その迷宮のおくへ   作:迷宮研究学会

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2話目 疲れるダンジョン

 

 

 翌日、再び第四階層の砂漠前に立つ。

 

 緩やかな傾斜の向こう側に、砂丘が広がっている。そして、その奥にくっきりと、雪に覆われた山脈があった。

 

「明日は山脈か……」

 

 あれを登ると思うと、いやになる。だが、目の前にある砂漠もまた、憂鬱な気分にさせてくれるものである。

 

 ダンジョンの中だからか、気温は一定の範囲内。具体的には体温より少し暑いくらい。ただ、そうであってもキツイものはキツイ。水などの準備を怠れば普通に野垂れ死ぬ。過酷な環境だ。

 

 10階層以降でなければ儲からない、といわれるこのダンジョンで、10階層に行くまでがここまで大変とは……。聞いてはいたが、信じられない気分だ。

 

 砂漠の砂はサラサラで、少し力強く踏み込めば、足が少し沈む。普段は平地ばかり旅をしていたので、この感触には慣れないものがある。それに、明らかにいつもより体力を取られる。ローブを買っておいたのだが、砂漠用の靴でも買っておいた方がよかっただろうか。先が思いやられる。

 

 地図を信じるなら、まだ三分の一も歩いていないの。それなのに、どんどんと体力が奪われていくのを感じる。

 

 さすがに山登りには慣れているので、明日は楽をできる、と信じたいところだ。

 

 

 

 そんなこんなで、砂漠を超えた翌日──のさらに翌日。予定通りの日にちとはいかなかったが、俺は第五階層、山脈の前に立っている。

 

 一昨日は慣れない砂漠で疲れたが、昼前に終わったので、ゆっくり休めた。そして、昨日は何をしていたかと言うと、登山の準備である。

 

 砂漠の時の事前準備では後悔をしたので、昨日一日かけてじっくりと準備をしたのだ。この時気づいたのだが、この山、結構高く、そして傾斜も大きい。手ぶらで登れないこともないが、その場合とても遠回りをしなければいけなくなり、三日ほどダンジョンの中で過ごさなければいけなくなる。

 

 だがしかし! 第五階層はダンジョンの序盤も序盤。ゆえに、攻略法もさまざま開拓されていたりする。具体的に言うと、雪山を登る専用の道具、なんかもあるし、隠しルートなんかもある。ちなみに、こちらは山の中に築かれた古代遺跡を模したもので、難易度は爆上がり。魔物はいっぱいでてくるし、古代文明の侵入者用装置がお出迎えをしてくれる。なので、20階層を突破できる実力があるなら試したら、みたいな場所だそうだ。

 

「……いやだねぇ」

 

 目の前に鎮座する大きな門。

 

 正規ルートから逸れた洞窟を通った先に存在しているその門は、先ほどの通り、第五階層よりもとても難易度の高い場所。だが、まぁ、これが一番近道、ということで、こちらへいく。

 

 ガゴン

 

 ガガガッガガガ……

 

 門がゆっくりと音を立てて開いていく。

 

 中は巨大な空間が広がっており、その中心部に、上へ登ることのできる──古代文明ではエレベーター、などと言われていた── 魔導具がある。

 

 先人の苦労のおかげで、この魔道具を動かす方法は判明している。ただ、本来であれば不法侵入と変わらないので、さまざまな手順がいる。

 

 まず、入り口近くにある「認証システム」を起動し、自分の魔力を登録する。その時、事前に入手した暗証番号を入力し、次に冒険者プレートを同期させる。これで、この古代遺跡(仮)において正式に認められたことになる。すなわち、この中にある魔導具の利用は自由となったわけだ。

 

 ただ、これで絶対安全というわけではない。

 

 そもそも、これだけだったら20階層と同等の難易度などとは言われない。

 

 問題は、エレベーターと呼ばれる魔導具を起動したあとだ。エレベーターは、この山脈の頂点まで人を運ぶ機能を持つ。そして、そこまで登る間にこの空間に住んでいるコウモリの魔物が襲ってくる。

 

 剣を引き抜き、軽く振る。

 

 エレベーターに入り、起動する。もちろん、行き先は最上階。

 

 ゴウン ゴウン

 

 と、魔導具が音を立てて動き出す。

 

 本来であれば、このエレベーターはガラス張りであったのだろうが、今になってはそれらすべてが割れている。つまり、コウモリほどの小さい魔物は入り放題だ。

 

 この微妙に狭い、ぎりぎり剣を振り回せる程度のなかで戦闘をしなければいけない。普通に考えれば難しい。だが、事前に何があるのかわかっているのだ、いくらでも対策ができる。

 

 一つ目は、前からお馴染みの魔物避けの魔導具。ただ、ここだと完全に追い払えない。また、個体差もあるため、普段の半分まで抑えられるかも(?)程度らしい。二つ目は、魔弾(指輪型)の魔導具だ。自前なので金はかかっていない。しかしまさか、こんな低階層で使うハメになるとは思わなかった。

 

 効果はあったのか、上の方からバッサバッサと羽音はするが、こちらに降りてくる気配は全くと言っていいほどない。見上げてみても、真っ黒な天井が広がっているだけである。

 

 ……今のうちに魔法でもぶっ放して数を減らすべきか、やってくるのを待つのか。

 

「よし、魔法やるか」

 

 とりあえず、この魔導具に被害が出ないように角度をつけて、かつ広範囲に向けて魔法を放つ準備をする。

 

 ゆっくりと、魔力と発音を調和させるように、右手を天へとかざす。

 

 カチリ、とすべてが噛み合い、魔法が音もなく現実に形を持って現出する。

 

 一筋の炎が宙を舞い、渦を巻き、天を焦がす。魔物の羽毛は燃え盛り、まるで紙のように散って落ちていく。なんとも綺麗な光景だ。

 

 しかし、これに魔物たちは怒ったようで、上から泣き喚く声が聞こえてくる。

 

「うるさいな」

 

 しかし、なぜか一向に襲ってくる気配がない。ダンジョンの縛りか何かで、いつ攻撃するのか決まっていたりするのだろうか。ここは攻め時と思い、先ほどとは反対方向へと魔法を放つ準備をする。

 

 あまり力みすぎず、むしろ力を抜いて、息を整える。ゆっくりと詠唱を読み上げ、魔力を練り上げる。

 

 揺れる炎が、その勢いを増し、宙を埋め尽くす。

 

 キキキキキキ  ギャーギャーギャー

 

 と、魔物たちはいっそう声を上げる。そして、ついにこちらへと急降下してきた。

 

 見極めて、しっかりと切りつける。何匹かはドジなのか、金属の柱にぶつかって自滅をしている。

 

 一度に襲ってくるのは、5匹程度。羽を切って、振り向きざまにまだ息のあったやつの頭を踏みつける。剣で首を刎ねて、反対の手で牽制がわりに魔弾を撃つ。

 

 10匹以上来ないのは、ダンジョンの調整か。しかし、いつまでもそんなあまくないようで、時間が経つにつれて魔物の数も多くなってくる。

 

 そろそろ頂上に着くはずだが、魔物が減る気配は全くない。それどころか、どこに隠れていたのか、これでもかと集まってくる。

 

「チッ、そろそろまずいな」

 

 これ以上、このうざい魔物たちを相手にするのはキツイ。素早く、移動しながら、周りを把握する。手すりに足をかけて、エレベーターの上部に手をかけて、飛び乗る。エレベーターを動かす金属のローブに手をかけ、その場でぐるりと回転。勢いをつけて頂上のフロアへと飛び上がる。下から魔物が追ってくるのが見える。周りは無視して、通路へ走り込み、まっすぐ外へと向かう。道は一本、迷うことなく扉の前に着く。ここを開けば、あと少し。冒険者プレートを認証すれば、すぐに扉は開く。

 

 扉の先には、灰色の熊が立っていた。

 

 方法は二つだ。倒すか、隙をついて突破するか。

 

 熊の動きが早い、とは言ってもそれは、一般人基準の話。この程度で倒せないようじゃダンジョン攻略など夢のまた夢である。

 

 剣を構える。全身に魔力を張り巡らせる。熊に致命傷を与えるには、急所への一撃が必要だ。まぁ、こういうので一番適当なのは首だ。首を刎ねればたいていの生き物は死ぬ。例外は、あるだろうが、こいつはそうじゃない。

 

 熊が、こちらへと走ってくる。その動きをゆっくりとみつめる。そして、熊が腕を振り上げてきたところで、重心を倒して、剣を振る。

 

 スパッツと、首の骨まで剣で裂けた。

 

 熊の動きが硬直する。力を込めて、剣をより深く差し込む。その剣をゆっくりと、最後の皮まで振り抜けば、熊の首が、ドンと落ちる。首もとからは、血が吹き出し、床を染めていく。

 

 急いで懐から、小さな箱を取り出す。熊に向けてその箱をかざせば、箱が異空間に熊の魔物をしまってくれる。20階層レベルの魔物は、普通に金になるのだ。

 

「……ん? 血がついた、か」

 

 ふと血だらけの袖が目に映ってきたのだ。

 

 体を見下ろせば、左肩から下半身まで、熊の返り血がベッタリと付着している。コレを洗うのは骨が折れそうだ。剣の血を振り払って、鞘にしまう。部屋の奥にある扉を押し開けると、青い空が広がっていた。地平線の片隅には、小さな星が顔を覗かせている。現実とまったく遜色のない光景は、雄大で、どこまでの広がっており、思わず息を呑んでしまう。

 

 ただただ、圧倒されるダンジョンの造形に、日が暮れるまで、ずっと魅入っていることしかできなかった。

 

 

 少し先の話となるのだが、このとき回収した熊の死骸は冒険者ギルドで高く売れた。臨時収入ゲットである。

 

 

 

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