ソロアート・オフライン   作:I love ?

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投稿は添えるだけ……(精一杯の土下座)
SAO三期放送おめでとうございます!
作者がSAOで一番好きなヒロインであるアリスが喋り動くなんて…、画面の向こうに行きてぇ…


ようやく、彼は自分の役割を見つける。

思えば、嬉し涙を最後に流したのはいつだっただろうか。

物心がついた頃から振り返って、自分は可愛い子供ではなかったと思う。あまり笑わず、子供らしく元気に外で遊ぶこともない。可愛くないから可愛がられない。

両親は淡白な態度を取っているが、それでも十分に愛されていることはわかるのだ。それは妹の小町が生まれて比較対象が出来たから、というのが大きいだろう。

兄妹というのは不思議なもので、俺が大きくなり閉鎖的になるのに対してバランスを保つかのように人見知りだった妹は明るく、社交的になっていった。

明るい子、暗い子。

両親の愛情の天秤がどちらに傾いたかなんて言うまでもない。なにせ当の本人である俺でさえ目に入れても痛くないくらい可愛がっていたのだから。

学校でやられた小さな嫌がらせで心に傷を負い、かさぶたができたら心を理性で塗り固め鎧とする。俺の生き方はずっとそうだった。どうしようもないことがあると知っている、正しい方法じゃ出来ないことがあると知っている、なにより自分が弱い人間なんてことは一番知っていた。

例え愛情が人より向けられていないことが分かろうと、悪感情をこちらに向けていることが分かろうと理性の鎧は砕けることはなかった。

 

しかし。

 

全てが終わり、全てが始まったあの日。理性の鎧は【死の恐怖】には勝てなかった。デスゲームが始まってすぐの頃、俺は久しぶりに涙を流した。その涙で砕けた鎧を造り直すかのように。

死に近い場所は本質が出やすい。だから俺はクズみたいな人間ばかりがいるのだと思っていた。だが、そこで出会ったやつらはどうしようもないお人好しもいて、命を預けてくれたり、友達になりたいと言ってくれたり、今も人を殺したこんなどうしようもない俺を見離さず、許されない行動に意味を与えてくれている。

世界には俺みたいなどうしようもないやつがたくさんいる。なら、こんなバカみたいにお人好しなやつらが少しくらい報われてもいいじゃないか。

 

「……なぁ、サチ」

 

彼女は潤んだ瞳で俺を見つめ、不思議そうな顔を向けてくる。関わりもほとんどない少女にこれを言うのは気恥ずかしさがあるが、今はそれよりもこの決意を声に出して伝えなければならないという気持ちが勝った。

 

「俺は……」

 

この世界で彼女たちが報われることとは。その問いに関する解は簡単だ。2年近くも前からずっと変わっていない。

今回は依頼じゃない。魚の釣り方を教えるのではなく、比企谷八幡が自分の意思で魚を獲ってきて彼女たちに与えるのだ。

 

「俺は、お前やキリトやアスナ達を……生きて現実世界に返してみせる。……絶対に」

 

言葉というものは曖昧で、曲解され、誤解され、結局相手に通じないものだ。だがそれでも人は理解してもらおう、正しく理解させようと言を弄し、頭を働かせる。しかし今の俺はそんなことを考えもせず、ただ一言の曖昧な言葉を使うのだ。

 

……約束だ、と。

 

彼女はまた頰に光を迸らせた。

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

結構長く外にいたためか二人に心配されてしまった。申し訳ない。

キリトとアスナは何かを察したのだろうか、俺の顔を見ると柔らかい笑みを浮かべて話しかけてくる。

 

「ハチくん、おかえり。随分長かったね。迷子?」

 

「この歳で子供扱いか。つーかマップあるからよっぽど入り組んだ街じゃないと迷子になりようがねーよ」

 

だから肩をびくっとさせたの何でですかキリトさん? え、まさか十代も後半という方が迷子になりかけたんですか? ねえねえ?

 

「にっ……ニマニマしないで!」

 

もうっと頬を膨らませる黒の剣士さん。なんだこれ、あざとい仕草なのにあざといと感じないんだけど? キリトに最初から備わってるオートスキルか何か?

 

「しかし意外だな、キリトはMMORPGに慣れてると思ってたのに迷うなんて。……アスナと違って」

 

「ハチ君それどういう意味? ……でも確かにちょっと意外かも」

 

どういう意味もクソもないでしょ。初期の頃にパーティーシステムすらろくに理解してなかったことまだ覚えてるから。

 

「た、確かにMMORPG自体は結構やってたけど、いろんなお店を冷やかしたりぶらぶらしてるといつの間にか知らないところにいることが……」

 

あぁ……と納得の息がアスナと被る。確かに一緒に行動している時もあっちこっちとフラフラ店に立ち寄ることはままあったし、ましてや一人の時なんか気兼ねなく徘徊してそうだ。あんな辺鄙なとこにあったラーメン屋とか知ってたくらいだし、キリトにとってのウィンドウショッピングなのかもしれない。

 

「確かにそうやって目的もなくぶらぶらできるのは向こうと一緒だもんね」

 

「むしろ私はこっちの方が外出してるよ」

 

明るく、しかしどこか寂しげに二人は笑った。弱さを隠し、思いを抑え、そうして二人は前に進んで攻略を進めて来た。そうして改めて実感するのだ。どんなに凄まじい剣技や技術を持っていようとも二人は弱いただの人間なのだと。

だから俺は強くならなくてはいけない。自分の罪と向き合い、このゲームを終わらせるための最後の罪を重ねるのだ。それはこの世界の神を殺すこと。それだけは誰にも譲れない、俺だけの、そしてこの世界での最後の仕事になるだろうと何故か確信していた。

 

 

 

× × ×

 

 

 

少しだけ晴れた俺の心を再び暗くするためかと勘違いするかのタイミングで事件は起きた。事件を起こしたのはまたもや軍である。

 

「どうか、シンカーを助けていただきたい!」

 

土下座せんとした勢いで頭を下げる軍の女性――名をユリエールというらしい――に困ったような視線を向ける。事の発端はよくある話で、要は組織の覇権を巡った内部争いだそうだ。そしてキバオウが目障りになったシンカーを屠るために地下迷宮に置き去りにした。

 

「その迷宮はとても私では攻略できる難易度ではなく、転移結晶も使えなくて……しかし、軍の兵士を軽くあしらう程の実力を持ったお二人ならきっと攻略できると思いッ……!」

 

ついには涙ぐんでしまい、どうしたものかと目線を彷徨わせる二人。お人好しなこいつらのことだ、今の話が本当だという確証があったらすぐに助けに行っただろうが、現実問題それはない。自分の命も懸かるかもしれないことにやすやすとハイとは言えないだろう。

 

「……別にお前らがどうしようとお前らの勝手だが……、ちゃんと考えて決めろよ。この人が真実を言ってるとも限らないし、仮に全部本当だとして迷宮行く以上は命の保証はないからな」

 

一応釘を刺しておく。しかしどうせ返答は分かっていたし、事実そう答えたのだから苦笑の一つもしてしまう。フヒッ。

 

「確かにそうかもしれない……けど、本当の場合で私たちが行かなかったらシンカーさんは死んじゃうから……私は行くよ。助けられる保証もないけど、やらないで後悔するよりやって後悔したい」

 

即答したことによるため息よりも先に全く予想通りの返答が返ったことの笑みが来た。

はっきり言って馬鹿だと思う。しかし馬鹿だからこそきっとこいつなどこまでも純粋で真っ直ぐ居られるのだろう。危機への警戒は俺が人一倍してやればいいだけの話だ。

 

「……分かった。救助が目的なら出来るだけ早く行った方がいいだろ。早く準備しようぜ」

 

「え? エイトも来てくれるの?」

 

「ん……、あぁ、まぁな……」

 

跳びはねるほど喜んでいるキリトには悪いが、どこまで力になれるか分からない。必要のない危険に巻き込まれるかもしれない。だがそれでこいつらが生きていられるのなら、それは安いものなんだろう。

先を生きていくには今を生きていかないといけない。ならば、このデスゲームを終わらせよう。なんだ、今までと目標は変わらないじゃないか。

そして、こいつらを現実に帰すのだ。

二度目の決意は声には出さず、胸に閉まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えぇい、気安く異性に抱きつくんじゃありません!」

 

俺こと比企谷八幡、20歳。未だ年齢=彼女いない歴である……。


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