原作でのメインヒロインが登場します。
俺は流れ星を見たことがあったか?
そんな疑問がふと頭を横切った。
そんな俺が初めて見た(かもしれない)流れ星は美しく、速かった。
周りは草原でも、星が満天の夜空でもなく、薄暗い、じめじめしているようにも感じる迷宮で、流れ星を作り、光の軌跡を描いているプレイヤーがMobを倒す姿を俺は見ていた……。
デスゲーム宣言から一ヶ月、死者、約二千人、クリアされた層、未だにゼロ-----
俺、比企谷八幡の朝は遅い。
アニールブレードを手に入れてから、次の目的がお互いに違った俺とキリトは、パーティーを解散した。
俺は、ソロでも倒せるボスはいるか?と聞いたところ一体だけいる、とのことだった。
結果からいうと、弱点が弱すぎて、他が少し硬い位だったので問題なく倒せた。
恐らくボスのチュートリアルみたいな敵だったのだろう。
ちなみにアイテムは、足防具で店で売っているのより少し防御が高く、敏捷が+2というまあ、妥当なものだった。
今日は攻略しようと思っているので、装備、アイテムをちゃんと確認する。――問題なし。
----行くか。
昨日は十九階に通じる階段を見つけて引きあげたので、今日は十九階の探索だ。
――少しの間、歩いていると戦闘音が聞こえてきたので隠蔽スキルを使い、十字路の分かれ道の先をそっと見る。
プレイヤーの武器は細剣だ。《細剣使い(フェンサー)》か。
フェンサーは、レベル6亜人型モンスター《ルインコボルド・トルーパー》が振ってくる手斧を避ける。
一、二、三回連続して紙一重で避けきったフェンサーは、体勢を大きく崩した《ルインコボルド・トルーパー》に細剣の初期ソードスキル《リニアー》を放つ。
攻撃は剣を胸の前にもっていき、捻りを加えながら突く、というシンプルなものだが、速度が凄まじい。
それこそ流星と見間違う程に。
そのあとの戦いは、もはやパターン化したコボルドの斧を三連続で避けて、《リニアー》を叩き込む、という作業だった。
最後に、明らかにオーバーキルな《リニアー》をコボルドに叩き込んで、コボルドはポリゴンに変わった。
しかし、ヒットポイントは最大でも、SAOの戦いは精神を削る。
フェンサーはそのまま迷宮区の壁に背中を預け、ずるずると座り込み、荒い呼吸をしている。
一方、俺は声を掛けるか悩んでいた。
あのフェンサーの剣技は凄まじい。恐らく、ゲームクリアに欠かせない存在になるだろう。
五秒程考えてから、俺はフェンサーに声を掛けることにした。
「……さっきにょは、オーバーキル過ぎるじょ」
くっ、またつまらぬことで噛んでしまった。
しかし、フェンサーは無視しているのか、肩を小さく動かしただけで無反応だったが、やがて頭を傾けた。
……言葉の意味がわからなかったのだろうか?
…《リニアー》の完成度からβテスターだと思ったが、危なっかしい戦い方といい、よく使われているオーバーキルを知らないことからビギナーだと推測。
取り敢えずオーバーキルの意味を教えておく。
「……オーバーキルってのは、モンスターの残りHPに対して、与えるダメージが過剰なことだ」
今の説明でわかったのかフェンサーは言ってくる
「過剰で、何か、問題あるの?」
――マジか。
その声から、俺はキリト以外に見たことがない、SAOでは珍しい女性プレイヤーだということに気付いた。
SAOが始まって、一ヶ月が経つ。
他のMMORPGだったら、トップレベルのプレイヤーはレベルが上限に達している頃だろう。
しかし、SAOのトッププレイヤーは、十いくか位だろう。俺は、レベル十一で、あと少しで十二になる。
まあ、トップレベルだろう。
さて……女性プレイヤーとわかった瞬間、帰りたくなったが、話しかけたのはこっちだし、質問もされている。
……仕方ない、答えるか。
「……システム的にはデメリットはないが、技後硬直があるから、複数の敵に囲まれた時に危険だし、ソードスキルは集中力を使う。帰り道を考えたら連発しないほうがいい」
「帰り道?」
「ああ、近くの街までは三十分は掛かるし、疲れきっていると、ミスも増える。見たところお前はソロだし、ミスは命取りだ」
同じビギナーからレクチャーされて、怒って刺してこないだろうな……と内心冷や汗を流しているとき、ようやくレイピア使いが反応した。
「……それなら、問題ないわ。わたし、帰らないから」
「は……?」
何を言っているんだ?
デスゲームになっている状況を理解しているのか?
「……ポーションとか、武器とか、睡眠は……どうしているんだ?」
細剣使いは、肩を上下させ、
「……薬は攻撃に当たらなければいいし、武器は同じのを五本買った……睡眠は近くの安全地帯でとってる……」
安全地帯、というのはモンスターが出現しない部屋のことだ。
「…いったい何日、こんなこと続けてるんだ?」
「三日……か四日。……もう、いい?そろそろこのへんの怪物が復活してるから、わたし、行くわ」
……このまま行かせて死なれるのも後味が悪い。一応、忠告しておく。
「……そんな戦い方をしていたら、死ぬぞ?」
俺がそう言ったら、レイピア使いは、冷たい瞳で俺を見つめて
「………どうせ、みんな死ぬのよ」
…その言葉は、十一月で肌寒い迷宮区の気温を更に下げた気がした。
「たった一ヶ月で、二千人も死んだわ。でもまだ、最初のフロアすら突破されていない。このゲームはクリア不可能なのよ。どこでどんなふうに死のうと、早いか……遅いかだけの、違い……」
そこまで言って、レイピア使いは糸が切れた人形のようにパタリ、と倒れた。
……どうしよう、コイツ。
レイピア使いside
『仮想空間で、失神で倒れる原理とは、どんなものなんだろう』
そう思いながら、床に倒れる瞬間、意識が暗転した。
失神は、貧血や低血圧、過換気など、原因は様々だが……いや、そんなことはどうでもいい。自分は死ぬのだから。
さっきまで話していた目が腐った男はいたが、見ず知らずの私を助ける訳ない。
迷宮区の化け物に私は殺されるのだろう。
------と。
そこまで思ったところで気付く。私は硬い石畳ではなく、柔らかい、フワフワしたものの上に寝ていることを。
そこで目を覚ます。
「ここは……?」
目を覚ました場所は、迷宮区……ではなく、薔薇に囲まれている、見知らぬフィールドだった。
何故こんなところに……
という疑問は、後ろを見たら解決した。
後ろにいた紺色の影――迷宮区で話していた目の腐った男がいた。
その男に私――結城明日奈は、一言こう言った。
「余計な……ことを」
side out
「余計な……ことを」
え〜、起きていきなり罵倒されたんだけど…
「余計な…」
もう一回言われる前に、言葉を遮っておく。
「あ〜、悪かったよ。でも俺が助けたのはあんたのマップデータだ」
ふっ、完璧だ。合理性で返せば何も言えまい。
「……なら、持っていけば」
そう言って、女フェンサーはマップデータを俺に渡して、迷宮区に戻ろうと……ってオイオイ、さっき倒れたばっかりだろ。
何?死に急ぎ野郎なの?あ、でも女だから野郎じゃないか。
八幡うっかり、テヘペロ。
そんなことやってる間にも女フェンサーは、迷宮区に向かうので、慌てて止める。
「待てよ、フェンサーさん」
そう言うと女フェンサーは振り向く。
「このゲームがクリア不可能かどうか……自分で確かめてみたらどうだ?」
その言葉に興味を持ったのか聞いてくる。
「……どういうこと?」
「今日の夕方、迷宮区最寄りの《トールバーナ》で、一回目の《第一層フロアボス攻略会議》が開かれる…らしい」
いい忘れてましたけど、キリトへのプレゼントは決めてます。
まあ、渡す時はプレゼントという空気じゃないですが……