ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
『殺す! 絶対に殺す! とにかく殺すのです!』
殺意を漲らせた邪神――アレスは今、ガチ切れ状態で、その手に携えた四本の魔剣を振るおうとしている。
『待った!!』
だが、正直なことを言うと、このまま戦闘に入るのは辛い。
とても辛い。割と限界一杯なのだ、今の僕は。
再び、あの第二権能である黄雷を使うには、もうちょっと休憩が欲しい。
『これから殺し合うのならば! せめて、この僕にその所以を話して欲しい! 殺すも殺されるのも! そうでなければやりきれない!』
『むっ』
なのでまぁ、駄目元でアレスへと物言いをしたわけだけれども。
『それは、確かに。いかに戦場が残酷であろうとも、忌まわしき災神の契約者であろうとも、理由も知らずに死ぬのは不憫が過ぎるのです』
嘘だろ、通ったの!?
『か、感謝するよ……ええと、改めまして。最強勇者マガツオーのパイロットをやっています、佐藤雅彦です』
『ふむ。礼儀正しいのは戦士として良いことですよ、マサヒコ』
アレスの厳かな声は今、なんか普通の女の子みたいな感じに柔らかくなっている。
す、すげぇ、ここまで駄目元の説得が通る相手は初めてだ。
『ですが、貴方がどれだけ優れた戦士であろうとも、我が憎悪はきっと刃を鈍らせることは無いのです!』
『つまり、マガツと貴方との間には、それほどの確執が……やはり、五百年前に力づくで支配されたのが許せなかったので?』
『えっ?』
『えっ?』
恐る恐る問いかけた僕の言葉に、アレスは物凄く気の抜けた声を返して来た。
問いかけた僕が思わず、更に疑問符を浮べてしまうほどに。
『いや、ワタシは戦神なのですよ? そりゃあ、戦の習いには従いますとも。屈辱ですが、負けたなら従います。機体を改造させられて、異世界人を乗っけられてもまぁ、渋々ですが従うのですよ』
『マガツ、五百年前にそんなことやっていたの!?』
『うむ、その通り!』
『何を誇らしげに!?』
大分やらかしているエピソードを聞いているけど、まだまだマガツのやらかしが尽きることが無いんだけど!?
『我は五百年前、弱った邪神どもを打ち倒し、支配下に置いた。じゃが、それをそのまま使うのは趣が無い。故に、我は異世界で非業の死を遂げた者の魂を掬い取り、この世界に新たなる肉体と共に転生させたのじゃ。世界を滅ぼす『邪神機』のパイロットとして!』
『なんでまた、そんな真似を!?』
『人間を滅ぼそうとしている邪神が、人間に操縦されながら世界を滅ぼすとか、中々に笑える趣向じゃろう?』
『五百年前のマガツって本当にラスボスだったんだね!?』
『うむ。世界を遊戯場として、思う存分、人類で遊び尽くすつもりだったのじゃ』
『悲しい過去が無いタイプのラスボスだ…………ええと、こんな仕打ちを受けても、そこはまだ怒ってなかったんだ、この戦神って』
散々マガツが馬鹿呼ばわりしていたけど、この度量は認めざるを得ないよ。
『まぁ、戦ってそういうものなのです。それに、人間を乗せられている状態とはいえ、弱った邪神の状態よりも遥かに強化されていましたし。パイロットの方も、何もかも滅ぼしたい精神状態だったので、ワタシと話が合いましたし。今までよりも遥かに人類を滅ぼすスピードが上がったので、悪い気分では無かったのです』
『ええと、じゃあ、なんで?』
『…………』
アレスは沈黙した。
重々しい沈黙だった。
『我ら邪神は、五百年前、幾度も超勇者と戦ったことがあるのです』
けれども、過去を引きずるように、アレスはぽつぽつと話し始める。
『強敵でしたね。それに、戦っていて気持ちのいい益荒男だったのです。こちらが世界を滅ぼす敵なのに、普通に言葉をかけて来て。殴り合うように言葉を交わして……気づけば、ワタシとワタシのパイロットはすっかり、超勇者に絆されてしまったのです』
五百年前の出来事を。
『――――共に、世界を滅ぼすことを止めようと思ってしまうほどに』
驚愕に値する事実を。
『ワタシだけではなかったのです。他の二柱も、超勇者との戦いを経て、それぞれのパイロットとの絆を深め、世界の滅亡を望まなくなっていたのです』
『ええと、マジなの?』
『マジです。実際に我ら邪神機三体はパイロットと共にマガツミカボシから離反し、超勇者の仲間となったのです』
マジだったんだ!? というか、昔のマガツは本当に裏切られまくりだなぁ!
『楽しい日々だったのです。超勇者と共に戦う、あの時は本当に……我々は事が終わった後、パイロットを遺して、自ら消滅しようと思うほどに』
『…………つまり、そこまで思い至った貴方たちが、ブチ切れるエピソードがこの後にあるわけだね?』
アレスは深々と頷き、最後の語りを始める。
『五百年前、超勇者はワタシたちを含む精鋭と、各国の戦力を合わせた連合軍で、マガツミカボシとの最終決戦に挑んだのです』
あ、なんかもう、薄々予想が出来ちゃったな。
『勝てると思っていたのです。いかにマガツミカボシが強大でも、超勇者と共に築いた絆があるのならば。仲間たちと一緒ならば。共に駆る相棒と一緒ならば』
だって、さっきからマガツが『ぷくくくっ』と嘲笑を抑えているもん。
『殺された……殺されたのです! 仲間が! ワタシたちの仲間が! ゴミみたいに殺されたのです! ワタシたちはその世界で最強の軍勢だったのに……っ! 本体を現したマガツミカボシはまるで、ゴミのようにワタシたちを蹂躙して…………結局、邪神機三体とその相棒三人は、戦いの土俵に乗る以前の段階で、あっさり殺されて――――ワタシたちの最終決戦は終わったのです』
『…………』
『もちろん、わかっているのです。その後、超勇者が頑張って、マガツミカボシを打ち倒し、世界を救ったことも。散々人間を殺して来たワタシたちが、自分たちが殺される側に回った時だけ被害者面をすることは愚かしいことだとも』
ぎちり、とアレスの四つの腕が再稼働する。
力強く、怨念を込めて魔剣を握りしめる。
『だけど! それでも! 弱き敗者が悪いのが戦の習いだとしても! ワタシたちは許せない! ワタシたちの仲間を殺したマガツミカボシが!!!』
なるほど、理解したよ。
『アレス。確かに君は、正当なる復讐者だ。君の気持ちを察しよう――――だけど』
君がマガツを殺そうとする理由を。
『こういう時、僕はマガツの味方をすると決めているからね。流石に今、正義の味方を名乗れるほど鈍感じゃあないけれどさ』
僕が君を殺さなければいけない理由を。
『君の復讐、斬り捨てさせてもらう!』
『その啖呵! 人間にしては見事なのです!!』
魔剣四本に対するは、黄金の一振り。
邪神の復讐者を、僕は今、マガツの相棒として打ち倒さんとする。
だが、それはそれとして。
戦いが始まる前に一つだけ。
『あ、そういえば、戦神アレス。マガツを憎悪する理由はわかったけどさ、人間を滅ぼそうという気分が復活したのはどうして?』
『マガツミカボシに倒されたワタシたちの意識が復活した時、人間どもは相変わらず戦争で殺し合いしながら、こっちを生ける素材扱いして攻撃して来たからなのです……問答無用で!』
『ああ、なるほどね』
やっぱり、この世界の人類も割とやらかしているらしい。
四つの魔剣が振るう斬撃は、それぞれが必殺。
重く。
軽く。
硬く。
柔らかい。
異なる感触が四つ。
こちらの感覚を狂わせるように、あらゆる角度から斬り込まれる。
『我が魔剣・四凶陶酔(しきょうとうすい)を受け切るとは、見事なのです』
『……っ!』
『ですが』
厄介なのは、この魔剣は二つの意味を持つということだ。
一つは魔術的な付与効果を持つこと。
もう一つは、『魔法の如き技量で紡がれる技法』という意味での魔剣が放たれているということ。
具体的に言うのならば、重力負荷を乗せて来る魔剣もあれば。
単なる剣術の技の一つとして、こちらに重く感じさせる魔剣もあるのだ。
『我が権能は鍛造。あらゆる武具を作り出す権能。つまりは――――戦闘中に武器を作り替えることも可能なのです!』
『っが!?』
魔剣の一つが変化し、水の如き柔らかさでマガツオーの装甲を切り裂く。
装甲下の駆動系までには刃は達していないが、僕がマガツオーに乗ってから、初めてのまともな負傷だ。
『これにより、浸食の権能はリセットされるのです。空間浸食は継続するでしょうが、ワタシならば空間を破砕させるよりも前に、貴方たちの命脈を断ち切れる!』
というかね? 強くない? ねぇ、強くない?
僕らが消耗していることを差し引いても、アレス強くない?
マガツオーに乗ってから、ここまで苦戦するのが初めてというか――――一呼吸でも気を抜けば、その瞬間、殺されるような感じがするんだけど!?
『マガツ! アレスが強いよ!? どう控えめに見積もっても! 魔神機三体以上はあるよ!? だって、殺す気で戦っているのに、全然勝てる気がしないもん!!』
『ふむ。どうやら、何者かの協力により、全盛期の力を取り戻したようじゃのう』
『全盛期ってどれぐらい強いの!?』
『幾度の戦闘を経て成長した魔神機が六体、事前準備をきっちり済ませて、地の利を取って、作戦が嵌ればワンチャン勝てるというぐらい』
『クソが!!』
僕はマガツと言葉を交わしながらも、必死に魔剣を捌いていく。
黄金の剣を振るい、浸食の権能を発動させて、無理やり機体を動かして、過去に覚えた経験を全て総動員して。
『見事、見事、見事…………正直、感服なのです、マサヒコ』
『ぜぇ、ぜぇ、ぜぇっ! 君さぁ! 絶対、序盤で戦うボスじゃないだろ!?』
それでも勝てない。
勝てる気がしない。
地元で戦ったことのある超人連中と似たような感じがする。
ただの達人では無くて、世界すら己の意思で塗り替えるような、そんな狂気的な何かを持った存在。
少しばかり器用な僕とは、相性が悪い相手だ。
どれだけ才能なんて言葉で着飾ろうとも――――極めるほど積み重ねた相手に、僕は及ばない。
『マガツ。権能のコントロールを全部任せるよ』
だけど! それで諦めるのは主人公らしくないよなぁ!!!
『アレス、君は強すぎる……だけど、君が最初に戦う邪神で良かった』
『ふむ? その心は?』
『君ぐらい強い相手なら、罪悪感を抱く余裕もなく殺し合える』
『――――ふふっ、それは重畳』
僕とアレスは互いに視線を合わせ、剣を構える。
『来なさい、マサヒコ。強き者よ』
『行くぜ、アレス。強き神よ』
そして、互いに殺気を高め合い、死線を引き、今、どちらかが死ぬまで終わらない舞踏を始めようと、一歩を踏み出して。
『…………嫌われたかもしれぬのう』
『『んんん???』』
真剣勝負中に、ぼそっと呟かれたマガツの言葉に、一気に殺意が霧散した。
『あ、あの、ごめん、アレス! タイム! ちょっとタイムしていい!?』
『認めるのです』
『ありがとう!』
僕はアレスからタイムを貰って、マガツとの話し合いに臨む。
もはや、タイムが通ったことに驚きはしない。
この戦神は馬鹿で、けれども神であるだけの度量を持った存在なのだろう。
『え、マガツ、どうしたの? ねぇ、マジでどうしたの? 今まで割と、戦闘中は真面目にやってたじゃん。いや、ほとんど僕が操作していたけどね? だけど、流石にアレスが相手だと、マガツの補助も欲しいって感じなんだけど…………ええと、僕が何か、不安にさせる言動をさせちゃったかな?』
『…………いや、今更過ぎることなのじゃが』
『うん』
『我の五百年前のやらかしで、こう、お主の好感度が落ちるの怖いなぁって』
『今更過ぎる!!?』
えっ!!? 何々、どうしたの!? 何を一丁前に乙女みたいなことを!!
『いや、正直に言うとな? 五百年前にやったことは微塵も後悔していないし、何度繰り返そうとも同じことをするだろうし。最終決戦で超勇者の仲間たちをぶち殺したのは、もうちょっとこう、レベル上げを頑張って来いよボケどもという落胆もあったのだが』
このクソみたいな言葉! よかった! いつものマガツだ!!
『なんとなく、お主の好感度が落ちるのはこう、嫌だな……などと、ふと思ったのじゃ』
『ええとね、マガツ』
『うん』
殊勝な態度で相槌を打つマガツへ、僕は呆れ交じりに告げる。
『僕は、お前が悪逆非道のクソ外道で、言い逃れが出来ないほどに邪悪な災神であっても構わない。何故なら、お前は今、僕と正義のスーパーロボットをやっているじゃないか』
本当に当たり前の言葉を。
『過去なんて関係ないとは言わないし、これからも邪悪なことをやらかそうとしたら止めるけどさ。それでも、僕はお前と一緒に馬鹿をやるのが楽しくて、生きてるって感じがするから、一緒に居るんだよ…………今更、離れられるわけないじゃないか、馬鹿』
『ん、そうか…………んふふふ、そうかぁ』
『はいはい! 解決したなら戦闘に戻るよ!』
『うむ! 補助は我に任せておけ!』
まったく、世話の焼ける相棒だよ。
僕は内心の気恥ずかしさを振り払い、心を引き締め、再びアレスに向き合う。
『さぁ、待たせたね! 死闘を再開しようじゃないか!』
『…………』
『あれ? あの、アレス?』
『…………ご、ごめんなさい、なのです……マガツミカボシがラブロマンスをやっている姿を見て、魂からの拒絶反応で、立ち眩みが……』
『いよっし! マサヒコ、今の内に殺すのじゃ!!』
『駄目だよ、流石に!!?』
いくら僕と言えども、タイムを認めて貰った相手の不調に付け込む真似はしたくない。
『…………ふぅー、待たせてごめんなのです』
『いいさ、それぐらい』
たっぷり五分後。
割と不調からの回復に時間がかかったアレスだけれども、何とか復活してくれた。
『たとえ、マガツミカボシが人並みの感情を得ようとも! 我が刃は鈍らない! さぁ、殺し合うのです!!』
『おうとも! 全身全霊で相手をしてやる!!』
長いインターバルを挟み、再び互いの殺意が高まり合う。
相手が繰り出すのは、恐らくは僕の知らない未知の必殺。
だが、僕もまた、黄雷の権能の他に――――あの達人クソジジイが無理やり習得させた魔剣がある。技術的な魔剣が。
それと黄雷、浸食、二つの権能も合わせて、アレスの必殺に対抗する。
『いざ』
『尋常に』
『『――――勝負!!!』』
そして、僕らは互いに剣を構えて踏み込み。
「アスモデウス部分展開――領土追放」
がぁんっ!! という空間が砕かれるような音と共に、アレスがこの場から消え去った。
『君は――』
「戦神アレスは邪神最強の存在ですわ。いかに貴方が規格外とはいえ、流石に生死を賭けた勝負を挑むのは早計ではなくて?」
知っている声だった。
知っている姿だった。
「ああ、言っておきますけれども、勘違いはしないでくださいませ。わたくしは相変わらず、貴方のことが気に食わないですし、特に交流も無い異邦人のことなんて、『ただの魔力バッテリー』程度にしか見ていませんわ。けれども、それでも」
勇者召喚の時、僕のことをかなり殺そうとして来ていた、緑髪の美少女。
王国の魔女の一人、ミレーヌがそこに居た。
「貴方には命を救われました。貴方はバルムの街の人間を救いました。貴方は――魔神機の者たちを殺さずに戦いを終わらせました。いかに気に食わない相手と言えども、この借りを返さなければ魔女の名が廃るというもの」
魔神機の一部――物騒な形をした右腕部分を顕現させた状態で。
『ええと、つまり君の行動は王国の意思ではなく、君自身のものだと?』
「そう捉えてくれても構いませんわ。何せわたくし、王国が邪神と同盟を組むことに反対して、追放されたばかりですし」
『あ、追放とかあるんだ』
「正確に言えば、大神殿に殺し合いになった末、わたくしが撃退される形で逃げたという感じでしょうか」
『思ったよりも物騒』
「ふん。物騒にもなりますわ…………街一つを犠牲にする作戦ですのよ? そんなもの、認めてなるものですか」
ミレーヌって魔女、異邦人の命は適当な癖に、自国民の命は大切にするのね?
まぁ、良いけどさ……この街に居たのも、この場に居たのも多分、僕らが動かなかった時、代わりに戦う覚悟を決めていた感じに見えるし。
とりあえず、ミレーヌは『勝手に死ね! バーカ!』から『普通に大嫌い』の枠に移動させておこうか。
「げほっ…………少々話が長すぎましたわね。では、ごきげんよう、災神と異邦人。貴方たちが善と正義を為すというのならば、わたくしは敵対しません。ですが、もしも、五百年前のように悪逆非道を働こうというのならばごぶはぁ!?」
『えぇ……』
なんか、『死んでほしくはないな』という枠に入った瞬間、ミレーヌが捨て台詞を吐きながら吐血したんだけど。
思いっきり、白目を剥いて、ばたーんって倒れたんだけど。
『マガツ?』
『魔力が枯渇して今にも死にそうな状態じゃ』
『治療マッハで』
『任せろ、我の触手で一発じゃ!』
『触手で!?』
『いや、ガチで触手が治療には最適なのじゃよ?』
『…………まぁ、ヨシ!!』
とりあえず、王国側の情報も欲しいし。
この死にかけの美少女を治療して、迷宮都市バルムに凱旋と行きますか。
…………いや、街がパニックになるから流石に冗談だけどね? 凱旋は。
魔神機は魔女が頑張れば、部分展開も可能だぞ!
なお、部分展開でも魔力消費が物凄いから、魔女単独でやると割と死にかけるぞ!!!