ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど? 作:げげるげ
そうだね、小説を書くんだね! それしかないね!!!
はい、投稿します。
マガツ曰く、この世界には『魔物』と呼ばれる生物が居るらしい。
定義は割と雑。
魔力を使える生物――略して魔物なのだとか。
そうなると広義の意味では人間も魔物に入るだろうけども。そこは、僕らの世界でも人間のことをわざわざ『動物』と呼ばないように、広義の意味として通じるけれども普通は使わない、という感じの認識らしい。
『ギギギッ!』
『ぐるるるぅっ!』
『ギャギャッ!』
そんな魔物が三体、僕の目の前に居る。
真ん中に、毛むくじゃらの二足歩行の獣――コボルド。
両脇を固めるのが、粗末な武器を持つ灰色肌の矮躯――ゴブリン。
RPGの序盤に出てきそうな雑魚モンスターたちが今、僕の目の前で敵意を放っていた。
「さて、と」
周囲は石壁と石畳によって作られた通路。
幅は十メートルも無く、高さも四メートル以下という具合だ。
狭すぎるというほどではないが、満足に動き回れるという広さでもない。
けれども、コボルドとゴブリンにとっては、この通路は慣れ親しんだ空間。十全に動くには問題ない場所だ。
つまり、地の利はあちらにあるということ。
ここに入る前に読んだ、『新人探索者の心得』という冊子の中には、魔物に対して人数不利、地形が不利な時は素直に逃走しろ、という警告があった。
故に、つい先ほど探索者ギルドに登録したばかりの新人探索者としては、このまま逃げるのが間違いなく安全策。セオリーというものなのだろう。
「ソウル・リッパー」
けれども、お生憎。
これはそういう話ではない。
異世界召喚された勇者が、ダンジョンを己の身一つで攻略するという話ではないのだ。
『ギャッ!?』
『ギャインッ!』
『ギギ――ギッ』
僕は手の内から創造した短剣を振るい、さっさと三体の雑魚を片づける。
油断は禁物、などと言われているが、これは油断以前の問題だ。雑草よりも軽々と刈り取れる雑魚相手に、過度な警戒を使う方がダンジョンに対しての油断というものだろう。
「おー」
魔物三体を片づけた後を見ると、その死体は消滅し、後には赤黒い小石が三つ。
これは魔力石と呼ばれるものらしく、これをギルドに持ち帰ることにより、探索者たちは報酬を得ることが出来るのだとか。
「とりあえず、討伐証明のために拾っておきますか」
僕は魔力石三つを拾い――――傍から僕の戦いを眺めていたマガツに投げ渡す。
「へい」
「うむ」
投げ渡した魔力石を、マガツは受け止めない。
代わりに、マガツの周囲の空間が水面の如く揺らぎ、魔力石をとぷりと別空間に仕舞い込む。
いや、本当に便利だよね、アイテムボックスモドキの魔術。
「見事――と言うのは失礼に当たるな。いくら人型の生物とはいえ、最初の階層の魔物に、我が契約者が手間取る理由も無し、と」
「まぁ、それはいくらなんでもね? 権能をマガツから借りているおかげで、こうやって武器や防具も創造できているわけだし。準備運動みたいなものさ……もちろん、ここから先のことは分からないけどね?」
「くくくっ! ならば、存分に期待するがいい」
マガツは笑う。
通路の壁に設置された松明に横顔を照らされながら、邪悪に笑う。
「我が五百年前に作り上げた、この『地下迷宮バルム』は、きっとお主を退屈させることは無いだろうからのう!」
まるで、自分の描き上げた絵を誇る幼子のように。
あるいは、人間の足掻きを楽しむ超越者のように。
●●●
おおよそ五百年前。
マガツが邪神三柱をボコボコにして支配下に置き、全人類に『戦略ゲーやろうぜ!』みたいな軽いノリで戦いを挑んでいた頃。
「そうだ。ここら辺にでも、我の眷属が湧き出るスポットでも作っておくかのう」
などと、軽いノリで魔物の生産拠点を作ったのが、ダンジョン――地下迷宮バルムの始まりなのだとか。
ただ、他の邪神たちと異なり、このマガツが悪辣なところは人間の欲望を良く知っていることである。
マガツは無作為にダンジョン内に魔物を配置したわけではない。
ダンジョンの浅層には、わざと弱い魔物を。
地下深くに進むにつれて、段々と魔物の強さを上げて。
まるで、進む探索者を強化するかのように、程よい難易度の配置にしていたのである。
更には、このダンジョン内には『宝箱』が存在する。
たまに悪辣な罠が仕掛けてあるが、開ければ大抵、マガツが作り上げた貴重な魔道具が入っているのだ。しかも、魔道具の中には、売れば一生遊べるような一財産になるようなものも。
当然、人類はダンジョンを放置できない――という建前の下、魔道具が欲しいという欲望に導かれるまま、多くの者が地下へと潜って行った。
ダンジョンの周囲に、拠点である五重の防壁都市を立てて。
王国だけではなく、他の二国からも優秀な人材を募って。
マガツが設置したダンジョンを踏破し、より多くの資源を手に入れようとしていた。
――――地下に進めば進むほど、マガツの瘴気に浸食されるとも知らずに。
そう、罠なのだ。こちらもまた、当然の如く。
「ダンジョンで強くなった人間を、我が眷属として支配する。後は、管理者の暗黒竜を筆頭として、王国の横っ腹を奇襲で食い破ればいい」
マガツは狡猾だった。
狡猾の上、きちんと謀り事にコストを支払える邪悪だった。
そう、自らの権能の一つを剥がし、眷属である暗黒竜へと与えていたのだ。
これにより、暗黒竜は魔神機にも匹敵するほどの力を持って、ダンジョン内を管理していた。
万が一、魔神機がダンジョンを処理しようと突っ込んできても、返り討ちに出来るように。
かくして、邪悪の罠は十全に張り巡らされて。
――――けれども、その狡猾さが発揮する間もなく、マガツは超勇者によって討たれた。
最終決戦の際、超勇者を筆頭とした討伐連合の八割を滅して。
最後の一撃により、大陸の十分の一を不毛の土地へ変えて。
散々暴れ回りながら、最後には討伐されてしまったのである。
…………まぁ、本人は語っている時、物凄く満足げだったけどね?
ともあれ、そうなってしまえば、残ったダンジョンは都合の良い資源である。
何せ、マガツが直々に難易度調整したダンジョンだ。
しかも、マガツが封印されたことによって、探索者たちを蝕む瘴気は消え去った。
残ったのは、人類を強化するには都合の良い仕組みがあるダンジョンと、あと一つ。
マガツの権能を与えられた、ダンジョンの最下層に座する暗黒竜だけ。
僕らの目的は、この暗黒竜を討伐し、マガツが与えた権能を回収することである。
●●●
探索者ギルドに登録し、探索者としてダンジョンに入る前、マガツは言った。
「マサヒコよ。今回はお主、全力でダンジョンを攻略してもいい……否! そうするべきなのじゃ! 何故かって? 大神殿が探しているのは、我とお主――そう、異世界からやって来た勇者じゃ。『ろくに戦いも無い平和な国で育った勇者』じゃよ。誰もお主が、規格外の怪物だなんて気づいてはおらぬ」
誰が規格外の怪物じゃい、とその時にはきっちりと突っ込みました。
「故に、ここでお主が全力を発揮し! 物凄い結果を出すことが出来れば! 自然と『あいつが召喚勇者は無理があるだろ』という認識が出来上がる! え? お主が出来ることなら、他の召喚勇者も出来るだろ、って? まずは他人が自分と同等の素質を持っているという思い上がりは捨てるのじゃ」
この時のマガツは、僕に心底呆れた顔をしていました。
「絶対! 絶対じゃって! お主が全力でやらかせば、絶対に気づかれぬ! だが、まぁ、そうじゃな。このダンジョンは五百年の間、誰も完全にクリアされていない難攻不落の迷宮。全百階層の内、今は八十七階層を攻略中とのことじゃが……三日で二十階層を越えることが出来たのならば、褒めてやろう」
この時の僕は、マガツに『無茶を言うなぁ』と苦笑してました。
「マサヒコよ。異邦の怪物よ。お主の才能は既に理解しているが、心せよ? このダンジョンは我と暗黒竜が作り上げた試練の場。生半可な覚悟では怪我をするぞ?」
とまぁ、このような感じに、やたらノリノリでダンジョン攻略を進められたのだった。
恐らく、やろうと思えばマガツが先行して、一気に最下層まで進むことも出来るのだろう。
けれども、そうしないだけの理由があるのだ。
ならば、僕は深い理由は訊かない。
ただ、一人の探索者として全力を尽くすだけである。
「おめでとうございます。十階層のボスの討伐証明、確かに受け取りました……ふふふっ。有望ですよ、マサヒコさんは。初日で十階層を突破するのは将来有望な探索者の証拠です」
僕は頑張った。
とりあえず、準備運動がてら、十階層まで攻略を進めた。
そのことをギルドの受付嬢に報告すると、営業スマイルとは違う、本物の笑顔を向けてくれた…………うん。中々悪くないね、こういうのも。
「……えっ? も、もう、二十階層のボスまで攻略したのですか? い、いえ、疑っているというわけではありませんが……一応、討伐証明の魔石を確認しても?」
二時間後、僕は頑張って二十階層まで突破した。
一応、これでノルマはクリアしたわけだが、ようやく体が温まって来たのだ。
マガツも『まだまだこれからが本番じゃぞ?』と腕を組んでいるので、行けるところまで行ってみたいと思う。
「すみません。流石に疑わせてください。いくら何でも、この短時間で三十階層までの攻略など不可能です。貴方、初心者では無いですよね? どこかの国の特殊部隊の人間とかですよね? あるいはスパイですか? …………ともかく、次のダンジョン攻略には、ギルドが派遣した調査員と共に行動してください」
一時間後、僕は頑張って三十階層まで攻略したわけだが、疑われてしまった。
あれだろうか? 僕が魔物の攻撃を見切って回避するタイプの戦闘スタイルだから、あまり装備が汚れていないのが悪かったのだろうか? とにかく、調査員の人を付けてもらえるみたいだから、そこで疑惑を解消しよう。
「おかしいおかしいおかしいですって!! 時間が! おかしいですって! 明らかに往復移動の時間分で既に矛盾してますって! 無理ですって、四十階層までの攻略なんて!!? ほら、調査員の人も何か言って――――え? 物凄い速度でダンジョン内を駆け抜けた? 一切の迷いなく? 魔物をすり抜けて、討伐証明が必要なボスだけ倒した!? そ、そんなの……人間技ではありません!」
三十分後、移動しているだけでボロボロになった調査員さんを引きずって帰還。
何やら色々と文句を言われてしまったが、最終的にはギルドマスターの人が出てきて、僕の行動をきちんと監査してくれたので問題は無くなった。
さぁ、もうひと頑張りだ。
「もうやだぁあああああ!! 怖いよぉおおおおおおお!! 私はもう、無理です!! 明らかにおかしいですもん! 初日に五十階層まで到達って!! しかも、いちいち戻ってきて、ギルドに報告しながらって! こんな怪物の相手は無理ですぅうううう!! 助けてください、ギルドマスター!!!」
二十分後、五十階層を攻略したことを告げると、ついに受付嬢が泣いてしまった。
別に悪いことはしていないのだが、流石にここから更にダンジョン攻略に迎えるほど、僕の肝っ玉は太くない。
「帰って!! そして、休憩してください!! せめて! 明日は休日にしてください! そうしないと世の中の理がおかしくなります!!」
受付嬢の人からのアドバイスも貰ったし、今日はもうやめて、ゆっくり体を休めることにする。あれだけパニック状態であっても、きちんと新人に有益なアドバイスをする受付嬢の人は、やはりプロなんだなと思った。
「ご、ゴミみたいに……我と暗黒竜が頑張って作った魔物も、ダンジョンギミックも、全部ゴミみたいに突破されたのじゃ……」
なお、途中からマガツは株取引で金を溶かした人みたいな顔になっていた模様。
いや、お前が煽ったんだからね?
●●●
この異世界に来てから度々思うことだが、中々に生活レベルが高い。
少なくとも、アルバート王国の文化レベルでは。
ダンジョン攻略帰りに、軽く汗を流せる銭湯みたいな施設もある。
しかも、中々に綺麗で衛生的だ。
食料品も市場で売っているものもあるが、巨大スーパーのように、温度管理の下に売り出されている代物もある。
料理道具も、現代日本と比べて遜色が無いものばかり。
少なくとも、男性が一人暮らしする時に用意する料理道具一式程度は、簡単に手に入るようだ。
そして、何より。
「お待たせしました。こちらが用意させていただいた宿になります」
ポンチョの少女が紹介してくれた宿は、中々に上等なものだった。
「へぇ、悪くない」
一見するとそこは、二階建ての一軒家のように見えた。
木造建築であり、庭付きの一軒家。
屋根は塗装も剥げていない。ざっと見回っても、周囲にゴミは散らかっていない。
内装を確認しても、変な建付けになっていないし、汚れなどは全然見当たらない。
部屋の数も、ベッドの数も十分。家具も完備で、キッチンも使用可能。
風呂も広くて、スイッチ一つでお湯が沸くタイプの魔道具付きのものだ。
少なくとも、海外で泊まる安宿とは比べ物にならない。
「大家は隣の家に住む、元上級探索者です。彼女の腕前のおかげで、不逞の輩はこの場には近づきません」
「防犯もばっちりか、いいね」
「ありがとうございます」
「はい、じゃあ、これ」
恭しく頭を下げる少女へ、僕は多めの金銭を握らせる。
こういう時にケチる者に、人は付いて来ないのだ。
「いえ、そんな――」
「遠慮は無用。後、敬語も必要ないよ。そっちの方が話していて楽だからね、僕が」
「…………いいの?」
「いいんだよ。それと」
僕は改めて少女と向かい合う。
その栗色の瞳を見つめて、今更ながらに言う。
「僕の名前は佐藤雅彦。こっちで不貞腐れているのが、思惑が外れて残念な状態のマガツ」
「今の我を茶化す者は殺す」
「こんな感じだけどまぁ、僕が何かやらかす前に対処するから。可能であれば、僕が居ないところで変に接触しないように。下手すると死ぬから」
「きゃいんっ!」
少女はマガツの覇気にぷるぷると震えて後退しそうになるが、ぐっと堪えて僕を見上げた。
「じゃあ、君の名前は?」
その度胸に報いるように、僕は少女の名前を尋ねる。
「私は、エリス。ただのエリスよ。ご主人様」
「そうかい」
少女――エリスは真剣な表情で己が名を名乗った。
うん、それでいい。まずは互いに名乗り合うこと。それが、師弟の始まりなのだから。
……ただ、それはそれとして。
「これからよろしく、エリス。でも、ご主人様は止めよう。モラルがよろしくない」
「旦那様?」
「うん、違うね?」
「マサヒコ様?」
「様付けをされるような人ではないね、僕は」
「じゃあ、兄様で」
「いや、だから様付けは――」
「不敬だけども、申し上げるわ。貴方は様付けをされるような方なので、これで妥協して」
「…………まぁ、わかったよ」
何故、妥協した結果が『兄様』になるのかは不明だが、そこまで言われてしまえば仕方がない。あまり、こっちの要求ばかりを通すのも不健全だからね。
「これからよろしく、エリス」
「うん、兄様」
「ということで」
「うん?」
そして、働きには報酬を与えるべきだ。
相手が求めてやまないものを、報酬として渡すべきだ。
「早速だけど、君に強くなる方法を教えようか」
「――――っ!! うんっ!!!」
故に、僕はこの力を求める少女に、分かり易く力を与えてあげることにした。
そう。誰でも強くなれる、とっておきの方法を。
「兄様」
「なんだい?」
「何をしているの?」
「料理」
「…………強くなるための方法、よね?」
「もちろん」
僕は宿のキッチンを使って、軽く料理を作った。
凝ったものではない。
沢山の野菜が入ったスープに、良い感じのパン屋から買った細長いパン。
後は、探索者として稼いだ金の半分ぐらいを注ぎ込んで勝った、この街で最高級の肉。
それをバンバンと焼く。
ショウガ的な奴と香辛料を組み合わせて作ったソースを塗って。
皿の上に山盛りに乗せていく。
「じゅる……はっ! そ、そうじゃなくて!」
やはり素材が良ければ、大体の料理は上手く行くね。
その証拠に、不満を感じながらもエリスの料理に釘付けだ。
「なんの冗談なの、兄様? まさか、この料理を食べれば強くなると?」
「ああ、強くなるよ?」
「へっ?」
「少なくとも、今の君よりはね?」
僕はエリスをテーブルの席に着かせて、目の前に料理を並べる。
「エリス。空腹の人間と、きっちりご飯を食べた人間。戦って強いのは?」
「…………有利なのは、ご飯を食べた方、だけど」
「健康な人間と病気の人間、強いのは?」
「条件にもよる。だけど、健康な方が選択肢は多い……って、こんなの当たり前!」
「そうだね。当たり前のことだ。つまり、そう言うことだよ」
「………………今の私は、その当たり前すらも出来ていない?」
「その通り。流石、自己判断が的確だね」
たまに勘違いする人が居るんだけどね?
物凄い武術とか、武器とか、そういう如何にも『格好いい理由』の前に、強くなるために必要なのは健康だ。健康になるために必要なのは食事だ。
きちんと食べて、栄養を自分の体に取り込める人間が強いのだ。
少なくとも、僕はそう思う。
…………まぁ、巨大ロボット同士の戦いとか、そういう次元になると話がややこしくなるから、それは置いといて。
僕が観察した感じでは、エリスの肉体は栄養不足だ。
その所為で、本来なら出せるはずの力が全く出せていない。
だから、まずはご飯。栄養。
戦闘技術とかは、その後の話なのだ。
「わかった。今は、兄様を信じる」
エリスは僕の話を半分ぐらいは信じてくれたのか、むっつりと不満そうな顔はしつつも、料理と向き合い、フォークを使って肉を食べた。
がぶりと、大口を開けて、獣っぽい仕草で食べて。
「――――っ!!!???」
次の瞬間、食欲が爆発した。
「はぐっ! んぐがつつがつっ!」
フォークを両手に持って、がつがつと肉を必死に口の中に入れ、咀嚼し、飲み込む。
その後、ごくごくと一息で野菜スープを飲み干してしまった。
「はい、おかわりをどうぞ」
「ありふぁとう!」
がぶがぶと、パンに肉を挟んだ物を噛みつきながらお礼を言うエリス。
うん、ここまで美味しそうに食べてくれるのならば、作った甲斐があったね。
「す、凄いわ、兄様! 美味しい……いや、美味しすぎる!? 私、こんなに美味しい料理は初めて!」
「あははは、大げさな。でも、ありがとうね?」
「いや、本当に!」
目を輝かせながらご飯を食べ続けるエリス。
その間も僕は、笑顔で配膳を続けていた。
「やれやれ、大げさな。スラム育ちの子供に飯を与え、優越感を得る。中々に良い趣味をしているのう、マサヒコ」
「あ、拗ねているマガツだ」
「拗ねておらんが???」
なお、その最中に機嫌の悪いマガツが因縁を付けて絡んで来た。
こいつは僕がダンジョンを爆速で攻略してから、この通りに拗ねているのである。
外見通りの子供かな?? まったくさぁ。
「ふん。エリスは美食に慣れていないから、大げさに褒めているだけの話じゃ。ここは一つ、我がその味がどれほどのものか試してやろう」
マガツは偉そうに言いながら、まだエリスに配膳していない肉を一枚、フォークに刺してから、口元に運んで。
「えっ、うまっ!? はぁ!? なんじゃ、これ!? 美味すぎるんじゃが!? なんじゃ、お主、料理も出来るの!? 気持ち悪っ!」
「酷くない???」
料理を褒めて、僕を盛大に罵倒し始めた。
何か色々と癪に障るものがあったらしい。
「才能が有り過ぎて気持ち悪いのじゃよ、お主は……何なの? 逆に、何を持ちえていないの?」
「友達」
「…………悪かったのじゃ」
なお、僕が真顔で即答すると、マガツは憐れみの表情と共にそっと寄り添って来た。
憐れむなぁ! エリートボッチを憐れむなぁ!!
「ふぉおおおっ! 兄様! ご飯を食べていたら、私の体に力が満ち溢れて……っ! そっか、これが食事によって強くなるということ!!」
そして、僕が憐れまれている内に、エリスの体が『びきばき』と音を立てて強靭に再構成されている感じになっていた。
え、何それ知らん、こわ……。
「人と混ざった獣人の子に、たまに起きる現象じゃな。十分な食事を得ると、己の肉体を最高の状態へと変化させ始める。健康に害は無い、安心せよ」
「お、流石マガツ。物知りで助かるよ」
「むふー」
まぁ、何はともあれ、エリスに問題は無いようだし。
マガツとも仲直りが出来たので良しとしようか。
●●●
早速、湧き上がった力に溺れてはしゃぐエリスの意識を断ち切り、そっと宿のベッドに寝かせて、自分たちも休憩した翌日。
「へぇ、ここが深層までの直通エレベーターかぁ」
「人間とは横着するために、このような物まで作るか。中々に面白いのじゃ」
僕とマガツは受付嬢のアドバイスに従い、探索者としての活動を休んで、ダンジョンまで来ていた。
一文で矛盾したかと思われるけれども、実のところ違う。
何故ならば今、僕たちは探索者としてダンジョンに来ているわけではないからだ。
「じゃあ、よろしくね、マガツ」
「うむ――――『隠蔽』発動」
僕たちは以前、浸食によって奪った隠蔽の権能を発動。
誰にも見とがめられることなく、都市中央に存在する、ダンジョン深層へと続く直通エレベーターの内部に入り込んだ。
「うわぁ、かなり広いね、このエレベーター。何を運ぶ物なんだろ? 拠点製作のための機材とか?」
「あり得るじゃろうな。だが、本命は違う」
「本命?」
「深層――七十階層の入り口に辿り着けばわかるのじゃ」
マガツは巨大な直通エレベーターに浸食を発動。
そのまま、『誤作動』という形で地下までエレベーターを動かして行く。
「ねぇ、これさ。後でバレるよね?」
「問題ない。バレたところで、咎める相手が居なければ無意味じゃ」
「そういうものかねぇ」
しばらく雑談をしていると、がしゃん、という音と共にエレベーターが停止。
豪快な音と共に扉が開き、僕たちはそそくさと誰にも気づかれずに先へと進む。
『おい、何が起こった? 何故、エレベーターが?』
『誤作動でも起きたか?』
『いや、一応警戒しろ。警戒しない間抜けよりも、警戒する間抜けの方が幾分かマシだ』
まるで宇宙服のような作業着を着て活動している者たちの傍をすり抜け、更に先へ。
どうやら、エレベーターの先は軍事基地のような拠点となっており、結構な人がそこで活動しているようだった。
「マサヒコよ。ネタバレするようで悪いが、実のところ、七十階層からのダンジョンはクソでかダンジョンとなっているのだ」
「クソでかダンジョン」
「そう、通路も天井も物凄く広げて作っている。何故かと言えば、そら……見るがいい」
基地を抜けた先、巨大な地下空間が何処までも続いている場所。
そこに、見上げるほどの巨人が居た。
単眼で、岩を切り抜いたような鎧を纏い、大きなハルバードを持つ巨人だ。
「七十階層から、このダンジョンの魔物は巨大化するのじゃ」
「……酷くない?」
「酷くはないぞ。何せ、ここから先は本格防衛。暗黒竜の下に行かれては困るからのう。それなりのリソースを使って、侵入者を排除するようにしているのじゃ。というか、主に魔神機対策じゃな。奴らなら、地表からダンジョンの最深部まで無理やりぶち破ってくる可能もある」
「うわぁ、塩対応にもほどがあるダンジョン攻略」
「そんなわけで、ここから先は生身の人間での攻略は不可能となっているわけじゃよ。だがな? 人間というのは中々に強欲な生き物でのう……ほれ、来たぞ」
マガツが指差した先。
巨人の前に、がしゃんがしゃんと機械音を響かせて、何かが――――人型の大型機械が現れた。
魔神機とも、テンシとも違う。
数多の金属と、多くの魔物の素材らしき何か、他によくわからない部品などを繋ぎ合わせて作られた、継ぎ接ぎの死体みたいな機体が現れた。
その手には、巨大なサブマシンガンみたいな銃器が携えられている。
「くくくっ。あれこそが、悪魔に縋らず、人類の叡智のみで作られた決戦用の機体――『偽神機』じゃよ」
「人類の叡智のみで……」
僕が見上げた先にある機体、偽神機は決して格好いい機体ではない。
無骨で不格好。更には、動く度に何やら軋んだ音を立ててる。
「凄いね」
けれども、僕は純粋な尊敬の気持ちで偽神機を見上げていた。
科学だけではない。魔法とかも沢山使っているだろう。だけど、それでも、人類の力だけで完成されたそれは、不思議と僕の目には輝いて見えた。
『ドドドドォ! ドッ、ドドドォッ!』
偽神機の存在に気付いた巨人が、太鼓の音のように警戒音を口から発する。
対する偽神機は、ただ機械音を駆動させて巨大な銃器を構えた。
「見せてもらおうか。この世界の人類の叡智を」
僕は戦いの巻き添えにならないよう、マガツと共に十分に離れながらも、その二体の対峙からは目を離さない。
どちらが勝つのか?
どのように戦うのか?
いや、どちらが勝つにせよ、その戦いを僕は、心に焼き付けるためにしかと目を見開いて。
『ドドーン!!』
次の瞬間、あっさりと巨人が振るうハルバードによって、偽神機の上半身が切り飛ばされたのを見て、思わず「あっれー?」と間抜けな声を出した。
…………ええと、マガツ?
「ちなみに、偽神機を量産するほどの経済力も技術力も王国には無く、基本的にそれぞれのクランが勝手に作ったワンオフ機体なので、性能がピンキリなのじゃ」
「そっかぁ…………じゃあ、偽神機のパイロットがまだ生きてそうな気配があるから、助けに行こうね?」
「うむ。他の者たちにバレぬよう、手早くと済ませよう」
かくして僕は、ちょっぴり悲しい気持ちになりながらも、マガツオーに乗るのだった。
王国の偽神機:弱いワンオフ機体。物凄く稀に強い機体もある。
帝国の偽神機:かなり高性能な量産型。魔神機の強さに迫るエース機も存在する。
共和国の偽神機:そんなもの作る余裕などない。