ソロアート・オフライン   作:I love ?

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ようやく一巻に戻れたぜ……。SAO編もあと少し! だけどリーファを落とすのが思い付かない!
……日刊ランキング、どうやったら載るようになるのか……。一度でいいから一位取ってみたいな……。はぁ……。


正反対に、彼は関係を断ち、彼女は関係を紡ごうとする。

十月のある日。

最前線のモンスターの剣が、眼前で黒い剣に受け止められる。

元々がそんなに筋力値はないので、鍔迫り合いを終わらせるため相手の鈍色に光る剣を弾き、相手を仰け反らせた。

相手の重心が後ろに行ったことをこの二年間で磨きあげられた勘で察知し、システムアシストなしの蹴りを革鎧に覆われている部位に放つ。

更にバランスを崩した《リザードマンロード》に容赦なくソードスキルを四撃当て、灰塵に変化させた。

 

「うぉあ〜……。キツ……」

 

モンスターのステータスもそうだが、アルゴリズムも複雑になってきている。攻撃のバリエーションも増え、回避が困難になりつつある。ぶっちゃけ決まった動きをするソードスキルの方が躱しやすいくらいだ。

ラフコフ捕縛……いや、討伐作戦から二ヶ月後。攻略組が開拓した層は七割を越え、七十四層に辿り着いていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮区の鬱々とした雰囲気は戦闘後の疲労回復に適さず、むしろ遅延させると言えよう。これもフィールドと迷宮区の危険度が違うと区分される基準の一つである。その分迷宮区から出たときのフィールドの空気はうまい。超うまい。やはり自然は偉大だ。

現実世界ですると変質者扱いされるためあまりできない深呼吸を数回し、木々の間に存在する小路を行く。

あれから一ヶ月は色々あった。二つ目のユニークスキルの露見はアインクラッドに多大な衝撃を与え、当然俺のところに詳細を聞こうと群がる人は数えきれないほどいた。

まぁ元々俺は住居を決めているわけでもなかったし、ハイディングをしたらロクに索敵スキルを上げてない奴に見つかるわけもなく、ほとぼりは二週間程度で冷めた。

あとの二週間は、まぁ、精神療養(新しく買ったマイホームでダラダラ)していたな、うん。

七十四層ソロ攻略適正レベルは八十九。今の俺のレベルは百一だから、まだ行ける……が、油断は禁物だ。

そのために戦闘で磨り減らした神経はまだ緩めるわけにはいかない。

迷宮区出たあとフィールドあんのめんどくせぇなぁ……。

一旦開き直ってしまうと、案外心に余裕が出来るらしく今はもうそこまで心は荒んでいない。それでも、あくまで一時的に蓋をしただけだし、ふとしたことでまた自己嫌悪は顔を出すことがある。……特に、キリトやアスナが近くにいるとそれは出やすい。

あいつらは人の悪意に鈍く、だからこそ清い。そして、傷つきやすい。

まるで、昔の誰かを見ているかのようだ。

例えば。

例えばの話である。

例えばもし、ゲームのように一つだけ前のセーブデータをに戻って選択肢を選び直せたとしたら、人生は変わるだろうか。

答えは否である。

それは選択肢を持っている人間だけが取りうるルートだ。最初から選択肢を持たない人間にとってその仮定はまったくの無意味である。

故に後悔はない。

より正しく言うのならばこの人生およそすべてに悔いている。

ただ、それは俺に限っての話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……げ」

 

「げ、とはなによ。げ、とは」

 

考えてた矢先にアスナとの遭遇である。相変わらず純粋無垢な目をしてこっちを見ている。というか近い。近い。近いい匂い。……混ざっちゃった。

 

「……別になんでもない。そんじゃ」

 

「ちょっと待って」

 

制止の言葉も気にせずホームに帰ろうと体を反転させた。ら、襟首掴まれ再反転される。

紙に水を垂らすと滲んでいくように、黒い感情がじわりと溢れ出ていく。

純朴の眼で見られ、体が拒否反応を起こしてつい突き飛ばしそうになるが、ギリギリ踏みとどまる。

 

「……なんで、わたしを避けるの?」

 

「……別に避けてない。元々お前と俺じゃ、住んでいる世界が違うってだけの話だ。

もしお前がこのデスゲームの始まりの頃と今で俺がお前との接し方に相違を感じているなら、始まりがおかしかったってだけだ」

 

そう、現実世界でも元々上流階級に位置するであろうアスナと最底辺の世界の住人である俺とは交わらない。

人生が紙面に書かれた一本の線だとするのなら、アスナは少しの歪みもない直線、俺は正反対にぐにゃぐにゃ曲がる波線だろう。

平行ではないが決して交わらない二本の線(俺達の人生)

付け足すなら、似たような境遇の雪ノ下雪乃とも本来関わることはなかったはずだ。俺は運命論者ではないが、仮にそれを奇跡と言うならば某千本桜の使い手じゃないが二度は起きない。

それを歪めたのはこの異様な世界。

どこまでも残酷で、正直で、居心地がよく、美しい世界。そして俺が"なにか"を求めている世界。

キリトとアスナ。こいつらの行く末を、取りうるルートを見てみたいという気持ちはある。

ただそれを果たすには、取り敢えずこの黒い感情に折り合いを付けることが最低限必要だ。一応出来ないことはない。しかしあくまで最低ラインだ。

だがさっきも考えた通り、俺とこいつの住む世界はまるで違う。

 

「違うよハチ君。ハチ君のわたしへの接し方に相違を感じているのはSAO初期じゃなくて、二ヶ月前からだよ」

 

「…………」

 

「接し方も変わったし、それに……いくらなんでもフレンド解除されたら気づくよ」

 

嘘はどんどん看破され、どんどん追い詰められる。断崖絶壁の崖にいるような錯覚を起こすほどだ。

 

「……なんでハチ君がフレンド解除したのかは知らないよ。ううん、原因に心当たりはあるけど理由は知らないよ。でも、さ……」

 

俺は二の句を言わせず、一つの重大な事実をアスナに告げた。

 

「アスナ……周りに人がいることを忘れてないか?」

 

途端、《閃光》は紅くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、なに。話無いなら帰るわ、じゃ」

 

人気のない裏通り(決して淫猥な意味ではない)に移動した俺たちは早速解散しようとしている(アスナの護衛らしき血盟騎士団はアスナが帰した)。

しかし今度は裾を掴まれ、足を止めることとなる。

 

「……はぁ。……フレンド解除した理由を訊きたいのか?」

 

ゆっくりと首を振ったのを確認してから、俺もゆっくりと話し出した。

 

「……と言っても、別に、なぁ……理由はねぇな」

 

「……嘘。さっきも言ったけど、原因は知ってる」

 

「……なんだよ」

 

問いかけると、話してもいいかと一瞬の悩みが見え、瞼が閉じられる。そしてすぐに瞳には確固足る意思があった。

 

「……ラフコフ捕縛……ううん、討伐作戦。原因として思い当たるのは、それだけしかないんだ……」

 

二ヶ月前のリズベットとの会話以来に核心を突かれた。

本当にもう、女ってやつは冷たかったり、優しかったり、鋭かったり、怖かったり……迷宮区よりも複雑怪奇だ。

『  』曰く人生はルールなしパラメーターも判らない、ジャンルすら不明のゲームだと言っていたが、違いない。

女子と会話するのに選択肢なんか出てきやしない。まぁギャルゲーみたいに甘い展開にするためじゃなく、誤魔化すための選択肢なのだが……。

 

「わたしたちは、解ってたはずなのに怖くて、逃げて、ハチ君一人に責任を負わせて……」

 

「……なに言ってんだ? お前」

 

声音に怒気が混じる。

俺はあの戦いで、十人以上もの人を、殺した。

俺はその選択を後悔などしていない。元々あのルートしか俺には選択できなかったのだ。いや、選択できたとしても俺はあのルートを選んだ。

さっきも言ったが、それ自体は後悔などしていない。

人を殺したことを否定はしないし、ちゃんと受け止めている……ただ、それで汚くなった自分だけは認めたくなかった。

ただ失いたくなかった。

死ねば、当たり前だが現実世界に帰ることはできない。

だから、人を殺してでも生き延びた。

それは誰のためでもない、俺が自分のために下した選択だ。

なら、その選択によるあらゆる結果は俺のものであり、他人は一切関係ない。

結果に満足するのも結果を苛むのも、誰にも決めさせない。だから、最悪の結果だろうと同情や憐れみ、憐憫、情け、哀憐なんていらない。

それは俺の選択をなにより侮辱する行為だ。

 

「俺は別にお前らのためになんかやってない。泥を被ったわけでもない。だから、その目をやめろ。……正直、イラつく」

 

「……そっか」

 

なぜか安堵したような息を吐くアスナ。まだ罪悪感は見え隠れしているが、このくらいは人間性があるやつなら感じて当然だろう。

 

「で・も!」

 

「お、おおう……」

 

いかにも「わたし、怒ってます」というポーズでパーソナルスペースに立ち入られ、一歩たじろぐ。そんな……。このA.T.フィールドを、いとも簡単に!?

 

「結局、なんでわたしたちとフレンド解除したの!?」

 

「いや……、だって、なぁ……」

 

「またそうやってはぐらかす」

 

いや、はぐらかしてるわけじゃないんだけどね?

俺の都合でドストレートに「お前らとできるだけ一緒にいたくない」とか、さすがに言えん。嫌われるのはどうでもいいが、必要以上に関係を悪化させる必要もないからな。

自分の中の黒い感情は、考えを後回しにする一時的な処置で取り敢えず折り合いを付けている。キリトやアスナと一緒にいると顔を出やすくなるが、理性で押し止められる程度だ。

 

「はぐらかしてる訳じゃない。いや、まぁ、そのなに、フレンドって和訳するとなんて言うか知ってるだろ?」

 

「友達、じゃないの?」

 

そう、まさしくその通り。俺たちは友達ではない。というか、俺には友達が……いや、戸塚だな、戸塚しかいない。

 

「……な?」

 

「……友達、じゃないの?」

 

日本語七大不思議の一つ、ニュアンスの違いによって言っている意味が違うように聞こえるが発動した!

 

「……いや、違うだろ……多分」

 

「むぅ……」

 

この嘘は効果覿面だったらしく、アスナは俺が見た限りでは嘘を吐いたことに気付いていない。

――人殺しのソロプレイヤーがトップギルドのNo.2とフレンド登録していたら、周りは快くは思わない。最悪、攻略組に亀裂が入り空中分解する可能性もありうる。

同理由で、ソロプレイヤー最強のキリト、今や攻略組にも欠かせないギルド《風林火山》のリーダークライン、一層からの古参プレイヤーエギル、攻略組にも多々情報提供をする《鼠》ともフレンド解除をし、不安要素を無くす。

これがもう一つの理由。

俺のフレンドリストにいるのは、リズベット、フィリア、レイン、シリカ。場合によってはこいつらともフレンド解除をしなくてはならない。

悪事千里を走る、とでも言うべきか、俺の所業はアインクラッド中に知れ渡っている。

俺のせいで誰かが糾弾されるのは望ましくない。ぼっちは人に迷惑をかけないから存在を許されることを忘れてはいけない。

 

「……ならハチ君。わたしは君と友達になりたいから、久しぶりにパーティーを組みましょ?」

 

「……は?」

 

……どんな曲解をしたらこうなるんだ、こいつ。

……まぁ、俺が嘘ついてるんだけどな。


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