ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
ギリギリ間に合ったぜ!! 体調の関係で投稿間隔が伸びる可能性もあるぜ!! その時はごめんね!!!
はい、投稿します。
「がるぅ!」
血煙を纏いながら、エリスが疾走する。
手には爪。肉体変化の魔術により、強化された爪を、エリスは刃の如く振るう。
「がう!」
吠える声と共に、一殺。
エリスの倍以上の背丈の魔物――オーガと呼ばれる鬼に似た巨体の首を、一瞬にして刈り取って見せた。
「ぐるるぅうううっ!」
しかし、エリスは一殺ぐらいでは止まらない。
そのままオーガの群れの中に突っ込み、荒れ狂う暴風の如く蹂躙して…………ふむ、油断をしたね。
「エリス、足元!」
僕はエリスが石畳に隠された罠を踏む前に警告。
「きゃうっ!?」
ギリギリ間に合うかどうかのタイミングでわざと声をかけたわけだけれども、流石、エリスは優秀。悲鳴を上げながらも、空中で魔力を放出して方向転換。辛うじて、罠を踏まずに済んだようだ。
「エリス、戦いに集中し過ぎ! 戦いながらも、常に環境を把握し、制圧していけ!」
「はいっ!」
「まだ三十階層だぞ! こんなところで気を抜くな! 君は最強になるんだろうが!」
「はいっ!!」
僕が激励飛ばすと、エリスは集中力を取り戻したのか、再び魔物の群れに突っ込んでいく。
そうだ、それでいい。
結局のところ、僕らみたいな奴らにとって、実戦に勝る練習などは無い。
僕らは割とすぐに大体何でも習得するから、かえって練習を重ねると土壇場で行動が温くなる。練習を重ね、準備を重ねた分、無駄な余裕が僕らの行動を錆び付かせる。
常に死地に飛び込め。
死中の中にしか活路は存在しない。
当たり前のように死線を踏み越えて、常識を踏み砕け。
その先にしか、『最強』は存在しないのだから。
「気を付けろ、探索者ども! この先は、馬鹿の馬鹿みたいな特訓会場だ! 入っても良いが、普通に特殊個体の魔物が群れで出て来るぞ! 命が惜しくば、引け! そして、決して真似などするな! 我らは理外の怪物どもよ!」
なお、マガツは僕たちの特訓で被害者が出ないよう、ダンジョン内の交通整理をしてくれる。
ありがたい限りだよ、本当に。
…………なんか、ちょくちょくドン引きしている顔なのは納得いかないけどさ。
「エリス。次は遠距離攻撃をする魔物の群れを相手にしよう。僕が釣ってくるから、五分間休憩。ただし、その間も体内で魔力の循環を研ぎらせないように」
「がうっ!!」
「こら、野生に戻らない」
「はいっ!」
雛鳥にエサを運ぶ親鳥とは、こんな気持ちなのかな?
僕は密かに育ちつつある父性やら母性を抑えつつも、その後も厳しくエリスを育て上げた。
……とは言っても、エリスは天才の中の天才だからね。
「はい、五十階層のボスであるアーマードケンタウロスへの対策は?」
「はい! 炎属性の投擲です!」
「よろしい。では、油断なく倒すように」
「がうがうっ! 了解よ!!」
御覧の通り、五十階層まで危なげなく辿り着くことが出来た。
うん。とりあえず、探索者としての基礎はこれぐらいで十分だろうね。
「ふ、くくくっ! これが力! ああ、素晴らしい力! もう、人の顔色を窺うだけだった私は居ない! 私は今、強者の側に立った!」
まぁ、境遇の所為か、たまに力に酔うのが悪い癖だけれども。
ここら辺は、定期的に何度も叩いて凹ませれば、自然と油断ない立ち振る舞いを覚えるだろうね。
うん、だからここからはエリスの強化と並行して、二つのタスクをこなして行かなければならない。
そう、性能の良い偽神機の獲得と、エリスと共に最下層に進ませる仲間の確保だ。
「ほら、エリス。この程度の力に酔わない! ステイ!」
「わんっ!!」
「落ち着いた?」
「わふ」
「ならば良し」
僕はエリスが人語を取り戻すまで宥めた後、駄目元で問いかける。
「エリス。これは言うだけ言ってみる、という感じの頼み事なんだけどね?」
「うん。つまり、最初から期待できるようなことじゃない……無茶ぶりになりそうだから、あんまり気負わずに考えろってこと?」
「そう。そんな感じで」
僅か数日の付き合いであるが、エリスが僕の言動に慣れ始めているようで何より。
「質の良い偽神機を作っている場所と、深層まで攻略を進めている探索者に心当たりはない? ああ、もちろん、どちらか一つでも……というか、強い探索者の噂程度とか、そういうのでも全然構わないんだけど――」
「知っているし、居るけど?」
「へ?」
僕が思わず、唖然と口を開けていると、エリスは『にまぁー』と実に嬉しそうに微笑んだ。
「私、どっちの伝手も持ってるわ。兄様、私、偉い?」
「いや、偉いというか、凄い。超凄い! マジか!?」
「ふふーん! 頭を撫でてもいいよ!」
「よーしよしよしよし!」
「わふー」
いやぁ、マジで偉いぜ、エリス!
偉い上に凄いぜ! いや、コネクションってマジで大事だからぁ! 色々ごり押しで強くなったとしても、偽神機とかを準備するのって、明らかに色々とコネクションが必要な感じがしたからさぁ! それをスキップできるのはマジで凄いぜ!
「良い子! 良い子! よぉし、今日はエリスの好きな骨付き肉だ!」
「わぁい! 私、骨付き肉大好き! 骨を砕きながら食べるのが!」
「ははは! ワイルドな弟子だなぁ!」
「わんわん!」
きゃっきゃっ! と僕らが師弟の絆を深めていると、何やら先ほどまで怪物を見る目で僕らを眺めていたマガツがぼそりと一言。
「猟犬と飼い主……」
「こらぁ! 人権を考慮した発言を心掛けてよ、相棒!!」
「いや、だって……なぁ、エリス」
「マガツ様酷い。私は飼い犬じゃない……飼い狼!!」
「こだわるところはそこなんだね、エリス」
がうー、と口を開いて牙をアピールするエリス。
もっと一個人としての人権を意識して欲しい。
「あ、兄様。そういえば、ちょっと思い出した。紹介しようと思っていた姉様――探索者の注意点」
「うん? いや、姉様って――」
「あの人、度し難い変態だから、そこは気を付けて」
「んんんん???」
後、割と重要な情報をさらっと後付けするのは心臓に悪いのでやめて欲しいぜ!
●●●
工場と理科室と病院の臭いが混ざったような空間だった。
機械音と共にクレーンに釣り上げられるのは、偽神機の骨組み。
ごぽごぽと泡立つ紫色の液体に使っているのは、偽神機の血肉。
他にも、錬金術師や魔女の工房めいた光景と、自動車工場のような組み立て空間が同居している、奇妙な場所だった。
これが、偽神機の製造を担う工房の中でも、トップクラスの質を持つ場所だった。
「兄様。この工房の主は、作業中は声をかけても反応しない。だから、勝手に入り込んで、勝手に工房の主を探しに行くの」
そんな場所へと、エリスは勝手知ったる家の如く踏み込んでいく。
「え、いいの?」
「大丈夫。この工房の主は偏屈で、従業員はほぼ魔導人形。禁則行動を破らなければ、普通に中を出歩いても大丈夫」
ずんずんと進んで行くエリスの後ろについて、僕も歩いていく。
周囲を見回せば確かに、アンドロイドみたいな機械が、黙々と作業を続けているようだ。
「私、お腹が空いてお金が無い時、ここの工房で下働きしていたこともあったから、勝手に入り込んでも衛兵を呼ばれない。怒られるけど」
「怒られはするんだ」
「割と拳骨」
「まぁ、妥当だね」
「でも、私は力を手に入れた。どれだけ非戦闘員からの拳骨を受けても平気」
「駄目だぞー、そういう考え方」
目を輝かせながら、エリスがろくでもないことを言うので、その内、情操教育もある程度やっておかないとなぁ、と検討。
別に、エリスの人生だから好き勝手生きてもいいのだが、常識は知っておいた方が後々利用できたりするので、そういう道徳や倫理も習っておくべきだよね。
「ふんふん。ほうほう……まぁ、頑張っておるな。人間にしてはwww」
なお、冷笑系邪悪は教育に悪いので、その時は外に放り出しておこう。
「こら、マガツ。人の工房なんだから口を慎むこと!」
「む? これでも自重している方なのじゃが?」
「…………ちなみに、自重が無くなると?」
「まず、そこら辺に居るだろう悪魔を一匹調達する」
「はい。なんかもう不穏な気配しかないから黙ってようね?」
「むーん」
「はいはい。今度相手にしてあげるから、これ食べてて」
不貞腐れた顔のマガツへ、手作りのクッキーを押し付けて機嫌を調整する。
マガツは不機嫌だったり放置の時間が長かったりすると、高確率で何かをやらかすので、適度に様子を見ることが肝心だ。
「あ、居たよ、兄様」
などと、マガツの世話を焼いていると、エリスが目的の人物を発見する。
「……魔神は……権能の再現……性能が足りねぇ……」
その人物は、床一面に巨大な設計図を広げ、苛立たしげに黒色の神を掻き毟っていた。
顔立ちは中性的な美形だったが、今は、その美貌を苛立ちで歪めている。
外見年齢は、十代後半から二十代前半。
体つきはスレンダー。一瞬、女性と見まがうほど柔らかな肢体の持ち主だが、骨格から男性であることがわかる。
そんな不機嫌そうな美人が、薄汚れたツナギ姿でペンを持ち、一心不乱に何かを設計図に書き込んでいる。
「彼はウル。この工房の主で……この街で一番のメカニック。深層に挑む探索者の中でも、二つ名を頂く者の全てが、彼に偽神機を作ってもらっているの」
エリスはそんな不機嫌そうな美人――ウルの機嫌を損ねないように、小声で僕に説明する。
「腕前は確か。納期も守る。偽神機の値段も適性。だけど、物凄く偏屈。機嫌を損ねた客には、絶対に物を作らない。たとえ、自分が死にかけても絶対に」
「なるほどね。職人気質ってわけか」
「だから兄様、気を付けて。機嫌を損ねたら、私が何を言っても無駄だと思うから」
「うん、任せておいて」
こう見えても、地元では結構難儀な性格な人たちとの交流があったからね。
「もぐもぐ……気楽にやれよ、マサヒコ。駄目だったら、洗脳という手段がある」
というか、現在進行形で世界破壊爆弾みたいな相棒との交流があるからね!
気難しい奴の相手なんてお茶の子さいさいさ!
「さて、と」
僕は設計図に夢中なウルの元へ、そっと近づく。
そして、その設計図にざっと目を通して。
「あ、これは失敗作だね。作るだけ無駄だよ」
「あ???」
思わず、ウルが僕の方を見たくなるような言葉を投げかける。
うーん、流石だぜ、僕。ここまでストレートに僕を睨んで、胸倉を掴んでくれるような言葉を選べるなんて。
あ、マガツは触手を閉まってください。
挑発から始まる交渉術は、ここからが本番なんだから。
「テメェ、どこの誰だ? いや、そんなのはどうだっていい! そんなことより! この俺の設計図が失敗作なんて戯言を、よくもほざいて――」
「失敗作だよ。だってそれ、魔神機を越えられないじゃん?」
「――――っ!!」
ウルの顔が、驚愕の表情で固まる。
「図面を読めばわかる。君、魔神機を越える機体を作り出したいんじゃない? でも、色々な壁があって、それを越えられないから、仕方なく妥協している……そういう図面だよ、これ」
「て、テメェ……っ!」
怒りと戸惑い、後は図星を突かれた苦しみ。
そういうものが織り交ざった表情だ。
ちなみに、図面に関しては割と適当なことを言っている。ざっと見ただけだと専門的なことは分からないので、文脈や筆跡から感情を読み取って推測しただけ。
「それとも違うの? 僕の間違いだったりする? そうだったら、今から頭を床に叩きつけて謝るけど?」
「……っ! くそっ! くそくそくそっ!! その通りだよ、ちくしょうめ!!!」
「おおう」
元々美形の人間がブチ切れると、中々に迫力があるね。
「ああ、そうだ! 俺は妥協しようとしていた! 色々と言い訳を作って、テメェじゃ作れないって認めようとして無かった! ああ、俺がクソカスだったぜ!! それで! そのことをわざわざ親切に教えやがったテメェは! 何の目的でここに居る!?」
僕の胸倉を掴んだまま、吠えるように問いかけるウル。
「そうだね」
そんなウルへ、僕はゆっくりと笑みを作って答えた。
「君に、魔神機を越える機体を作ってもらうために、ここに居る」
「は????」
今度は、戸惑い百パーセントの表情だった。
「テメェ、何を言って――」
「必要な物はなんだい? 性能の差を補うだけの物資? そうだね、テンシの素材がかなりあるんだけど、それを使えば可能かな? まぁ、足りない分はまた狩ってくるよ」
「何を――」
「魔神機のデータ? マガツ、そういうのあったりする?」
だが、遅い。
戸惑っているなら置いていくぜ、街一番のメカニック!
「ほう、魔神機のデータか……あるぞぉ。くくくっ、以前、悪魔どもを捕まえて洗脳し、人類を滅ぼしたい者どもを集めて、オリジナルの魔神機を作っていたからのう!」
「わぁ、邪悪! でも今だけは素敵だと言っておこう!」
「くははは! いいぞ、もっと褒めろ!!」
きゃいきゃい、と僕とマガツがはしゃいでいると、ウルが得体のしれないものを見るような目で見て来た。
「な、なんだ!? 本当になんなんだ、テメェらは!?」
「そうだね。愛と絆を胸に、邪神と戦う正義のスーパーロボットコンビ――と言いたいところだけど、まだまだ実績が足りないからね。こう名乗らせてもらおう」
笑みを深める。
たっぷりと、精一杯の不敵さを込めて言う。
「僕らは魔神にも邪神にも属さない、独立独歩のストレンジャーズ!! そして、君が待ち望んでいた『好機』って奴さ!」
胸元を掴むウルの手を解いてから、改めて僕は手を差し伸べる。
「さぁ、さぁさぁさぁ! 選ぶのは今だ! 未来を変えるのは未だ! 神に挑みたいというのならば! 僕らの手を取るがいい!!」
「…………っ!」
ウルは苦悩の表情を見せた後、「はぁああああ」と大きくため息を吐いて僕と視線を合わせた。
「怪しすぎるだろ、テメェら」
「そうだね。否定はしない」
「大体、誘いに乗ってもろくなことになる気がしねぇ」
「だろうね。絶対にそうなる」
「今の俺の立場も、下手をしなくても台無しになるんじゃねーか?」
「うん。僕らの立場は最悪に近いからね。巻き添えでそうなる可能性もあるよ」
「仮に、テメェらの手を取ったところで、得られるのは自己満足程度だろうよ」
「ああ、その通り」
「だから気に入ったぁ!!!」
「そう言うと思ったぜぇ!!!」
がしん! と僕とウルは力強く握手を交わした。
新たなる仲間の誕生である。
「へっ、地位も名誉も! 金もいらねぇ!! 俺が欲しいのは納得と満足ぅ!! 魔神機を越える機体の誕生こそ! この俺の本望だ!!」
「ふっ、良い啖呵だったよ、ウル!」
「おう!」
ちなみに、自己紹介すらまだである。
でもね? 挑発から始まる交渉術はスピード感が大切だから。自己紹介なんて挟んでいられないんだ。
「ところで、そこの不審者コンビ……に、いつぞやの駄犬」
「狼! 駄狼!!」
「こだわるところはそこなのかよ……この俺に魔神機を越える機体を作らせて、一体何が目的だ?」
ウルの質問に、僕とマガツは声を揃えて答えた。
「「竜殺し」」
最下層に座する暗黒竜を殺すのだと。
「聞き捨てにならないことを聞いたぁ!!!」
がっしゃーん!!
聞き覚えの無い誰かの声と共に、見覚えの無い誰かが工房のガラスを破って突入して来た。
「今! 竜殺しって言った奴は誰だぁ!!?」
そいつは真っ赤な髪を持つ、僕と同世代ぐらいの少女だった。
顔つきは平凡。特に特に特徴の無い地味な物――だっただろう、その横顔に竜の入れ墨が無ければ。
「あ、姉様だ」
「え、変態の!?」
不審な乱入者の登場に、エリスが何やら聞き捨てならないことを呟いた。
ひょっとしてこいつが、僕らがこれから勧誘しようとしている探索者なのだろうか?
いや、まぁ、うん。装備とか、身のこなしとかは、如何にも上級探索者っぽい感じだけれども。
「いや、どこの誰でも構わない!! 誰だろうが! 言ってやる!! この街の地下深くに座す、暗黒竜をブチ犯すのはこのアタシ! 探索者クラン『ドラゴンセックス』筆頭である! レーナ様だってなぁ!!!」
違っていて欲しいなぁ、という気持ちを込めてエリスへ視線を向けるが、無言で頷かれてしまった。
どうやら、本当にこいつがエリスの伝手らしい。
「さぁ! アタシは名乗ったぜ!? このアタシに恐れを抱かないのなら! もう一度、このアタシの前でさっきの宣言を――」
「レーナ、テメェ!! ついさっき出禁だって追い出したばかりだろうがよぉ!!!」
「んぎゅわぁあああああああああ!!?」
あ、ブチ切れウルが試作中の偽神機を強制的に動かして……あー、うん。いくら探索者として強くても、そりゃあ、巨大ロボットに殴り飛ばされれば吹っ飛ぶよなぁ。
「兄様」
「うん」
「姉様はあの程度では怪我もしないから、後で拾いに行こう?」
「……うん、そうだね!」
僕は心の中に思い浮かんだ色々な不安を押し殺し、エリスに笑顔で応えた。
…………変態との接し方を思い出しておかないとなぁ。
なお、探索者クラン『ドラゴンセックス』は、当然ながらギルドの登録名として認められず、『ドラゴンハート』として登録されています。
でも、クランリーダーだけがずっとそう名乗り続けている。不名誉だね!!!