英雄と呼ばれた僕は。   作:虎春

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第五話 1人の冒険者として

シルフィ「ありがと。そう言われて嫌な気はしない」

 

そこで一度言葉を切り、シルフィは淡々と続ける。

 

シルフィ「ただし、今日は英雄扱いされたくて来たわけじゃない」

 

アイリス「えっ?」

 

シルフィ「冒険者として登録したいの。しばらくはここに滞在するし、そのときに役立つって聞いたからね」

 

冷たく聞こえるほど平坦な口調だった。ただ、事実を伝えているだけなのだろう。

 

アイリス「……え?」

 

アイリスはもう一度固まった。白銀の剣聖が、自ら新人と同じ冒険者登録を求めている。理解が追いついた途端、彼女は慌てて必要書類を取り出した。

 

アイリス「か、かしこまりました! 本来であれば試験などの手続きがございますが、あなた様であれば最低限の手続きのみで、試験は省略させていただきます!」

 

慌ただしく紙を揃えるアイリスを、シルフィは不思議そうに見つめる。

 

――どうして、こんなに慌てているのだろう。

 

そんな無自覚な疑問が、その顔にはっきりと浮かんでいた。

 

アイリスは冒険者登録用紙をシルフィの方へ向け、二つの欄を指で示す。

 

アイリス「こちらのお名前と、一人称だけご記入ください」

 

シルフィ「……」

 

羽根ペンを受け取ったシルフィは、言われたとおり二か所だけを書き込む。

 

名前――シルフィ。

 

一人称――僕。

 

用紙を受け取ったアイリスは、それ以外の欄へ迷いなくペンを走らせた。

 

性格。経歴。容姿。能力。そして注意事項。

 

世界中に知れ渡る逸話と、目の前で交わした僅かな会話を、受付嬢らしい正確な筆致で整理していく。

 

書き終えると、用紙を再びシルフィへ向けた。

 

アイリス「ご確認をお願いします」

 

シルフィは一通り目を通し、無言でこくりと頷いた。

 

確認を終えたアイリスは、黒を基調とした一枚のカードを両手で取り出した。

 

金と銀の装飾が縁を囲み、表面にはリベリア支部を示す文字と、シルフィの名が刻まれている。肖像の下では、最高位を示すアダマンタイトの宝石が青白く輝いていた。

 

カード表記

 

LIVELIA/リベリア

WORLD GUILD MEMBER CARD

Silphy Straus

 

アイリスはカードを捧げ持ったまま、深く頭を下げる。

 

アイリス「正直に申し上げますと、アダマンタイト級という最上位の称号ですら、あなた様の実力を収めるには小さすぎると重々承知しております。ですが、現行制度ではこれが最高位です。何卒ご容赦ください」

 

シルフィは嫌な顔も、得意げな顔も見せなかった。ただ片手でカードを受け取り、その意匠へ静かに目を落とす。

 

シルフィ「別に、そこは文句を言う気はない。むしろ仕事が早くて助かるよ」

 

思いがけない返答に、アイリスはきょとんとする。

 

顔を上げたシルフィの整った横顔と、真っ直ぐな白銀の瞳が目に入り、アイリスの頬が僅かに赤く染まった。

 

アイリス「い、いえ。当然の仕事ですから」

 

アイリスは誤魔化すように視線を逸らす。

 

シルフィはカードを衣服のポケットへしまうように腕を動かし、受付から離れようとした。

 

シルフィ「ご苦労。また世話になるときは頼むよ」

 

アイリス「はい。お待ちしております」

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