……真面目にいこうと思います。
一身上の都合で約三ヶ月も凍結してしまい申し訳ありませんでした。
まだ何やかんやあって更新は遅いと思いますが、またよろしくお願いします!
PS.評価が7.8になっていてうれしいです! 赤まで後少し! ……でも、作者はレッドプレイヤーにはならないんだからねッ! 勘違いしないでよねッ!
思うに、希望とは絶望と表裏一体なのだ。
人は何かを手にいれたとき、それを失うことに恐怖するのだ。
ハイリスクハイリターン。
よく出来た言葉だと思う。
リスクを恐れていては大きなリターンなど得られない。逆にリスクなしで手にはいるリターンなど、絶対に虚偽だ。
この世界に来て思い知らされたのは、俺の心の弱さだった。
頭では解っているのに、もう一度あの部屋に行きたくて。何回も裏切られ知っているはずなのに、結局人を信じることを諦められずに攻略組に参加した。
……正直、楽しかった。
命を懸けたデスゲーム。だからこそ、自分を偽る仮面なんてないこの世界。そんな世界で、俺は心の奥底で信じていた。人は美しいものだと、信じてもいいものだと。
この世界でゆっくりと人を見つめていたいと思う俺と、早く帰りたい俺がいた。
SAO開始初期は、俺は攻略の鬼も真っ青の効率主義であったのだろう。キリトをただの情報源として扱い、アスナを助けたのだって卓越した剣技が早期攻略のために必要不可欠になるであろうことを予期したからだ。
――どこまでも、俺は浅ましかった。
⇔
私はどこまでも臆病者だった。
祖父は厳格で、私や義妹に剣道をするように強いてきた。齢にして二桁にも及ばない私たちがそんな祖父に逆らえるわけもなく、ただただ竹刀を振り続けた。
――そんな時、私はコンピューターに出会ったのだ。
内気な私にとって、インターネットで外と繋がっているコンピューターは無限の世界が詰まっている宝箱のようなものだった。
のめり込めばのめり込むほど、祖父からの叱責は多くなり、怒声を浴びせられた分だけ私は更に違う世界に惹かれていった。
そして、遂に私を見限ったのか祖父は私にもう剣道をやれとは言わなくなった。その代わり、義妹に対してよりいっそう激しくしごいていたが。
二階の自室。小さな小さな私の世界から、私の人身御供とされより多くの回数竹刀を振るようになった義妹を見たくなくて、そっとカーテンを閉めた。
私にはなんの才能も才覚も能力もなかった。
自分から逃げ出したくせに、めきめきと剣道の実力を伸ばしていく義妹に羨望した。義妹に向ける感情ではないのだろうけど、どうしようもなかったのだ。
惨めな自分を認めたくなくて、段々と義妹とは疎遠になっていった。
劣等感にまみれた生活で、私を救ってくれたのはやはりインターネットだった。
画面の中の武器と体をマウスを動かし、キーを叩いて強大な敵を倒すだけで誰もが私を誉めそやし、称えた。
幸い依存はしていなかったが、暇があればパソコンを動かし、MMORPGのページを開いた。
――外から竹刀を振る際に漏れる、義妹の烈々とした声は、ヘッドホンに遮られて聞こえなかった。
⇔
私は親の傀儡だった。
列車のように親が用意した人生のレールをただ走り続け、生涯を終えるのだろうなと常々思っていた。別にその事に不平不満を抱いたことはない。当然の事だとさして疑問も持たなかった。無意識だったが、多分私は心の中で恐れていたのだ。母から見限られることを。
ただ親の言う通りにやっていればいい。
そんなことを本気で思っていた私は、自分で考え、思い、判断することはなかった。一言で言うならば、依存していたのかもしれない。
自発脱出不可。
唯一の脱出方法は百階層までの到達。
そして……命懸けのデスゲーム。
どれもこれもが
――この時、私は十五年の人生で一度も【自分】を持ったことがないことに気づいた。
⇔
総てに於いて、創造することは困難で、破壊することは容易い。
それ自体に文句はない。簡単に手に入れられるものなど、ただの欺瞞でしかないのだから。
ただ、もがいて苦しみ足掻いて悩んで手に入れたものすらも壊れてしまうのではないか。そんな疑念が頭の中にこびりついて離れない。
苦しんでやっと手に入れたものも、虚偽なのだろうか。
何も手に入れたことのない俺には判断しかねる。いつだってまちがえて、いつだって勘違いをして、思い違って。そして、俺は何も理解できなかった。
相互に完全に理解をするなんてできない。そんなことは解っている。
完全に理解をしたいだなんて、酷く傲慢な願いなのだろう。
それでも諦められないものがあるから、諦めたくないものがあるから。
だから、帰るのだ。
そのためなら、俺は……。
――殺す。
⇔
些細なことだけど、誰にも言っていないことがある。私がネナベプレイをしていた理由だ。
なんてことはなく、とってもちっぽけな、私の劣等感から来た理由。
――少しでも、変わりたかった。
臆病な私が創り出した薄い鎧。それがあの姿だった。そんなものは希代の天才にあっさりと剥がされ、素の私が露になってしまったが。
怖くて辛くて苦しくて、ちっぽけな私が攻略に乗り出したって役になんて立たないと思ってた。
でも、全てが終わって始まったあの日。エイトは遥かな蒼穹を力の込もった双眸で見詰めていた。
――違う。この人は、私とは違う。
自分を、諦めていない。
帰りたい怖い家族に会いたい悲しい……。様々な感情が綯い交ぜになって、私はあの時、エイトを引き留めてしまった。
その後だって、β時代の情報を提供して私が助けて来たように端からは思われるだろうが、その実助けられてきたのは私だ。
……私達は対等ではない。
エイトを形容する言葉は様々だ。今でこそ《無剣》が一般に呼ばれているが、前まではもっと色々な呼び名があった。
攻略組でも一、二を争う敏捷力と回避能力を活かし、攻略組の一番槍とタゲを取り続ける壁役を担っていたことからついた名は《
それだけではない。
ビーター、ラフコフ、人殺し……彼は攻略組でありながら悪名高い。それも、殆どが
彼がビーターだと言われるようになったのは、私がベータテスターだと自分から打ち明ける勇気がなかったからだ。彼がラフコフだと言われるようになったのは、一人の女の子を守ろうとしたからだ。彼が人殺しだと言われるようになったのは、
だというのに、私は彼に何もしてあげられなかった。いや、してあげられなかったというのは些か上から目線かもしれない。
リザードマンの群れに単身突撃し、活路を切り拓いた。
また、助けられた。
チリチリと頭の中にスグが祖父に厳しく指導をされているビジョンが思い起こされる。
――また、眼を瞑り耳を覆い、見て見ぬふりをするの?
楽だろう。そっちの方が容易く簡単だろう。けど、否だ。
恩も返していない。それもある。でもそんなことは関係無い。私がしたいと、エイトを守りたいと思うから、やる。
――例え私が劣等品だとしても、心の赴くままに行動するのは赦される、よね?
⇔
――あの日。
私が茅場晶彦と名乗るアバターの話を聞き終え、真っ先に思ったのは『宿題をやらなきゃ』だった。
そんなことあるはずない。脱出不可? 百層までの到達? 馬鹿な、そんな冗談は良いから早く出せ。
現状から逃避していた私にデスゲームの開始を認識させたのは、周りの阿鼻叫喚だった。
落胆と、絶望。
二つの感情だけがせめぎあい、わたしはこれまでなんだと、そう思っていた。
わたしって……何?
答えは出なかった。何故、どうして、わからない。親の言うことだけを聞き、親に見捨てられないために行動した。わたしの世界にわたしはいなく、
そして、わたしはわたしがわたしでいるために、そしてわたしを見つけるために剣を取り、狂ったように戦い続けた。このゲームはクリアできない。なら、いつ死のうと構わない。だけど、この世界には屈しない……それだけが、わたしの原動力だった。
――そんなわたしを変えたのは、一層迷宮区で会った紺の剣士。
ピンチの時に颯爽と駆けつけて助けてくれた、なんてドラマチックな出逢いなんかじゃ決してなかった。
こちらの心情を見透かすような腐眼はむしろ不快だった。
それでも
――この戦いで証明したらどうだ? ……お前はこの世界になんか負けやしない…って。
――お前は強くなれる。
――この世界……《ソードアート・オンライン》はクリア不可能じゃない、だろ?
今も残っているその言葉に、何度助けられ、励まされ、支えてもらっただろうか。
なればこそ、次はわたしの番だ。
――わたしは彼の隣に並び立ち、彼を助け、励まし、支えてみせる。
因みに、八幡がSAOの中に茅場がいると判断した理由などは七十五層ボス戦後に書きます。