ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
――――宇宙戦艦である。
遥か上空。
空と宙の狭間。
鳥すら届かず、魔神機ですら到達が難しい超高度。
そこに、星間航行が可能な宇宙戦艦があった。
五百年前の遺物だった。
災神マガツミカボシが、衛星軌道上に質量兵器を設置したことに対抗し、超勇者を筆頭とした者たちが作り出した、大気圏外での戦闘用の宇宙戦艦だった。
――――本来ならば、当の昔に廃棄されていたはずの兵器だった。
だが、その姿は健在。
装甲に傷一つない状態で浮かんでおり――――その船内に、三柱の邪神を乗せていた。
「うう、ごめんなさいなのです! マガツミカボシを倒せなかったばかりか、不意打ちを喰らって戦力低下状態になるとは!」
船内のラウンジ。
その中央に置かれた円卓を囲むように、三柱の邪神が居た。
ただし、その姿は機体のものではなく、船内に収まるように人間形態であるが。
「不覚! この戦神アレス、不覚の限りなのです!」
三柱の邪神の内の一つ。
戦神アレスは、和装の金髪ツインテール幼女という姿で、ボロボロと涙を流していた。
こんななりだが、己の不覚を恥じる戦士としての涙である。
「落ち着いてください、アレス。アスモデウスによる奇襲は仕方ありません。あれは、貴方と相性が悪いですからね」
「ルナ……ぐすっ」
三柱の邪神の内の一つ。
月神ルナは、銀髪ベリーショートの中性的な少女だった。
その横顔からは、知性を窺わせる美貌がはっきりとわかるだろう。
「ですが、あれは権能が強力な分、燃費も悪い。似たような奇襲は多用できないでしょう」
「でも、でも……折角、同盟を組んで、六枚翼の部下も全員向かわせたのに……何の成果も」
「ご安心を。成果はありますとも、ええ! あの災神の元に、傀儡ではない『相棒』が確かに存在していることが確認できた成果が」
ただし、その姿はスクール水着だった。
この場、この異世界に最も似合わないであろうスクール水着という姿で、ルナは立っていた。
「これは我々にとって重大なる『希望』となる成果ですとも」
明らかに珍妙な服装で決め顔を作るルナ。
しかし、その場に居る他の邪神たちは一切ツッコミを入れない。
何故か?
どんなに異常な服装であっても、それが日常になってしまえば、それは普通と同じことである。そう、つまり――――既に、他二柱の邪神は慣れ切ってしまっていたのだ。
ルナという月神の奇行に。
「ええと、ルナ。それはどういうことなのです?」
「ふっ。それはボクが語るよりも、ヒナコが語った方が良いでしょう。ほら、いい加減、異世界のゲーム機を弄るのをやめなさい」
「ああんっ!」
ルナからゲーム機を取り上げられた邪神――太陽神ヒナコは恨みがましい目をルナに返した。
しかし、その姿に迫力は皆無だ。
それもそのはず。ヒナコという邪神は今、クソださジャージをその身に纏っているのだから。
「わ、私のゲーム機を返してよぅ!」
「きちんと会議に参加すればお返ししましょう」
「うぅうう…………わかったよぅ」
唇を尖らせて拗ねる姿に、神威などは欠片も存在しない。
そこに居るのは、クソださジャージを来た一人の少女だ。
「じゃあ、ざっくりと説明するね……マガツミカボシっていうクソみたいならラスボスのことをさー」
腰まで伸びた黒髪に、如何にも陰キャという顔つきの――――日本人そのものの姿だ。
「五百年前の戦いから、私はちょくちょく復活した時に調べてたんだけどさー? 多分あいつね? その気になれば、簡単に惑星とか砕ける力を持っているよ?」
「……は?」
「そういう生命体なんだよ。惑星を喰らう……ううん、世界そのものを浸食し、喰らい、滅ぼす。そういう超越的な怪物なんだと思う、マガツミカボシって」
ヒナコの推論に、アレスは目を見開いて驚愕する。
「で、では! 五百年前の最終決戦ですら! あの災神にとっては遊びに過ぎなかったと?」
「んんんー、それはイエスでありノーでもあるかな? あのマガツミカボシはね、多分、人間が好きなんだ。人間という種族が好きなんだ。だから、惑星を割る力や、世界を浸食するような力があっても、それを使わない。そんなことをしたら、大好きな人間が滅んじゃうからね」
「好きって……あの災神! 大陸の一部を不毛の地に変えたのですが!!?」
「うん。だから――――惑星を壊さないように、必死に力を抑えながら、ギリギリで戦っていた結果がそれなんじゃない? つまりは本気ではあったけれども全力ではない。『惑星を壊さないレベルの力』で最終決戦に臨んだんだよ、あいつは」
語るヒナコの口調は、うんざりとしたものだ。
何度も何度も検証し、この推論が正しい自負があるからこそ、うんざりとしているのだ。
「そして、我らが超勇者がそれを打破し、討ち果たしたからこそ、大人しく封印された。ほとんど力を放棄して、五百年間は大人しくしていてくれたわけなのさ」
「……じゃあ、その気になれば、いつでも復活できたのですか?」
「さぁ? そこまでは分からない。実際、ここまで語ってみたものの、今のマガツミカボシに、全盛期と同じだけの力があるとは限らない。案外、思いの外弱っているのかもしれない。だけど、そうじゃなかった場合に備えないのは馬鹿だ」
「…………ええと、つまり。本気で、マガツミカボシを討ち取ろうと、あれこれやっていたワタシは大馬鹿だと?」
真っ青な顔で恐る恐る訊ねるアレスに、ヒナコは笑みと共に首を横に振った。
「違うよ。むしろ、逆さ。それでいい」
「へ?」
「私たちは悪役でいい。あいつの正義の味方ごっこに、全力で乗っかればいい」
薄い笑みだった。
「これで、あいつがパイロットを傀儡にしていたら話は別なんだけど……とてもとても幸運なことに。あるいは奇跡的に、マガツミカボシはパイロットの少年を認めている」
「う、うん……マサヒコはワタシも認める武人で、確かに凄かったのです」
「そう! その凄い奴が! マガツミカボシの好感度を稼いで! 正義の味方ごっこを本気でやってくれている! これがいい!!」
邪神と呼ばれるに相応しい、悪意を込めた笑みだった。
「ここまで好感度が高ければ! あのマガツミカボシは正義ごっこよりも、パイロットのことを優先するかもしれない!」
「えっと、でも、そうしたら、戦いの中でワタシたちがマサヒコを殺したりしたら――」
「いや、あいつは絶対、保険をかけているって。私たちが殺そうとしても、まぁ、肉体は破壊できても、魂とかは確保されるだろうし。その後、マガツミカボシならいくらでも復活させることは可能だって。そういう手法で、一度負けたとしても、リベンジを仕掛けて来るって展開もあるかもなー? 正義の味方っぽく」
「じゃ、じゃあ……ワタシたちは最初から、あの災神には勝てない――」
「いいや、違うよ。この状況だからこそ、私たちはあのマガツミカボシに勝てるのさ」
そして何よりも、何かを決定的に諦めた者の笑みだった。
「だって、マガツミカボシの力は、誰かを守ることに絶対的に向いていない! その上、この世界の人類は割と本当にどうしようもない!!」
「……あー、うん。それはそうなのです」
「だから、私たちはそのパイロットが、契約者が! この世界に失望して! 正義ごっこを辞めるその時まで、正々堂々と悪役をやっていればいい!!」
かつて――神話の時代。
最も人間を愛し、最も人間に祝福を与えた太陽神は、酷薄に言う。
「そうすれば、あのマガツミカボシはあっさりとこの世界を見限るだろうさー。多分、そのパイロットと一緒に、異世界にでも行くんじゃないかなー?」
「…………ヒナコ。でも、それは都合よく考えすぎなのでは?」
「かもね。これはあくまでも、私たちが思い描く最善に過ぎない。実際はこの通りには行かないだろうさー。だけどね? 私は信じている……というか、わかっているんだよ」
この場に集った邪神の中で、誰よりも悪意と諦めに満ちた顔で言う。
「愚かな人類を、私たちを、救えるような正義の味方なんていないって」
どうしようもない絶望を。
「それをマガツミカボシに思い知らせてやることがきっと、私たちにとっての何よりの復讐になると思うのさー」
長い演説が終わった後、ヒナコは我に返ったかのように顔を赤らめた。
「と、とりあえず、今後の方針に関しては、こんな感じで! こんな感じで良いかなー!?」
「ワタシは了承するのです」
「ボクも同じく。ただ、ボクの場合はもう既に、ボクの手から離れているからね」
生真面目に頷くアレスに、飄然と肩を竦めるルナ。
態度は違えども、二柱はヒナコの言葉を肯定することに異存はないようだ。
「ならば、よし……あ、ちなみに、私たちの方は必死に頑張らないと、普通にマガツミカボシたちに討ち取られて終わるから頑張ろうね! まぁ、ルナの場合はどうにもならないというか、頑張るのは帝国の人間だと思うけど」
「いやぁ、これはこれで楽で良いとも。全部を手放すというのも、意外に楽しいものだよ?」
「はいはい。生憎だけど、私はそこまで割り切れないんですぅ」
「ワタシも同じく。だからこそ、ワタシたち二柱は戦力強化として『相棒』を求めたわけなのですが…………遅いのです、あの二人」
「ねー? なんでだろうねー? トイレかなー?」
わいわいと邪神三柱が騒ぐラウンジ。
「すまない、遅れた」
そんな場所へと、静かに足を踏み入れる者が一人。
「太陽神が眷属、タナカ・タロウ。御前に参りました」
よれよれのスーツ姿の青年――その顔を、泣き笑うピエロの仮面で覆った青年が、ヒナコの前に跪いて、恭しく頭を下げた。
格好の奇抜さとは裏腹に、まるで忠実なる神の下僕の如く。
「もー、たーちゃんってばー。そんな堅苦しいのはいいってー」
しかし、そんな恭しい態度を台無しにする者が居る。
そう、太陽神ヒナコ本人である。
「私とたーちゃんの中でしょー? ねー?」
「いえ、神と眷属。きっちりと区切りは付けねば」
「いやいやー、私とたーちゃんは対等だからー」
「お戯れを」
「マジマジ、マジだってー」
先ほどまでの憎悪や酷薄な笑みなどはどこへやら。
顔をだらしなく緩ませたヒナコは、懐き切った陰キャの如き態度でタロウと接している。
「ヒナコ様。遅参の罰をどうか、このオレに」
「いいって、そんなのー。というか、珍しいね? たーちゃんが遅れたのって。なんかあった? トイレ?」
「はい、トイレです」
「トイレだったの!? あっ、ひょっとして、ここに来る前に飲ませたあのミルクティーが原因!? あ、そうだね! たーちゃんは牛乳でお腹が痛くなる人だったね! ごめん、配慮が足りなかったよぅ!」
「我が身の至らなさを恥じ入ります」
粛々とした態度のタロウに、ヒナコはべったりと抱き着いてよしよしと頭を撫でている。
その様子に、他二柱の邪神はちょっと引いていた。
「ヒナコはあれですよね。愛情が深いというか、鬱陶しいというか」
「タロウはよく耐えているのです。偉い」
どうやら人類を憎悪し、愛情を注ぐ対象が居なくなった分、眷属であるタロウへと集中的に愛情が注がれているらしい。
「…………お、遅れてすんません……ううう……」
などと、太陽神が眷属にべたべた絡んでいると、この場に居るべきもう一人がやってくる。
「あ、遅いのですよ、我が眷属! 一体、どうしたのですか?」
そう、戦神アレスの眷属が。
「すんません。こう……お腹が痛くて、トイレに籠っていました」
「またトイレ!?」
げっそりとした表情で、お腹をさすりながら姿を現したのである。
外見は学生服を身に着けた、精悍な顔つきをした偉丈夫の少年というものなのだが、お腹の痛みに苦しんでいる様子で色々と台無しである。
「どうしたのです!? 眷属は何か、お腹が弱い法則でもあるのですか!?」
「…………あー、その。言いづらいんっすけど、あれっすね。今朝、アレスが用意してくれた朝食を食べた後から、こう…………地獄が始まって」
「まさかのワタシの所為!?」
目を見開くアレスに、他二柱は『あー』と納得の表情を浮かべる。
「アレスは神話レベルで家事が下手というか、ゴミカスですからねぇ」
「二度とまともな食べ物を作れるなんて思い上がらないで欲しいよぅ」
「ひどい!」
うるうると涙目になったアレスは、眷属の少年に縋りついた。
「ね、ねぇ! 美味しかったのですよね!? ワタシのご飯、美味しかったですよね!?」
「…………おいし、かった!!!」
「そんな今にも死にそうな剣士みたいな声を出すほど辛かったのですか!?」
だが、健気な眷属の態度に、アレスは認めざるを得なかった。
自分は、家事全般がゴミカスであると。
「はいはーい。とりあえず、面子は揃ったので、今後の方針を纏めましょう」
場の空気が散らかり始めていたので、ここでルナが場を取り仕切り始めた。
「マガツミカボシへの対策はもう話し合ったから、人類撲滅状況の確認を。では、この中で一番優秀な経過のヒナコから」
「うへー。いやなプレッシャーのかけ方ぁ」
三柱と二人はそれぞれ席に着き、人類撲滅のための会議が再開される。
「でもまぁ、ご安心って感じだねー。私のところはたーちゃんが頑張ってくれたからね。共和国全域、ぜーんぶ処置済み。ただ、あの大統領だけは逃がしちゃったけどねぇ」
「でも、召喚された魔神機は全て排除したのでしょう?」
「うん。それはもちろん!」
「ならば良し。とりあえず、共和国はクリアと言うことで」
会議は淡々と。
あまりにも当然のように、一国を掌中に収めたことを報告して。
受け取る側もまた、特に驚くことも無く報告を真実だと認めた。
何故ならば、それが出来るだけの実力があるからだ。
――――アレスと同様に、ヒナコもまた、全盛期の力を取り戻した邪神であるが故に。
「ボクの方は、仕掛けは全部済んだから、後は結果を見るぐらいですねぇ」
「……ルナを疑うわけではないのですが、本当にあれでよかったのですか?」
「うん。あれがいいのですよ、アレス」
そして、帝国担当のルナも意味深に笑う。
既に、やるべきことは終えたのだと。
そう、恐るべきことに――――邪神たちが復活して間もない時間の内に、大陸三国の内の二つは邪神の影響下にある状態だった。
「最後はワタシなのですね…………ええとぉ、ワタシの方は……マガツミカボシの方にちょっかい出し過ぎて……でも、全然駄目で……前の奴で仕留めようと思ったのですが、アスモデウスの介入にあって…………しかも、なんか王国の王が馬鹿みたいなことを始めたのです」
「うん? 馬鹿みたいなこと? 詳しく報告してもらっても?」
「もちろん。でも、馬鹿みたいなこととしか言いようがないというか……その所為で余計な争いが王都とか、地方の街で起こっているというか……」
唯一、国家に影響を及ぼし切れていないアレスは、けれども自らの義務を果たすため、情報を漏らさず仲間たちに告げる。
無論、『王侯貴族を生贄に、王国民全てを異世界に転移させて憑依させる計画』なんて、馬鹿げたことまで。
「「…………」」
常人ならば……否、ミレーヌや雅彦と言った、ある程度先見の明を持つ者ですら、暴挙としか呼べない計画を聞いて、ルナとヒナコは神妙な顔つきへと変わった。
「やれやれ、彼は月でも見ていたのかな? 最悪の中の最悪じゃないか」
「そうだねぇ。国王としては本当に歴代最悪レベルじゃないかなぁ? だけど、人類の守護者としては、本当に私たちが嫌な一手を打ってくる……まさか、ここで同盟の件がネックになってくるとはねー」
二柱の言葉に、タロウは静かに頷いて。
アレスとその眷属は、揃って「???」と首を傾げていた。
「えっと、二人とも。そんなに、王国民が異世界に転移すると厄介なのですか? ワタシとしてはこう、流石に、事前通告もなくいきなり異世界に転移させられて、別人の肉体に憑依させられるとか、下手をしたら死ぬよりも酷い真似だと思うのですが」
「まぁ、そうですね。誰だって思う。ろくでもない。酷い。なんでそんなことを? 意味が分からない。あれが王なのが信じられない、とね…………だからこそ、効果があるわけですが」
アレスの疑問に、ルナはうんざりとした溜息で応えて。
「契約の内容は酷ければ何でもいい……いや、実際に発動してしまったら、それはそれで利用する気だな? その時、自分が死んでいようが、既に手遅れ……いや、この情報が私たちに届いた時点で、既に手遅れみたいなものだけれど…………はぁーあ。とりあえず、このクソみたいな一手に対抗するには、私たちも最善手を打たないとねー」
ヒナコはがりがりと自分の頭を掻きながら、次なる一手を生み出す。
「アレス。悪いんだけど、次の相対でマガツミカボシ――ううん、マガツオーを倒して欲しい」
「ええと、敗北イベントという奴を体験させるのです?」
「うん。それと、一度倒すことで同盟契約の解消を狙う。あれがあると、動きづらいからね。逆に言えば、あれさえなければ、事が始まる前に、戦力を集中させて王国を滅ぼせる。滅ぼせなくても、『必要なリソース』は削れるから」
「…………よくわからないけど、わかったのです! 要するに、私たちが物凄く頑張って戦えばいいと!」
「うん、その通り。よくできました」
「よぉし!」
アレスは意気揚々と頷きと、元気よく眷属の少年へと視線を向けた。
「そうと決まれば! 決戦に備えて、一緒に練習するのですよ!」
「ええと、俺がパイロットでいいので? 邪神機状態じゃなくて、普通にアレス単独で戦った方が強いんじゃないっすか?」
「何を言うのです!? ワタシたちは五百年前に学んだのです! 物凄く強い一人よりも、絆を交わした二人の方が強いのだと!!」
「まぁ、ボクたちはマガツミカボシ単独にぶち殺されましたけどねぇ」
「ルナ! うるさいのです!!」
余計な外野の声を振り払い、信頼と期待を向けながら、手を差し伸べた。
「ヤマト! ワタシと一緒に、この世界の人類を滅ぼすのです!!」
その手を、眷属の少年――龍宮寺大和は、躊躇うことなく取った。
「ああ、もちろんっすよ」
本来、召喚勇者となるはずだった少年は、偽りなき心で人類撲滅を望んでいた。
なお、この邪神面子で一番強いのはアレス。
眷属と一緒に戦ったら一番強いのはヒナコ。
全然強くないけど、物凄く嫌な戦い方をするのがルナ。