ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
そう、天運! 天から運が降って来た! 新しいことを始めるなら今ぁ!!
「お待ちしておりました、龍宮寺 大和(りゅうぐうじ やまと)様」
「…………は?」
オッサンだった。
目の前に謎のオッサンがかしずいていた。
なんかこう、ファンタジーっぽい真っ白な……神官の服? みたいなものを着ているオッサンだった。頭頂部がハゲていても、恥じることなく頭部を晒しているオッサンだった。
「ん、んんん?」
意味が分からない。
僕は確か、さっきまで学校に行く準備をしていて、玄関を出たばかりのはず。
なのに何故、いきなりオッサンが――あ?
「ここ、どこだ?」
周囲を見回して気づく。
違う。ここは僕の家の玄関先ではない。
それどころか、屋外ですらない。
見上げるほどに高い天井に、ステンドガラスの窓から降り注ぐ陽光。それに照らされて、影を落とす白亜の柱。
ファンタジー系の映画に出て来そうな神殿の一角。
そう表現するのが相応しい場所に、僕は立っていた。
「ははっ! 約定通り、我らが『アルバート王国』の勇者となっていただくため、大神殿にて召喚の儀式を行わせていただきました。もうじき、貴方様の魂の伴侶であるミレーヌ様もご到着されます。今しばらくお待ちください」
わっかんない。
謎のオッサンが色々な単語を出してくるが、何一つ心当たりがない。
実在の場所や人物だけでなく、漫画やアニメの類でも全く心当たりがない。
謎である。意味が分からない。
大体、そもそもの話――――っと?
「大和様っ! 大和様っ!!」
僕が悩んでいると、どこからか声が聞こえてくる。
「大和様ぁ!!」
しかも、それは段々と近づいてくる。
「あっ」
目を凝らして良く観察すると、何やら緑髪の少女が、満面の笑みでこちらに駆け寄ってきている。
シスターっぽい感じの服装を纏った少女だ。
豊満な胸を持つ美少女だ。
しかも、何かハーフっぽい顔立ちだ。アジア系からちょっと離れている感じの美少女って感じである。
「わたくし! わたくしですね! 幼少の頃より、夢の逢瀬を続け、この時をお待ちしておりました! 大和様と直接会える、この時――――お?」
しかし、そんな美少女は僕の近くまで駆け寄ると、ぴたりと立ち止まった。
「お、おおお?」
そして、じろじろとぶしつけに僕を観察して。
「ち、ちちちちっ! 違いますわぁあああああああ!!!?」
物凄い悲鳴を上げた。
そう、まるでカブトムシを捕まえたと思ったらゴキブリだった、みたいな反応だ。
失礼しちゃうよね、本当に。
「どなたですかぁ!? だ、大神官!! この卑屈な笑みと猫背の、目つきと性格が悪そうな殿方は何者ですか!!?」
いや、本当に失礼だな、この美少女。
涙目になっているけど、泣きたいのはこっちの方なんですけど?
「は? い、いえ、ミレーヌ様。この方はですね、召喚に応じていただいた勇者で――」
「違いますわ! 夢の中で何度もお顔を拝見しましたが! 似ても似つかない者ですわ!」
緑髪の美少女――ミレーヌと呼ばれていた少女は、まるで親の仇のように僕を睨む。
「答えなさい! 大和様が居るべき場所に立つ、貴方は何者なのです!?」
うわぁ、逃げたーい。
美形の奴から睨まれるのって、変に迫力あるから嫌いなんだよね。
というか、訊きたいのはこっちの方なんだけど…………はぁ。まぁ、いいか。よくわからない状況だし、ここで言い争っても話は進まなそうだし。
「初めまして、見知らぬ人たち。僕の名前は佐藤 雅彦(さとう まさひこ)。どこにでもいる陰気な高校生なわけだけど――――君たちは一体、何者なの?」
精々、愛想よく笑って受け答えしてやろうじゃないか。
…………まぁ、愛想よく笑っても、何故か『馬鹿にしてんのか?』とか文句を言われる笑顔だけどね。
●●●
はぁい、巻き添え系召喚勇者になってしまった、佐藤正彦でぇす。
怒り狂うミレーヌを宥め、比較的冷静なオッサンから話を聞いた結果、以下のことが分かりました。
・ここは異世界だよ!
・異世界の中でも、アルバート王国って国だよ!
・魔術とかある感じのファンタジー世界だよ!
・数百年スパンで復活する邪神に対抗するため、異世界から勇者を召喚しているよ!
・でも、いきなり召喚すると迷惑だから事前交渉しているよ!
・事前交渉だと、僕じゃなくて違う人が召喚される予定だったよ!
・誤召喚の理由は、敵国の妨害だと推測しているよ!
・この世界は邪神が復活する間近でも、敵国と殺し合いをしているよ!
・敵国の目的は、アルバート王国の勇者召喚枠の一つを潰すことだと思うよ!
・勇者召喚は魔力? 的な感じのコストが高いから、軽々と行えないよ!
・元の世界への送還? 国家予算的な意味で無理だよ!!
「うーん、典型的な巻き添え召喚……じゃないね。どちらかと言えば、マクガフィン的な理由で嫌がらせの弾にされた感じだなぁ」
そして現在。
大神殿という建物の中の一角。
客人を止まらせる部屋の一つに、僕は閉じ込められている。
まぁ、部屋に鍵はかかっているけれど、体は自由に動くし、荷物を改められなかったから、さほど悪い扱いではなさそうだけど…………でもなぁ。
「ステータスオープン!」
はい、何も出ない!
「己の内側に意識を集中する感じのあれ!」
はい、何も見えない!
「いつの間にか荷物にそれっぽいステータス表が混ざっている可能性!」
はい、無いね!
全然無いね! 僕がいつも学校に持っていく奴しかないよ。
「…………ふんっ!」
腕立て。
腹筋。
ジャンプ。
頭の中でイメージして、何かこう、ドーンと行く感じの魔術。
「駄目だね、これは!」
何かが成長しているわけでもないし、何も出来る気がしない。
うーん、ただ、何だろうね? 自分の体内に、今までになかった何か……『熱』? みたいなものは感じるんだけど。多分、これがあれかな? 魔力とか、そういうのだったりする?
「だけど、こうして異世界の人間と話をしたり、文字を読めたりする時点で、日本に居た時の僕自身そのまま、ってわけでもなさそうだね」
色々と検証していると、ドアをノックする音が聞こえてくる。
「失礼します。勇者様、お食事をお持ちしました」
すると、僕が返答する間もなく、メイド服の女の子がカートに料理を乗せて入室して来た。
「おお、これはどうも! へへっ!」
「ひっ!」
なので、愛想よく笑みを返すと、メイドさんが露骨に嫌悪感を返してくる。
はいはい。元の世界で慣れてまーす、こういうことは。
「…………ふむ」
しかし、中々に豪勢な料理だ。
これ見よがしな銀食器に盛られた、白いパンに琥珀色のスープ。じゅじゅうと音を立てる赤身肉のステーキ。
いやぁ、育ち盛りの男子高校生には、食欲がそそられるものばかりだね!
「うーん、どれも美味しそう! ありがとうね!」
「い、いえ……どうぞ、ごゆっくり――」
「おや? メイドさん、何やら顔色が悪いね? え? ひょっとしてお腹空いてる? 良かったら、いくらかご飯を分けようか?」
「――――と、とんでもございません!」
おっと、残念。
分け合う精神を出してみたけど、どうやら恐縮されてしまったようだ。
「わ、私のような身分の者が……勇者様に出された料理を頂くなんて……そ、そんなことは許されていませんので!」
「ふーん。なるほどねぇ」
このメイドさんの言葉が確かなら、この国では召喚された勇者はそれなりに尊重された立場にあるらしいけれども…………さて。
「いやぁ、ごめんね? ほら、僕ってば手違いというか、妨害で召喚された感じの人間だから! この世界? この国の常識とかさっぱりで!」
「い、いえ、そんな……では、私はこれで――」
「あ、そうそう。メイドさん、最後に一つ」
僕はそっとメイドさんに歩み寄り、笑みを浮かべながら訊ねる。
「僕の食事に毒を入れるように指示したのは、どこの誰?」
ひゅっ、とメイドさんは僕の言葉に息を止めて。
――――バチチチッ!!
次の瞬間、「あがっ」という悲鳴と共に僕の足元に転がる。
持っててよかった、護身用のスタンガン。
学校だと荷物検査の日に大変な目に遭うけど、やっぱり自己防衛は必要だよね。
「一つ。この部屋に来る前、ミレーユって女の子と大神官ってオッサンからは、露骨な害意を感じた。一つ。勇者の召喚枠が一つ潰れた、とか物凄く騒いでいた癖に、妨害要員として強制的に召喚されたこの僕に、急いで食事を出す? 『勇者とは何なのか?』とか、『どういう力を持っているのか?』っていう肝心な話をしなかった癖に? 最後に一つ。慣れてないのか、メイドの君が、やたらと肩を震わせていたね」
仰向けに痙攣しているメイドさんを、僕は満面の笑みで見下ろす。
「あ、がが、かひゅ……こ、ころさな、ころさないで……ください……」
「殺さないよ!」
何やら勘違いしているメイドさんが、涙ながらに僕を見上げて来るけど、そんな真似はしない。僕はどこにでも居る普通の男子高校生なのだ。人を殺すなんて真似、絶対にやりたくはない。
それはそれとして、やるべきことはやるけどね。
「でも、君にはちょっと悪いことをするから、それはごめんね?」
「ひっ、なに、を――むぐぐうぅう!!?」
スクールバックに入ってあるタオルを無理やりメイドさんの口に突っ込み、僕はその服を脱がし始めた。
●●●
はぁい、現在偽装メイドとして大神殿をスニーキング中の佐藤雅彦でぇす。
ん? エロいこと? してないよ!!
いや、普通にしないよ。どういう神経をしていたら、いきなりメイドを性的に襲うのさ?
うん? まぁ、服は剥ぎ取ったけどね? そこはほら、ちゃんと部屋にあったシートを被せてあげたし。
そりゃあ、僕が生き残るためにメイド服を調達することになったけど、それ以上の真似はしない。別に、あのメイドさんに恨みがあるわけでもないし。
ただ、この偽装はあくまでも一時しのぎ。完璧からは程遠い。結局、靴のサイズが合わずに、靴だけはスニーカーだし。
逃げた理由? うん、勘ですよ、勘。露骨に、ミレーヌと大神官から嫌な感情があったし、メイドさんを揺さぶったらろくでもないことが分かったからね!
これで、全てが僕の早とちりだったら、あのメイドさんの前で土下座をしないといけないね。
『早く、あの不届き者を殺して、勇者召喚をやり直しなさい!』
『しかし、ミレーヌ様! 恐らく、この妨害は魔神機の権能によるもの! 妨害の元を絶たぬ限りは! 大和様以外の者が召喚されます!』
『そんな!』
『幸いなことに、あの勇者でも魔力炉としての役割は果たせます……今、薬物で意識を失わせていますので。魔神機に組み込めば――』
『馬鹿を言わないで! わたくしに、あのような者と契れと!?』
……はーい、駄目でーす。
偶然、通りかかった扉の奥から、なんか聞き覚えのある二人が言い争っている声が聞こえましたー。殺すか、何かのバッテリーに加工する、みたいな話をしていまーす。
「よし、逃げよう…………でもなぁ。どこに? どんな物を持って?」
召喚系勇者って、現地のことを全然知らないから不便だよね?
まぁ、言語が分かるだけでも温情かな? うーん、とりあえず、どこから適当に換金性のあるものを盗んで――――。
『《こちらじゃ、異邦人》』
がつん、と突如として頭の中に何者かの声が響いた。
『《そのまま真っすぐ行って、突き当りの階段を下るがいい》』
無垢な幼女のようで。
老獪な紳士のようで。
醜悪な怪物のようで。
何者でもないような声が、僕の頭の中に響いている。
「…………毒を食らわば皿まで、か」
迷いはあった。
けれども、足は自然と動いた。
『《扉を開いて、進め。地下へと下れ。鍵は全て開けておくぞ》』
救いがあるとは思えない。
この声は明らかに、不吉と邪悪が混じった予感を僕に抱かせる。
それでもなお、地下へ地下へと下って行くのは、一種の自暴自棄だ。
このまま、適当な金品をかっぱらって逃げても、どうせ僕は遠からずに死ぬ。どうにか相手が油断している間に逃げられはしたものの、その内、追手を差し向けられてゲームオーバーだ。
だったら、不吉でも邪悪でも、奴らの想像を超えられそうな物に縋るしかない。
『《最後の扉じゃ。さぁ、我が元に来るがいい》』
どれだけの時間下ったのか?
気づくと、僕の眼前には巨大な石扉があった。
しかも、その扉には、巨大な魔法陣のようなものが刻まれている。
…………ええと、これ。僕の腕力で動かせる? 明らかに、十メートル以上の高さの扉なんだけど?
「あ、開いた……開いた!?」
だが、不可思議なことに、僕が触れただけで、その石扉は重厚な音を立てて開いた。
なんだろう? 異世界だから、ファンタジー的な力が働いたのだろうか?
「お、お邪魔しまーす」
恐る恐る僕は扉の先に進んだ。
けれども、扉の中は一寸先も見えないような暗闇。
一歩踏み出すことも躊躇うような暗闇を前に、僕はそれでも、喉を鳴らして踏み込んで。
『来たか、異邦人。悪魔の妨害により、運命から外れた到来者よ』
頭上から、光と声が降って来た。
光は何かの照明が天井にあったのだろうか? 思わず目が眩むほどの光量が、瞬く間に暗闇を晴らして行く。
『我は、お主のような者を待ち望んでいた』
声は今まで僕の頭の中で響いてきた声が、頭上から聞こえるようになっていた。
「…………っ!」
そして、眩む視界に戸惑いながらも目を開き、段々と慣れて来た視界で、僕は『それ』を見た。見てしまった。
広大な地下空間に君臨する、巨大な黒騎士。
ぐぽん、と音を鳴らして動く単眼は、赤銅色。
呼吸の代わりに聞こえるのは、機械の駆動音。
全身鎧の如き装甲の合間からは、機械の部品が見え隠れしている。
だが、それだけではない。機械だけではない。その巨大な黒騎士の背中には、まるでカラスのような生物の翼が生えていた。
機械と肉体。
それらが融合したような何か――――ファンタジー系のロボットモノにありそうな、僕らの知る常識を超える何かが、そこにあった。
「なん、だ? あれは……っ!」
降り注ぐ光ですら消し切れない、暗黒のオーラを纏いながら。
『我が名を……偉大なる我が名を魂に刻み付けるがいい』
「――――あ」
圧倒されるとはこのことか。
抵抗しなければならないとわかっているのに、僕はその巨大な黒騎士から放たれるオーラに飲み込まれて。
『我が名は最強勇者マガツオー! さぁ、共に愛と正義を実行しようぞ!!』
「なんて???」
その名前のあまりのギャップに、思わず正気に戻ってツッコミを入れた。