ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
動く。
右手を動かそうと思えば、その通りに機体が動く。
指先から、各関節、肩の動きまで、僕の意思通りに。
どうやら、マガツオーというファンタジーロボは、僕の肉体と融合することにより、素人の僕でも動かせるぐらいの操作性を担保してくれるらしい。
ただ、ただね? ちょっとね? あのね?
脚立ってあるじゃん? あの高いところで作業する奴。あれってさ? 一メートルほどの高さも無い奴でも、いざ登ってみると結構怖かったりするじゃん?
『うぉおおおおおおお!!? たかぁい!? こわぁあああああい!!』
『落ち着くのじゃ、マサヒコ。お主は今、マガツオーとそのもの。故に、高いところから落ちるとかはあり得ぬ』
『でも、怖いものは怖いんですけどぉ!?』
そのレベル100みたいな恐怖が、今の僕を襲っていた。
む、無理無理無理ぃ! いくら自分の思った通りに動かせるからって、いきなり巨大ロボットのパイロットとして動くのは無理があるってぇ!!
乗る前は『まぁ、土壇場に強いタイプだし、僕』とか高をくくっていたけどぉ! これは無理な奴でーす! 一旦、下ろしてくださぁーい!
『はっ! い、今でしゅ! 今しかないでしゅ! あの黒い機体の覇気が消えた!! なんだかよくわからないけど、今の内に排除しないと、死ぬのはあちきでしゅぅううううう!!』
んあああああ!! しかも、今まで様子見していた奴がぁ! 透明な機体がぁ! こういう時に限って吶喊してくるよぉ!?
ええい、ならば、空気の動きとか! 機体の足音とかで来る方角だけでも……んんん?
『へい、マガツ!』
『なんじゃ?』
『相手! 姿が見えないだけじゃなくて! 足音も聞こえない!!』
『浮遊魔術で浮いとるんじゃろ』
『そんなのありなの???』
『ファンタジーロボじゃからな。それと、奴の権能は『隠蔽』じゃ。ものを隠すことに特化しておる。だからこそ、大神殿のセンサーが察知できなかったのじゃろうな』
『絶望的な情報をありがとう!』
僕は恐怖した。
先ほど、散々啖呵を切っていたくせに、恐怖していた。
思い返すのは、真紅の機体の末路。
あんな凄い動きをする機体でさえ、一撃で倒されてしまったんだ。
いくらマガツオーが強そうだからって、素人の僕が動かしている機体で、奴らを倒すことが本当に出来るのだろうか?
『ううっ! い、嫌だ! 死にたくない! 怖い! 怖いよ!』
『ふっ。ようやく、人らしい弱音を吐いたな、マサヒコ。じゃがな? その恐怖を乗り越えてこそ、主人公になれる――』
『そこだぁ!!』
などと考えている間に、相手の気配が近寄って来たので、思いっきり腕を振り回す。
『ぎゃんっ!!?』
あ、当たった。
マジか。ほとんど山勘だったのに、当たるもんだね、意外と。
『…………マサヒコ?』
『何かな? マガツ』
『お主、奴の気配とかを感じ取ってないか? 歴戦の達人の如く』
『まぁ、僕は歴戦のボッチだからね? 相手の気配ぐらいは感じ取れるのさ』
『ボッチ???』
そう、ボッチの中でも僕はエリートボッチ。
机の上で突っ伏して寝たふりをしていても、周囲のクラスメイトたちの動きを完璧に感じ取ることが可能なボッチなのさ!
『多分、僕と同じぐらいのボッチなら、誰でも同じようなことが出来ると思う』
『そうか。恐ろしいな、お主の地元』
『……ただ、所詮は山勘なんだよねぇ』
僕は何度もマガツオーの手を握っては開き、殴った部分の損傷を確認する。
損傷、軽微未満。何一つ問題は無し。
流石は『最強』を名乗るだけはある機体だ、なんともないぜ!
だけど、いくら頑丈でも、何度も攻撃を重ねられたら危ないだろうしなぁ。
『ゆ、油断してたでしゅ! 新兵にも劣る素人の悲鳴を聞かせておいて! 素人同然の機体の動きで! このあちきが近づくのを待っていたでしゅね!?』
『いや、割とマジで怖いけど、対処はしないと死んじゃうから』
『死んじゃうから、でさらっと対処してくるのがむかつくでしゅうううう!!』
透明な機体を駆る魔女は、口では怒りを示しているものの、恐らくは冷静。
僕が山勘で偶然当てただけのことでも、警戒して、既に僕の間合いから離れているだろう。
『マガツ。この機体の武器か兵装は?』
『マサヒコ。我は思うのじゃ……第1話の主人公は、ろくに武器も兵装もない状態で相手の機体を倒すべきじゃと』
『相手は歴戦って、お前が言ってたんですけど!? 量産型の雑魚とは違うんですけど!!?』
『お主が負けそうな時に、武器と兵装は解除する。もしくは我のテンションが上がった時』
『…………ダダダッ! ダダダダーン!』
『む? 口で戦闘用BGMを!? これは上がる演出じゃ!!』
さぁて、どうするかなー?
何か広範囲を薙ぎ払う系の兵装が欲しかったんだけどー! マガツの馬鹿が渋っちゃっているしなぁ! とりあえず、機嫌を取りながら気配を探るぐらいしかやることがねぇぜ!
――――がぎぃんっ!!
『っと、危なぁい!? 遠距離から刃物を投擲して来た!? あいつ、そんな芸当まで!?』
しかも、相手には中距離の攻撃手段がある。
こいつはピンチだぜ! 泣きたい!!!
『はぁああ!!? あいつ、暗器も防いだでしゅ!? ふざけんな!! 何を驚いている声を出しているでしゅか!? 馬鹿にしてんのか!!?』
『はっ! 異世界の魔女は知らないだろうがなぁ!! 僕たちボッチは!! 自分の死角から投げられる消しゴムを受け止めて! 逆にスーパーボールを投げ返すことぐらいことは出来るんだよ!! 僕はこれで、いじめっ子の顎を打ちぬいて気絶させました!!』
『今、こっちの勇者に確認を取ったでしゅけど! お前の言っていること、全部でたらめじゃないでしゅかぁああああ!!』
『地域差だよ! 地域差ぁああああああ!!』
僕は降り注ぐ透明な刃を弾き、回避し、必死に逃げ回る。
ええい、このままじゃあ、じり貧だ!!
『案ずるな、マサヒコ』
『なぁに!? やっとテンション上がって来た!?』
『いや、まだ武器は出さん……出さんが、我の権能は常時発動型じゃからな』
『ええと、権能? 転移とか隠蔽とか、そういう奴? こっちにもあるの?』
『当然じゃ』
段々マガツオーの操作にも慣れて来たので、動き回りながらマガツと作戦会議である。
なお、相手は『絶対、舐めているでしゅ、あいつぅ!』とブチ切れているが、これでもガチで必死である。融合してなかったら多分、色々と漏らしている。
『我が権能は『浸食』じゃ。我に触れたもの全てを蝕み、浸食し、支配する。そういう権能よ』
『具体的には?』
『ほれ、ああいう感じになる』
マガツの意識に誘導されて、何もない空間――否、何も無かった空間を見る。
『ぐ、ぐぅううううう!!? これは、一体なんでしゅか!?』
すると、そこには青白い装甲が見える、何か――いや、相手の機体の一部があった。
俺が殴った、腕の部分が、暗黒のオーラに浸食されていた。
『あちきの権能が!? 強制的に解除されていくでしゅ!?』
その言葉に、僕は理解する。
マガツが言いたかったことを理解する。
そうか、そう言うことか!
『この権能を上手く使えば! 武器や兵装が無くても十分に倒せる! そういうことだね!?』
『ぬ? いや、うむ! その通りじゃ!!』
『よっしゃあ!』
勝機が見えた!
僕はマガツオーの速度を更に上げて、疾風の如く相手との距離を肉薄する。
『んぎゃあ! 来るんじゃないでしゅう!』
『姿が一部でも見えているならぁ!』
連打!
連打! 連打! 連打ぁ!
僕はマガツオーの拳を、マシンガンの如く相手に打ち込む。
相手がけん制として投げて来る暗器も、全て叩き落して。
『くおんのぉ!』
しかし、相手も歴戦。
僕の連打を、既に浸食を受けた腕の一本で受け止めて見せる。
『やるねぇ! だけどぉ! 僕らの権能は累積する! 攻撃を受ければ受けるほど、浸食は進む! そうだよね、マガツ!』
『ひょっとして、我の契約者って戦闘の申し子だったりするのかのう?』
『これぐらいの状況適応! 歴戦のボッチなら誰にだって出来るさ!』
『ボッチとはお主の地元で、強化された人間という意味なのかのう???』
形勢逆転だ。
『く、来るなぁ! 来るなぁ!!』
『そうは言われても!! 行かなきゃ殴れないからさぁ!!』
隠蔽は剥がれた。
一部でも姿が見えるなら、攻撃を加えるのに問題はない。
マガツオーは頑丈で、なおかつ浸食を累積させる打撃は効果的だ。
相手の機体を破壊しなくとも、このまま攻撃を続ければ勝てる。
後は暗器に気を付けて、冷静に対処するのだ。
『っづぁあ!?』
そうすればほら、この通り。
『隙あり!!』
僕は態勢を崩した機体に向かって、思いっきり拳を叩きつける。
『戦闘の申し子であっても、実戦経験が足りないか、やはり』
だが、手ごたえが無い。
まるで空中に浮かぶ金属の塊を殴ったような、肩透かしの手ごたえ。
脳髄に直接響くようなマガツの声は、僕の行動を予想していたようで。
『甘いんでしゅよぉ! 素人がぁ!!』
吠えるような声と共に、不可視の機体が迫り来る。
位置が違う。
違和感の理由。
それは即ち、機体の一部を自切し、浮遊魔術で浮かして囮にしたということ。
隠蔽が可能な機体が、これ見よがしに何度も音声をスピーカーで流していたのは、こういう時のためなのだろう。
声のする方に居る。
そういう意識を相手に刷り込むために。
そして、相手を確実に仕留める時、スピーカーの一部もまとめて囮にするために。
『そんな馬鹿な』
この状況に、僕は思わず驚愕した。
信じられない。
ろくに実戦を経験していない僕だが、つい言葉に出してしまう程度には、この状況が信じられなかった。
『まさか――――こんなに上手く嵌るなんて』
どばんっ!!!!
僕が力強く踏み込んだことにより、大地が砕かれ、土砂が舞い上がる。
権能によって、浸食の影響を受けた土砂が。
『ぎぎゃぁああああああああ!!!?』
ベストタイミング。
囮ならば、最初から見切っていた。
何故って? 僕はボッチだよ? ボッチが社会で生き残るためには、観察力が肝心。
つまり、相手が狼狽した振りをして逃げようとすることぐらい、最初から察していたのだ。
だからまぁ、相手の誘いを上手く使って、カウンターを決めようと狙っていたわけだけども。
『正直、驚いたよ。まさか、素人の思い付きで歴戦を嵌められるとは思わなかった』
『んんん???』
戸惑うマガツの声が聞こえて来たけど、あれ? わかってたからこそ、マイクパフォーマンスで僕の演技に付き合ってくれたんじゃないの?
『お、お主……凄いな……凄すぎてちょっと引くのじゃ……強すぎてきもっ』
『おいこら! きもいは酷くない!? ねぇ!? 生きるのに必死なだけですけど!?』
失礼なマガツの声に言い返しつつ、僕は改めて相手の機体を観察する。
『ぐ、ぐうぅううううう……土砂による間接的な浸食……あちきが、こんな……』
既に、浸食が乗った土砂を受けた所為で、機体の隠蔽は全て剥がれていた。
今まで隠れていた機体の全容も全て。
『なんだか、針金で出来た棒人間みたいな感じだね、あれ』
その機体は異様に細かった。
さながら、ナナフシの如く。
辛うじて、コクピットのある胴体はいくらか太いものの、それ以外は全て、巨大ロボットにしては異様な細さの機体だった。
…………でもあれ、意外と堅かったんだよなぁ。
頑丈そうに見えないし、魔力を使った防御とか、そういう感じだろうか?
『なるほど。やはり、帝国が持つ魔神機が一つ、レライエか』
マガツの声が、相手の機体の正体を明かす。
『帝国って、王国の敵国なの?』
『その通りじゃ。我が封印される前から、骨肉の争いをしている』
『へー、そうなんだ…………あっ! つまり、こいつ! 僕を妨害の弾にした奴らの一味ってことだよね!?』
『その通りじゃ――――殺すか?』
『殺さないよ!!』
マガツが物騒なことを訊いてくるが、即座に否定する。
『だって気持ち悪いじゃん、殺人って。嫌だよ。やりたくないし……そりゃあ? こっちも命がかかっているような戦いなら? そういう気持ち悪さは我慢するけどさ? でも、今は結構余裕があるし。殺さずに上手いこと倒したいんだけど?』
『くはははは! やはり、お主は大馬鹿者よ! だが、それが良い!!』
さいですか。
『ど、どどどっ! どこまでも! あちきを馬鹿にしてぇ!!』
などと、マガツと相手の機体――レライエの対処について相談していると、相手から激怒の声が聞こえてくる。
如何にも、今すぐ殴りかかって来そうな声だ。
でも、僕は騙されない。
相手は歴戦で冷静。
圧倒的に戦況が不利になったら、この場からの離脱を優先するはず。
『マガツ。相手の速度を上回れる?』
『ふっ、必要ない。お主の活躍で我は大分テンションが上がった。故に、兵装を一つ解放してやろう』
『え、マジで!?』
『マジじゃ。さぁ、ゆくぞ!』
ぎゅぅいいいいいいいんっ! と、マガツオーの腹部に、暗黒オーラと魔力的な何かが集まってくる。
え? なにこれ? 具体的になにがどうなるの? 大丈夫? 割と僕の魔力も吸い取られている感じがするんだけど?
『んぎゃっ!? あ、あれはやばいでしゅ!』
一方、相手は演技を止めて、即座に逃げ出した。
正解だ。最善の行動とも言えるだろう。
だが、恐らくはもう手遅れだ。
『はい、三、二、一――今じゃ、必殺名を叫べ! アドリブで!!』
『アドリブで!? え、あ、だっ――――ダークネス・イレイサーァアアアアアア!!』
マガツの無茶ぶりと共に、マガツオーの腹部から暗黒のエネルギー弾が放たれる。
『みぎゃ――』
それは逃すことなくレライエを捕らえ、起爆。
どぉおおおおんっ! と轟音を響かせて、僕がアドリブで付けた必殺技の通り、機体を跡形もなく消し去ったのだった。
……っておい!?
『死んでる! 死んでる! 殺しちゃってる!!』
『案ずるな。ダークネス・イレイサーは正義の必殺技。魔神機と魔女の結合を断ち切り、魔神機のみを消し去り、ついでに中身のパイロットは我が持つ固有領域――『本日の敗者』に格納しておる。これにより、一見ぶち殺したように見せかけて、実は殺していないというトリックが可能となるのじゃ!』
『マジで!? 嘘じゃない!?』
『ふっ、我を信じるがいい、マサヒコ……それに、折角の戦果を台無しにするのはもったいないからのう。お主も、倒した魔女とかはコレクションにして、性奴隷にしたいじゃろ?』
『発想が邪悪! エロゲーに出て来るタイプの邪悪!』
『否定はしない、と』
『否定よりも先にツッコミが出ただけだよ、ばぁーか!!』
この件については一度、マガツときちんと話し合わないとな。
というか、発想が正義のロボットじゃねーよ。素が出ちゃってるよ、素が。
「な、ななな……何故、あの邪神の機体がここに……」
おっと?
うっかり忘れていたが、そう言えば背後には大神殿があったんだったわ。
ミレーヌも何故か……いや、何故かじゃないか。妥当に僕らを恐怖の感情と共に見上げているしね。
『んー』
僕はちょっと迷った後、『地獄に落ちろ』というハンドシグナルをミレーヌと大神殿に残っている人たちに送る。
「ひっ!?」
ミレーヌが引きつった声を出して腰を抜かした瞬間を見届けると、そのままダッシュで大神殿から離れて行った。
『マサヒコ』
『何よ?』
『飛ぼうと思えば、飛べるぞ?』
『マジで!?』
途中、飛行可能だということに気づいたので、折角なので空を飛んで逃げることに。
『うぉおおおお!!? と、飛ぶ感覚が掴めない!? おち、落ちるぅううああああああ、あ、段々慣れて来たわ。意外と大丈夫だったわ』
『きもっ』
『必死の操作だったんですけど!? 何か文句でもぉ!?』
僕らはぎゃあぎゃあと騒々しく言い合いながら、異世界の空を飛んでいく。
果てが無いように見えた荒野も、空から見下ろせば、案外広くも無かった。
『……はぁ。これから先、僕はどうなるんだろうなぁ? 王国と帝国、二つの国に喧嘩を売って逃げちゃったわけだし』
『案ずるな、マサヒコ。我が居る。ただそれだけで、勝利は約束されたようなものなのじゃ』
『はいはい、そうですねー。凄い性能ですからねー。でも、次はもうちょっと早く兵装を解放してくださいねー?』
『うむ。テンションが上がれば』
『こいつ』
爽快に初勝利を決めたものの、前途多難。
相棒は頼れるものの、邪悪さが隠し切れない主人公機気取りの馬鹿。
そして僕は、どこにでもいる普通の男子高校生。ただしボッチ。
どこまでやれるかわからないが、それでも、やれるところまではやっておこう。
だってほら、来月には楽しみにしていたアニメ映画が公開されるわけだし。
『はぁ……とりあえず、改めて。今後ともよろしく、マガツ』
『うむ! 我に任せておくのじゃ、マサヒコ!』
つまりはまぁ――――僕たちの戦いはこれからだ。
打ち切りではありません。