ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
――――嫌な予感がする。
大和は異世界追放を受け、元の世界に帰還してから、真っ先に自宅へと向かっていた。
けれども、その頭の中で鳴り響く警鐘は鳴り止まない。
何かしらの直感か? はたまた、不安による神経衰弱なのか?
どちらにせよ、大和は凄まじく嫌な予感がしていた。
「ヤマト。大丈夫なのですよ」
「…………アレス」
そんな大和の手を、ぎゅっとアレスが握る。
「帝国は悪辣なのです。どうせ殺すのなら、その魂も利用し尽くすはず。易々と死なせるような真似はしないのです!」
「なぁ、それって本当に大丈夫なのか?」
「仮に死んでいたとしても! まだ輪廻から次の人生に巡っていないのならば! 『口寄せ』の形で魂を呼び寄せることも…………現世に未練があったり、強い縁があったりすれば可能かもしれないのです! だから大丈夫!!」
「アレス…………ありがとう」
相棒からの力強い励ましに、大和の中の不安が少し和らいだ。
「…………」
そんな二人の様子を、ミレーヌは少し離れたところから眺めていた。
その横顔には、明らかな憂いの表情がある。
「どのような状態であっても、我がアスモデウスの権能ならば、ある程度対応できますわ。それよりも、今は早く遺体の状況を確認することが先決です」
けれども、直ぐに表情を引き締め、真面目な言葉を紡いだ。
自分の中にある憂いも、悲しみも、恋する乙女としての未練も、浮かんでこないように。
「ああ、そうだな、ミレーヌ……その場合は頼む」
「任せてくださいませ。貴方を巻き込んでしまった分、きちんと責任は取りますわ」
アレスとミレーヌ。
二人の頼りになる声を受けて、大和は家へと急ぐ。
だが、やはり継承は鳴り止まない。
嫌な予感が強くなる。
神に祈りたくなるが、神は既に隣に居る。
ならば、怖いものはないはず、と自分を屁理屈で誤魔化そうとしても、やはり恐れが残る。
何故か?
――――人類を滅ぼそうとしたからだ。
神であるアレスならば、正当なる復讐者ならば、報いなど来ないかもしれない。
だが、大和の中では、人類を滅ぼそうとしたことは間違いであり、八つ当たりであり、とんでもない大罪だった。
だからこそ、恐れるのだ、報いを。
自分の中の冷たい部分が囁くのだ。『お前にそんな都合の良い結末があるとでも?』と。
「……っ! それでも、俺は!!」
恐れを胸に抱いて、それでも大和は進む。
共について来てくれる者たちが居る。
道を正してくれた者たちが居た。
故に、大和は戦に挑むような心持ちで、自分の家の玄関を開いて。
――――そして、報いは訪れた。
「おっ! 帰って来たんだな、大和! 父さん、心配していたぞ!!」
「???」
父親が年下の性癖を歪めそうな茶髪糸目系美少女に変貌している、という形で。
「いやぁ、ごめんね、大和君。これでも最善を尽くしたんだけどさ? どう頑張っても、君のお父さんが美少女になる流れは避けられなかったよ」
「なん、え? 美少女? 何故に???」
「他の二人を可能な限り形を保って蘇生させたんだけどね? 私の伝手を持っても秘薬のストックが無くて。仕方が無いから、新生する感じの神秘を用いたのさ」
「な、なるほどぉ……いえ、その……家族を助けてくれてありがとうございます! 佐藤さん!!」
「うん。色々な気持ちを飲み込んで、そう言える君は素晴らしいよ」
結論から言うならば、謎の紳士である佐藤が色々頑張った結果がこれだった。
「わーい、お兄ちゃん! 私ね、物凄く強いゾンビになったよー!」
「こらこら、沙彩。これは尸解仙という、とーってもありがたい状態なのよ? これからきちんと修行して、仙人になれるように頑張りましょう」
「はーい! 頑張るよー!」
なお、妹と母親は佐藤が入手した秘薬により、特殊な形で蘇生。
姿形、精神は概ね生前と同じなのだが、副産物として仙骨――仙人としての才能が発生してしまったため、これから修行の日々が待っている。
「ふふふっ、母さんね。一度、仙人になってみたかったの……お母さん実は、子供の頃からそういうアニメや小説が好きでねぇ」
「異世界の工作員に殺されたけど、通りすがりのおじさんに飛躍を貰ってチート仙人への道が開けた件について!!」
そして、大和の想像以上に二人はノリノリだった。
いきなり理不尽に殺されるという経験をしてもなお、図太く新しい人生を楽しんでいる二人だった。
「うんうん。経過は問題ないようだね」
もっとも、これには流石に佐藤の手も加わった結果なのだが、大和がそのことに気づくことはないし、気付く必要も無い。
精神的トラウマを抱える可能性が排除されたことに文句を言う大和ではなく、何より――。
「大和……父さんな? これから美少女大学生配信者として食べていこうと思うんだ」
「父さん!?」
「後、大学の文科系サークルに入って、ファムファタルっぽいムーブをしてみたい」
「父さぁん!!? もっとこう、元の体への未練とかは!!?」
「大和! 男たるもの! 美少女にTSしたのならば! その運命を受け入れるものだ!」
「どんな男らしさ!!?」
父親が美少女の姿ではしゃいでいるので、色々とそれどころでは無かった。
自分が異世界で人類を滅ぼそうとしていたことなど、頭から弾き出されるほどの衝撃だった。
「ふふふっ。賑やかで温かい家族なのです」
「……アレス、貴方はそれでいいのかしら? いえ、いいのでしょうね」
そして、アレスとミレーヌはそんな大和の様子を、どこか微笑ましく見守っている。
完全無欠のハッピーエンドとはいかないが、悲劇からは程遠い光景を。
「……ぜぇ、ぜぇっ。この件については、また父さんときっちり話すとして……改めて、佐藤さん。本当にありがとうございます、家族を救ってくれて」
「いやいや、構わないさ。言っただろ? 息子が君ぐらいの年なんだよ。一人の親としては、ついつい同情してしまってね?」
「佐藤さん……」
「それに、私は人を助けるのが二番目に好きだからね。自分の好きなことをやっているんだ。なんの労もないさ!」
そして、大和は一旦、父親との会話を切り上げて、改めて佐藤へ感謝の気持ちを伝えていた。
「だけど、それじゃあ、俺の気持ちが収まりません! いつか絶対! この恩は返します!」
「そうかい? なら…………あー、うん。いや、恩返しは不要かな?」
「な、何故!?」
「こういう時、私は大抵、『一番目に好きなこと』をするための手助けを頼むんだけどね? なんとなく、今、それをすると息子に尋常じゃなく嫌われる予感がしてねぇ」
「えっと?」
「ふふっ。何でもない、ただの戯言だよ」
ただ、佐藤の態度は変わらず飄然としている。
死者を蘇生させ、一人の少年の精神を救ったとは思えないほど、平常な姿だ。
そう、どこか不気味さすら感じるほどに。
「……ちなみに、佐藤さんが『一番目に好きなこと』って?」
「ははっ」
恩人を前に、どこか背筋が凍えるような悪寒を覚えつつも、大和が訊ねる。
「秘密だよ。知らなくてもいいことさ、今回の結末ではね」
しかし、その答えに辿り着くには、大和の結末はあまりにも幸せで。
謎の紳士である佐藤の正体は明かされぬまま、彼らの幕は落ちたのだった。
「あ、それはそうと。今回使った秘薬の関係で、仙人の組織から狙われると思うから、その対策は今すぐ始めようね?」
「佐藤さん???」
もっとも、大和の新たな物語の幕は、また即座に上げられてしまうのだが。
●●●
駆ける。駆ける。駆ける。
透明なる影が三つ、音もなく都市の隙間を駆け抜けていく。
『《警告! 警告!》』
『《逃亡者に警告する! 速やかに投降せよ! 抵抗は無意味だ!》』
『《逃亡者の命は無価値だ!》』
『《射殺許可――認証。半径八十メートルの者たちに警告する! これより、この場は我らシグナルの殺戮領域となる! 速やかに立ち去るように!》』
無音の影を追うのは、黄色の装甲を纏ったパワードスーツ。
人間程度の大きさでありながら、量産型偽神機と同等の出力を誇る、軍用の兵器。
それらが合計で七体。
終えぬはずの影を追っていた。
『死ぬ、死ぬ、死んじゃうよぉ! シャル! どうして隠蔽の権能を発動させているのに、あいつら追ってくるのぉ!?』
『悲鳴を上げる前に足を動かすでしゅ、リエ! 恐らく、偽神機の摸造権能で、一時的に痕跡を視ているだけでしゅよ。早々長くは続かない!』
『…………いいや、我が騎士よ。そうは上手く行かぬらしいな』
透明な影は駆ける。
高い建物――摩天楼の如きビルの側面を。
がしゃん、とガラスが割れるのにも構わず駆け抜け、この場からの離脱を試みる。
『《痕跡を発見!》』
『《動くな! これは誘いだ!》』
『《レライエの魔女は歴戦! 近づく前に空間を隔絶させろ!》』
けれども、黄色のパワードスーツ部隊――シグナルの隊員たちは冷静だ。
パワードスーツに内蔵されている魔道具の補助により、空間魔術を展開。
空間そのものを隔絶する結界を敷き、透明な影たちを逃がさぬように場を整える。
『ふん。わらわを捕らえるため、随分と金を注ぎ込んだようだ。空間魔術を発動させる魔道具を、使い捨てにしてまで効力と発動速度を高めたか』
『どどどど! どーするのぉ!? シャルぅ!!』
『…………仕方がないでしゅねぇ。レライエ、部分展開』
透明な影の一つ――レライエの魔女たるシャルは、その姿と、ナナフシの如く細い機体の一部を出現させる。
『姫しゃまを安全にお運びしゅう時間を邪魔しゅる……万事に値するぞ、貴様ら』
シャルが展開したのは、魔神機の一部分。
既に、マガツオーという黒騎士にボコボコに敗北し、失ったはずの機体だが――何を隠そう、既にその機体は修復されていた。
そうなるように、マガツオーの片割れであるマガツが仕込んでいたのだ。
従って、一部であろうとも魔神機を展開したシャルは、この場に於ける戦力の最上位に君臨する。
魔神機は、邪神を討伐するために作られた機体。
何万もの死が積み重なり、ようやく製造可能となった神にも届く機体。
権能を持たぬ者どもでは到底、敵うわけが無い。
それがこの世界の常識だ。
『《魔神機の展開を確認》』
『《偽神機の召喚を要請》』
『《魔力炉最大駆動》』
『『『《来たれ、イエローシグナル》』』』
今、この時までは。
『…………これ、は!?』
シャルは驚愕と共に目を見開く。
その視線の先にあったのは、異形の翼を持つ偽神機――――否! 六枚の翼を持つ、テンシの遺骸を用いた『何か』だった。
『《我らがキュオン工業が作り上げた、テンシ計画が内の一つ》』
『《三対六枚の翼を持つ、異形の偽神機》』
『《戦闘特化ではないレライエでは、到底敵わぬものと知れ》』
イエローシグナルと名付けられた機体を簡単に表現するのならば、『翼の生えたドラム缶』だ。
本来ならば動きようのない巨大な円柱。
それに翼を生やし、無理やり羽ばたいている。
だが、その機体の真なる力は――権能の脅威はこれからだ。
『《ゲート固定》』
『《イエローシグナルの権能――『召喚』を発動》』
『《異界の怪物を呼び寄せ、魔神機を蹂躙せよ》』
イエローシグナルの機体が、がぱりと縦に開く。
すると、その内側には無数の機械と、それから出力される無数の魔法陣が。
――――召喚特化。
この世ならざる怪物を呼び出し使役し、単独で戦況を変えることすら可能なテンシ。
その遺骸を改造し、召喚の権能を最大限にまで高める兵器としたのが、このイエローシグナルという機体である。
『まずい! レライエは隠密特化! 軍勢召喚とは相性が悪い!』
『しゃ、シャルぅ! 逃げてぇ!』
未だ、隠れたままの透明な影二つは、悲鳴のような叫び声を上げた。
『《無意味だ》』
『《逃がさん》』
『《第一皇女よ、貴方様の命を頂戴します》』
だが、シグナルの隊員たちは、無慈悲な現実を叩きつけるように、召喚の権能を発動させる。
『ストック解放――――疑似権能・浸食』
その直前、今まで隠密の権能によって隠していたレライエの腕部分が、イエローシグナルの機体を掴み、浸食の権能を発動させる。
マガツがいざという時のために仕込んでおいた、とっておきの土産を発動させる。
――――ガシャンッ!!!
すると、イエローシグナルの機体に黒いヘドロのようなものが一瞬で染み込み、蝕み、バラバラに破壊し尽くしてしまった。
『本家本物ならば操れるんでしゅけど……あちきにはこれが精いっぱい』
そして、バラバラになったイエローシグナルの部品が降り注ぐ中。
『じゃあ、死ね』
一片の容赦もなく、シャルはシグナルの隊員たちをレライエで叩き潰した。
ヴァイス帝国首都、ノクスオールに夜は訪れない。
街中に張り巡らされたネオンは、闇を退ける。
天を突くように建てられた無数の摩天楼からは、命の光が零れ落ちる。
住民たちの音が途切れることはない。
喜怒哀楽が混ざった音が鳴り響く街の上空には、一つの月が浮かんでいた。
――――機械仕掛けの月が。
機械仕掛けの月は、今日も勝利の機械音を降らせる。
ぎぎぎぎ、ぎぎぎぎ、と歪な音を響かせる。
そして、帝国の首都から、時報のように一つの声が機械音を上書きした。
『《本日は邪神討伐に成功してから、四日目です。帝国の勝利を記念し、中央公園でサタンプロダクションによるセレモニーが開催されます。皆さん、奮って参加しましょう》』
帝国の勝利を告げる声は、毎夜、この街に響き渡る。
機械仕掛けの月の音を――――邪神機の遺骸を改造し、作り上げた超兵器の駆動音を搔き消すように。
「あはははっ! あははははっ! さぁ、人間どもによる饗宴を見せてください! どの道、結末は決まっていますけどねぇ!!」
されど、邪神の声は消えない。
討伐されたはずの邪神、月神ルナの声は消えない。
消えぬまま、眠らぬ街の中を彷徨い続ける。
――――来るべき破滅が訪れる、その時まで。
●●●
月は破滅を呼び込み、人は饗宴の中で終焉を迎える。
この結末は避けられない。
月神の策略からは逃れられない。
運命は既に定まっている。
けれども、もしも、機械の如く精密に組み立てられた運命に狂いが生じるとすれば。
『んあーっ! もう!! 追手がしつこいのでしゅ!! こうなったら、もう、あの悍ましい災神の元にワンチャン……比較的マシな男子が居れば何とか……あちきとリエの処女だけで何とか……』
『私の処女を勝手に貢物にカウントしないで!!?』
『うるしゃーい! 処女ぐらいで姫しゃまがたしゅかるなら! 安いもんでしゅ!!』
『でも、最悪、触手プレイでしょ!!?』
『元々死んでた命でしゅから、そこは受け入れるのでしゅよ!!』
『…………シャル、リエ。わらわは既に王宮を追われた身の上。故に、帝国を正す機会があるのならば! この身を喜んで捧げよう!!』
『『いえ、大丈夫です』』
『…………触手プレイも受け入れよう!!』
『『本当に大丈夫です』』
『………………災神の使徒である異邦の男子に、帝国の姫たるわらわがその尊厳を――』
『『国際問題になりますから』』
『しょぼーん』
嵐の如き馬鹿騒ぎが訪れた時だけだろう。
お察しの通り、帝国の第一皇女は生真面目で誇り高いむっつりどすけべです!!!