ウマ娘の脳を焼いたらいつか逃げられなくなるらしい 作:mashiyu
「いいからとっととやれよ」
「し、しかしですね…」
ったく、かちゃくちゃねえな。
「ゴチャゴチャ言ってよ。人に頼みごとするなら相手の頼みごとくらい聞くのが道理だろ?」
「いや、私はその…」
「なんぼからきじなんだば!このぉ!」
「わかりました…では」
「もうわんつか命大事にするべどが思わねのが?なに横着すてらんだおめは。そった処理の仕方ばすろってしゃべっちゅんでねんだよ。もういじゃ」
なんだこいつは、ちょづいてよ。えふりこぎしてかちゃましい。
「格好づげでで腹立だすい。だいだぇ虫一匹で何騒いじゅんだ?それすらでぎねばって何すについでぎだんだおめ」
「そ、その…サンデーさんについて取材をですね…」
「ふとのプライベートまで追っかげでくる記者になんでわー優すくすねどいげねじゃ。むすろおめがわさ対すて奉仕するべぎだびょんが。それが頼み事する奴の態度だびょんが」
「えっと…なんて言ってるんでしょう?」
「それぐらい勉強すてがら来いよ。わがねんだったらとっとど帰って上さ泣ぎづぐなり土下座するなりすてけ」
「一応仕事ですので…はい」
「ふとのプライバスー侵害するのが記者のすごどなのが?よぐわの前でサンデーについで話せなんて言えだな。その度胸もうわんつか別のどごろに使えば少すはマスなのによ。これ以上の取材は受け付けねぇぞ」
さっきな、ずっと何言ってるかわかんねぇみたいな顔してやがる。なんだこいつは?
「お前みたいなのがいったいどれだけの人を傷つけてきたんだろうな?お前の会社ごと相手してやるよ。傷つけた分だけ傷つくのが人の世の道理だ。自分だけ、なんて通らねぇだろ」
「す、すいませんそれは勘弁してください…」
そう言えば記者は帰っていった。
「二度ど来るんじゃねぇぞ。次来だっきゃおめば刺身の上にだんぽぽ乗っけるすごどすかでぎねぐすてける」
「最近の記者はこれだから…」
勝手に津軽弁を使ってるが別に俺は青森出身じゃない。こんなことに使うのは申し訳ないがまあ別にいいだろう。
「野生のジャイアントウェタくらいどうにかしろよ。殺すのはよくねぇが、四次元ポケットでも記者なら持っておけってんだ」
記者なんだからそれくらいネタにしろってんだ。
「人が歩いてる時にヒナみたくついてきやがって。可愛げがねぇんだよ可愛げが。コスプレぐらいしてこい」
「ていうかサンデーのこと俺に聞いてもわかるわけねぇだろ。本人に聞けよ頭悪いのか?そりゃ何してるかは知ってるが詳細なんて聞かれても答えれるわけねぇだろ。聞きてぇならアメリカにでも何でも行くのが本物の記者だろうに。ま、言ったところでサンデーが相手だったら間違いなくあいつは蹴られてるな。相手にすらされねぇ」
俺はわざわざ人の話喋るほど倫理観ゆるゆるじゃねぇ。
「木曜日は最悪のスタートだぜ、クソが」
こんな時は一服…いや、しかし学園に入るのにそれはケアが面倒なのではないだろうか?
「チッ、やめだやめ。踏んだり蹴ったりだな。俺の中で一番嫌いな曜日が木曜日に更新されたぜ」
________
「トレーナーって、夢や理想はないんですか?」
「んお?どうしたんだ、突然」
「いえ、少し気になりまして」
「そりゃあもちろんあるさ」
「いったいどのような…?」
「高く、果てしなく遠い理想だ」
「詳細を話してほしかったんですが…」
「そりゃトップシークレットだ。教えられねぇさ」
国家機密より重要だからな。
「では、もしその理想を手につかむことができなかったらどうですか?果てしなく遠いのでしょう?」
「何やらお前は一つ勘違いしてるみたいだな」
「ほう?それはいったい…」
「俺が理想に追いつくんじゃなく理想が俺に追いつくんだ。いつだって俺は最先端を行く。距離なんて関係ねぇ、追いつくことは予定調和だ」
「…なるほど。貴方らしいですね」
「理想に縛られちゃいけねぇ。むしろ追い越すくらいのマインドを持って生きるべきだ」
「それができるのはトレーナーだけだと思いますよ」
うーん、そうだろうか?もう少しいると思うんだがね。
「悠久の時間があったとしても、いつかは追いつくんだ。だから追いつかれないように、必死に走るのさ。俺は止められないし、止まらない。時には足踏みをすることも必要だが、足を止めたことは一度もない」
もし止められるとしたらそいつは、日曜日だけだ。
「ではいつか、私も貴方を止めてみせますよ」
「なんだその目標は?」
チョイスが変すぎるだろ。
「どんな目標より高く難しいでしょう?」
「へっ、違いねぇ」
不可能に等しいが。ま、不可能を可能にってのも悪かねぇ。気分はほんの少しだけよくなった。
「んじゃ、頑張れよ」
「はい。トレーナーも頑張ってくださいね」
「あー…ま、程々に頑張るわ」
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「それはそれとして普通にだるいんだよなぁ」
マイナスが0に近づいただけでほぼ変わってねぇし。
「宝くじ当たるか今日が祝日になるかのどちらかがあればいいんだけどなぁ。まあ無理だろうが」
宝くじなんてほぼ買わねぇから可能性すらない。
「いや、待てよ…なにか偉業を成し遂げれば今日が祝日になる可能性があるのでは?」
「うーん…開戦開戦!北進論だ!」
勝てば戦勝記念日だよな!1日で終わらしてやるぜ!
「うん?なんか不在着信が来てるな。俺電話の音めっちゃ嫌いだからオフにしてて見てないとき気づけないんだよな…」
まあ別に掛け直せばいいよな。
「うお、もう一回来た…俺のこと好きすぎか?」
仕方ない、熱烈なラブコールには応えてあげなければ。
「はぁい、もしもし俺のファン。残念ながらサインはしてあげられないけど代わりに俺からのエールを…」
『ぶっ殺すぞ!ったく、気色わりぃな…』
「冗談だよ落ち着けサンデー。カルシウム足りてるか?」
『てめぇが俺様の目の前にいたらすぐにでも生意気な口を聞けなくしてやるところだったんだがな』
「今すぐ電話切ったらそんなことしなくてもできるぜ」
『んなことしたら何のために電話掛けたのかわからねぇだろ』
あ、確かにそうかもしれない。チビは案外頭がいい。
「それで、何の用だ?俺の声が恋しくなっちゃった?」
『んなわけねぇだろ。後少ししたら俺もそっちに行くって話だよ。前連絡した時にもしただろうが』
ん?そうだっけか。うーん…
「そういえばそんなこともあったかもしれないな」
『絶対覚えてねぇだろお前…?』
「HAHAそんなわけないだろ。俺は記憶力がいいからな」
『俺様のことをチビって呼ぶなって何度言っても忘れるくせによく言うじゃねぇか』
うん?チビは急におかしくなってしまったのだろうか。
「覚えてる上で言ってるに決まってるだろ?俺は記者と違って事実を公平に話すからな。チビはそのこと忘れちまったのか?」
『お前次会った時に覚えとけよ…』
「俺記憶力悪いから覚えてないかもな」
『都合のいい方に可変式だなてめぇの頭はよ!』
「羨ましいか?チビ」
『誰が羨ましがるかんなもん』
うーん残念だ。便利なのに。
『そんじゃ、俺様はお前と違って忙しいからこれで切る』
「おお、懸命に励むが良いぞサンデーサイレンス」
『お前本当に人をおちょくるのが上手いやつだな!』
「あんま褒めんなって。チビは褒め上手だな」
『これのどこが褒めてるように聞こえんだよ…』
「あ!そういえばサンデー」
『あ?なん…』
俺は電話を切った。
「よし、今日はいい一日だな!もはや日曜日だ!」
なぜかスマホが震えてるが今の俺は気にしない。
「三輪山を しかも隠すか 春霞 人に知られぬ 花や咲くらむ。さ、今日はいったいどんなことがあるのかね」
せいぜい退屈しなければいいんだが。
「向かう先には果てしない虚無が。振り返れば美しい光彩が。見下ろせば暗雲が。見上げれば蒼穹が」
「耳を澄ませば快哉が、耳を塞げば雑音に」
嗤う奴は引きずり下ろして、更に下へ蹴り落としてやる。哀れむ奴には身をもってその痛みを教えてやる。
「さ、長い一日の始まりだ。愉快に行こう」
_______
「さて、なにをしようかね。金を入れても商品が出てこない舐めた自販機を狩りにいくか?きっと皆ムカついてるぞ、あれ」
うーん、でもこの前やろうとしたらシーザリオに止められたんだよな。あいつよく俺がやろうとしてることわかったな。
「そうなると、もしかして金を入れても出てこないからって自販機を壊すのはあんまりよくないのか…?」
「いや、そんなはずは…まあ、とりあえず今日はトレーナーの本文でも果たすことにしよう」
ま、そうは言っても現状担当を持つ気はないが。
『トレーナーさん!こんにちはっ☆』
「うん?お前は…ん?うーん?」
一人のウマ娘が声をかけてきた。なぜかパペットを持っている。しかも、パペットがしゃべってるぞ。ウマ娘の口は動いてないから間違いない。もしかしてパペットマペットの親戚だろうか?
『あ!自己紹介がまだだったよね!私、マルちゃんって言いますっ☆』
「わ、私はその…マルシュロレーヌって言います……」
うん?マルちゃんに対してマルシュロレーヌは随分引っ込み思案だな。というかマルちゃん陽キャすぎるだろ。
「おお、よろしく。それで、マルちゃんとマルシュは俺に何の用?何か聞きたいことでもあるのか?」
『実はトレーナーさんに、トレーニングを見てほしいの☆』
「ほー、なるほど。なるほどねぇ…」
トレーニングかぁ…マルちゃんって見た目的にウマ娘ではないだろうし、マルシュが代わりに走るのか?いやでも案外ミニ界隈でのレースとかもあるかもしれないし…
「えっと、その…どう、ですか?」
黙って長考してしまったせいでマルシュを怯えさせてしまったらしい。マルちゃんは気にしてないあたり案外ドライだなこれ。
「ちょうど暇だったし、それくらいだったら全然いいぞ」
『やった☆ありがとう、トレーナーさん!』
なんかよくわかんないまま承諾したけど別にいいか。マルシュ優しそうだし、なんとかなる。
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「じゃ、じゃあよろしくお願いします…」
「あ、うん。頑張れよ〜」
走るときはマルちゃん外すんだ…喋らなくなっちゃったし、つけてないと魔力供給できなくて喋れないとかそういうことなのか…?いや、そもそもマルちゃんってなんなんだ?いや、そんなことを考えるのはよそう。今は走りを見なければ。
「うん?なんか、なんだろう…」
「凄い良い走りするなぁ…陽キャやん」
走りって性格に比例しないんだなぁ…いや、待てよ?マルシュで警戒心を解いてマルちゃんで相手を引き込む作戦なのか?なんて策士なんだマルコンビ…
「ピッチにロスがないし、かといってどちらかに完全に傾倒した走りでもない。力の要るダート向きか…?」
ストライドが大きすぎず回転が速い走りだと、砂に深く沈み込む前に次の脚を出すことができる。絶対にそうだと言い切ることはできないが、まあ根拠にはなるだろう。
「本当に良い走りするなぁ…もしかして優秀な担当トレーナーがいるのか?…いや、なら俺に頼む必要はねぇか」
うーん、わからんな。才能の塊…ってコト!?
「引っ込み思案を装っておいて、なんて陽キャなんだ…」
マルシュロレーヌ、なんて恐ろしい子…
「はぁ…はぁ…ど、どうでしたか?」
マルシュが走りを終えてこちらに帰ってきた。相変わらずマルちゃんは喋らない。死んだか?
「良い走りだった。マルシュには間違いなく才能がある。それこそ、色んなトレーナーから声がかかるくらいには。正直な話、わざわざ俺が見る必要はなかったと思うんだが」
「それは…えっと、その…」
走りは陽キャだが本人に性格的にそうではないらしい。コミュニケーションが課題になるだろうか?
「ゆっくり話せばいい。いくらでも使える時間はある」
「!は、はい…」
マルシュロレーヌは目を閉じ、深く息を吸い込みそして、吐いた。深呼吸は俺もよくやる。いい心がけだ。
「その…私、人と話すのが苦手で、ラヴちゃん以外とはパペットを通したふ、腹話術でしか話せなくて…で、でもトレーナーさんには自分ので伝えたいと、思ったので…」
「…そうか」
あれ、腹話術だったのか。上手かったなぁ…
「トレーナーさんに声をかけたのはえっと、わ、私のことを見てて欲しいと思ったからで…」
「…言いたいことはよくわかった」
なんで俺なのかはわからないが、せっかくマルシュが勇気を出して話してくれたのだから、俺も俺なりに筋は通す。
「まずは勇気を出してよく話してくれた。よく頑張ったな。担当になってやることはできないが、もし何かあったならいつでも頼ってくれていい。もちろん、会話の練習相手にだってなる」
「あ、ありがとうございます…!」
「気にすることはない。それにマルシュの腹話術、凄かったぞ。全然気づかなかった。俺はてっきり、マルちゃんがマルシュとは別で話してるのかと…」
「…えへへ…ありがとうございます。わざわざ気を遣ってくれるなんて、トレーナーさんはや、やっぱり優しいですね…」
おーん?伝わってるのかこれ?
『それじゃあトレーナーさん、これからもマルちゃんたちをよろしくお願いします☆』
「ああ、よろしくな。マルシュ」
急に陽キャだなぁ。やっぱり別人格なんじゃ…
『ありがとう!トレーナーさん☆』
「あ、ありがとうございました。トレーナーさん…」
「おう。これからも頑張れよ〜」
そう言ってマルシュは去っていった。
_______
「やっぱり、トレーナーさんはトレーナーさんだったな…」
少し不器用だったけど急に押しかけてきた私に優しくしてくれて、しかも話の練習相手にまで…
「あの時も、そうだったよね…」
ふと、過去の記憶に思いを馳せる。
『マルシュ。勇気を出すことは恐ろしくて、難しい。一歩踏み出すことでさえそうだ。だからまずは足を動かして、足踏みするんだ。そしたら次は、少しずつでいいから前に進んでほしい』
人と話せないなんて面倒くさいと思われても仕方ないのに、いつでも話を聞いてくれて、見ててくれた。
『マルシュ。もし何か決断をしたり、心を落ち着かせるときは深呼吸が一番だ。声を出す前にまず深呼吸して、リラックスする。そうすればきっと今よりよくなれる』
私に勇気の出し方を教えてくれた。
『俺はマルシュは色んな才能があって凄いと思うよ。走りはもちろん絵も描けるし、腹話術だってそうだ。俺は最初に見たとき、本当にマルちゃんが喋ってるのかと思ったさ』
「あの時も、そうやって褒めてくれたなぁ…」
腹話術なんて、トレーナーさんが知らないはずないのに。
「不器用だったけど、優しかったな…」
今はまだ、トレーナーさんにとっての大切な存在にはなれていないのかもしれない。
「でもいつか、いつかはきっとなれるよね。だから私、頑張るね。トレーナーさん」
一歩ずつ踏み出せばきっと辿り着けるって教えてくれたのは、トレーナーさんだったから。
「いつまでも足踏みは、してられないもんね…」