当に最低限しか受け取っては貰えないし、わがまま過ぎないのはいい事だが、し過ぎないのも困りものである。
「ねぇ、皆はテンの事が好きかしら?」
「え?どうしたの急に?」
「私は好きよ」
「……うん、そうだね。同じくかな」
「…はい同じくです」
「同じだね」
何故聞いたのかは何となくわかる。
明らかにおかしいのだ。
皆テンの事が好きで、引き込まれて、恋焦がれる。
まるで蜘蛛の巣に引っかかって抜けられない餌のように。
「……テンに何があろうと、どういう存在であろうと私はきっとテンが好き」
「そうだね、きっとテンちゃんには『何か』ある。でも私は変わらず好きでいたいし好きでいてもらいたい」
私達は話し合った。
取り敢えずは自制心を強く持とうという事、これは以前から個人間でもやっていたことだ。
そして血液の貯蔵、毎日少しづつテンに気づかれない程度に収めながら冷凍保存すること。
そして、強い精神を持ってテンから離れないようにすることに決まった。
恋愛感情を抜きにしても依存などではないただの友人として居るということだ。
「テンはきっと誰かに捨てられた子…私達はそんな過ちを繰り返しては行けない。」
「…まだ、知らないこと沢山ありますけど、寂しがり屋さんですし…」
「少なくともテンはそう望んでるって言うのは分かってるしね」
テンが望んだのだ。
離れないで欲しいと、そう望んだのだ。
ならば居続けよう、私達は5人揃っての便利屋68なのだから。
「…うん、迷子だね」
「……はい、迷子ですね」
「ここどこなのだろうね」
「どこなんでしょうね」
終わったと言うやつである。
いやまぁ、帰る手段はいくらでも…はないが、スマホがあるので帰ろうと思えば帰るので然程焦ってはいない。
「まぁしょうがないですし、そこら辺ぶらぶらします?」
ついでに……と言ってはなんなのだが、ボクは以前からお金を稼ぐ方法を探していたので、何処かいいバイト先が無いのか足で探したかった。
以前までならば身元不明の関係でバイトなどができずにいたが、ゲヘナ学園所属という肩書きを得たので、働く資格を改めて得たのだ。
便利屋68でお給料と言う物があるのかどうかは分からないが、恐らくは歩合制であり、依頼の数も今は低迷状態らしく、別口で稼げる所が欲しかった。
かと言って、ボクは便利屋68という組織に属しているため、会社などと言った肩書きが着くであろう所は省くため、行き着く先はバイトのみである。
前世からバイトなどをしたことが無い、というかさせて貰えなかったので実はちょっと楽しみだったりする。
「ならば……あそこにでも行ってみようか」
セイアさんが指をさした先はアクセサリー店であった。
特段高そうという訳でもない普通のアクセサリー店である。
なにかセイアさんに合うアクセサリーなどあったらのならば、後で買ってプレゼントでも……あれ、あっ、ボクお金無くない!?あっ、そうじゃん!?馬鹿じゃんボク!?お金無いからバイト先探そって言う考えだったのに今持ってるわけないじゃん!!
ぜ、前世で稼いだお金が使えるわけもないじゃん!!
「まぁ、何かを買うという訳でもないのだけれどね」
「あっ、そ、そうなんですか?」
「…恥ずかしながら、ただ見て周るという普通に憧れがあってね」
照れくさそうに頬を掻きながら二ヘラと笑うセイアさんがとても可愛らしく思ってしまって、相変わらずの自分のチョロさに嫌気がさす。
誰かに少しでも好意を向けられただけで、ボクのこと好きなのかと思ってしまうのは些か不純がすぎる。
「じゃ、じゃあ行きましょうか」
「ふふ、何を緊張してるんだい?」
「な、なんでもないですよっ…!」
商品を見るだけならばお金を使うこともないだろうし、不甲斐ないながら安心してしまった。
本当にお金稼がないとなぁ…
アル社長あたりに相談したら何とかなるのかな…今度してみよ
「結構広いですね…」
「見た目に騙されていたみたいだ。」
入ってみると外見からは想像できないほどの広さを持っているアクセサリー店だった。
1時間ぐらいは暇を潰せそうな程だ。
「…あっ、可愛い」
ボクは入ってすぐのところにあった、幾つものキーホルダーがぶら下がっているタワーの内の一つのキーホルダーに手を伸ばした。
「ほう、確かに妙な愛くるしさがあるな。」
「はい、なんかセイアさんみたいで可愛いです」
「なっ、」
本当に可愛い狐のキーホルダーだ。
デフォルメをされていてもちもちして居そうな可愛いキーホルダー。
セイアさんみたいだ。
「…ふぅ」
「どうしたんですか?」
「いや、自制心をと思ってね」
「…はい?」
「気にしないでおくれ」
腰に手を当て憂いているように見えたが、気のせいだろうか。
まぁ本人が何ともないのならそれでいいのでボク達は再びアクセサリーの品々を見ていく。
「テン…前々から気になっていたのだが、武器などは持たないのかい?」
「え?あぁ、アル社長達からも勧められたんですけど、それぐらいは自分のお金で買いたいなぁって」
現在ボクのご飯代や家賃などは全て便利屋68の皆が支払っている状態だ。
いつまでもこうしては行けない。
ここに来てもうそろそろ2週間が経つのだから。
「そう遠慮することは…いや、それはテンが決めることだな」
「あはは、ありがとうございます。その、少しお手洗いに行ってもいいですか?」
「あぁ構わないよ」
そうしてボクはセイアさんの元から離れる。
セイアさんはここの区画ら辺を見て回りながら待ってくれるらしい。
ただ御手洗の為にセイアさんの元から離れた訳ではなく、ボクの目的であるアルバイトの求人がないか店員に聞きに行くついでだ。
「あの…すみません求人ってやってたり…」
「あぁ、すみません、そういうのは…」
「そうですか…」
セイアさんに聞こえないぐらいの距離になった状態でロボットの店員に求人の話を持ち掛けてみたが案の定と言った返答を返されてしまった。
薄々分かってはいたが、気の所為でないのならここゲヘナはこう言った手の求人は中々ないように思う。
えぇと…確かミレニアムやアビドスと言った他の地域ならば数があるかもしれないが、何故だかここでは殆ど見かけないのだ。
「お客様、ここゲヘナでは…」
「やっぱり少なかったりします?」
「えぇ、店が突然爆発と言ったケースがしょっちゅうありまして」
確かに銃声などと言ったものと同時に爆発などが度々発生する。
もうそれらには完全に慣れきってしまって怯えることさえできないが、店を出す側にとっては大損のリスクが常に付き纏っているのだろう。
「人が足りなくなって逆に求人増えそうなもんですけどね…」
「それが、爆破を恐れ店を出せない状況なのと、ゲヘナ生は…少しばかりやんちゃが過ぎますから。まぁ、ゲヘナの利益を考えますと最低限の出店はしてるんですけどね」
「あぁ…」
ボク自身他の地域を見て回った訳では無い。
だが、前世の友人の話では無秩序が服を着て歩いている場所だと形容する程で、ボクのその意見には大賛成であり、治安の悪いキヴォトスの中でもきっと随一だ。
「人手が足りないのは事実なのですが、定期的に荒事を起こされたら溜まったものではないですから」
「じゃ、じゃあバイトもいないのにどうやって経営を…」
「自社から派遣でなんとか…と言った形でして」
それはそれで利益が出なさそうではあるが、損失と比べたら微々たる量なのだろうか。
というか、ゲヘナに来てから新オープンみたいな張り出しの店をよく見るのはこういう事だったのだろうか。
「すみません、こんな長々付き合わせてしまって」
「いえ、お客様は神様ですから」
今どき珍しい店員さんである。
お客さんでしかないボクにそんなにペラペラとそちらの事情を話していいのだろうかとふと思ってしまったが、ロボットの店員さんにお辞儀をしてセイアさんがいるであろう区画に戻る事にした。
「セイアさん!」
「あぁテンおかえり」
「すみません、遅れました」
「いや、待つ時間も中々良いものだったよ…それよりも」
「はい?」
「その…これを受け取ってくれないか?」
セイアさんが手に持っていたのは一つの指輪であった。
デザインはシンプルだが重厚感がある深い金色の指輪、わざわざ買ってくれたのだろうか。
「えっ…と」
「サイズもあっているかは分からないが、首にかけたりなど…その…」
顔を赤らめながら色んな方向に目を泳がせ、手渡しをされる。
明らかに高そうな指輪だ。
ただ見て回るだけだと思って、楽観的に構えていたがまさかのプレゼントに申し訳なさが出てくる。
お返しができないしこれを貰うほどのことをしたつもりもないので、反応に困ってしまう。
ふとセイアさんの方へ向き直ると、そこにはとても不安そうなセイアさんが映る。
上手く隠そうとはしているようだが、腕の動きや目の動きなどで不安なのは伝わった。
「嬉しいです」
そんなセイアさんの手を握り、安心させるように言う。
「一生大切にします。」
「っ、そうか…そう…か」
余程緊張していたのだろう。
力が抜けていくようにヘナっとした笑顔を肩を落としながらされる。
可愛い…そう素直に思った。
そしてボクはその指輪を指にはめようとして。
「…わっ」
「やはり入らないか…」
少々大きかったようで付けては見たがすぐに取れてしまった。
「す、すみません…」
「謝ることは無いよ、身勝手に買ったのは私だそれに、」
くるんとボクから背を向け、顔だけをこちらに見せ言う。
「そこは未来のために取っておこう」
「……え?」
この意味を今のボクはあまり理解はできなかった。
もう始まってしまう。
エデン条約、それがもう目前まで迫っていた。
その際に発生する邪魔者は全て排除に成功したはずだ。
ミスはきっとない、無いはずだ…先生を補習部へと手繰り合わせ、それで成されるはずのものを全てを阻害した。
補習部は私が作った裏切り者候補者たちだけで構成され、不確定要素の先生までもが私の術中だ。
そう……思ってたのに、浦和ハナコが私のセーフハウスを特定し、アズサなる生徒に私の護衛達を倒され、およそ一弾倉分の銃弾を我が身に撃たれ気絶した。
だが、その間何もされることはなく、いつものセーフハウスに私はいるようで、辺りには誰もいない。
『あはは、楽しかったですよ、ナギサ様とのお友達ごっこ』
「っ!?!?……ふ、ふぅ…大丈夫…きっと、っ、」
頭にその言葉が反芻する。
浦和ハナコから言われたこの言葉はきっと出まかせだって信じたいのに、もしかしたらを考えたらとても苦しくなる言葉…うっ。
ここ最近立ちくらみや倦怠感などに襲われることが増えてきた。
だけれど、きっとそれももうすぐ終わる。
「セイアさん…」
私のかけがえの無い友人、百合園セイア。
彼女が亡くなってから、私の中の何かが軋んだように感じるようになった。
まだ壊れてはいないはずなのだが、もう一突きでもされようものなら私は音を立てて崩れ落ち、まるで赤子のようになってしまうのが目に見えた。
私と同じティーパーティであり友人でもあるミカさんも私と同様何かを思い詰めているように思える。
「すみません、ミカさん。もはや、貴方すらも…信用出来なくなって来てしまっています」
誰が敵で、誰が味方かなんて、もう考えたくないほどに癖癖してしまった。
信用なんて…出来るわけがないじゃないですか。
「…大丈夫、大丈夫ですよ。桐藤ナギサ。」
自分に暗示を掛ける。
こうでもしなければ、この重圧に、この恐怖に、打ち勝てそうに思えないからだ。
そう暫くしないうちにノックの音が聞こえる。
「ナギサ様」
私の従者が来たようだ。
「…入っていいですよ」
私は至って冷静に今までの桐藤ナギサを演じる。
私はティーパーティーでこの学園の生徒会長なのだから。
「何の用ですか?」
「それが…」
従者である生徒が言い淀む。
「…不祥事ですか?」
目の前の少女がこくりと頷いた。
どうやら相当なものらしく私も覚悟を決める。
「裏切り者が見つかりました。」
「っ!!!だれです!?」
「……聖園ミカです」
「は?」
何を言っている?聖園ミカ…ミカ…ミカさんが?
有り得ない、有り得ないと言って欲しい、絶対にないはずだ。
そもそもこの情報自体が嘘で目の前のこの女が裏切り者なのではないか?
「……あぁ…」
視界がぼやける。
足元が覚束無い、私は本当に今立っているのだろうか。
「ナギサ様?」
なんで…どうして。
私はあらゆる可能性を模索するが、思うように頭が回らずに 一つの可能性すら考えられない。
そんなに……ゲヘナが憎いんですか?
「…そう…ですか」
あぁ、自分でもわかるほどに不機嫌だ…
「まだ、お伝えすることがあります」
「……」
私は黙って聞いた。
朦朧とする頭だが、情報を得るためにしっかりと聞く。
どうやら、ミカさんがトリニティの分派であるアリウスの生徒を引き連れ、このトリニティを転覆を目論んだようだ。
つまりはテロを起こしたということ、そして……私のヘイローを壊そうとしたらしい。
そしてテロの実行犯であるミカさんは牢獄に閉じ込められている。
私が寝ている間に…何があったというのですか。
「すみません、少し1人に……させて下さい」
「……はい、失礼致します」
私を気遣ってか、余計な心配をせずにそそくさと私のセーフハウスから出ていく。
一番信じていた人にのに…セイアさんやミカさんはこの世で信頼できる唯一だと思っていたのに、そうやってみんな居なくなってしまうのですね。
「っぁぁぁあ!!!」
頭が痛い、吐き気がする。
物に当たってなきゃ自制心を保つことすら難しい。
私は1人だ。
ティーパーティーになってかは一人になることを覚悟をしていたはずだと言うのに、いざ一人になってしまうとこんなにも心細くてこんなにも苦しい。
まるで暗闇の深海で息もできずに手足を動かしている気分だ。
「あぁ…うっ、うぁ…」
どうしてですか?
ミカさん、どうして裏切ったのですか?
「……いや、まだ信じちゃいけない…ミカさんはそんなことをする人じゃ…ないじゃないですか。きっと何かある。」
そうだ。
ミカさんはそんなことをする人間じゃない。
私は簡単に人を信じられるほどに純粋ではいられないし、私は全てを疑って物事を進めるべき立場にいるが、ミカさんは私と違って純粋だ。
「はぁ……」
だが、今だけは許して欲しい。
私は毛布にくるまり、身をかがめて年相応の少女のようにしくしくと泣いてしまう。
ダメだってわかっている。
まだ泣いちゃダメだと言うのに、涙腺から次々と涙が濁流の如く送り込まれてしまう。
「……話、聞きに行かないとですね。ミカさん」
差し入れとしてロールケーキでも持って行きましょうか。
ゆっくりとでいい、少しづつミカさんがどう思って実行に移したのかを聞きたいから。