ソロアート・オフライン   作:I love ?

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クラディールしゅーりょー!(二重の意味で)

さて、アンケートの結果発表を……。

書くことになった番外編は……



……十四票を獲得した絶剣ユウキでした!



いやー、整合騎士アリスも票を伸ばして十二票まで行ったんですが、さすが絶剣! さすが小町ボイス! さすが妹属性!
まだアイデアが微塵も浮かんでないので、首を長くして待ってて下さい。
次の番外編アンケート、いつにしようかなぁ……。感想数が六百越えたらですかね……。

三月三日追記
八割がた書き上がっていた新話が消えた。(o^ O^)シ彡☆
……やべぇ、エタったかもしれん。


きっと彼と彼女は、今この時もう一度始まる。

幸せは歩いてこない。だから歩いて行くんだね……。歩きたくないよぉ……。

これがまだ彼女(平面もしくは妄想)とのピクニックだったら意気揚々としていたかもしれないが、あいにくともに歩いているのは毛むくじゃらの攻撃部隊長と自称崇高で偉大な栄光ある血盟騎士団員(笑)と俺と同じヒラ騎士だけである。

訓練内容は『五十五層迷宮区突破』と非常に簡単な物だが、転移結晶がない。治癒結晶もない。ポーションしかない。オラこんなポーチイヤだ。

冗談を抜きにしても、これは取るべき行動ではない。危機対処能力を見たいとか何とか言っていたが、危機に陥らないようにする能力が大事だろう。あんたは状況判断能力を身に付けた方がいいぞとうっかり言ってしまうところだった。

それにしても、自称崇高で偉大な栄光ある血盟騎士団員(笑)が何もしてこないのが逆に気味が悪い。アスナやキリトも気を付けてねとか言っていたし……ていうか、入団直後の団員より信用されてないって……まぁストーキングしていたからやむ無しだろうが。

訓練開始から三十分で気づいたが、これ今更すぎる。攻撃力のない俺でさえソードスキルを二、三発当てればモンスターを塵に出来てしまう。

 

「よし、ここで一時休憩!」

 

数えきれないほどモンスターを斬り倒し幾つかの岩山を越え、迷宮区タワーがうっすらと見えてきた辺りで休憩の号令がかかる。

各々手頃な岩に座り、配布された食料が入っている革の包みを開ける。さして期待してもいなかったが、固焼きパンと水だけだとテンションが下がるのも仕方のないことだろう。

水の瓶栓を開け、渇いた喉を潤そうと思ったところで凍るような寒気が背筋を走り、動きを止めた。

これの正体を今更確かめるまでもない。これは……殺気だ。

 

「チッ」

 

小さな舌打ちを合図にしたかのように俺とあの男以外が倒れ込む。それを見て手の中の瓶を思いっきり地面に叩きつけた。

 

「あーあーあーあー! 何で気づいちゃうかねぇ!」

 

「ク、クラディール、お前……」

 

大人しくしていた数刻前から一転、狂気染みた笑みを浮かべる狂態で前髪をかき揚げる。

殺気と狂笑。それだけでこいつが何者なのか容易に予想できてしまった。

 

「……お前、ラフコフの残党だろ」

 

「ほぅ、いい目してるじゃねぇか」

 

今度は俺が盛大に舌打ちをかます。こいつだ。こいつがラフコフ討伐戦の時に情報を向こう側に漏洩しやがった。

甲高い笛の音が辺りを囲む岩を反射し、途方もないほど反射し耳が痛いほど音響する。

瞬間、上から十の人影が降って来る。今日の戦闘ではなかった濃厚な死の予感が俺に冷や汗を垂らさせた。

やつらが着地した時に舞い上がった砂煙が晴れ、暗色の装備に身を包んだ人殺し集団が姿を現す。

さしもの俺と言えども、総勢十一人で袋叩きは現実世界含め一度もない。袋叩きというかもうリンチだろ、これ。

 

「……仇討ちってわけか? はっ」

 

まずい。これはかなりまずい。俺一人なら俊足を活かしてこいつらを振り切って逃げることも出来るだろうが、今回は動けないプレイヤーが二人いる。故に逃げるわけにはいかない。

俺の双剣での戦闘スタイルは未だ固まりきっていない。しかしこの状況下では相手を殺さなければ三人生き残ることはできない。逆に言えば、こいつらを殺していいなら三人とも生き残ることは容易い。

簡単に人を殺すという結論が出てくる自分の思考回路に少し嫌悪しつつ、剣を弓のように構える。

発光。

光の矢がラフコフの一人の頭を射抜き、HPを全損させる。それとともにスキル使用後の硬直のように誰もが固まり、その間に技後硬直が解けたので二撃目のソード・アローを放つ。

 

「……命中。残り、九人」

 

平坦な口調で述べた事実は、自分自身さえも凍えさせる。これでラフコフの何人かが戦意喪失してくれればと願うも、むしろ奮い立って斬りかかってくる。バカが、と悪態を口の中で転がし、接敵するまでにまた一人の頭を射る。

 

「殺せッ、殺せェェェッ!」

 

「……甘いんだよ」

 

俺とあいつらは違う。いや、根底で言えば同じだがそういうことではなく、単に戦闘技術での話だ。

あいつらは弱者を弄び、痛め付け、殺すことしかしない。ゲームで言うならば、確実に自分が勝てる敵だけを選んで戦っているのだ。

それでは格上には勝てない。ダンまち風に言うなら冒険をしたことのない冒険者だ。

時間差で襲いかかってくるラフコフの連携はお世辞にも秀逸とは言えない。新たに三人が硝子片と化した。

 

「……まだやんなら、余すことなく狩り尽くしてやるが?」

 

「ウオォォオッ!」

 

単身突貫してきた有象無象に眼を向けることもなく首を刎ねる。数十人のラフコフの命をこの剣で奪い、判ったことがある。

ラフコフのメンバーは命という物の認識が薄い。奪う相手のものだけでなく、自分自身の命に対してもだ。だから、気づく時は遅く、すでに死んだ後だ。

威嚇の意を込めて思いっきり地面を踏みしめる。誰も口を開かないこの静寂な空間では砂とブーツが擦れる音はよく響いた。

 

「クソッ……動くんじゃねえ! こいつらが……ガッ」

 

「人質とんのを予想しないわけねぇだろうが」

 

蟀谷(こめかみ)にシングルシュートを三回ほぼタイムラグ無しで射ち、見事に相手のHPを全損させる。次いでスキル後硬直を狙い左右から同時に追撃してきたラフコフメンバーの斬撃を避け、首にトレイターとソリチュードを()し込む。

 

「……残存戦力、残り三人」

 

「おっ、お前の方がよっぽどの人殺しじゃねえかよ、糞が!」

 

「……なんだ、今更気づいたのか? クラディール。……俺は言ったよな? 人を殺すつもりなら自分も殺される覚悟を持ってから来いって言ったよな!」

 

俺が珍しく怒鳴ったことの威圧のせいか、他のラフコフメンバー二人は動けずにいた。呆然としている隊長から自分のポーチを奪い、回廊結晶を使用する。その後に二人に睨むように目配せすると、自分から回廊結晶によってつくられた渦に喜んで入っていった。

 

「く、来んじゃねえ!」

 

俺が一歩進めばこいつが一歩退く。振るわれた剣を武器破壊で圧し折り、また一歩、歩を進める。

 

「……お前だな? お前だよな? ラフコフ討伐戦で情報を洩らしたのは」

 

「そ、それがなんだってんだよ……」

 

「……選べ。このままここにお前の墓碑を建てるか、あの黒鉄宮の牢屋に繋がっているゲートを潜るか」

 

俺にできる最大限の譲歩のつもりだったが、クラディールは何を思ったか遁走しようとする。敏捷極振りの俺に鬼ごっこを挑んだのは愚策としか言いようがない。

すぐに追いつき片腕で首を掴んだまま持ち上げる。現実世界の軟弱な萌やしっ子の俺の体では到底できないことだろう。

 

「……じゃあな、クラディール」

 

「ま、待……」

 

言い切らせる前に神速の突きが咽喉を貫いた。血の代わりに紅いダメージエフェクトが中空に飛び散った。クラディールの双眼は怨磋を込めて俺に向けられ、唇が動いてはいるが喉を貫かれているからか何の言葉も発さない。やがて、その存在をこの世界からも向こうの世界からも消した。

視線を向ければあからさまに怯えた様子の血盟騎士団の二人がいる。この件をきっかけに恐らく俺がラフコフの残党を斬り殺していたことが露見するだろうが、もはやどうでもよかった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「……入団直後にこんなことになってすんませんね。俺、やっぱ集団行動は向いてないみたいです」

 

「……いや、前回といい、今回といい、非は完全にこちらにある。君が謝る必要もなかろう」

 

約一週間ぶりの団長室で、今回は差しで密談……というほどでもないが、談じていた。一応まだ上司ではあるので敬語を使っているが、さしたる意味もないとやめることにした。

 

「それで……君の要求は自らを血盟騎士団から除団することだと言っていたが、一応訊こう、何故かね?」

 

「……俺が団体行動したくないっつーのもあるが、一番は人殺しが最強ギルドに属するのは相当にリスキーだ。下手すりゃ攻略組を支える商人プレイヤーや情報屋、延いては中層プレイヤーまでに不信感が漂う。そうなれば攻略は必ず滞るからな。……こんなこと、言わずともあんたならわかんだろ?」

 

「ふむ……確かに現状それが最善だが、君のほうはいいのかね? その策だと君一人が血盟騎士団の責任も負うことになってしまうが」

 

「ふざけろよ。誰がお前らの尻拭いをしてやるかよ。……貸し一つだ」

 

「そうか」

 

短く応答すると、ヒースクリフはワイングラスを傾けた。俺としては話すことは話したので退席しようと重い腰を上げた。

 

「……こうして君と一対一で話す機会ももうなかろう。一つ訊いてもいいかな?」

 

「……何だ?」

 

「……君の行動原理とは何だね?」

 

背中に問いかけを受け、俺は思わず動きを停止した。

 

――比企谷八幡の行動原理とは?

 

俺の核とも言えるモノ。それは……?

 

「……多分、欲しいものがあった」

 

きっと、もう手に入らないのだろうけど。

俺もまた短く応答し、重厚な扉を引いた。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「……あ」

 

「……よう」

 

明日からはソロプレイヤーに戻るため、もう二度と来ることのないであろうKoBの本拠の庭を散策していたらキリトに遭遇した。

月光が芝生を照らし、淡く儚い色を発色している様子は、二年前……まだ俺が右も左も知らぬビギナーであった時にキリトと初めてやったクエストの森のようだった。

 

「……似てるね、ここ」

 

キリトも俺と同じことを感じたのか、俺と自分に再認識させるようにぽつりと言葉を溢した。

 

「……エイト、八月からラフコフの残党と戦ってたんでしょ?」

 

……それは不意打ちだ。誤魔化しようもないほど息と言葉を詰まらせ、唾と一緒に飲み下した。

 

「だから、私は訊いてみたけど、エイトははぐらかしたよね?」

 

「いや、それは……」

 

こんな時もどうにか逃れようと頭を回し、舌を尽くし、嘘を吐こうとしている。そのことが、俺が最も嫌った欺瞞を甘受しているようでたまらなく嫌だった。だと言うのにまだ、また嘘を吐こうとしている。

 

「それが悲しかったし、嬉しかった」

 

「……う、嬉しかった?」

 

「うん、嬉しかった」

 

どこに嬉しい要素があったのだろうか。悪戯っ子のような、それでいて無邪気な笑みのキリトを見るに、訊いても教えてくれそうにはない。……二年間付き合いがあっても、知らない一面はあるものだ。

 

「……わからん。降参だ、降参」

 

「じゃあ、ヒント。エイトが嘘を吐く時ってどんな時? 誰に吐くの?」

 

「はぁ?」

 

ますます意味がわからない。俺が嘘を吐く時? 誰に吐くか?

三分ほど黙考するも、やっぱりわからん。ぼっちのユニークスキル、深化思考力を持ってしてもわからないとは、難易度が高すぎる。

降参だと両手を軽く挙げることで示す。キリトは何かに対する不満と俺にクイズで勝った喜びがない交ぜになった複雑な顔をしている。……器用だな。

 

「じゃあ、宿題ね?」

 

「えー……」

 

気分が沈んだところではたと気づく。

こんな時間に一緒にいるところを見られたら、キリトの沽券に関わるんじゃないか?

何故今の今まで気づかなかったか不思議だが、気づいてしまったからには対策をせねばなるまい。対策って言っても俺がこの場から離れるだけだが。

……そう言えば、俺が人殺しと知ってなお俺に関わろうとするのは何故なのだろうか。この問いもまた答えは出なかった。

 

「……んじゃ、俺はこの辺で」

 

「あ、うん……あの、エイト」

 

「あ?」

 

「もう一回……フレンド登録、しない?」

 

頬を赤らめ、今にも泣きそうな眼をし、それでもキリトは言った。自分の言葉で、俺に伝えようと、自分の意思を……あるいは願望を。

 

友達になりたい。

 

キリトがそう言ったことは、俺の知る限りではない。

 

はじめにことばがあった。ことばは神と共にあり、ことばは神であった。

 

聖書に書かれている一節だ。言葉は神であり、言葉は万物を創った。俺にはそれが理解し難かった。

言葉によってすべての思いが伝えられるわけでもない。言葉によってすべてのものが表せるわけではない。

フレンド登録を友達の証などとのたまうつもりは俺にも彼女にもないだろう。

誰かは言いたい言葉を押し留め、誰かは言葉で伝える術を持たずに行動で示そうとし、誰かは自分の意思をはっきりと伝えた上で行動に移した。

そんなことができていれば、俺はあの部屋で何かを見つけられていたのだろうか。もう遅いのだろうけど。

終わってしまったのか、そうでないのか、それすらも知らずにいる。だが始まりは知っている。解る。理解できる。

人殺しだということ、そんな穢れた人種であってなお歩み寄ってきてくれる人がいるのだろうか。きっといるのだろう。

だから、俺は。

 

「……ああ、もう一度、よろしく」

 

「うん!」

 

もう一度、始めることもできるのだろう。

幸せは歩いてこない。だから、自ら幸せを求めて歩いていかなければならないのだろう。知らず、後退することもあるのだろうけど、それでも前進していることを信じて今日も歩き続ける。




何かあっさりし過ぎじゃね? と、思う方もいるでしょうが、八幡は快楽的殺人をしているわけではありません。だからキリトやアスナも受け入れられるのです。

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