ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
「なるほど! 妹と村の人たちに頼まれて、私を助けに……ありがとうございます! マサヒコ様! まさしく、貴方は私にとって白馬の王子様のようなお方です!!」
「あ、いや、大丈夫、大丈夫だから……人として当たり前のことをしただけだから……」
リリをワンコインで引き取るということはつまり、リリを檻から解き放つということである。
僕は護符をしっかりと懐に忍ばせ、手袋はきっちりと装着。その他、村の人たちから貰った、様々なお守りグッズを身に着けている。
油断はできない。
僕は今、戦神アレスを相手にしている時よりも、緊張している……っ!
「ですが、私は村に帰ることはできません!」
「ええと、どうしてかな?」
「ここには、私と同様に、山賊に攫われた人たちがたくさん居るのです! 私は、この人たちを見過ごしたまま、村に帰ることはできません!」
「そっかぁ」
リリの宣言に、先ほどまで安堵の表情を浮かべていた黒服三人が「なんでだよぉ!? 帰ってくれよぉ!」などと嘆いている。
希望から絶望の落差に、精神がひび割れた肝心の顔だ。
うん、流石に憐れだよね。
「もちろん、私もわかっています! こんなの、現実的じゃないって! 夢見がちの馬鹿が言うことだって! だけど! 私は、私の目の前で起きた悲劇ぐらいはどうにかしたいんです!」
「リリちゃん……」
「なので! 私は今から、このカジノで可能な限りお金を稼ぎます!」
あ、リリの宣言リターンズで、今度はカジノの客とか、ディーラーがかなり慌てている。
うん、そうだね。確かに、歩くトラブル発生装置みたいな人に近づいて欲しくないよね。下手をすると、このカジノが潰れるとかの話では済まなそうだし。
「ご心配なく! これでも私、運は良い方なので――」
「駄目だよ、リリちゃん」
「へっ」
僕は手袋越しに、リリの頭をぽんぽんと叩く。
いきなり女性の頭を触るというマナー違反行為だが、相手は乙女思考の超お人よし。
危険を冒した分だけ、僕のこの後の言葉はリリに響く!
「僕はララちゃんに約束したんだ。絶対に、君を村まで届けるって。だから、君を危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「で、でも――」
「だから、僕がやる」
うぉおおおおっ! 今こそ蘇れ、アイドル時代の悩殺スマイルよ!!
「僕が君の代わりに、このカジノで売られている人たちを全員助け出してみせる。正々堂々、ギャンブルに勝ってね」
「ま、マサヒコ様……っ!」
リリは感極まった表情で、僕に抱き着いてきた。
うん? 抱き着いてきた? お、おかしいぞ!? 僕は抱き着かれることすら予期して、それを止めようと構えていたはず! なのに、その僕が反応すらできなかった!?
こ、これが奇運!? 人知の及ばぬ領域……っ!
「だったらせめて、待ってます! 私、マサヒコ様がカジノから出てくるまで、ずっと待っていますからね!」
「やれやれ、困ったね。君一人だとまた攫われるだろ? と言うわけで、マガツとミレーヌ。この子の世話は任せた」
「「…………了解」」
うわぁ、二人とも凄く嫌そうな顔。
気持ちはわかるけどさぁ……僕だって今、物凄く頑張っているというか、丸薬! 丸薬! 三分以内に丸薬を飲まないと!!!
「仕方がない。お主の頼みだからこそ、引き受けるんじゃぞ?」
「わたくしが死んだ場合、マサヒコを呪います」
「マサヒコ様! 待っていますからねー!」
災神、魔女、特異点の三人組を見送った後、僕は物凄い勢いで丸薬を取り出し、魔術で水を出しながら飲み込む。
ふぅ、セーフ! セーフのはず!! ということで。
「じゃあ、ちょっと遊んでみようか」
予定調和なギャンブルを始めようか。
ギャンブルには必勝法がある。
なんて言えば、きっとほとんどの人は胡散臭く思うだろう。
その疑惑は正しい。
ほとんどのギャンブルは胴元が設けるようにできており、ただの利用客の立場では必勝などからは程遠い。
というよりも、健全にギャンブルを楽しむのならば、必勝法などからは遠ざかり、ほどほどに楽しむのが一番なのだけれども……生憎、今日の僕はカジノの『商品』を丸ごと奪っていく予定だからね。
――――正々堂々、正面からイカサマをさせてもらう。
「あ、赤の14番…………当たり、です……っ!」
ディーラーの宣言に、背後の野次馬たちが盛大に騒ぎ出す。
チップが積み上がる。
「黒のぉ、8番…………当たり、です……ううう……」
ディーラーの宣言に、周囲の野次馬たちがちょっと引き始める。
チップが積み上がる。
「あ、あかかか、赤の22番…………あ、あたた、当たり、です」
ディーラーの宣言に、周囲の野次馬たちが沈黙した。
それでも、チップは積み上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ……なん、で……どうして……」
ディーラーが滝のような汗を流しているが、それも無理は無い。
今、この青年は必死に僕に対して解析の魔術を発動させているのだろう。
けれども、どれだけ目を凝らして、魔術を必死に発動させようとも、僕を咎めるだけの証拠は手に入らない。
――――既に、この場は浸食の権能で掌握済みであるが故に。
権能よりも下位の優先度である魔術では、僕のイカサマは破れない。
僕のイカサマを破るならば、それこそ同格の権能が必要になるだろうね。
「いやぁ、今日はついているなぁ。善行を積んだからかなぁ? じゃあ、もっと善行を積めば、もっと運勢が良くなるかも? ということで、ここら辺で一つ、商品と交換していこうか」
十分にチップが積み上がったのならば、後は商品となっている人々と交換の時間だ。
ただ、単に商品となっている人たちに人権を取り戻した程度では片手落ち。
攫われた人たちには、元の場所まで戻るための資金を。
帰る場所が無いのならば、しばらく生活ができるだけの資金を。
今、ここで積み上げる。
「さぁ、ディーラー。続けようか。なぁに、この街は自由で悪徳に溢れているんだろ? だったら、僕の悪戯程度は受けてくれるよね? 人身売買なんて、馬鹿みたいなことをやっているんだからさぁ」
「う、ううっ! 誰か! オーナーに至急連絡を! それまでは私がもたせる!!」
カジノ全体がにわかに騒がしくなる。
店員たちが走り回り、ディーラーが青年から老年の、如何にも歴戦と言った風貌の者に代わる。僕にプレッシャーをかけるかのように、屈強な黒服たちが集まる。
うんうん、頑張っているね。
――――無駄な足掻きをさぁ!
「うん? ルーレットが駄目? じゃあ、ほら、次はカードで遊ぼうかな? ほら、配りなよ。好きなように。カードも駄目になったら、その次は何で遊ぼうかなぁ?」
積み上げる。積み上げる。積み上げる。
チップを積み上げ、全ての商品を――被害者たちを取り戻す。
慰謝料として、カジノから被害者たちのための資金も奪い取る。
「さて」
そうして、全ての被害者たちを取り戻し、十分な資金を手に入れた後。
「リリの約束は守ったことだし――――ここからは、個人的なギャンブルと行こうか」
僕は更にギャンブルを続行する。
何故か?
理由としては二つ。
一つは、こういう派手で人の破滅がかかったような勝負はきっと、マーリンという大魔術師の好物だろうから。
もう一つは。
「なぁに、人を売り買いするような場所なんだ。当然、カジノの存続が危うくなる程度の賭けで止まるほど、『意気地なし』じゃあないだろう?」
僕は個人的にこういう場所が嫌いだから、思いっきり嫌がらせするのさ!
今まで散々、良い目を見て来たんだ。
だったらさ? たまには痛い目を見ても文句はないよね?
積み上げる。
チップで山を積み上げる。
このカジノが破産するほどの山を。
「申し訳ございません、お客様」
「少々、こちらでお話があります」
その途中、屈強な黒服たちが僕の肩を掴んで来たけれども。
「「ごふふぁぁ!!?」」
何故かは知らないけれど、奇声を上げて倒れてしまった。
いやぁ、不思議だね?
物凄い静電気でも発生したのかな?
「やれやれ」
「ボクたちの出番が来るとは」
「ちょっとイカサマが上手いからって」
「調子に乗ったね?」
「「ボクたち! 殺戮双子の上級悪魔が居るとも知らずに!!」」
ああ、そうそう。何か美形ショタの双子が出て来たけど、あれが悪魔だったのかな?
確かに魔力量は人間よりも多そうに見えたけれども、普通の人間にも見えるのはどういうことだろうね? うーん、人間の体を乗っ取っているとか?
「ステレオでうるさい」
「「みぎゃー!!?」」
まぁ、浸食を込めて打撃を叩き込んだら静かになったから問題無し。
次に行こうか。
「「「お客様ぁ! どうか帰ってください! お願いします!!!」」」
「物理的に潰されるのと、経済的に潰されるの、どっちがいいかな?」
「「「…………っ!!!」」」
何やら、同情を誘う感じで店員たちが土下座しに来るけれど、残念。
この悪徳の街では、そういう行為には一銭の価値もないらしいよ?
「席に着いて。さぁ、ギャンブルを再開しよう」
天網恢恢疎にして漏らさず。
因果応報の時間がやって来ただけのことだ。
このカジノの従業員には悪いが、退職金は割り当てられないと思ってくれ。
「それとも、もう精算の時間にするかな? 僕はそれでもいいけど――――この場できっちり、全額を支払えないとなると、そうだね。三時間ぐらいあれば、更地にリニューアルオープンすることも可能だよ!」
さて、どうなるか。
ここまで喧嘩を売れば、普通はケツ持ちが来るはずなんだけど…………え? ひょっとして、さっきのショタ悪魔どもがそれ!? うっそ、弱くない!?
……ううーん、魔王ソロモンの街で、一番大きいカジノだから、もうちょっと強い悪魔が配置されていてもおかしくないと思ったんだけど。
意外とそうでもないのか? もしくは、他に用事が出来たとか。
「お待たせしました」
「おっ?」
「私がこのカジノのオーナーで御座います」
などと思考していると、ようやくボスのお出ましだ。
「やぁ、こんにちは。ご機嫌はいかがかな?」
「ええ。控えめに言って最悪かと」
カジノのオーナーは意外なことに若い女性だった。
少なくとも、外見年齢は二十代前半と言う感じ。
水色の髪に、怜悧な美貌を持つ、鉄仮面の如き無表情の女帝という雰囲気だ。
オーナーが出て来てから、従業員たちがやたらと震えている。
どうにも、きっちりと恐怖政治で他者を従わせるタイプのボスらしい。
「駆け引きは無しでお尋ねします。貴方の目的は? このカジノにあった全ての商品は、貴方がお買い上げしたと思いますが?」
「んー、そうだね。目的……目的ねぇ」
僕はマガツを真似て、邪悪な笑みで答える。
「ここはカジノだよね? だったら当然、ギャンブルに決まっているさ!!」
さぁ、ここからがこの茶番のクライマックスだ。
「僕が賭けるのは、このチップの山。カジノが破産しそうなこの山の全てを賭けよう」
「…………では、私に賭けさせたいものは?」
「全て」
ひゅっ、とオーナーが喉を引きつらせる音が聞こえる。
だが、お生憎――――こういう場所だろ? ここはさぁ。
そういう風に、お前が定めたんだろうが。
「肉体。精神。過去、現在、未来――全てを貰おうかな。別にいいでしょ? だって、ここは人身売買もやっているんだからさ!」
「…………それ、は」
「ああ、それとも。自分は嫌? たくさんの人を商品にしておいて、自分がなるのは嫌? わかる、わかるよ。わかるとも! いざ、自分が同じ立場に立つと、ビビっちゃうよねぇ! あっはっは!!」
ぎりぃ、と無表情の奥から歯噛みする音が聞こえてくる。
うんうん、良いね。挑発が効いているね?
だけど、僕のイカサマはまるで見抜けない。こんなの負けに行くようなもの。
というわけで、背中を押してあげよう。
「そんな君のために、公平で公正なギャンブルを提案しよう!」
僕は適当なコインを一つ弾いて、オーナーの元へと渡した。
「これ、は?」
弾かれたコインを受け止め、困惑の表情を浮かべるオーナーへ、僕は笑みと共に説明する。
「コイントスだよ、コイントス。誰しも一度はやったことがあるだろう? コインを弾いて、表か裏化を当てるゲーム。確率は二分の一。しかも、君がそのコインを弾いていい。わぁ、なんて素敵な条件が盛りだくさんだ!」
「…………」
「はい、これでも乗らない君へ、とっておきの朗報が一つ――――僕は何もしない」
「っつ!?」
「ただ、君がコインを弾いて、結果を見るだけのギャンブルさ。それでも、逃げるのかな?」
ギャンブルに於いて積み上げられるのは、チップだけじゃあない。
この通り、相手に有利な条件だって積み上げられる。
さて、するとどうなる?
「…………」
相手は、逃げられなくなる。
周囲からの『え? ここまで言われて逃げるのか、こいつ』という視線に囚われて。
そう、僕が真実を言っているかどうかなんて、この場では関係ない。
こういう裏稼業は基本、舐められたらおしまいなのだ。
その点から言えば、僕一人に蹂躙されている以上、もうこのカジノは終わりに近いのだけれども……更に、僕からの慈悲を受け取らずに勝負から逃げたとなれば、もうこの街で商売をやっていくことは不可能だろう。
「わかりました。その賭けに乗りましょう」
「いいね。そうこなくちゃ」
故に、ここまでは既定路線。
そして、僕は有言実行の男。
――――勝利も敗北も、本当に運任せの二分の一だ。
さぁ、本当のギャンブルを始めよう。
「おや?」
……と思ったんだけどね?
「くっ」
どうにも、お相手さんは手が震えてしまっているらしい。
何度も、何度も、コインを指に乗せる段階で零して、テーブルの上に落としてしまっている。
まぁ、仕方ないね。どれほどポーカーフェイスを保とうとも、人間の体は正直だ。
全てを賭けるギャンブルの前で、手が震えるのは普通のことである。
「やぁ、ひょっとしてお酒でも飲んでいたりする? だったら悪いことをしたよ」
だけど、この悪徳の街では、普通ではやっていけない。
そうだろ?
「お詫びに、僕が代わりにコインを弾いてあげようか? なぁに、心配することは無いさ。ただ弾くだけ。それ以外のことは何もしないよ。約束してもいい」
「……っ!」
相手の無表情が崩れる。
瞳が揺れる。
首筋から汗が流れ出ている。
ポーカーフェイスも限界だ。
さぁ、さぁさぁさぁ! 君はどうする!? 好きに選びたまえ!!
「ご冗談を」
呼吸を一つ。
ただそれだけのことで、オーナーは震えを止めて、コインを掴んだ。
「たとえ、この命脈が尽きようとも、博徒であることを辞めることはできません」
「なるほどね」
自らの運命を掴んだ。
この瞬間、僕は静かに微笑んでいた。
後の顛末は語るに及ばず。
何故って?
だって、僕は今までの人生でこういう時――――僕が悪役を担っている時、こういう目をする奴には勝てた試しなんてないんだからさ。
●●●
「おう、中々に面白い見世物だったぞぉ」
その男は、一見すると襤褸切れの如き黒衣を纏う浮浪者の老人だった。
「あの女帝の、あーんな顔を引き出すなんて! 君は素晴らしい! 才能があるね! 舞台俳優の! あるいは悪役の!?」
だが、瞬きの間に、娼婦の如き薄着の少女へと変わっていた。
「なんにせよ、この私が釣られる程度には、素晴らしいものをありがとう、佐藤雅彦君」
そして、最後には『如何にも大魔術師』という豪華絢爛の外套を纏う、灰色髪の妖艶なる美女へと姿を変えた。
けれども、恐らくそれすらも本体ではない。
いや、相対している限り、この相手に本体なんてものがあるようには見えない。
全てが本物で、全てが偽物。
そういう可能性を内包する何か。
「初めまして。私が、君たちの探している大魔術師マーリンだ」
それこそが、権能の域にまで技量を高めた魔術師ということなのだろう。
正直、得体が知れないね。
協力を申し出る立場だとしても、警戒は緩めないように行こうか。
「初めまして。僕は最強勇者マガツオーのパイロット、佐藤雅彦だよ。まぁ、そっちはもう既にご存じだったようだけれども」
「ふふふっ。マガツが気に入った相手だからね。ついつい、覗き見したくなっちゃうんだよ」
「…………」
覗き見、ねぇ?
今まで四六時中油断してなかったか? と言われれば首を横に振らざるを得ないけれども。
それでも、僕やマガツに気づかれずに、こっそりと情報を盗み見ているとか。
どうやら、マーリンという奴は前評判に違わない大魔術師のようだね。
「それで、僕は君のお眼鏡にかなったのかな?」
「もちろん! それはもう! 君が来てから、こっちの世界は愉快に騒がしくなって、とても素晴らしいと感じているさ。協力を惜しむことは無いよ。ちょうど、私が手に入れることが難しくなった神域チーズも手土産に持って来ているようだしね」
「何もかもお見通しってわけか。やれやれだよ」
「いやはや。本当にそうだったのならば、私も苦労はしないんだけど……生憎、この私にも苦手な相手ぐらいはいるとも」
「へぇ」
超然とした態度からは、とても想像できないけれども。
まぁ、弱点の無い人間なんて存在しない、か。
「ともあれ、協力に関する具体的な話は、彼女たちと合流してからにしようか。同じ話をするのも二度手間だからね」
「ん、それはそうだ」
「後は、部外者をいつまでも同行させるのもどうかと思うからね? リリ嬢の方は、私が転移魔術で丁重に村まで送り出そう……世界を滅ぼす爆弾を処理する気持ちで」
「その気持ちはわかるけど、言い方ぁ!」
「何を隠そう。私が苦手なのはリリ嬢だとも!」
こんな超然とした大魔術師からも警戒されているのかよ、リリ。
いや、わかるけどね? リリはこう、強さとは別ベクトルの次元で怖いもん。
だって多分、リリの奇運が撒き散らす騒動ってのは上限が無いような感じだし。
正直、僕らが見てない間に、この街に宇宙人が攻め込んで来ても驚かないね、僕は。
「うう、もう嫌だ……七つの世界を救う度に出るのはもう嫌だ……」
「何か恐ろしいことを言ってる。詳細を知りたいような、知りたくないような」
げっそりとした表情のマーリンを眺めながら、僕は心底、対処法を教えてくれたララに感謝の念を抱いていた。
色々と肝は冷えたけれども、どうにかサブクエストは上手く達成できたようだと。
――――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
「…………は?」
空を覆い尽くすほど巨大な隕石が、禍々しい漆黒のオーラに包まれたそれが。
今、上空から僕らを圧し潰さんと迫ってくる光景を見るまでは。
「マガツ?」
意味不明。
理解不明。
だというのに、僕の口は無意識に正解を紡いでいた。
そう、そうだ。あれは……あの禍々しい気配はまさしくマガツ! だけど、あの姿は一体どういうこと…………いや、違う! もしや、あれこそが!
「マガツミカボシの本体――正確に言えば、その『防殻状態』ってところかな?」
「マーリン! 知っているの!?」
「長い付き合いだからね、それなりには」
正直、僕は訳が分からず心臓の鼓動が鳴り止まないというのに、マーリンは涼しげな横顔で説明を始める。
「君が普段動かしているマガツオーというのは、あくまでもマガツが操る人形の一つに過ぎないよ。この世界に落ちて来た時、偶然、浸食した魔神機の一体を改造した奴さ。正真正銘の本体こそ、あれだよ。ただ存在しているだけで、周囲の世界を蝕む『禍津星』。多数異世界群の中に、たまに存在する世界喰らいの内の一体……それこそが、マガツミカボシの正体さ」
「そんな……っ!」
マーリンの説明に、僕は思わず顔を歪めた。
「そんな重大なネタバレが、恐らくはリリちゃん関係のやらかしで!?」
「ああ、うん。ご愁傷様」
僕はもっと、シリアスな場面で知ることになると思ってたんですけどぉ!
というか、あれさぁ! 物凄い迫力を出しながら落ちているけど、発端は多分、物凄い奇跡的な事故が起きた所為だと思うんだけどぉ!!
「ええい、ショックだけど! そんなことは一旦、後回し! マーリン! あの状態のマガツについて情報はあるかな!? 一応、こっちから通信魔術を繋ごうとしているんだけど、魔術がろくに発動すらしない!」
「マガツの本体は、その場に登場しただけで空間を圧倒し、支配するからね。この空間は今、ろくに魔術が使えない状態に書き換えられてしまっているんだろうさ」
「…………ええと、つまり?」
「今の私は無能!!」
「うっそだろぉ!?」
早いよ!? 超然と出て来たキャラが無力化されるまでが早すぎるよ!?
「私はこれでも長生きでね。その間に、異世界を幾つも渡り、多くの修羅場を乗り越えて来た。死線を潜り過ぎて、よく直感が磨かれたよ…………その直感が告げている。今日、ここで世界は滅びるのだと!!」
「諦めるのが早い!!!」
「ぎゃみゅっ!?」
超然とした表情のまま絶望している馬鹿を、僕は思いっきり張り倒す。
おいこら、結構、お前が頼みの綱なんだけどぉ!
「絶望だった死んだ後にしてよ! 対策! 早くマガツを元に戻す対策を!」
「対策と言われても…………あー、見た感じ、マガツ本人もかなり顕現の力を抑えているというか。ソロモンや魔神機候補の悪魔たちも、必死に抑え込んで、今、ようやくギリギリ世界を滅ぼさない拮抗にあるということ…………マガツ本人も意図しない顕現けれども、ひゃっくりみたいに、一度出かけたものを押さえるのは非常に難しいって感じか」
「つまりは!?」
「マガツの気合に賭けるしかない」
「気合!? マガツって割と凹みやすいのに!?」
「だから絶望だよね」
ははは、と乾いた笑みを浮かべるマーリン。
だから! 諦めるなって言ってるんだよぉ!!
「痛い痛い!! わかった、わかったってば! 賭けになるけど! 一つだけなら方法があるとも!」
「ハリー! その方法をハリー!」
「今、この拮抗状態は様々な要素が絡み合っているけれども、マガツのメンタルが上向きになればなるほど、状況は良い方に傾く」
「……っ! そうか、つまり、僕がマガツに応援を――」
「愛を叫びなさい」
「えっ」
耳がおかしくなったのかな?
何かこう、この窮地に適していない冗談が聞こえたんだけど?
「チャチな応援程度では、この状況を動かせない。君の、心の底からの言葉が必要なんだ! さぁ、世界を救うために愛を叫ぶがいい!!」
「マジで!?」
「マジだとも! ちなみに、マガツの心を爆上げしないと、世界がガチで滅ぶぞ。魔術が使えないから、私も君も逃げられずに、一緒にお陀仏だ! はっはっは!」
「う、ぐぐぐっ! ああ、もう!!」
本当に酷い冗談だ。
さっきまでは得意げにギャンブルを嗜んでいた僕が、今度は自分の感情をチップにして、世界を賭けたギャンブルに挑まないといけないらしい。
おわかりでしょうが、リリの奇運でこうなりました。