ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
さて、少しばかり時間を巻き戻そう。
我らが主人公が愛を叫ぶ前に、事の成り行きを説明しよう。
「ま、マガツ様は! マサヒコ様の恋人なのですか!?」
「……む?」
マサヒコがカジノで大勝ちしている時間帯。
カジノの外で待つとリリが言ったものの、カジノの入り口で突っ立っているわけにもいかないので、三人は近場の喫茶店で時間を潰していた。
そう、ミレーヌが当たり障りのない雑談で、どうにかマサヒコが出てくるまで時間稼ぎをしていたのだが……話題の間隙を縫う形で、リリがマガツにぶっこんだ質問をしたのである。
ミレーヌは一瞬、この場から何もかも放り出して逃げたくなったが、辛うじて魔女としての矜持がそれを押し留めていた。
「リリよ。何故、そう思ったのじゃ?」
「だ、だって……明らかに! マサヒコ様からの視線がこう! 信頼がたっぷりというか! 本当に心を預け合っている感じの空気がしましたので!」
「…………むふー」
真っ赤な顔で告げるリリの言葉に、マガツはまんざらでもない表情を浮かべる。
「まぁ、そうじゃのう。この世界で誰が一番、奴のことを信用しているかと言えば、それは我になるだろうし。逆もまたしかり、ということじゃ」
「や、やっぱり! ラブラブ恋人なのですね!?」
「落ち着け、結論を急ぐではない」
そして、たっぷりと余裕ぶった表情で足を組み、どっしりと構えた状態で答えた。
「確かに? 確かに我とマサヒコの絆は強固じゃ。けれども、それはあくまでも『相棒』という関係になるじゃろうなぁ。共に生き、共に死ぬ。幾多の戦場を超えた、そういう関係じゃよ」
「なるほど! 本当に背中を預けられる関係という奴ですね!」
「その通りじゃ」
「だけど、恋愛感情は無い、と言うことですか?」
「ふむ」
マガツは割とざっくばらんに生きている存在だ。
そもそも、人間とは規格が違う超越存在だ。
愛も絆も正義も、本当の意味で理解できているとは言い難い。
当然、恋愛感情も。
――――どれほど大切に育てようとも、地を這う虫けらに人間が恋することなど無いように。
「ああ、そうじゃろうなぁ。我にはそういう感情は難しいかもしれぬ」
故に、マガツはいつになく正直に、自分の気持ちを吐露して。
「では! 私がマサヒコ様に告白してもよろしいでしょうか!!?」
「…………えっ?」
リリの天真爛漫な言葉に、思わず身を固めてしまった。
「えっ?」
身を固めてしまった、という事実に、マガツは動揺してしまった。
「駄目でしょうか!? マガツ様が駄目ならば、私はやりません!!」
「…………まぁ、待て。その、詳しく理由を話すのじゃ」
それはマガツという存在にとっては、非常に『らしくない』行動だった。
事実、出会った頃のマガツならば、この時に答えを躊躇わなかっただろう。むしろ、雅彦のデバフが取れるぞ! と言わんばかりに、笑顔で雅彦とリリをくっつけようとしただろう。
けれども、今は違う。
変わってしまったのだ。
思わず、リリという人間相手に理由を訊ねるなんて、『らしくない』行動を重ねるほどに。
「はい! 危ういところを助けてもらった上に! 凄く格好いいからです!!!」
「…………そ、それだけかのう?」
「え? 駄目ですか!? 山賊に攫われて、自分の身柄が危ないところを助けてくれたんですよ? しかも、私の我儘も聞いてくれました! 凄く格好良かったです!!」
「む、むぅ。そうか」
そして、マガツは雅彦のことを褒められると弱い。
確かにその通りだ! とついついリリの言葉に頷きたくなってしまう。
どうやら、災神として畏れられるマガツでさえも、相棒への賞賛には邪悪な横槍を挟む趣味は無いらしい。
「さて、それはどうかしら?」
故に、マガツの代わりに口を挟むのがミレーヌだ。
「彼と貴方はつい最近、会ったばかりでしょう? というか、会ってから一時間も経過してないでしょう? それでいきなり、告白するのは時期尚早だと思いますわ」
なお、ミレーヌとしてはこのまま放置しておきたいのだが、口を挟まなければ後々、マガツと雅彦の間で面倒なことが起きると乙女の勘が察知したので、渋々の対応である。
「え、駄目ですか? ミレーヌ様」
「駄目というほどではありませんけれども……そう、ですね。貴方には彼が、格好いい正義の味方に見えているのかもしれませんが、実際のところ、善意とは別に、何か思惑を隠しているのかもしれませんわよ?」
それでもいいのですか? とミレーヌはあえて意地悪く訊ねる。
自分自身でも『なんなのですか、この悪役令嬢仕草は』とうんざりしながら。
「はい! それでも大丈夫です!」
だというのに、リリは一切迷わずに答えた。
「だって、誰しも他人の心の内なんてわかりませんよ! だから、私はその人が為した結果で、その人のことを評価します! 凄いことをしたなら凄いって思います! 格好いいことをしたら、その人は格好良い人です!」
「…………過去に、罪があるかもしれませんよ?」
「あはははっ! そんなことを考えていたら恋なんて出来ませんよ!」
リリの答えはあっけらかんとしたものだが、軽くない。
「私は見たものを信じて、感じたことを好きになります! 過去に何かがあるとかは、付き合ってから話し合って教えてもらえばいいんですよ! 話したくなかったら、そっと寄り添えばいいんですよ! 私は『今』を恋しているんですから!」
「…………っ!」
リリの言葉は、現在進行形で恋する乙女であるミレーヌの急所を撃ち抜いた。
ここまで真っすぐに言われてしまえば、もはや何を言おうとも無粋である。
「…………それでも、騙されて。凄く傷ついて、後悔することになったらどうするのかしら?」
故に、ミレーヌは無粋を承知で、恥の上塗りだと思いながら、それでも悪あがきのように訊ねて。
「その時は、思いっきり泣きます! 思いっきり後悔します! あははは! 妹と違って、私は馬鹿ですから! こういう感じでしか生きられません! …………まぁ、こんなことを言っておいて、実は初恋なんですけどね!」
完敗した。
リリの、余りにも真っ直ぐな想いに完敗したのだ。
少なくとも、もうこれ以上ミレーヌが言えることは何もない。
「とはいえ、ですよ? 恩人相手に横恋慕なんてありえないです! そんなことはしません! なので! マガツ様とマサヒコ様が恋仲だったり、友達以上恋人未満とか! 将来的には付き合う感じの奴だった場合、私は素直に身を引きます! 初恋ですが! 傷が深くない内に撤退するんです!」
「…………む、むぅ」
ミレーヌが敗北した以上、リリと応答するのはマガツしか居ない。
だが、マガツは今、自分自身の心がよくわからない状態である。
自分が具体的に、雅彦とどうなりたいかわからないのだ。
そんな有様ではとても、リリの相手は務まらない。
「そういうわけで! マガツさん! お答えをどうぞ!!!」
「…………っ!」
故に、マガツは今まで生きて来た途方もない年月の中で、超勇者に敗北した時と同じぐらいに追い詰められて。
「ぎゃはははははっ! 随分とまぁ、らしくない有様だなぁ! マガツよぉ!!!」
意外なことに、助け舟は過去の宿敵から出されることになった。
かつて、散々痛めつけて支配下に置いた宿敵――――魔王ソロモンによって。
派手なチンピラ。
魔王ソロモンの姿を一言で表すのならば、それが相応しかった。
如何にも染めたという感じの金髪に、銀色の瞳。
派手な柄のジャケット。
宝石を強調した指輪と、じゃらじゃらのシルバーアクセサリー。
夜道を歩けば、さぞかし見つけやすく光るだろう、という派手な装い。
その癖、上品からは程遠い有様。
見るからに三下のチンピラというのが、魔王ソロモンの姿だった。
「五百年も封印されていて、頭の廻りが悪くなったか? ああん?」
そんなチンピラが、外見童女に突っかかって行くのだから、傍から見たら事案である。
もっとも、この享楽都市ではあり触れた光景どころか、牧歌的と評する程度のレベルでしかないのだが。
「むっ! 貴様はソロモン! 久しぶりではないか! 息災だったか!?」
一方、そんなチンピラなソロモンの登場に対して、マガツはぱぁと花咲くような笑みを浮かべて。
「いやぁ、今回も我のために、いいタイミングで出て来てくれた感謝するぞ!」
「ごぶっ」
どすりと、いつの間にか出していた触手によって、ソロモンの横っ腹を貫いていた。
「しかも、良い感じの『補給物資』も差し出すなんてなぁ! ひょっとして貴様、我のことが好きなのか???」
「こ、ころぉっす!」
「うんうん、わかっておるよ? 貴様の殺すは、『遊んでください』という意味じゃろう? 五百年前も何度も言っておったからなぁ――――楽しかったなぁ、貴様の配下で人形遊びをするのは!」
「テメェ!」
この時点で既に、ミレーヌは危険を承知でリリの手を掴み、離脱しようと試みていた。
マガツが危険なのは今更。
ソロモンは外見の三下っぽさはあくまでも、偽装に過ぎない。単に『人間に親しみやすく』するためのものだとミレーヌは知っている。他ならぬ悪魔と取引した魔女であるが故に。
だからこそ、この両者の激突の場に居るのは死を意味すると知っていて。
「駄目です! マガツ様!! 人殺しはいけません!!!」
「「「???」」」
ミレーヌの手をいつの間にか振りほどいて、マガツの体に抱き着いたリリの行動に、虚を突かれていた。
ミレーヌだけではなく、他の二人すらも。
「マガツ様! その方はもしかしたら、貴方様の怨敵かもしれません! でも! でも! いきなり人殺しは駄目です!」
「いや、リリよ。こやつは人ですらなく――」
「殺し合うなら、もっともっと話し合ってください! そりゃあ、私だって子供ではありません! 戦いの場では、そういうことをいちいちやってられる余裕なんてないってわかっています! でも、今は違う! そうですよね!?」
「…………リリよ。そやつは本体ではない。本体で我の前に出るわけが無い。ただ、魔神機一体分の魔力を込めてあるだけの分身だ」
「ほぇ?」
マガツは毒気を抜かれたようにそう言って、リリは目を白黒させてソロモンの方へと向き直る。なお、マガツが触手を生やしたことには、まるで動揺が無い。肝が太いのか、あるいは緊急事態だとばかりに後回しにしているのか。
「そうなんですか!? ええと、ソロモンの分身様!!」
「いや、分身に様付けは要らねぇよ……」
同じく、ソロモンの方も、思わぬ介入者の方の所為で意気が削がれていた。
「ただまぁ、よくやった。本当の意味で、そいつに隙が出来たのは、五百年前でも見たことがねぇ」
ただ、それはそれとして、マガツに隙が出来たのならば、そこを咎めない理由が無い。
「我が身を糧に、発動せよ光の縛鎖」
ソロモンは分身を構築する魔力を全て消費。
頑強なる光の鎖を召喚し、マガツの行動を一時的に封印せんと試みる。
――――これが良くなかった。
「ほう?」
マガツは迫り来る光の鎖に対して、余裕のある表情で待ち構えて。
「駄目ですーっ!!!」
明らかに割り込めるタイミングでは無かったはずなのに、リリが割り込んだ。
マガツを庇うような形で。
「「「なっ!!?」」」
これに驚いたのが、この場に居た三人だ。
「ぐっ!」
マガツはとっさに触手を伸ばし、リリを庇うように飲み込もうとして。
「ええい!」
ミレーヌはなけなしの魔力で己が権能を発動させて。
「ちぃっ!」
ソロモンは慌てて光の鎖の動きを止めようとして。
それぞれ、三つの動きが重なる。
そしてその時、不思議なことが起こった!!!
本来ならば、万に及ぶ試行回数を重ねても起こらないはずの奇跡が、奇妙な形で噛み合い、一つの結果を導き出した。
「みょわっ!?」
具体的に言うのならば、リリはきちんとマガツの内部に取り込まれ。
「ひぃ!?」
ついでとばかりにミレーヌもマガツの内部に取り込まれ。
「ごぱっ!?」
ソロモンの分身は容赦なく消し飛ばして。
「ぬぅぉおおおおおおっ!!」
きっちりと仲間の安全確保した後は、乱雑な魔術で遥か上空へ。
空よりも、更に遠く、宙に近い場所へと転移して。
―――――どぉおおおおおおんっ!!!!
世界がひび割れるような轟音と共に、マガツは自らでも制御不能な状態で、本体を顕現させることになってしまったのだった。
●●●
そして、現在に至る。
「も、もう駄目だ! おしまいだ!」
「は、ははははっ! 笑えるぜ! これが恐怖か!」
「世界が終わるんだ! ようやくこのクソッタレな世界が終わるんだぁ!」
享楽都市は、迫り来るマガツの本体の威圧に当てられ、正気な者はほとんど居ない。
と言うより、まともに意識を保っている者はほとんど居ない。
それほどまでに、マガツの本体は圧倒的だった。
生物の種族というよりは、次元からして違っていた。
何せ、存在するだけで世界を蝕む怪物だ。
戦うという選択肢が表示されないほど、強大過ぎる何かだ。
仮に、この場に邪神が三体。最善最高の状態で揃っていたとしても―――否、更に、各国の魔神機が全て最高の状態で揃えられていたとしても、今のマガツがその気になれば、瞬きの間に消し飛ばせる。
そういう怪物なのだ、マガツという超越存在は。
ただ、それはそれとして。
『(ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?)』
強大過ぎる力があることは、何もかもが思い通りになることとイコールではない。
そのことを証明するかのように今、マガツは必死に本体を別空間に戻そうとしていた。
何せ、今回の顕現は事故みたいなものだ。
リリの奇運による、本人の意識しない顕現だ。
マガツの感覚からすれば、『ひゃっくり』のようなものなのだ。
止めたくても、自力で止めるのは難しい。
「くそがぁあああああああ!! なんでこんなことになってんだよぉおおおおお!!」
ソロモンの本体が全身全霊で、マガツの顕現を押し返そうとしているが、マガツからすればそれは本当にささやかな助力でしかない。
吹けば飛ぶような、あっけないものでしかないのだ。
故に、世界を滅ぼさないようにするには、マガツ自身がどうにかしなければならないのだが。
『(…………どうしてこんなに脆いのだ、世界は)』
雅彦が評する通り、マガツはちょっと凹みやすいところがあった。
具体的に言うのならば、久しぶりの本体の顕現により、自分自身と世界の違いを改めて思い知ってしまったのである。
愛おしく、面白いと思うものほど、直接触れることなど叶わない。
何もかもを浸食し、喰らい尽くす。
それこそが、自分なのだとマガツは改めて思い知った所為か、ちょっとナーバスになって、顕現が急速に進み始める。
「誰かぁああああ! 助けてくれぇ!!! 超勇者ぁああああ!! 時を越えて助けに来てくれぇえええ!!」
その変化を如実に感じ取れる立場に居るソロモンは、偽り無しの必死な悲鳴を上げて。
「マガツ!!!」
そんな悲鳴を吹き飛ばすほどの叫び声が、今、悪徳の街に響き渡った。
『(マサヒコ……)』
だが、相棒の登場にマガツが感じたのは、猛烈なる寂寥感だった。
何故か?
本体から見る雅彦の姿は、あまりにも小さすぎたからだ。
けれども、何より――――マガツ自身の本体が巨大で邪悪過ぎたからだ。
分不相応。
ただし、相応しくないのは明らかにマガツの方。
触れれば消し飛ぶようなその姿で、一体、どの口で対等な相棒と言えるのだろうか。
『(我は…………)』
「聞いてくれ!! マガツ!!! 僕は、お前に伝えたいことがある!!!」
見下ろした先で、必死に叫ぶ雅彦の姿に、その想いは更に強まる。
せめて、世界を消し飛ばす前に、雅彦とその仲間たちぐらいは、どこか他の世界に転移させた方が良い。本体の自分ならば、それが出来ると、悲観に浸った考えを実行しようとして。
「邪神全部倒して世界を救った後! 僕の世界で一緒に暮らそう!!!」
『(えっ!!!??? マジマジマジマージマジ!!?!?)』
雅彦からの思わぬ言葉に、気合を越えた気合を発動。
制御できないとか知ったことかと言わんばかりに、絶大なる意志力で本体の誤作動を制圧。
ぱきゃんっ!! と硬質的な音を響かせたと思えば、瞬く間に本体を収納。
「ま、まままま! マサヒコぉ! 本気なのかのう!? 本気!? 嘘だったら泣くぞ!? 我は泣くからな!? 言っておくけど、この旅が終わったら別れになるのかぁ! と密かに凹んでいた我を騙したら、その! 酷いからな!! 童貞を奪うからな!!!」
少女形態で涙を鼻水を流しながら、転移と共に雅彦に抱き着いていた。
「うっわ。マガツさぁ、ちょろすぎるのも問題だよ?」
なお、マサヒコは思っていたよりも遥かに早く世界の危機が解決されたので、ちょっと引いていた。
「なんだとぉ! じゃあ、あれか!? 我を騙したのか!?」
「騙してない、騙してない。だから触手は閉まって」
「……へっ! どうせ我なんて、現地での使い捨てヒロイン以下じゃもん……実際、我みたいな奴を元の世界に連れ帰ったら、物凄いことになるじゃろうし……」
「ああ、まぁ。控えめに言っても世界の敵認定だよねー?」
ぐしゃぐしゃな顔で見上げて来るマガツへ、雅彦はその頭を撫でながら答える。
「でも、マガツと一緒なら、地元に帰って世界の敵をやるのも悪くない」
「…………なぁ、マサヒコ」
「なんだい、マガツ」
「お主も、割とちょろくないか?」
茶化すようなマガツの問いかけ。
「まぁ、そうかもね」
雅彦はそれに、苦笑で応えた。
その頬が赤く染まっていたのは恐らく、マガツの見間違えではないだろう。
「それはそうと、リリちゃんとミレーヌは?」
「安心せい。ほれ、我の内部に、安全に格納している…………うわっ」
「なにその不安な言葉!?」
「いや、健康に影響はしない上に、悪いことではないのじゃが……うわぁ」
「だから何!!?」
ただ、それはそれとして、愛を叫んだ後にはきっちりと現実が待ち受けているのだが。
Q:リリを内部に格納して大丈夫なんですか!?
A:大丈夫なわけがないので、こうなった。