プログレッシブの内容飛ばした方がいいですか?
SAO編が百話でも終わらなそうなんですけど……
三人が去ってから俺はベンチに腰掛け鍛治屋の方を向いていた。
その隣にはアスナ………何故だ。
本来なら、背中にあるスチールブレード+3を強化しようと来たのだ。
俺はマロメの村で腕のいい鍛治屋がいる、と小耳に挟んだ(盗み聞きじゃないよ!たまたま聞こえただけだよ!)ので、わざわざウルバスまで来たのだ。
それをさっきの騒動のせいで水を差されたのだ。
別に、気にせず「強化お願いしまーす」と言えばいいのだが、まさかプレイヤーとは……
おまけに先刻聞いた話が更にプレッシャーだ。七割成功で+4から0とは……
もし俺のスチールブレード+3が0にでもなったりしたら……うん、損害賠償を求めるな。
さて、そろそろ聞くか。
「……で?何でお前居んの?」
「何でって、あなたもあの鍛治屋さんに強化頼みに来たんじゃないの?」
えー、何コイツ怖い。何で分かるの?八幡検定何級?
「……何でお前分かるんだ?エスパーなの?」
そう言ったら、はあ、とため息を吐かれた。何故だ。
「そんなわけないでしょ……一昨日の夜にマロメで会った時、東の岩山エリアで、あなたと一緒に《レッド・スポデット・ビートル》狩りしに行くって……キリトちゃんが」
キリトかよ……というかキリトにちゃん付けって違和感ありまくりだな。
いや、容姿とか性格が問題じゃなくて、名前が。
あとなんかキリトとかアスナとのエンカウント率高いんだよなぁ……
「お、おお……勉強してんだな」
「何?その反応」
おおう……いちいち反応が怖いなコイツ……
「ひ、ひや、最初に比べると随分MMORPGのきょと分かっちぇっるなちょ思いまちて」
「…………」
い、いや本当に情報は大事だからね?ホント、マジで。
俺の心のアドバイス(言い訳)が通じたのか、特に何も言って来なかった。
「最近、いろいろ勉強してるから」
俺はそうか、とだけ呟く。
……さて、ついつい忘れがちだが、俺は『ビーター』と呼ばれている(勝手に)のに対し、相手は二人しかいない、最前線女性プレイヤーの片割れだ。あまり一緒にいるのはよろしくない。
「んじゃ、俺用があるか「嘘吐かない」ら……」
だから何で分かるのん?プライバシーの侵害だ!
「ねえ、何で元ベータテスターじゃないって言わないの?」
一瞬だけ自分の体が止まったのが、自分でも分かった。
このまま帰ろうとしても、帰してくれないだろう。
「はあ……別に大層な理由じゃねーよ」
「それでもいいから教えて」
その声は有無を言わさない迫力があった。
……はあ、まあ教えてもいいか。
「はあ、まず一つ、ベータテスターの中で区別をつけることだ」
「区別?」
「そうだ、ビギナーはベータテスターを憎んでる……少なくともいい感情を持ってないのは一層で分かったろ?」
少しだけローブが上下に動いた。
……まあ、ベータテスターだと隠していたけど、上手くやっていた例外はいた……が、ディアベルはもういない。
「だが、そこにビーターという悪のベータテスターが現れたことで、ベータテスターの中でも明確に区別を付けさせた。これが一つ」
そう、人間のグループやカーストのように分けることで、悪と善のベータテスターは関わることはなくなるだろう。
「その二、区別した善のベータテスターを被害者にすること」
「被害者?」
まあ、これだけじゃわからんわな。
「ビギナーは、ベータテスター全体を憎んでいたが、実際はビーターが悪いと思い直した。少なくとも、ベータテスター全員が悪いわけじゃないと思った。ここまでは理解できるか?」
今度はローブが大きく上下に動いた。
俺は更に説明を続ける。
「つまり、何の罪もない者達を嫌い、迫害し、遠ざけた。だから、何かしらの罪悪感ができるはずなんだ」
ここまでは理解できたらしい。……頭の回転が早くて助かる。
「つまり、だ。自分達はビーターという加害者に傷つけられた被害者だ、という仲間意識ができる」
「ビギナーは、ビーターに見捨てられ、ベータテスターは、ビーターと同じにされ、迫害を受けた、が具体例だな」
これは約二ヶ月前の文化祭でも使った手段だ。
「人を最も団結させるのは、共通の敵だ。ビーターという敵ができたビギナーとベータテスターは、協力するだろうな、めでたしめでたし」
「待って」
立ち上がり、今度こそ帰ろうとしたら手を掴まれた。
「質問の答えになってない。わたしは、何でベータテスターじゃないって否定しないのかを聞いた」
「誰かがやらなきゃいけない立場であり、俺が適任だからだ」
そう、実際こんな役割幾度となくやっていた。
文化祭もそうだし、中学時代の時は、やってもいないことを押し付けられて怒られたことなんてザラだ。
俺は、きっと、この役割から変われないし、変わる気もない。
カースト最下位のボッチは、身の丈に合った生活をしてればいいのだ。かなり楽だし。ボッチって。
「んじゃ、そういうわけで、あまり俺に関わらない方がいいぞ」
何度目になるだろうかと思って、ベンチから腰を浮かす。
「……元テスターへの恨みや妬みを全部一人で背負おうだなんて、無茶しすぎのかっこつけすぎだと思うけど……」
無茶してないし、かっこつけてもいない。と心の中で弁明していると、アスナは更に続けた。
「それはあなたが決めた選択なんだからわたしは何も言わないわ。でも、それならわたしの選択も尊重してよね。他人に何を思われようと、わたしにはどうでもいいこと。あなたの友……仲間と思われるのが嫌なら、最初から声掛けたりしないわ」
……なるほど、そう切り返してくるか。
仲間、という単語について、否定しようとしたが、今のコイツの目には何の嘘、偽り、虚偽、欺瞞がないのでやめた。
……肯定もしないが。
「別にお前の選択に口挟む権利なんかないから構わんが……」
さて、ここで何か裏があると思うのが俺だ。
……俺と関わってもメリットがないことを提示してやろう。
「別に俺に関わったからって何もメリットないぞ?金とアイテムはやらんし、情報だってキリトとか《鼠》のほうが持ってる」
ふっ、言ってやったぜ。
……我ながら卑屈だ。
「別にメリットなんて求めてないわよ……」
……あきれ声で言われてしまった。
あるぇー?おかしいなぁ?仲間とか言う奴は何かしらメリットを求めてるもんだと……
「メリットなんか求めてないし、それはもういいからあともう一つ教えて」
「……なんだよ」
なんかコイツと話してるの長くね?とか思って聞いている。
「あなたが武器強化躊躇ってる理由。実は、わたしも今日、あの鍛治屋さんにこの剣の強化お願いしようと思って来たのよね」
「……そうなのか」
妙な偶然だ。やっぱりコイツも小耳に挟んで(盗み聞きして)ここにきたのか?
「……それ、確か+4だったか?」
その言葉にこくりと頷いた。
「……強化素材は持ち込みか?何個ある?」
「えーと……《プランク・オブ・スチール》が四個と、《ニードル・オブ・ウインドワスプ》が十二個」
「へえ、頑張ったんだな。……けど……」
俺はアニールブレード基準だが、そのアイテム量の成功率を何秒もかけて暗算した。
……やっぱり数学なんて必要ねぇ……
「それでも八割くらいじゃないか?」
「賭けるなら充分な数字じゃないの?」
「まあ、そうなんだが……さっきの見てからじゃなあ……」
ぶっちゃけ、成功率操作してんじゃねーの?と思うくらい見事な失敗だったな、あれは。
鍛治屋の方をチラリと見る。アスナも一瞥してから軽く肩をすくめた。
「コインの表が出る確率は、一回目の結果にかかわらず常に五十パーセントよ。さっきの人が何回失敗しても、わたしやあなたの強化試行には無関係でしょ?」
たくましいっすね……アスナさん……
まあ、決めるのは剣の持ち主だし、口を挟めるわけじゃない。が、アドバイスくらいはしてやろう。
「……失敗させたくないなら、もっと素材を集めたほうがいいぞ」
見たところ、完璧を追及しそうなタイプだしな、お前」
「ふぅん」
な、なんだ、この底冷えする声はっ!
「あ、あの、アスナ……さん?」
「そこまで言うなら手伝ってくれるのよね?わたし、妥協は嫌いだし」
ま、まさか、声に出てた……のか…?
「エイト君?手伝ってく・れ・る・の・よ・ね?」
「い、イエス、マム!!」
「ちなみに、ウインドワスプの針のドロップ率は八パーセントですから」
な、何?
「…………え?」
「そうと決まったら、さっさと狩場に行きましょう。二人なら、暗くなる前に百匹は狩れるわね」
「…………え?」
何?百匹?どこのブラック企業?
呆ける俺をよそに、アスナは更に言う。
「わたしとコンビ狩りしに行くなら、フード取ってね?腐った目が隠しきれてなくて、かえって怪しいから」
こんな時に、某ツンツン頭の気持ちがわかる。
「…不幸だ……」
次回!キリトを交えての三人の狩り!