ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
龍宮寺大和はどこにでも居る普通の男子高校生――と呼ぶには流石に無理のある人間だ。
まず、単純な経歴からしても普通とは言い難い。
何せ、大和は高校の弱小バスケットボール部を全国大会まで導いた立役者なのだから。
単に、大和個人だけが強いわけではない。
問題児ばかりの部員たちをまとめ上げるカリスマ。
部活の時間を増やすため、夜間の体育館使用をもぎ取るための社交性。
何より、全国大会出場までに必要な要素――やさぐれた元プロのコーチや、部費の代わりに必要経費を肩代わりしてくれるパトロンのお嬢様。その他、より多くの者たちと関り、助け合える資質。
これこそが、龍宮寺大和が持つ最も得難い才能と言えるだろう。
――――人と人とを繋ぐ力。
そんな、まるで物語の主人公のような力を持っているからこそ、大和は勇者として選ばれたのか?
否、それは少しばかり因果関係が逆である。
大和は来るべき日に備えて、日頃から勇者らしく振舞い、この力を獲得したのだ。
何せ、大和は今よりもずっと昔――――物心ついた時から、特別だったのだから。
●●●
『ゆうしゃさま? きこえていますか? ゆうしゃさま』
その声が聞こえてくるのはいつも、夢の中だった。
だから、最初の内は単なる珍しい夢という認識だった。
起きてしばらく経っても、鮮明に内容を覚えている夢だと。
『ゆうしゃさま……あ、できましたわ! つながりましたわ!』
その内、大和は不思議な声と会話することができるようになった。
可愛らしい女の子の声だったから、ついつい、大和は格好つけて色々話した。
自分の友達のこと。
かけっこで誰にも負けてないこと。
年上のいじめっ子を倒して、友達を救ったこと。
そんな些細な出来事を、大和はまるで英雄譚のように語ってみせて。
『さすがですわ! ゆうしゃさま!!』
そんな大和を、その声は本当に尊敬するように褒めてくれるのだ。
大和は直ぐに、その声の主のことが好きになった。
馬鹿みたいな話だ。
夢の中の声に恋をするなんて。
自分が作り出したイマジナリーフレンドに恋をするようなものだろう。
――――その声の主が、実体のある本物でなければ。
『ようやくお姿を目にすることが叶いましたわ、ヤマト様!』
大和がミレーヌの存在を本物だと信じたのは、小学校高学年の頃。
夢の中だというのに、はっきりとした意識で、緑髪の美少女の姿を知覚したことが原因である。
『貴方様と深く繋がったおかげで、ようやくお伝えすることができます……ヤマト様。恐れながらも、貴方様に頼みがあるのです――――我らの世界を邪神の手からお救いください』
そして、ミレーヌは語る。
異世界に存在する王国のことを。
王国を、人類を、滅ぼさんとする邪神とその眷属のことを。
それに抗うためには、魔神機を動かす資格を持つ勇者だけなのだと。
その勇者こそが、龍宮寺大和その人なのだと。
この時、大和が自分自身を特別だと思い込んでしまったことを、誰が責められるだろうか?
特別な声。
特別な使命。
自分を慕ってくれる可憐な美少女。
小学校高学年の…………ただの子供でしかない大和が、それを運命だと信じてしまったのは仕方がないことだと言えるだろう。
たとえそれが、王国が仕掛けた予定調和の運命だったとしても。
幸か不幸か、大和には才能も素質も根気もあった。
大和の身体能力は並大抵の者を遥かに凌ぎ、バスケットボール選手としての才能を開花させた。それが将来、勇者として戦うための下準備だったとしても。
問題児と絆を深めて、多くの人を集め、目標へと突き進むだけの素質もあった。
何より、そんな物語みたいな流れを実現させるために、並々ならぬ努力を重ね続けるだけの根気もあったのだ。
まさしく、その在り方は現代にして、勇者に相応しいと言えるものだっただろう。
『…………大和様。怖かったら、この使命を放棄してもいいのですよ? 元々、我々の戦いなど、祖先から続く後始末に過ぎないのですもの』
皮肉だったのは、王国側の仕掛け人――ミレーヌが本気で、大和のことを愛したことだ。
人と人を繋ぐ素質の持ち主は、もっとも近くで触れ合うミレーヌにこそ効果を及ぼし、だからこそ、ミレーヌの心に罪悪感を生まれさせたのだ。
『正直に言いますわ。貴方様が戦う必要はないのです……全ては、わたくしたちの罪ですので』
故に、本来は言う必要のないことも言ってしまったのだろう。
ミレーヌにとって大和はもはや、祭り上げ、都合よく動かすための駒ではなくなってしまったのだ。
けれども、そんなミレーヌに、大和は勇者の笑みと共に答えた。
『いいや、戦う必要はあるぜ? だって、好きな女の子に格好つけられる絶好の機会だろ?』
自信と好意に満ちた、一陣の風の如き爽やかな言葉だった。
『大和様…………ええ、期待していますわ。わたくしの大好きな人が、格好いい姿を見せてくれることを』
この時、大和とミレーヌの間には、本当の意味で絆が結ばれた。
断言しよう。
大和とミレーヌの二人は、今代の魔女と勇者の組み合わせの中で、最も強く、最も誇り高いものだったと。
召喚されれば、獅子奮迅の活躍で、たとえ全盛期を取り戻した邪神相手だろうとも、互角以上に戦えただろうと。
しかし、だからこそ――――帝国は、妨害する相手に大和を選んだのである。
敵対する国家を侵略する、その一手として。
●●●
約束の日を過ぎてもなお、連絡が来ない。
夢の中でいくら呼びかけても、ミレーヌから返ってくる言葉が無い。
これには流石の大和も参ってしまった。
具体的に言うのならば、精神科の予約を入れる程度には、自分自身を疑ってしまった。もしかしたら、自分はずっと長い間、自分にしか見えないし聞こえない幻覚を相手にしていたのかもしれない、と。
「いいや、違う。あれが幻覚だとしたら、俺の知らないことを知り過ぎていた」
だが、冷静さを取り戻すにつれて、大和はミレーヌの側で何かがあったのだと察する。
幻覚ならば、自分の知識以上のことを知っているわけがない。
異世界の知識、言葉、単語、その他の――漫画やアニメに出て来るには不必要過ぎる『現実の要素が混じった知識』を、大和はミレーヌからたくさん聞いたのだ。
ついでに、女子がやたらと調子が悪くて機嫌が悪い時、『あれはなんだろなー?』とさりげなく呟いたら、物凄く真剣に色々と教えてくれたので、幻覚でないと困り過ぎる。流石の大和も、幼い頃の自分が無意識にでも、そんな女子の豊富過ぎる内情をどこかで耳にしていたとは考えたくなかったからだ。
「異世界と連絡を取る方法を探すべきだな……無事で居てくれ、ミレーヌ。俺は必ず、約束通りにそっちに行く」
大和は強い覚悟を胸に刻みながらも、変わらず日常を過ごしていた。
急に生活態度が変わり、焦った様子を出せば周囲に心配をかけてしまうというのもあるが、慌てて動いたところで何も手がかりが無い現状だと空回りにしかならない。
可能性があるとすれば。
「…………もしかしたら、居るんじゃないか? こっちの世界にも、異世界人が。王国側の人間が」
あちら側の人間からの接触を待つこと。
「異世界転移には莫大なコストがかかると言っていた……多用は出来ないし、するべきじゃない。そうミレーヌは言っていた。だが、それでもこちらの世界の情勢を知らなければ、俺を探し出した時のように、勧誘を仕掛けるのもかえって余計な手間がかかる……それに、この勇者召喚のスパンは長い……莫大なコストも、長い時間をかけて分割すれば……」
大和の推察は正しい。
異世界の国家は主に、日本ピックアップ異世界勇者ガチャを行ってはいるものの、完全にランダムにまかせると、稀にとんでもないもの――どこぞのエリートボッチのようなもの――が召喚されることもあるので、事前にピックアップに該当した異世界の調査に出向くこともあるのだ。
予算がカツカツ過ぎる共和国以外は。
「今の俺に出来るのは、その時に備えて健全な心身を保ちながら……いいや、それ以上に自分を鍛え上げるだけだ……まぁ、流石に音沙汰がなかったら魔術のアプローチも――――」
そう、大和は間違えていない。
その推察も、魔術によるアプローチを考えるのも正しい。
…………問題があるとすれば、ただ、足りなかったのである。
「…………あ?」
危機感が。
異世界の人類とは邪神の脅威にさらされている弱き者どもなどではなく、邪神を食い物にしながら、人間同士の戦争を続けているある種の強者たちであると。
そんな者たちが、敵対する国家の召喚勇者に対してどんな手段を取るのか?
「…………母さん、父さん? 沙彩(さあや)?」
大和はそれを、自分以外の家族が殺されているという状況で、ようやく気付かされた。
大和の家族三人は、それぞれ胸を禍々しい形状のナイフで一突きされていた。
一瞬、何か質の悪い悪戯かと疑ったが、余りにも生々しい死臭がそれを否定する。
死んでいた。
間違いなく、大和の家族は何者かに殺されていたのである。
――――自宅に帰って来た大和が発見しやすいように、リビングに並べられた状態で。
「っつ!!?」
大和がその奇襲を避けられたのは偏に、強靭なる意志力によるものだった。
今すぐ家族の死体に駆け寄りたい衝動を噛み殺し、とっさに背後に跳んだおかげで、大和は死なずに済んだのである。
何せ、大和がついさっき居た場所には、家族に突き刺さったものと同じ形状のナイフを携えた襲撃者が居たのだから。
「…………外したか。流石勇者候補、勘が良い」
襲撃者は全身を真っ黒なローブで包み込み、その素性を明かさぬようにしていた。
「馬鹿が。ケチらずに魔術を使え」
「馬鹿はそちらだ。曲がりなりにも勇者候補。魔術の発動は察知される」
「だが、既に察知されたのならば、もう遠慮は要らぬだろうよ」
更に、同じローブに身を包んだ男たちが追加で二人。
合計三人の襲撃者たちが、それぞれに同じ形状のナイフを携えていた。
「可能な限り肉体は傷つけるな」
「知っている。心臓に突き刺せばいい」
「それが一番、利用価値がある状態だ」
そして、襲撃者たちはナイフを携えた手とは異なる手で、それぞれの魔術を発動させる。
火を。
氷を。
風を。
大和がミレーヌから伝え聞かされていたような魔術を使う襲撃者が三人。
これで、異世界側の干渉を疑うなと言う方が無理だった。
「な、なんでだ!? どうしてこんなことを!? 俺は! 世界を救うために――」
「「「答える必要はない」」」
けれども、社交性に長け、他者の顔色を窺うことに長けた大和は気づいてしまった。
目の前の襲撃者たちが、自分を人間としてではなく、資源として見ていることに。
「……っ!」
屈辱を強靭な意志力で噛み砕き、大和は自慢の俊足で家から飛び出ていく。
「ちぃっ!」
襲撃者たちはとっさに魔術を放って大和を止めようとするが、遅い。
魔術を使えなくとも、大和の身体能力は常人の遥か上。
更に、今は緊急事態に付き、無意識に肉体のリミッターが外れている。
大和はまるで、一陣の風のように、襲撃者たちを置き去りにした。
「はぁ、はぁ、はぁっ! なんで、なんでだよ!?」
逃げる。逃げる。逃げる。
息を荒くしながら、涙を零しながら、みっともなくとも生き延びるために逃げる。
けれども、口だけはこの理不尽に対して悲鳴を上げていた。
「俺は! 勇者で! 世界を、救うために! ミレーヌと!」
途切れ途切れに叫ぶ大和は知らない。
襲撃者たちは、王国と敵対している帝国から派遣された暗殺者であることを。
この暗殺者は元々、王国の勇者候補を殺して確保するためのであることも。
ましてや――――大和の情報を売ったのは、本来は大和たち勇者候補の守護者として派遣されたはずの……王国側の者たちであったことさえも。
何も知らない。
ただ、理不尽に喘ぐのみ。
「手間をかけせるな」
「っぐ!?」
そして、逃走劇は長くは続かなかった。
いくら大和が素早くとも、相手は魔術師。
転移魔術を習得している魔術師である。
逃げる大和を挟み撃ちするように転移して出現。その際、大和の手足に魔術を放って、行動を封じたのである。
「が、ぐぅううう……」
降りかかる理不尽に、大和はそれでも藻掻こうとする。
最後の最後まで諦めない。
ここで諦めたら、ただの無駄死にだと足掻く。
「精神は強靭だな」
「洗脳よりも改造が望ましい」
「強化個体として歓迎しよう」
けれども、襲撃者たちは大和の足掻きなどは一顧だにしない。
単に活きの良い実験体でも見るかのような口ぶりだ。
だが、それも当然。
未だ、召喚勇者としての力を持たぬ大和では、この襲撃者たちには勝てない。
――――現実は、都合の良いゲームのように出来ていない。
最初の村から、倒せるレベルから順序良く敵が出て来るとは限らない。
そう、現実というのはあまりに唐突に、理不尽に、人間を踏み躙るものなのだ。
「おおっと、青少年を害そうとする不審者発見! 死んでヨシ! だね」
たった今、襲撃者たち三人が、大和の眼前でバラバラに切り刻まれたように。
「…………は?」
あまりの事態の急変に、思わず放心する大和。
そんな大和の元へ、唐突に現れた救い主は、こつこつと足元を響かせて歩み寄った。
「やぁ、大丈夫かい? っと、怪我をしているじゃないか! 今すぐ治療をしないと!」
まるで、悪を挫き、弱きを助ける正義の味方のように。
「ふぅ、これで良し、と。君は普段から鍛えているようだから、これで動けるようになると思うよ? よかった、よかった……うん? 私かい? 私は佐藤。単なる通りすがりのおじさんだよ? 君を助けたのはまぁ……私の息子が、君と同じぐらいの年齢でね? ついつい手が出てしまった……おや? 攻撃手段? ほら、特殊ワイヤーだよ、特殊ワイヤー。恥ずかしながら、子供の頃からこういうのが大好きでね? こつこつ練習していたのさ」
佐藤という人物は、一見すると普通のサラリーマンに見えた。
人の良い笑みを浮かべる、壮年の男性。
使い込まれたスーツに革靴は、紛れもなく企業戦士の証だ。
少なくとも、大和は佐藤だけを見たのならば、本当にそう信じ込んでしまうだろう。
「あ、そうそう。襲撃者たちの素性を探らないとね。ええと、これかな?」
もっとも、バラバラの肉片となった襲撃者たちの荷物を漁り、平然と検証する姿は、常人からは程遠い。
ついでに、正義の味方というのは過激なその姿に、大和は感謝と同時に恐怖も覚え始めていた。
「君、このバッジの模様に見覚えは?」
「――っ! これは!」
だが、その恐怖は怒りによって吹き飛んだ。
何故ならば、佐藤が見せたそれは、まさしく異世界側――帝国の国旗の形をしたバッジだったのだから。
大和はそれを、ミレーヌから伝え聞かされた知識によって、よく知っていた。
「帝国の……なんで!? いや、まさか……だが、敵国だからって……っ!」
だからこそ、その知識が否が応でも大和に真実の形を連想させて。
「ふむ。どうやら訳ありのようだね? どうたい? この死体の片づけを手配する間、私に事情を話してみないかな? 力になるよ……何せ、私は人を助けるのが二番目に好きだからね」
そこに、佐藤という大人の言葉が差し込まれた。
この窮地、この絶望に、大和の精神は崩壊寸前。
加えて、眼前の大人は自分を救ってくれた恩人。
「……お願いします。俺の話を、聞いてください……荒唐無稽かもしれないですが……」
大和が全てを話すことを躊躇う理由などは無かった。
「なるほど。それは十中八九、戦争行為の延長だね。邪神を確実に殺せる手段は持っていて、ある程度余裕があるからこそ、他国の妨害にでも来たのかな?」
「そ、そんな――」
「でも、大和君。今はそんなことよりも、ご家族の状態を見に行こう。多分、君もそうしたいだろう?」
「……はい」
佐藤は適格に真実を指摘した後、戸惑う大和の背中をそっと支えた。
「大丈夫だ、私もついている」
「…………はいっ」
そして、大和は佐藤に支えられたまま、自宅に戻ってきて。
「…………完全に脈が無い。心臓を一突きだ。すまないね、大和君。私には、死者を生き返らせる力は無い」
「っつ! う、うあぁあああああああああっ!!!」
改めて、自身に降りかかった理不尽を、絶望と対面した。
「どうして! どうしてんだよぉ!? 俺が何をした!? いや、俺はいい! 俺を襲うんだったらいいよ!! だけど、なんで家族を殺したんだ!? ふざけるな……ふざけるなよぉ! 何が、何が戦争だぁ!!!」
涙を流しながら慟哭する大和。
その嘆きを、佐藤は憐れみの視線で見下ろして。
「大和君。私に出来る限りのことはしてみよう……だけど、犯人を見つける前に、このお三方の話だ。いいかい、私が可能な限り――――」
嘆き苦しむ大和を慰めんと、そっと寄り添うように言葉を紡いだ。
その時だった。
『世界を滅ぼさんとする絶望を持つ者よ、ワタシの手を取るのです』
大和の眼前に、まるで何かの奇跡の如く空間がわれ、そこから少女の手が伸びて来た。
理解不能の出来事だった。
だが、大和の直感が言っていた。
これは、今、自分の怒りの答えを持っている者だと。
「――――ああ!! やってやるよぉ!!!」
そして、大和はその手を…………邪神であるアレスの手を取ったのだ。
●●●
『よくある話だろ? なぁ、おい。ありふれているぜ。この世界だけじゃなくて、俺たちの居た世界でもさ、あり触れているんだよ。戦争で家族を殺されて、何もかもが嫌になった人間の話なんてよぉ』
現在。
邪神機のパイロットとなった大和は、吐き捨てるように言う。
『だけど、俺はまだマシな方だぜ。復讐の機会を与えられている。怒りのままに、この世界の人間を皆殺しに出来る権利が与えられている……ああ、もちろん、皆殺しにする人間の中に、善良な奴が居るのも知っているさ。今度は俺が、誰かの家族を奪う、最低のゴミ屑になるってことも知っているさ! 俺が! 間違えているってことも!! 何もかも知っている!! だが、それでも!!!』
怒りを抑えられないように、雅彦に向かって叫ぶ。
『殺さずに居られるか!!!』
絶望に砕かれ、どうしようもなくなった『無敵』の嘆きを。
『せめて! せめて、ミレーヌだけでも信じたままで居てくれれば! 俺はまだ我慢できたかもしれないのに! なのに! なんで、なんでだよ、ミレーヌ!!』
裏切られた者の、悲しみを。
『なんで!! 俺の代わりに召喚された奴を! 佐藤雅彦という被害者を殺そうとした!!? ああ、わかっちまったぜ! 王都に侵攻した時! 過去視の魔術で知ったんだよ!! 俺が知ろうとしなかった! ミレーヌの残酷な姿を!! 知りたくなかった! 知らないままで居たかった! だけど! もう! 手遅れだ!! 俺はもう! 駄目なんだよ!!!』
雅彦は過去の経験から知っている。
絶望に砕かれた者の在り方を。
自暴自棄が極まり、無敵となり、全てを放り投げようとする者の言葉を。
今、龍宮寺大和という被害者は、極めてそれに近い状態にあるのだ。
『俺はもう勇者になんてならない……世界を滅ぼす、邪神の使徒で十分だ』
擦り切れた大和の言葉。
もはや説得など不可能。
そもそも、最初から説得が可能な相手では無かった――――そのように普通は諦める場面なのだが。
『……えっ? いいの、それで?』
何故か、雅彦は心底困惑した声で、大和に問いかける。
『いいんだ』
あまりにも場違いなその声に、怒りすら滲ませて大和が答える。
『俺は、俺はもう、何もかもがどうでもよくて――』
『いや、違くて』
『あ? 何がだよ!?』
苛立ちを隠さない大和の声。
それに対して、雅彦は淡々と、問いを投げつけた。
『邪神と一緒に世界を滅ぼす前に、どうして自分の家族を蘇生しに戻らないの???』
しぃん、と一瞬、決闘場が静寂に包まれて。
『は? いや、え? だって、死……え?』
『魂さえ確保できれば、どうとでも蘇生出来るよ? ねぇ、マガツ?』
『うむ。我でなくとも、高位の魔術師や錬金術師ならば可能じゃろうな』
『ほらね?』
『…………え? えぇえ……嘘だぁ!』
『まぁ、四十九日という言葉もあるぐらいだし。それに、帝国が使っていたナイフとかあるでしょ? あれって何か細工とかしてない? そもそも、家族を殺す理由は? 君を排除したいのなら、君だけを殺せばいいだろうし。家族を巻き込んだのは、君を兵器として改造した後、上手く運用するために、程よく殺して魂を保存する状態で維持し続けるためとか?』
『…………あ、アレス様!』
『戦馬鹿のワタシに、その手の質問をして真っ当な回答が返ってくると思っているのです?』
『確かに!!?』
完全に戦意は消え去り、その後、二体の機体は刃を交わすよりも言葉を交わし合って。
『『…………タイムで!!』』
『『認めよう!!』』
かくして、邪神側からの要請を受け入れる形で、決闘は一時中断になったのだった。
ちなみに、佐藤のおじさんは別に黒幕でもなんでもなくガチの通りすがり。