英雄と呼ばれた僕は。 作:虎春
握手を終えると、ルミリアは迷いなく出口へ向かう。
ルミリア「じゃあ行くわよ!」
シルフィはその後を追う。奥行きのある受付ホールの向こうで、アイリスが二人の背中へ丁寧に一礼した。
アイリス「お気をつけて」
王都リベリアの街中。石畳の道を、二人は肩を並べて歩く。
シルフィ「初戦闘だけど、剣の扱いは慣れてるの?」
シルフィの視線が、ルミリアの腰に吊られた真っすぐな両刃の短剣へ落ちる。
ルミリアは気まずそうに目を逸らし、頬をかいた。
ルミリア「き、基礎訓練はちゃんとしたわよ」
シルフィ「あはは……。まぁ、基礎ができたら大丈夫、多分」
二人は王都の大門をくぐる。少しだけコミカルな空気の中、ルミリアがシルフィへ食ってかかる。
ルミリア「何よその反応!」
シルフィ(子どもをあやすように)「いや、なにも」
王都リベリアの北には、広大なリベリア大森林が広がっている。街道沿いには小さな村と農地が点在し、森の入口までは穏やかな田園風景が続いていた。
ルミリア(地図を指し示して)「ゴブリンは大体、大森林の入口によく出るのよ」
シルフィ(感心したように)「へぇ、情報収集はちゃんとできてるんだね」
街道を行く二人の脇で、農夫たちが畑仕事に励んでいる。遠くには王都の尖塔が見えた。
シルフィ「この辺りは、のどかで良いね」
ルミリア「まぁね。王都がすぐそばだし、冒険者も多いから魔物も出にくいのよ」
やがて陽光は木々に遮られ、道の先が薄暗くなる。大森林の入口だ。
ルミリア「そろそろよ。ここから先は、魔物がいつ来てもおかしくないの」
ルミリアは左手で鞘を押さえ、親指で鍔をわずかに押し上げる。
カチン!
右手で柄を握ったルミリアは、真っすぐな両刃の短剣を抜き放ち、下段に構えて歩き出す。
ルミリア「あんたも気をつけてよね」
シルフィ「ありがと。気をつけるよ」
薄暗い森の中を、ルミリアが先頭に立って進む。シルフィは少し後ろから、静かに周囲を見渡していた。
ガサッ――。
茂みが大きく揺れ、三匹のゴブリンが飛び出す。緑色の肌、尖った耳、濁った眼。手には粗末な棍棒と刃物を持っている。
ルミリア「……っ!」
ルミリアは即座に短剣を正眼に構える。
だが、正面のゴブリンは攻撃より先に、下卑た笑みを浮かべた。その視線がルミリアの脚、胸元、顔へと不躾に這う。
ルミリア(嫌悪を露わにして)「どこ見てんのよ!」
シルフィ(少し後ろから)「ゴブリンは女の人を見ると、繁殖行為の対象として見るから気をつけてね」
淡々とした忠告に、ルミリアはさらに眉を吊り上げた。