英雄と呼ばれた僕は。 作:虎春
ほどなくして、ミレリアが肉料理と泡立つエールを運んでくる。
ミレリア「お待ちどうさま!」
フェルナ「サンキュ!」
フェルナは片目を閉じて礼を言うと、シルフィの隣で豪快に食事を始めた。
しばらく二人分の食器が鳴る。やがてフェルナが思い出したように顔を上げた。
フェルナ「そういえばあんた、金やらには困ってないとは思うけど、ギルドとか行ったらどうだい?」
シルフィ「ギルド? たしか、依頼とかを受けて報酬を得る、あれ?」
シルフィが小首を傾げる。少し離れた場所で別の客へ酒を出していたミレリアが、会話を聞きつけて振り返った。
ミレリア「いいじゃないか! 休息するなら、どのみち身分証明にもなるし、この街での融通も利きやすくなる。登録だけして損はないよ!」
フェルナはエールのジョッキを持ち上げ、豪快に笑った。
フェルナ「ま、世界の英雄たる白銀の剣聖を縛りつけようなんてアホがいたら、命知らずもいいとこだけどな!」
屈託なく笑う二人を、シルフィはほんのりと目元を和らげて眺める。
シルフィ「なるほど。でも、一理あるね」
残っていた最後の一口を食べ終えると、シルフィは静かに手を合わせた。
シルフィ「ご馳走様でした」
立てかけていた刀を腰へ戻し、二人に軽く会釈する。酔いどれ亭へ入ってきたときよりも、その足取りはほんの少しだけ軽くなっていた。
冒険者ギルド・リベリア支部/午後
冒険者たちの話し声と、羽根ペンが紙を擦る音が満ちた広間。
受付嬢のアイリス・オトリア身長 165センチ 体重 50キロ バスト Eカップ 年齢 22歳 容姿 吊り目の碧眼、青緑のショートボブカットの美女。 性格 凛としており、常に冷静沈着。淡々と仕事をこなすギルドの受付嬢。
は、今日も淡々と書類を処理していた。
カラン、カラン。
入口の鈴が鳴る。
続いて、広間のざわめきが不自然に膨らみ、次の瞬間には波が引くように静まった。
アイリスは怪訝に思いながら顔を上げる。
扉の前には、白銀の髪を腰まで流し、黒と金の眼帯をつけた小柄な剣士が立っていた。
伝説の姿を認めた瞬間、アイリスの碧眼が大きく見開かれる。
シルフィは受付まで歩み寄ると、まだ心を閉ざしたような冷たい無表情で問いかけた。
シルフィ「ギルドはここでいいのかな?」
アイリス「……っ」
アイリスは青ざめたまま固まっている。
シルフィ「聞いてる?」
シルフィの瞳が僅かに細まり、靴音が受付へ近づく。
カツン、カツン。
アイリスは、はっと我に返った。すぐに背筋を伸ばし、受付嬢としての冷静さを取り戻して丁寧に一礼する。
アイリス「初めまして。冒険者ギルド・リベリア支部へようこそ。受付のアイリスと申します」
顔を上げた彼女の眼差しには、敬意と、それを上回るほどの畏怖が宿っていた。
アイリス「あなたのような方にお会いできて光栄です。白銀の剣聖様」