英雄と呼ばれた僕は。 作:虎春
中立国リベリア、冒険者ギルド。依頼を求める冒険者たちの声で、広い受付ホールは今日も賑わっている。
受付カウンターの前では、ルミリアが一人の白髪の少年を勢いよく指さしていた。突然絡まれたシルフィは、眠たげな目で彼女を見返している。
その背後で、受付嬢のアイリスは呆れたように眉間を揉んだ。
ルミリア「なによあんた!」
アイリス(小声で)「なんでよりによって、その人に絡むの……」
コホン。
アイリスは咳払いを一つして、いつもの冷静な表情に戻る。
アイリス「本日登録された、シルフィ・ストラウス様です」
ルミリア「シルフィ・ストラウス……って、御伽話の英雄?」
ルミリアの顔から、見る見る血の気が引いていく。名を聞いただけで震える彼女に、シルフィは困ったように笑った。
シルフィ「シルフィ・ストラウス。今はただのシルフィさ」
アイリス「そういうことです。下手な詮索はしない。冒険者の基本です」
釘を刺され、ルミリアは一瞬言葉を詰まらせる。それでも、すぐに強気な態度を取り戻した。
ルミリア「そ、そうよね! あんたが誰だろうと、あたしは依頼を受けに来たんだから!」
ルミリアはアイリスへ向き直り、今度は受付嬢を指さす。
ルミリア「ていうか! あたしが受けるって言ってんの! 文句言わないで受注しなさいよ!」
アイリス(ため息交じりに)「ですから、あなたにはまだ早いと……」
シルフィは言い争う二人を眺め、やれやれと苦笑した。
平行線をたどるやり取りの中、シルフィがそっと右手を挙げる。
シルフィ「なら、僕が見守りで同行しましょうか?」
ルミリア「なっ!?」
ルミリアは目を見開き、すぐさまシルフィへ指を突きつけた。
ルミリア「な、なななんで新米のあんたなんかに、見守りされなきゃならないのよ!」
アイリスは冷めた目でルミリアを見る。
アイリス「確かに新米ですが、あなたよりはるか上のアダマンタイト級ですよ?」
ルミリア「えっ?」
冷や汗を流すルミリアの前で、アイリスの口元がわずかに吊り上がる。
アイリス「なにしろ、この方の経歴が経歴ですので」
ルミリア「ぐぬぬ……」
シルフィ(両手を上げて)「そこまで言わなくても」
涙目で食い下がるルミリアを見て、シルフィは申し訳なさそうに笑った。
ルミリアは悔しさを噛み殺しながら、シルフィを指さす。
ルミリア「わかったわよ! ただし、手出し無用だからね!」
シルフィ(優しく微笑んで)「もちろん。約束するよ」
アイリスは小さく息を吐き、依頼書へ手を伸ばした。
アイリス「はぁ……」
ドン――。
『ゴブリン二十体討伐』と記された依頼書に、赤い受注印が押される。
アイリス「では今回は、ストラウス様がご同行されるということで、特例として認めます」
ルミリア(腕を組み、そっぽを向いて)「わかったわよ!」
シルフィは苦笑しながらルミリアへ右手を差し出す。
シルフィ「改めてよろしく。ルミリア」
ルミリア(むくれながら、その手を握って)「仕方ないわね」
二人の握手を、アイリスはどこか心配そうに見守っていた。