ソロアート・オフライン   作:I love ?

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一言だけ。

……すいませんでしたぁ!

⚠︎5/22 活動報告に、新しいアンケートを載せました!


然るに、彼女のことを彼は知らない。

あの後も聞き込みを続けた結果、ユイのような子達はどうやら7区の教会にいるらしい。……集団を形成しているのならば、それを纏めているリーダー……おそらく大人がいるはずだ。その人ならユイについても何か知っている可能性が高い。

 

「パパ、顔こわい……」

 

「あのな、ユイ。これがパパの普通の顔だから。それとそういうことを人に言っちゃいけません」

 

心抉れるから。何気に歯に衣着せられない子どもの言葉が意外にクる。だが俺の顔が怖いことなんか毎日鏡見て知っとるわ。

 

「ユイちゃん、ああいうのは顔が険しいって言うのよ」

 

「かおがけわしい?」

 

キリトが俺の表情の見分け方をユイにレクチャーし始める。何故だろう、その姿がママンにしか見えない。母性の象徴は……ゲフンッ!

 

「あいつは良妻賢母になりそうだよな……」

 

「……私は?」

 

「教育ママ」

 

言った途端顔が引きつってしまったが、だってお前そういうイメージしか湧かないんだもの……。頭ごなしにあれやれこれやれと言うタイプじゃなく、すべきことはきちんとしろと諭すタイプになりそうだ。そして怒るときは笑って怒る。……女子の凍てつく視線ってさ、草(食)タイプが大半の男子に効果バツグンなんだぜ……。

 

「ねぇ、キイト?」

 

「キリトだよ〜。なに、ユイちゃん?」

 

「パパのママって誰なの?」

 

パパのママ。そのまま捉えればパパ()の母ちゃんということになるが、精神年齢が幼いユイは多分、自分のママ……つまりパパ()の嫁さんは誰なのかと訊いているつもりなのだろう。……いません。生まれてこのかた画面の中にしかいたことがありません。嫁なんていなくていい。妹さえいればいい。

しかしユイは納得しまい。キリトとアスナにアイコンタクトで緊急臨時作戦会議を開会することを求める。

 

『どう誤魔化す?』

 

『適当にママは遠くにいることにするとか?』

 

『それでママに会いたいとか癇癪起こされたらたまらんぞ』

 

『いっそのことママの代役を立てるとかは?』

 

『仮に今日ユイの身寄りが見つからんかったら俺と代役はユイの前で夫婦ごっこしなきゃいけんのか?』

 

『それはダメ』

 

『……あのね? 私たちのどっちかをママにするとか』

 

『…………』

 

実にこの間数十秒である。人の目から考えを察するのに時間がかからないわけがない。あれでもない、これでもないと案を出し合う(ただし目で)。

 

「パパー」

 

「……く」

 

万事休すか……というかよくよく考えたらママはいないって言ってもいい気がしないでもない。いやだがしかしなぁ……。子育てって大変なんですね、ユイは俺の子どもじゃないけども。

 

「ユイ、ママは、ママはな……」

 

どうするどうするどうする? キリトがアスナを代役にするか、ママは遠くにいると嘘をつくか、……ママはいないと言うか。

 

「……ママはパパに愛想を尽かしていなくなったんだよ」

 

「うわぁ……」

 

なんだろう、この虚しさ。結婚どころか誰かと付き合ったこともないのにバツイチ子持ち? なにそれ小町が聞いたら泣いちゃうから勘弁願いたい。

 

「あいそ?」

 

「ああ……パパのことを好きじゃなくなったからいなくなったんだ」

 

「切ない……」

 

いや、あくまで設定だから。じ、実際に結婚したらそんな風にならないからぁ? ……多分。……やっぱなりそう。

 

「……ん」

 

子供は意外に聡い。大人の機微を感じ取ることに純心だからこそ長けている。だからこれが嘘だと悟られていないという事はそれだけ俺の演技が凄かったということだ。……決して未来視して哀愁が漂っていたわけではない。断じて。

 

「……行くか」

 

「あ、うん……」

 

「そうね……」

 

教会に向かう途中、長い溜息が何度も重なった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

教会と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、聖職者が祝詞を唱える姿か死んだ仲間を復活してくれる場所だということだろう。しかし俺たちが今いる教会はもはや孤児院みたいに血の繋がりがない児童たちが騒がしくはしゃいでいる。女三人集まれば姦しいと言うが、子供だって負けてはいないと思う。

子供は嫌いではないが、こうもうるさいと若干辟易としてしまうのも仕方ないと思う。仕方ないよね。

最初は軍の人かと疑われたが、完全な私服姿と子持ち……なんか表現嫌だな。子連れ……まぁユイを連れていたおかげで冤罪は晴れた。しかしはじまりの街に住んでいる人からも警戒されるとは、いよいよ軍の話は真実だと断定していいだろう。

 

「すげぇな……」

 

「う、うん……」

 

ヒースクリフのような強者の圧とはまた違う勢いにボッチ×ボッチは気圧されていた。アスナはまるで幼稚園や小学校の先生かのように優しげに子供達に応対していた。何あいつ、勉強できて(予想)、お嬢様(予想)で、料理できて(少なくともSAO内では)、コミュ力高いとか何処のラノベのヒロイン?

 

「ハーレムもののラノベのヒロインみたい……」

 

「……概ね同意するわ」

 

やはりサブカルチャー好きな者はそう感じるんだな。この野郎、主人公はどいつだ。俺が絶対に敵役として登場してやる。

 

「兄ちゃんたちはあの姉ちゃんみたいに剣士なのか?」

 

「お、おぅ……」

 

「剣見せてくれよ!」

 

一言言う毎に段々とにじり寄ってくるわんぱく坊主の情熱に負け、適当にストレージに入っていた武具を一通りオブジェクト化していく。無駄に溜め込んでいた剣が出るわ出るわ。……主にキリトのストレージから。

 

「……いや、出し過ぎじゃね?」

 

絶えずガシャンガシャンと金属音が鳴ってるんだけど。つーか、何でそんなストレージに剣入ってんの? 使わないなら売れよ。いや、わりかし邪魔だし。

 

「オオオォォォォッ! カッケー!」

 

▶︎剣は 少年 の 心をガッチリ掴んだ !

日本語って、こんな訳わからん比喩ができるからすげぇよな……。や、今全く関係ないけど、元私立文系志望としては語学に畏敬の念を禁じえない。……元、な。

 

「……こらユイ、剣は見るだけにしろよ、危ないからな」

 

思いっきり背丈に不釣り合いな大剣を物色し始めたユイに一言釘を刺しておく。実際圏内では武器で体が斬れることなどないのだが、何ともまぁ、現実世界だったら親が発狂しそうな雰囲気である。

ふと、懐かしさを感じた。

騒がしい室内で、関心なく馬鹿にしたようにその様を俯瞰して眺めていた。自分はあんな風になりたくないと、欺瞞だとそれだけを思っていた。

馴染めず、話し掛けられず、一歩が踏み出せず。

いつしか限られた状況でも満足する……いや、できるようになっていた。

半分無意識に首元を触る。緩めたネクタイはどこにもなく、ただザラザラした生地を撫でるだけだった。

あの何でもない時間、あの箱をただ眺め、一人で飯を食い、いらないと判断した授業中に脳を休める。そんなどうでもいいことでさえ、想起すれば懐かしい。

 

「……パパ、何で泣いてるの?」

 

「……え?」

 

まさかあんな下らない日常を思い起こして涙したのかと慌てて目尻を拭うが、指に伝わったのは乾いている肌の感触だった。

 

「……泣いてないぞ」

 

「パパ、泣いてた」

 

「……だから、泣いてねぇって」

 

頑なに俺を泣いていることにしたいユイの髪を乱雑に撫で、二の次を言えなくする。ユイは髪を荒らされたことにご立腹なのかふくれっ面をしていた。

……さて、ここに来たのはユイの素性を調べるためなんだが女剣士二名は子供の相手をしている……というかスカートめくりをされないように必死になっていた。わんぱく坊主ども、やめとけ、鬼が降臨する。あとSAOではスカートの中が見えないから夢が砕かれるぞ。

 

「……は……?」

 

その時、ありえないはずのものを見た。キリトは低階層の武器をオブジェクト化していたのに対し、俺は五十階層以上の物だけをしたのだ。それらの武具の要求筋力値はロクに戦闘もしていない子供では到底及ばないものだ。

ーーだというのに。

ユイがあんなにも軽々と剣を持っているではないか。フィリアと共にした冒険で手に入れた、あの剣を。

こいつは……一体何なんだ?




投稿の間はこれからすごい遅くなります。

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