その迷宮のおくへ   作:迷宮研究学会

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4話目 序盤は熊が多いのかもしれない

 

 

 

 第八階層。それは、第七階層の終着地点である海辺から、第九階層の火山とを結ぶ領域だ。森という、様々な危険に注意を向けなければいけない特徴を持つ階層でもある。

 

 入り口には、石の道が敷かれていた。まるで、出来立てのように汚れひとつない石であった。土の粒ひとつもない、あまりに不自然な光景である。それが10個置かれており、そこから細い道が続いていた。いわゆる正規ルートというやつだ。

 

 中に足を踏み入れれば、一気に薄暗くなる。樹々が立ち並び、空の光を遮っているのだ。

 

 あたりには、木の根ばかりで、草はまったく見かけられない。そのような同じ景色ばかりの中に、木の上からツルなどといったものがぶら下がっており、それが唯一面白さを感じさせてくれるものである。

 

 さて、そんなダンジョンの第八階層であるが、魔物はほとんどいない。

 

 ありがたいことにと言うべきか、魔物避けを嫌ってか、大半の魔物は避けてくれるのだ。あぁ、これが第五階層でも使えたらよかったのだが、世の中そんな甘くないと言うことか。

 

 黙ったまま森を歩き続けていると、生物の声がハッキリと聞こえてくる。チリチリチリ、シャーシャー、クルッポー、などと多種多様だ。なんだ、最後のは鳩か?

 

 基本的に、これらを視界に収めることは結局なかった。魔力でその存在を感じられただけなのだ。

 

 もちろん、こちらに姿を現したもの、襲ってきたものもいた。

 

 例えば、シカだ。

 

 当たり前だが、魔物なのでただのシカではない。独特な特徴を持っているのだ。たとえば、ソイツのツノは人の腕ほど長く、丸を無作為に三つ並べ、それに沿った形に作りだしたような形状、というべきものだ。また、体も不思議で、一般的なシカの背中にコブがついたような、そんな姿なのである。

 

 正式名称を“フフグィイントブ”と言い、ダンジョンの外でもそれなりによく見かけるヤツである。

 

 ヒョコッとこちらにやってきた時は驚いたものである。そもそも、コイツらは大人しいので襲われると言う心配はほとんどないのだが、それがダンジョンという場所にいるというのが意外に感じられるというか、端的に言えば驚かされたのである。

 

 そのシカであるが、現れたのち、こちらをジッと見つめてきた。睨み返してやると、お互いに見つめ合い、また微動だにもしないシカと人間ができあがった。思わず吹き出してしまいたくなるほど滑稽な光景である。

 

 先に動いたのはシカの方だった。

 

 飽きた、とでも言うように首を振って素通りしていったのである。俺はぼうぜんとそれを見送った。今でも、このシカは魔物避けに気付かないほどの能天気だったのではないか、という可能性が頭にチラついている。本当のところは永遠の謎というヤツである。

 

 と、このように暇を紛らわせてくれる魔物が、それなりにいるのがこの第八階層である。

 

 シカと出会ってから少しして、道を塞いでいる存在が現れた。

 

 今度はクマである。森といえばクマ、クマといえば森なクマさんである。しかも、普通の生物であるクマの方との違いがほとんどなかった。いや、大きさも黒の体毛も、まるでそのままだった。違いを探す方が難しいレベルである。

 

 そして、これは一般的なクマの方と違うところなのだが、こちらは躊躇うことなく襲ってきやがったのだ。

 

 静かに、樹の陰に体を隠しながら、ゆっくりと近づいてきた。

 

 グルゥ!!

 

 鳴き声は力強く、振り下ろされた前脚は、木の幹を抉りとった。その威力に思わず瞠目してしまった。これまでとは明らかに違う、強さ。とは言え、第五階層の頂上でで倒したあのクマと比べると、弱いという他ない。スピードも、内包する魔力も、そして何よりその一直線であまりに無防備な動き。どうぞ狙ってくださいと言わんばかりの顎に剣を差し込む。

 

 ゾブリ、と血が垂れてくる。剣は、間違いなく脳を貫いている。

 

 ゆっくりと、剣を引き抜くだけでクマは力なく倒れた。なんともあっけない決着である。

 

 お次にやってきたのは、鳥である。外見はカラスに近いのだが、目元の赤い線がその鳥がカラスであることを否定している。事前に調べた情報によると、基本的に死体を喰らうものらしい。つまりは、ダンジョンの掃除屋の一種というわけである。人を襲うことはないらしいので、わざわざキオつける必要はないそうだ。

 

 ソイツは樹の枝の上でコゥコゥと鳴いていた。クマの死骸を興味深げに見つめていた。しかしながら、わざわざクマを鳥にくれてやる理由もないので、そそくさとクマの死骸は箱の中に突っ込んでおいた。

 

 居座る理由もないので、そのまま道を歩くことにしたのだが、後ろから鳥の視線を強く感じたのが記憶に残った。

 

 結局のところ、第八階層で出会った魔物は、それだけであった。シカとクマと鳥、ソレと実際に見たわけではないが、ネズミやモグラらしき存在、その程度である。魔物避けなしで攻略をするならそれなりに大変そうだ、といった感想である。

 

 その森を抜けると、草原、そしてその奥に小さな火山があった。第九階層である。

 

 

 翌日。

 

 第九階層。特徴は火山。山からは煙が濛々と立ち昇っており、その火口には不死鳥がいるとかいないとか。実在を確認した人物はいないが、不死鳥の羽が採取されたことから、いるのではと言われている、らしい。ちなみに、第九階層はわざわざ火山を登る必要はないので、今回はスルーである。特に時短になるわけでもないしね。なんなら、マグマが噴き出てるところもあって時間を食う可能性の方が高いのだ。

 

 火山の麓をえっちらおっちらとまわっていくのが、この階層の正当な攻略方法である。

 

 安全第一、命大事に、である。

 

 というわけで、火山の階層なわけだけど、やっていることは草原を歩いているというね。どこか拍子抜け感は拭えないが、これもまたダンジョンあるあるというやつでもある。

 

 風に草花が揺られている。穏やかな光景だ。

 

 花は、見たことのあるものから、一切見たことのないものまで、さまざまだ。

 

 遠くで、誰かが花を採取しているのが見えた。聞いた話によると、この第九階層は危険がない割に生えている草や花は薬などの原材料となるため、結構な人数がやってくるらしい。また、一般的な草花だけでなく、時たまほとんどお目にかかれないような稀少なものが生えていたりすることもあるそうだ。ちなみに、これで大当たりを引いて一生遊んで暮らせるほどの金を手に入れた人がいたらしい。本当かどうかは知らないが。夢のある話だとは思う。

 

 人にあまり会いたくない俺としては、第九階層はすみやかに通り過ぎたい。なので、できるだけ早足で歩くことにする。

 

 火山を回るだけであるなら、半日もかからないどころか、すぐに終わる。まぁ、ね。ダンジョンの意図から言うと、火山を登らせたかったのだろうけど、馬鹿正直に登るのはよほどの変人か、そもそも火山に目的がある人だ。わざわざ苦労をしたいと思う人は少ないのだよ……。

 

 草原を歩くだけの簡単なお仕事が終わると、不毛の大地が広がっていた。

 

 薄茶色の大地、そしてその先に、海がある。第九階層の執着地点である。

 

 魔物も、襲ってくることはない。歩くだけの簡単な仕事である。

 

 

 こうして、第九階層を俺は突破した。

 

 魔法陣を使い、地上へと戻る。いつも通り、冒険者ギルドでプレートの確認を行い、次に受付へと移動する。

 

 受付の前で整理番号を受け取って、併設されている酒場の中に入る。

 

「今日もお茶ですか?」

 

「あぁ」

 

 ここ数日で顔馴染みになった店員に、いつも通りの注文を頼んで椅子に腰掛ける。

 

 それにしても、あの店員は常連客が何を頼んだのか、全部覚えているのだろうか? 昨日の記憶を掘り返してみると「いつもの」という客の注文に「〜ですね」とか答えていた。……変人だな。

 

 注文したお茶をグビグビ飲んでいると、俺の整理番号が受付の上に表示された。今日は昼前ということもあってか、いつもと比べてほとんど待つ必要がなかったようだ。急いで茶を飲み干し、金を机の上に置いて、ササっと受付に行く。

 

「今日は、売却ですか?」

 

「あぁ、8階層の熊1匹だ」

 

「わかりました。解体場に置いてください。あぁ、それと、前の査定が完了しています。こちらはすぐお支払いできますが、どうしますか?」

 

「あ〜、ギルドの口座に入れといて」

 

「わかりました。今手続きをします」

 

 そう言って、サラサラと紙に細かそうに文字を書いている。

 

「こちらになります。内容について説明する必要はありますか??

 

 ペラリと今しがた書かれた紙をこちらに見せてくる受付嬢。そこには、第五階層の熊を倒したこと、その査定額と、解体時にかかった経費、仲介料その他雑費などがツラツラと記されており、その最後に最終的な収支が書かれていた。たいそうな金額であった。質素な生活をするなら一年間は暮らせそうな金額だ。これが20階層レベルのボスの支払われる金額か、やっぱ儲かるな、ダンジョン探索。

 

「いや、特にはない」

 

「では、このまま手続きを完了します。帰っても……いえ、解体場はお忘れ無く」

 

 と言われたので、俺はそのまま熊を解体場に置いておいて、そのまま宿へ帰った。

 

 その日、俺はちょっと贅沢な料理屋で晩御飯を食べた。

 

 

 

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