ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
はい、投稿します。
上空から俯瞰で見下ろすその都市は、『迷宮都市』の名前に相応しい複雑怪奇な造りとなっていた。
まず、中心から全部で五つの壁で区切られている。
その上、区切られた区間のそれぞれが、大きな道から細かい道まで複雑に入り組んでいて、利便性がカスである。一度道に迷えば、二度と同じ場所には戻れないのではないか?
そんな疑問を抱いてしまうほど、その都市の構造は迷宮そのものだった。
『アクセスがゴミ!!』
『そうじゃろ? しかし、だからこそ、後ろ暗い連中が隠れ住むには適した都市となっているわけじゃ。もっとも、外面は『交易都市』なのじゃがな?』
『……はぁー。とりあえず、この俯瞰風景は記憶しておくけどさ。流石に、道案内無しだと普通に迷うと思うんだけど? そこら辺、マガツが案内してくれるの?』
『生憎、我はつい最近まで封印されておったからのう』
『駄目じゃん』
『案ずるな。どうせ、この手の都市には、門の辺りに『地図屋』と『案内屋』がいるじゃろうて』
『またお金が減って行く……大神殿からかっぱらってきた活動資金が……』
『問題ない。テンシの素材をいくつか換金すれば、活動資金は十分集まるのじゃ』
だから、道中でテンシたちを沢山殺す必要があったんだね!
…………いや、それでも流石にあの量は多すぎたし、六枚翼のテンシはかなりビビったので、今後は勘弁して欲しいよ。
勘弁して欲しいんだけど、まぁ、あれだよね? しばらくしたらまた、襲い掛かってくる予感がするんだよなぁ……マガツ曰く、王国担当の邪神って損得勘定を無視して、感情で殴ってくる馬鹿らしいし。
『ともあれ、街の中に入らなければ何も始まらぬ』
『ういうい、了解。あ、一応、変装とかした方が良いかな?』
『それも問題ない。この迷宮都市バルムは、脛に疵を持つ者ばかり。他者の事情を詮索する愚者は、誰であれ早晩に死ぬじゃろう』
『物騒過ぎる』
異世界版の九龍城かよ?
ただ、邪神が猛烈に僕たちを狙っている現状、贅沢は言っていられない。
「ちなみに、街の中での設定は?」
「温泉街での設定を継続でいいじゃろう?」
「また茶番を挟むのか……」
「案ずるな。このバルムでは、妻の年齢など些細なことは気にされぬ」
「それはそれで問題だよね? というか、夫婦が新婚旅行で来るような街?」
「街の中央に近づかず、商店街通りと大通りだけを護衛付きで歩くのならば」
「マガツ。それって多分、新婚旅行どころか観光に向いてない治安だよ」
僕たちは街から少し離れた場所に着陸し、そこからマガツを人間形態にして正門まで歩いていく。
「待て。お前たち、見たところ年若い二人組だが、このバルムに何用――――うむ! 観光を楽しんでいくがいい! ああ、道案内を任せるのは多少並んでも、大手の案内屋にするといい。間違っても、スラムのガキの客引きに捕まらないように!」
正門の前に立つ、甲冑姿の門番たちには多めの袖の下をプレゼント。
するとあら不思議。面倒なチェック無しに、門を素通りの上、ためになるアドバイスも貰えたね!
「ねぇ、マガツ。門番があれで大丈夫だと思う?」
「少なくとも、袖の下を渡せる程度に経済的な余裕がある人物かどうかの判別は出来るだろう? それに、どうせ街の中にも山賊の親戚のような者が闊歩しておる」
「治安がゴミ。というか、この世界にも山賊が居るんだね? 普通に」
「この世界……というよりは、アルバート王国に多いのじゃ。魔術が発展している分、個人の能力格差が大きく、真面目に就職するよりも賊をした方が稼げる地域もある」
「治安……ええと、この国って大丈夫なの?」
「さてな? だが、魔神機という圧倒的暴力が存在する限り、どの賊だろうとも、どの都市の権力者だろうとも、王国の上層部には易々と立てつけぬ」
「武力が支配する国家……」
「まぁ、これでも帝国よりはまだ、実力主義では無い。普通に王侯貴族が政治の主体じゃ」
「うーん、如何にも異世界ファンタジーな政治体系……」
僕とマガツはだらだらと会話を交わしながら門の内側へと足を踏み入れる。
「うわっ」
踏み入れた瞬間、僕が感じたのは煩雑な熱気だった。
「案内屋の老舗はここ! 安心安全の白虎屋にお任せ!」
「安いよぉ! 今日はオーク肉の唐揚げが安いよぉ!」
「へへへっ! この街でしか味わえない快楽をご案内できますぜ!?」
「花を……花を買ってくれませんか……」
人、声、人、声。
どこかの祭りの中にでも迷い込んでしまったのかと錯覚するほど、バルムという街の入り口は人で混雑していた。
下手に足を踏み入れれば、それだけでどこかに流されてしまいそうになるほどに。
「ふむ。この有象無象が煩雑に集まる光景……五百年前と変わっておらんな」
そんな煩雑とした光景を前に、マガツは小さく笑った。
いつもの邪悪な笑みではなく、何かを懐かしむような笑みだった。
「さて。行くぞ、マサヒコ。いつまでもここで突っ立っていては、スリにカモ扱いされてしまうからのう」
「ああ、そうだね。その場合、危険なのはスリだろうけど」
「すり取った金額分の内臓を抜き取られた奴の顔、中々に見ものだぞ?」
「止めてね? この街ではマジで止めてね?」
何か上機嫌なのか、いつもよりトークから邪悪な成分が漏れているマガツである。
このままだと、何かやらかしかねないので、さっさと門番の人の忠告通り、大手の無難な案内屋を探そう…………うん?
「あ、あの、お兄さん方……私も、街の案内、できます……格安で……」
見ると、いつの間にか薄汚いポンチョを纏った、小学校高学年ぐらいの少女が、憐れみを誘うような表情でこちらを見上げていた。
ふぅむ、なるほど。これがスラムのガキの客引きという奴か……ふぅーむ?
髪の色は汚れた茶髪って感じ。
手足は細すぎる。栄養不足。靴もボロボロ。
ただ、キャスケットっぽい帽子の中が、時折、何かが動いているような気がする。
いや、そうか。そういえば、ここは異世界…………そういう種族もいるのか。
「ええと、な、何か?」
「いやいや、何でもないよー」
僕の視線を不審に思ったのか、戸惑いと警戒の視線を向けて来る少女。
ふんふん、なるほどねぇ。
…………まぁ、とりあえずは試してみようか。
「マガツ。そろそろお腹が空いてきたからさ、この子に案内してもらって、適当なところで食事をとらない?」
「ふむ……いいのか? マサヒコ」
「とりあえず、『この子以外』は」
「そうか」
僕の視線と言葉を受け、マガツは得心したように頷く。
二度の戦闘を経て、僕とマガツは相棒らしいアイコンタクトが可能となっていた。
「お、お食事、ですか? ええと、ご希望は?」
「食べて腹を壊さない奴。後はまぁ、この街でしか食べられないって奴はあるかな?」
「あります! その、『ダンジョン』で獲れた、魔物の料理が! お金も、その、そんなにかかりませんので!」
「そっか。じゃあ、頼むよ……ああ、案内料は先払いでいいかい?」
「ぴゃっ!? こ、こんなに!?」
僕が金銭を手渡しすると、少女は飛び上がるように驚く。
うん、実に『それらしい』反応だと思う。ただ、金額が多すぎて、本気の驚きと喜びが隠せていないのは減点かな? でも、この年齢なら大したものだと思う。
「こ、こちらです……こちらに穴場の定食屋が……」
とたたた、と軽快な歩調で僕たちの先を行く少女。
入り組んだ道も何のその、迷わずに僕たちを先導している。
段々と、大通りから離れるように。
「そういえば、マガツ」
「なんじゃ?」
「この世界に人間以外の種族って居るんだね」
「お主の地元のような世界の方が稀なのじゃ。まぁ、この王国は人間以外の種族が住むのには適していない場所じゃから、見かけることはほとんど無いがのう」
「へぇ、そうなんだ」
そして、やがて少女の足が止まる。
「着きました」
もちろん、場所は定食屋ではない。
行き止まりの路地。
「へへへっ! 馬鹿なカモが釣れたぜ!」
「よくやった、混ざり者!」
「さぁ! 有り金全部置いて来な! そうすれば、命だけは助けてやるよ!」
これ見よがしに置かれた障害物の影から出てくるのは、少女よりもいくつか年上――大体僕と同じぐらいの外見年齢の女子たち。
その手には、こん棒やらナイフやら、物騒な武器など携えている。
「おっと! こっちも行き止まりだぜぇ!」
「久しぶりの獲物! 逃す手はないねぇ!」
背後を振り返れば、僕たちを付けていた女子が同じく獲物を携えて姿を現していた。
少女が声をかけた時からずっと、人ごみに隠れてこちらを見ていた奴だ。
なるほど。確かに、門番さんの忠告は正しい。
一見、憐れみを誘うスラムの子供について行けば、このような目に遭うのだから。
「……ごめんなさい、ごめんなさい」
視線を移すと、僕たちをここまで案内した少女は、罪悪感に塗れた顔で何度も謝罪を口にしている。
如何にも、『周囲に脅されて仕方なくやっている』という顔だ。
――――油断ならない演技をする者の顔だ。
「じゃあ、マガツ。予め決めたとおりに」
「よかろう。久しぶりに人形遊びも悪くない」
「本当に好きなんだね、それ。まぁ、死なない程度に」
だからこそ、ここで手分けをしての対処である。
マガツはチンピラガールズを。
僕は油断ならない少女を。
それぞれ、やるべきことをやる。
「おいおい、何を余裕ぶってんだ、あーん?」
「どうせ、いいとこの坊ちゃんと嬢ちゃんの度胸試しの観光だろ?」
「だったらさぁ! とことん、思い知らせてやるよぉ! 厳しい現実って奴を!」
チンピラガールズは威勢のいい声を上げて、一斉に襲い掛かってくる。
――――どちゅり。
「「「あっあっあっ」」」
だが、その数秒後、チンピラガールズが全員、マガツの触手に捕まって、脳みそを弄られていた。
可愛そうではあるが、自業自得。
情報を抜き取った後、マガツが適当に遊ぶ程度なので、死にはしないはず。
これを教訓として、今後の健闘を祈っているとも。
「あ、あのっ! ごめんなさいっ!」
さて、問題はこちらだ。
「お金を返します! つ、償いとして、私がなんでもします! だ、だから! お姉ちゃんたちを許してあげてください!」
涙をたっぷりと溜めた瞳で僕の腰元に抱き着き、見上げて来る少女。
実に健気な少女だ。思わず、同情を向けたくなるほどに。
「ふむ。悪くない手だね――――僕を人質にして、マガツと交渉しようという作戦か」
「――――」
もちろん、こっそりと僕の背中にナイフの刃を添えようとしていなければ、の話だけれどもね?
「見るからにマガツは怪物だ。勝てる勝てないの問題ではなく、戦うこと自体が間違い。だったら、僕の方を人質に、どうにかこの場を切り抜けようという判断は悪くない。惜しむらくは、暗器の使い方がいまいちだった、ってことぐらいかな?」
僕は少女の目の前に、先ほどすり取ったナイフを見せびらかせる。
ちょっとしたスリや手品の応用だが、すり取られた側を驚かせるには十分なパフォーマンスだろう?
「――っ!」
少女の反応は早い。
弾かれたピンボールみたいに僕の腰元から飛び退いて、即座に壁を足場へ。
驚くべき身体能力で、そのまま壁を跳び、僕らの前から逃げ去ろうとしている。
「はい、残念」
「ぎゃんっ!?」
けれども、お生憎。
僕も結構身軽な方なので、少女の動きを見切って、その細い足を掴むことぐらいは朝飯前なのだ。
「んぎゅるぅわうっ!」
それでも、少女は諦めない。
諦めたら死ぬと考えているのか、足を掴んだ僕の手を切り裂かんと爪を奔らせる。
そう、爪だ。
いつの間にか、少女の細い指は獣の鋭い爪へと変化していたのだ。
「ああ、やっぱり獣人とか、そういう種族だったんだね、君」
振るわれた爪を適当に足とか手で捌いていると、少女の頭から帽子が抜けた。
すると、そこにはやはり、僕が想像した通り、茶色の毛並みの獣耳が二つ。
ふむ。あの形状だと、狼とか、そういう感じかな?
「うぐるぅわうっ!」
奇声と怒声が混じった言葉で叫びながら、少女は僕へと抵抗を続けるが、いくら普通の男子高校生である僕だとしても、年下の女の子に負けるほど弱くはない。
「はいよっと」
「ぎゃいんっ!?」
僕は少女の腕を取り、関節を決め、完全に行動が出来ないように制圧する。
「ぎぐぐぐ……」
そして、呻きながらなんとか逃げ出そうとする少女の耳元で、僕は囁きかけた。
「どうして、こうなったかわかるかな?」
「ぎぎぎ……ご、ごめんなさ――」
「力が足りないからさ」
「えっ?」
いきなり何を言い出すんだろう? と困惑の声を上げる少女。
そこへ、僕は畳みかけるように言葉を注ぎ込む。
「警戒が足りなかった? 確かにそうだね。観察が足りなかった。そうかもしれない。だけど、結局は力が足りないのが悪いんじゃないかな?」
「ち、力……? 私が、弱いから?」
「そうだね。君はまだ弱い。強ければ、こんな囮のような真似をする必要は無かった。強ければ、僕から逃げ出すことも出来た。いいや、強ければそもそも、君はこんなところに居ないでもっと良い思いが出来ていたんじゃないかな?」
「う、うるるぅううう……」
少女は低い唸り声を上げながら、ボロボロと涙を零す。
「お、お兄さんは、強いから……弱い私を、いたぶって、殺すの? 最初から、このつもりだったの? 罠に嵌めたつもりで、愚かな私たちの方が、罠に嵌っていたの?」
「さぁ、どうだろうね?」
「う、うぅううう……この世は弱肉強食……今まで、私たちが食べていた側……でも、私たちよりも強い相手が現れただけ……私たちが、私が、間抜けなだけ……ううっ、力さえ……力さえ、あれば!」
僕としては殺すつもりは皆無なのだけれども、何故か己の死を直感した少女が悔恨の言葉を叫ぶ。
死にたくない、と魂から絞り出したような声を上げる。
うん。まぁ、本当は理性的に説得したかったんだけど、こういう状態になったのなら、逆に好都合だよね?
「力が欲しいか?」
僕は少女の拘束を解き、更に言葉を続ける。
「境遇に。過去に。周りの人間に。理不尽に屈しない力が欲しいか?」
「え? あ、え?」
少女は困惑しながら立ち上がる。
――――本物の感情だ。
先ほどまでの涙も、言葉も、悪態も、全ては少女が生き延びるために生み出したフェイク。
だが、ようやく今、少女の本当が僕の目の前にあった。
「僕らなら、それを君に与えられる。君が望む、この泥沼から抜け出すための力を」
「…………何が、目的なの? 条件は何? 私に何をさせたいの?」
少女は警戒態勢を解かず、けれども逃げ出さずに僕を睨む。
「条件か。強いて言うなら、この街に居る間、僕たちの協力をしてほしいってことぐらいだよ。僕らは土地勘が無くてね。地元民である君の見識が欲しい」
「でも、それは――」
「そう、それは君じゃなくてもいい。だから、僕が君を選んだ理由は別にある」
僕はその視線を真っすぐ受け止め、笑みを浮かべて言葉で返した。
「君は特別だ。泥沼の中に在ってなお、輝きを失わない才能の原石がある――――強くなれるんだよ、君は」
「私、が?」
「そうだ。僕は、それが磨かれずに砕けることが認められなかった。だから、こんな柄にもない茶番を仕組んだんだよ」
「私が、本当に……特別……いや、だって、私は獣交じりの――」
「そんなことは才能に何の関係も無い」
少女の戸惑いを切り裂き、僕は一歩踏み込む。
「もう一度言う。力が欲しいか? 理不尽を砕き、逆襲を叫ぶための力が」
少女は何度も瞬きをする。
何かの言葉を吐き出そうと、口を動かしては止めて。
「強く、なれる? 私、強くて、凄い悪党になれる?」
泣き笑うような表情で、僕に問いかけた。
…………うん、悪党? 何故に悪党? いや、多分、この子にとって強いってイメージが悪党なんだな、うん。じゃあ、そういう感じで。
「なれるさ! 君は、強くて凄い、誇り高いヴィランになれる!」
僕は力強い断言と共に手を差し伸べ、少女はその手を、おずおずと――けれども、しっかりと握った。
●●●
「見事だったのじゃ、マサヒコ」
「違うよ? 多分、マガツがそんな笑顔になることはしてないよ?」
「相手の罠に一度嵌ってから、それを食い破って格の違いを教え込む。その後、言葉で精神を揺さぶり、『特別』やら『才能』という言葉で飾って堕とす。ふふふっ、どうやら、我とお主は生まれる前からの相棒だったようじゃな?」
「別に、嘘は言ってないんですけどぉ!? 全部本音の本当だったんですけどぉ!?」
路地裏の一見から少し後、僕たちは少女が案内してくれた酒場で食事を取っていた。
なお、少女も一緒に食事をしようと誘ったのだが、「今夜の宿を準備する」と言って出かけてしまった。
なんて気遣い。なんて手際の良さ。
やはり、僕の目に狂いは無かったと言える。
「いや、予定を狂わせたのは申し訳ないと思うけどね? 割とマジで、あの子は才能があるから。超才能があるから。あんなところで腐らせるのがもったいなさすぎてマジ切れするレベルで才能があるから」
「なるほど。故に、まだ弱い時に誑し込み、徹底的に依存させると」
「依存させないよ??? ちゃんと自立するまで育てる予定だよ!!?」
「できるかのう?」
「元々、一か月ぐらいはこの街に滞在する予定だったんでしょ? だったら大丈夫。というか、強くするだけなら二週間でもお釣りが来るし。後は、この街での目的を終えれば、笑顔でお別れって寸法だよ!」
「ふふふふっ、そうなればいいのう?」
「何を嗤ってんだよぉ!」
僕はやけくそ気味に、目の前の大皿から、コカトリスの唐揚げを取り、思いっきり齧りつく。
うん。肉汁がじゅわっと口の中に広がってうまぁい!
「すかさずノンアルコールの炭酸飲料を……ごくごくごくっ! ぷはぁ、美味い!!」
「うむ、中々の味じゃ。あの小娘、目端は効くようじゃのう」
「…………そういえば、マガツってロボットと人間、どっちの形態が本体なの?」
「む? 我の本体は別空間にしまってあるぞ?」
「あ、ずるいやつ。ずるいラスボスがやるギミックのやつだ」
「お主も死にそうになったら、その空間にしまいこんでやろう。なぁに、基本的に生物は即死する暗黒領域じゃが、お主の肉体に我の本体を埋め込んで合体すれば、余裕で生き残れるはずなのじゃ!」
「わかった。負けそうになったら即座に逃げるわ…………守るべき対象が居ない場合は」
「そこで最後に、不本意そうに言葉を付け足すから、我はお主を気に入っておるよ」
僕とマガツは唐揚げを食べながら、ダラダラと会話を交わす。
ちなみに、きちんとマガツが認識阻害魔術を発動させているので、僕らの会話は外側からだと適当な雑談にしか聞こえないことになっている。
「だがまぁ、このバルムで暗黒竜を喰らえば、心配は無くなるじゃろう。あの権能を取り戻せば、王国の邪神相手ならば負けは無くなる」
「ふむ。相性的に?」
「その通りじゃ。そして、このバルムは地下にダンジョンを擁する独立独歩の迷宮都市。王国からの追手が来ようが、下手に動くことは出来ん。ましてや、都市上層部に対して、逃げ出した勇者や機体の指名手配など要請が通るわけが――――」
「た、大変だぁああああああ!! あの災神マガツミカボシが復活しやがったぁあああ!!?」
僕たちの会話の途中、酒場の入り口に、屈強な男が血相を変えた様子で駆けこんで来た。
「探索者ギルドに、緊急の手配書が回ってやがる!! 召喚勇者も洗脳して、既に大神殿で魔神機を一体破壊したらしい!!」
「はぁ!? おい、嘘は止せ……嘘だと言ってくれよ!」
「嘘じゃねぇよ! あのクソッタレの大神殿が! これだけの恥を堂々と公開したんだぞ!? 真実に決まってらぁ!!」
「くそくそくそっ! 五百年前に! あの超勇者が封印してくれたはずなのに!」
「三国の邪神全てを支配して、人類全てに宣戦布告したあの災神が!」
「大陸の十分の一を不毛の土地に変えた! あの悍ましい邪悪が!!」
「き、希望は!? 俺たちに希望はねぇのか!?」
パニック状態になっている酒場の中で、僕とマガツは黙々と唐揚げを食べ続ける。
「ねぇ、マガツ?」
「ふむ。大神殿は思い切った手を取ったな。よほど、我らが怖いと見える」
「ねぇ、マガツ? 過去に大分やらかしてない?」
「だが、案ずるな、マサヒコよ。多少は予定が変わるが、我らの勝利は揺るぎない」
「本当にガチのラスボスじゃん。ねぇ?」
「………………全ては過去!!!」
「かぁこぉ!!?」
なお、この後ちょっと、マガツの過去のやらかしについて話し合うことになりました。
…………まぁ、マガツがどんな邪悪でも、最後まで付き合うつもりではあるけどさ。
マガツと戦っていた時が、一番人類が団結していたまである。