ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、書けたので投稿します。
『説明しよう!』
「はい」
『最強勇者マガツオーとは! 愛と正義を糧に駆動する巨神兵器である!!』
「はい、ストップ。巨神兵器って?」
『ファンタジーロボ! 以上!』
「説明が簡潔すぎる」
『マガツオーは勇気ある者と呼応し、邪悪を滅ぼさんと目覚めた!』
「あの、じゃあ、鏡を見て来た方が良いと思うよ?」
『さぁ、行くぞ! 異邦から訪れた勇者よ! 共に、邪神を滅ぼしに行こう!!』
「んんんん」
駄目だ。
このファンタジーロボ、その場の勢いで俺をコクピットらしきものに乗せようとしてくる。
駅前の宗教勧誘だって、これに比べればもう少し段階を踏むだろう。
「あの、質問いいかな?」
『うむ、許可する』
とはいえ、話は強引ではあるが、力づくでこちらをどうにかしようという気配は感じられない。明らかに邪悪な気配は漂ってくるが、それはこの際無視して、質問を始める。
「ええと、マガツオーさん」
『マガツと呼ぶが良い。お主は我の契約者となる者だ。特別に愛称を許そう』
「あ、うん。じゃあ、マガツさん」
『マガツ』
「…………マガツは、その。どうして、僕を選んだの? わざわざ、ここに呼び寄せたの? しかも、そっちは僕が何者かの妨害で召喚された、手違いの勇者でしかないってわかるよね? 他の勇者みたいに『事前交渉』なんてしてないんだけど」
肝心なのは、今、ここで、交渉可能な相手が居るということだ。
しかも、かなりの力を持っていそうな相手が。
「もしかしてさ、僕みたいな異世界人っていうのは、この世界に召喚された時点で『それなりに高い魔力』ってのが付与されるんじゃない?」
『ほう。中々の推察じゃ。お主が察している通り、異邦人には世界の境界を跨ぐ副作用により、強大な魔力を生み出す霊的器官が新造される』
「なるほどね…………つまりは、あれかな? 勇者召喚っていうのは実は、『貴方みたいな巨大なロボットを動かすための炉心』を呼び出すための儀式なのかな?」
『うむ。その通りじゃ。各国は邪神の力に対抗するため、勇者を呼び出す――――魔神機と呼ばれる、巨大ロボットを動かすために、な』
「…………ちなみに、普通にロボットとかっていう単語わかるんだね? あれかな? 翻訳のおかげ?」
『違う。だが、リアルロボットとスーパーロボットの区分があることぐらいは知っている』
「なんで???」
いや、落ち着け僕。
思いの外、マガツが謎に知識を持っていることに動揺するんじゃない。
今、話すべきなのは、『どうしてマガツは僕を選んだのか?』という推理。
「ご、ごほん! ともかく、勇者とはその魔神機のバッテリーだ。けれども、誰でもいいってわけじゃない。恐らく、相応に適性とかあるんだろうね? 異邦人なら誰でも魔力が付与されると仮定しても、誰でも望んで戦いに参加するわけじゃない。だから、アルバート王国は事前に適性のある人間を探して、それを勇者とするために事前交渉をしていた。この世界や、この国に関する諸々の常識を伝えることも含めて」
『ふむ、正解じゃ』
「そして、恐らく……というか、確実に! こんな地下に封印っぽいことをされている時点でね? マガツはその、事前交渉している勇者相手だと、こういう勧誘をしても即座に断られるぐらい、『ヤバい』存在だと思うんだけど?」
『その通りじゃ』
マガツは僕の推測を、厳かに肯定した。
肯定するなよ、愛とか正義とか言っている癖に。
「つまり必然と、マガツが交渉を持ちかけることが出来る相手は限られる。アルバート王国の内情や、マガツの素性なんて全く知らない、この無知な異邦人に」
『…………』
「愛とか正義とか耳触りの良いことを言っていたけれどね? 結局は消去法。マガツが僕を選んだのは、僕しか選べなかったからだ……違うかな?」
僕は巨大な黒騎士を見上げ、切り込むように問いかける。
実際のところ、選択肢が無いのは僕も同じだ。
見知らぬ異世界に放り込まれた僕には、共にこの状況を切り抜けるための仲間――否、共犯者が居る。だから、どれだけ怪しくあったとしても、この誘いを拒むことは出来ない。
ただ、選択肢が無いからと言って、従順に従うのは違う。
ある程度、こちらが『使える』ところを見せつけておいて、『使い潰すのはもったいない』という意識を植え付けておく必要がある。
何せ、相手は明らかに邪悪の権化みたいなオーラを纏う、ファンタジーロボだ。
警戒し過ぎて足りないということ無い。
そう、今の僕に必要なのは、最悪を避けつつ、邪悪とすら手を組む勇気――――。
『いや、違うぞ?』
「へっ???」
僕は思わず、口を開けて間抜け面を晒してしまう。
『そもそも、我は自給自足で活動可能だから、異邦人を魔力炉にする必要はないのじゃぞ?』
「そうなの!?」
『うむ。我をそこら辺の魔神機と一緒にするではない。後な? 質問の先回りをしておくが、ぶっちゃけ、この封印も経年劣化しているから、この場から離れようと思えば、余裕で可能じゃ』
「え、じゃあ、この場から抜け出すための僕が必要と言うわけではなく!?」
『違う。我がお主を契約者と定めたのは、そんな理由ではない』
「…………な、なら、どうして?」
上から降ってくるマガツの言葉に嘘は感じない。
だからこそ、僕の頭は疑問で溢れそうになっていた。
燃料を得るためでもなく、自由を得るためでもない。
ならば、何故?
『そんなもの! イレギュラーな事態で異世界に召喚された少年とか! 如何にもロボットモノの主人公には相応しい境遇だからに決まっているからじゃろうが!!』
ん、んんんん???
『突如として放り込まれた異世界! 襲い掛かる理不尽! だが、主人公の希望は潰えてはいなかった! そう、彼には我が居る!! 愛と正義を糧に駆動する、最強勇者マガツオーが!』
「あ、あの」
『彼――否、お主と我は契約を結び、共に窮地を脱出! そして、数多の困難を乗り越え、互いに愛という名の絆を育んでいく…………どうじゃ!? 如何にもそれっぽい流れじゃろう!? 良い感じのロボットアニメになりどうじゃろう!?』
「一応言っておくけど、僕は機械に欲情する性癖は無いよ?」
『ああ。我は他の魔女同様、人間形態があるから大丈夫じゃぞ?』
「アクの強い妄想に挟んで、重要情報をぶち込むのはやめて???」
正直、まだ頭が混乱してきたが、大体わかって来た。
要するに、こういうことなのだ。
このマガツというファンタジーロボは、見るからに邪悪なオーラを纏っている癖に。
『さぁ、名乗れ、我が契約者よ! 共に栄光の道を駆け抜け、我らが最高のバディであることを証明しようぞ!!』
馬鹿なのだ。
どうしようもないほどに。
「あ、うん。佐藤雅彦だよ、コンゴトモヨロシク」
まぁ! そんな馬鹿に縋らないといけないほど、今の僕の立場は弱いんだけどね!
●●●
大神殿の外側には、荒涼とした大地が広がっていた。
そう、荒野である。
見渡す限りの荒野である! クソが!!!
『《二百年ほど前、召喚した勇者に魔神機が乗っ取られた事件があってな? それで数千の死者が出てから、勇者召喚の儀式はこのように、人里から離れた場所で行われているのじゃ》』
「なるほど。学習しているね……マガツと会わなかったら、マジでアウトだったじゃん」
『《うむ。ここから、人里までは人の足では丸二日かかるだろう。その間、追手に追い付かれぬ保障は無かったじゃろう。だが、感謝は不要じゃ。これから我らは、共に死線を乗り越える仲になるのじゃからな? この程度で礼は不要じゃよ》』
「……そりゃどうも」
僕はこの荒野を一人、人里に向かって歩き出した。
右手首には、マガツから与えられた通信用のブレスレット。黒い宝石が埋め込まれており、それが通信機とGPS代わりになるらしい。
『《本当ならば、我が機体に乗せて飛んでいきたいところじゃが……些か、魔神機でも数が揃うと相手が面倒じゃ。隠蔽の魔術を契約者に施し、ある程度、大神殿から距離を取ったところで我を召喚。そのまま、人里に向かって高速移動が安全じゃろう》』
そう、今の僕はマガツによって生かされている立場だった。
身に纏う外套も、その下に着込んだ旅装も、マガツの隠蔽の魔術のおかげで手に入れた代物である。
そもそも、マガツに乗らなければ、僕は人里の位置すら知ることが出来ない。
『《良いか? 我を召喚する時は、元気よく言うんじゃぞ? 来い!! マガツオー!!! と言う感じで、喉が張り裂けんばかりに叫ぶんじゃぞ?》』
「はいはい、わかったよ、相棒」
なのでまぁ、こういうパフォーマンスに応えるぐらいはやっていかないと。
マガツは馬鹿だが、愚かではない。
僕が『期待に値しない』と判断すればきっと、あっさりと切り捨ててしまうだろう。
…………正直、普通の男子高校生である僕が、その期待に応え続けるのは不可能だ。絶対、そのうち捨てられる。
故に、必要なのはマガツに頼らない生活基盤。
どうにか、無事に人里までに辿り着いて、生きていくための手段を得なければ。
「――――うん?」
などと考えていたら、何か違和感を覚えた。
上手く言えないが、こう、黒板を爪でひっかくような怖気が、背筋から這い上がって。
『《やはり勘が良いな、我が契約者は。見ろ、来るぞ》』
「来る? 来るって何が?」
マガツが僕の疑問に答えるよりも先に、空が割れた。
がしゃん、とまるでガラスでも割れるような硬質的な音が響いて。
『るるるるるるるぅうううううっ!!!』
『愛おし! 愛おし! 愛おし!』
巨大な異形が二体、現れた。
「おぶ、うぇっ……なに、あれ?」
思わず吐き気を催す外見は、まるで悪夢から出て来た出来損ないの生命体だ。
片方は、巨大な目玉に車輪と一対の翼が生えている。
もう片方は、獅子の頭に、首から下は彫像の如き真っ白な肌の、人間の裸体。腰から下は、アリや蜘蛛のような形。そして、背中からは一対の翼。
『《あれこそが邪神の先兵。世界を滅ぼさんとする者の御先――――『テンシ』じゃ》』
「…………最悪のネーミングセンスだ。翻訳されているとしても」
『《恐れるな、我が契約者よ。所詮は羽虫。我らの覇道を阻むものではない……それに、奴らは我らを見つけて襲って来たのではない。大神殿の勇者が狙いじゃ》』
「――――っ!」
マガツの言葉に、僕は安堵と共に不快感を得た。
逃げていいはずだ。たとえ、僕と同郷が襲われる先に居たとしても。襲っているのが、全長十メートルを超える巨体の怪物だとしても。
殺されかけたのだから、見捨てても良いはず。
『《案ずるでない、優しき契約者よ。ほれ、そろそろ出て来るじゃろ》』
「へっ?」
僕が間抜けな声を上げると同時に、それは姿を現した。
『《分かり易いように、我の視界に同調させてやろう》』
マガツの介入により、僕の視界が途端に俯瞰したものになる。
そして、その俯瞰した視界の中、僕は見た。
「行くわよ、勇者。アタシの足を引っ張らないでよね!」
「こちらの台詞だ、魔女」
互いに憎まれ口を叩き合う男女が、互いに手を重ねた瞬間を。
「「エンゲージ!!」」
眩い光を発して、その中から人型の巨体――魔神機が現れる光景を。
「ふわぁ」
僕は、馬鹿みたいに口を開けて眺めていた。
それは真紅の武者だった。
マガツオーが漆黒の騎士ならば、それは甲冑にも似た鎧を纏う武者だった。
重厚なマガツオーよりも細く、けれども、その手には真紅の機体よりも長大な槍が携えられている。
『《バティンか。斬り込み隊長の肩慣らし、と言ったところじゃな》』
呆然と真紅の機体――魔神機を見上げる僕に、マガツは解説の言葉を呟く。
『《アルバート王国が保有する六機の内、もっと機動性に優れた魔神機じゃ。見るがいい、我が契約者よ。あれが魔神機とテンシの戦いである》』
真紅の魔神機、バティンの動きは洗練されていた。
『愛おし! 愛おし! 愛おし!』
泣き声のように妄言を撒き散らす、獅子頭のテンシ。
怪獣の如き大きさで迫り来るそれを、バティンは武術に似た独特の移動法で回避。
『遅いわ!』
バティンから少女の声が響いたかと思うと、獅子頭が槍によって貫かれる。
『バースト!』
貫かれて、次の瞬間、紅蓮の炎と共に天使が燃え上がり、数秒後、爆散した。
ええと、何あれ?
『《バティンが持つ神器じゃ。あの槍は貫いた者を燃やし、爆発させる》』
「なにそれこわい」
『《案ずるな。あんなものは所詮、ただの児戯よ》』
戦々恐々の僕に、マガツがあっさりと言い切る。
うん、その物言いは頼もしいけどね? 同時に、『明らかにラスボス視点での解説だなぁ』とか思ってしまうのだけれども? 口を開けば開くほど、マガツが厄ネタにしか見えない。
いや、厄ネタでないはずがないので、今更過ぎる確認ではあるけども。
『るるるるるぅっ!!』
相方を殺された恨みか、それとも単なる防衛本能か、大目玉のテンシは怒声の如き泣き声を上げると発光。真っ白な光を出して――それを収束。
『るあ!』
ビームとしてバティンに放った。
まさしく、光速の攻撃。見てからの回避は不可能そう。
だが、そのビームがバティンたちに当たることは無かった。
『手緩い!』
何故ならば、バティンの姿は大目玉のテンシのすぐ隣に在り、既に長大な槍を突き出していたのだから。
『滅殺!!』
バティンから響く声が宣言した通り、大目玉のテンシは跡形もなく焼却された。
今度は爆散する暇も無く、一瞬の消滅だった。
「……ねぇ、マガツ。あれは何? なんかこう、ビームが直撃する前に、バティンの姿が消えて、いつの間にかテンシの隣に立っていたんだけど?」
『《あれは魔神機の権能じゃ》』
「権能?」
『《魔神機が持つ特権にして異能。魔女が悪魔と取引して得た力じゃ。バティンの場合は『転移』じゃろう。恐らく、普通の転移魔術よりも格段に魔力消費が少なく、詠唱などの準備も無く、素早く安全に転移することが可能な力なのじゃ》』
「なにそれこわいリターンズ」
強い……強くない?
テンシとかいう怪獣を鎧袖一触だよ? 相手にもなってなかったよ?
そっかぁ、あれが事前交渉によって得た勇者の力かぁ……そりゃあ、僕みたいな外れが出てきたら、早々に使い潰すか、取り換えようとするわ。
「…………はぁ」
下手をしたら、これからああいうのが追手に来るのかな?
僕は知らず知らずの内に陰鬱なため息を吐いていた。
『《だがまぁ、実戦経験は少ないようじゃな? 敵を打ち倒した時こそ、残心を忘れず、もっとも警戒せねばならぬ時だというのに》』
だから、マガツの言葉に僕は疑問を浮べて。
『が、がぁあああああ!!?』
次の瞬間、理解した。
マガツが何を言いたかったのかを。
――――バティンの機体から、破壊音と共に悲鳴が響いてきた理由を。
『むふふふ♪ 油断大敵でしゅー!』
甲高く、舌足らずな不愉快な声。
バティン以外の新たなる声は、バティンの破壊を示していた。
何故ならば、その不愉快な声が聞こえたて来たのは、バティンの機体を――胴体を貫いた、透明な機体から響いてきたものだったのだから。