今後もソロアート・オフラインをお願いします!
少し前に番外編は何がいいかと聞きましたが、リクエストがあったので、俺ガイルの番外編でいいですか?
「ふ……ふざっ、ふざけんなよ!!」
道行く途中、半ば裏返った声で絶叫する男の声が聞こえて、俺は足を止める。
スススと真横に移動し、壁に背を付け、前方の様子をうかがう。騒ぎの発生源を見る。
「も、戻せ!!元に戻せよ!!プラス4だったんだぞ……そ、そこまで戻せよッ!!」
どうやら、プレイヤー同士の争いのようだ。
実際は《圏内》である、アインクラッド第二層主街区《ウルバス》で隠れる必要はないが、トッププレイヤーに俺は嫌悪されているため、隠れている。
二〇二二年十二月八日木曜日、デスゲームSAOが開始されてから三十二日目。
第一層のボスモンスター《イルファング・ザ・コボルドロード》が倒されてから早くも四日が経っている。
事前情報にないカタナスキル(キリトから聞いた)によって、ディアベルが死に、ベータ時代に手に入れていた情報(と思っている)を駆使して、挙げ句ラストアタック・ボーナスをかっさらった『ビーター』。
幸いアバターの容姿を知っているのは四十人前後なため、石を投げられたりはしていない。
まあ、念には念ということで、ファンタジーな世界のSAOでは違和感ありまくりのフード付きパーカーを着ている。
ふざけんなよ!!という言葉が自分に向けられていないことを確認して、声がした方に歩く。
「どっ、ど、どうしてくれんだよ!!プロパティむちゃくちゃ下がってるじゃねーかよ!!」
装備から最前線近くで戦っているプレイヤーだと推測。
金属性の防具と三本ツノのヘルメットも目を引くが、それより目を引くのが、右手に持っている剥き出しの片手剣だ。
圏内は誰かを傷つけることができないが、さすがに少々物騒だ。
「なんだよ四連続失敗って!プラスゼロになるとか有り得ねーだろ、これならNPCにやらせたほうがマシじゃねーか!責任とれよクソ鍛治屋!!」
で、そのクソ鍛治屋らしい男性プレイヤーは、困り顔でじっと立っているだけだった。
広場の一角に《ベンダーズ・カーペット》という決して安い訳じゃない(らしい)アイテムを広げている。
なんでもキリト曰く、簡易的なプレイヤーショップができるアイテムなんだとか……
と聞いた知識を思い出している時にようやく三本ヅノの男が怒っている理由が分かった。
SAOに限らずネットゲームの恐ろしいところだ。
基本的にネットゲームでは、武器の強化成功率はどんなに上げても百%にはならない。
………まあ、三本ヅノ氏は運がなかった、としか言えない。
鬼畜な確率のレアアイテムを手に入れられてラッキー!みたいなのと同じだ。
……そんなアイテムもあるんだろうなぁ………
若干ゲンナリしつつ、事の成り行きを見る。
べ、別に暇なわけじゃないんだからねッ!
「……何なの、この騒ぎ」
「うわっ!」
び、びっくりした……
……次のスキルスロットで索敵取ろうかな…
というか、フード被ってるのに何で分かるのん?
いや、きっと俺に話しかけてきたわけじゃないんだ。無視無視。
「……ねえってば」
声から女性のようだ。おのれリア充、爆発しろ。
「ぐっ!」
右の鳩尾に衝撃。
そちらを見ると四日前までパーティーを組んでいた細剣使い………アスナが肘うちをした体制でいた。
……どうやら本当に俺に話しかけていたらしい。
いや、だってしょうがないじゃん!ボッチが話しかけられるなんてめったにないし!!
「……なんだよ」
「だ・か・ら!あの騒ぎは何って聞いてるの!」
お、おう……アスナさん、怖いっす。
「どうやらあの三本ヅノが剣の強化お願いしたらしいが………何でお前俺だって分かるの?一応変装のつもりなんだが……」
めんどくさいし、もうバレてるので素直に認める。
「だってフードなんて被っているのなんて、顔を見られたらまずい人だけでしょ?」
さいですか……お前もローブ被っているけどな……
「……話すなら人目がつかない所に行かないと話さないぞ」
そう言うとアスナは裏路地にスタスタと歩いて行く。
……いや、一言下さい。
裏路地に来た、来たんだが……
何も喋らないなら帰っていいですか?それとも俺から話せってか、あん?
「あー、その、久し振りでせうね、アスナしゃん」
空気が重い……噛んでしまったのは仕方ないだろう。
「こんにちは、エイト君。でもさんはいらないよ」
……コイツは何故かさん付けすると「面倒だからいらない」と答えるのだから女心はよく分からん。というか、よくじゃなく全く分からん。
……ここはさっさと説明して、即退散が吉だな。
「あの三本ヅノが鍛治屋に武器強化を頼んで、四回連続失敗してプラスゼロになったんで頭に血が上ったらしい。……そういうわけで、じゃ」
顔隠している二人が裏路地にいるなんて怪しすぎる。俺はクールに去るぜ。
「ちょっと待って」
――瞬間、俺は襟を押さえる。
フッ、人は成長する生き物なのだよ、ワトソン君。
………まあ、ソロ(一人)だからワトソン(パートナー)なんていないが。
だが、案の定襟を掴もうとしたのまではいいのだが、手で防いだので……言わなくても分かるな?
気まずい雰囲気が流れたが、仕切り直すように咳払いしてからアスナが言う。
「……失敗の可能性があることは頼むほうも承知してるはずでしょ。あの鍛治屋さん、お店に武器の種類ごとの強化成功率一覧貼り出してるじゃない。しかも、失敗した時は強化用素材アイテムぶんの実費だけで手数料は取らないって話よ」
「そりゃ……良心的だな」
失敗しても大丈夫なようにそうしてるんだろう?と思った俺は、自分でも性格が良いとは思わない。
「……まあ、ギャンブル感覚でやってたら熱くなって、もう一回、もう一回ってやってたらゼロになった、って感じか?」
俺は違うが。専業主夫(志望)たる者、無駄遣いはだめだからな。
「ふぅん、そんなものなの?」
「まあ、単なる一般論だが」
実際博打で身を滅ぼす奴なんて腐る程いるだろう。カ○ジみたいな。
「……まあ、わたしも可哀想だと思わなくもないけど、でも何もあんなに興奮しなくても……また素材ぶんのお金貯めて、再挑戦すればいいじゃないの」
おお……コイツから可哀想なんて言葉がでるとは……はい、ごめんなさい。謝りますからその目をやめてください。
「い、いや……そういうわけにもいかんのですよ…」
「どういうこと?」
俺はアニールブレードより1ランクくらい下のスチールブレード+3を指差す。
「あの三本ヅノ氏の武器はアニールブレードだ。きっとあのキツいクエストをクリアしたんだろうなぁ……」
今は亡きアニールブレードを思い、目が腐っていってる(だろう)。
「んんっ!話を続けるとだな、更に頑張って+4にしたんだろうな。で、+5から成功率が下がるからあの鍛治屋に頼んだ。そしたら見事に0になったんだろうな」
ふう……本来こうした説明はキリトの役なんだが……ぶっちゃけめんどくさい。
「…………でも、0からはもう下がりようがないんだから、また+5を目指せば……」
それは不可能なのだ。……それがSAOの武器強化システムの厄介なところだ。
アスナも気づいたのか、フードの奥の目を見開く。
「そうか……《強化試行上限数》ね。アニールブレードの試行上限数は、確か……」
「八回。つまり、成功失敗共に四回ずつで三本ヅノのアニールブレードはもう強化できない」
このシステムの厄介なところは強化『成功』上限数ではなくて、強化『試行』上限数なところだ。
例えば、アニールブレードの場合は、強化で+8になったらもう強化できないのではなくて、強化を八回試したらもう強化できないのだ。
……更にめんどくさいのが所用者の努力で成功率を上げられるところだ。
だから、あの三本ヅノ氏の非は、一回失敗した時に冷静にならなかったことだろう。せめて一回でやめれば+0にはならなかっただろうに……
「………なるほどね。それはまあ……確かに、荒れる気持ちは解るわ。ほんの少し」
「おお……最初の頃は武器を何とも思ってなかったのにッ!」
……また肘うちされた……
痛みはないが不快感が襲う。
そんなこんなしていると、鍛治屋と三本ヅノとその仲間たち(笑)で話が進んでいる。
「……ほら、大丈夫だってリュフィオール。また明日からアニブレのクエ手伝ってやるから」
「一週間頑張りゃ取れるんだからさ、今度こそ+8にしようぜ」
うわあ……今は一週間もかかんのかよ。
今この瞬間、もう一度アニールブレードを取りに行くという選択肢は消えた。
その言葉でようやく三本ヅノ氏(長いのでそのままなだけで、覚えてない訳じゃないよ!)は落ち着いたのかとぼとぼと広場から歩き去ろうとしている。
その背中にここまで黙っていた鍛治屋がようやく口を開く。
「あの……、ほんとに、すいませんでした。次は、ほんとに、ほんとに頑張りますんで……あ、もう、ウチに依頼するのはお嫌かもですけど……」
さっきまでとは違い、元気がない声で三本ヅノ氏が答える。
「………アンタのせいじゃねーよ。………色々言いまくって、悪かったな」
「いえ……それも、僕の仕事の内ですから………」
言いながらペコペコ頭を下げる鍛治屋は、まだ十代だった。
うわー、あれが仕事なら一生働きたくないでござるー。
などと考えながらやりとりを眺めていると、鍛治屋は一歩踏み出して深々と頭を下げ、言った。
「あの、こんなことじゃお詫びにはならないと思うんですが……その、ウチの不手際で+0エンドしちゃったアニールブレード、もしよかったらですけど、八千コルで買い取らせてもらえないかと……」
ざわ…と周りがざわめく。
アニールブレードのエンド品は、せいぜい四千コルだ。
旨い話には裏があると思っている俺は鍛治屋を疑いのまなざしで見ていたが、俺は何をするわけではなかった。
やがて三人は、顔を見合わせ、頷いた。
早くGGO書きてぇ……(作者はシノンが一番好きです)