ラスボス機体の癖に、スーパーロボット系の主人公機を気取っているんですけど?   作:げげるげ

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うぉおおおお!! 受け取ってください!! これが! 連休最後の更新だぁああああああああ!!!

次から文字数抑えよう、そうしよう。


はい、投稿します。


第9話 裏切られてばっかりの災神

「行くぞ――――超融合」

 

 展開は一瞬。

 マガツから湧き出た暗黒オーラが僕を飲み込んだかと思えば、どぉん!! という轟音と共に感覚がリンク。

 

『最強勇者マガツオー! ここに降臨!!』

 

 瞬きの内に、僕は展開されたマガツオーそのものと成っていた。

 

『では』

『行こうか!』

 

 最初ならば戸惑っていただろう。

 次の戦いなら、一息で感覚の誤差を整えていただろう。

 だけど、この街に来るまでの道中で散々テンシと戦ったんだ。

 

『ドドン――』

『遅い』

 

 マガツオーの降臨と同時に短剣を創造し、次の瞬間に巨人の首を刈り取るぐらいの真似は出来るようになった。

 これも実戦という名の練習の賜物である。

 

『マガツ、周囲に他の魔物は?』

『マサヒコ。邪神の阿呆ではないのじゃ。早々、巨大魔物と連続で戦わせるような真似はせん。コスト的にも最悪だしのう』

『了解。んじゃあ、偽神機のパイロットの手当てを――』

『この会話の内に、触手でやっておいたわ。更には、記憶処理も』

『流石だね、相棒』

『ふふん』

 

 何日かぶりのマガツオーの操縦なわけだけれども、思ったよりもすんなり終わって拍子抜けだ。まぁでも、元々マガツが作り上げたダンジョンであることを考えれば、被造物の雑魚が創造主に敵うわけもない、か。

 

『それじゃあ、マガツ。この後はどうする? 隠蔽の権能を使って、一気に最下層まで進む?』

『ふむ。そのプランも悪くはないが…………ああ、やはり、こうなったか』

 

 マガツの言葉に疑問を持つよりも先に、眼前から――否。

 このダンジョンそのものから、轟音が鳴り響いた。

 同時に、ががががんっ!! とダンジョンの構造が急速に変化し、目の前にあったはずの通路が塞がれる。地面から巨大な鉱石が湧き出て、無理やりにでも通路を閉じている。

 まるで、ダンジョン自体が意思を持って僕たちを拒絶しているかのように。

 

『暗黒竜め。完全に我から離反しておるな? 五百年前の決戦の時、全然呼び出しに応じる気配が無かったから、薄々そうだとは思っていたが……』

『あー、だから、最初から討伐が目的だったのね』

『その通り。そして、心せよ』

 

 次いで、ダンジョンの壁から、急造で何かが生み出された。

 それは、リザードマンと呼ぶに相応しい、二足歩行で爬虫類の頭を持つ巨人だった。

 されど、そのリザードマンには鱗よりも堅い装甲がある。

 烈火を宿した剣がある。

 動きを補助するための、鋼鉄の鎧がある。

 

 ――――パワードスーツを身に着けた、巨大なリザードマン。

 

 仮称:『竜機』から感じる圧力は、先ほどの巨人など比べ物にもならない。

 魔神機か、六枚翼のテンシと同じぐらいの魔力を感じる。

 

『見ればわかると思うが、暗黒竜は割と本気で我らを排除したいようじゃ。あれ、絶対に偽神機の前には出さん奴じゃぞ?』

『うわぁ! 嫌な特別扱い!』

 

 僕は小手調べ感覚で、浸食をたっぷり乗せた短剣を投げ飛ばす。

 

『グルルゥア!』

 

 すると、咆哮と共に烈火の剣を振って、竜機は短剣を弾き落した。

 浸食の権能を、その烈火で焼き払った上で。

 

『マガツ』

『五百年前の戦いの際、我の権能とそれに通じた権能を学んだんじゃろうなぁ』

『なるほど。マガツの対策はしてある、と』

『じゃのう。よほど我が怖いと見える――――我が一部風情が』

『はいはい、落ち着いて、マガツ』

 

 竜機が踏み込み、烈火の剣を振るう。

 その所作は、こちらの世界の武術を踏襲しているのだろうか?

 巨大さに似合わぬ俊敏であり、どこかの部位に無理な負担のかかっていない、実に見事な斬り込みだった。

 

『相手に対策されるなんて、主人公機だとよくあることでしょ?』

 

 そう、僕にとっては実にやりやすい動きだった。

 

『権能が効きづらくても、最強勇者マガツオーの性能は高いんだ。だからまぁ、お前が選んだパイロットの腕を信じてくれよ』

 

 パワードスーツで強化された筋力による斬撃。

 されど、それは綺麗すぎる武術の動きだ。

 つまり、先読みが容易い。

 

『ほいっと』

 

 振るわれる烈火の剣を、短剣で受け流す。

 斬撃を逸らして、力の流れを乱す。

 

『グルッ!?』

 

 すると、ほらこの通り。

 人型であるが故に、分かり易く体勢を崩してくれる。

 だだん、と思わずたたらを踏む形で、僕の前に絶好の隙を晒してくれる。

 

 

『我流・茨』

 

 

 装甲越しに打ち込むのは、浸食の権能ではない。

 単なる魔力を込めた打撃だ。

 けれども、この打撃は僕が地元でとある武術家からパクった術理によるもの。

 摩訶不思議な理論により、相手の装甲を浸透し、内部から衝撃を暴れ狂わせるもの。

 今回はそれに、僕の魔力を思いっきり乗せてみた。

 すると、どうなるのか?

 

『グボバッ』

 

 竜機はぐぐもった断末魔を上げて、内側から爆散した。

 …………あっれー?

 おかしいな。前に見た奴だと、体に茨の裂傷が走って、相手が行動不能になる技だったんだけど? あれかな? やっぱり、本家本元に比べると精度が甘いみたいだね。

 本当だったら、行動不能にした後、浸食でこっちの手駒にしたかったのに。

 

『く、くくくっ! くはははははっ! 悪かったのう、マサヒコ!』

『うん? 何が?』

『たかが、権能が効きづらい程度で、我が怒りを示して済まなかった。これは、我らの格が落ちる行いだった。反省しよう』

『まぁ、そこら辺はお互い様ってことで…………僕はこの世界の常識とかあんまり知らないから、色々と迷惑かけているだろうし』

『迷惑ではない。ただまぁ、ちょっと愉快が過ぎることはあるのう?』

 

 僕とマガツは軽快に言葉を交わしながら、暗黒竜のリアクションを待つ。

 竜機の性能は悪くなかったんだろうけど、お生憎。

 僕らはロボットアニメの主人公をやるつもりで戦っているんだ。

 ――――たかが、真似事が上手いだけの木偶人形に苦戦してやるつもりはない。

 

 

 

『予想外です。まさか、小生の爪牙をへし折る逸材がいらっしゃるとは』

 

 床からどろり、と暗黒の塊が湧き上がる。

 マガツが扱う暗黒のオーラにも似たそれは、僕らの前で一つの形を取った。

 そう、如何にもオーソドックスなドラゴンの形を。

 

『我が主に、その伴侶の方。仮初の肉体にて失礼します。このダンジョンの管理をしております、暗黒竜――――グレイブと申します』

 

 眼前に現れた暗黒竜グレイブの端末は、妙にへりくだった態度で挨拶をする。

 どうにも、離反したとはいえ、主だったマガツに対して礼節を欠くつもりはないらしい。

 いや、挨拶無しで殺しに来ている時点で、礼節とかあんまり関係ない――――って。

 

『何故に伴侶? 違うよ? 僕は相棒枠なんですけど?』

『ふむ、そうでしたか。誇り高い我が主が、その身の内に取り込むほどの方。ただのパイロットではないと愚考し、伴侶だと判断していたのです』

『いやいや。それはあれだよ。男女が隣り合って歩いていたら、あの二人は付き合っているんだなぁ! と勝手に判断しちゃうぐらい早計だよ。ねぇ、マガツ?』

『その通り。我とマサヒコは伴侶を越えた相棒同士! 地の底で引きこもっているお主では、我らの関係性を理解できぬかもしれんが、そういうことなのじゃ!』

『…………うわ、我が主がのじゃロリを気取っておられる』

『殺すぞ貴様』

 

 会話の途中、いきなり険悪になるグレイブとマガツ。

 本当に以前は部下と創造主だったのだろうか?

 

『ははは、殺すも何も。元からそのつもりでしょう?』

『それはまぁ、うむ。貴様は離反しているようだし、権能の回収がてら、ここら辺で処分しておこうと思ってな?』

『なるほど。では、こちらも全力で抗いましょう――――小生はこの街の守護竜グレイブ。決して、災厄の化身に、この街の安寧を侵させはしませぬ』

『はっ! やってみるがいい!!』

 

 マガツオーの中に居る僕が、思わず背筋を震わせるほどの殺意の応酬。

 機体に漲る魔力に、眼前のグレイブから感じる圧倒的な脅威。

 それらを感じながら、僕は勇気を振り絞って声を張り上げた。

 

 

『はい、すとぉおおおおおっぷ!!』

『『へっ??』』

 

 

 これから始まろうとする、不毛な戦いを止めるために。

 

『この場には! 僕が居るでしょ!? 僕の意見を訊かずに、勝手に戦い始めるとはどういうことなの!? そりゃあ? 僕はただの普通の男子高校生で! この異世界にだって、妨害の弾として無理やり召喚されただけの人間だけど!』

『グレイブ、騙されるなよ? こやつ、人の皮を被った怪物じゃから』

『承知しております。我らが作り上げた魔物やギミックを、ゴミのように踏破してくれましたからね』

『こら! そこの二人、真面目に話を聞いて!!』

『『はい』』

 

 何やら失礼なことを言われている気がするが、今はとにかく戦いを止めることに専念しよう。

 

『まず、マガツ! ここに来た目的は!?』

『この不遜な我が一部をぶち殺す』

『違うでしょ? 邪神と戦うために、権能を取り戻しに来たんでしょ?』

『じゃが、そのためには、この馬鹿竜を――』

『だからさ! そこを話し合うんじゃないか!』

 

 僕はマガツオーの機体で、グレイブと向かい合う。

 

『グレイブ。君がその権能を、こちらに返して穏当にこの場を別れるという手段は無いかな?』

『…………難しいです、相棒殿。小生がこのダンジョンを管理するためには、我が主から賜った権能が必要不可欠。これを無くしては、ダンジョンが枯れてしまいます』

『なるほどね。マガツ、僕はそこら辺を聞いてなかったんだけどなぁ!?』

『だって言ったら怒るじゃろ!?』

『言わない方が怒るよ!!?』

 

 まったく、これだからマガツは。

 グレイブが強硬な態度で反抗する理由がわかったよ。

 そりゃあ、自分がずっと住んでいた場所が失われるとわかっていたら、ガチガチに対策を重ねて向かい討つよね?

 

『だが、どちらにせよ、これは譲れんぞ、マサヒコ。権能を取り戻さずに邪神と対峙するのならば、確実に勝利するには街を四つ分浸食し、コストとしなければならんし』

『邪悪な戦い方を提示するのは止めよう???』

『我も愛と正義を実行する機体として、それは最終手段としたい。じゃが、権能無しで戦い、我らが敗北してしまえば…………どの道、次はこのバルムの街が滅ぼされるじゃろうて。何せ、奴は我のことを憎悪しておるからのう。我に関わる存在は、優先的に滅ぼすはずじゃ』

 

 ふむ。ここで『権能は取らないよ、バイバイ』とはいかないし、そうしたところで根本的な解決にはならないか。

 だったら、視点を変えてみよう。

 

『グレイブ、ちょっと良いかな?』

『はい、なんなりと』

『君は恐らく、マガツが封印されてから五百年間、今までこの時に備えていた。違うかな?』

『その通りでございます。小生は邪神どもよりも、何よりも、我が主が恐ろしいので』

『だったら、その主に対抗するため、五百年の間に――――マガツが与えた権能と同等以上のものを用意しているんじゃないかな?』

『…………』

 

 僕たち視点ではなく、グレイブ視点で。

 マガツというラスボスに抗う者の視点で。

 

『沈黙は肯定と受け取って、話を進めるよ』

 

 僕はごく自然の結論に至る。

 ――――勝算が無ければ、かつての主であるマガツに抗うわけも無い、と。

 

『それをマガツが権能代わりに回収して、本来与えた権能はそのまま。マガツは本来の権能は取り戻せないけど、代替となる戦力は確保できる。グレイブは用意していた力を失うけど、ダンジョンを維持するための権能は維持したまま……これでどうかな?』

『『…………』』

 

 僕の提案に、二人は一旦黙り込んだ。

 

『我は、まぁ、相棒の提案だ。それを受け入れる寛容さを持っておる。だが、そっちの馬鹿竜はどうかのう?』

『…………この取引を行った後、戦う力を失った小生が滅ぼされる可能性があります。たとえ、契約魔術を使おうとも、この主の権能は浸食。容易く決まり事など破るでしょう』

『くははは! そうかもなぁ!? だが、このまま戦い、仮に我らに勝つことが出来ようとも、戦場となったダンジョンは滅びるだろうよ!』

『むぅ』

 

 黙り込んだ後、マガツは何やら邪悪な算段を立てたらしく、意気揚々とグレイブに語り掛けている。

 

『グレイブ。我らがどうなろうが、貴様は詰んでいるのじゃ。ならば、せめて我の慈悲に……いや、それでは駄目だな。我が相棒の善意に縋ってみるがいい』

『くっ! 邪悪な我が主の慈悲など皆無ですが、この道徳ゼロ点クソカス邪悪災神と、短期間であれ対等にやり合えている人ならば!』

『おいこら貴様。殺すぞ? 今殺すぞ?』

『――――条件があります、相棒殿』

 

 殺意を漲らせるマガツを無視して、グレイブは言う。

 

『このダンジョンに座する我が本体。それを倒すだけの探索者をご用意くださいませ。我が本懐が果たされれば、小生は喜んで代替となる刃を捧げましょう』

『ふむ。この場合、君は倒されるわけだけど、死ぬわけではない?』

『はい。このダンジョン内に居る限り、我は死んでも復活しますので…………そこの我が主に浸食されない限りは』

『なるほどね』

 

 条件は中々に難題だ。

 五百年かかって攻略できていないダンジョンを、僕ら以外の者に攻略させろと言う。

 けれどもまぁ、なんとかなるでしょ。

 

『わかった、その条件で良い』

『……マサヒコ?』

『僕を信じてよ、マガツ。ほら、僕らにはエリスが居るし。どうとでもなるさ』

 

 今、僕らの手元には、尋常では無い戦闘の才能を持つエリスが居るのだから。

 僕が鍛え上げて、どうにか偽神機を用意すれば、まぁ、何とでもなるさ。

 

『お主はあの孤児に期待し過ぎじゃよ……だが、まぁ、いい。我はお主の相棒だ。その無謀を信じよう、相棒として』

『ありがとう、マガツ』

 

 そして、それなりに根拠のある話になれば、マガツもこの通り、条件を飲んでくれる。

 うん。根が邪悪なマガツだけれども、この通り、意外と話が分かる奴なんだよね。

 

『とまぁ、こんな感じで条件成立! で良いかな? グレイブ』

『ええ、願っても無いことです…………まさか、我が主と話し合いが成立するとは』

『そろそろガチで滅するぞ貴様』

 

 ふぃー、どうにかなった!

 これで何とか戦わずに交渉成立……なんだけど、なんかグレイブがじっとこっちを見つめているんだけど?

 

『相棒殿――いえ、マサヒコ様』

『うん? どうしたの?』

『これは、小生の善意からの提案なのですが――――貴方様の都合がいい時に、元の世界に送還して差し上げましょうか?』

『は?????』

『ブチ切れて殺意を向けるのをやめてください、我が主』

 

 おっと、これは想定外の提案だぞ。

 なんか、マガツはガチ切れしてしまっているが。

 

『貴方様は本来、この場に居るべきではない『巻き込まれ』でしょう?』

『まぁ、そうだね。この世界の戦争に巻き込まれて、この様だね』

『ならば、小生がコストを支払い、貴方様を元の世界に戻しましょう。この邪悪な倫理観ゴミカスの相棒なんて苦行、善人である貴方様がやるべきではない』

『はーい、殺すぅ! もう取引なんて関係ない! ここで貴様を殺すぅ!』

『マガツ、ストップ』

『ぬぅーん!!』

 

 ふんふん。

 まぁ、あれかな? 善意半分打算半分ってところかな?

 確かに、僕を排除出来たのならば、残るは力押し大好きなマガツ。そのマガツだけなら、なんとか対応できると思っているのか……まぁ、僕はなんだかんだ、マガツが本気になったら、何もかもを滅ぼせる存在だとは思っているけどね?

 ――なんて、今は相手の狙いとか、その場合の顛末とか、そういう余計なことを考えなくてもいいか。

 今、僕が言うべきことは一つだけ。

 

『君の気持は嬉しいよ、グレイブ。だけど、あえて言おう――――僕らを舐めるな』

 

 明確な怒りの言葉だけ。

 

『君も、大神殿も、邪神も。誰も彼も、僕をもののついでで殺そうとしてきた。だけど、マガツは、マガツだけは僕を選んだ。僕を望んだ。無論、邪悪な打算もあっただろうけどさ、それでも、マガツだけが僕という存在を認めて、契約を持ちかけて来たんだ』

 

 確かに、元の世界に帰還できるのは嬉しいよ?

 でもね、帰る前にやるべきことがある。

 それをやらなければ、意地でも帰れないってことが。

 

『だから、僕は全力でマガツの望みを叶えることを選ぶ。マガツが愛と正義のスーパーロボットをやりたいのなら、僕はそのパイロットらしく振舞うさ。そういう関係なんだよ、僕たちは』

『マサヒコ……』

『これでわかったかな? つまりはまぁ――――外野風情が僕らの関係に口を出すんじゃない』

 

 僕は確かなる殺意と刃を向けて、グレイブを睨みつける。

 

『ふふふっ、なるほど。これはとんだ無礼を。小生の愚行、どうかお許しくださいませ』

 

 なのに、どうしてかグレイブはどこか嬉しそうに頭を下げた。

 

『うん? ん、まぁ、いいよ。二度と言わなければ、僕は許すさ』

『だが、我が許すかな!!???』

『落ち着いて、マガツ』

『ふしゃー!!』

 

 荒ぶるマガツを宥めていると、グレイブはすっと頭を上げて口を開く。

 

『我が主よ』

『なんじゃ、殺すぞ?』

『貴方様は五百年前、間違えてばかりでした』

『は???』

『部下からはほぼ全員に裏切られて、単独で世界と戦って…………最終的には超勇者に感化されて、今では愛と正義のヒーローを騙ろうとしている。本当にもう、色々と間違いだらけですよ、貴方様は』

『殺す、今すぐ殺す』

『――――けれども』

 

 ぎぎぎ、とマガツが殺意のままに兵装を展開しようとするその寸前。

 

 

『どうやら、貴方様がその勇者を選んだことだけは、間違いでは無かったようですね』

 

 

 グレイブは感傷に満ちた賞賛の言葉を残して、するりと姿を消し去った。

 

『ふん。貴様に言われるまでも無い』

 

 その後、言葉を吐き捨てたマガツは、少しだけ照れていたのかもしれない。

 

 

●●●

 

 

 目標は具体的になった。

 最下層に座する暗黒竜グレイブを倒せるだけの探索者を見つけ出すこと。

 これは、僕たちだけが強くてもどうにもならないことだ。

 

 必要なのは、『強い探索者』と『性能が高い偽神機』だろうね。

 マガツ曰く、『その気になればマガツオーの下位互換を生み出せる』とのことだったが、それだと恐らくグレイブの要望には沿わない。

 あくまでも人間の力。

 特に、マガツが出来るだけ関わらない方法で、ダンジョンをクリアして欲しいのだろう。

 そういう願望や矜持があるからこそ、五百年前にマガツから離反したのだ。

 

 故に、ここでエリスの存在が活きて来る。

 あれほどの才能を、僕は見たことが無い。

 エリスを鍛えて、探索者になって貰うのが何よりもの近道だ。

 まぁ、流石にエリス単独での攻略は難しいので、後々他に仲間は集めるとして。

 とりあえず、ダンジョンから帰った僕は、宿の庭先でエリスに戦闘技術を教え込むことにしたのである。

 

「兄様……凄い。私、兄様の言うとおりにするだけで、中級探索者……ううん、上級探索者ぐらいの力を手に入れちゃった……たった三時間の鍛錬で……」

「まだ感心するのは早いよ、エリス。君にはもっと強くなって貰う。中級、上級、そんな区分なんて歯牙にもかけない。最強の探索者になるんだ、君は」

「最強……」

 

 きらきらとした瞳で、何度も「最強」という単語を繰り返し呟くエリス。

 ふっ、やはり、才能もそうだけど、力に対する渇望が素晴らしい。これならば、グレイブの要望を越えるだけの探索者が出来上がるだろう。

 

「きもっ。才能の特異点なの? きもすぎるんじゃけど?」

 

 なお、マガツは僕らの訓練風景を見学してドン引きしていた。

 どうにも、色々と一般的ではないらしいが、これで確実に強くなるのだから無問題である。

 

「さて、最強になるためには適度な休憩が必要だよ、エリス。汗を流して、ご飯を食べたら、ゆっくり休みなさい」

「はい、兄様……それで、あの」

「うん?」

 

 エリスは僕を見上げると、やや躊躇いがちに口を開く。

 

「兄様は鍛錬の時、普通に私に触れるけど……獣混じりは平気なの?」

「別に、ただのハーフってだけでしょ?」

「…………あの、兄様ってひょっとして異世界出身ですか?」

「あれ? わかる?」

「その反応で大体は」

 

 僕がすっとマガツの方に視線を向けると、マガツは『やれやれ』という顔で解説を始めてくれた。

 

「この世界では異種族同士の子供は出来にくいのじゃ。物凄く、かなり、出来にくい。だから、もしも異種族同士で子供が出来たのならば、『悍ましい呪いの子』として忌み嫌われるのじゃ。一昔前だと、即座に殺すべき、などと国が推奨してたぐらいじゃ」

「うわぁ、異世界特有の野蛮さ……いや、僕らの世界も大差ないか」

 

 ともあれ、話は分かった。

 

「いいかい、エリス」

「わひゃっ」

 

 色々と理論で説明するのは面倒だし、大して効果はなさそうなので、言葉よりも先に、エリスの体を抱き上げて、幼い子供にそうするように『高い高い』と掲げる。

 

「僕は、君をその程度のことで遠ざけない。君の才能は、そんな生まれ程度のことで鈍らせるものじゃあないんだよ」

「兄様……えっとね、でもね? 私みたいな混じり者には、災厄を起こす力が――」

「あ、それは我が、時々、虐げられた混じり者共に『力が欲しいか?』ムーブをしておるだけじゃぞ?」

「「諸悪の根源!!?」」

 

 思わぬところに迫害の原因の一部が居たわけだが、ともあれ。

 

「エリス。卑下する必要はない。遠慮する必要も無い。僕に対してだけは、どんどんと自分の意見をぶつけて来るといい」

「兄様……」

 

 僕は仲間であるエリスに微笑みかけ、その不安を笑い飛ばしてやったのだった。

 

 

 

 夜。

 食事と入浴など諸々が終わった就寝時間の前。

 

「兄様、私考えたの。獣混じりで周囲から嫌われている私の処女を一番有効活用できるのは、その手の偏見が一切ない兄様相手だって。それに、多分兄様はなんだかんだ情が深い相手だから、なし崩しでも抱いた相手のことを見捨てられないと思う。だから、しましょう、交尾」

「判断が早い!!?」

 

 エリスが獣の如き俊敏さで寝床に入り込もうとしたので、即座に関節技で自由を奪う。

 あっぶない! 自分で育てた弟子に貞操を奪われるとか、洒落にならないんだけど!?

 

「兄様、駄目?」

「駄目だよ!? そういうのはもっと惚れた相手とか、愛する人にやりなよ!」

「わかった。マガツ様、洗脳をお願い」

「よし来た!」

「来るな、馬鹿!!」

 

 更には、僕の隣のベッドで寝そべっていたマガツが触手を伸ばして来たので、一喝して追い払う。

 

「洗脳をそういう使い方するんじゃあない!」

「でもー」

「でもじゃない!」

「私に性欲を抱ける希少な人間は、今のところ兄様ぐらいしか」

「他にも異世界召喚勇者……の類は、大体ペアが居るなぁ、おのれ!」

「それに、異性の中で好きなのは兄様だもの」

「君が好きなのは僕では無くて、僕によって与えられる力だろ!?」

「うん」

「ほらぁ!」

「でも、それが交尾をしない理由にはならない」

「なるの! 僕はなるの! んもう!!」

「きゃいんっ!?」

 

 僕は関節技を決めたまま、指先でエリスの肉体のツボをいくつか突く。

 これにより、数分間だけではあるが、エリスは肉体の自由が利かないはずだ。

 

「はい、この馬鹿狼を部屋のベッドに放り込んで来まーす」

「う、ううっ。残念、失敗……どうせなら、マガツ様に妖艶な誘い方を教えて貰ってからの方がよかったか……」

「いや、無意味だよ。だってこいつ、誘う時、腕組みながらの仁王立ちだったもん」

「マガツ様???」

 

 エリスから信じられないもの見るような目を向けられるマガツは、何でもないように言う。

 

「いや、だって我は処女じゃし。そういうの知らん」

「「えっ」」

 

 僕ですらも、割と衝撃を受ける事実を。

 

「なんじゃ、その反応。特に、マサヒコ」

「いや、ごめん……だって、前の時は凄く軽くというか、馬鹿みたいに誘って来たというか、その……素直に言うと、何百年も生きている邪悪の化身が処女なのは逆に怖い」

「怖いってなんじゃ、失礼な」

 

 マガツは不服な表情のまま、語り始める。

 

「我は元々無機物系の存在じゃったからのう。そういう生殖行動が伴う情動はほぼ皆無じゃ」

「ええと、じゃあ、そういう行為はする意味が分からないと?」

「いいや? エロスには生きるための情動があり、パワーがある。それを知ろうとして、好奇心のままに色々と試してみようと思うこともあった……のじゃけどもな?」

「うん」

「まず、一定以上の魔力量が無い奴、魂の格が無い奴、それらは我に近づいただけで卒倒する。触れ続けると体調を崩し、最悪死ぬ」

「こわっ!!」

 

 存在自体が邪悪な奴じゃん。

 

「ならば、と強い部下たちに『試しにセックスを体験させてくれ』と頼み込んでみたら、『最低最悪死ね』だの『それだけは勘弁してください』とか、『わかりました。人間の街を三つほど支配下に置きます。それでこの罰を免除してください、お願いします』などと言われる始末で」

「うわぁ、物凄く嫌われてる……」

「だから、女好きの部下が出来た時はチャンスだと思ったのじゃよ。そやつへの褒美に『お主が一番好きな女の姿に変身して抱かせてやる』と条件を出したこともあったのじゃが……その、な?」

「その顔はやらかした時の顔」

「…………何が悪かったのじゃろうな? そやつが一番好きな女――幼い頃に死別した育ての母の姿で誘惑したら、急に色々と元気が無くなって、しまいには幼児退行して泣き出してのう」

「「うわぁああああ」」

 

 マガツの過去トークに、僕だけではなくエリスすらもドン引きしていた。

 あのさ、そういうところだよ、マジで。

 

「いや、勘違いするなよ!? いいか!? 血は! 血は繋がっていない親子関係じゃったから!!」

「そういうことじゃないって……人の心……うん、無かったね、そういえば」

「兄様、私学びました……駄目。無理やりは、駄目」

「流石、エリス。学びが早い」

「我を悪い教材にするんじゃない」

 

 結局、マガツの過去トークの衝撃が凄すぎたので、エリスは大人しく部屋に帰ることに。

 …………なんだかんだ、助けてくれたのかねぇ?

 

「さて、子供も部屋に帰ったし。そろそろ、我らは大人の交流をするぞ、マサヒコ」

「触手をしまえ、馬鹿」

 

 いや、やっぱり気のせいかもしれない。




マガツは御覧の通り、部下からは物凄く嫌われています。

だから相棒が必要だったんですね!
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