ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
王国全土ぼこぼこツアーは三日で閉幕となった。
初日は威勢の良い戦略級の魔術師がやってきたのだけれども、そいつらを片っ端から倒して行く内に、段々と襲撃の勢いが弱まって行き、最終日にはなんかもう街に行く度に白旗を振られるものだから、ほとんど戦っていない。
壮大に『戦いはこれからだ!』などと意気込んで始めたものの、その終わりは尻すぼみという結末になってしまったのである。
まぁ、最終的には王様を殴れてすっきりしたからいいけどね?
とはいえ、僕たちの戦いはまだ終わらない。
三柱居る内の一つを打倒したに過ぎない。
まだ二柱、邪神は残っている。
それらを打ち倒さない限り、僕とマガツの旅は終わらないのだ。
はい、そんなわけで。
次の目的地である帝国に行こうと、僕らは迷宮都市バルムで準備をしているわけだけれども。
「兄様」
「なんだい、エリス」
「私も行くから」
「…………」
「私も帝国に行くから! 兄様を手伝いに!!」
僕は現在、いつぞや借りていた宿で、エリスにがっつりと抱き着かれていた。
それはもう、恋人同士がやるようなハグなんか目ではないぐらい……こう、ね? 怪人が獲物を仕留める時、逃さないように捕まえて置く感じの抱き着きを受けている。
ううむ、これは困ったね。
「エリス。いいかな?」
「よくないわ! だって、兄様が言葉を弄したら、私は納得してしまうもの!」
だから聞かない、と僕の腹部に顔を埋めて抗議するエリス。
いや、本当に困った。
エリスの目的である立派なヴィランになることは実は、今の実力でも十分達成可能だ。
だから、僕らに付いてくる旨味は無いし、手伝いをするにも、僕としてはエリスを巻き込んでしまう心理的負荷によるデバフの方がしんどいから、可能な限りこの街に置いておきたいんだけど。
「頼りになるって! 私は頼りになるって、兄様言ったもん!!」
流石はエリス。僕の弟子。
痛いところを突いてくる。
そうなんだよねぇ。あのグレイブを仕留めたエリスは正直、これからもガンガン容赦なく鍛えれば、頼りになる片腕ぐらいに成長してくれそうな見込みがあるんだよね。
ただ、盛大に王国全土に喧嘩を売ってしまうような僕らの旅に、『危険だけどついてこい』と言ってしまうのも無責任というか。
「マサヒコよ」
「うん? 何かな、マガツ。言っておくけど、洗脳は駄目だよ?」
「違う」
僕がエリスにしがみつかれたまま悩んでいると、マガツはうねうねと触手を動かしながら答えた。
「ここまで頼み込むのじゃ。一緒に連れて行けばいい。本当に最悪の場合は、我が魂を拾って蘇生すればいいだろう?」
「…………でも、魂を刈り取るタイプの敵が居ないとも限らないじゃん」
「それは流石に過保護が過ぎるのじゃ、マサヒコ」
「うぐぐぐ」
わかっている。わかっているよ?
でもさぁ、割と妹みたいに可愛がっていた相手だしさぁ……ああもう、仕方ないなぁ。
「わかったよ、エリス。条件付きで許可する」
「ほんとぉ!?」
「本当だよ。だけど、その条件は僕基準でも厳しいものだからね?」
可愛い子には旅をさせよ、とは言うけれどもね?
旅をさせる前に、旅に耐えられるぐらいの強さまで引き上げたいのが僕の本音だ。
だけど、エリスが達人になるまで鍛え上げる猶予は無い。そんなことをしていれば恐らく、残る邪神たちが人類を滅ぼしうる計画を発動させるだろう。
だからこそ、ここでエリスを試すのだ。
「僕が帝国に連れて行こうと思っていた仲間たち三人。彼らに同行を認めさせなさい。実力でも、話術でも何でもいい。結果を出して見せるんだ、エリス」
「――はいっ!!」
元気の良い笑顔で返事をするエリスを、今よりも更に強くするために。
●●●
一人目。
帝国に行くにあたって、まずはその内部情報を知る必要がある。
今、帝国の情勢がどうなっているのか? どのような暮らしをしているのか?
僕が連れて行こうとした仲間の一人は、そういうことに詳しい男だった。
「ハハハ! ヘイ、マサヒコォ! このガールが帝国行きの仲間になりたいって? おいおい、冗談はこの可愛らしい犬耳だけにしておくんだな、子犬ちゃん!」
名前をマーカス。
スキンヘッドで筋骨隆々の大男である。
こんな図体をしているが、実際は情報関係の魔術を扱わせればエキスパートだ。
「…………誰ェ!!?」
一方、マーカスの自己紹介を受けたエリスは混乱していた。
「誰なの!? え!? 姉様とか、享楽都市で仲間にした人だと思ったのに!?」
「マーカスは王国全土ボコボコツアーの途中で知り合った、帝国の工作員だ」
「工作員なの!?」
「色々こう…………短編小説一つ分ぐらいのやり取りの末に仲間になった。どんな時でも冷静な頼れるタフガイだぜ?」
「ぽっと出の知らない人が、兄様の信頼を得ている!?」
やれやれ、意外と人見知りだなぁ、エリスは。
「ヘイ、ガール。マサヒコはミーの命よりも大事な人を助けてくれた……つまり、返し切れないほどの恩があるんだよ。だから、子供だからって容赦しねぇ。マサヒコの邪魔になるなら、ミーはお前を認めねぇ」
「……っ!」
「へっ、ようやくそれらしい表情になったかよ、ガール! じゃあ、行くぜぇ! 最初の試練の時間だぁ!」
そして、マーカスはやはり強面の外見とは裏腹に、面倒見が良い。
「人間、力だけあれば十分ってわけじゃあない! さぁ、ボードゲームを始めるぞ!」
「むぅ! ボードゲーム!」
「ハハハ! 安心しな、子犬ちゃん! きっちりとルールは教えてやるよ!」
「馬鹿にしないで! 私だって、兄様から色々勉強のことも学んでいるわ!」
挑発的な言動をしつつも、きっちりとエリスを終始リード。
その上で、エリスの成長を促すような形で勝利させて、大げさに敗北を悔しがって見せた。
ふふふっ、やっぱり頼りになるな、マーカスは!
…………まぁ、身重の奥さんが居るから、絶対に無理はさせられないポジションなんだけど。
二人目。
帝国に行くには当然、伝手が必要だ。
入国審査は隠蔽の権能でいくらでも誤魔化せるとしても、内部に入り込んでスムーズに動くには相応のコネクションを必要とする。
僕が連れて行こうとしている仲間の一人は、そのコネクションを持っている少女だった。
「ふん。私はマーカスとは違う。マサヒコに恩なんて感じていない。ただの利害関係。今回の仕事を手伝うのも、それが私の利益になるってだけの話」
名前はテレサ。
人形の如く無表情で、けれども人形の如き美貌を持つ赤髪の少女である。
華奢で触れれば折れそうな外見であるが、その実、マーカスよりも遥かに強い、戦闘特化の魔法剣士だ。
「だからこそ、私は私の利益を害する者には容赦しない」
テレサは音もなく腰に下げた剣を抜刀。
その刀身に赤黒い炎を付与しながら、静かに構えた。
「来なさい、エリス。貴方が私たちの足手まといにならないか、試してあげる」
あからさまな挑発。
テレサはこれにエリスがどう対応するかも含めて、試練とするつもりなのだろう。
一方、エリスの方はテレサの方を見ながら……どこかやけくそのように叫んだ。
「また知らない誰かが仲間になってるぅ!!?」
ついでに、額に怒りマークの如き血管が浮かび上がっていた。
いや、それはだって、ねぇ?
テレサとは三日間の内、色々あった結果、利害関係の下で契約を交わした関係だからね。
「エリス。貴方には関係の無い事情だ。私が帝国に雇われた傭兵だとか。私が本当に欲しかった報酬を与えてくれるマサヒコと契約を交わすことになったとか。そういう話はあったけれども、全部貴方には関係ない――――さぁ、来なさい」
「ああもう! 私が勝ったら、そこら辺を詳しく聞かせて貰うから!!」
そして、戦闘に関しては心配する必要はない。
「くっ……この子、明らかに才能が違う! 天才と呼ぶのも生温い才能がある!?」
「うるるぅううあああっ!!」
エリスの戦闘に関する才能は、僕を凌ぐほどにある。
テレサも決して弱くは無いし、むしろ強い方なのだが、それでも、今のエリスを倒せるほどではない。
二つ目の試練は予定調和に進むだろう。
三人目。
事前情報から推察するに、帝国の戦力は王国よりも強大だ。
魔神機の数が上回っているのはもちろん、無数の偽神機で構成された軍隊。
首都に君臨する四大企業が持つ、特記戦力なども要警戒の対象である。
いかに、アレスの力を吸収したマガツといえども、そんな戦力から袋叩きにされれば流石に分が悪い。
従って、今の僕たちには新たなる戦力が必要なのだ。
そこでスカウトしたのが、こいつである。
「ニンニン。某の試験は、他の二人ほど甘くはない。覚悟するのだ、少女よ」
中肉中背。
濃い紺色で統一された頭巾、顔を隠す布、上衣、袴、その他諸々の装備。
一言で言うのならば、僕が三人目にスカウトした男は。
「に、ニンジャが仲間になってるぅううううう!!?」
そう、エリスの叫んだ言葉通り、僕は頼れる忍者を仲間にしたのである。
僕らにしかできない、ちょっとした『条件』を取引材料にして。
「なん……兄様!? どこで見つけてきたの!?」
「忍者の里だけど?」
「そんなわけないでしょ!!???」
「コンセプト喫茶『忍者の里』から有望そうな忍者を連れて来たよ!」
「じゃあ、単なるニンジャのコスプレをした人じゃない!!?」
ちなみに、なんで異世界に忍者のあれこれが伝わっているかは、やはり例によって召喚勇者の影響である。
一説によれば、いつぞやの召喚勇者には忍者の家系の者も居たのだとか。
色々な伝承や物語が、大陸全土で流行し、現代までこうやって受け継がれた結果、忍者の文化が一般まで知れ渡っているというわけだね!
「ニンニン。少女よ、某を甘く見るのは良いが……油断が過ぎれば死ぬぞ?」
「!!? コスプレの人から鋭い殺気が!? まさか、本物のニンジャなの!?」
「見るがいい、少女よ。これが我が甲賀流忍法最終奥義…………」
などと考えていると、ちらりと忍者が僕の方へ視線を送ってくるので頷く。
「マガツ」
「了承した。これより、仮想戦闘空間を構築する」
そして、僕がマガツに合図を出せば――次の瞬間、宿の中に居たはずの僕らは、全く違う荒野の上に立っていた。
「がうっ!? これは……マガツ様による、独自の空間展開!?」
「ご名答。良い答えだよ、エリス」
そう、エリスが答えてくれた通り、ここはマガツが展開した空間の内部。
いわゆる一つの戦闘演習用の仮想空間。
この中なら、どれだけ魔力を使って動き回っても、精神的な疲労以外の消耗は起こらない。
「感謝する、マサヒコ。では、改めて――――最終奥義・偽神招来」
そして、忍者はばばばっと印を組んで宣言し、己の影を一瞬の内に広げた。
まるで空に大きな雲でもかかったかのように、忍者の足元から影が広がって。
「来たれ、ドッペルゲンガー」
その影から浮かび上がるように、一つの機体が召喚された。
全身が影の如く真っ黒に染まり、無駄を省いた細身のボディを持つ、高速機動型の偽神機。
それが、忍者が持つワンオフ機体、ドッペルゲンガーである。
「え、あ…………ああ、そういうこと」
エリスは少しの間、呆けたように真っ黒な機体を見上げていたが、納得したように頷く。
頷いて、獣の如く獰猛に笑った。
「つまり、偽神機を上手く……強く使いこなせるようになれ、と?」
「ご名答。なぁに、この空間ならば、詳細な情報さえあれば、様々な偽神機は再現可能」
そんなエリスに対して、忍者は淡々と告げる。
「故に、好きなだけ、何度でも某に挑むとよろしい。お主の心を砕くまで、某が何度も相手をしてやろう」
「――はっ! 上等ぉ!!」
かくして最後の試練の幕が上がり、荒野に数多の破壊音が鳴り響いた。
●●●
帝国に入るにあたって、重大な問題がある。
帝国の軍事力が強大であること以上に、僕らの活動の根幹にかかわる問題が。
「それで、マガツ。どう思う? 既に、帝国担当の邪神――月神ルナが討伐されたって話」
「ふむ」
帝国に入る前、僕らは国境沿いの街で聞き込み調査をしたのだが……どうにも、帝国の首都では既に、『邪神を討伐した』と喧伝し、祝勝セレモニーなどもやっているらしい。
それが本当ならば、直接邪神を倒す手間が省けて好都合であるのと、帝国に邪神の素材が渡って戦力強化される不都合があるわけだけども。
「ルナは三邪神の中で、最も狡猾な邪神じゃ。加えて、今の邪神どもは全盛期の力を取り戻しておる。その前提で考えると、奴が容易く討伐されるとは考えにくいのじゃが……帝国も馬鹿ではない。国境に伝わるぐらい勝利を喧伝しているのならば、相応の戦果はあるべきだと考えて置いた方が良い」
「…………ほぼ死に体まで追い詰めたけど、魂の部分はギリギリ逃げられた、とか?」
「可能性としては十分あり得るが、あまりにも帝国側の被害が少なすぎる。何かが不自然じゃ。薄気味が悪い」
「そうだね、僕も同感だ」
表情を歪めて言うマガツの言葉に、僕は思案しながら頷く。
「そもそも、邪神同士は今、互助関係にあるんだろ? 僕らみたいな決闘で、一対一の場を整えるでもなければ、素直に仲間が倒されるのを傍観するかな?」
「残る一体の邪神の性格を考えるのならば、その可能性は極めて低いわけじゃが……そうなると、ルナのよほど運が悪く、絶妙なタイミングで奇襲を受けて倒されたか。あるいは――」
「全ては予定通りで、何かの策略の途中?」
「かもしれん。じゃが、それを素直に通すほど帝国は弱くないはずじゃが…………特に、帝国に『奴』が居る」
語るマガツの言葉には、油断ならない重みが乗せられていた。
「奴が思う存分動けたのならば、あるいは、ルナを圧倒し、何の疵も無く倒せたかもしれぬ。それだけの英雄が帝国には居る」
「マガツがそこまで言うほど?」
「ああ、奴は強い。今の我らであったとしても、敗北の可能性があるほどに」
大体の生物を自分の下と見ているマガツが、ここまで警戒する相手。
それは一体何なのか、と問いを重ねようとしたところで。
「強いに決まっている。何せ、五百年前から生きている伝説にして――――あの超勇者とライバルだった男だからな」
僕の疑問に答えるように、忍者が現れた。
ふむ。
破壊音が途絶えて、そこら辺の地面の上でエリスが倒れているあたり、最後の試練――という名の教導戦闘は終わったらしい。
「何より、アンタの殺戮から生き延びた英雄――いや、勇者だ。弱いわけが無い、そうだろう?」
「うむ。その通りじゃ……奴が居なければ、あるいは、我が超勇者に勝つ未来もあったと断言できるほどに」
忍者はこちらに近寄りながら、その頭巾を脱ぐ。
ぷは、と息を吐き出しながら髪を振り乱し、隠していた素顔を曝け出す。
けれども、そこにあるのは何の変哲もない。どこにでも居るような平凡な顔立ちの青年だった。
「そして某……この俺、『三代前』の強化勇者、國生 王慈(こくしょう おうじ)の師匠でもある」
そう、現代日本ならば、どこにでも居るような顔立ちの。
「弟子として断言しよう。あの人は強い……魔神機乗り……いいや、勇者として最強の男だ。五百年の時間を、ずっと強くなり続けた男だ……あの人なら、全盛期の邪神を一人で倒せたっておかしくないぜ?」
忍者――國生は冗談交じりのような口調の癖に、心底本気でそう思っているらしい。
「そうだね。なら、その人が強すぎた場合のことも考えて行動しようか」
「ああ、それがおすすめだ。可能なら、あの人と戦わずに済む未来を選べ。アンタが殺されてしまえば、俺は現代日本に戻れないんだからな?」
「善処するよ」
僕は笑みを浮かべて國生の心配に応えた。
うん、大丈夫だとも。
現代日本への帰還と戸籍の入手を条件に、帝国を裏切ってこちらに付くことを了承してくれた相手からの助言だ。
変なプライドが邪魔して受け入れられない、なんて醜態は晒さない。
そもそも、僕らの目的は邪神の討伐なのだ。
魔神機とは積極的に戦うつもりはないのである。
――――相手が、こちらを殺そうとして来なければ。
「まぁ、そもそも? 帝国の最強戦力と戦うことなんて中々ないと思うけどね! 王国の場合は、結果的に敵対しちゃったけどさ! 帝国が必ずしもマガツオーと敵対するとは限らないわけだし!」
「うむ! そうじゃな!」
「…………ちなみにマガツ。その最強の魔神機乗りに恨みを向けられる心当たりは?」
「うむ! 奴の仲間をたくさん殺したな!!」
「そっかぁ」
僕と國生は無言のまま視線を合わせて頷いた。
どうやら、最強の魔神機乗りとは、出会う前から敵対が宿命づけられているらしい。
國生が忍者の恰好をしているのは単なる趣味。