ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
『きゃはははっ! ラッキーでしゅー! 不意打ちで、厄介な転移持ちをぶち殺せたなんて! これは姫しゃまから、ばぶばぶよしよしもある展開でしゅー!』
透明な機体が、真紅の機体を貫き、砕き、引き裂いていく。
その際、真紅の機体からは、真紅よりも色鮮やかな赤い液体が噴き出していた。
「え? 死んだ?」
『《ふむ。死んだな、あれは》』
「…………あのさ、魔神機って、血が出るの?」
『《魔力を循環させるための液体ではあるから、血液みたいなものではあるのう》』
そんな凄惨な現場を、僕とマガツは遠くから眺めていた。
なお、冷静なマガツと違って、僕はドン引きのゲロゲロである。
ロボットアニメの爽快な戦闘を見ていたと思いきや、いきなりのスプラッターのグロ動画で最悪過ぎる。人が死ぬ光景とか、初めて生で見ちゃったし。
『《魔神機を展開する魔女は、機体のダメージをある程度肉体にフィードバックしてしまう。故に、今回みたいに初手でコクピット(急所)をぶち抜かれれば即死じゃ。まぁ、たまに死んだふりをする機体もあるから、透明な機体は念入りに破壊しているのじゃろうな》』
「うぇっぷ。ただの残虐趣味じゃなくて?」
『《あの機体を動かす魔女は、恐らくは歴戦じゃろう。魔神機は普段使いするには魔力のコストが重すぎるが、逆に言えば、そのコストさえどうにかすれば、魔女単独でも動かせるといえば動かせるからのう。過去に実戦でも経験していたのじゃろう》』
「そういえば、機体を動かすのって勇者じゃないんだね?」
『《勇者は基本バッテリーに専念じゃ。よほど才能が無ければ、現地で機体の扱いを練習できる魔女が動かすのが適任じゃからなぁ》』
「身も蓋も無い正論」
『《ただし! 我らはもちろん、お主がパイロットじゃ! 何故かって!? その方がロボットアニメの主人公っぽいからじゃ!!》』
「凄い、正論を蹴り飛ばして浪漫を語ってる」
あ、マガツと馬鹿な話をしていたら、ちょっと吐き気がマシになって来た。
よしよし。じゃあ、さっさと逃げよう。
人の不幸を喜ぶのは最低だけど、あの透明な機体が暴れたおかげで、大神殿の注意はそっちに集まっている。
今なら、さほどの追手を差し向けられずに逃げられるはず。
『死亡確認……ヨシ! じゃあ、いよいよ、大神殿の奴らの虐殺タイムでしゅー!』
ほら、予想通り、透明な期待は大神殿を破壊し始めた。
…………でも、質量はそこまで多くないのか? 巨大ロボットではあるけど、細いのか? 神殿の外壁を圧し潰す形が、こう、微妙に細長いような……ま、考察は後で!
「さぁて、今の内に逃げるかな。どうせ、大神殿の勇者は、あいつを撃退するのに戦力を使うだろうし。今なら安全に逃げられる……で良いんだよね?」
『《間違いではないが、間違いではあるのう》』
「うん? どういうこと?」
僕が首を傾げると、遠くからどかーん、がしゃーん、と外壁が砕かれる音が響く。
それと悲鳴。何か、果物が潰されるような音。
…………あの? もういいんですけど? 視界とか聴覚とかの同調を解いてもいいと思うんですけど?
『《今なら安全に逃げられる、は正解じゃ。その通り。何故なら、大神殿はそれどころではない》』
「だったら――」
『《じゃが、大神殿の勇者が撃退に出て来るというのは、間違いかもしれんな?》』
「へ?」
いや、いやいや、マガツ?
何を言ってんの? 襲われてんだよ? 拠点だよ? 人とか死んじゃってるよ?
普通、戦力があるなら、どーんと出して撃退するでしょ? あっちは一機だけなんだし。
…………いや? どうだろ? 一機だけ、と見せかけて、意外と初手の総力戦で敵国を潰そうとしていたり?
『《何やら考えているようだが、違うぞ、我が契約者よ。お主はあれだな。窮地で色々と頭を回す癖に、常人の理屈というものを理解していないらしい》』
「へ?」
『《――――怖いんじゃよ、常人はな》』
え、何が?
『《意気揚々とテンシを狩った魔神機が居る。そやつは仲間じゃった。けれども、謎の透明な魔神機に奇襲を受けて即死。そりゃあ、怖いに決まっておるじゃろ? 戦うことが》』
「う、うん? そ、そりゃそうだけどさ? でも、怖くてもやらないといけないじゃん? それにほら! アルバート王国の勇者っていうのは、事前交渉を重ねて色々と覚悟を決めて来た人たちなんでしょ?」
『《覚悟など》』
嘲笑う声が聞こえる。
『《凄惨な死の前では、どれだけ意味があるのやら》』
命を、人を、嘲笑う邪悪の声が。
『《ただまぁ、生命とは意外としぶとい。あの大神殿が半壊でもすれば、ようやく動き始めるじゃろうて。いくら、奴らがほぼ新兵の集まりみたいなものでも》』
「そ、そっかぁ」
『《当然、我らに対する追手を出す余裕などは無い。くははは、これは戦わずして勝利という奴だな! やはり、正義は勝つのだ!》
「正義かなぁ?」
なるほど、理屈はわかった。
それに、安心した。どうやら、安全に逃げられるのは確かなようだ。
「だ、誰か助けて!」
「死にたくない! 死にたくない!」
悲鳴を上げて逃げ惑う人を見捨てれば、僕らは安全に逃げられる。
…………躊躇う必要があるか?
だってほら、大神殿の人たちさ、僕を殺すか、意思を潰してバッテリーにしようとしてたし。
「まだですの!? 勇者たちはまだですの!? くうっ! 勇者召喚に魔力を使い果たしていなければ! わたくしも戦えましたのに!」
あそこにいる緑髪の美少女――ミレーヌだってさ。
自分の都合で僕を殺そうとしてたし。助ける理由なんて皆無だよね!
「大和様さえ、大和様さえ居れば! くぅうっ!!?」
仮に助けたとしてもさー? お礼とか言いそうにないよね? 恋愛フラグどころか、死亡フラグとか立ちそう。だってほら、現状の協力者が邪悪なロボットしか居ないわけだし。
それを使って助けたとしてもさ? 『ぎゃああ、邪悪な存在が封印の外を練り歩いているぅ!』みたいにしかならなくない?
はぁい、というわけで助けませーん! 逃げまーす!
「大和様……大和様……」
僕は被害者だしー? 戦争に巻き込まれた被害者だしー? 多分、襲って来てる機体もアルバート王国と敵対しているところだろうしー? 勝手に殺し合ってろって感じ!
「…………うぁ。いや、いや……っ! 死にたくない! 死にたくない! 大好きな人に会えずに、死にたくない!」
佐藤雅彦、全力で見捨てて逃げまーす!
「たすけて」
「来いっ!!! マガツオー!!!!!」
どぉん!!! と僕の眼前に、黒の巨体が召喚された。
『ばぶぅううう!!? にゃにごとでしゅ!!?』
その威容たるや、大神殿に鳴り響いていた破壊音が止まるほど。
『問おう、我が契約者よ』
厳かな声が、上から降ってくる。
『何故、我を呼んだ?』
その声に込められた感情を、僕は知らない。
『情でも湧いたか? 見目麗しい魔女に惑わされたか?』
ただ、わかるのは、受け答えを間違えれば見限られるということだ。
どれだけ僕が都合の良い存在であったとしても、所詮はマガツの気分次第。
気分が向かなければ、僕の立場なんて紙屑のように消し飛ばされる。
『それとも、英雄思想が湧いたか? 我の力を期待して、今なら英雄にでもなれると思ったか? それならば、それでもいい。なぁに、ロボットアニメの主人公は、それぐらい向こう見ずの方がいい。それならば、我も正義のために戦おう』
ただ、それはそれとして。
『さぁ、答えよ。我が契約者。お主は一体、何のために―――』
「うるせぇええええええええええええっ!!!!」
『!!?』
いい加減、僕はブチ切れてんだよなぁ!!
「人が学校に行くところを、勝手に召喚して!! 勝手に妨害の弾にして!! 勝手に殺そうとして来やがってよぉ! あんな奴ら、全員死のうが知ったことじゃねーわ! 僕の知らないところでだったら、むしろ死ね! 全員死ね!!」
『むぅ。だったら――』
「だけどぉ!! 普通に考えて!! 普通の価値観で!! 目の前で人が死んだり殺されたりするのは凄く不愉快!! 気持ち悪い! むかつく! はぁ!? 僕は何も悪くないのに、なんでこんな不愉快な気分にされるわけ!? 超腹が立つんですけどぉ!!?」
『いや、お主。それはほら、こういう世界だから――』
「知るかぁ! 世界の事情なんて知るかぁ!! なんで好き好んで来たわけでもない世界の事情に僕が合わせないといけないんだよ!? むしろ、世界が僕に合わせろ!!!」
『無茶苦茶言っとるのじゃ……』
そうですがー!? 無茶苦茶ですが、何かー!?
道徳とか、倫理とか、常識とか、全部知ったことではないですがー!?
「なので! これから僕は、不愉快要素を殴りに行きます!! あの透明な機体、声が不愉快だからぶっ壊すわぁ!!」
『ふむ。つまり、お主の癇癪に付き合えと? じゃあ、それが果たして正義の――』
「うるせぇ」
『!!?』
だから、知ったことじゃないって言っているだろうが、マガツ。
「僕は今から好き勝手に動く。その行動に正義を見出したいなら勝手にしろ」
『じゃが、お主は今、無力だぞ?』
「どうとでもするわ」
『不可能じゃ』
「だったら、黙ってそこで見てろ」
僕は大神殿に向かって一歩踏み出す。
さぁて、どうするかねぇ? 色々考えてはいるけれども、どれでも九割九分は無駄死になのが笑えるね。
『我が契約者よ』
「なに?」
『本気か? 本気で、我が力を貸さなくとも、単独で殴りに行く気か?』
「そうだよ」
『死ぬぞ?』
「だから?」
いや、即答はしたが、死にたくないな。
死にたくはないが――――腹が立っているので仕方がない。
「いい加減、ごちゃごちゃうるせぇよ、マガツ。僕の手伝いをしたいなら、さっさとそう言え。それなら、借り受ける力の分ぐらいは正義の味方をやってやるさ」
歩く、歩く、歩く。
未だ、こちらを測りかねているだろう透明な機体を通り過ぎて、大神殿の元へ歩いていく。
マガツの姿は見ない。
既に言うべきことは言った。
後は振られたサイコロの目次第だろうさ。
――――などと恰好付けていたら、後ろから謎のにゅるりとした触手に絡め取られた。
「んんんん???」
見ると、それはマガツの機体、その腹部からイソギンチャクの如く生えてきている。
『く、くくくくっ! くははははははははははっ!!』
突然の触手プレイに戸惑っていると、何故かマガツが笑い出した。
哄笑、と呼ぶに相応しい、壮絶な悪役笑いだった。
『そうだ、そうだったのじゃ! ああ、忘れていた! 何せ、五百年も微睡んでいたのだから! 忘れてしまっていた! そうだ! これだ! 我が焦がれた男は確かに、こういう奴だった! 傲慢極まりない、大馬鹿野郎じゃった!!』
「あの、マガツ? マガツさん? 笑うのは良いけど邪魔しないで――」
『故に! 認めようではないか、サトウ・マサヒコよ!』
そっとマガツの方を見ると、鎧の胴体部分がまるで口のように開いている。
わぁ、何か機械と肉が混ざった中身が見えちゃってるぞ?
…………あの、ひょっとして?
『お主は! 真に、我が契約者に相応しい!!』
ばくん、と大口に僕は飲み込まれる。
体中を包む生暖かい暗黒に、『あ、捕食体験ってこういうのかー』などと場違いに呑気な感想を抱いて。
『超融合』
次の瞬間、僕は開けた視界の中に居た。
荒野の果てまで見えるような、とても高い何かの上に立っていた。
―――否、違う。
僕が立っているのは、この荒野の上で。
僕の視界が広く、視点が高くなっているのだ。
『さぁ、初陣じゃ、マサヒコ。思う存分、その大馬鹿っぷりを晒すがいい』
そう、僕は今、マガツ――最強勇者マガツオーそのものになっていた。
Q:会話の間に、透明な機体は何やってんの? やる気あるの??
A:ラスボスのムービーが流れている間に邪魔すると、戦闘スキップで死ぬのを察した模様。