ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
肉がある。
僕の目の前に、一塊の肉がある。
何を隠そう、竜の肉である。
エリスが討伐して来た、暗黒竜グレイブの肉である。
つまりは戦利品だ。
「兄様! 私、このお肉で祝杯を挙げたい!!」
今回の戦いで一番頑張ったであろうエリスが、珍しく我儘を言って来たのだ。
たとえ、未知の食材であろうとも、どうにかこうにか料理にしてやりたいと思うのが、曲がりなりにも師匠の甲斐性だと思うのだ。
はい、そんなわけでね!
今、宿のキッチンを使って、暗黒竜の肉を調理していくわけですが!
「…………」
僕の隣で、真っ黒な長髪で真っ黒な着物姿の幼女が、じぃーっと僕を見て来る。
竜を思わせる金色の瞳で、無表情にじぃーっと。
そして、その顔はマガツのそれに酷似している。
「あの」
「小生にはお構いなく」
「あ、はい」
そう、何を隠そう、こいつは暗黒竜グレイブの人間形態……というか、数多の化身の内の一つ。エリスに負けて充電期間中なので、一番燃費の良い姿で僕らの前に現れたというわけである。
現れた理由?
いや、自分を倒した探索者たちを祝福しに、とか言っていたけど……その割には、リビングで寝ているエリスや、ソファーでしくしく泣いているレーナのところには行かないんだよね、こいつ。
「まぁ、いいか」
行動がよくわからない相手は気にしても仕方がない。
なんで異世界なのに着物があるんだよ? とか、気にしても仕方がない。多分、召喚勇者が広めたファッションとか、そんなのだろう。日本ピックアップ召喚らしいし。
そんなことよりも今は、料理に専念しよう。
「とりあえず、フライパンで軽く焼いて、味を見ながら料理の仕方を考えるかな」
僕は塊肉を薄く削ぎ落して、そのままフライパンでじゅうじゅうと焼いた。
味付けはシンプルな塩コショウで。
「ふんふん……んー、なるほどね」
ドラゴンって爬虫類っぽいから、てっきり淡泊な肉質かと思ったけど、赤身でも結構旨味が深いね。その分、肉の繊維が固くて噛み切りづらいけど、そこら辺は調理でどうとでもなるか。
いや、エリスの顎の力は尋常じゃないから、ある程度筋っぽさを残した方が喜ばれる?
んー、いっそのこと、柔らかく調理した奴と固さを残した奴で分けるか。沢山あるし。
となると、ビーフシチューみたいな煮込み料理と、後はケバフ風に、その場で削ぎ落して焼き立てを食べられるようにするために……うん?
「あの」
「お構いなく」
「いや、邪魔なんですけど?」
「これは失礼」
なんか近くない? グレイブ、やたらと僕に近くない? しかも、好意とかじゃなくて、拗ねている子供の不機嫌な視線を感じる。
え、何? 不服なの? エリスの倒し方が不服だったの?
「ええと、とりあえず野菜を切って、肉の下ごしらえを――」
「小生のお肉は美味しかったですかな?」
「あのさぁ???」
うん、絶対そうだ。
私は何も感じていませんよ? みたいな無表情をしている癖に、エリスに負けたのを根に持っているんだ、この暗黒竜。
わざわざ、人の形を取ったのも、絶対に嫌がらせのためだよ。
…………だけど、ちっせぇ! やることがみみっちぃよ!!?
「なんなの? ねぇ、グレイブ。文句でもあるの? 僕の弟子がやった所為に」
「いえ、別に? 我が創造主殿のネタを使って、こちらに精神攻撃をして? その隙を狙っての奇襲は見事でしたよ? ええ。素晴らしい。師匠の顔を見てみたいぐらいです」
「そっかぁ。よかったね、たっぷり見ると良いよ、ほら、こういう顔」
「性格悪そう」
「おいこら」
いやね? 僕だって性格が良いとは思っていないけどさ? 料理の横から、ぽしょぽしょと小さい声で文句を言い続けられると、ちょっとかちーんて来るんだけど?
「そっちがそういうことを言うなら、僕の方だって言いたいことがあるんだけど?」
「どうぞ、なんなりと。小生は長き時を生きた暗黒の竜。人の戯言などには心を惑わされることはあり得ぬので」
「いや、惑わされて倒されたばっかりでしょ?」
「んぎぎぎぎぎぎ!!!」
「嘘だろ? 挑発未満の言葉で既に泣きそうになってる!?」
だからまぁ、ちょっと突いて意地悪するつもりだったのが、この有様である。
どうして迷宮の最下層に居る暗黒竜が、ここまでメンタル弱いんだよ?
「マサヒコよ。このグレイブはあれじゃ。長い時間、ずっと迷宮に引きこもり過ぎて、ろくな社会経験を積んでおらぬのじゃよ」
「社会経験!? 竜に社会経験って必要なの!?」
そんな疑問に答えるように、僕が刻んだ野菜をぽりぽりと生でつまみ食いしているマガツが言う。
「心技体という理論があるじゃろ? こやつの場合、体が満点で技が高得点。けれども、心が赤点なのじゃ。ずっと、誰も来ない最下層で引きこもって、探索者どもの死に様を堪能していたのじゃからのう!」
「失礼な物言いは止めてください、マガツ様。小生が好きなのはどちらかと言えば、弱者が勇気を振り絞り、段々と英雄に成長していく英雄譚です」
「つまり、ろくにダンジョンに潜りもしなかったエリスが、いきなり最下層に挑戦し、自らを倒したのが納得いかないわけじゃ」
「違います。ちょっと、精神攻撃が下品だったから気に食わないだけです」
「やれやれ、戦場で下品だのなんだの。貴様はダンジョン内だから復活できるが、探索者は死んだらそれまでなんじゃぞ? あらゆる手を尽くし、最善を尽くす者に『品行方正にやれ』などと文句を言うのかのう?」
「ぐぬぬぬ」
グレイブは真っ赤な顔をして涙目である。
相変わらず、この二人は本当に仲が悪い。
「敗北は敗北じゃ。素直に受け入れて、反省せよ。いや、むしろ相手を言祝ぐが良い。少なくも我は、五百年前はそうした」
「ああ、だからマガツは愛と絆で戦うスーパーロボットになろうと?」
「その通り。素晴らしいぞ、友情も絆も。たとえ、死に果てたとしても、その想いによって超勇者は戦い続けたのだから」
「…………マガツ様は格好良い感じの終わり方だった癖に」
「おー? 何か文句でもあるのかのう、青二才? 全てはお主が弱いのが悪いんじゃろうが」
「うぐっ」
弱肉強食の理を解かれたグレイブは、ぷるぷると肩を震わせた後、そのままだばーと両目から涙を流し始めた。
えぇええぇ、泣いちゃうの? 暗黒竜。
「やれやれ、しばらく見ない内に、随分と甘ったれになったのう。ちょうどいい、宿の庭先で久しぶりに貴様の精神を鍛え上げてやろう」
「ひっ! 触手はもう嫌です!!」
「いや、普通に罵倒を浴びせて自己反省を求める」
「人の精神を壊す洗脳方法を試みるつもりですかな!?」
外見だけを見ると姉妹喧嘩だけれども、世界を滅ぼしうる災神と、ダンジョン管理者の暗黒竜の言い争いだ。だけど、余りにも次元が低すぎる言い争いだ。
そして、普通に料理の邪魔だからどっかに行って欲しい。
「精神的に未熟な貴様が、その隙を突かれてエリスに敗北した。この事実は何がどうあっても変わらぬ。反論はあるか? 無ければ我の勝ちじゃが?」
「む、むむむむっ! け、契約者に甘えたくて仕方がない癖に! 素直になれない馬鹿に言われたくありませんなぁ!!」
「よくぞ吠えた! ここで死ねぇ!!」
「――――二人とも、お静かに」
「「ぽきゅ!!?」」
僕は似た顔の二人の肉体に魔力を叩き込み、一時的に行動を麻痺させた状態でリビングに放り出す。
二人とも本体には何の影響も無いだろうが、ここでは本体を出せないので、しばらくあの状態で大人しくなるだろう。
「さて、料理の続きだ」
まぁ、個人的には…………マガツはもっと甘えてくれても良いと思うけどね?
●●●
バルムの街は今、奇妙な空気に包まれている。
六枚翼のテンシの襲撃に、災神マガツミカボシの顕現。そこから、暗黒竜の討伐と出来事が重なった結果、妙に浮ついたり、ぴりついたり、落ち着きのない様子だ。
怯えていいのか、祝っていいのか、よくわからない雰囲気である。
「んまー! 兄様、んまい! この肉、とてもんまぁい!!」
「よかった、よかった。そう言って貰えて、料理人冥利に尽きるよ」
「頑張った甲斐があった! 食べれば食べるほど、強くなる気分なの!」
もっとも、そんな街の空気なんて、今の僕たちには関係ない。
何故ならば、僕らは六枚翼三体と魔神機三体の討伐、後は邪神の撃退。そして、何よりもエリスが暗黒竜グレイブを討伐したお祝いをしているのだ。
ここで盛大に騒がないと損だよね!
「よーし、よしよし! 強くなれー、どんどん強くなれー、我が弟子よ!」
「わふふふー。私、とても頑張ったわ! もっと褒めて!!」
「偉いぞー! 凄いぞー! 流石僕の弟子だー! 君を信じてよかったー!」
「わふーん!」
というわけで僕は、功労者であるエリスを盛大に褒め称えていた。
いや、実際に嬉しい。とても嬉しい。
僕は大抵、人に何か物事を任せる時は、『まぁ、ここまでやれば大体大丈夫だろ』というレベルまで確実性を持たせる準備をする。今回みたいに、出来るかどうかが賭けになるようなことはほとんどしない。
他人に……というよりも、不確定な出来事に期待しない。
今まで、そういう運とか偶然というものはほとんど、僕の敵対者に味方するものだったからね。
…………だけど今、そういう考えが覆されるほど、僕はエリスが成し遂げたことを嬉しく思っている。
「…………まぁ。まぁまぁまぁ。エリスは弟子枠じゃからなぁ。師匠として褒める立場にあるのはまぁ、仕方がないことじゃろう。うむ。むしろ、我が契約者がそういうところを怠らぬ人格の持ち主で、我も嬉しいのじゃ」
その結果、マガツが笑顔でプレッシャーをかけてきているので、この後にフォローをしなければならないだろう。
このラスボス。最近、人間の感情を覚え始めたのか、嫉妬の真似事とかするんだよね。
「美味しい! 美味しい! 勝利の後に、兄様に作ってもらうご飯、美味しすぎる件について!」
「…………小生の肉は美味しいですかな?」
「うん! 美味しい!! 苦労して倒した相手だから! 余計に美味しいわ!!」
「…………ぐすっ」
あ、敗者のグレイブが勝者のエリスに絡んで泣かされてる。
何でメンタルが弱いのに、絡みに行くんだよ、あの暗黒竜。
「う、うううっ……アタシが、アタシが一番に殺したかったのに……こんなの、こんなの、実質NTRだぁ……脳が破壊されるぅ……」
そして、ソファーの上でいつまでもしくしく泣き続けているのがレーナである。
こいつはよほど、エリスにグレイブを殺されたのが悔しくて仕方がないらしい。
まぁ、そこで当たり散らしたり、暴力に走らないあたり、マシな性格の持ち主だろうから、しばらくは放置しておいてあげよう。
「姉様。言っておきますけど、姉様がきちんと私と連携を取れていたら、姉様が倒せてたからね? 戦闘で熱くなりすぎて、理性が吹き飛んだことが姉様の敗因だからね? というか、私だって効くかどうかわからない賭けはしたくなかったんだからね? 反省して」
「ううっ! 妹分が暗黒竜の肉を食べながら説教を……こんなの実質、NTRを目の前で解説されているようなもの……何かに目覚めてしまうぅうう……」
「そんな戯言は、まともに人と協力して戦闘が出来るようになってから言って」
「ぐはっ」
あ、エリスに止めを刺されてる。
仕方ないね。素の戦闘力が高すぎる奴は、こういう精神的に弱っている時に色々言わないと、全然聞かないもんね、人の話を。
全ては日頃の行いだよ、反省してから探索者としてまた頑張ってね。
…………さて、そろそろ時間かな?
「意識が戻ったら、隣の部屋で何か宴会が行われている……一体なんですの? これ」
がちゃり、とドアを開けてパジャマ姿の美少女――ミレーヌが姿を現す。
「やぁ、ミレーヌ。調子はどうだい?」
「…………おかげ様で万全ですわ。ところで、その」
「ああ、安心してよ。治療と着替えは全部、マガツがやってくれたから」
「それはそれで、別の意味で不安が出てくるのですが!?」
「後日、どこかから触手が生えてきたらごめんね?」
「治療の代償として、わたくしは人間を辞めさせられたのですか!?」
「あはははっ! 冗談だよー! ね? マガツ」
「…………まぁ、多分大丈夫じゃろ」
「ほら!」
「何がほら!? 目を逸らしていますわよ、貴方の相方!!」
貴重な情報源も起きて来たことだし、祝杯ついでの作戦会議といこうか。
「結論から言いますわ――――王国は組織的抵抗を諦めています」
「早くない!?」
「初手で妨害を受けたのと、転移系を失ったのが痛すぎましたわね」
ミレーヌに関しては、簡単に『僕を殺そうとしたけど、僕がお情けで助けた結果、僕の窮地に助けに来てくれた人』という説明を他の面子にはしている。
その結果、エリスが『よくわからないけど警戒』、レーナが『知らん、今は泣かせて』で、グレイブが『どうでもいい』という感じに落ち着いた。
まぁ、大体予想の範疇の反応だね。
「その後に戦神アレスが単身で大神殿を襲撃。わたくしを含む、全ての戦闘員は敗北しましたわ。正直、その時は王国の滅亡を覚悟したものですが、邪神側にもなにやら策略を練る者が居たようで。王国側は、災神マガツミカボシを討伐するまでの間、同盟関係……いえ、生かされている関係になっていたわけです」
「大分立場弱いね!?」
「そうでもなければ、大都市を一つ丸ごと見殺しにする決断は難しかったでしょうね」
「……あー、なるほど。やむにやまれぬ事情というわけか」
「まぁ、わたくしは気に入らなくて、単独で暴れて離脱しましたが」
「外見に似合わず、ロックな精神をお持ちのようで」
そして今、ミレーヌが王国の現在事情を説明してくれているというわけなんだけれども。
うん、最悪極まるね! なんだこれ、地獄なのかな?
「というか、こういうことは言いたくないんだけど……王国側って弱くない?」
「主戦力予定のわたくしがまともに動けなくなったのが痛すぎましたわね」
「…………帝国側って、ガチで王国を滅ぼすつもりだったの?」
「滅ぼすというか、良い感じに弱ったところで、さも救世主面で『迷える民よ! 帝国の魔神機が助けに来たぞ!』ということをしたかったのでは?」
「人類がピンチの時に人間同士の足の引っ張り合いとか……」
「救いようがないですわね。ですが、今まではそれが出来る程度の余裕はあったことも事実」
ミレーヌはすっと目を細めて、剣呑な表情で告げる。
「油断し、慢心していたのです。どうなっても、邪神程度ならばどうとでもなると。今までの攻略法があるのだと」
「だけど、今回はそうじゃなかった?」
「ええ。今回の邪神は――少なくとも、戦神アレスは万全の状態でしたわ。仮に、わたくしが大和様と共に魔神機を動かしたとしても、勝てると断言できないほどに」
ミレーヌの言葉に、僕は頷く。
アレスは強かった……あのまま戦っていれば、九割がた、僕が負けていたと思うほどに。
正直、もう一度戦っても、勝てるという保証はない。
アレスの戦い方は大体わかったが、まだ明かしていない手札があるはず。
僕の直感が、『次に策も無く戦えば確実に負ける』と告げている。
そんなアレスに確実に勝つには、それこそマガツの本体を顕現させるような、敗北よりも無様な勝利を選ぶぐらいしかないだろう。
そう、『今のまま』ではね。
「アレスには勝てない。命を握られた状況での同盟。しかも、テンシと共同で行った僕らの討伐作戦は失敗。魔神機も僕らに三組ほど捕虜にされている。普通に考えれば、もう諦めた方が良い段階だと思うけれども……ミレーヌ、王国はこれからどうすると思う?」
「…………我らが王は決断しました」
「何を?」
ミレーヌは僕に告げる。
恥を飲み込み、苦渋を噛みしめながら、王国が下した判断を告げる。
「悪魔を統べる王――魔王ソロモンと契約し、王国の民全てを異世界に転移させることを」
ミレーヌの言葉を聞いた瞬間、僕の脳裏には『不可能』という言葉が過った。
この世界で魔術の基本を会得したからこそわかる。
不可能だ。
それだけの大魔術を発動させることができるのならば、そもそも、その魔力を戦力に転化して、邪神を討てばいい。
王国の民全てと言う範囲になると、そんな荒唐無稽な規模の魔力が必要となる。
つまりは、本末転倒なのだ。
実現不可能なのだ。
――――通常の方法では。
「ミレーヌ。その魔王ソロモンっていうのは、不可能を可能にする術を持っているのかな?」
「ええ、持っていますよ。だからこその契約です……もっとも、その手段はろくでもありませんけれどね?」
呆れを隠さぬため息を一つ。
ミレーヌはその美貌を皮肉に歪め、言葉を続けた。
「通常、異世界間の転移には国家予算級の魔力を必要としますわ。故に、王国の民全てを転移させるなどは夢物語。けれども、この国家予算級の魔力を必要とするというのはつまり、『万が一にも不備が起こらないように万全を期した状態』での転移のことを指します」
「…………まさか!」
「魂だけの転移ならば、大体、人間の肉体一つを全て消費すれば不可能ではありません」
嫌な予感がする。
正直、邪神の目的が人類の皆殺しだと知らされた時よりも、よほど。
「故に、我らが王は魔王ソロモンとこのような契約を交わしました――――『王侯貴族全ての魂を捧げる代わりに、王国の民全てを皆殺しにし、その魂を異世界に転移させてほしい』と」
「なん、だよ、それは!? そんなことをして、何の意味があるんだよ!? 大体、魂だけで異世界に行ったところで、そんなの…………ああ、くそっ! 憑依!? その転移させるという条件には、異世界の人間に憑依させるところまでがセットだな!?」
「ご名答……正直、これが正解であって欲しくはありませんでしたけれども」
つまりは、こういうことだ。
「「憑依による異世界侵略計画」」
僕とミレーヌの言葉が重なり、王国の愚かさが露わになった。
邪神に勝てないのならば、逃げればいい。
異世界へと。
そして、異世界人の肉体に憑依し、乗っ取り、そこで王国をやり直す――――そんな、愚か極まる作戦なんだろうさ。
「誰も頼んでない! そんなこと!」
あまりの愚かに、今まで空気を読んで黙っていたエリスが怒りの声を上げる。
「おいおいおい、随分と情けねぇ作戦じゃねーか!」
涙に沈んでいたレーナでさえも。
「小生は五百年前、我が創造主よりも人類を選びましたが……これはいくらなんでも」
しまいには暗黒竜であるグレイブすらも苦言を呈するレベル。
論外だ。
論外が過ぎるよ、この計画。
「ええ、わたくしも……というか、実は生贄に捧げられる予定の王国貴族のほとんどもまぁ、了承していない計画なのですわ」
「えっ?」
「ただ、王国法では『王国に所属する人間は全て王の所有物である』みたいな文言がありまして。これはあくまでも『全ての民は王の所有物だから、勝手に殺したり、乱暴な扱いはしないように』という心構え的な奴だったのですが……これを我らが王が悪用して、魔王ソロモンと契約を交わしまして」
「うわぁ」
「ですが、王侯貴族も黙ってはおらず、異世界の『天魔法律相談所』という組織から神格弁護士を雇いまして」
「なんて???」
知らない単語が二つも出て来たんだけど?
「現在、王都では魔王の代理人である悪魔と、神格弁護士による泥沼の法廷闘争が行われていまして……正直、この異世界憑依計画が発動するよりも先に、邪神が王国を滅ぼす方が早いかもしれないのですわ」
「何やってんの、王国は???」
「返す言葉もございませんわ、これに限っては」
そりゃあ、ミレーヌも離脱するわ。
だって、愚かさが極まってるもん。
「ふふふっ。人間らしくなってきたのう」
こんなので喜ぶのなんて、そこでほくほく顔をしているマガツぐらいだよ!
「ですので、わたくしは魔王ソロモンによる契約を止めるよりも先に、迷宮都市バルムの破滅を止めるため、ここに来ていたというわけですわ」
「なるほどね。そうしたら、僕らが代わりに六枚翼のテンシを倒して街を守っていた、と」
「正直、マガツミカボシが街を守るなんて信じられませんでしたけれども」
一拍置いて、ミレーヌは言葉を続ける。
「そこの異邦人の言動を見ていて、少しは信じてもいいかと思うようになり、戦神アレスとの戦いに介入したというわけですわ」
「うん。それに関してはマジでありがとうね。あのままだと、割と負けてたからさ、僕」
「ふん。借りを返しただけですわ。勘違いなららないように」
つっけんどんな態度のミレーヌに、僕は思わず苦笑した。
いやぁ、人助けはするものだね、本当に。
「あ、それでなんだけど。君はアレスに不意打ち決めて、どっか遠くに追放したでしょ?」
「ええ、その通りですわ」
「多分、その時にありったけのデバフを叩きつけて、アレスの戦力を落したから、あっちは直ぐに戻って来れなかったと思ったんだけど、違う?」
「わたくしがアスモデウスの権能で、色々デバフを叩きつけたことは事実ですわ。ですが、アレスが戻ってこなかった理由に関しては、そちらと同じ推測しかできません」
「そっかぁ……そのデバフ、いつまで持ちそう?」
「邪神側の対応にも寄りますが……最低でも一週間は持続しますわ。わたくしが血反吐を吐くほど魔力を込めた権能ですもの。簡単には解除できませんわよ」
「わかった、ありがとう」
つまりは、猶予は一週間というわけか。
「ミレーヌ。仮に、アレスが討伐されたとなったら、君らの王様は契約を取り下げると思う?」
「……ええ、取り下げるでしょうね。一切の希望が無いからこそ、王は暴挙に出たのですから。魔王ソロモンに対する違約金はもちろん、他の王侯貴族から首を刎ねられる未来しか待っていなくとも、契約は取り下げるでしょう」
「わかった。だったら、やるべきことはシンプルだ」
そう、つまりは、王国のごたごたとか、魔王との契約とか、色々な理由がごちゃついているけれども。
結局のところ、やるべきことは一つだけ。
――――戦神アレスを討伐する。
それさえ達成できれば、後は全部上手く行くのだ。
問題は、そのアレスが強すぎるってことだけど。
「ミレーヌ」
「何かしら? 言っておくけれども、わたくしがこれ以上力を貸すのは……いえ、まだ借りが残っている感じなので、言われれば手は貸しますが。二度目の不意打ちは通じませんことよ?」
「もちろん、それぐらいは分かっているさ。アレスは馬鹿だけど強い。戦いに関して、舐めた手段を取るわけにはいかない……だから」
僕はミレーヌを見据えて、提案する。
「君が本来召喚するはずだった勇者――龍宮寺大和を召喚するのはどうかな?」
「――は? 何、を? 大体、そんな魔力の都合なんて……」
「六枚翼のテンシのコアが三つ。これだけあれば、一人だけなら十分、異世界召喚が可能だと思うけれども?」
「だ、だけど! 帝国からの妨害がありますわ! 恐らく、魔女による権能の妨害が!」
「その件は……マガツ」
「うむ」
僕の呼び声に応えたマガツは、にぃ、と邪悪な笑みを作って語り始めた。
「確かに、権能による妨害は厄介じゃのう。基本的に、権能は魔術の上位に君臨する力じゃ。どれほど卓越した魔術師であろうとも、その妨害は避けられぬ――――ただし、例外はある」
五百年前、大陸に君臨した災神の笑みで。
「大魔術師マーリン。権能にすら及ぶ魔術の使い手ならば、あるいは」
「――――っ! それは本当ですの!?」
「ああ、本当じゃとも。もっとも、我はマーリン本人ではないからのう。奴なら可能かもしれない、という推測をしただけじゃが……我が知る限り、奴以上の魔術の使い手はおらぬ」
「そ、そのお方は! そのお方はどこに!?」
何でだろうね?
人類を救うための戦いに、新しい勇者を呼び込むための方法を提示しているというのに。
まるで、ミレーヌを地獄に誘い込む悪神の姿に見えるのは。
「基本的に奴は神出鬼没じゃが、拠点にしている場所は一つ」
縋るようなミレーヌに、マガツは愉快そうに告げた。
「享楽都市イルヴァ――――奇しくも、彼の魔王ソロモンが支配する街じゃよ」
僕らの次の戦場となる街の名前を。
説明が長い!!!(ばしーん
次の街に行くぞぉ!! その前に幕間が入るけどね!!!