『ねー!ねー!トレーナーさん!トレーナーさんって、いつもなんやかんや言って解決しちゃうでしょ?だから、トレーナーさんが本当に嫌なことって何なのか、マルちゃん気になっちゃった☆』
「おん?嫌いなこと?嫌いなこと、ねぇ…」
わざわざ嫌いなことを聞いてくるなんて、マルちゃんはやっぱりマルシュとは別人なのではないだろうか?恐ろしい…
「面倒くさいことは全部嫌いだよ。やってる内に何でやってるのか、何をやってるのかわからなくなる」
『トレーナーさんって、結構面倒くさがり屋さんなんだね!』
「ああ。でも、人生ってのは折り合いをつけていくものだ。だから、面倒くさいこともなんとかやってるよ」
たまに人に任せることがあるが、まあそれは世の中助け合いというものだ。恩はいつか返すさ。
『じゃあ、トレーナーさんが一番怖いと思うものってなあに?教えてほしいな☆』
「えぇ、俺はマルちゃんが怖いよ…」
『もー!冗談はやめてよトレーナーさん!』
結構本気なんだが。怖いもの聞いてくるのってもはや何か企んでるだろ。助けてくれマルシュ…
「おーん、怖いものかぁ…」
『もしかして、トレーナーさんにはないのかな?』
「いや、そんなことはねぇさ。色々ある」
『どんなのどんなの?教えて☆』
「長い道のりを走って走って、走り続けて。振り返ったら後には誰もいない。俺は、それが怖くて仕方がない。俺にとってそれは、単なる恐怖以上に恐ろしい」
さしもの俺も何もない暗闇を一人で走り続けることはできない。もしそうなったら足を止めてしまうかもしれない。無というのは一番恐ろしい。だが、人は弱く醜い。過度に期待すれば傷つくのは自分の方だ。だからこそ、線引は大事だ。まあ、走った後に後続が誰もいないのはウマ娘にとっては最高の景色なんだろうが、生憎と俺はそうじゃないしな。
「マルシュ。強者を下していった先に待つのは、俺は孤独だと思う。強くなることは悪いことじゃない。だが、勝利に囚われすぎるのはよくない。もちろん、俺だって間違えるときはある。だからその時は、俺が間違ってたんだって、マルシュが盛大に証明してくれることを願ってるよ」
「と、トレーナーさんが嫌でなければ私はず、ずっとトレーナーさんの近くにいたいです。だ、だからトレーナーさんもわ、私のことを見ててほしいなぁって…」
「…ハハッ、そりゃ嬉しいな。期待してるよ」
人は弱く醜い。そんなものに期待せずにはいられないのも、俺が人間であることの証明なんだろうな。…いや、マルシュは強い子だな。ましてや醜いなんて口が裂けても言えないか。
「頑張らねぇとな。マルシュ」
「は、はい!」
「やっぱり、時間ってのは偉大だよな。経過していくにつれて知ることも増えていく。その分間違いも増えるが、それを訂正してくれるやつがいる。だから、退屈しない」
終わりに向かって走ってるのに、終わって欲しくないと思ってしまう。一生かけても解決できない矛盾だな。
『トレーナーさんでも間違えることがあるんだね☆意外ー!』
「急にマルちゃんになった…」
パペット通しただけでこれとかマルシュ陽キャの素質あるだろ…凄いな。
「ま、そんな出会いをするためにもまだまだやることがある。先の見えない暗闇に光を灯してやるんだ」
『ちょっとポエミーが入ってきたのかな☆』
「俺の心を傷つけないで。フレネミーか?傲慢かもしれないがまあ、啓蒙思想家に比べれば遥かにマシな部類に入るだろ」
『過去の人物とトレーナーさんは違うから気にしなくていいと思うよ☆むしろ自信があっていいことだと思う!』
なんか微妙にフォローしきれてない; ;マルシュ助けて…
「勝たなきゃ報われない。勝たなくてもなんて言えるのはいつだってその手に栄光を掴んだやつだ。だが、人生そのものが無駄になるわけじゃない。色んな欠点を抱えて人は生きていくんだ」
『確かにマルちゃんも苦手なことはあるよ☆』
「そうだろ?人間はそれを補い合っていくのさ」
俺の欠点を誰か背負ってくれると嬉しいんだが、中々そんなやつは見つからねぇわな。
「命の使い方はすでに決めてある。恐れることはない」
『あんまり酷使しちゃダメだよ?悲しくなっちゃうから!』
「おお、優しい…なら鮮烈に、愉快に。そして醜くいこう」
『頑張ろうね☆トレーナーさん!」
「ああ。今日は何があるのか、楽しみで仕方がねぇな」
せめてこの手一杯には。消えないように、掬い上げてみせる。
_______
「メシアじゃねぇんだからさ…日曜神より高度な存在にはなれねぇよ」
「突然どうしたんですか?トレーナー」
偽善だなんだっていうやつはもちろん気持ち悪いし憐れみの視線は憎たらしいし、諦めは論外だ。一番萎える。
「俺は俺で、他人は他人。どう足掻こうとも同一な存在になることなんてなくて、そりゃあ理解できねぇことだってある。それを強要するやつはカスだが理解しようと努めるやつは大好きだ。抱きしめたいくらいだぜ。ああもちろん、ギブアンドテイクが一番大事だけどな」
「返答はなしですか…まあ私もそういう方は好きですよ、トレーナー。ハグはお好きですか?」
「あ、ごめん今自著書いてて忙しくてな。俺声を出して読み上げるタイプなんだ」
「…空に向かって書いても書き上がるとは思えないのですが…仕方ありませんね」
ふう、物わかりが良くていいな。プラス40点だ。ちなみに1恒河沙ポイント溜まるとサンデーと握手ができる。ついでに俺が作った雪だるまとも。性質上3時間以内に使わないといけない。サンデーとセットだから一緒にいないと使えないが。
「それにな、日曜日は存在だけで恩恵がある。それ故に大きすぎる力を人間界に齎すことは害になってしまう。だからこそ代行者(自称)の俺が代わりに日曜神の加護を使って最強になる…完璧だな」
もちろん、救いを受け入れる準備はしておかなければ救われるのは難しい。しかし、できないものには救いでなくひとまずの道筋を示してやるべきなのだよ。
「初歩的なことだよ、ワトソン君」
「言っていることは良いのですが言い方がどうにも…」
「カスのシャーロックホームズだって!?酷いよシーザリオ; ;」
「そこまでは言ってないですよ、トレーナー」
相手が拒否、ないし求めていないのであればもちろんそれは必要のないことだ。
「相手は見極めなければならないし、線引きを誤ってしまっては意味がない。そんなことのために日曜神は俺に力を与えてなどいないのだから」
「逆説的に自分は神に選ばれた存在と言っているようなものではないでしょうか…?」
シーザリオは勘がいいな。こいつ、シャーロックホームズなのではないだろうか?
「しかしまあ、間違えることもある。その時は我が同胞達に修正してもらおう。 最高の1日は、自分で作るものだ」
「ではトレーナー、私と一緒に一日を過ごしませんか?きっと楽しくなりますよ♪」
「トレーナーとして間違いは正さなければ…」
「トレーナー。何故そのように思われるのか、私には理解できません」
やべ、スイッチ入っちゃった。
誰といるのか、何をするのか。全ての決定権は神でなく、生まれながらにして我々が持っているものだ。日曜神はまさに自由の象徴。
「あ、最悪の1日が出来上がるのは全部環境のせいな。なにやってんだよ、URA〜」
「URAのせいにするのはやめましょうね、トレーナー♪」
「笑っているのに顔が怖いよシーザリオ…」
オフなのに圧力を掛けてきた時のシーザリオはやばいぞ。お化けの次に怖い。ちなみに俺が一番好きなお化けはこの前マンハッタン先生といっしょに対峙したお布団被ったやつ。
「あ、ちなみに一番嫌いなお化けはジャイアントウェタの亡霊な。せっかく逃がしてあげたのに化けて出やがったんだ」
「突然何の話ですか?いや、確かにかなり恐ろしいですねそれは…でもたぶん同個体ではないと思うので安心してください♪」
「仲間の制御できないとかはーつっかえ…もうジャイアントウェタ見ても優しくしてあげないんだからな!」
「余りに可哀想ですね…いや、ジャイアントウェタなんて普通ここでは見ませんよ?」
「ジャイアントウェタ…俺はお前を、消さなければならない」
「絶滅危惧種になんてことを…」
「まあよく考えたらイカよりはマシだな…イカ以下だったら終わってたぜHAHA」
「…………」
おっと、つまらなかったらしい。誰かこの空気どうにかしろよ。…仕方がねぇな。
「日曜神はね、頑張らないものにも休息を与えてくれるの。そうじゃない人たちには頑張るチャンスをくれるんだよ。選択の自由を尊重しつつ頑張ったものには正当な対価をくれるんだ。なんて近代的な神なんだろうな」
「そうですね。普段頑張っている人たちに休息を与え、更に上を目指す人達に機会を与える。いいことだと思いますよ♪」
シーザリオはやっぱりいいやつだな!ヨシッ!
________
「鏡に映った俺を見ると、いつも笑ってるんだよな」
そんなつもりはないんだが、不敵な笑みっていうのか?そういう笑い方をしてるんだ。
「昨日の俺は果たして今の俺と同じなのか…少し拡大して1年、10年遡った俺は本当に俺なのか?」
もちろんそれは成長として捉えることもできる。むしろそれが一般的なのだろう。
「だが、アートってのは線の寄せ集めだ。何本も何本も重ねて、ようやく形ができてくる。その線は全部違うものだ」
だからこそ、自己の同一性とやらがふと気になってしまう。
「その全てが俺で、全てが俺じゃないのさ」
だからまあ、都合の良い方に捉えればいい。
「難しく考える必要はない。気楽にいこうぜ」
退屈しなければそれでいい。飽きちまったらその時は…
「いや、飽きなんて来ねぇな。先に寿命が来るぜ」
人生百年時代、人の寿命はそれなりに長い。
「ま、ある意味でいえば昨日の俺は死んだとも言えるな」
なら、俺は実質無限に生きれるわけだ。
「全部終わらすには、まだ早いよな」
ふと、そう思ったとき。視界がどことなく赤く…いや、紅か?
これは。まあ、そうなった。
「マジ?ついにイカれちまったのか俺は…ん?」
視界の端に、一人のウマ娘が映る。少し認識するのに時間がかかったが、やけに引き込まれた。
「……ああ。やっぱり貴方は私を―――いえ、今はそんなことをしていられませんね。こんにちは、トレーナーさん」
「こんにちは。例の如くってわけね…」
「スティルインラブです。愛していますよ、トレーナーさん」
おっと、唐突に熱烈なラブコールを貰ってしまった。…なぜだろう?スティルから目を離せないでいるのは。
「たとえ貴方が覚えていなくとも、捧げた愛はなくなりませんわ。貴方の、心を…私にくださりますか?」
「………」
普段であればそれに応えることはできないのだが、なぜか首を横に振れない。かろうじて静止した状態だ。
「釣った魚に餌をあげないのは、実に残酷なことだと思いませんか?私は貴方に、心を奪われたのに…」
「っ……」
「今度は消えることのない愛を刻んで差し上げます。どうか、私に貴方を…愛させてください」
まずい、何かヤバい。これまでとは比にならいないレベルだ。監禁ENDなんていまどき流行らねぇってのに。
「…意思の堅いお方ですね。そういうところも素敵ですが、今は邪魔です。忘れてしまいましょう?」
だんだんと窮地に追い込まれている。可愛い見た目をして恐ろしいやつだ。レッサーパンダかと思えば蛇だったらしい。
「身を委ねてください。永遠の愛をここに誓いましょう」
是非もない。万事休すか…
「何をしているの、スティルさん?」
「…アルヴさんですか。タイミングが悪いですね」
おお、動ける…改めてどういう状況だこれ?
「少し、トレーナーさんとお話をしていただけですよ」
「それにしては随分近い距離感なのね」
「ええ、私たちの関係は進展しているので」
「無理に詰めた距離でしょう?はしたないと思うのだけれど」
「はしたなくとも構いませんわ。彼が手に入ればそれで」
聞きたいことはたくさんあるんだが、口を挟んだら多分俺死ぬわ、これ。金曜日はカスや!
「わからないわね。あの人になにを執着することがあるの?」
「うふふ。誰よりも私を見てくださりますから。アルヴさんも正直に言えばいいのでは?彼が欲しいと」
「…何を言っているのかわからないわ」
「素直じゃないですね。私としてはそれでも構いませんが」
よし、逃げよう。俺には何もできないからアルヴさんに全部任せるしかない。ありがとう、アルヴさん。君は救世主だ。
「どこに行くの?まだ話は終わっていないわ」
「スーッ…マジすか…」
どうやらアルヴさんもエネミーだったらしい。
「えっと、アルヴさん?ここは穏やかにですね…」
「私はスティルさんと違って最初から穏当に行こうと思ってるわ。どうするかは貴方次第よ」
「私のことを言いつつもアルヴさんもやる気では?」
「最初から選択肢を選ばせないつもりはないもの」
「本当に選ばせる気があるんですか?それ」
「………」
死んだ〜。終わったわ、誰か助けてクレメンス。
「貴方の口ぶりから察するに、私のことを覚えてはいないのね。残念だわ」
「はい…すいません、許してください…」
「別に怒っているわけではないのだけれど」
嘘ですやん!めちゃくちゃ耳絞ってますやん!
「すいません僕まだ仕事があるんでえーと、その…」
「別に、私が縛ることはできないもの。好きにすれば?」
え、マジすか?アルヴさん優しい!
「トレーナーさんの目の前に立ちはだかって…はしたないわ」
「スティルさん?うるさいわよ」
あ、全然優しくない。初対面なのに…俺がいったいなにしたっていうんだよ!
「いい加減決めたらどうなの?私と、スティルさん」
「トレーナーさんは、どちらを選ぶのですか?」
「どっちも選ばないって選択肢は…」
「ないです(わ)」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
どっち選んでも俺死ぬって。やばいって。こうなったら…
「
持っててよかった緊急脱出。
________
「…行ってしまいましたわ。残念です」
「相変わらずのらりくらりと…」
「まあ、ここらへんが落としどころというものでしょう。私も、最初から全てを手に入れられるとは思っていませんから」
「本当かしら?カタをつけにいっていたように思えるけれど」
「アルヴさんが来なければもちろんそうしていましたが、トレーナーならそれも躱してしまうかもしれませんよ」
「めちゃくちゃなのは変わらないわね」
それもまた…それが彼が彼たる所以なのでしょう。
「もう行ってしまわれるのですか、アルヴさん」
「もうここには用はないもの」
「そうですか。ではさようなら、アルヴさん」
「さようなら。スティルさん」
そう言い残して、アルヴさんはその場から去りました。
「…逢引の約束をできたのは上々でしょう」
「それにしても、本当に変わらないままで…アハッ、ワタシの愛を拒むところも変わらないわ」
「でも、ワタシはアナタが思うほど我慢強くはないの」
だから本当は今すぐにでも喰らいたいところだけれど。
「貴方から貰った愛には報いなければならないので。今は、それで我慢しておきます」
ああでも、思い出しただけでも熱が込み上げてくる。
『私は、もう……ワタシじゃない。帰れません。もうそちらには……』
『……理由はそれだけか?』
『え…?』
『俺はトレーナーだ。担当の傍にいてやるのが仕事。なら、お前を一人にするわけにはいかない』
『……っ。』
『ダメだったなんて、死ぬその瞬間まで俺は言いたくない。どうしても、お前を諦めたくないんだよ。だから、帰れないだなんて哀しいことを言わないでくれ。これからもお前の傍にいさせてくれ、スティルインラブ』
『どうして………』
『心配すんな。愛は全てを超越するんだぜ、スティル。』
そう言って、トレーナーさんは私に向かって手を差し伸べた。
ずるい。ズルイ、ずるいズルイ。
『私も…愛しています、トレーナーさん』
彼の手を取って、私はそう言った。
私にとって別れの場所となるはずだったあの花畑は、私たちにとって愛を誓う奇跡の場所になった。
「ああ、薬も過ぎれば毒となる。貴方の言葉はどんなものより甘美で…そして、魅惑的です」
今でも私は、貴方のその言葉に酔いしれている。
「貴方が私を諦めなかったように、今度は私のエゴに付き合ってもらいますよ。トレーナーさん」
心が紅く燃え上がるように熱い。きっと、これも全ては内なる紅のせいです。だから…
「この熱の責任は、アナタに取ってもらいます。だから、傍にいさせてください。愛していますよ、トレーナーさん」
もう一度、貴方へ愛を誓います。だから貴方もいつか、私に愛を誓ってください、トレーナーさん。
「愛してる。アイしてる、あいしてるアイシテル」